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嘗てアメリカのウィスキーに使用される有力な穀物だったライを本来の高みへ戻すためにリデンプション・ブランドは始まりました。ライは長い間、アメリカン・ウィスキーの世界に於いてコーンに匹敵するかそれを上回る穀物の地位に君臨していましたが、禁酒法の影響から廃れてしまい、他の蒸溜酒のようには回復することが出来ませんでした。しかし、ここ10数年で様相は一変しました。ライ・ウィスキーの売上は大きく伸び、今、復権を謳歌しています。そうした過程の中で「リデンプション」は急速に評価を築いたブランドです。ブランド自体の紹介は、過去に投稿した記事でしていますので、そちらを参照して下さい。

リデンプション・ウィスキーには、リデンプション・ライ、リデンプション・バーボン、リデンプション・ハイライ・バーボンという3つの主要なセレクションがあります。リデンプションの特徴として4年未満のスピリッツにも力を入れていることが挙げられ、これらはどれも平均2.5年熟成とされる若いウィスキーです。他にも長熟や追加熟成を施したもの、或いはウィーテッド・レシピのものなど様々な製品展開がありますが、スタンダードなのはこの三つと見てよいでしょう。リデンプションの名声は確実にライ・ウィスキーによって齎されましたが、現在の薬瓶スタイルのボトル(*)になる前のスタイリッシュなトールボトルの頃からバーボンもリリースしていました。そこで今回はマッシュビルの少し異なる二つのバーボンを取り上げます。

ライと同様、バーボンもインディアナ州ローレンスバーグの有名なMGP(現在ロス&スクィブ蒸溜所とも名乗る)から調達して造られています。MGPはアメリカのライ市場の80%以上を生産していると目される元シーグラムの蒸溜所。数多のNDPやクラフト・ディスティラリーにも最高級のウィスキーを提供するこの蒸溜所には多くのレシピがあり、有名なのはライ麦が95%のレシピですが、それだけに留まらずバーボン・レシピも当然ながらある訳です。
幸いなことに判り易くマッシュビルの情報はラベルに記載されています。「バーボン」はコーン75%、ライ21%、バーリーモルト4%です。別に「ライ」と「ハイ・ライ」があるのだから、通常のバーボンには対照的にライ麦を控えたロウ・ライのレシピを使用しているのではないかと思ってしまいそうですが、リデンプション・バーボンのライ麦の含有量は業界水準より高めです。実のところ"ハイ・ライ"という用語は法律で定められていないため明確な基準がありません。ロウ・ライ(またはハイ・コーン)のレシピはライが10%以下であることが多いため、15〜18%のライ麦率でもハイ・ライと言われる場合もあったりします。従って、この通常のバーボンをハイ・ライとして販売することも可能なのですが、リデンプションはライを前面に押し出したブランドのため、21%でもハイ・ライを名乗らないのです。
一方の「ハイライ・バーボン」はと言うと、コーン60%、ライ36%、バーリーモルト4%のマッシュビルを使用しています。アメリカン・ウィスキー愛好家は、これらの原料の構成を見てすぐにフォアローゼズの二つのマッシュビルとの類似に気づくでしょう。フォアローゼズのEマッシュビル(75%コーン/20%ライ/5%モルテッドバーリー)及びBマッシュビル(60%コーン/35%ライ/5%モルテッドバーリー)とはライとモルトが1%づつしか変わりません。マッシュビルは使用されるモルトの量によって僅かに変動する可能性があるので、実質的にMGPとフォアローゼスは同じマッシュビルを使っていることになります。実際、リデンプション初期のトールボトルのラベルには、バーボン(旧名テンプテーション)では「20%プレミアム・ライ、5%バーリーモルト、75%コーン」と書かれてフォアローゼズのEマッシュビルと一致し、ハイライ・バーボンでは「38.2%プレミアム・ライ、1.8%バーリーモルト、60%コーン」とマッシュの変動が細かく記されていました。
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インディアナ州ローレンスバーグのジョセフEシーグラム蒸溜所(現MGPプラント)とケンタッキー州ローレンスバーグのオールド・プレンティス蒸溜所(現フォアローゼズ蒸溜所)は共に嘗てシーグラムが所有していた歴史があります。二つの蒸溜所は、シーグラムの品質管理チームが互いのイースト・ストレインをテストしたり、またそれらを共有していました。基本的にフォアローゼズが使用しているイーストはインディアナの蒸溜所でも大体使用できるらしく、フォアローゼズのイーストは「V、K、O、Q、F」、MGPのイーストは「V、K、O 、Q、S(ライト・ウィスキーに使われる)」とされます。シーグラム時代に考案されたレシピの略語は今でも使われ、例えばフォアローゼズで「OESV」と呼ばれるレシピは、インディアナ州の蒸溜所では「LESV」と呼ばるそう。一文字目の「O」はフォローゼズの旧称オールド・プレンティスを表し、「L」はインディアナ州ローレンスバーグの施設を示します。二文字目はマッシュビルを意味し、フォアローゼズで「E」や「B」と呼ばれるものはMGPでも「E」や「B」な訳です。ちなみに、MGPの95%ライ/5%バーリーモルトのライ・ウィスキーは「Q」、 80%コーン/15%ライ/5%バーリーモルトのコーン・ウィスキーは「C」、99%コーン/1%バーリーモルトのマッシュビルは「D」の略号が与えられています。MGPには他にも以下のような6種類のマッシュビルがあります。
◆バーボン(51%コーン/45%ウィート/4%バーリーモルト)
◆バーボン(51%コーン/49%バーリーモルト)
◆ライ・ウィスキー(51%ライ/49%バーリーモルト)
◆ライ・ウィスキー(51%ライ/45%コーン/4%バーリーモルト)
◆ウィート・ウィスキー(95%ウィート/5%バーリーモルト)
◆モルト・ウィスキー(100%バーリーモルト)

奇しくも同名であるローレンスバーグの二つの蒸溜所の類似点は他にもあり、両者は原料のライ麦を主にドイツの同じ生産者から仕入れているだろうと推測されています。シーグラムの科学者達は最高のスピリッツを造るために常にテストを繰り返し、北米産のライ麦に較べてドイツで栽培される特定のライ麦種が自分達のイーストにとってベストなマッシュを生むと確信しました。また彼らは、一貫して豊かなフレイヴァー・プロファイルを実現するために、120のバレル・エントリー・プルーフを採用しました。現在でもフォアローゼズとMGPはそうしています。そして、フォアローゼズの熟成倉庫は温度差の少ない平屋建てで知られていますが、MGPの熟成倉庫も亦、平屋造りではないものの壁面が煉瓦造りで各フロアはコンクリートの床と天井で区切られており、多くのケンタッキー州のリックハウスと較べると各階は一定の温度と湿度が維持され、庫内の場所に関係なく各バレルを同じように熟成させる哲学で設計されています。

偖て、話が若干逸れたのでリデンプションに戻すと…今回私が飲んだ「バーボン」は84プルーフで瓶詰めされています。リデンプション・バーボンをネットで調べると、88プルーフの物がけっこうな割合で見つかりました。販売地域によりプルーフに差を付けているのか、もしくは或る時からボトリングするプルーフを上げたのかも知れません。もし後者なら、そのうち日本に入って来る物も88プルーフになるのかも?
先述のように、リデンプションのスタンダードな物は熟成年数の短いウィスキーです。ブランド・アンバサダーのジョー・リッグスは、より少ない熟成で成熟した風味を生み出す「全く新しいディスティリング・プロセス」に取り組んでいると述べていましたが、一体どのようなものなのか具体的には良く分かりません。取り敢えず、これらの若いバーボンを味わってみましょう。

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REDEMPTION BOURBON 84 Proof
Batch No. 026
推定2020年ボトリング。淡いブラウン。焦がした木材、穀物、ペッパー、ライスパイス、薄いキャラメル、ミント、よく言ってアップル、ピーナッツ、エタノール、鉛筆。ノーズは甘さのあまりない爽やかな穀物と木材の香り。ややとろみのある口当り。パレートでは、ほんのり甘いがピリピリ感も。余韻は短く、ドライさの中にライっぽさが少し顔を覗かせる。
Rating:79/100

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REDENPTION High Rye Bourbon 92 Proof
BATCH No. 120
推定2020年もしくは2021年ボトリング。淡いブラウン。トーストした木材、グレイン、ライスパイス、シュガー、ペッパー、種のお菓子、僅かなドライフルーツ、グリーンアップル、若草。アロマはスパイシー。ややとろみのある口当り。パレートは青い果実とスパイスが感じ易い。余韻はややドライであまり甘くない穀物とライの爽やかな苦味が残る。
Rating:82.5/100

Thought:バーボンの方は、流石にもうちょっと熟成したほうがいいなぁという感想でした。円みも僅かに出て来ているのですが、味わいも余韻もちょっと平坦で、もう4年熟成させたら凄く美味しくなりそうな予感で終わります。海外の方でメロウコーンを思い出すと言ってる方がいましたが、個人的にはそこまで「メロウ」とは思いませんでした。ライ麦21%はバーボンとしては多い方ですが、私には香りからライやベーキングスパイスの存在を見つけるのは難しく、味わいも「ライ」にあったシトラスやグリーンリーフのフレイヴァーはあまり感じられません。基本的にグレイン・フォワードなバーボンで、よく言えば甘いシリアルのような味わいとは言えます。
ハイライ・バーボンの方は、スパイスと甘さのバランスがちょうど良く、だいぶ美味しく感じました。なんか嘘みたいにリデンプションのバーボンとライ・ウィスキーを混ぜたような中間の風味がします。ただ、何故か甘いアロマは最も弱く感じました。以前に飲んだライ・ウィスキーを含めて三つのラインナップで見た時に、私個人の趣味としては見事なまでにライ麦含有量が高い順に旨く感じます。ライ、ハイライ・バーボン、バーボンの順に自分好みのシトラスやディルの風味が感じ易いのです。「結局、お前がライ・ウィスキー好きなだけやろ」と言うツッコミには、はい、その通りですと言うしかありません。けれどもバーボンよりライの方が短期の熟成で美味しくなるというコンセンサスはある程度はあり、それがこの結果となっている気もします。
両者を比較して、キャラを強調して言うと、バーボンはナッティ寄り、ハイ・ライはフルーティ寄りでしょうか。余談ですが、これらのウィスキーはテイスティング・グラスで飲むとちっとも美味しくなく、ショットグラスかラッパ飲みだとなかなか美味しかったです。これは若いウィスキーによく見られる傾向かなと個人的には思っています。最後に、以前レヴューしたライを含めた3つのクラシックなリデンプション・ウイスキーのセレクションを総評すると、基本的にカクテルに使用するために造られてる気はしますが、どれも若い割には粘度が高く、ニートで飲んでも十分美味しいです(特にライとハイ・ライ)。但し、もう少し樽熟成が長ければ、もっと素晴らしいものになるでしょう。そして問題は価格…。

Value:販売地域によって変わりますが、バーボンもハイライ・バーボンもアメリカでは25〜30ドル程度の場合が多いようです。ところが日本ではバーボンは3000円程度なのですが、ハイ・ライ及びライ・ウィスキーは何故か5000円程度します。熟成年数の短さを考慮すると、これは痛い。正直、コスパは良くないです。「バーボン」なら大手の蒸溜所がリリースしてるスタンダードな製品の方が安い上に旨く感じてしまうし、「ライ」ならテンプルトンの4年熟成の方が安いのです。「ハイ・ライ」に関しては、MGPのハイライ・レシピ原酒の中で日本では比較的入手し易いという利点はあるかも知れません。ブランドのイメージやボトルのデザインが好きとか、敢えてヤンガー・ウィスキーを好む方にはオススメします。ですが、私はこの値段なら再度の購入はしないかな…ごめんなさい。


*2023年3月にニューボトルになることが発表されました。なので本文中で「現在の〜」と言っているボトルは、新しいボトルにリニューアル後は一つ前のものとなります。ディアジオからブレットのボトルに似ていると訴えられたのが理由で変更したのかも知れませんね。


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リデンプション・ライは現代のライ・ウィスキー復活をリードしたブランドの一つです。英語の「Redemption」は「償還、救済、贖う、買い戻し」等の意味の言葉であり、ライ・ウィスキーを本来の場所に戻すという目的を持って創始されました。1700〜1800年代には、ライ・ウィスキーはアメリカでナンバーワンのスピリットだったとされます。その時代、ライ麦は豊富に獲れ、美味しいウィスキーが造られていました。しかし、禁酒法の制定はライ・ウィスキーを造る蒸留所を閉鎖に追い込み、禁酒法解禁後もバーボンのように復活することはなく、ライは殆ど忘れられた存在となっていました。ところが近年、クラフト・カクテルのバーテンダーやコンシューマーがその大胆でスパイシーなキャラクターを再発見するにつれて、ライ・ウィスキーは見事な復興を遂げたのです。

「リデンプション」はスピリッツ業界では比較的新しい名前です。2009年頃、蒸留酒ビジネスのヴェテランであるデイヴ・シュミエとマイケル・カンバーの二人は市場でのライ・ウィスキーへの関心の高まりに気づきました。主にカクテルに使用されるライ・ウィスキーは、殆どのバーボンではちょっと匹敵することが出来ないスパイシーな風味を提供します。そこで彼らはライ・ウィスキーやライ麦含有量の高いバーボンを製造するビジネスに参入することを決め、リデンプションは誕生しました。創設者が紡いだ伝承によると、リデンプション・ライは偶然に生まれたもので、インディアナ州ローレンスバーグの倉庫でライ・ウイスキー・バレルの貯蔵物を発見した時に、これなら古典的なアメリカン・スピリッツを完璧に表現することが出来ると確信した、と言います。シュミエとカンバーはそうしたLDI(ローレンスバーグ・ディスティラーズ・インディアナ=現在のMGPのこと)で出会った良質のウィスキーをボトリングするために、2010年にバーズタウン・バレル・セレクションズを開始、そこで数樽から始めて自身のラベルを作りました。そして、シュミエはリデンプションのためのブレンドを造り上げます。その目標は、バランスを重視し、親しみやすく、なおカクテルの中で立ち上がるのに十分に高いプルーフを持ち、勁いフレイヴァーを備えたものにすることでした。それはニートやロックでも然りです。結果、リデンプションは92プルーフに落ち着きました。
ちょっとリデンプションから話は逸れますが、ここで創始者についてもう少し。

デイヴ・シュミエはダイナミック・ビヴァレッジズの社長です。彼はリデンプション・ブランドで名を馳せた後、プルーフ・アンド・ウッド・ヴェンチャーズを設立し、現在では「ザ・アンバサダー」や「ザ・セネター」、「デッドウッド」のシリーズ、「タンブリング・ダイス・バーボン」や「ルーレット・ライ」等を発売しています。またシュミエは、2005年からニューヨークで始まり、現在では米国中の様々な都市で開催されている、マイクロ・ディスティラリー等のスモールバッチなクラフト・スピリッツだけ出展される展示会「インディ・スピリッツ・エクスポ」のディレクターでもあります。

もう1人のパートナー、マイケル・カンバーはストロング・スピリッツのオウナーです。彼の叔父は有名なスカイウォッカ(SKYY VODKA)の創業者であるモーリス・カンバー。ストロング・スピリッツは、ニューヨークはマンハッタン出身のカンバーが自分のブランドをボトリングするために2006年からスタートした、少量注文に焦点を当てたパッケージャー兼コントラクト・ボトリング会社です。彼らはパートナー・ボトラーとして他のボトラーのシャットダウンや遅延に起因するギャップを埋めたり、小ロットの生産を優先し、スケジュールから外れるような予期せぬ緊急事態に対応したりするバックアップ・ボトラーとしての役割も受け待ちます。
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カンバーはリデンプションの前に、自身のバーボンブランドである「80ストロング」の開発を試みましたが大きな成功は得れませんでした。80ストロングはブロンドヘアーのピンナップガール風のイラストが描かれたラベルが特徴のバーボン。カンバーは「これを造ろうとした時、本当にプレミアムなバーボンを、ホットな新しいパッケージに入れたかったんだ」と語っています。「私はバートンのスノーボード、ハーリー・デイヴィッドソンのモーターサイクル、フェンダーのストラトキャスターみたいに気取らずクールに見えて、しかも製造に妥協のない製品にいつも惹かれていたからね。そこで、そのコンセプトを80ストロングに応用した訳さ」と。それはケンタッキー州バーズタウンで蒸留、熟成、瓶詰めされたスモールバッチのオーセンティックなケンタッキー・ストレート・バーボン・ウィスキーでした。中身は4〜6年熟成のバーボンのブレンドだそうで、原酒はヘヴンヒルと見られています。ラベルには「プレミアム」という言葉のスタンプがデザインされていましたが、バーボンを普段飲まない人を対象としているように見えるポップなラベルであること、またスペックや80プルーフで21ドル程度だったことを考えると、実際にはプレミアム感は構築できていなかったと思います。
カンバーは叔父モーリスのスカイウォッカの成功を直に見ており、80ストロングの失敗の後もまだスピリッツ・ブランドの開発に熱心でした。けれども、過去の経験からブランドを市場に出すことがどれほど困難で費用が掛かるかも知っていました。だから、なるべく小規模なことから始めたかったのです。当時、彼はテスト・マーケットを開拓できるような20ケース(通常1ケース、750mlボトル12本)を実行してくれるボトラーを必要としていました。しかし、彼が見つけたボトラーの最小ロットは約3500ケースでした。それはカンバーにとって、その時点では考えられない投資でした。そこで、少量生産をしてくれるボトラーを見つけることが出来なかった彼は自身の製品を自らボトリングすることを決意します。
カンバーはその頃はまだニューヨークに住んでいましたが、バーズタウンを知っていました。それは80ストロングを開発しようとした時にロレット・ロードにあるケンタッキー・バーボン・ディスティラーズ(KBD=現ウィレット蒸留所)と契約していたからでした。彼はその間に業界や地域の人々と知り合いになり、バーズタウンという地名の持つ信頼性から会社をそこに置きたいと望みました。問題は政府の許可を得るために事前に機材を持っていなければならないことでした。そこで彼は、現在のバートン1792蒸留所の物流倉庫の一角を借り、40リットルのタンクと他の幾つかの寄せ集めで自作したボトリング・キットを設置しました。そして機材の写真を撮り、許可を申請したところ、驚いたことに承認されたのです。
カンバーがDSPライセンスを取得すると間もなくして、彼と同じく小規模生産を求めていた独立系ブランドから連絡を受けるようになりました。彼の運営が広まるにつれ200〜300ケースの注文が殺到したと言います。カンバーの事業は十分に成長し、2011年6月には創業時の建物の向かい側にある10万平方フィートの建物を購入しました。その契約ボトリングのための施設は、世界に冠たるバーボン首都バーズタウンのウィズロウ・コートにあります。ストロング・スピリッツの契約の多くには秘密保持が含まれているので全ては明かされていませんが、彼らがボトリングしている物には近年その名を上げているブランドが多数あります。有名なところではケンタッキー・アウルとか、昨今のアライド・ロマーのブランドもプリザヴェーション蒸留所にボトリング施設がないのなら多分ストロング・スピリッツを利用しているでしょう。あとは先述のシュミエのブランドも関係上ここでのボトリングです。

偖て、そろそろリデンプションの話に戻ります。NDP(非蒸留業者)のソーシング・ウィスキーには疑わしいバックストーリーも横行する中にあって、リデンプション・ブランドはそのウィスキーの出自を怪しげなマーケティングで飾りません。リデンプションは全てMGPからの調達であることを明確にしています。ブランド・アンバサダーを務めるジョー・リッグスによれば、このブランドがデイヴ・シュミエによって共同設立された時、彼は透明性を保つことによって責任のレヴェルを維持することを固く決心したそうです。MGP所有の蒸留所は、インディアナ州ローレンスバーグの川沿いの町にあり、170年以上の歴史を持ち、現在市場に出回っているライ・ウィスキー(特にNDPの製品)の推定80〜85%を生産していると目される旧シーグラムの大型蒸留所。我々消費者やバーテンダーは製品がMGPからのものであることを知れば、品質の信頼性を想像するのは難しくはないのです。
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シュミエとカンバーの事業、MGPのライ・ウィスキーをストロング・スピリッツでボトリングするビジネスは、カクテル文化の恩恵もあって、すぐに軌道に乗ります。初期の頃のリデンプションは下画像のようなラベルでした。ボトルのデザインも現行とは違い、スタンダードな物は背の高いボトルでした。ライの他にバーボンも作成されていて、語呂を合わせたのか「テンプテーション」と名付けられています。最終的にはテンプテーションは廃止され、リデンプションの名でバーボン・ヴァージョンを追加し、更に「リヴァーボート・ライ」というブランドも追加されました。
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発売以来、毎年順調に成長していたリデンプションは、ライ・ウィスキーの爆発的な需要増と相俟って寧ろ急激な成長を遂げます。「成長の方向性が見えてきたら、それに備えなければなりません」とシュミエは語ります。しかし、ウィスキーの場合、何年も先まで販売することが出来ないので、「ブランドを成長させ始める時にはかなり大きな資金協力がいります」。リデンプションの成功は良いことでしたが、バーズタウン・バレル・セレクションズのパートナー達は新しい樽に投資し続けるための資本を使い果たしました。「おかしなことに成功すればするほどお金がなくなって行くんですよ…」とシュミエ。パートナー達は出資者を探し始め、ドイチ・ファミリー・ワイン&スピリッツとの話し合いの結果、2015年にリデンプション・ブランドを含む会社全体の売却が決まります。この取引はリデンプション以外のリヴァーボート等の各ブランドに加えて、限定版のボトリング及びそれらのバレルの全在庫を対象としていました。パートナーの二人は移行を通じて暫くはドイチと協力し、その後、カンバーはバーズタウンでストロング・スピリッツを運営し続け、シュミエはエクスポを継続して新しいヴェンチャーを立ち上げて行きます。

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ドイチ・ファミリー・ワイン&スピリッツは、世界の高品質なワインを販売するために、現在の会長ビル・ドイチによって1981年に設立されました。30年以上前に二人の従業員から始まったビジネスは、今では200人を遥かに超える従業員がサーヴィスを提供する国際的な会社に成長しています。ドイチ・ファミリーのスピリッツのポートフォリオは限られていましたが、2000年代後半にスピリッツ事業に参入し、リデンプション買収の2年位前からウィスキー市場への参入を模索していたそうです。ポートフォリオにどのブランドを導入するかについては非常に厳選した、とビルの息子で同社のCEOピーター・ドイチは語っています。社長のトム・ステファンシも、リデンプションは品質、拡張性、評判、消費者にとっての価値など買収を評価する際に用いる基準を全て満たしていた、と述べています。リデンプション・ブランドの競争力は魅力だったのでしょう。同社の目標はリデンプションの主力製品の価格を個々の市場に応じてボトルあたり約28ドルに維持しつつ、最終的には全米規模のブランドとなるよう供給を拡大することでした。彼らは買収時にブランドのためのバルク・ウィスキーの長期供給契約を新たにMGPと締結しています。実際リデンプションは急速に広まり、同社のビジネスをより大きくしました。ちなみにドイチ・ファミリー・ワイン&スピリッツは、2016年にそれまでのニューヨーク州ホワイト・プレインズからコネチカット州スタンフォードに拠点を変えています(規模を大きくした)。また同社のスピリッツ部門には、リデンプションの他にビブ&タッカーやマスターソンズのブランドがあります。

ドイチ・ファミリーがリデンプションを買収してから約1年後の2016年11月から、同ブランドはボトルとラベルのデザインを一新しました。これはドイチによれば、ライの地位を固めるというブランドの使命を推進するための刷新なのだとか。社長のステファンシは「リデンプション・ウィスキーをポートフォリオに追加して以来、私たちは消費者やバーテンダーの話を聞くことに多くの時間を費やし、彼らの意見を参考にして、ライがアメリカで王様だった往年の時代からヒントを得た新しいパッケージをデザインしました。ブランドの新しい外観は、リデンプション・ウィスキーの個性をよりよく反映し、ライが持つアメリカならではの個性を表現してい」ると語っています。こうして都会的な印象を与えていたトールボトルは禁酒法以前のような伝統的なボトルに置き換えられました。ライ麦がボトルの前面にエンボス加工されており、ヒップ・フラスクのように背面が湾曲しているボトルですが、全体的にどことなく「ブレット」のボトルに似たスタイル。実際、ディアジオ(ブレットを所有している大企業)からはボトルが模倣されているとして訴訟を起こされたようです。このボトルがリリースされ続けているということはドイチは敗訴しなかったんでしょうね。
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買収された後のジュースの制作に大きな変化はないとされますが、ブレンダーは以前のデイブ・シュミエからドイチ・ファミリーのワインメーカーでもあるウェイン・ドナルドソンに代わりました。2020年頃からはデイヴ・カーペンターがマスターブレンダーの役割を担っているようです。カーペンターのウィスキーでの仕事は2012年にジムビームで始まり、2016年後半にジェプサ・クリード、そこからリデンプションに移ったみたいです。誰がブレンダーであれ、同じフレイヴァー・プロファイルの作成を目指し、ボトル(バッチ)間の一貫性は保証されているでしょう。

このブランドを有名にしたのは、おそらく、クラシックとモダン両方のカクテルに利用できる優れたベースとしての低価格なライ・ウィスキーだと思われますが、より上位のヴァリエーションやバーボンもあります。スタンダードとハイ・ライのレシピによるバーボン、限定版のウィーテッド・バーボン、毎年少量でリリースされるエイジド・バレルプルーフや流行りのフィニッシング物などです。
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更にスーパープレミアムな超長熟のライとバーボンのエンシェント・コレクションもありました。ライは1998年蒸留の18年熟成、54.95%ABV、400ドルの希望小売価格、限定600本のボトルのみ。バーボンに至っては1978年蒸留の36年熟成、94%の蒸発率で僅か18本のボトルを造るのに4バレルかかったと言われています。こちらは48.8%ABVで1200ドルの希望小売価格。まあ、手に入れるのは無理ですね…。これらは中身のジュースと同様ボトルも特別な仕様です。シルクスクリーンのライ麦のプリント、アンティーク感のあるエンブレム、革のコードで包まれたネック、そして木製のストッパーには1978年の実際のペニーが埋め込まれています。エンシェントに使用されたバレルはどちらも他のリデンプションと同じくMGPからの調達。

最後に、リデンプション・ライの中身についてもう少しだけ詳しく見ていきましょう。
リデンプション・ライは、MGPの提供するレシピの中で最も人気のある95%ライ、5%バーリーモルトのマッシュビルを使用しています。ブレットやジョージ・ディッケルのライ、その他多くのブランドに使用されているものと同じです。ボトリング・プルーフや熟成年数その他の要因によって同じマッシュビルでもブランド間で多少の違いが生じます。
ブランド・アンバサダーのリッグスへの2017年のインタヴューによれば、フラッグシップとなるスタンダードなライ・ウィスキーは、135プルーフで蒸留、バレル・エントリーは120プルーフ、ブレンドにはフレイヴァー・プロファイルに基づいて18か月から6年熟成までのウィスキーを使用し、バッチサイズは凡そ150バレルだそうです。公式の声明では平均2.5年熟成とされています。リデンプション・ライで何より特徴的なのは、明らかにMGPからもっとオールダーなジュースを購入することが出来るにも拘らず、かなりヤンガーなウィスキーを敢えて選んでいるところ。現在のマスターブレンダーであるデイヴ・カーペンターは或るインタヴューで、なぜ若い製品を選ぶのか訊ねられて、4〜7年熟成のウィスキーを出してもウィスキー文化に新しいものを加えることにはならない、我々はもっとブライトでシトラス・フォワードなものを提供するのが好ましいと思った、そしてそのような2〜3年熟成の製品はオールダー・ウィスキーが常に良いものであるという誤解を解けると考えている、というようなことを答えていました。これは個人的には好ましい考え方だと思います。
現在のリデンプションはNDP(非蒸留生産者)のソーシング・ウィスキーとしてかなり確立されたブランドであり、スタート時より資本力のある会社に所有されています。そこで我々が気になるのは自社蒸留を開始しないのか?ということですが、リッグスは上述のインタヴューで「私たちはシーグラム社で20年間働いて来た人たちよりも優れたウィスキーを造れるとは思っていません。MGPには30年来の素晴らしい蒸留チームがあります。だから、もしスティルを購入してもおそらく他の製品を造ることになるでしょう(要約)」と言っていました。これまた個人的にはベストな考えと思います。
では、飲んだ感想を少しばかり。こちらは友人からワンショット頂いての試飲となります。

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REDEMPTION Rye 92 Proof
Batch No. 260
色はゴールド寄りのブラウン。焦がした木、ライスパイス、フローラル、ピクルス、青リンゴ、キャラメル、ミント。トーストされた木材の甘い香りもありつつのスパイシーなノーズ。少しだけとろみのある口当たり。味わいはライのスパイシーさとフレッシュなフルーツ感とグリーンリーフのタッチ。液体を飲み込んだ後はけっこう刺激的。余韻はあっさりしてるが、爽やかで悪くない。
Rating:84.5/100

Thought:以前に飲んだトールボトル(レヴューはこちら)の物と劇的な変化はないように思いました。開封直後に頂いたのですが、のっけから美味しい。相変わらず、若さはあってもフレイヴァーフルで自分の好みです。強いて言うと、こちらの方がやや甘くて円やかな印象がありました。サイド・バイ・サイドではなく記憶との比較なので不確かですが…。
ところで、私が以前飲んだトールボトルのリデンプションにはストレート表記がなかったのですが、リニューアル後のラベルにはストレート表記があります。と言うか、画像検索でリデンプションを調べると、トールボトルにもストレート表記がある物があったり、新ボトルでもストレート表記なしの物が見つかりました。裏ラベルを見ると、ストレート表記がない物は「AGED NO LESS THAN ONE YEARS」と書かれ、ストレート表記のある物は「AGED NO LESS THAN TWO YEARS」と書かれているようです。もしかすると、2年熟成未満の原酒がブレンドされているバッチと、最低2年熟成以上の原酒がブレンドされているバッチでラベルを変えているのかも知れません。まあ、これは私の憶測なので聞き流して下さい。
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Value:アメリカでは大体25〜30ドルで売られています。現在の日本では某リカーショップで購入出来ますが、値段が5000円程度です。熟成年数を考えると少しお高めな気もします。いや、かなり。ですが、個人的には何故かテンプルトンやブレットよりもリデンプションの方が美味しく感じるので、ありはありかな。もう少し安いと常備ライにベストな選択となるのですが…。

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REDEMPTION RYE 92 Proof
Batch No:241
Bottle No:7099
アメリカで見事にライ人気が復活を遂げるなか、リデンプション・ライは確固たる地位を築いたブランドの一つです。名前のリデンプション(償還、救済、贖う、買い戻し)というのは、禁酒法以前にアメリカンウィスキーの主流だったライウィスキーの復権が製品コンセプトだから。と言っても、バーボンもリリースされてます。また、製品意図としてマンハッタンやオールドファッションドのベースとして提供されているようです。
現在では親会社がDeutsch Family Wine & Spiritsとなり、ボトルとラベルがリニューアルされてまして(おそらく2017年あたりから?)、画像の印象的なトールボトルは廃止となりました。中身のジュースは変わらずMGPの95%ライで、ケンタッキー州バーズタウンにあるDave SchmierとMichael Kanbarが運営するバーズタウン・バレル・セレクションズによってボトルリングされています。熟成年数は平均2.5年と言われていますが、ラベルにストレートライと書かれてないのと、裏ラベルに「Rye whiskey is less than one years」と書かれているところを見ると、おそらく1年熟成の原酒がかなり入っているのでしょう。では、テイスティングへ。

焦がした木、青リンゴ味のかき氷、芹、蜂蜜、洋梨、ライスパイス。全体に若草及びハーバルなアンダートーンが感じられる。余韻にはスパイス感と共に土っぽさも。口に含むと若い原酒のせいかピリピリするし、喉越しはかなりスパイシーだが、その刺激が心地よく、味わい的にも未熟感が却って好結果という印象。しかもビッグ・フレイヴァー。同じMGPの95%ライを使用し、似たようなスペックのエズラブルックス・ライ(※)と較べてアロマ/フレイヴァー/フィニッシュ全てに於いて強い。液体を光に透かして見ると、細かい粒子のような浮遊物がかなり見える。これはもしかするとフィルターをあまりかけていないのかも知れない。思うにアルコール度数もパーフェクト。

海外での評を見ると、ストレートで味わうには若すぎ、カクテルのベースにはオススメとする意見もありましたが、個人的にはガンガンとストレートで飲みたい味わいです。比較的安価にライ・フレイヴァーを楽しめるイチオシの一品。現行品と較べたことはありませんし、バッチ間の味の変動はあるでしょうが、少なくとも私の飲んだボトルはそうでした。
Rating:84.5/100



※ネットで調べるとエズラブルックス・ライはMGPの95%ライをソースとしているとの説明が多いのですが、当記事を書いた後にそうでない可能性が発覚しました。ですが、記録として記事内容を変更せず投稿しています。 

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