■はじめに
バーボンが好き。だから飲む。小難しい能書きなんて要らない。それが全てだと思う。けれども、好きな物事についてもっと知りたい、というのも人間の欲。

せっかくバーボンに興味があって当ブログへ辿り着いたものの、カタカナ言葉や専門用語の連発によく意味が分からない、という初心者の方もいるでしょう。また、ウィスキー全般の用語集は見かけますが、バーボンに特化したものはあまりないように思えます。そこで便宜のためバーボン用語集を作成してみました。バーボンに対する理解の一助となれば幸いです。

項目の採択は基本を押さえつつ初級〜中級者の方を対象にしています(と言うか当ブログ自体がそう)。ネット時代、SNS全盛の世の中に対応するため、項目には略語も取り入れてみました。ネットの世界では入力の簡易化のため、頻繁に略語が使われ、一瞬何のことか分からないことがありますから。
なるべく正確を期したつもりですが、なにぶん一人で執筆してるので、不備もあるかと思います。間違いの指摘は大歓迎ですのでコメントしてもらえると助かります。それではバーボンの旅(知識編)を共に始めましょう。
一つだけ注意点として、項目は一般的な英語圏の辞典やインデックスなどの並べ方と異なる独自の配列をしています。私の感覚でその方が分かり易いと思ったからです。ご了承下さい。


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【A】

◆AA
「Ancient Age」の略。エンシェントエイジは現在バッファロートレース蒸溜所の造るエントリーレヴェルのバーボン。マッシュビルはブラントンズと同じ#2で造られる。元はシェンリーが創始した名ブランド。
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AAA
「Ancient Ancient Age」の略。エンシェントエイジより熟成年数の長い上位レヴェルのバーボン。主に6年より上の熟成の物に付けられる名称。2018-12-28-06-15-38-253x120

ABV
「Alcohol by Volume」の略。アルコール度数。或るアルコール飲料のエタノールの体積濃度をパーセントで示したもの。プルーフの半分。バーボンのラベル上でここまで省略されることは希で、概ね「100 PROOF(50% Alc/Vol)」のように表記される。

AE
「Angel’s Envy」の略。元ブラウン=フォーマンの伝説のマスター・ディスティラーで、ウッドフォード・リザーヴやジェントルマン・ジャックの商品開発に寄与したリンカーン・ヘンダーソンと、その息子のウェス・ヘンダーソンが中心となって立ち上げたルイヴィル・ディスティリング・カンパニーのブランド。現在、親会社はバカルディとなっている。ポートワインの樽で仕上げたバーボン等で名高い。エンジェルズ・エンヴィは「天使の羨望」と訳され、その由来は、ウィスキーが熟成中に蒸発する現象を「エンジェルズ・シェア(天使の分け前)」と言うが、それを天使が飲んだと見做すと、残ったお酒つまり熟成されたお酒の方が美味しい筈で、そうなると天使は天国で飲めなかったお酒に嫉妬しているだろう、といった意味合いかと。2018-12-28-06-25-05-384x243

After(Aftertaste)─アフター(アフターテイスト)
ウィスキーを飲み込んだ後に、口内や鼻孔に残る香りや、食道からの戻り香。余韻。どちらかと言えばバーボン・レヴュワーの間では「フィニッシュ」の方がより使われている。

Age(Aged)─エイジ(エイジド)
熟成年数のこと。熟成とは樽に入っていた期間であり、瓶に入っている期間は含まれない。また熟成を止めるためステンレスタンク等にバーボンを容れることがあるが、これも熟成期間にはカウントされない。

Age Statement─エイジステイトメント
ラベル上の熟成年数の提示。ラベルに記載する年数表記は、異なる熟成年数の原酒が混ぜられている場合、その最も若い原酒の年数を記載しなければならない。例、6年、8年、10年のブレンドなら「Aged 6 years」とする。また4年以上熟成させた製品のラベルには年数表記の義務はないが、4年以下の場合には必ず熟成年数を記載しなければならない。
熟成年数の提示は、その製品を造る会社の在庫と販売戦略によって容易く左右される。例えば、或る時期過剰生産して在庫に余裕があり、尚且つその10年後に販売数が伸び悩む状況があれば、長期熟成を謳ったブランドを発売するという具合に。逆に、或る時期販売数が激減していたので生産を縮小し、その10年後急に販売数が激増して在庫が逼迫する状況があれば、それまであった熟成年数の提示を止める。「NAS」の項も参照。

Aging─エイジング
熟成のプロセス、またそうすること。マチュレーション。

AHH
「A.H. Hirsch」の略。1974年にペンシルべニア州シェーファーズタウン近くのPennco蒸溜所(以前はボンバーガー蒸溜所として知られ、後にミクターズ蒸溜所となった)にて蒸溜された伝説のバーボン。元シェンリーの役員だったアドルフ・H・ハーシュ氏の名前を冠している。
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Alligator Char─アリゲーターチャー
バーボン樽の内側を焦がす際に選べるチャーリング・レベルのうち#4 チャーのことをこう呼ぶ。焦がし終え炭化したバレルの内部が、ワニ皮の粗く光沢のあるテクスチャーに似ているため。「チャー」の項を参照。
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AMS
「American Medicinal Spirits Co.」の略。

Amylase─アミラーゼ
澱粉やグリコーゲンを加水分解してマルトース(麦芽糖)やグルコース(ブドウ糖)を生成する酵素の総称。ウィスキーの原料の穀物に含まれる澱粉はそのままの状態では発酵できないため、酵素を用いて糖に分解させなければならない(マッシングプロセス)。α-アミラーゼは直ちにデンプンを糖に分解するパワーとなり、β-アミラーゼはそれらを酵母のために発酵可能な糖へと更に分解する。

Angel's Share─エンジェルズシェア
日本語では「天使の分け前」と訳される。また「天使の取り分」とも。木で出来た樽は多孔質の特性上、液体が漏れるほどではないが気体は通す。そのため熟成の過程で樽から蒸発して失われる酒量を天国へのお供え物に準えてそう呼ぶ。ボトリングまでの間にその容積の約30〜40%は平均して失われるという。造り手からすると損失ではあるのだが、天使がよく飲んだほうが美味しいバーボンになるのだとか。ビーム社の「デヴィルズ・カット」という製品では、謂わばこのエンジェルズ・シェアの逆を行こうと、中身を出したあとの樽に水を入れ撹拌し、樽に染み込んだバーボンの成分を取り戻そうとする。悪魔の効果のほどは不明。
天使が飲んでしまう量は、樽の大きさや環境条件、熟成期間等によって大きく異なる。以下、主だった事由を挙げてみる。
①樽のサイズ
小さな樽では液体が樽材に接触する表面積の割合が増えるため、バレルが小さければ小さいほど蒸発の進行が速い。これは熟成の速さも同様。
②気候
スコットランドの天使に較べ、ケンタッキー州の天使は貪欲と言われる。スコットランドのエンジェルズシェアが年平均約2%に対し、ケンタッキー州では年平均約4%と倍近い。両者間での気温の差は蒸発率と成熟率の違いの大きな要因となっている。夏の平均最高気温は、スコットランド約19℃(66°F)、ケンタッキー州約32℃(89°F)。また同じくらい湿度も重要で、湿度が低く温度が高いと水分の蒸発が多くなり、アルコール含量が上がる(プルーフアップ)。逆に湿度が高く温度が低いと、水分よりもアルコールの方が蒸発し、アルコール含量が下がる(プルーフダウン)。もしかすると夏と冬の寒暖差も影響があるかも知れない。
③熟成庫のスタイル
煉瓦や石造りの倉庫か、スレート造りの倉庫かの違い。前者の方が庫内は涼しいと予想される。また、熟成庫には窓が付いているが、倉庫内の気流も大いに関係するだろう。
④熟成庫内のロケーション
ケンタッキーの伝統的な蒸溜所は7〜9階建ての熟成庫が多い。倉庫の上層階は非常に暑く乾燥し、逆に下層階は涼しく湿っぽい。これは謂わば②と同じ状況が一つの建物内の上下で起こっているようなもの。そのためバレルを置く位置で蒸発率はかなり変わる。それはバレル間の風味プロファイルも変わることを含意する。
⑤熟成期間
初年度が最も蒸発し、徐々に蒸発のスピードは緩やかになるが、長ければ長いほど減ってゆく。これが長期熟成ウィスキーの値段が高いベーシックな理由。一例として言うと、バッファロー・トレース蒸溜所のマスター・ディスティラーであるハーレン・ウィートリーによれば、初年度が10%、次からの8年間は4%、その後は3%の蒸発率だとか。
⑥バレル・エントリー・プルーフ
125プルーフと110プルーフとでは容量中のアルコール対水の比率が違うので、この差が蒸発率に影響を与える可能性もある。

Anki─アンキ
愛知県名古屋市にある老舗のバーボン・バー。希少なオールドボトルの品揃えは日本屈指で、バーボンの桃源郷。近年はオウナーの息子さんもカウンターに立っているらしい。

Aroma─アロマ
芳香、香りのこと。バーボンではどちらかと言えば「ノーズ」の方が使われる。テイスティング・ノート等に於いて「香り/アロマ/ノーズ」とあれば、どれも鼻で感じる芳香成分のことを指している。