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今回は同じ蒸溜所で造られ、同じプルーフでのボトリング、そしてほぼ同じ価格である二つを飲み比べる企画です。一つがヘンリーマッケンナの(並行輸入品ではない)キリン正規品、もう一つがフォアローゼズのブラックラベル。どちらも現在酒販店に流通している所謂「現行品」です。この比較対決は、以前このブログへコメントしてくれた方からヒントを得て企画されました。

フォアローゼズ・ブラックがフォアローゼズ蒸溜所で造られているのは名前の通りなので判り易いですが、ヘンリーマッケンナについてはヘヴンヒル製造の物もあるので少し説明が必要でしょう。
アイルランド移民のヘンリー・マッケンナは、1855年、ケンタッキー州フェアフィールドにて蒸溜を開始しました。量よりも質を重視し、1日1バレル程度の規模で操業していたと言われています。1880年頃までにマッケンナのブランドは人気が高まり、上質なケンタッキー・バーボンとして評判を得、1883年には新しいレンガ造りの蒸溜所を建設し、1日3バレルに生産量を増やしたそうです。1893年にヘンリーが亡くなると、息子達が事業を引き継ぎ、ビジネスを更に成長させました。しかしご多分に漏れず禁酒法の訪れにより蒸溜所は閉鎖を余儀なくされます。マッケンナ家の所有する熟成ウィスキーは、A.Ph.スティッツェル蒸溜所の集中倉庫に保管され、薬用ライセンスを取得していた彼らに手数料を支払うことでボトリングしてもらいメディシナル・ウィスキーとして販売されました。禁酒法が撤廃されるとマッケンナ家はフェアフィールドで蒸溜所を再開。新しい蒸溜所の生産能力は1日20バレル程度だったようです。大恐慌とそれに続く第二次世界大戦の到来によって会社は継続するのに苦労し、ヘンリーの息子の死により残された一族は1941年にブランドと蒸溜所をシーグラムに売却しました。シーグラムはヘンリーマッケンナ・バーボンの販売を続けますが、フェアフィールドの蒸溜所で製造されたウィスキーの殆どはセヴン・クラウンやフォアローゼズ等のブレンデッド用に回されたと言います。その後、1960〜80年代に掛けてのストレート・バーボンの売上減少は、多くのケンタッキー蒸溜所の閉鎖を招きました。フェアフィールドのヘンリー・マッケンナ蒸溜所もその例外ではなく、1974年、遂に閉鎖されてしまいます。生産はルイヴィルのシーグラム工場に移り、そこも閉鎖されるまでの短期間はそちらで造られていた可能性も示唆されています。そして1980年代初頭にシーグラムはヘンリーマッケンナのアメリカ国内でのブランド権をヘヴンヒルに売却しますが、海外市場向けのブランド権は保持しました。これにより、海外向けの生産はローレンスバーグのオールド・プレンティス蒸溜所(現フォアローゼズ蒸溜所)、アメリカ国内向けの生産はバーズタウンのヘヴンヒル蒸溜所と、マッシュビルや酵母を共有しないニ種類のヘンリーマッケンナが産出されることになります。
21世紀初頭、長年に渡りスピリッツ業界の頂点にあったシーグラムも、飲料ブランドの名前としては一部残ったものの企業としては終りを迎えました。サミュエル・ブロンフマンとその息子エドガーが運営していた頃には業界を支配していたシーグラムですが、1994年にエドガーの息子エドガー・ジュニアに経営がバトンタッチされると、残念なことにスピリッツ事業に関心がなかった彼が率いる会社は急速にエンターテインメント事業への傾斜を強めます。しかし、巨額の買収費用に対して映画部門ではヒット作に恵まれず収益も上がらなかったため、2000年にフランスのヴィヴェンディと合併するに至りました。メディア事業の拡大を進めるヴィヴェンディにはアルコール飲料会社の所有権は必要なかったので、短期間所有した後、酒類部門はイギリスの新生ディアジオとフランスのペルノ・リカールに分割して売却されます。嘗て世界最大級の酒類会社であったシーグラム帝国は、エドガー・ジュニアが会社を継承して僅か8年で消滅した訳です。シーグラムの酒類部門が売却されたのに伴い、2002年2月、最終的に日本のキリンがフォアローゼズのブランドとローレンスバーグの蒸溜所を所有することになりました。キリンとシーグラムは1972年に合弁会社キリン・シーグラムを設立して事業を展開して来ましたし、キリンは以前からフォアローゼズのアジアでの販売業者となっておりブランドとの繋がりがありました。キリン・シーグラムはシーグラムの酒類事業売却により社名をキリン・ディスティラリーに変更しています。取引の詳細は分かりませんが、おそらくフォアローゼズの全事業権を取得した時にヘンリーマッケンナの海外事業権もキリンが取得したものと思われます。2006年にオーストラリアとニュージーランドで大手の飲料会社であるライオン・ネイサン(現ライオン)はキリンからマッケンナ・バーボンの権利を取得しているようなので。ともかく、こうして現在の日本では、ヘヴンヒルが製造するアメリカ国内版の並行輸入品と、フォアローゼズが製造するキリン正規品とが同時に市場に流通しているのでした。ただ、どちらかと言えば並行品の方が多くの酒販店で取り扱われ、正規品を取り扱っている店舗は少なそうな印象がありますね。

※重要な追記:記事を投稿後にキリンのヘンリーマッケンナのホームページを調べたら、最上部に「『ヘンリー マッケンナ』は2022年10月7日をもって出荷を終了させていただきました」との告知がありました。せっかく現行製品同士での対決という企画だったのですが、残念ながらキリン版のフォアローゼズ製ヘンリーマッケンナは終売になったようです。私が下調べのためにキリンのホームページを見た時は確かそんな事は書かれてなかったと思うのですが…。いや、タイミング悪っ。一応、私が記事を書いた時点でこれは分ってなかったので、タイトルや記事内容は修整しません。皆さんの頭の中で修整よろしくお願いします。

今回は同じヘンリーマッケンナという名を持つヘヴンヒル産とフォアローゼズ産の二つの違いを較べるのではありません。それも蒸溜所の個性の違いが味わえて面白いでしょうが、私にとってもっと興味深いのは同じ蒸溜所で造られながらどこまで違うのか、或いはどこまで同じなのかという方だったからです。周知のようにフォアローゼズ蒸溜所では2種類のマッシュビルとキャラクターの異なる5つのイーストを使って10種類の原酒を造り、それらをブレンドすることで品質と味を安定させたり、その組み合わせにより異なるフォアローゼズ・ブランドを作成しています(FRの10レシピについての仔細は過去に投稿したこちらを参照ください)。それならば、ヘンリーマッケンナとフォアローゼズ・ブラックで造り分けもし易いのではないか、と。いや、逆に手抜きしてブランドは違うが中身はほぼ一緒なんてことだってあるかも知れないぞ、と。冒頭に述べたように、幸いにもこの二つは同一のプルーフで市場価格もほぼ同じ、これは対決するしかないでしょ!?という訳で、そろそろバーボンを注ぐ時間です。

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目視での色の濃さは殆ど差を感じません。

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HENRY McKENNA 80 Proof
ボトリング年不明(購入は2022年)。明るめのブラウン。ライスパイス、薄っすらキャラメル、ウエハース、洋梨、ペッパー、青りんご、コーンフレーク。ややフルーティでトースティな木の香り。僅かにとろみのあるテクスチャー。口全体に甘みを感じつつもピリリとスパイシーな味わい。余韻はグレイニーでほろ苦くドライ気味。
Rating:81→82/100

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FOUR ROSES Black Label 80 Proof
ボトリング年不明(購入は2022年)。薄めのブラウン。熟したプラム、トーストした木、蜂蜜、ヴァニラウエハース、ホワイトペッパー、リンゴの皮。熟したフルーツを内包したややフローラルな香り。水っぽい口当たり。口中では甘くもありスパイシーでもありフルーツの存在感も。余韻はあっさりめながら豊かな穀物が現れ、最後に苦味が少し。
Rating:86/100

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Thought:両者は思ったより違いました。値段が殆ど同じなのでもっと味わいも近いのではないかと予想していたのですが、意図的にブレンド構成を変えている可能性はありそうなくらいに違いはあります。レシピ(マッシュビルとイーストの組合せ)が違うのか、熟成年数が違うのか、バレル・セレクトの基準が違うのか、或いはそれら全てなのか判りませんけれども。
私は昔からフォアローゼズ・ブラックを買い求め易い80プルーフのバーボンでは最も美味しいと非常に高く評価しています。90年代から現在のボトルまで一貫してリッチな熟したフルーツの風味があり、品質が安定しているからでした。その風味はフォアローゼズ蒸溜所で造られていた時代のブレット・バーボンでも感じ易かったです(特にブレット10年)。ところがこのヘンリーマッケンナにはそれが欠落しています。両者の違いをやや誇張して言うと、ヘンリーマッケンナは基本的にライトなフルーツ感をもつスパイシーなグレイン・フォワード・バーボンで、出てくるフルーツは洋梨や青りんごのようなフレッシュ・フルーツであるのに対し、フォアローゼズ・ブラックは基本的にスパイシーなフルーツ・フォワード・バーボンで、HMよりもう少し熟したフルーツ感があり、樽感も幾分かダークに感じます。仮に両者でバッチングに使用されるバレルの平均熟成年数が異なるのであれば、ヘンリーマッケンナは4〜5年熟成程度、フォアローゼズ・ブラックは6年熟成以上と言ったイメージかな、と。
二つのバーボンの似た部分は、どちらも液体を飲み込んだ直後のライ・キックが強いところでしょうか。とは言え、フォアローゼズ蒸溜所の2種類のマッシュビル「E」と「B」のどちらなのかの判断は難しいです。「B」マッシュビルの方がライ35%とライ麦多めのレシピではありますが、「E」マッシュビルであってもライ20%と他の蒸溜所ではハイ・ライと言ってもよいライ麦含有率ですし、フォアローゼズ・ブラックはOESKとOBSKの50/50のブレンドとどこかで見かけたことがあるので、ヘンリーマッケンナだって両マッシュビルを使ったレシピのブレンドの可能性も大いにありますから。
ところで、フォアローゼズのレシピに使用される5つのイースト「V・K・O・Q・F」は、イーストの研究に余念のなかったシーグラムが往時ケンタッキー州で所有していた五つの蒸溜所にルーツをもつと聞きます。どれがどの蒸溜所のものなのか私には判りませんが、その五つはルイヴィルのカルヴァート蒸溜所、シンシアナのオールド・ルイス・ハンター蒸溜所、ラルーのアサートンヴィル蒸溜所、ローレンスバーグのオールド・プレンティス蒸溜所、そしてネルソンのヘンリー・マッケンナ蒸溜所とされます。となると、ヘンリーマッケンナ・バーボンにはヘンリー・マッケンナ蒸溜所に由来するイーストが使われているのでしょうか? もしそうだとするならば、ヘヴンヒル製造の物よりも「血統」というロマンがあると思うのですが…。ここらへんの秘密を知ってる方は是非ともコメントよりご教示お願いします。
※ヘンリーマッケンナは開封直後はサイレントなアロマで味わいもパッとしなかったのですが、液量が半分以下になる頃には甘い香りが増して美味しくなりました。これが上記のレーティングの矢印の理由です。

Verdict:フォアローゼズ・ブラックに軍配を上げました。単に好みの問題かも知れませんが、個人的にはこちらの方が高いウィスキーの味がするような気がするので。ヘンリーマッケンナに関しては、もしかするとスタンダードなフォアローゼズ・イエローの現行品(ラベルがベージュになったやつ)にすら自分の好みとしては負けるかも知れません。全体的に少し単調な印象なのです。まあ、フォアローゼズ蒸溜所産だけに安心の美味しさですし、ライ麦の効いた味わいは私の好みでもあり、飽くまで高いレヴェルの中での些細な話ですがね。

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ワイルドターキー・ケンタッキー・スピリットは、アメリカの現行ワイルドターキーのラインナップの中では1942年の古典的な「101」、1991年の「レアブリード」に次ぐ、3番目に古いリリースの由緒あるブランドであり、ワイルドターキー101のシングルバレル・ヴァージョンとして1994年に作成されました。公式リリースは1995年なのかも知れませんが、最初のボトルは1994年に充填されています。おそらくは、バーボン界で初めての商業的なシングルバレル・バーボン、ブラントンズの対抗馬であったと推測され、ブラントンズの競走馬やケンタッキー・ダービーをモチーフとした華麗なボトルの向こうを張った七面鳥のファンテイル・ボトルは流麗で目を惹くものでした。またブラントンズと同じように、ラベルには手書きでボトリングされた日付やバレル・ナンバー、倉庫やリック・ナンバーが記されているのもプレミアム感をいやが上にも高めています。そして、キャップはピューター製の重厚で高級感のあるものでした。それ故ケンタッキー・スピリットの初期のものは通称ピューター・トップと呼ばれています。2002年からストッパーはピューター製からダーク・カラーの木製のものに変更されました。更に2007年もしくは2008年頃にはダークだった木材がライトな色味へと変わります。ラベルに描かれる七面鳥も、ケンタッキー・スピリットに於ける明確な変更時期は特定出来ませんが、ブランド全体に渡るラベルのリニューアルに合わせ、前向きが横向きへ、カラーがセピア調へと更新されました。と、ここまではキャップ等のマイナーチェンジとシリーズ全般の変化なので、ケンタッキー・スピリットの姿自体はそれほど変わりありませんでしたが、2019年、遂にケンタッキー・スピリットの象徴的なテイルフェザー・ボトルは廃止、レアブリードに似たデザインに置き換えられ、ラベルの七面鳥の存在感は薄くなります。
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「ケンタッキー・レジェンド」と免税店の「ヘリテッジ」といった一部の製品を除き、ケンタッキー・スピリットは2013年にラッセルズ・リザーヴ・シングルバレルが発売されるまでの20年近く、ワイルドターキーのレギュラー・リリースで孤高のシングルバレルであり続けました。アメリカの小売価格で言えば、ワイルドターキー101より2倍以上高く、ラッセルズ・リザーヴより少し安い製品です。ケンタッキー・スピリットをラッセルズ・リザーヴと比べてしまうと、ラッセルズ・リザーヴは冷却濾過されずによりバレルプルーフに近い110プルーフでボトリングされるため、スペック的にケンタッキー・スピリットを上回ります。そのせいもあってか、2014年頃から始まったプライヴェート・バレル・セレクションでもラッセルズ・リザーヴのほうが人気があります。その味わいの評価に関しては、アメリカの或る方の喩えでは「ワイルドターキー・ケンタッキー・スピリットは、天井は高いが床はラッセルズ・リザーヴ・シングルバレルよりも低い」と言っていました。ターキーマニアの代表とも言えるデイヴィッド・ジェニングス氏などは、ケンタッキー・スピリットのボトルがリニューアル(同時に値上げも)されたのには相当ガッカリし、ラッセルズ・リザーヴ・シングルバレルの方が愛好家向けにアピールする製品であり、逆にもっとライトな飲酒家向けにはラッセルズ・リザーヴ10年や「ロングブランチ」などがあるため、ケンタッキー・スピリットの立ち位置がブレて消費者への訴求力が落ちているのを危惧して、価格以外に三つの解決策を提案をしています。
第一はボトルの変更です。テイルフェザー・ボトルが高価なのなら、せめて同様の美しさをもった往年のエクスポート版のケンタッキー・レジェンド(101)や「トラディション(NAS)」のようなボトル・デザインに先祖返りするのはどうか?、と。
第二にケンタッキー・スピリットもノンチルフィルタードのバーボンにする。そうすればスタンダードなワイルドターキー101よりも優れた利点が確実に得られる、と。
第三にラベルに樽詰めされた日付も記載する。現在でもボトリングの日付はありますが、ケンタッキー・スピリットが愛好家に向けた製品を目指すのなら、より細部に拘ったほうがいい、と。
そして更には、先ずは一旦ケンタッキー・スピリットの販売を休止し、現在の115エントリー・プルーフのバレルを維持しつつ、昔のような107エントリー・プルーフのバレルも造り、二つの異なるバーボン・ウィスキーを用意、最後に理想的な熟成に達した107エントリー・プルーフのバレルからケンタッキー・スピリット101を造り上げるという提言をしています。これは謂わばジミー・ラッセルのクラシックなケンタッキー・スピリット・シングルバレル・バーボンを復活させるというアイディアです。確かにこれが実現したら素晴らしい…。
ちなみに彼は現在のケンタッキー・スピリットを扱き下ろしているのではありません。ラッセルズ・リザーヴ・シングルバレルとワイルドターキー101の中間にあっては、昔ほど誇らしげに立っていないと言っているだけです。実際、彼はここ数年のケンタッキー・スピリットの高品質なリリースを幾つか報告しています。まあ、少々否定的な物言いになってしまいましたし、今でこそケンタッキー・スピリットの特別さがやや薄れてしまったのも間違いないのですが、それでもその「魂」は眠ってはいないでしょう。ケンタッキー・スピリットはジミーラッセルの元のコンセプトに忠実であり続けるバーボンであり、殆どの場合ワイルドターキー101よりも美味しく特別なバーボンであり、またストアピックのラッセルズ・リザーヴが手に入りにくい日本の消費者にとってはワイルドターキー・シングルバレルの個性的な風味を経験するよい機会を提供し続けています。

改めてケンタッキー・スピリットの中身について触れておくと、その熟成年数はNASながら8〜10年とも8.5年〜9.5年とも言われており、とにかくワイルドターキー8年と同じ程度かもう少し長く熟成されたシングルバレルをジミー・ラッセルが選び(現在はエディ?)、冷却濾過して101プルーフでボトリングしたものです。つまり単純に言えば、冒頭に述べたようにケンタッキー・スピリットは現在でも日本で販売されているワイルドターキー8年101のシングルバレル・ヴァージョンなのです。ジミー自身はケンタッキー・スピリットについて、タキシードを着たワイルドターキー101と表現していたとか。多分、スタンダードな物より格調高く華やいでいる、といった意味でしょう。発売当初のボックスの裏には彼自身の著名でこう書かれました。
時折、完璧なものを垣間見ることがあります。私はいつもそれを上手く説明することは出来ないのですが、或る樽は熟成するにつれて並外れた味を帯びるのです。信じられないかも知れませんが、私は20年以上前の樽を今でも正確に覚えています。ワイルドターキー・ケンタッキー・スピリットは、そのような記憶に残る発見の喜びを与えてくれます。このボトルには、特別な1つの樽から直接注がれた純粋なバーボンが収められており、私はそれを皆さんにお届けすることを誇りに思います。
マスターディスティラー、ジミー・ラッセル
ついでに言っておくと、ケンタッキー・スピリットとラッセルズ・リザーヴという二つの同じシングルバレル製品の違いは、ボトリング・プルーフとチルフィルトレーションを除けば、そのフレイヴァー・プロファイルにあるとされます。現在のマスターディスティラー、エディ・ラッセルによれば、ケンタッキー・スピリットが父ジミーの好みをより代表しているのに対し、ラッセルズ・リザーヴは本質的にエディ自身の好みを代表しているそう。
ケンタッキー・スピリットの味わいについては、先に引用した「天井と床」の喩えで判る通り、アメリカでも日本でも多少のギャンブル性が指摘されています。つまり、ケンタッキー・スピリットはラッセルズ・リザーヴ・シングルバレルと同等かそれ以上に優れている場合もあれば、スタンダードなワイルドターキー101や8年101に非常に似ている可能性もあるということです。これはケンタッキー・スピリット云々というより、シングルバレルの特性上仕方のない面でもあります。通常3桁から4桁のバレルを混ぜ合わせる安価なバーボンは平均的なフレイヴァーになるのに対し、文字通り一つのバレルから造られるシングルバレル製品はフレイヴァー・バランスが異なります。具体的に例を言うと、普段飲んでいるワイルドターキー8年の味が脳にインプットされていて、さあ、いつもより上級なものを飲んでみたいと思いケンタッキー・スピリットを買いました、いざ飲んでみるといつものターキーよりスパイシーでオーキーでした、あれ? いつものほうがフルーティで美味しくない?、となったらその人にはハズレを引いたと感じられるでしょう。こればかりはその人の味覚次第だから。とは言え、本職の方が選んだバレルですから美味しいに決まってますし、それだけの価値があります。ケンタッキー・スピリットは甘くフルーティなものから、ややドライでタンニンのあるものまで様々なプロファイルを示しますが、真のワイルドターキー・ファンならば勇んで購入すればよいのです、好みのもの好みでないものどちらに転ぶにせよ。

ケンタッキー・スピリットはラベルの七面鳥やボトル・デザインの変化でなく、別の視点から概ね三つに分けて考えることが出来ます。ワイルドターキー蒸留所はフレイヴァーフルな味わいを重視し、ボトリング時の加水を最小限に抑える意図から比較的低いバレル・エントリー・プルーフで知られていますが、2000年代にそれを二回ほど変更しました。2004年に107プルーフから110プルーフ、2006年に110プルーフから115プルーフに。これは良かれ悪しかれフレイヴァー・プロファイルが変わることを意味します。また、ワイルドターキー蒸留所は旧来のブールヴァード蒸留所から2011年に新しい蒸留施設へと転換しました。これも良かれ悪しかれフレイヴァー・プロファイルが変わることを意味するでしょう。そこで、ケンタッキー・スピリットの平均的な熟成年数である8年を考慮して大雑把に分けると、

①1994〜2012年の107バレル・エントリー原酒
②2013〜18年の110/115バレル・エントリー原酒
③2019年からの新蒸留所原酒

というようになります。このうち①、特にピューター・トップのものは昔ながらのワイルドターキーの味わいであるカビっぽいコーンや埃のような土のようなオーク香があり複雑な風味があるとされます。②は①のようなファンクが消え、ライトもしくはいい意味で単純な傾向に。③は前出のDJ氏によれば、選ばれたバレルによっては「床が上がっている」そうです。そこで今回は、私の手持ちのケンタッキー・スピリットの年代が異なるもの2種類と、先日投稿したワイルドターキー8年101の推定2019年ボトルを同時に飲んで較べてみようという企画。実を言うと投稿時期が違うだけで、3本をほぼ同時期に開封しています。

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WILD TURKEY KENTUCKY SPIRIT Single Barrel 101 Proof
Bottled on 01-14-16
Barrel no. 2830
Warehouse O
Rick no. 2
2016年ボトリング。ややオレンジがかったブラウン。接着剤、香ばしい焦樽、香ばしい穀物、ローストナッツ、コーン、ライスパイス、ブラックペッパー、若いチェリー、ハニーカステラ、ナツメグ、アーモンド。口当たりはややオイリー。パレートは基本的にグレイン・フォワードで、甘みもあるが飲み込んだ直後はかなりスパイシー。余韻はミディアム・ロングで豊かな穀物と共に最後にワックスが残る。

8年101と較べて良い点は口当たりがオイリーでナッティさが強いところでした。悪い点は接着剤が強すぎるのと荒々しい「若さ」があるところ。全体的には、スパイス&グレインに振れたバーボンという印象。また、101プルーフよりも強い酒に感じるほどアルコール刺激を感じます。正直言って8年101の方がマイルドで熟したフルーツ感もあり私好みのバランスでした。
Rating:86.5/100

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WILD TURKEY KENTUCKY SPIRIT Single Barrel 101 Proof(Pewter top)
Bottled on 10-5-95
Barrel no. 63
Warehouse E
Rick no. 47
1995年ボトリング。やや赤みを帯びたブラウン。ヴァニラ、湿った木材、オールド・ファンク、ベーキングスパイス、ブラッドオレンジ、紅茶、タバコ、土、漢方薬、ドライクランベリー、鉄、バーントシュガー。アロマはスパイシーヴァニラ。口当たりは柔らか。パレートはフルーティな甘さにスパイス多め。余韻はハービーで、マスティ・オークが後々まで長く鼻腔に残る。

2016年のケンタッキー・スピリットが若さを感じさせたのに対して、こちらは寧ろ近年飲んでいたマスターズ・キープ17年のような超熟バーボンを想わせる味わいです。今回私の飲んだ8年101と較べても、90年代の8年101と比べても、ハーブぽいフレイヴァーが強く複雑ではあるのですが、あまり私の好みではありませんでした。多分なんですが、10年前に開封して飲めていたらもっともっと美味しかったのではないかなと思います。言葉を変えれば飲み頃を逃したような気がするということです。
Rating:87.5/100

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Verdict:95年ピュータートップに軍配を上げました。比較として飲んでいた8年101の方が自分好みではあったのですが、やはり特別な味わいではあると思ったし、2016年物は軽く一蹴したからです。


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テネシー州タラホーマ近くのカスケイド・ホロウにあるジョージ・ディッケル蒸留所のリリースする製品には幾つかのヴァリエーションがありますが、そのうち基本的なのは昔から発売されているブラック・ラベルの「No.8」とタン・ラベルの「No.12」です。現在では無色透明アンエイジドでホワイト・ラベルの「No.1」やレッド・ラベルの「タバスコ・バレル・フィニッシュ」という珍品もあり、唯一ディッケル蒸留所で造られていないグリーン・ラベルの「ライ」もあります。2019年にはブルー・ラベルのボトルド・イン・ボンドも発売されました。その他にスモールバッチの「バレル・セレクト」や「ハンド・セレクテッド」もあります。
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ベースとなるウィスキーのレシピはどれも同じで(ライウィスキーは除く)、コーン84%/ライ8%/モルテッドバーリー8%のハイ・コーン・マッシュビル。ディッケル蒸留所では42インチのコラムスティルを用い、比較的低い約130プルーフで蒸留するそうです(*)。そして熟成前のニューメイクはテネシーウィスキーの特徴となるメロウイング(リンカーン・カウンティ・プロセス)が施されますが、テネシーウィスキーの代名詞とも言えるジャックダニエル蒸留所とは異なり、メロウイング前に原酒を0℃近く(40°F)まで冷却します。これはジョージ・ディッケルその人が冬場に造ったウィスキーのほうが滑らかで旨いという信念を持っていたからとか。また他のテネシー蒸留所のようにチャコールの敷き詰められたヴァットに、原酒を一滴一滴垂らす「濾過」というよりは約1週間ほど「浸す」のがディッケルの製法だという情報も見かけました(**)。その木炭は地元産のサトウカエデの木からディッケル蒸留所によって作られています。熟成に使われるバレルのチャーリング・レベルは#4。エイジングに関しては熟成具合のバラつきを抑えるために1階建ての倉庫で行われ、樽のローテーションを必要としません(***)。水源は近隣のカスケイド・スプリングから取っており、例によって石灰岩層を通った鉄分を含まないウィスキー造りには最適の水で、ディッケルの味の秘訣の一つとされます。

ジョージディッケルのブランドは、それまで親会社だったシェンリーが1987年にユナイテッド・ディスティラーズに買収されると、1990年代初頭、ヨーロッパとアジアでの大幅な売上成長を目標にした選ばれたウィスキー・ブランドとして、マーケティングから予想される将来の需要を満たすために生産量が増加されました。しかし、その需要は少なくとも予測された範囲では実現しませんでした。ディッケル・ブランドは特定の地域でそれなりの支持を得ていたものの、ジャックダニエルズのような世界的に「超」が付くほどの有名銘柄ではありません。当時は今ほどの知名度もなかった筈です。結果、倉庫の容量はいっぱいになってしまいました。
もし蒸留所が生産していたのがケンタッキーバーボンだったなら、これはそれほど大きな問題ではなかったでしょう。なぜなら超過分は、親会社が所有する他の売れ行きの良いブランドにブレンドすることが出来ましたし、或いはオープン・マーケットで非蒸留業者に販売することも出来たからです。しかし、ディッケルはテネシーウィスキーというユニークな製品であり、当時のユナイテッドが抱えていた多くのバーボン・ブランドとレシピは共有されていません。また当時は現在ほどのアメリカンウィスキーの需要もありませんでした。そのため過剰生産されたストックは流動しなかったのです。
より多くのディッケルを海外に販売しようとする試みは、完全な失敗とは言い切れないものの期待に応えたとは言い難いものでした。おそらく問題の一部は、新しく巨大になった親会社からしたら、必要な注意を引くにはあまりにもディッケル蒸留所が小さ過ぎたことにあったのではないでしょうか。増え続けるストックは、誰かが十分な注意を払って生産調整すれば済む話なのに、誰もそうしなかった…と。
1997年にはギネス(ユナイテッド・ディスティラーズの親会社)がグランド・メトロポリタンと合併してディアジオが形成されました。新会社は多額の借金を抱えていたため、事業の統合によるコスト削減と資産売却による現金化が必要でした。彼らは焦点をアメリカン・ウィスキーから遠ざける決断を下し、1999年の初めまでに資産の大部分を売却、ジョージディッケルとI.W.ハーパーという二つのブランドだけを手元に残します。そしてジョージディッケルは1999年2月に生産が停止され、蒸留所は2003年までの期間閉鎖、マーケティング予算はゼロになりました。マーケティング費用が掛からないぶんディッケルは収益になっていたようです。

ディッケルの主力製品であるNo.8とNo.12に熟成年数の記載はありませんが、おそらくこの時期の物にはその後の物と較べ、熟成年数の長い原酒が混和されている可能性が高いと思われます。当時のディッケルの小売価格はかなり安く、2001年頃はNo.8が13ドル、No.12が14ドルという情報がありました。おかげで数年間は信じられないほどの掘り出し物だったと言います。しかし、それは恐らく会社にとってその製品がそれほど利益がなかったことをも意味するでしょう。
製品の継続性を保証するために、1か月とか年に数週間でも蒸留所を稼働させることは理に適っているように思えます。ブレンドされる原酒の熟成期間の大きなギャップを避けるためにも。しかしディアジオは、ディッケル蒸留所は再びウィスキーを製造する前にコストのかかる修理(廃水処理と関係があるテネシーでのいくつかの環境問題)を必要としており、完全生産に戻る準備ができるまで投資をしない、と主張していました。それが本当だったのかどうか知る由もなく、もしかすると物価を吊り上げるためのツールとして不足を意図的に作り出そうとしていた疑いも拭えません。ともかくもディアジオは2002年になるとディッケルのマーケティング予算を復活させ、2003年9月には修繕と環境問題もクリアして蒸留所の操業が再開されます。

マーケティングが成果を上げたのか、或いはアメリカンウィスキー復活の大きな潮流に上手く乗れたためか、その後数年間でディッケルの需要は急増しました。しかし、生産に於ける4年半もの「空白の時」が会社を悩ませることになります。2007年半ばまでにNo.8の不足が明らかになり、アメリカ各地で供給が枯渇し始めたのです。日本でも2000年代には、ディッケルは時折購入できなくなる(輸入されなくなる)という発言を聞いたことがありますが、それはこれが主な原因なのでしょう。意図的にそのような状況が作り出された訳ではありませんでしたが、その種の問題に気付いた時、それを最大限に活用する戦術が採られます。一つは不足自体についての宣伝を生み出すことでした。人は手に入りにくいものこそ欲する傾向がありますから。もう一つは供給不足を解消するために、2007年後半、従来製品より短い3年熟成原酒をボトリングした「カスケイド・ホロウ」という新製品の発表でした。そのラベル・デザインはNo.8と殆ど同じで、一見すると同一商品にさえ見え、小売価格も一緒だったそうです。お馴染みのブラック・ラベルを買うつもりの客が、別の製品とは気付かず購入なんてこともあったのではないでしょうか。流石にまずいと思ったのか、2008年半ばから後半にかけてカスケイド・ホロウのラベルはブラックからレッドに切り替えられました。この変更は苦情への対応の可能性、またはNo.8が再導入された後もカスケイド・ホロウは販売されていたので混乱を避けるためと見られています。
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2008年末にはNo. 8も店頭に戻って来ましたが、約22ドルに値上がっていたそうです。カスケイド・ホロウも2013年まで継続してラインナップ中エントリー・クラスの製品として残っていました。No.12の完全な供給中断はなかったそうですが、在庫は逼迫し、2009年頃いくつかの地域では見つけるのが難しかったようです。その頃、No.12の価格は14ドルから​​24ドルに急上昇しました。店頭商品の捌け具合の差から、店舗によってはNo.12がNo.8より安い価格で販売されている場合もあったそうです。この件とは直接関係ないかも知れませんが、日本でもNo.8とNo.12の価格に殆ど差がないことがあり、No.12がやけにお買い得に見える時がありますね。

ディッケルに限らず、或るブランドを作成する時、ブレンドされる原酒の熟成年数の構成比は、蒸留所の抱える在庫により随時変動します。特にNASの製品は蒸留所の自由な裁量に委されている感が強いです。蒸留所は時に使用される原酒の熟成年数の範囲についてヒントをくれますが、ディッケルは時期によって熟成年数に殊更バラつきがある印象を受けました。2003年9月の新聞では、当時のマスター・ディスティラーであるデイヴィッド・バッカスの発言を引用して、(現在の)店頭に並ぶNo.12は実際に12年であり、(本来は)その年数の半分程度であることが好ましい、なんて記事もあったようです。2006年頃のインタビューで当時のマスター・ディスティラーのジョン・ランは、一般的にバレル・セレクトは11〜12年、No.12は10〜12年、No.8は8〜10年であると述べています。更にウェブサイト上で見つかる新しめの情報では、バレルセレクトを10~12年、No.12を6~8年、No.8を4~6年としています。
さて、話が長くなりましたが、そこで今回は現行よりちょっと古い物と更にもう少し古いディッケルNo.8の飲み較べです。

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同一プルーフでありながら、目視で液体の色の濃さの違いがはっきりと判ります。一方はオレンジがかったゴールドに近く、一方は赤みのあるブラウンに近いです。

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George Dickel CLASSIC No.8 RECIPE 80 Proof
2015年ボトリング。薄いヴァニラ、穀物臭、コーンウィスキー、杏仁豆腐、所謂溶剤臭、さつまいもの餡、チョコチップクッキー、ドクターペッパー。ウォータリーな口当たり。余韻もケミカルなテイストが強い。とにかく何もかもが薄い印象で、甘さも仄かに感じるものの、辛味が先立つ。甘くもなくフルーティでもないのが好きな人向け。
Rating:77.5/100

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George Dickel OLD No.8 BRAND 80 Proof
ボトリング年不明、推定2000年前後。干しブドウ、穀物臭、薄いヴァニラ、炭、弱い樽香、土、ブルーベリー。ウォータリーな口当たり。木質のスパイシーさとドライな傾向の味わい。余韻は穏やかなスパイス・ノートと豊かな穀物。フルーティさはこちらの方があるが、基本的にグレイン・ウィスキー然とした香味。
Rating:84/100

Verdict:見た目からしても飲んでみても、旧瓶の方が明らかに熟成年数が高いと思いました。そしてそれがそのまま味の芳醇さに繋がっているのでしょう、旧瓶の圧勝です。

Thought:近年物を初め飲んだ時は、どうしたんだディッケル!と思ったほど、全然美味しくない、と言うか好きな味ではありませんでした。とにかく若いという印象しかなく、本当に4~6年も熟成してるの?って感じです。ディッケルの熟成倉庫は1階建てと聞き及びますが、4~6年の熟成でこの味わいなら、確かにそうっぽいと思わせる穏やかな熟成感でした。残量が半分を過ぎた頃からは、甘味が少し増して美味しくなり、樽由来でない原酒本来の甘味ってこんな感じかなと思ったのが唯一の良さですかね。一方の旧瓶は、ボトリングされてからある程度の年月が経過してる風味もありつつ、ディッケルぽさもあり、海外の方が言うところのディッケルの特徴とされるミネラル感も味わえたように思います。

追記:本記事をポストした後、ジョージディッケルの1987年以前の来歴とその前身であるカスケイド・ウィスキーの歴史を纏めました。興味のある方はこちらからどうぞ。


*135プルーフで蒸留という情報も見かけました。

**逆に一滴一滴垂らすとしている情報も見ましたので、いずれが本当かよく分かりません。

***6階建ての倉庫で熟成という記述も見かけたことがありますが、新しめの記事だとこう書かれていることが多いです。

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バーンハイム・オリジナルはヘヴンヒル蒸留所で生産される小麦ウィスキーで2005年から発売されました。発売当時はアメリカ国内で唯一の小麦ウィスキーであることをウリにしていましたが、現在では隆盛を極めるマイクロ・ディスティラリーの中には独自の小麦ウィスキーを造り出すところも少なからずあります。またアメリカ初の小麦ウィスキーでもなく、典型的なバーボンが確立される以前には、トウモロコシより小麦が良く育つ地域にはあったものと推測されます。小麦ウィスキー(ウィート・ウィスキー)というのは、ざっくり言えば原材料に小麦を51%以上使ったウィスキーのこと。似た用語に小麦バーボン(ウィーテッド・バーボン)というのがありますが、こちらはメーカーズマークのようにセカンド・グレインにライ麦を使用せず、代わりに小麦を使用したバーボンを指します。

バーンハイム・オリジナルは発売当初、熟成年数が約5年とされるNAS(ノー・エイジ・ステイトメント)でしたが、2014年にパッケージがリニューアルされると7年熟成のエイジ・ステイトメント・ウィスキーへと変わりました。近年それまであった熟成年数表記がなくなる傾向にあるウィスキー業界では珍しいパターンと言えるでしょう。旧ボトルは中央に銅板風ラベルが貼ってあり、そのブロンズ色が引き立つ魅力的なパッケージでした。マッシュビルは51%冬小麦/39%トウモロコシ/10%大麦麦芽とされ、本当かどうか判断しかねますが熟成は倉庫Yでなされているという情報がありました。そして「スモールバッチ」を名乗りますので、おそらく150樽以下(75樽くらい?)でのバッチングと思われます。

製品のバーンハイムという名称は、I.W.ハーパーでお馴染みのアイザック・ウォルフ・バーンハイム氏やその兄弟、また彼らが設立した蒸留会社、及びその名を冠する現代の蒸留所にちなみ命名されました。もともとヘヴンヒル社の蒸留所はバーズタウンにあったのですが、96年にアメリカンウィスキー史上最大規模の悪夢のような大火災によって焼失。そこで替わりの蒸留施設を必要としたので、火災から三年後の99年にバーンハイム蒸留所を購入したのです。この蒸留所は1992年にギネス傘下のユナイテッド・ディスティラーズによって、ルイヴィルのディキシー・ハイウェイ近くのウェスト・ブレッキンリッジ・ストリートに開設され、当時最先端の製造技術を備えた近代的で大きな蒸留所でした。購入した際に、当時ヘヴンヒルのマスターディスティラーだったパーカー・ビームは、コラムスティルの上部とダブラーの内側に銅のメッシュを追加するなど独自の改造を施したと言います。バーンハイム・オリジナルが初めて発売された年とその熟成年数を考えると、バーンハイム蒸留所を所有した比較的早い時期に小麦ウィスキーを仕込んだのでしょう。ところで「バーンハイム」と「小麦」って、私には特に結び付きがあるように感じないのですが、なにゆえわざわざバーンハイムの名を冠するウィスキーが小麦ウィスキーとなったのでしょうか? ご存知の方はコメント頂けると助かります。
それは偖て措き、買収以来ヘヴンヒル社のスピリッツの生産拠点となっており、今ではヘヴンヒル・バーンハイム蒸留所と呼ばれるこの蒸留所は、ニュー・バーンハイムとも呼び習わされているのですが、それは旧来のバーンハイムとは全く別の蒸留施設だからです。旧バーンハイムは、マックス・セリガーとそのビジネスパートナーが運営していたアスターとベルモントという同じサイトにあった二つの蒸留所をルーツとしています。1933年の禁酒法の終わりにシカゴのビジネスマンであるレオ・ジャングロスとエミル・シュワルツハプトは、アイザック・バーンハイムがルイヴィルに建てた蒸留所とブランド、マリオン・テイラーからはオールド・チャーターのブランド、マックス・セリガーからは蒸留所とブランドを購入し、全ての事業を統合してベルモントとアスター蒸留所で生産を始めました。そしてその際に名称を「バーンハイム・ディスティラリー」へと変更し、そこでI.W.ハーパー、ベルモント、アスター、オールド・チャーター等を製造したのです。1937年にジャングロスとシュワルツハプトは事業をシェンリー社に売却。以来長いことシェンリーがバーンハイム蒸留所を所有していましたが、1987年にユナイテッド・ディスティラーズがシェンリーを吸収すると、古い蒸留所は解体され、上に述べたように1992年に「新しい」バーンハイム蒸留所が建設されたのでした。このように所有者が変わり、施設も一新されたからこそ新旧のバーンハイムを区別する習慣があるのです。

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さて、話が小麦ウィスキーから蒸留所の件に逸れてしまいましたが、今回はNASと7年表記があるものを比較する企画です。目視での色の違いは感じられません。

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Bernheim Original Wheat Whiskey NAS 90 Proof
年式不明、2014年以前(推定2012年前後)。焦樽、ハニー、薄いキャラメル香、トーストしたパン、僅かにシトラス。とにかく香りのヴォリュームが低い。あまりフルーツを感じないオーク中心の少し酸味のある香り。口当たりはさらさらで軽い。味わいはほんのりした甘さ。液体を飲み込んだ後のスパイス感もソフト。余韻は短くドライ気味。
Rating:82.5/100

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Bernheim Original Wheat Whiskey 7 Years Aged 90 Proof
年式不明、購入は2019年(2016年くらいのボトリング?)。プリンのカラメルソース、接着剤、ハニー、サイダー、強いて言うとオレンジ。香りはこちらの方が僅かに甘いが、接着剤感も少し強まる。また、こちらの方が口当たりにほんの少し円やかさを感じる。飲み心地と味わいはほぼ同じ。余韻はミディアムショートで苦め。
Rating:83/100

Verdict:7年物の方がほんの僅かにアロマとパレートに甘さを感じやすいような気がしたので、そちらを勝ちと判定しましたが、私には両者にそれほどの差を感じれませんでした。2年の熟成年数の差がもっとあると思って比較対決を企画したものの、これほど差がないと企画倒れの感は否めません…。総評として言うと、小麦ウィスキーはバーボンに較べ、オイリーさの欠如からか、軽いテクスチャーと感じますし、甘味も弱い気がします。それでいてライウィスキーほどフレイヴァーフルでもなく、強いて言うと腰の柔らかさとビスケッティなテイストが良さなのかなぁと。

Value:現代のプレミアム・バーボンに共通する香ばしい焦樽感はあるとは言え、NASが5000円近く、7年が7000円近くするこのウィスキーは、率直に言って私にとっては二回目の購入はないです。半値でも買わないかも知れません。こればかりは好みと言うしかありませんが、私には普通のバーボンかライウィスキーのほうが美味しく感じます。
アメリカでの価格は、販売店に大きく依存しますが概ね30ドル前後です。またインスタグラムのフォロワーさんで、カナダではなかなか見つけにくいと仰ってる方がいました。販売地域によっては手に入りにくいようです。

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レアブリードは90年代初頭に発売され始めました。80年代後半にジムビームから発売されたブッカー・ノーのバレルプルーフ・バーボン「ブッカーズ」に対する、ワイルドターキーのジミー・ラッセルによる「回答」だったと言われています。ブランド紹介は過去投稿のW-T-01-99とWT-03RBのレビュー時にやってますのでそちらを参照下さい。今回は2014~16年発売の112.8プルーフと2016年から発売の116.8プルーフの飲み較べです。

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116.8の方が当然濃いわけですが、目視ではそれほどの差を感じません。

WILD TURKEY RARE BREED 112.8 Proof
穀物臭、ヴァニラ、ペッパー、コーン、焦げたトーストブレッド、ピーカン、グレープフルーツ、タバコ、メロン。柑橘類の爽やかさとスパイシーなアロマ。すっきりした口当たり。口の中ではスパイシーな風味というよりアルコールのピリピリ感が強め。舌先で転がせば仄かな甘味も感じるものの、ナッツの香りと酸味とスパイスで攻める感じ。余韻はドライ。
Rating:86.25/100

WILD TURKEY RARE BREED 116.8 Proof
推定2017年ボトリング。ロットLL/FH。マロンの甘露煮、香ばしい樽香、タバコ、甘いコーヒーミルク、塩コショウ、僅かなラヴェンダー。今までのレアブリードと一線を画す甘いアロマ。パレートもやや甘め。まったりした口当たり。アルコールの尖りとソーピーな雰囲気も。余韻にピーナツバターと微かに薬品ぽいノート。
Rating:86.75/100

Verdict:香り、口当たり、余韻ともに自分の好みだった116.8を勝ちと判定しました。海外のターキーマニアの評判も116.8のほうが圧倒的に高く、112.8は他のバッチと較べても低評価です。確かに開封直後は私もそう思っていたのですが、時間の経過とともに112.8の味わいに伸びが出て、結果としてはそれほど差はつきませんでした。

Thought:実を言うと、過去にレビューしたWT01-99とWT03RBを飲み干さずに取って置き、四本の年代別(バッチ別)レアブリードをサイド・バイ・サイドで飲み較べる、ちょっとしたヴァーティカル・テイスティングをやっていました。
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販売年数の長かったWT03RBをレアブリードの基本的な味わいと仮定してみます。そうするとWT01-99は、90年代までのワイルドターキーに感じやすかったアーシーなノートが余韻にほんの僅かに感じられ、WT03RBよりも複雑と言えるでしょう。ですが、それはあくまで続けざまに飲んだから気づいただけで、私ごときの味覚では別の機会に飲んだらどちらか判らない気がします。それに較べると今回の二本は、ベーシックなレアブリードから少々逸脱している印象を受けました。112.8はシトラスとスパイシーさが美味しく感じやすい反面、ウッディなドライネスも強く、何というか味を色で例えると「黄色い」と感じます。116.8は度数が上がっている影響も大きいとは思いますが、そもそもバレルセレクトの基準が違うのではないかと思うほど劇的な変化が感じられ、実はここからが本当のエディ・ラッセルのレアブリードなのでは、と勘ぐりたくなります。ワイルドターキー蒸留所は旧来のブールヴァード蒸留所から2011年に新しい蒸留施設へと転換しました。116.8の風味プロファイルが従来のレアブリードと違うのは、おそらく新しい蒸留施設の6年原酒を多く含むからとも推測されます。もしかすると日本限定の8年101も、単純計算で2019年のロットから劇的に味が変わる可能性もあるのかも知れませんね。
ところで、私の飲んだ116.8はロット番号の頭の英字がLL/FHの物です。それゆえ推定2017年ボトリングとしておいたのですが、どうやら2018年のLL/GHのロットには、もう少し熟成年数の古いバレルが多く混和されているとされ、海外のターキーマニアの評価が高いようです。日本にも輸入されてるのならそのうち飲んでみたいものです。

それともうひとつ、前から気になっていることがあります。112.8のラベルは2014~16年とされ比較的短期間で終了な訳ですが、このデザインは本来2011~2015年のセピア・トーンの横向きターキーと一致するラベルデザインですよね? 下に8年101とレアブリードのそれぞれ対応する画像を挙げてみましょう。
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年数はアメリカの情報を基にしています。日本で流通が始まるのは大概半年から一年遅れです。ましてやワイルドターキーほどの人気ブランドだと流通量も多いため、旧ラベルの在庫がハケるのに時間もかかり、8年101の「2011~2015」とレアブリードの「99~2013」のラベルがほぼ同時流通していた気がします。なのに近年のモノクロ チラ見ターキー8年101の「2015~」とレアブリードの「2016~」は早々に切り替わった印象があり、そこでなんだかレアブリードの「2014~16」ラベルが過渡期の物のように錯覚してしまっていました。それを初めて見たとき「えっ、今さらラベルチェンジ?」と思いましたし、モノクロが出たときは「えっ、もう変わるの?」と思いました。それもこれもレアブリードの「2014~16」ラベルのリリースされるタイミングが遅いせいじゃないですか。これは一体なぜなのでしょうか? いや、WT03RBだけが十年近く販売されていたのがそもそも謎で、そのせいで「2014~16」ラベルが押し出されてるような気もしますけど…。一説には「怠惰」と言われますが、事情をご存じの方はコメント頂けると助かります。


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ヘヴンヒル蒸留所の旗艦ブランド、エヴァンウィリアムスの中でもレッドラベルは、バーボン好きは言うに及ばず、スコッチ中心で飲む方にも比較的評価の高い製品です。長らく輸出用の製品(ほぼ日本向け?) でしたが、2015年にアメリカ国内でもヘヴンヒルのギフトショップでは販売されるようになりました。日本人には驚きの120~130ドルぐらいで売られているとか…。日本では一昔前は2000円弱、今でも3000円前後で購入できますから、日本に住んでいながらこれを飲まなきゃバチが当たるってもんですね。

ところでこの赤ラベル12年、一体いつから発売されているのか、よく判りません。80年代後半には確実にありましたが、80年代半ばあたりに日本向けに商品化されたのが始まりなのですかね? 当時のアメリカのバーボンを取り巻く状況からすると、長期熟成原酒はゴロゴロ転がっていた筈です。その輸出先として、バブル経済の勢いに乗り、しかも長熟をありがたがる傾向の強い日本向けにボトリングされたのではないかと想像してるのですが…。誰かご存知の方はコメント頂けると助かります。
さて、今回は発売年代の違う赤ラベルを飲み較べしようという訳でして、画像左が現行、右が90年代の物です。赤の色合いがダークになり、古典的なデザインがモダン・クラシックと言うか、若干ネオいデザインになりましたよね。多分このリニューアルは、上述のギフトショップでの販売開始を契機にされたものかと思います。まあ、ラベルは措いて、バーボンマニアにとっては中身が重要でしょう。言うまでもなく、現行の方はルイヴィルのニュー・バーンハイム蒸留所、90年代の方はバーズタウンの旧ヘヴンヒル蒸留所の原酒となります。

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目視での色の違いは殆ど感じられません。強いて言えば旧の方が艶があるようにも見えますが、気のせいかも。

Evan Williams 12 Years Red label 101 Proof
2016年ボトリング。プリン、焦樽、ヴァニラ、バターピーナッツ、レーズン、莓ジャム、煙、足の裏。ほんのりフルーティなヴァニラ系アロマ。余韻はミディアムショートで、アルコールの辛味と穀物香に僅かなフローラルノート。
Rating:87/100

Evan Williams 12 Years Red Label 101 Proof
95年ボトリング。豪快なキャラメル、香ばしい樽香、プルーン、ナツメグ、チェリーコーク、チョコレート、ローストアーモンド、鉄。クラシックなバーボンノート。スパイシーキャラメルのアロマ。パレートはかなりスパイシー。余韻はロングで、ミントの気配と漢方薬、土。
Rating:87.5/100

Verdict:同じものを飲んでいる感覚もあるにはあるのですが、スパイシーさの加減が良く、風味が複雑なオールドボトルの方を勝ちと判定しました。現行も単品で飲む分には文句ありませんし、パレートではそこまで負けてはないものの、較べてしまうと香りと余韻があまりにも弱い。総論として言うと、現行の方は典型的な現行ヘヴンヒルの長期熟成のうち中程度クオリティの物といった印象。一方の旧ボトルも、バーズタウン・ヘヴンヒルの特徴とされる、海外の方が言うところのユーカリと樟脳が感じやすい典型的な90年代ヘヴンヒルのオールドボトルという印象でした。

Thought:全般的に現行品はクリアな傾向があり、対してオールドボトルは雑味があると感じます。その雑味が複雑さに繋がっていると思いますが、必ずしも雑味=良いものとは言い切れず、人の嗜好によってはなくてもよい香味成分と感じられることもあるでしょう。かく言う私も、実は旧ヘヴンヒルの雑味はそれほど好みではありません。両者の得点にそれほどの開きがない理由はそこです。

Value:エヴァン赤は日本のバーボンファンから絶大な信頼を寄せられている銘柄だと思います。確かに個人的にも、例えばメーカーズマークが2500円なら、もう500円足してエヴァン赤を買いたいです。またジムビームのシグネイチャー12年やノブクリークが同じ価格なら、エヴァン赤を選ぶでしょう。おまけにワイルドターキーのレアブリードよりコスパに優れているし。つまり、安くて旨い安定の一本としてオススメということです。もっとも、たまたま上に挙げたバーボンはどれも味わいの傾向は多少違うので、好みの物を買えばいいだけの話ではあります。参考までに個人的な味の印象を誇張して言うと、腰のソフトさと酸味を求めるならメーカーズマーク、香ばしさだけを追及するならノブクリーク、ドライな味わいが好きならレアブリード、甘味とスパイス感のバランスが良く更に赤い果実感が欲しいならエヴァン赤、と言った感じかと。
問題は旧ラベルと言うか、旧ヘヴンヒル蒸留所産の物のプレミアム価格の処遇です。個人的な感覚としては、上のThoughtで述べた理由から、仮に旧ボトルが現行の倍以上の値段なら、現行を選びます。確かに多くのバーボンマニアが言うように、旧ヘヴンヒル蒸留所産の方が美味しいとは感じますが、あくまで少しの差だと思うのです。それ故、私の金銭感覚では、稀少性への対価となる付加金額を、現行製品の市場価格の倍以上は払いたくないのです。ただし、その少しの差に気付き、その少しの差に拘り、その少しの差に大枚を叩くのがマニアという生き物。あなたがマニアなら、或いはマニアになりたいのなら、割り増し金を支払ってでも買う価値はあるでしょう。

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イーグルレアは現在バッファロートレース蒸留所のライ麦少なめのマッシュビル#1から造られる90プルーフ10年熟成のバーボンです。このマッシュビルは同蒸留所の名を冠したバッファロートレースの他、コロネルEHテイラー、スタッグ、ベンチマーク等にも使用されています。価格やスペックから言うとバッファロートレースより一つ上位のブランド。

イーグルレアは、元々はシーグラムが1975年に発売したシングルバレルではない101プルーフ10年熟成のバーボンでした。既に人気のあったワイルドターキー101を打ち倒すべく作成され、鳥のテーマとプルーフは偶然ではなく敢えてワイルドターキーに被せていたのです。「CARVE THE TURKEY. POUR THE EAGLE.(七面鳥を切り分け、鷲を注ぐ)」と云う如何にもな1978年の広告もありました。この頃の原酒には、当時シーグラムが所有していたオールドプレンティス蒸留所(現在のフォアローゼズ蒸留所)のマスターディスティラー、チャールズ・L・ビームが蒸留したものが使われています。
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時は流れ、サゼラック・カンパニーは1989年にシーグラムからイーグルレア・ブランドを購入しました(同時にベンチマークも購入)。その時のサゼラックはまだ蒸留所を所有していなかったので、数年間だけ原酒をヘヴンヒルから調達していたと言います(*)。しかし最終的には自らの製品を作りたかったサゼラックは1992年に、当時ジョージ・T・スタッグ蒸留所またはエンシェント・エイジ蒸留所と知られる蒸留所を買収し、後にその名称をバッファロートレース蒸留所に変更します。2005年までは発売当初と同じ熟成年数、プルーフ、ラベルデザインで販売され続けますが、この年にイーグルレアは大胆なリニューアルを施され、シングルバレル製品、90プルーフでのボトリング、そして今日我々が知るボトルデザインに変わりました。

一旦話を戻しまして、所謂旧ラベル(トップ画像左のボトル)について言及しておきましょう。イーグルレア101のラベルは、文言に多少の違いはあっても、会社の所在地表記で大きく三つに分けることが出来ます。
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先ずは左のローレンバーグ。これが書かれているものはシーグラムが販売し、現フォアローゼズ蒸留所の原酒が使われていると見られ、発売当初から89年までがこのラベルではないかと考えられます。熟成もローレンバーグで間違いないと思われますが、もしかするとボトリングはルイヴィルのプラントだった可能性もあります。次に一つ飛ばして右のフランクフォート。これが書かれているものは現バッファロートレース蒸留所の原酒が使われているでしょう。で、最後に残したのが真ん中のニューオリンズ。これが少し厄介でして、おそらくラベルの使用期間は90年から99年あたりではないかと思われますが、ニューオリンズはサゼラックの本社がある場所なので、蒸留やボトリング施設の場所を示していません。ローレンバーグやフランクフォートにしてもそうなのですが、「Bottled」と書かれてあっても「ボトリングした会社はドコドコのナニナニです」と言ってるだけです。このニューオリンズと書かれたラベルは理屈上、初期のものはフォアローゼズ産、中期のものはヘヴンヒル産、後期のものはバッファロートレース産、という可能性が考えられます。それ故、生産年別で原酒の特定をするのはかなり難しいです。これは飲んだことのある方の意見を伺いたいところ。ちなみに90年代には日本市場だけのために作られたイーグルレア15年107プルーフというのもありましたが、そのラベルの所在地はニューオリンズでした。これは一体どこの蒸留所産なのでしょうね。
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また、他にも後にバッファロートレース・アンティークコレクションの一部となるイーグルレア17年が2000年に発売されていますが、これは別物と考えここでは取り上げません。

さて、2005年にリニューアルされたイーグルレアはトップ画像右のボトルと大体同じだと思います。躍動感のある鷲がトール瓶に直接描かれるようになり、ネックに10年とあり、ちぎれた旗?のようなものにシングルバレルとあります。そしてトップ画像真ん中のボトルが2013年もしくは14年あたりにマイナーチェンジされた現行品です。おそらく段階的な変化があったと思いますが、この二者の主な相違点は、ネックにあった10年熟成のステイトメントがバックラベルに移り、シングルバレルの記述が完全に削除されたことの2点です。そうです、イーグルレアは現在ではしれっとシングルバレルではなくなっていたのでした。ただし、これには訳がありまして、バッファロートレース蒸留所に高速ボトリング・ラインが導入されたことにより、一つのバレルから次のバレルに切り替わる際、或るボトルには2つの異なるバレルのバーボンが混在してしまう可能性があり、技術上シングルバレルと名乗れなくなってしまったのだそうです。つまり現行イーグルレアはシングルバレル表記なしとは言っても、ほぼシングルバレル、準シングルバレルであり、もし味が落ちてると感じたとしても、それはシングルバレルでなくなったからではなく別の理由からだ、と言えるでしょう。そこで、今回は発売時期の異なるイーグルレア90プルーフ、シングルバレルとほぼシングルバレルの2つを飲み比べしてみようと言うわけです(旧イーグルレア101はおまけ。昔飲んだ空き瓶です)。

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目視での色はかなり違います。画像でもはっきりと確認できる筈。右シングルバレルの方はオレンジアンバーなのに対し、左ほぼシングルバレルの方はダークアンバーです。

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推定2015年前後ボトリング。並行輸入品。苺のショートケーキ、チャードオーク、シトラス、グレープジュース、焦がした砂糖、夏の日の花火、蜂蜜、土、麦茶。甘いアロマ。ソフトな酒質。余韻はややドライで、それほど好ましい芳香成分が来ない。
Rating:85.5/100

Eagle Rare Single Barrel 10 Years 90 Proof
推定2010年前後ボトリング。正規輸入品。ドライマンゴー、オレンジ、苺のショートケーキ、僅かに熟れたサクランボ、小枝の燃えさし、ビオフェルミン、カビ。全てにおいてフルーティ。ソフトなテクスチャー。余韻に爽やかなフルーツとアーシーなノート。
Rating:86.5/100

EAGLE RARE 101 Proof
推定2000年ボトリング。飲んだのが昔なので詳細は覚えてないが、上記二つとはまったく別物と思っていい。フルーツ感はあまりなく、もっとキャラメルの甘味と度数ゆえの辛味があって、ソフトよりストロングな味わいだった。原酒は多分バッファロートレースだと思う。ヘヴンヒルぽいテイストではなかった気がする。昔好きで飲んでいたので、俗に云う思い出補正はあるかも。
Rating:88/100

Verdict:101プルーフの物はおまけなので除外するとして、個人的にはフルーティさが強く余韻も複雑なシングルバレルの方を勝ちと判定しました。ライ麦が少なめのレシピでここまでフルーツ感が強いバーボンはやはり特別なのではないかと。ほぼシングルバレルの方も素晴らしいアロマを持っているのですが、どうも余韻が物足りなく感じまして。大抵の場合、色が濃いほうが風味が強く、美味しいことが殆どなのですが、この度の比較では逆でした。熟成は奥が深いですね。

Value:イーグルレアは、アメリカでは30ドル以下で買えるシングルバレルとして、生産量の多さ=流通量の多さ=入手の容易さも魅力であり、更にプライベート・バレル・プロジェクトもあるため、絶大な人気があります。しかし正直言って、日本では5000円近い値札が付く店もあり、その場合はかなりマイナスと言わざるを得ません。個人的には半値近い金額でバッファロートレースが買えるのなら、そちらを2本買うでしょう。けれど、たまにの贅沢でなら購入するのは悪くないと思います。また、同じバッファロートレース蒸留所産で、異なるマッシュビル(ライ麦多めの#2)を使用したシングルバレル・バーボンであるブラントンズの現行製品が5000円なら、イーグルレアを選択するのが私の好みです。


*有名なバーボン・ライターのチャック・カウダリーは、この時期はボトリングもヘヴンヒルだったのではないかと示唆しています。

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現在バートン蒸留所の主力製品となっているのが「1792(セヴンティーンナインティトゥー)スモールバッチ」。その名前の数字は、ヴァージニア州からケンタッキー地区が独立して合衆国15番目の州となった年を指し、それに敬意を表して名付けられました。ミドルクラスのクラフトバーボンとかプレミアムバーボンと言われる価格帯で、ノブクリークやウッドフォード・リザーヴ、イーグルレア等の競合製品です。日本には一般流通していませんが、上位互換の「Bottled in Bond」や「Full Proof」、「Single Barrel」や「Port Finish」、マッシュ違いの「Sweet Wheat」や「High Rye」等がネックの色違いで販売されています(継続的なリリースか不明、もしかしたら限定版なのかも)。

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1792スモールバッチはそもそも2002年の発売当初「リッジウッド・リザーヴ(Ridgewood Reserve 1792)」という名称でした。ところが「ウッドフォード・リザーヴ(Woodford Reserve)」に名前とボトルの雰囲気が似ていたため、消費者の混乱を招くとの主張から商標権侵害であると2003年10月にブラウン=フォーマン社から訴えられてしまいます。バートン社も負けじとウッドフォード・リザーヴは偽装されたオールドフォレスター(*)であり、それは虚偽表示に当たるのではないかと主張し闘いましたが、米地方裁判所のジェニファー・コフマン判事は2004年に商標権侵害を認める判決を下し、バートンに対してリッジウッド・リザーヴの差止め命令を出しました。これによりバートン社は速やかに裁定に従い製品名を「リッジモント・リザーヴ(1792 Ridgemont Reserve)」に変更します。このリッジウッドとリッジモントには、ラベルに「Small Batch Aged 8 years」と記載されていましたが、2013年12月にエイジ・ステイトメントは削除されました。そして2015年に「1792 Small Batch」へのブランド更新に伴い再パッケージ化され、ボトルのネックに巻かれていた布切れがワインレッドの紙になり、コルクキャップが金ぴかになり、ロゴデザインのマイナーチェンジが施されます。
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もともとは、バートン蒸留所の誇る29の熟成庫のうち、崖の上に建ち空気循環が良好で陽当たりの良い伝説的な「Warehouse Z(ウェアハウス・ズィー)」で熟成された樽からのみ造られ、ラベルにもそう記載されていたのですが、NASとなった時なのか「1792スモールバッチ」となった時なのか判りませんが、とにかく現在では「Warehouse Z」の文字はありません。おそらく、需要の高まりで一つの倉庫だけでは賄えなくなり、他の倉庫からも出来の良い原酒を選んで造るようになったのだと思います。8年熟成でなくなったのも多分同じ理由で、例えば6年熟成原酒も混ぜるようになったとかそういうことではないでしょうか。いずれにせよレシピは同じで、コーン75%/ライ15%/モルテッドバーリー10%のハイ・ライ・バーボン(**)です。

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さて、そこで今回は発売時期の異なる二つの1792を飲み較べしてみようという訳でして。目視での色の違いは殆どないように感じますが、強いて言うと微妙にリッジモントの方が濃いかな。

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1792 Ridgemont Reserve 8 Years 93.7 Proof
年式不明、推定2010年前後。リムーバー、カラメライズドシュガー、チャードオーク、オレンジピール、焼きトウモロコシ、濃く淹れた紅茶、ビスケット、ビターチョコ。口当たりは滑らか。こちらのほうが甘い。余韻は香ばしい焦樽と豊かな穀物。ハイライマッシュの割にはフルーツ感があまりなく、取り立ててスパイシーとも思えない。と言うより、あまりにリムーバー様の香りが濃密過ぎて他の香りが取りづらいように感じるし、余韻にもリムーバーが出るのだが、焦がしたオークの香り高さと相俟って悪くない、いや、むしろそれが旨い。
Rating:86.5/100

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1972 SMALL BATCH NAS 93.7 Proof
年式不明、推定2017年? 焦げ樽、ヴァニラアイスのシナモンパウダーがけ、焼きトウモロコシ、ホワイトペッパー、シンナー、メロン味のラムネ菓子、チョコバナナ、ココアウエハース。こちらも溶剤臭はあるが、リッジモントに較べると薄く、ヴァニラとスパイス中心のアロマ。口当たりは中庸、とろりともせず、ゆる過ぎず、スムーズ。飲み口は仄かな甘みがありつつスパイシー。余韻はスパイスと豊かな穀物。こちらのほうがアルコール刺激が強め。フルーツ感はあまり感じない。
Rating:86/100

Verdict:続けて飲むとかなりの違いを感じます。それでいて両者に共通する穀物のアンダートーンもあり、口当たりもほぼ同じですが、リッジモントのほうがよりディープかつリッチな味わいをもち、甘く香り付けしたリムーバーそっくりの風味が個人的にはツボだったので、勝ちと判定しました。けれど、1792スモールバッチがだいぶ劣るかと言うとそうでもなく、モロな溶剤系の臭いが苦手で、スパイシーヴァニラ系が好きな方はこちらを選ぶかも知れません。現に海外の有名なレビュワーでリッジモントを随分と低く採点している方もいました。どちらにしても、同蒸留所のエントリークラスバーボンであるケンタッキージェントルマンやケンタッキータヴァーンとは、余韻の穀物感が似ている程度で、もはや別物と言っていいほど旨いです。


*ウッドフォード・リザーブとオールド・フォレスターはマッシュビル(コーン72%/ライ18%/モルテッドバーリー10%)とイーストを共有するとされます。初期のウッドフォード・リザーヴは、ラブロー&グラハム蒸留所(現ウッドフォード・リザーヴ蒸留所)が稼働したばかりで、原酒の熟成には6年ほど熟成期間が必要なため、2003年5月まではルイヴィル(DSP-KY-354)で蒸留して熟成した選び抜かれた原酒をヴァーセイルス(DSP-KY-52)まで運び、更にエイジングさせたものをボトリングして販売していました。後には両方の原酒をブレンドしたものに変更されています。

**同シリーズの「High Rye」はもっとライ麦率が高いレシピです。ハイ・ライは法的定義のない用語なので、スタンダードな1792でもハイ・ライと言っても問題ありません。当時のマスターディスティラーであるケン・ピアースも自らハイ・ライだと語っていました。

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ワイルドターキー レアブリードは、6年と8年と12年熟成の原酒をブレンドし、加水なしでボトリングした所謂バレルプルーフバーボンとして知られています。そのためバッチごとにボトリングの度数に僅かな変動があります。日本ではお馴染みの8年101より格上、12年や13年といった長期熟成物よりは格下という位置付けの製品で、91年の発売以来長いこと継続して販売されており、バレルプルーフの製品としては比較的安価なのが人気の秘訣でしょうか。
昔は輸出用ラベルの「1855リザーヴ」というのもありましたが、これはレアブリードと概ね同じと見做していい物です。おそらく、ファースト・ロット以外はプルーフを共有するので、中身は同一のバッチングに由来すると思われます。或るバーボンマニアの方がレアブリードのリストを作成していたので、それを基に以下に纏めさせて頂きましょう。左から順に生産年、ラベル名、バッチナンバー、プルーフです。

1991 / Rare Breed / W-T-01-91 / 109.6
1991 / Rare Breed / W-T-02-91 / 110
1992 / 1855 Reserve / W-T-10-92 / 110.0
1993 / Rare Breed / W-T-01-93 / 110.8
1993 / Rare Breed / W-T-02-93 / unknown
1993 / Rare Breed / W-T-03-93 / 111.4
1994 / Rare Breed / W-T-01-94 / 112.2
1994 / 1855 Reserve / W-T-01-94 / 112.2
1994 / Rare Breed / W-T-02-94 / 109.6
1994 / 1855 Reserve / W-T-02-94 / 109.6
1995 / Rare Breed / W-T-01-95 / 109
1995 / 1855 Reserve / W-T-01-95 / 109
1995 / Rare Breed / W-T-02-95 / 109
1996 / Rare Breed / W-T-01-96 / 108.8
1996 / 1855 Reserve / W-T-01-96 / 108.8
1997 / Rare Breed / W-T-01-97 / 108.6
1999 / Rare Breed / W-T-01-99 / 108.4
2003 / Rare Breed / WT-03RB / 108.2
2015 / Rare Breed / ーーーー / 112.8
2017 / Rare Breed / ーーーー / 116.8

ラベルの変遷はざっくり下のような感じになります。
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少し言葉で補足しておくと、リストや画像で判る通り「1855リザーヴ」は96年で廃止となりレアブリードに一本化されました。そして2015年リリースの物(金ピカの筒に入ったやつ)からはバッチナンバーがなくなり今に至ります。これらはバッチナンバーで呼ぶわけにいかないので「112.8は○○だね、116.8は□□だよ」のようにプルーフの数値でその個体を指します。また、よく判らないのがWT01-99の生産期間でして、海外のレヴューやボトルの紹介を見ると2004年ボトリングとされる物が散見されるのです。私の理解ではWT03RBの「03」は2003年のことだと思っていたのですが、もしWT01-99が2004年まで生産されていたとすると、WT03RBは2005年から発売なのかも知れません。一応、上のリストではWT03RBは2003年ということにしておきましたが、誰かここら辺の事情をご存知の方はコメントからご教示頂けると助かります(※追記あり)。
それはさて措き、レアブリードのバッチの中でも取り分け異質なのがWT03RBです。このバッチだけが2014年春に終了となるまで約10年に渡って流通していました。そのため、とんでもない量のバッチングされたバーボンを巨大なステンレスタンクか何かに保管していたのではないか、との疑いがあったのですが、マスターディスティラー エディ・ラッセルの息子ブルース氏によるとそうではないとのことです。ワイルドターキー蒸留所は比較的ロウ・プルーフのバレル・エントリー・プルーフで知られていますが、このWT03RBが発売されていた期間中、二回ほどより高いエントリー・プルーフへと変更されています。それは2004年にそれまでの107プルーフから110プルーフとなり、続いて2006年には115プルーフとなりました。この変更は風味プロファイルに変化を生じさせるでしょう。そのためWT03RBは生産年ロットによって原酒の配合比率を少し変えることで風味を一定にしているとブルース氏は語っています。例えば、或るロットは他のロットより8年の比率が多い等。そしてそれを、おそらく少量の加水で108.2プルーフぴったりに調整したのだと思われます(※規則上、少量の加水をしてもバレルプルーフを名乗ることが出来ます)。外国のターキーマニアでWT03RBの生産年ロット違いを飲み較べした方によると、風味に若干の違いはあるものの概ね似た同等レべルの物になっているようです。マスターディスティラー以下テイスターやブレンダーの驚異の仕事と言わざるを得ませんね。

さて、今回はWT03RBとWT01-99の飲み較べをしたいと思います。目視での色の違いは感じられません。
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WILD TURKEY Rare Breed 108.2 Proof
BATCH No. WT-03RB
推定2011年ボトリング。並行輸入品。香ばしい樽香、ヴァニラ、バターポップコーン、ナツメグ、微かなチェリー、塩、ビオフェルミン。こちらのほうがとろりとした口当たりで、やや甘い。口の中ではペッパースパイスが踊る。余韻はターキーらしい焦げたウッディネス。
Rating:86.5/100

WILD TURKEY Rare Breed 108.4 Proof
BATCH No. W-T-01-99
推定2001年? ロット番号はL0261031。正規輸入品。シナモンの入った焼き菓子、ペッパー、マロン、ピスタチオ、蜂蜜、オレンジ、バター、コーンチップス、強いて言うと焼いたパイナップル。こちらのほうがさっぱりした口当たりで、やや酸味がある。口中と余韻に豊かなスパイス。
Rating:86.75/100

Verdict:続けて飲めば明らかな違いは感じるものの、どちらもレアブリードだなあという味に収まっていると思います。実は海外のバーボンマニアの評価はWT01-99の方が圧倒的に高いのですが、個人的にはそこまで大差はない印象でした。流石にWT03RBもジミー・ラッセルがフェイヴァリットと言うだけあって負けてるとは思えません。確かに、どうしてもどちらかを選ぶのなら、アロマが若干強く、テクスチャーは軽いもののフルーツ感とスパイス感に勝るWT01-99の方に軍配を上げます。

Thought:バレルプルーフにしてはやや深みに欠ける味わいに感じました。私の嗅覚と味覚ごときではアーシーなフィーリングやカビっぽさ、また香水のようなフローラルや赤い果実感といった「美味しいターキー」の諸要素もあまり感じ取ることが出来ません。8年101と比較すれば、断然ナッティな香ばしさが強く、オイリーなマウスフィールもあります。けれどバレルプルーフだから風味が複雑かと言うと期待するほどでもなく、出来の良い時期の8年101には負けている気が…。なによりパレートとフィニッシュがドライ過ぎる嫌いがあり、なんとなく6年熟成原酒の割合が多いのではないかと想像します。それに12年熟成原酒の比率はだいぶ低いのではないでしょうか? 例えば20%以下とか、もっと? 或いは価格から考えて、シングルバレルやヴェリースモールバッチ(*)に選ばれなかった樽から造られているとすれば、シュガーバレルの混和率が低いのも当然なのかも知れません。飲んだことのある皆さんの意見を伺いたいですね。

Value:上で否定的と取られかねない言いっぷりをしてしまいましたが、私はターキー好きであり、お薦めなのかお薦めじゃないのかで言ったら、そりゃお薦めです。レアブリードはバレルプルーフバーボンの中でも入手のしやすさと安さでは一番ですから(**)。ただし、今回飲んだバッチは少し古いものです。それほど希少性はなくとも現行製品のようにどこでも売ってる訳ではありません。定価(と言うのか希望小売価格と言うのか)と同程度であれば二次流通市場で購入する価値はあると思いますが、付加価値を支払うほどではないというのが私の意見です。

追記:その後に得た情報では、やはりWT01-99は2004年まで発売されていたようです。そしてWT03RBは2004年から発売され、一年間だけコルクの周りがブラック・ラップで、そのあとクリア・ラップに変更されています。
また、私の表と画像では112.8を2015年、116.8を2017年としていますが、アメリカではそれぞれ2014年と2016年とされていました。


*ワイルドターキーの通常品は1500樽前後のバッチング、スモールバッチは150~200樽、ヴェリースモールバッチは20~30樽程度との情報がありました。おそらくレアブリードはスモールバッチではないかと思われます。

**すみません、オールドグランダッド114があるのを忘れて書いてます。

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アーリータイムズは日本では抜群の知名度を誇るバーボンですが、アメリカでは「バーボン」ではなく「ケンタッキーウィスキー」として販売されています(*)。古樽で熟成された原酒が20%使用されているためバーボンを名乗れないのです。ラベルも日本人に馴染みのあるあのイエローラベルではありません。どちらかと言えばブラウンラベルに似た色合いです。ブラウンラベルは日本限定の製品であり、96年から販売されました。当時のブラウン=フォーマンのマスターディスティラーで「アロマの神様」と謳われたリンカーン・ヘンダーソン(**)が製品開発に尽力したそうです。
では、この2つのラベルの違いというか中身の違いは何なのかと言うと、現在日本での販売を受け持つアサヒの公式サイトによれば、マッシュビル、イースト菌、サワーマッシュの配分、チャコールフィルターの回数と種類まで、かなりの違いがあります。個人的に注目したのはそのマッシュビルです。

イエローラベルはコーン79%、ライ麦11%、大麦モルト10%。
ブラウンラベルはコーン72%、ライ麦18%、大麦モルト10%。

これはロウ・ライ・マッシュビルとハイ・ライ・マッシュビルの違いに相当するほどの差です。フレイヴァー・グレインであるライ麦の比率がこれだけ違うのならば、アーリータイムズとは全く違う銘柄を造り上げてもおかしくはなかった。現にバッファロートレース蒸留所ではライ麦率のロウとハイの違いで幾つかのブランドを造り分けています。ましてやイースト菌とサワーマッシュとチャコールフィルターまで違いがあると言うのだからよっぽどです。しかし、別のブランドは産まれず、アーリータイムズの兄弟が産まれたのでした。ブラウンラベルの説明をアサヒのサイトから引用しましょう。
「ココナッツの皮をベースにし活性炭でろ過する過程はどちらも同じ。アーリータイムズの飲み口のよさはここから生まれます。さらに、私たちが飲んでいるブラウンラベルになるにはもう一工程足されます。
イエローラベルとして造られた原酒とブラウンラベルとして造られた原酒を混ぜ合わせ、味わいを軽く、香りを高く仕上げます。
その上でピートをベースにした活性炭で再度ろ過。味わいをさらに磨き上げることで、あのスムースでコクの深い味わいができあがるのです。」

ここで注目なのは「イエローラベルとして造られた原酒とブラウンラベルとして造られた原酒を混ぜ合わせ」というくだりです(その比率は一説にはイエロー70%ブラウン30%と聞きます)。アーリータイムズを造っているプラント(DSP-KY-354)では、ブラウン=フォーマンの誇るもう一方の銘酒オールドフォレスターも造っています。そのオールドフォレスターのマッシュビルがコーン72%/ライ麦18%/大麦モルト10%なのです。
これは私の想像なのですが、もしかするとブラウンラベルの正体はアーリータイムズ原酒にオールドフォレスター原酒をブレンドしたものなのではないでしょうか?  イエローラベルとブラウンラベルは日本での販売価格は共に同じであり、1200円前後で買えてしまう「良心的で安定のバーボン」です。なのにブラウンラベルは随分と手間暇がかかってるように見える。最終的な小売価格でもう500円くらいは高くてもよさそうに感じる。しかし、そうはならなかった。これはビジネス上のサーヴィスと考えるよりは、ブラウンラベルを構成する諸要素がそれほどコストをかけずに出来る、と考えたほうが自然な気がするのです。何かの本かウェブサイトか忘れましたが、アーリータイムズとオールドフォレスターでは使用する酵母が違うという情報を目にしたことがあります。それが真実なら、イエローとブラウンの酵母は違うと言うのだから、ブラウンにオールドフォレスターの酵母を使ってる可能性もあるのではないでしょうか?  そしてマッシュビルもオールドフォレスターと同じなら、それはオールドフォレスターじゃないですか……と、あくまで私の想像というか妄想でしかないことを書き連ねてしまいました……そろそろイエロー対ブラウンの対決に移りましょう。

EARLY TIMES Yellow Label 80 Proof
80プルーフの割りに色が濃く、キャラメル香もオークの風味も効いている。ブラウンシュガーライクな甘み。口に含むと円やかではあるが、やや水っぽい印象を受ける。それほどフルーツ感はないが、強いて言えばバナナ。余韻に、個人的には好ましくない風味を感じる(***)。それが何なのかわからないが。
Rating:76/100

EARLY TIMES Brown Label 80 Proof
イエローに較べより華やいだ香り。キャラメルやオークの風味が効いてるのは同じだが、飲み口には明らかにライ麦の影響を感じさせる。ブラウンシュガーにフレッシュフルーツが少し混じる感じ。円やかで水っぽいのも同じ。余韻は短いが、イエローにあった嫌な風味は気にならない。
Rating:78/100

Verdict:個人的にはブラウンの圧勝でした。私がハイ・ライ・マッシュビルが好みなので当然と言えば当然かな。イエローが好みという意見も聞きますから、詰まるところコーンの甘さを取るかライのフルーティーさを取るかの選択なのかも知れません。どちらも価格の優れたバーボンです。


*近年では群青色のラベルでボトルド・イン・ボンドのアーリータイムズが本国で発売されました。遡ると「354」という上位ラインのストレートバーボンもありました。更に遡ればスタンダードな物もストレート規格でした。

**ヘンダーソン氏はウッドフォード・リザーヴの立ち上げやジェントルマン・ジャック(JDの親会社はBrown-Forman)の商品開発、昨今ではエンジェルズ・エンヴィを造り上げたバーボン業界の伝説の方で2013年に75歳で死去されました。

***この風味は開封から一年ぐらい放置しておくと消えます。

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