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日本で長らく親しまれてきたワイルドターキー12年は2013年に終売となり、それに代わって日本市場でリリースされ始めたのがワイルドターキー13年ディスティラーズ・リザーヴです。熟成年数が一年増えましたが、ボトリング・プルーフが101から91へと下がりました。頑なにワイルドターキーを愛して来たファンからすると、熟成年数は偖て措いても、プルーフの変更に引っ掛かった方も多いのではないかと思います。ターキーは101(ワン・オー・ワン)だろ、と。斯くいう私がそうでした。とは言え、エイジ・ステイトメントを保った長熟のターキーが手軽に飲めるだけでも、ありがたい状況なのかも知れません。そもそも12年101の発売停止は供給維持が難しくなったためと見られ、長期熟成原酒の減少は何もワイルドターキー蒸留所に限った話ではなく、アメリカ国内でのバーボン需要が爆発している昨今では業界全体がそうでしょう。それに穿った見方をするなら、輸出専用だった12年が13年ディスティラーズ・リザーヴへと転換されたのと近い時期に、ダイヤモンド・アニヴァーサリーのリリースやマスターズ・キープ・シリーズのような長期熟成原酒をメインとした限定製品の年次リリース開始という出来事があり、要は長熟ウィスキーの割り当ての変化だと思えなくもない。そんな渦中にあってもなお、どれだけ要望があろうと12年101を国内リリースせず、日本へ向けて13年をアルコール度数が5%低いだけで継続してくれたワイルドターキー(の親会社?)には感謝すべきなのかも。宝物のような12年101は1999年にアメリカ国内での流通がストップした後も長きに渡って日本では容易に手に入りました(勿論、8年のエイジ・ステイトメントを保った101もそう)。それはアメリカでバーボン人気が復活する以前、彼の国の殆どの消費者がプレミアム・バーボンに見向きもしなかった80~90年代の暗黒時代(供給過剰時代)に、せっせと高額なバーボンを輸入してくれた日本に対する感謝の気持ちからだったのかも知れません。いや、そう思いたい。単なるビジネス上の判断だったと解釈するより、その方がロマンがありますから。

さて、そこで今回の13年ディスティラーズ・リザーヴですが、判りやすい熟成年数とプルーフの変更以外にもう一つ特徴的な注目点があります。箱およびバックラベルの文言を以下に引用しましょう。
ジミー&エディ・ラッセルという父と息子の本物の蒸留技術から生まれたワイルドターキー13年ディスティラーズ・リザーヴは、最高のキャラクターを備えたケンタッキー・ストレート・バーボンです。この特別リリースのバーボンは慎重に選択された蒸留者のお気に入りであり、低いプルーフで樽詰めされ、伝説的な「B」ウェアハウスの低層階でゆっくりと熟成されました。そこは卓越した品質のバーボンを造るのに適した涼しい温度、高い標高、大きな空気循環が組み合わさった場所です。メロウなオークのノート、リッチなヴァニラ、洋梨のヒントと長いスパイス・フィニッシュを備えたワイルドターキー13年ディスティラーズ・リザーヴは、ジミー&エディ・ラッセルの世界的に有名な職人気質のショーケースであり、ワイルドターキー・バーボンの力強さと特有のキャラクターを鮮やかに表しています。

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壮大な物言いはご愛敬として、注目はB倉庫の下の方の階で熟成させたと言い切っているところです(*)。これはシングルバレルのケンタッキー・スピリットやアメリカ国内で入手しやすいラッセルズ・リザーヴ・シングルバレルのストアピックのように、例えばG倉庫の4階の何番バレルとまでは場所や樽の特定は出来ないものの、流通量の少ないケンタッキー・スピリットや海外のストアピックが入手しにくい日本人にとって、13年ディスティラーズ・リザーヴはシングルバレルではないとは言え熟成場所による味わいの違いを手軽に経験する機会の提供と言えるでしょう。ワイルドターキー蒸留所のオンサイト(タイロン)とオフサイト(キャンプ・ネルソンやマクブレヤー)を含めた29の熟成庫は、どれもワイルドターキーのコア・プロファイルは共有するかも知れませんが、それぞれスパイスやベーカリーやフルーツ等のプロファイルのバランスに違いが生じるとされます。またワイルドターキーの熟成庫では、一説には上層階で熟成されるとアーシーに、下層階で熟成されるとフルーティになりやすいという話もありました。Bウェアハウスは、おそらくAウェアハウスと共に1894年頃建てられたかなり古い倉庫の一つです。エディの息子で現在ブランド・アンバサダーのブルース・ラッセルの個人的なお気に入りの倉庫なのだとか。では、そろそろ飲んでみたいと思います。

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Wild Turkey 13 Years Distiller's Reserve 91 Proof
推定2014年ボトリング。ヴァニラ→クレームブリュレ→アーモンドキャラメル、香ばしい焦樽、熟したプラム、洋梨、ライスパイス、湿った木材、塩昆布、ラムネ菓子。基本的に甘い焦樽フルーツのアロマ。口当たりはサラッとしている。パレートはオレンジぽさとハニー。余韻は度数のわりには長めで、ほんのりフルーティな甘味もあるが少々渋く、芳醇とは言い難い。全体的に僅かに薬っぽいノートが感じられる。
Rating:86.5/100

Thought:正直言って、評価の難しいバーボンだと思いました。私には熟成庫の違いによるプロファイルを云々できる経験はありませんので、前回まで開けていた青12年との比較になりますが、何と言うか、従来までの12年101が有していた最も美味しい部分が欠落しているのに、それでもなお12年101と通低するものも感じ、短絡的に切り捨てられないのです。多分これが101プルーフのボトリングだったとしても、複雑さの点に於いて青12年には敵わなかったのではないかと思います。ですが「較べる脳」でなく単体で飲めば、ワイルドターキーの特徴的な濃厚な炭の香りはあるし、繊細なフルーツ感もあり悪くありません。強いて言うなら、旧来の12年はもっと濃密なヴァニラとダークフルーツを想起させるのに対し、13年は穀物とフレッシュフルーツを想起させます。これはプルーフィング・ダウンの結果であるような気もするし、熟成場所の影響のような気もします。皆さんはどう思うでしょうか? コメントよりご意見お待ちしております。

Value:販売価格は店舗により異なりますが、現行品で概ね5000~6500円程度。私はラベルの新しくなった物を飲んだことがないのですが、個人的にはこれに6500円出すのであれば、8年を2本買うかオークションで旧来の12年を買いたいです。または、クラフト・ディスティラリーの少々割高だけれど新しい味に挑戦することを選びます。けれども、現8年を3000円、旧12年を12000円とすると、13年の6500円はちょうど中間くらいの価格となり、存在意義のない製品ではないし、妥当なお値段にも思えます。アメリカ人にとっては13年にプレミアム(上乗せ価格)を支払うくらいならダイヤモンド・アニヴァーサリーを購入した方がいいと言われますが、日本人にとっては単純に好みで決めればいいこと。おそらく12年が好きだった人、或いはスコッチも嗜む人にとっては現行8年より購入価値のある製品だと思います。


*実を言うと、このラベルより新しい現行の13年ディスティラーズ・リザーヴの説明文からは、「B」の文字が抜けています。おそらく現在の物は、こちらと同じく倉庫の低層階で熟成されていますが、Bウェアハウス以外からも樽が選ばれるように変更されたものと推測されます。海外のターキー・マニアで飲み較べした方によると、品質や基本プロファイルにそれほどの変化はなく、僅かに甘さとスパイスのバランスが異なる程度とのこと。