タグ:ケンタッキーストレートバーボン

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今回は、アメリカン・ブレンデッド・ウィスキーである「アーリータイムズ・ホワイト」に続き、2023年9月に新しくリリースされたケンタッキー・ストレート・バーボン規格の「アーリータイムズ・ゴールド」を飲んでみます。アーリータイムズのブランドがブラウン=フォーマンからサゼラックに移行し、ホワイト・ラベルがリリースされるまでの経緯は過去に投稿した記事を参照ください。

SNSや某社の商品レヴュー等を眺めてみると、アーリータイムズ・ホワイトは一部の人々、特にハイボールとして飲む人などからは美味しいという評価もあったものの、多くのバーボン愛好家からは少なからず不評を買ったように見えます。新しい飲酒者層は別として、流石に旧来のイエロー・ラベルを飲み、それを愛して来た人々がブレンデッド・ウィスキーに対して諸手を挙げて歓迎する筈はありませんでした。それ故にホワイトの発売直後からストレート・バーボンのアーリータイムズの復活を望む声は直ぐに上がりました。そうした声がメーカーに届いたからなのか、或いは最初からの計画通りだったのかは判りませんが、僅か一年でバーボンのアーリータイムズは販売されるようになりました。それがこのゴールドです。

では、その中身は一体なんなのでしょう? サゼラックと総代理店契約を締結している明治屋のプレス・リリースにはその中身について具体的な説明はありません。ですが、サゼラックのマスター・ブレンダーであるドリュー・メイヴィルが来日したのを機に明治屋が今年の2月28日に都内で開催した試飲セミナーのレポート記事によると、アーリータイムズのマッシュビルは従来通りコーン79%、ライ11%、モルテッドバーリー10%、そして独自酵母で発酵と書いてありました。サゼラックが2021年4月8日に発表したアーリータイムズ・ウィスキーの計画では、同年夏からケンタッキー州バーズタウンのバートン1792蒸溜所で蒸溜、熟成、ボトリングを開始、オリジナルのレシピとマッシュビルを使用して消費者に愛された同じ味わいの製品を提供し続ける、としていたので一致していますね。この独自の酵母というのが、ブラウン=フォーマンがアーリータイムズで使用していたイーストを購入しているのか、それとも単にバートン蒸溜所の他のバーボンに使用されていないイーストを指しているだけなのかは、よく判りません。まあ、そこはどちらでもいいとして、問題はゴールドに使われているバレルの熟成年数でしょう。バートンがアーリータイムズの蒸溜を始めたのが2021年夏からとすると、2023年秋にリリースされ始めたこのゴールドは、おそらく「ストレート」を名乗れる最低2年熟成と見るのが妥当だと思われます。私は上掲のホワイトに就いての記事で、2025年あたりにイエロー・ラベルのストレート・バーボンがリリースされるのではないかと「希望的観測」を書きました。そうしたら、ラベルの色が少し違ったものの、一応はストレート・バーボン規格の物がちゃんとリリースされた、と。しかし、私が希望していたのは4年熟成程度のバーボンでした。なので私としては「えっ、早いよサゼラックさん…」となりました。6年から8年、または8年から10年への熟成期間の2年間と違い、2年から4年への2年間はもっと重要な熟成期間だと個人的には思うが故に、がっかりした次第です。まあ、取り敢えず注いでみるとしましょう。

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EARLY TIMES Gold label 80 Proof
推定2023年ボトリング。ダーク・オレンジぽさのあるブラウン。清涼感を伴ったヴァニラ→キャラメル、ドライオーク、一瞬レーズン、薄っすら蜂蜜、みかん。香りはフルーティな接着剤からの洋菓子。水っぽい口当たり。味わいはグレインウィスキー然とした仄かな甘みもあるものの基本ドライで、ホワイトドッグぽさが残る。余韻はとても短くこれまたドライだが、穀物の旨味を感じる瞬間もなくはない。
Rating:74/100

Thoughts:開封直後は「なにこれ? 酷いな…」という感想でした。未熟成のスピリットにほんの少し焦げた樽の香りを付けただけのように感じたのです。もう少し時間が経つと、甘い香りも出て来てマシにはなりましたし、ホワイトドッグぼいテイストも薄らぎました。ですが、口の中や余韻では相変わらずドライな傾向が支配的で、相当注意深く探らないとフルーティさを発見することは困難でした。正直言って誉めるところが見つかりません。飲み易いと言えば飲み易いですが、それを言うなら旧来のイエローラベルはもっと飲み易かったですし、他の安いバーボンも同じくらいには飲み易いです。敢えて誉めるなら、さっぱりとした後口、すっきりとした余韻、とでもなるでしょうか。しかし、その言い方は聞こえは良いですが、換言すれば余韻に芳醇な香りが残らないと言っているに等しいです。擁護すると、最近の通常のバーボンの殆どがドライな傾向にあるとは言えますけれども。
ブラウン=フォーマン時代のアーリータイムズ・イエローラベルと比較すると、イエローの方がよりコーンの旨味とキャラメルの風味が感じられたし、もっと円やかでミルキーでした。旧来のアーリータイムズとの決定的な違いは、ブラウン=フォーマンの自社製樽由来と思われるバナナ・ノートを欠いている点かも知れません。これに関しては製造する蒸溜所が違うのですから別に文句はありませんが、問題なのは同じバートンで製造される安価なバーボンのケンタッキー・ジェントルマンやザッカリア・ハリスよりフレイヴァーの強度が劣るところです。日本人の大多数はハイボール民だからこの程度でいいだろ、とでも思われたのでしょうか? だとしたら馬鹿にし過ぎです。ホワイトがリリースされた当初、アーリータイムズを名乗るべきではない、という趣旨の意見をよく聞きました(見ました)。或るブランドのヴァリエーションにブレンデッドがあること自体は悪いことではありません。ホワイトはバーボンではないのだから、バーボンより味が劣っていて当たり前、それだけの話でしょう。しかし、この金色を使いスタイリッシュで豪華そうに見せたゴールド・ラベルは違います。曲がりなりにもストレート・バーボンですから、こんなものアーリータイムズと名乗るべきではない、と叫ぶのなら今でしょう。少なくとも私には、このゴールドが旧来のアーリータイムズ・ファンを納得させるものとは到底思えませんでした。
ゴールドの発売は、エントリー・クラスの買い求め易い価格でありながら十分に旨かった、我々日本人が長年に渡って享受して来た、あのアーリータイムズの完全な終わりを告げたのかも知れない。アメリカ国内流通のアーリータイムズで主流となっているのは、もともとブラウン=フォーマンが2017年に導入した青いラベルの「ボトルド・イン・ボンド」です。これは当初は限定生産の予定でしたが、手頃な価格(1リットル25ドル)でクラシック・バーボンの風味を味わえると評判となってすぐにヒットしてレギュラーでリリースされる人気商品となり、サゼラックも買収後にこれを継続して販売しました。これが日本で普通に買えるように正規販売されるのなら、別にゴールドはこのままで構わないのですが、そうでないなら改善を求めたいですね。
そう言えば、ホワイト・ラベルが発売された時、世界に先駆けて日本先行発売とか言われていましたが、もう1年経つというのに世界で発売されている様子はありません。一体どうなっているのでしょうか? 我々は騙されていたのですか? まさか試験的に日本に投下され、ハイボール大国ニッポンですら不評だったために世界販売が取り止めとなり、慌ててストレート・バーボンを導入したとでも? もしそうなら、このゴールドも不買運動を繰り広げれば、ワンチャン、4年熟成の物に変化することもあるのですか? ここらへんの事情をお知りの方はコメントより是非ご教示ください。

Pairing:ウィスキーは直前に食べた物で感じる味わいに違いが出ます。私はバーボンを食中酒としても飲むので、この少々イマイチなゴールドを何とか美味しく楽しめないかと色々な料理とのペアリングを探っていたら、スパイシーな味付けの唐揚げとはなかなか相性が良かったように思います。逆に最悪なのはサラダでした。まあ、これは私の味覚なので皆さんが同じように感じるかは分かりませんが…。

Value:2000円程度で購入できるため、コスパが良いと言う人もいます。コスト・パフォーマンスとは費用対効果と訳され、支払った費用(コスト)とそれにより得られた能力(パフォーマンス)を比較したもので、低い費用で高い効果が得られればコスパが「高い」とか「良い」とか「優れている」等と表現されます。ウィスキーに於いてパフォーマンスは「味わい」です。私なら3500円出して2倍旨い別のバーボン、例えばフォアローゼズ・ブラック等を買うほうがコスパが良いと信じます。どうしてもアーリータイムズ・ブランドに拘りたいのであれば、ブレンデッドであるホワイトよりゴールドは格段に美味しいのは間違いないので、ホワイトが1500円程度なら、もう500円上乗せしてゴールドを買う選択は支持できます。しかし、ただそれだけです。

…と、ここまでは、ゴールドはなかなか旨いという評判を聞いていた私の期待が大き過ぎ、それが外れたことから勢いに任せて辛辣な評価を下してしまいました。これを見てちょっとした勘違いをする方もいるかも知れないので、最後に蛇足ながら私の趣味嗜好を書いておきます。
私はウィスキー全般の愛好家ではありません。飽くまでウィスキーの中の一つのジャンルに過ぎないバーボンを愛飲する者です(より正確に言うならアメリカン・ウィスキー愛好家)。そんな私の舌と脳は基本的にバーボン特化型であって、その他のスコッチやジャパニーズ・ウィスキー、或いは蒸溜酒であれ醸造酒であれ他のアルコール飲料を美味しいとは感じません。ここで見られるゴールドに対しての少々厳しい意見は他のバーボンと較べてのことであり、例えば山崎12年と較べるなら私にとってはアーリータイムズ・ゴールドの方が遥かに飲み易いのです。つまり「山崎が買えないならアーリータイムズ・ゴールドを買えばいいじゃない」と思う程には、数あるウィスキー全体の中に於いてこのゴールドは正に光輝いています。それだけは念頭に置いてこのブログを読んで頂けると幸いです。

追記:事情通の方より製造に関して追加情報を頂けたのでコメント欄をご確認ください。

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今回もバー飲みの投稿です。5杯目は、昔から飲みたかったけれど飲んだことのない銘柄だったオールド・ウィリアムズバーグにしました。

このバーボンはロイヤル・ワイン・コーポレーションが所有するブランドで、同社は名前が示すようにワインの取り扱いがメインの会社ですが、蒸溜酒も少数扱っており、そのうちの一つがオールド・ウィリアムズバーグです。彼らは現在、バーボン部門では「ブーンドックス」というブランドに力を入れています。ブーンドックスはプレミアムなレンジのブランドなので様々な別樽での後熟(追加熟成)もの等ありますが、それに比べるとオールド・ウィリアムズバーグは価格の安いバジェット・バーボンに位置付けられた製品。ブランドの名前を聴くと、ヴァージニア州の歴史的ランドマークであるコロニアル・ウィリアムズバーグを連想してしまうかも知れません。しかし、このブランドはそちらの「生きた博物館」とは何の関係もなく、ニューヨーク州ブルックリンのウィリアムズバーグ地区から命名されました。ロイヤル・ワインはニューヨークの会社ですし、限定的な地区の名前からしても、そもそもはローカリーな製品なのでしょう。ラベルにブルックリン橋が描かれているあたり如何にもな感じです。但し、ブルックリン橋はウィリアムズバーグに接してはおらず、少し離れています。実際にウィリアムズバーグに接しているのはその名もウィリアムズバーグ橋で、同ブランドのウォッカのラベルではウィリアムズバーグ橋が描かれているのに、何故かバーボンの方はブルックリン橋なのですよね…。何となく見栄えがするからか、より知名度が高いから採用されたのでしょうか? いっそのことラムでもリリースしてマンハッタン橋を採用すれば、近隣の三つの橋が揃う「橋シリーズ」とも呼べそうなラベルが完成するのに…。
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ウィリアムズバーグと言うと、今ではブルックリンのトレンディな地域としても知られていますが、ユダヤ教正統派のコミュニティの存在も有名です。ブランドの発売は1994年とされ、当時は唯一のコーシャ・バーボンでした。コーシャとは「適正」を意味するヘブライ語で、ユダヤ教徒が口にしてもいい食品の規定です。コーシャ認定制度は、スーパーマーケットに代表される消費市場が拡大した第二次世界大戦前後にアメリカを中心として始まったそうです。大量生産によって販売される商品数も膨大になるにつれ、商品の生産過程や含有物が複雑になり、粗悪な食品の流通が増えたことを懸念して、ユダヤ教徒が清浄な食品を安心して手に入れるための認定の需要が高まったらしい。現在ではウォルマートやコストコなどアメリカの大手スーパーマーケット・チェーンでも多数のコーシャ認定商品が見られます。ロイヤル・ワイン・コーポレーションはコーシャ・ワインを多数取り扱い、その分野での明確なリーダーとして認められているそうなので、その流れからスピリッツでもコーシャ認証の物をリリースする運びとなったのでしょう。オールド・ウィリアムズバーグのラベルにはマルKやマルU、或いはヘブライ語の文字が書かれたスタンプといったコーシャ認定を示すマークが印刷されています。よく見ないと見過ごしそうですけれども。
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裏ラベルには「昔の」ウィリアムズバーグについて書かれています。19世紀後半、イースト・リヴァー沿いにはビア・バロンズ(ビール造りで財を成した人々)の醸造所が立ち並び、その成功したオウナー達の建築的に優れた邸宅が建てられていた、バーボンはそんな彼ら特権階級のために、プライヴェートなスティルで手造りされ、特別に瓶詰めされ、選ばれた酒であった、と。彼らがバーボンを飲んだのが本当なのか、単なるマーケティングの文言なのかはちょっと判りませんが、醸造所が並ぶノース11thストリートがブリュワーズ・ロウと呼ばれているのは確かでした。

偖て、次にオールド・ウィリアムズバーグの幾つかのヴァリエーションについて言及しておきましょう。先ず、現在は3年熟成80プルーフのバーボンとウォッカのみが販売されているようです。その他に昔は「No.20」という101プルーフの物と「バレル・プルーフ」と銘打たれた121.5プルーフの物がありました。そして、ややこしいのはここからです。95年出版のゲイリー・リーガン著『THE BOOK OF BOURBON』には、オールド・ウィリアムズバーグ No.20のテイスティング・ノートが載っており、そこには熟成年数が36ヶ月と書かれています。で、その文末には「情報筋によると、オールド・ウィリアムズバーグに、より熟成させたバーボンがもうじき発売される予定とのこと。熟成年数や36ヶ月以上熟成との記載がないボトルを探そう。それが最低4年熟成のウィスキーであることを示すから。(意訳)」との記述がありました。つまり、私が見た現物および写真、資料によって把握するにオールド・ウィリアムズバーグ・バーボンのヴァリエーションには、
①No.20、101プルーフ、36ヶ月熟成表記
②No.20、101プルーフ、NAS
③バレル・プルーフ、121.5プルーフ、NAS
④後のスタンダード、80プルーフ、3年熟成表記
の四つが確認できる訳です。残念ながらリーガンのテイスティング・ノートは文章だけで写真が載せられていないので、①と②でボトル形状が異なるのか、ほぼ同じ見た目なのかは分かりません。この件や、これに限らずその他の物があるのをご存知の方はコメントよりどしどしお知らせ下さい。ちなみに今回私が飲んだ物はエイジ・ステイトメントがないので、おそらく②と推測しています。

続いてオールド・ウィリアムズバーグ・バーボンの中身(原酒)について語りたいところなのですが、これまたよく分かりません。ロイヤル・ワイン・コーポレーションは酒類販売会社およびインポーターであってディスティラーではないので、それがソーシング・ウィスキーなのは明らかとは言え、調達先に関する情報開示はしていないのです。明確なのはケンタッキーの何処かの蒸溜所からのものであること。また、初期のボトルは所在地表記がミネソタ州プリンストンであるところから、ボトリングしたのはユナイテッド・ステイツ・ディスティルド・プロダクツ(USDP)で間違いないでしょう。
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USDPは1981年に中西部の市場向けに地域ブランドを生産することを目的に小規模なボトリング事業としてスタートしました。おそらくプラント・ナンバーはDSP-MN-22だと思います。この施設では蒸溜は一切行なわれず、代わりにアルコール、甘味料、フレイヴァリング製剤やその他の成分を購入し、顧客の処方仕様に従って調合するブレンダーの役割とボトリング及び製品のパッケージングが主要な業務です。設立以来、信頼される企業として徐々に成長し、2005年頃の情報では、245000平方フィートの施設で年間200万ケースのスピリッツやコーディアルを中心としたリカーを生産しているとされています。また、2013年頃の情報では、約300人ほどの従業員が働いており、1日3シフト、24時間体制で7つの生産ラインを稼働させているとありました。2012年には186181平方フィートの倉庫の増設したそう。画期的だったのは、2001年にフィリップス・ディスティリングを買収して子会社としたことだったかも知れません。これにより自社ブランドの製造開発に拍車が掛かり、販売にも箔が付いたのではないでしょうか。プリンストン工場の生産ラインでは、フィリップスのUVウォッカ・ブランド、フレイヴァー・ウィスキーのレヴェル・ストークなど全米で人気のあるスピリッツ飲料を生産しています。
オールド・ウィリアムズバーグは常にUSDPが生産してるのではなく、現行の3年熟成80プルーフの物は、裏ラベルによるとニュージャージー州スコービーヴィルでボトリングとあります。スコービーヴィルというと、アップルジャックおよびアップル・ブランディで有名なレアード&カンパニーのボトリング施設があるので、そこで生産していると考えるのが妥当だと思います。いつ頃切り替わっているかは全く判りません。詳しい方はコメントよりご教示頂けると幸いです。では、最後に飲んだ感想を少々。

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OLD WILLIAMSBURG №20 101 Proof
推定95年ボトリング。焦げ樽香とスパイシーなアロマ。口に含むとブライトな樽感が味わえる。薫り高い穀物の風味と軽ろやかなフルーティさ、甘さとスパイスのバランスが良い。余韻はミディアム程度の長さ。
Rating:87.5/100

Thought:このバーボンは今となっては知名度が高いとは言い難く、余程のバーボン好きか、90年代から2000年代初等頃にバーで見かけたことがあるという人以外は知らない銘柄かも知れません。実は、日本語でオールド・ウィリアムズバーグをグーグル検索すると、まともにヒットするのはBAR BREADLINEのマスターさんのブログ「BAR ABSINTHE」の投稿くらいしかないのです。で、彼のテイスティング・ノートには原酒について少なくともヘヴンヒル系ではないとの感想が書かれており、更に私が飲んだバー・デスティニーのマスターに原酒について訊ねたところ同様にヘヴンヒルの味ではないと思うがそれ以上は全く分からないとの返答をもらいました。確かに私も一口飲んですぐヘヴンヒルではないと思いました。ヘヴンヒルのスタンダード・マッシュビルより、もっとライ麦多めのバーボンという印象があり、とても自分好みの味わいだったのです。マッシュのライ麦率は20〜30%くらいありそうな気が…。例えて言うとフォアローゼズから濃厚な熟成フルーツの風味を抜き取ったような味わいですかね。熟成年数に関しては、やはり3年熟成とは思えない味わいで、少なくとも4年〜6年程度のテクスチャーと風味に感じました。このNo.20の裏ラベルには、現行製品では削除されている次のような一文があります。
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「Only the top 20% of the barrels are used for this flavorful smooth bourbon. Enjoy!(上位20%のバレルだけを使用したこの味わい深く滑らかなバーボン。楽しんで!)」
ここで言われてる20%が「No.20」の由来なのでしょうかね? まあ、それは措いても、私の味覚には、この一文は本当にそうなのかもと思わせるだけの美味しさをこのバーボンから感じました。そして、何処の原酒かという件ですが、自分的にはフォアローゼズか、でなければバートンのハイ・ライかなぁ…と。飲んだことのある皆さんはどう思われましたか? コメントよりご意見ご感想どしどしお寄せ下さい。
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そう言えばこのバーボン、ボトルのサイドがエンボス加工されていて、なかなかカッコいいですよね。これと同時期かもう少し後かにボトリングされたと思われるミスティ・ヒルズとかブラック・イーグルというブランドのバーボンも瓶形状が同じに見え、ボトリングはUSDPが行っていると思われます。ミスティ・ヒルズとブラック・イーグルは、フィリップスやロイヤル・ワインのポートフォリオに(少なくとも現在は見られ)ないので、おそらく何処か別の販売会社がボトリング契約してパッケージングまでしてもらっているのではないでしょうか。まあ、憶測ですし、蛇足の情報です。

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(画像提供K氏)

ヴェリー・レア・オールド・ベントレー(*)は、よく詳細の分からないバーボンです。ラベルから読み取れるのは、シカゴのベントレー・インポーターズなるインポーター兼ワイン・マーチャントの会社がディストリビュートし、同じくシカゴのロバート・ブルース社にボトリングしてもらった86プルーフで6年熟成のケンタッキー・ストレート・バーボンということだけ。何処の蒸留所産かは皆目見当も付きません。おそらくシカゴ周辺でしか販売されなかった地域的製品ではないかと予想します。
画像検索では、53年ボトリングとされるボトルド・イン・ボンド規格で7年物の「オールド・ベントレー・ボンデッド」が見つかりました。こちらはBIB故に出所がはっきりしており、裏ラベルにオーウェンズボロのメドレー蒸留所(**)がディスティリングとボトリングをしているとあります。じゃあ「ヴェリー・レア」の方もメドレーか?と推測したくなりますが、ボトル形状も違うし、ラベルのデザインも違い過ぎるので、何となく全く別と考えたほうがいいような気もします。まあ、メドレー産かも知れないし、そうでないかも知れないし、よく分からないってこと。ちなみに、「ボンデッド」の表ラベルには人物画が描かれています。この人がベントレー氏なのでしょうか? この件に限らずベントレー・ブランドについてご存知の方はコメントより何でも情報をお寄せ頂けると助かります(※追記あり)。

オールド・ベントレー・ボンデッド
参照1
参照2

ところで、このヴェリー・レア・オールド・ベントレー、一目見て気づくのは、50年代当時隆盛を誇ったスティッツェル=ウェラー蒸留所の特別なバーボン、ヴェリー・オールド・フィッツジェラルドのラベルと似ていることですよね。デザイナーが同じなのか、或いは模倣したのか…。更には、後の世に伝説のバーボンと謳われることになるカーネル・ランドルフのバレル・プルーフ版のラベルにも、多少の違いはあっても全体的な雰囲気がそっくりです。まるで兄弟のようでしょ? カーネル・ランドルフの初期の物は往年シカゴ随一のリカー・ショップだったジマーマンズが関わっていたと思われます。何らかのシカゴ・コネクションがあるのでしょうか? これまた詳細をご存知の方は情報提供お願い致します。
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さて、今回このような希少価値のあるバーボンを飲めることになったのは、Instagramで知り合いバーボン仲間となった漢気満点のKさんのご厚意の賜物でした。画像借用の件も含め、改めてこの場でお礼をさせて頂きます。バーボンが繋いだ絆、ありがとうございました! また、バーGのマスターにも深く感謝です。では、飲んだ感想を少々。

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Very Rare Old Bentley 6 Years 86 Proof
1958年ボトリング。熟成年数にしては濃い色。マスティ・オーク、クローヴ、焦がしキャラメル、アニス、タバコの気配。口当たりは柔らかいが水っぽくない。味わいはスパイシーかつビター。余韻はとても長く、薬草のようなスパイスの風味と苦味が後々まで残る。

基本的にスパイス・フォワードのバーボンという印象。レーズンやレッド・フルーツ等のフルーティさやナッツのニュアンスはあまり感じませんでしたが、ヘヴィ・チャーが透けて見えそうな木材感や6年熟成ながら複雑なスパイス香と共にカビっぽい風味が現れるあたりがヴィンテージ・バーボンらしさでしょうか。50年代のバーボンなんてそうそう飲む機会はないので比較対象がないのですが、なんとなくハイ・ライ・マッシュぽい気がします。飲んだことのある方はどう思われたでしょうか? ご意見ご感想、コメントよりどしどしお寄せ下さい。
Rating:87/100

追記:その後、オールドベントレーに7年86プルーフがあるのを見つけました。トップ画像のボトルのラベルと概ね同じデザインですが少しだけ違いがあって、メインラベルに熟成年数表記があります。ボトルの形状も少し異なります。なんとなく、このベントレーより後年の物かなと思いました。


*日本では「bentley」を「ベントレー」と表記する慣行がありますが、実際の発音は「ベントリー」が近いです。

**こちらもベントレー/ベントリーと同じく、日本では「medley」を「メドレー」と表記する慣行がありますが、実際の発音は「メドリー」に近いです。

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【バーボンとは?】

バーボンとは簡単に言うと、以下の要件を満たす蒸溜酒のことです。

①アメリカで造られていること。
②原材料(マッシュ)に51%以上コーンが使われていること。
③160プルーフ(80度)以下で蒸溜すること。
④内側を焦がしたオークの新樽(ニュー・チャード・オーク)で熟成させること。
⑤樽入れの度数(エントリープルーフ)が125プルーフ(62.5度)以下であること。
⑥80プルーフ(40度)以上でボトリングすること。

更に「ストレート」と名乗るためには、
⑦2年以上の熟成期間が必要。
⑧水以外の着色料やフレイヴァー等の添加物を加えてはならない。

と、まあこんなところですけど、少しだけ補足すると、バーボンの定義について語ってるものの中に「ケンタッキー州でつくられたもの」と書かれているのをたまに見かけますが、これは全バーボンの九割以上がケンタッキー州産なことからくる誤解です。①の定義によりアメリカ国内で造られていればバーボンと名乗ることは出来ます。ただし「ケンタッキー・ストレート・バーボン」と名乗るためにはケンタッキー州で造られていなければなりません。

また、似たような誤解の例に「厳密にいうとジャック・ダニエルズはテネシー・ウィスキーであってバーボンではない」という言い回しが挙げられます。実はジャック・ダニエルズはバーボンの要件を全て満たしています。つまりバーボンなのです。テネシー州の規定により、同地で製造され、かつチャコール・メロウイングを施してあるものがテネシー・ウィスキーを名乗れるため、テネシー人の誇りをもってそう言っているだけで、レギュレーション上バーボンでない訳ではありません。アメリカ南北戦争当時、南軍のテネシー州と中立から北軍に転じたケンタッキー州とでは隣接する州ながら仲が悪く、それがウィスキーの呼称にまで影響を及ぼしているのでは?との説があります。日本でも隣接する県同士のライバル視などがあるではないですか、そのようなものかと。まあ、実際にはマーケティング戦略におけるバーボン一般との差別化でしょう(※)。

あと注意しておく点は⑦です。「バーボン」には熟成年数の規定はありません。三ヶ月熟成でもバーボンと名乗れます。ただし「ストレート・バーボン」と名乗るには最低2年の熟成が必要となるのです。また「ケンタッキー・バーボン」を名乗るには最低1年の熟成が必要となります。

上に述べた定義は1909年に出されたウィリアム・ハワード・タフト大統領の有名な「タフト・デシジョン」のストレート・ウィスキーに関する規定を核とし、後の1938年(新樽の使用)と1964年(アメリカ国内製造)に加えられた条項をベースにしたものです。それを私が解りやすいと思われる日本語に整理し直しました。詳しく知りたい方は、現在ラベル表示とマーケティングに関する規制を取り仕切るTTB(Alcohol and Tobacco Tax and Trade Bureau)のサイトをご参照下さい。

少しでも日本にバーボン(大きく言ってアメリカンウィスキー)が根付けばいいなと願い、ブログを始めることにしました。ネットで検索すれば即座に出てくることではありますが、先ずはバーボンとは何かを説明することで「はじめの挨拶」に代えさせて頂きます。ご意見ご感想、見解の相違や間違いの指摘等はコメントからどしどしお寄せください。レッツ・バーボン・トーク!

※日本でもアメリカでも「ジャックダニエル論争」というものがあります。つまりジャックはバーボンなのかそうではないのか、という議論です。正直言って退屈な議論なのですが、熱を帯びやすいファン心理に基づくところが多分にあり、異様に盛り上がったりします。今はバーボン一般について語っているので、ジャックにこれ以上は立ち入ることはしません。論争については本ブログでスタンダードなJACK DANIEL'S Old No.7を取り上げる時少しだけ言及する予定です。

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