2020年01月

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ワイルドターキー・ダイヤモンド・アニヴァーサリーは2014年8月にジミー・ラッセルの勤続60周年を祝うために、当時アソシエイト・ディスティラーだった息子のエディ・ラッセルによって作成されました。業界で最も任期の長いマスターディスティラーであるジミー・ラッセルは正に「生ける伝説」であり、「ブッダ・オブ・バーボン」或いは「マスターディスティラーズ・マスターディスティラー」と尊敬の念を込めて呼ばれたりします。アメリカのワイルドターキー愛好家デイヴィッド・ジェニングス氏は「ロックにはエルヴィスがいる。カントリーにはハンクがいる。ソウルにはマーヴィンがいる。バーボンにはジミーがいる」と述べました。アメリカン音楽好きにはピンとくる喩えでしょう。

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(上1984年、下1967年のジミー)

1954年9月10日、ジミーは後年ワイルドターキー蒸留所と呼ばれることになるアンダーソン・カウンティ蒸留所(以前のリピー・ブラザーズ蒸留所、一年後にJTSブラウン蒸留所と改名)で働き始めました。まだ二十歳になる前のことです。当時ローレンスバーグには幾つかの蒸留所があり、ジミーのお父さんはオールド・ジョー蒸留所、おじさんはホフマン蒸留所で働いていました。そのためジミーが仕事を探していた時、蒸留所で働くことにしたのは自然な流れでした。実際、今だにジミーはアンダーソン郡の生まれた場所から1マイル以内、ワイルドターキー蒸留所から6マイル以内に住んでいると言います。後に時として「バーボンのファーストレディ」と紹介されることにもなる妻ジョレッタもジミーが働き始める前から蒸留所に勤めていました。
彼のキャリアは床掃きや品質管理から始まり、おそらく蒸留所の全ての仕事をこなしたと思われます。蒸留所の二代目マスターディスティラーである伝説のビル・ヒューズや、蒸留所の創業者ジェイムス・リピーの甥の息子で三代目マスターディスティラーのアーネスト・W・リピー・ジュニアから蒸留技術を学んだジミーは次第に頭角を表し、1967年にはJTSブラウン蒸留所のマスターディスティラーへと昇格しました。彼が働き始めた頃の蒸留所は日産80バレル程度でしたが、現在では550バレル以上になっていると言います。その躍進の全てがジミーただ一人の功績ではないでしょうが、彼はキャリアをスタートして以来普通の人間にはあり得ないほど長い年月そこにいて、何十年も精力的に働き、先代から受け継いだ昔ながらのバーボン造りを固守することで現代のバーボン世界を形作り、内外に影響を与えて来ました。

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ワイルドターキー蒸留所で製造される製品の中で最も「ジミー・ラッセルらしい」バーボンはスタンダードなワイルドターキー101(8年にしろNASにしろ)です。それは標準的であり原型であるが故に「生ける伝説」の刻印が深い。周知のようにそのブランドはジミーが蒸留所で働き始める以前の1942年に始まり、ブルックリンかどこかの経営者が産み出したのかも知れません。また、最先端の設備によるコンピューターの自動化が行われる現代にあっては、誰がどうしようと同じものが出来上がるのかも知れません。しかし、それでもジミーの技能とテイスティング能力、長年に渡るブランド定義がなければ、今に至るワイルドターキー101の成立はなかったと言っていいでしょう。
そしてジミーは伝統を頑なに守るだけの男ではありませんでした。バーボン産業は70年代半ばに大きな波を受ます。俗に言う「白物」、ウォッカやジンの隆盛です。消費者の嗜好の変化もありました。昔ながらの「伝統」は「古臭い」と同義になり、バーボンを飲むことはクールでなくなったのです(今は流行っているのでクールと認識されています)。ジミーは多くの女性がバーボンを飲まないことに気づき、彼女たちにとって魅力的な製品を作りたいと思い、1976年にワイルドターキー・リキュールと呼ばれるフレイヴァー・バーボンを実験的に開発しました。それは「レッドスタッグ」や「ファイヤーボール」に先駆けること遥か前、バーボンが流行していなかった時代にジミーが模索した新しい消費者を引き付ける方法でした。今日、その製品は2006年以降ワイルドターキー・アメリカンハニーとしてリニューアルされ、多くの人のお気に入りとなっています。また、2000年代前半には、今や当たり前になりつつあるバーボン樽以外を用いた「後熟」の魁として、ワイルドターキー・シェリー・シグネチャーも造っていました。これはスコッチに親しんだヨーロッパ市場向けに試された変種のワイルドターキーで、10年熟成のターキーをスパニッシュ・シェリー・カスクでセカンド・マチュレーションした後、バーボンにオロロソ・シェリーを加えバランスを整えたものです。当時は斬新過ぎてウケませんでしたが、今こそ再評価すべき時ではないでしょうか。
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70年代後半からバーボン全体の売り上げは目に見えて減少し始めました。80年代から90年代にかけてアメリカのバーボン需要は底辺を迎えます。そこでバーボン業界のエグゼクティブたちが採った主な戦略は二つありました。一つはバーボンのプレミアム化。もう一つは現場監督の職人に過ぎなかったマスターディスティラーを外の世界にスターとして送り出し、バーボンがいかに優れているかを一般消費者へ啓蒙することでした。こうした動きが現在のバーボン人気の礎の一部となったのは疑うことが出来ません。
前者の好例は、エンシェントエイジ蒸留所(現在のバッファロートレース蒸留所)のマスターディスティラー、エルマー・T・リーが1984年にプロデュースした最初の大衆市場向けシングルバレル・バーボンであるブラントンズと、ジムビーム蒸留所のマスターディスティラー、ブッカー・ノーが1988年にプロデュースしたスモールバッチにしてバレルプルーフ・バーボンのブッカーズです。ジミー・ラッセルも負けじと、ブラントンズに対しては1994年にワイルドターキー初のシングルバレル・バーボンとなるケンタッキー・スピリットをリリースし、象徴的な101プルーフで満たしました。それはブラントンズを意識するような非常に華やかなボトル形状で、重厚なピューター製のキャップを備え、バレル情報が手書きで書かれたネックラベルが貼られました。まるでジミーが「私」のためにバレルを特別にハンド・ピックしたかのように。 そしてブッカーズに対しては1991年に6・8・12年熟成の原酒をジミーが独自に組み合わせたバレルプルーフ・バーボンのレアブリードをリリース。何の衒いもなくノー・ギミックのそのバーボンは、かつて盟友エルマー・リーに「ピュア・ジミー・ラッセル」と評されました。これらのプレミアムなワイルドターキーはかなりの成功を収め、蒸留所のポートフォリオの定番としての地位を確立し、現在でも販売され続けています。
後者に於いても、ブッカー、エルマー、ジミーらは国内外を旅してパブリック・テイスティングを行い、彼らの目を通してバーボンのストーリーを語ることによって、今日のバーボン人気の成長を促した最初の世代でした。今、ブッカーの息子フレッドやジミーの息子エディのような次世代、またその次の世代の旗手たちは彼らが切り拓いた道を歩んでいるのです。ちなみにジミーは自分が訪れたことのある国外のお気に入りの都市の一つに、ありがたいことに日本を挙げてくれています。
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ジミーは世界中でバーボンの王者のように扱われますが、本人は至って呑気に「あんたが見たまんまの、ケンタッキー州ローレンスバーグ出身のただのおっさんじゃよ(意訳)」と言います。そうした謙虚さは本物の人間が持つ特質であり、蒸留所への訪問客を迎えるジミーの柔和な笑顔は却って揺るぎない信念の証のように思えます。ジミーなしで現在のバーボンブームはなかったと言っても過言ではありません。彼はSNSのインフルエンサーではないかもしれませんが、もっと重要な羅針盤でした。バーボンの衰退期を乗り越え、アメリカが自らのネイティヴ・スピリットを再発見する過程の全てを見て来たのです。
去る2019年9月10日には、ジミーはワイルドターキー蒸留所での驚異の65周年記念日も既に迎えました。ケンタッキー州アンダーソン郡に長年住む人なら、彼が比類のない蒸留の専門知識だけでなく、驚くべき運動能力についても知っているだろう、と伝えられています。高校でのジミーは「ラッセル・ザ・マッスル」として知られており、彼に不得意とするスポーツはなく、バスケットボールやサッカーから陸上競技に至るまで数々の記録を破り(一部は40年間残っていたそうな)、アンダーソン郡高校を勝利から勝利へと導いたのだとか。こうしたアスリートさながらの基礎体力がジミーの頑固な職人気質や長年の勤務を可能にした源なのかも知れませんね。


さて、そろそろ今回のレヴュー対象に触れましょう。ダイアモンド・アニヴァーサリーはジミーの息子エディが父親へのオマージュとして厳選した13年と16年という長期熟成を経たバレルをブレンドして造られました。
よく知られた話に、ジミーは8年熟成程度のバーボンを好み、エディは12年以上の長期熟成も好む、というのがあります。ジミーは昔ながらの風味豊かなバーボンを愛し、オリジナルのワイルドターキー・プロファイルから遠く離れることを躊躇い、こう言います。「私たちは常に新しいものを試したいと思っていますが、ほとんどの場合は古い基準に戻ります」、と。彼の基準は明瞭でした。「バーボンは6~8年ほど熟成すると有効なマチュリングをしなくなると考えます。12年を過ぎる頃には多くのキャラメルやヴァニラなどのスウィートネスを失い、オーク材の風味が支配的になります。そして、私はウッディな味わいが多いのはあまり好きではありません」。これがジミーの個人的な好みであり、彼と同世代や上の世代のバーボン・ディスティラーの基準です。それにも拘わらず、エディが長期熟成のバーボンを混ぜて父親へのトリビュート・バーボンを作成したのは、そうするに十分な理由があったに違いありません。
ジミー自身が12年以下のバーボンが好きだと公言しているので、一部を除きワイルドターキーの提供する製品はそれより若いバーボンが殆どです。もしジミー好みの6~12年のバレルを選択してダイヤモンド・アニヴァーサリーを作成してしまうと、中核製品の一つであるラッセルズ・リザーヴから遠く離れた製品にするのは難しくなるでしょう。おそらくエディはワイルドターキーの標準ラインナップとは一線を画すバーボンを提供するために、長熟バレルにターゲットを絞ったのだと思われます。その意味で、このダイヤモンド・アニヴァーサリーは他のワイルドターキー製品とは対照的です。そして…。

エディは1981年からワイルドターキー蒸留所でアシスタントとして働き始めました。つまり、既に30年以上ものキャリアを誇る訳ですが、余りにも偉大なジミーと比較してしまうと「僅か」30年であり、自虐的?に「僕はニュー・ガイだよ」と笑います。また、エディは長い間自分の名前は「No」だと思っていたとも言います。なぜなら、ジミーに何か新しい提案をする度にそう言われたからだそう(笑)。エディ流の愛情あるジョークですね。
WMJのインタビューではダイヤモンド・アニヴァーサリーについて、「特別な原酒を探し出して、ジミーに内緒でブレンドしたものです。私自身が最高と思ったのは間違いないですが、ジミーが『よし』と言ってくれなければ製品化はできませんから(笑)、正直なところとてもドキドキしました」、と語っています。
そんなエディも2015年には正式にマスターディスティラーの称号を得ました。その年から限定リリースのマスターズ・キープ・シリーズも始まり、その他の中核製品でも主導的な立場となったことでしょう。こうした流れの前年にリリースされたダイヤモンド・アニヴァーサリーは、謂わばエディ・ラッセルが初めて世に出した自分自身のバーボン。エディによると、ブレンドに使われた13年原酒はまだ12年に十分近く、ジミーがあまり動揺しないよう逃げを打って選ばれたと言います。 そして後に16年のバーボンを加えることでワイルドターキー・スパイスをもっと与え、ユニークでありながら馴染みのあるワイルドターキーの表現に仕上がった自信作だと。これを飲む我々は、ジミーだけでなくエディにも祝杯を挙げない訳にはいきません。では、心して注ぐとします。

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WILD TURKEY DIAMOND ANNIVERSARY 91 Proof
BATCH NO. B14-0035
オレンジがかったブラウン色。黒糖、濃密なヴァニラ、ダークなドライフルーツ、接着剤、ハニーピーナッツ、古い木材、土。さらさらしつつなめらかな口当たり。ミディアム・ボディ。味わいはマジックインキと爽やかなフルーティさ(特にオレンジ)が同居。余韻はチャードオークとベーキングスパイスが支配的でややビター。
Rating:87.5/100

Thought:先日まで開けていたディスティラーズ・リザーヴ13年と較べることで、ダイヤモンド・アニヴァーサリーの個性は明確になった気がします。DAはDR13よりパンチのないテクスチャーですが、余韻のスパイス感は複雑でした。香りはDR13の方が甘いのに、口蓋ではDAの方が甘く感じました。そしてDAはDR13のような薬っぽいノートはなく、全体的に古びた木材のトーンを多く感じます。
101プルーフだったらもっと美味しかっただろうとはよく言われますが、エディ・ラッセルによればダイヤモンド・アニヴァーサリーはバレルプルーフに近いとのこと。ワイルドターキー蒸留所はバレル・エントリー・プルーフを2004年にそれまでの107プルーフから110プルーフへ、続いて2006年にも115プルーフへと変更しています。その理由が、そうしておかないと主力製品であるワイルドターキー101のプルーフと生産量を確保できないからとされるところからすると、ワイルドターキーの長期熟成原酒は案外プルーフ・ダウンする樽がけっこう多いのかも知れません。個人的にも、やはり101プルーフで飲みたかったとは思いますが、91プルーフでも特別なフィーリングは少なからずあるように思えました。

Value:ワイルドターキーの特別限定リリースの物は昔からパッケージングに拘った造りの物が多いです。本品もボトルや木箱などの包装のカッコ良さは画像でも伝わると思います。問題は価格ですよね。アメリカでは約125ドルで売られ始め、日本では発売当初17500円程度する販売店もありました。正直、定価では高過ぎるとは思います。ですが、今ではオークションを利用すれば10000円以下での購入も出来る時はあるでしょう。ただし、安定してその値段ではありませんので、仮にダイヤモンド・アニヴァーサリーが15000円、ディスティラーズ・リザーヴ13年が5000円なら、迷わずディスティラーズ・リザーヴ13を三本買うことをオススメします。私にはダイヤモンド・アニヴァーサリーの方が僅かに美味しいと感じましたが、飽くまで「僅か」だからです。ディスティラーズ・リザーヴ13年は長期熟成でありダイヤモンド・アニヴァーサリーと同じプルーフなので、日本人にとっては良い代替製品となり得るのです。また、疑似分割や単ラベルあたりの12年101がオークションで12000円位で購入出来るなら、そちらを買うほうがいいでしょう。味わいの満足度は上なので。とは言えダイヤモンド・アニヴァーサリーは、8年101やレアブリードとは異なるワイルドターキーの長期熟成の世界への入り口にするなら良いと思いますし、米国では36000本のリリースとされるのでタマ数も十二分にあり、また近年流通品なので限定品としては比較的入手が容易、そして何よりジミー・ラッセルへの愛情として購入するならアリだと思います。

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メーカーズマーク・プライヴェートセレクトは、メーカーズマーク・カスクストレングスのヴァリエーションとも、メーカーズ46のアップグレード・カスタム・ヴァージョンとも言える製品です。現在、アメリカの多くの蒸留所ではプライヴェート・バレル・プログラムが実施され人気を博していますが、それらはストア・ピックやバレル・ピックとも呼ばれ、酒類販売店、バーやレストラン、或いはバーボン・ソサエティ等が蒸留所の公式リリースとは違った独自の味わいのシングルバレルを顧客に販売することを可能にします。様々な味比べが出来るこの種の試みはバーボン人気を後押しするものと言えるでしょう。メーカーズのプライヴェートセレクトもそういった試みの一つ。しかしメーカーズはシングルバレル・プログラムに関しては他の蒸留所に遅れをとっていました。なぜならメーカーズマークでは熟成中に樽のローテーションを行うため、他の蒸留所のようには熟成庫のロケーションによる味の違いが明確ではないので、単純にシングルバレルを提供するだけではちょっと面白味に欠けるから。そこでメーカーズ46で培った技法を採り入れてバイヤーへ提供することになったのがプライヴェートセレクトです(※メーカーズ46についてはこちらの過去投稿をご参照下さい)。2016年に発表されるや瞬く間に人気となり、多くの小売店が独自のボトルを販売しています。

プライヴェートセレクトのプログラムは、ビル・サミュエルズJrの息子であるロブ・サミュエルズとディレクターであるジェイン・ボウイによって実現されました。先ずはテイスティング・チームを組織すると、メーカーズマーク・カスクストレングスのフレイヴァーをマッピングし、どのフレイヴァーを強調したいのかを決め、それからインディペンデント・ステイヴ・カンパニーに行き、46のようにメーカーズマークに存在する異なったキー・フレイヴァーを増幅するステイヴ作成の協力を仰ぎました。メーカーズマーク蒸留所はメーカーズ46の開発に費やした2年間で自社製品をコントロールする方法についてはかなりの量の知識を得ています。おそらく46での経験を活かし比較的短時間で完成に漕ぎ着けたでしょう。ボウイによると、もともとは8種類の風味増強ステイヴを用意していたそうですが、フレイヴァー・プロファイルの冗長性を最小限に抑えるために、最終的にそれらを五つに戻しました。これらのステイヴは既存のフレイヴァーを増幅すると同時に新しい何かを追加することになっています。プライヴェートセレクト・バレルの購入者は、メーカーズ46に使われているものを含む5種類のステイヴを自由に10枚選択して、1,001の可能な組み合わせの中から好みのフレイヴァー・プロファイルを作成、独自に大胆な味へとカスタマイズすることが出来ます。しかし、それでもその味わいは紛れもなくメーカーズマークに他ならないのでした。

プライヴェートセレクト・バレルを購入するバイヤーは、メーカーズ46の話が説明された後、オークについて、そしてフレイヴァーが木材のどこにあるのかについてレクチャーを受けます。ステイヴに施された加熱の時間や温度に基づいて、どのフレイヴァーを放出するかの概要が示され、オークの生理学的な細胞構造と熱が加えられるとどのような化学変化が起こるのか学ぶのだそう。それが終了したらテイスティングの時間です。
参加者の目前には、ベースラインとして味わうためのスタンダードなメーカーズマーク・カスクストレングスと共に、それぞれ異なるステイヴで仕上げられた五つのサンプルが置かれます。最終製品もバレルプルーフになるので、サンプルも全てバレルプルーフです。グラスの横には「Maker's Mark Private Select」というレクチャーを纏めたような小冊子もあり、有益な情報が後からでも確認出来るのでしょう。このバレルプログラムのために特別に開発された五つのステイヴは互いに非常に異なる香りと味がするとされ、その特徴は以下のようになっています。

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P2(Baked American Pure 2の略)
ベイクド・アメリカン・ピュア2は、五つのうち唯一アメリカン・オークで造られたクラシック・カットのステイヴ。ゆっくり時間をかけて低温にてコンヴェクション・オーヴンで焼かれています。このトリートメントは甘いブラウンシュガー、ヴァニラ、キャラメルなどの甘いノートを引き出すとされ、またシナモンやクローヴなどのスパイスの風味も高め、フィニッシュにドライなオークが現れるとも言います。

Cu(Seared French Cuvéeの略)
シアード・フレンチ・キュヴェは46と同じく赤外線オーヴンで焼かれたフレンチ・オークですが、カットが異なり、ステイヴには溝が切り込まれているためクラシック・カットより22%大きい表面積を持っています。それはジュースと木材の相互作用がより多いことを意味するでしょう。また、溝があるということは、上部(表面)と下部(谷間)では同じ量の熱変換を受けないため、焦がし具合の違いから風味のブレンドが期待されています。この特別なトリートメントはバタースコッチやキャラメル、ローストナッツやバター、若干の渋みを引き出すとされます。

46(Maker's 46の略)
メーカーズ46はもはやお馴染みとなった同ブランドの製造に使用されるステイヴです。Cuと同じく赤外線オーヴンで調理されますが、こちらは更に数分間長く加熱され、溝はありません。これらの違いがCuと46の味を全く異なるものにします。Cuはスイートなのに対し46はスパイシーさを追加するよう設計されました。このトリートメントはクリーミーな感触はなく、ヴァニラやスパイス、強いオーク、ドライフルーツ、若干の苦味を引き出すとされます。

Mo(Roasted French Mochaの略)
ローステッド・フレンチ・モカは、クラシック・カットのフレンチ・オークです。P2と同じくコンヴェクション・オーヴンで調理されますが、P2のような低い温度ではなく高い温度にてトーストされます。通常、華氏500度を超える高温に曝され、クーパーの観点からすると、これはオークが燃え始める前に処理できる最高温度なのだとか。
このトリートメントはダーク・チョコレート、焙煎されたコーヒー、メープル・シロップ、重いチャー・フレイヴァーを高めるとされます。また、通常のカスクストレングスと比較してドライになるが、非常に長いフィニッシュを有し、切れ上がりの味は甘いと言います。

Sp(Toasted French Spiceの略)
トーステッド・フレンチ・スパイスは、コンヴェクション・オーブンで高温と低温の両方で調理された(*)フレンチ・オークのクラシック・カット・ステイヴ。このトリートメントは、スモーク、シナモンやナツメグ、クマリンの風味を高め、味わいはフルーティかつスパイシーで少々渋いとされます。

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バイヤーはこれら五つのサンプルを慎重に試飲して、独自のカスタム・ブレンドを作成するよう奨励されます。例えば、チョコレートの風味が目立つメーカーズを欲するならMoを多く使用するとか、焦樽感がもっと欲しくスパイシーにしたいならSpを多くを使うとか、或いはバランスよく全てのステイヴを使うのも自由自在。とは言え、ヘンテコな物が出来上がらないように?脇には担当者の方がいて、味の方向性が決まれば適切なアドヴァイスをくれるようです。
視覚的に分かり易いようにテーブルにはステイヴの記号が描かれたチップも置かれており、それを並べてどのステイヴが何枚と決めて行きます。チップは一枚につき10mlを表し、選び抜いた十枚で100mlのカスタム・ブレンドのサンプルを造ってもらいます。こうすることで最終的なプライヴェートセレクトの仕上がりと想定されるものを試すことが出来るのでした。ロブ・サミュエルズによれば「皆さんは、最終製品が実験環境で行ったのと同じような味がするかどうかを尋ねますが、それはほぼ正確」で「マウスフィールは少し異なることがあっても、風味の特性は全く同じ」だと言います。
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ステイヴの組み合わせが決まったら、次はメーカーズマークの原酒をステイヴの挿入された樽へと満たす工程です。追加される10枚のステイヴは、バーボンと接触する木材の表面積を約33%増加させるとされ、実験を通じて最適な数として決定されました。典型的なバーボン樽は概ね32のステイヴで構成されていますが、プライヴェートセレクトの追加ステイヴはバレル・ステイヴよりは短くとも両面がトーストされているため、ジムビームの「ダブルオーク(トゥワイス・バレルド)」やウッドフォード・リザーヴの「ダブル・オークド」のような新樽で二度熟成させる製品と同じ位の効果があるのかも知れません。約6年ほど熟成した原酒でいっぱいに満たされた樽は、メーカーズ46の需要増への対応とプライヴェートセレクトのバレルを熟成させるために特別に設計されたライムストーン・セラーで、およそ9週間ほど眠りにつきます。そして熟成が終わると、通常のカスクストレングスと同じように、主にバレルのチャー残渣を除去する軽い濾過を経てボトリングされ完成です。言うまでもなく、カスクストレングスでのボトリングなので樽ごとに違いが出ますが、概ね55%前後のABVになります。各バレルは750mlのボトルをおよそ240本ほど産出し、同社は一本あたり約70ドルでの小売価格を提案。プライヴェートセレクト・バレルの費用は約13000ドルだとか。

蒸留所では自らのプライヴェートセレクトのボトリングもしています。代表的なそれは「Bill Samuels Jr.」と呼ばれ、メーカーズ46を産み出した当の本人でありメーカーズマークの前社長にちなんで名付けられました。故にそのシグネチャー・フレイヴァーを増幅するためステイヴのセレクトは46を10枚使用しています。つまりメーカーズ46のカスクストレングス・ヴァージョンという訳です。
また、メーカーズのウッド・フィニッシュ・シリーズはプライヴェートセレクト・プログラムだけに留まりません。2018年には「Maker's Seared Bu 1-3」というより実験的な「第二世代」のステイヴを使った製品が蒸留所限定で販売されました。これは375mlボトルで約40ドル、僅か1400本だけの提供です。そのステイヴは「virgin seared & Sous-Vide French oak」だと言います。「Sous-Vide(スゥヴィド)」はフランス語で「真空」の意。近年、料理の世界で真空調理法というのが注目されているようですが、木材を真空調理?って一体どんなことをしているのか、私には想像も付きません。実験の結果、このステイヴは美味しいバーボンを産み出したものの、プライヴェートセレクト・プログラムの他のステイヴを完全には補完しないため、蒸留所はこれを生産するプランはないけれど、メーカーズのDNAから生まれた愛するウィスキーを共有したいと考えて販売したそうです。
2019年9月からは、メーカーズマーク初となるアメリカ国内で全国配給される限定リリースのウッド・フィニッシング・シリーズが発売され始めました。第一段は「ステイヴ・プロファイル RC6」となっています。RCは「Research Center」の略で、そこの6番目のステイヴという意味です。リサーチ・センターというのは、メーカーズと共同して木材の実験を執り行うインディペンデント・ステイヴ・カンパニーの研究機関?か何かだと思います。RC6は屋外で一年半ほど乾燥させたアメリカン・オークをコンヴェクション・オーヴンでトーストしたステイヴで、主にスタンダードなメーカーズマークに存在するフルーツを引き立て、ベーキングスパイスやクラシックな甘さを向上させ、ブライトなフィニッシュになるそうな。正確なカウントではないらしいですが、だいたい255樽のスモール・クオンティティでの生産だそうです。おそらくこのシリーズは今後も、ワイルドターキーのマスターズキープのように年次リリースされて行くのでしょう。小売価格は約60ドルです。
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では、そろそろ今回レヴューするプライヴェートセレクトの出番です。こちらは「うきうきワインの玉手箱」という酒販店のセレクト。「玉手箱」という響きが気に入って買ってみました。スパイシーさを強調したセレクトになっているようです。

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Maker's Mark Private Select Stave Selection by Tamatebako 111.3 Proof
46 × 2
Mo × 4
Sp × 4
香ばしい焦げ樽、オールスパイス、タバコ、ドライクランベリー、レーズン、焦がし砂糖→プリンのカラメルソースの濃ゆいやつ、コーヒー、タバコ。焦樽の香りに僅かに酸っぱい香りが混じる。ややオイリーなマウスフィール、もしくはミルキー。パレートはメーカーズらしい酸味が感じられる。飲み込んだあとのスパイシーさはかなり強め。余韻には昆布も。テイスティング・グラスよりショット・グラスで飲むほうが美味しかった。
Rating:86.25/100

Thought:通常の46やカスクストレングスと較べて、よりねっとりとした舌触りであり、フレイヴァーが濃密な印象で、取り立ててオーヴァーオークな感じもせず、香ばしさが引き立てられていると思いました。パレートで感じる香味は確実に複雑ですが、反面、全体的にドライな傾向も強いのが個人的にはマイナス。口蓋で感じる強いスパイシーさや、余韻の苦味が退けた後にほんのり甘さが現れるあたりが、「大人な」メーカーズマークを目指したであろう本品の良さと言えます。ただ、もう少し分かりやすい甘味が余韻にあるほうが自分には好みなので、この評価でした。

Value:プライヴェートセレクトと言うか、ウッド・フィニッシュ・シリーズは、メーカーズ原酒の持つフレイヴァーをアンプリファイドした製品なので、例えば通常のカスクストレングスが6500円、プライヴートセレクトが7500円とすると、1000円が増幅代(手間賃)な訳です。ここに価値を見出だすかどうかが評価の分かれ道だと思います。もっと言うと、実際に飲んでみるまで通常のカスクストレングスより美味しいのか美味しくないのかが判らないギャンブル要素があるのに、少しだけ高い値段となるのがポイントなのです。1000円のギャンブルを安いと思うか高いと思うかはその人次第。結局のところ自分で飲むしか購入価値の判断が出来ないことがプライヴェートセレクトの欠点でもあり面白味でもあるでしょう。とは言え、概ね美味しくはなっていると思いますし、また幾つかのプライヴェートセレクトを飲んでみてステイヴ・セレクションが自分の好みに合ったリカー・ストアを見つけてしまえば、1000~1500円程度でのアップグレードは安いと言わざるを得ない「大きな価値」になります。


*一部の情報では、このステイヴのみ二つのトリートメントを組み合わせており、最初に高温の赤外線オーヴンで焼き、そして次にコンヴェクション・オーヴンへ移して低い温度で調理される、と説明されていました。真偽が判らなかったので、ここではメーカーズの公式ホームページでの説明がコンヴェクション・オーヴンの高温と低温とされていたため、そちらの説を採用しています。

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