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嘗てアメリカのウィスキーに使用される有力な穀物だったライを本来の高みへ戻すためにリデンプション・ブランドは始まりました。ライは長い間、アメリカン・ウィスキーの世界に於いてコーンに匹敵するかそれを上回る穀物の地位に君臨していましたが、禁酒法の影響から廃れてしまい、他の蒸溜酒のようには回復することが出来ませんでした。しかし、ここ10数年で様相は一変しました。ライ・ウィスキーの売上は大きく伸び、今、復権を謳歌しています。そうした過程の中で「リデンプション」は急速に評価を築いたブランドです。ブランド自体の紹介は、過去に投稿した記事でしていますので、そちらを参照して下さい。

リデンプション・ウィスキーには、リデンプション・ライ、リデンプション・バーボン、リデンプション・ハイライ・バーボンという3つの主要なセレクションがあります。リデンプションの特徴として4年未満のスピリッツにも力を入れていることが挙げられ、これらはどれも平均2.5年熟成とされる若いウィスキーです。他にも長熟や追加熟成を施したもの、或いはウィーテッド・レシピのものなど様々な製品展開がありますが、スタンダードなのはこの三つと見てよいでしょう。リデンプションの名声は確実にライ・ウィスキーによって齎されましたが、現在の薬瓶スタイルのボトル(*)になる前のスタイリッシュなトールボトルの頃からバーボンもリリースしていました。そこで今回はマッシュビルの少し異なる二つのバーボンを取り上げます。

ライと同様、バーボンもインディアナ州ローレンスバーグの有名なMGP(現在ロス&スクィブ蒸溜所とも名乗る)から調達して造られています。MGPはアメリカのライ市場の80%以上を生産していると目される元シーグラムの蒸溜所。数多のNDPやクラフト・ディスティラリーにも最高級のウィスキーを提供するこの蒸溜所には多くのレシピがあり、有名なのはライ麦が95%のレシピですが、それだけに留まらずバーボン・レシピも当然ながらある訳です。
幸いなことに判り易くマッシュビルの情報はラベルに記載されています。「バーボン」はコーン75%、ライ21%、バーリーモルト4%です。別に「ライ」と「ハイ・ライ」があるのだから、通常のバーボンには対照的にライ麦を控えたロウ・ライのレシピを使用しているのではないかと思ってしまいそうですが、リデンプション・バーボンのライ麦の含有量は業界水準より高めです。実のところ"ハイ・ライ"という用語は法律で定められていないため明確な基準がありません。ロウ・ライ(またはハイ・コーン)のレシピはライが10%以下であることが多いため、15〜18%のライ麦率でもハイ・ライと言われる場合もあったりします。従って、この通常のバーボンをハイ・ライとして販売することも可能なのですが、リデンプションはライを前面に押し出したブランドのため、21%でもハイ・ライを名乗らないのです。
一方の「ハイライ・バーボン」はと言うと、コーン60%、ライ36%、バーリーモルト4%のマッシュビルを使用しています。アメリカン・ウィスキー愛好家は、これらの原料の構成を見てすぐにフォアローゼズの二つのマッシュビルとの類似に気づくでしょう。フォアローゼズのEマッシュビル(75%コーン/20%ライ/5%モルテッドバーリー)及びBマッシュビル(60%コーン/35%ライ/5%モルテッドバーリー)とはライとモルトが1%づつしか変わりません。マッシュビルは使用されるモルトの量によって僅かに変動する可能性があるので、実質的にMGPとフォアローゼスは同じマッシュビルを使っていることになります。実際、リデンプション初期のトールボトルのラベルには、バーボン(旧名テンプテーション)では「20%プレミアム・ライ、5%バーリーモルト、75%コーン」と書かれてフォアローゼズのEマッシュビルと一致し、ハイライ・バーボンでは「38.2%プレミアム・ライ、1.8%バーリーモルト、60%コーン」とマッシュの変動が細かく記されていました。
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インディアナ州ローレンスバーグのジョセフEシーグラム蒸溜所(現MGPプラント)とケンタッキー州ローレンスバーグのオールド・プレンティス蒸溜所(現フォアローゼズ蒸溜所)は共に嘗てシーグラムが所有していた歴史があります。二つの蒸溜所は、シーグラムの品質管理チームが互いのイースト・ストレインをテストしたり、またそれらを共有していました。基本的にフォアローゼズが使用しているイーストはインディアナの蒸溜所でも大体使用できるらしく、フォアローゼズのイーストは「V、K、O、Q、F」、MGPのイーストは「V、K、O 、Q、S(ライト・ウィスキーに使われる)」とされます。シーグラム時代に考案されたレシピの略語は今でも使われ、例えばフォアローゼズで「OESV」と呼ばれるレシピは、インディアナ州の蒸溜所では「LESV」と呼ばるそう。一文字目の「O」はフォローゼズの旧称オールド・プレンティスを表し、「L」はインディアナ州ローレンスバーグの施設を示します。二文字目はマッシュビルを意味し、フォアローゼズで「E」や「B」と呼ばれるものはMGPでも「E」や「B」な訳です。ちなみに、MGPの95%ライ/5%バーリーモルトのライ・ウィスキーは「Q」、 80%コーン/15%ライ/5%バーリーモルトのコーン・ウィスキーは「C」、99%コーン/1%バーリーモルトのマッシュビルは「D」の略号が与えられています。MGPには他にも以下のような6種類のマッシュビルがあります。
◆バーボン(51%コーン/45%ウィート/4%バーリーモルト)
◆バーボン(51%コーン/49%バーリーモルト)
◆ライ・ウィスキー(51%ライ/49%バーリーモルト)
◆ライ・ウィスキー(51%ライ/45%コーン/4%バーリーモルト)
◆ウィート・ウィスキー(95%ウィート/5%バーリーモルト)
◆モルト・ウィスキー(100%バーリーモルト)

奇しくも同名であるローレンスバーグの二つの蒸溜所の類似点は他にもあり、両者は原料のライ麦を主にドイツの同じ生産者から仕入れているだろうと推測されています。シーグラムの科学者達は最高のスピリッツを造るために常にテストを繰り返し、北米産のライ麦に較べてドイツで栽培される特定のライ麦種が自分達のイーストにとってベストなマッシュを生むと確信しました。また彼らは、一貫して豊かなフレイヴァー・プロファイルを実現するために、120のバレル・エントリー・プルーフを採用しました。現在でもフォアローゼズとMGPはそうしています。そして、フォアローゼズの熟成倉庫は温度差の少ない平屋建てで知られていますが、MGPの熟成倉庫も亦、平屋造りではないものの壁面が煉瓦造りで各フロアはコンクリートの床と天井で区切られており、多くのケンタッキー州のリックハウスと較べると各階は一定の温度と湿度が維持され、庫内の場所に関係なく各バレルを同じように熟成させる哲学で設計されています。

偖て、話が若干逸れたのでリデンプションに戻すと…今回私が飲んだ「バーボン」は84プルーフで瓶詰めされています。リデンプション・バーボンをネットで調べると、88プルーフの物がけっこうな割合で見つかりました。販売地域によりプルーフに差を付けているのか、もしくは或る時からボトリングするプルーフを上げたのかも知れません。もし後者なら、そのうち日本に入って来る物も88プルーフになるのかも?
先述のように、リデンプションのスタンダードな物は熟成年数の短いウィスキーです。ブランド・アンバサダーのジョー・リッグスは、より少ない熟成で成熟した風味を生み出す「全く新しいディスティリング・プロセス」に取り組んでいると述べていましたが、一体どのようなものなのか具体的には良く分かりません。取り敢えず、これらの若いバーボンを味わってみましょう。

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REDEMPTION BOURBON 84 Proof
Batch No. 026
推定2020年ボトリング。淡いブラウン。焦がした木材、穀物、ペッパー、ライスパイス、薄いキャラメル、ミント、よく言ってアップル、ピーナッツ、エタノール、鉛筆。ノーズは甘さのあまりない爽やかな穀物と木材の香り。ややとろみのある口当り。パレートでは、ほんのり甘いがピリピリ感も。余韻は短く、ドライさの中にライっぽさが少し顔を覗かせる。
Rating:79/100

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REDENPTION High Rye Bourbon 92 Proof
BATCH No. 120
推定2020年もしくは2021年ボトリング。淡いブラウン。トーストした木材、グレイン、ライスパイス、シュガー、ペッパー、種のお菓子、僅かなドライフルーツ、グリーンアップル、若草。アロマはスパイシー。ややとろみのある口当り。パレートは青い果実とスパイスが感じ易い。余韻はややドライであまり甘くない穀物とライの爽やかな苦味が残る。
Rating:82.5/100

Thought:バーボンの方は、流石にもうちょっと熟成したほうがいいなぁという感想でした。円みも僅かに出て来ているのですが、味わいも余韻もちょっと平坦で、もう4年熟成させたら凄く美味しくなりそうな予感で終わります。海外の方でメロウコーンを思い出すと言ってる方がいましたが、個人的にはそこまで「メロウ」とは思いませんでした。ライ麦21%はバーボンとしては多い方ですが、私には香りからライやベーキングスパイスの存在を見つけるのは難しく、味わいも「ライ」にあったシトラスやグリーンリーフのフレイヴァーはあまり感じられません。基本的にグレイン・フォワードなバーボンで、よく言えば甘いシリアルのような味わいとは言えます。
ハイライ・バーボンの方は、スパイスと甘さのバランスがちょうど良く、だいぶ美味しく感じました。なんか嘘みたいにリデンプションのバーボンとライ・ウィスキーを混ぜたような中間の風味がします。ただ、何故か甘いアロマは最も弱く感じました。以前に飲んだライ・ウィスキーを含めて三つのラインナップで見た時に、私個人の趣味としては見事なまでにライ麦含有量が高い順に旨く感じます。ライ、ハイライ・バーボン、バーボンの順に自分好みのシトラスやディルの風味が感じ易いのです。「結局、お前がライ・ウィスキー好きなだけやろ」と言うツッコミには、はい、その通りですと言うしかありません。けれどもバーボンよりライの方が短期の熟成で美味しくなるというコンセンサスはある程度はあり、それがこの結果となっている気もします。
両者を比較して、キャラを強調して言うと、バーボンはナッティ寄り、ハイ・ライはフルーティ寄りでしょうか。余談ですが、これらのウィスキーはテイスティング・グラスで飲むとちっとも美味しくなく、ショットグラスかラッパ飲みだとなかなか美味しかったです。これは若いウィスキーによく見られる傾向かなと個人的には思っています。最後に、以前レヴューしたライを含めた3つのクラシックなリデンプション・ウイスキーのセレクションを総評すると、基本的にカクテルに使用するために造られてる気はしますが、どれも若い割には粘度が高く、ニートで飲んでも十分美味しいです(特にライとハイ・ライ)。但し、もう少し樽熟成が長ければ、もっと素晴らしいものになるでしょう。そして問題は価格…。

Value:販売地域によって変わりますが、バーボンもハイライ・バーボンもアメリカでは25〜30ドル程度の場合が多いようです。ところが日本ではバーボンは3000円程度なのですが、ハイ・ライ及びライ・ウィスキーは何故か5000円程度します。熟成年数の短さを考慮すると、これは痛い。正直、コスパは良くないです。「バーボン」なら大手の蒸溜所がリリースしてるスタンダードな製品の方が安い上に旨く感じてしまうし、「ライ」ならテンプルトンの4年熟成の方が安いのです。「ハイ・ライ」に関しては、MGPのハイライ・レシピ原酒の中で日本では比較的入手し易いという利点はあるかも知れません。ブランドのイメージやボトルのデザインが好きとか、敢えてヤンガー・ウィスキーを好む方にはオススメします。ですが、私はこの値段なら再度の購入はしないかな…ごめんなさい。


*2023年3月にニューボトルになることが発表されました。なので本文中で「現在の〜」と言っているボトルは、新しいボトルにリニューアル後は一つ前のものとなります。ディアジオからブレットのボトルに似ていると訴えられたのが理由で変更したのかも知れませんね。


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ジムビームのラインナップ中、長きに渡り最高の価値があると評されたブラック・ラベル。しかし、ここ十年ちょっとで最も弄くり回されたブランドかも知れません。
おそらく、もともとブラック・ラベルは101ヶ月(約8年半)熟成90プルーフで始まり、次第に8年熟成90プルーフ、7年熟成90プルーフ、8年熟成86プルーフへと時代に順応して変化したと思われます。多分、86プルーフに下がったのは90年代かと。ビームは大きな酒類会社なので、販売される国でボトリングするためにウィスキーをバルクにて輸出している可能性があり、バッチが異なるのは当然として、パッケージが少し異なったり、ボトリング・プルーフの異なるヴァージョンがあるようです。日本でも、今回レヴューするエクストラ・エイジドの前に流通していた正規輸入品は確か6年熟成80プルーフだったと思います。

基本的に2000年代のアメリカ国内流通品は8年熟成86プルーフでした。2007年から2008年頃、オーストラリアとカナダでジムビーム・ブラックは8年のエイジ・ステイトメントを失い、代わりに「AGED TO PERFECTION」と表ラベルに表記されます。ビームによれば、これは米国以外の市場でのブラック・ラベルの売上が予測を上回ったためだそうで、熟成樽の不足からラベルの変更を余儀なくされ、おそらく中身の原酒の熟成年数も変更されたのでしょう(6年へ?)。エイジド・トゥ・パーフェクションのラベルはアメリカ以外の市場(ヨーロッパとか)にも流通したと思いますが、アメリカ本国で販売された製品はラベルに年数表記があり、8年熟成は維持されました。
おそらくその後(2010年前後?)に、スタイリッシュなラベル・デザインのブラック・ラベルが登場したと思われ、ホワイト・ラベルの4年熟成に対して倍であるため「ダブル・エイジド」と表記されたアメリカ国内向けの8年熟成、ストレート・バーボン規格の最低熟成年数である2年の3倍であるため「トリプル・エイジド」と名付けられた国外向け6年熟成の物がありました。
2015年になると、アメリカ国内のブラック・ラベルからもエイジ・ステイトメントは削除され、ラベルには「XA Extra Aged」の文字が現れます。きっとこれは6年熟成なのでしょう。一般的に、生産者は以前よりも若い原酒を使用することを意図せずに、熟成年数の表示を取りやめることはありません。従来通りなら熟成年数を削除する必要がないからです。そして2016年半ば、ビーム社はジムビーム・ブランドのラベルとボトルのデザインを刷新しました。そこでブラック・ラベルは再び微調整が施され、「XA」を削除し、ハイフンを追加して「Extra-Aged」となります。これが現在販売されているブラックであり、トップ画像のデザインです。
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2000年以降、特に2010年代、アメリカのバーボン業界は劇的な変化を遂げました。あらゆるアメリカン・ウィスキーに対する記録的な需要は、新しいクラフト蒸留所の前例のない「爆誕」を齎し、また旧来の由緒正しき蒸留所からも新しい革新と実験が行われました。その他にもバーボンの高需要は、大手蒸留所が比較的「高齢」でありながらも大変お買い得だった銘柄を次々とNAS(No Age Statement)へと変更せざるを得ないか、或いはエイジ・ステイトメントを維持するなら値上げするしかない状況を与えました。ヘヴンヒルのエライジャ・クレイグ12年がNASになったのはその最たる例でしょう。以前は8年熟成だったジムビーム・ブラックがNASに切り替えられたのも、そうした一例な訳です。NASへの移行は既存のエイジ・ステイトメントを維持するのに十分な熟成原酒のストックがないのが主な理由ですが、一方でプレミアムな長熟製品のために一部の樽が抑制されているという噂は常にあり、それが真実である場合アメリカン・ウィスキーの基盤と言える「日常バーボン」の熟成年数やプルーフ(≒品質)を犠牲にしてまで金儲けに走るなよというバーボン愛好家の嘆きを生みます。まあ、それは偖て措き、現行のエクストラ・エイジドです。

この約6年熟成とされるブラックラベル・エクストラ・エイジドは、アメリカ流通の物は86プルーフ、日本市場の物は80プルーフでのボトリング。マッシュビルは77%コーン、13%ライ、10%モルテッドバーリーであろうと推定されています。ビームはクレアモントとボストンに大きな蒸留所を所有し、彼らはそこでメーカーズマークを除くあらゆるウィスキーを造ります。ボストン(通称ブッカー・ノー・プラント)は専らジムビーム・ホワイトラベルを製造し、クレアモントはホワイト・ラベルも含むその他の全てを製造するとされます。なのでブラックはクレアモント産ですかね。ビーム社の最高峰ブッカーズが中層階のバレルを主に使用するところから、ビーム倉庫のスイートスポットは中層階と考えられるので、おそらくブラック・ラベルに使用するバレルは上層階から来てるのかも知れません。上層階のバレルは他の場所のバレルよりも早く熟成することはよく知られています。そこで、若くても熟成感のある樽をピックアップすることで、8年に近いフレイヴァー・プロファイルをNASでも保つことが出来るだろうと推測している人がいました。

8年熟成のブラック・ラベルは割と長い期間販売され続け、味が良く安価、しかもどこでも労なく入手できるため非常に人気がありました。しかし、8年熟成も今は昔の話。個人的には現行のエクストラ・エイジドは飲む必要がないかなと思っていたのですが…。ジムビームが2019年に発表したPRニュースによると、アメリカン・ウィスキーを飲む人は世界で最も高価でレアなバーボンよりもジムビーム・ブラックを好むことを示す調査結果が出た、と言うのです。調査は独立した第三者機関のアルコール飲料研究会社であるビヴァレッジ・テイスティング・インスティテュート(BTI)が行いました。BTIはアメリカで最も古いアルコール飲料研究会社で、1981年以来、専門家によるテストや独自のデータや消費者調査を使用して、飲料会社が賢明な生産とマーケティング決定を下すのを支援しています。彼らはアメリカ全土の複数の市場でブラインド・テイスト・テストを実施。参加者には二つのサンプルが提供され、一つはジムビーム・ブラック(23ドル)で、もう一つは名前の伏せられた約3000ドルの限定生産の象徴的なバーボンとのこと。結果は、54%が超高額なバーボンよりもジムビーム・ブラックを好み、55%がジムビーム・ブラックの方が滑らかだと答えたそうな。ごく僅かではあってもテイスターの過半数が高価なスーパー・プレミアム・バーボンより安価なボトム・シェルファーを選んだと? おいおい、マジか…。この名前の伏せられたバーボンは価格から考えると、希望小売価格に上乗せ金が付いたパピー・ヴァン・ウィンクル20年でなければならないでしょう(ミクターズ・セレブレーション・サワーマッシュだともっと高いですし)。或いはパピーの23年の方かも知れませんが、どっちでも構いません。言うまでもなく、良いウイスキーは熟成年数が何年であろうとプルーフが幾つであろうと良いウイスキーだし、味わいの優劣なんて飲み手の好みに左右されるもの。熟成年数の長いバーボンはウッドの風味が強くなり過ぎるので、却って短熟の方が好みの人が半分近くを占めたっておかしくはない。実際、私にもその傾向はあります。…にしても、NASのジムビーム・ブラックラベルがパピーに勝った? これは是非とも確認のため現行のブラック・ラベルも飲んでみなければならない、という訳で、そろそろ注ぐ時間です。

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JIM BEAM BLACK EXTRA-AGED 80 Proof
推定2019年ボトリング。焦樽、プリンのカラメルソース、グレイン、ちょっとトロピカルフルーツ、胡椒、藁半紙。アロマは時間が経つとナッティ。水っぽい口当たり。軽くて飲み易い割に少しアルコールの刺激を感じる。余韻はあっさりして短く、穀物とスモークが主に出るが辛味もあって深みがない。
Rating:79/100

Thought:昔の6年とか8年とエイジ・ステイトメントがあったブラックと較べると、どうしても美味しくなくは感じてしまいました。なんか6年よりも熟成してなさそうな若い味わいと言うか、いや、アルコール感が目立ち過ぎると言うか。とは言え、現行ホワイト・ラベルよりは格段に甘さ、フルーツ、スパイス等の熟成感はあって悪くはなかったです。
それと、上で言及した「調査」の件ですが、そのブラインド・テストでテイスターが試したのは86プルーフであり、私が試したのは80プルーフ、この差はかなり大きいと思います。ただ、これが86プルーフだったとしても、いくら想像を膨らませてみても流石に「パピー」を打ち倒す程の物とは到底思えませんが…。

Pairing:軽めのテクスチャーにライトなフレイヴァーなので肉料理や濃厚な味付けの料理を欲しなかったです。しかし、逆にあっさりとした冷奴に合わせるとピッタリ。これは料理を引き立てる酒という視点ではなく、バーボンを引き立てる料理という視点です。

Value:アメリカでは大体18〜25ドルで販売されており、最安値なら所謂アンダー$20バーボン。日本でも1800〜2500円が相場で、概ね本場と感覚的に変わりはないでしょう。但し、上述のように日本版は80プルーフなので本国版に較べ割高ではあります。ロウワー・プルーフはコンテンツに水が多いことに他なりませんから。
ジムビーム・ブラック・エクストラ・エイジドは基本的に美味しいバーボンです。バーボンを飲むことの喜びは甘い炭の風味にありますが、これにはちゃんとそれがあります。しかし、安価なバーボンなので奇跡を期待してはいけません。3000円以上するバーボンと比べたら不味く感じるし、1000円のバーボンと較べたら遥かに美味しく感じる、ただそれだけ。ジムビームの意図通り、ホワイトには物足らず、デヴィルズ・カットやダブル・オークには少々割高さを感じる人向けには良い製品でしょう。私の個人的な嗜好では、現在のジムビームの安価なラインナップの中ならダブル・オーク一択。また、酒屋の棚で並行輸入の86プルーフ版ブラック・ラベルか熟成年数表記ありの売れ残りを発見し、それが数百円の違いしかなかったら、必ずそちらを購入するべきです。

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「安酒を敬いたまえ」シリーズ第三弾、今回はバッファロートレース蒸留所編です。

Buffalo Trace Distillery◆バッファロートレース蒸留所
BTのバーボンにはマッシュビル#1と呼ばれるライ麦率推定10%以下のロウ・ライ・レシピと、#2と呼ばれるライ麦率推定12〜15%のハイ・ライ・レシピの二つがあります。他にも小麦レシピやライレシピもありますがここでは関係ないので触れません。チャーリングレベルは# 4、バレルエントリープルーフは125です(実験的なものは除く)。

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BENCHMARK OLD No.8 BRAND 80 Proof
1000〜1500円程度
実はこのバーボンを日本語でネット検索すると、20年前に出版された本から引用したと思われる情報やら、No.8を誤って8年熟成としてみたり、果てはモルトが主原料などと書かれた文章まで見つかり、あまりにも酷い状況です。また英語のバッファロートレースの公式ホームページですら、まるで主原料がライ麦であるかのような記述が見られるのです。幾らなんでも扱いが雑過ぎます。
ベンチマークは、そもそもはシーグラムが1968年にプレミアムラインの製品として発売したものです。シーグラム解体後にブランドをサゼラック(BTの親会社)が購入し、蒸留をバッファロートレースが行うようになりました。その時からラベルに「McAFEE's」と書かれるようになりましたが(この写真の物よりひとつ前のラベルデザインの物からで、おそらく日本では2009年あたりまでは流通していたと思われます)、これはマカフィー兄弟という初期ケンタッキーの入植者がバッファロートレース蒸留所のある場所のすぐ北の史跡を測量したことに因むようです。やや取って付けた感がありますが、ベンチマークという言葉が測量用語で水準点の意味なので言葉を掛けたのでしょう。おそらくシーグラムがプロデュースした当時はバーボンの新しい基準となる味わいを目指したのだと思います。
現行製品はマッシュビル#1で作られる3年熟成のエントリークラスバーボンとなっています。誤解を恐れず言えば、熟成場所が違うとはいえ、このバーボンをもっと熟成させたものが、バッファロートレースであり、更にイーグルレアと続き、果てはジョージTスタッグとなる訳です。では飲んでみましょう。
オーク、シリアル、ハチミツ、葡萄、生クリーム。バーボン然とした芳香は悪くないが弱い。円やかな口当たり。余韻のスパイス感少なめ。飲むとコーンウイスキー感が強いものの、甘味の勝った味わいは好印象。
Rating:79/100

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Ancient Age 80 Proof
1200〜1500円程度
元はシェンリーが創始した名ブランド。現在はBTのマッシュビル#2で造られるエントリークラスバーボンで、おそらく昔は4年熟成だったと思うのですが、いつの頃からか3年熟成になっているようです。バーボンが急速に高需要となった2010年以降じゃないかと勘繰っているのですがどうでしょう?
えーと、ここからレビューなんですが、ごめんなさい、先に謝ります。実はこのボトル現行品ではありません。推定07年ボトリングと思われる代物で、どうも「酸化の奇跡」か何かが起こったようです。開封直後から古典的バーボンノート全快で、オーク臭、キャラメル、ダークチェリー、僅かにスパイス。開封からしばらく経過するとラム酒を思わせる香りへと変化。更に余韻はコーヒーゼリーwithミルクまで出てきました。流石に90年代以前のバーボンのもつ何か質的に異なるような雑味成分の多い味わいではないものの、40度なのに香りが濃厚だし、口当たりもクリーミーなのです。
バーボンマニア、特にオールドボトル愛好家がよく言う、2000年あたりを境にバーボンが不味くなった説というのがあるのですが、本ボトルの07年ボトリングが正しいとすればその定説を覆しています。プチオールドボトルとは言え、とてもじゃないけど千円ちょいとは思えない味わいであり、もしかしたら最近のバーボンは不味いというより「硬い」だけで、酸化を上手くコントロール出来れば美味しい可能性を感じさせてくれる一本でした。ちなみに現行製品は、ボトルの肩に写真で見られるようなANCIENT AGEのエンボスはありません。エンボスがあれば古い製品です。売れ残りなどを見つけたら是非トライする価値はあるかと思います。
ただ、これでは当企画の趣旨を外れているので、参考までに言いますと、私が前に2010年ボトリングのエンシェントエイジを2013年頃に飲んだ時には、いたって普通のエントリークラスバーボンという印象で、レーティングするなら79点がいいとこでした。
Rating:83/100

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OLD TAYLOR 80 Proof(not 6 year)
1300〜1500円程度
オールドテイラーは長らくナショナルディスティラーズの看板製品で、87年からはビーム社の製品となっていました。その後2009年からはブランド権と樽のストックをサゼラック(BTの親会社)が買い取りリリースしています。いつの頃からかラベルに「6」という数字はあるものの「year」の文字はなくなり、6年熟成ではなくなりました。
弱いヴァニラ香と樽香、ややツンとした接着剤的な香り、メロン。飲み口はさっぱり。甘味が薄く、フルーティーとは言えるが、やや苦味があり、余韻は弱い。どうも飲んだ感じ6年に近い熟成感すらなくもっと若い印象を受けます。また、このボトルが何年製か判らないのですが(購入は2017年)、私が飲んだ限りバッファロートレース蒸留所の#1マッシュビルバーボンという感じがしません。かと言ってジムビームそのものかと言われるとそれも自信がないのですが、同時期に飲んだジムビームホワイトラベルやオールドクロウとは風味プロファイルは異なるように思いました。けれどジムビーム寄りの味ではある気がします。単純に計算するとビームストックは2015年に底を尽きる筈ですが…。まさかこれはジムビーム+バッファロートレースのブレンドなんて可能性もあるのでしょうか? 飲んだことある方のご意見を伺いたいです。
Rating:79/100

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「安酒を敬いたまえ」シリーズ第二弾。今回はジムビーム編です。

Jim Beam Distillery◆ジムビーム蒸留所
ジムビームのロウ・ライ・マッシュビルには調べてみるとコーン/ライ/バーリーがそれぞれ、77%/13%/10%と75%/13%/12%の二つの説がありました。どちらが正解か判断がつかないので並記します。チャーリングレベルは# 4 とされ、バレルエントリープルーフは125です。

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JIM BEAM White Label 80 Proof
1000〜1300円程度
世界一売れてるバーボンと言われています。少なくとも日本で入手の容易さで一番なのは間違いないでしょう。そのため私は自分のレーティングの基準として現行ジムビームホワイトを78点と定め、それよりどれだけ上か下かという具合に点数を付けているのですが…さて、困りました。
この度の企画用にラベルデザインが変更になった物を購入し、試飲したのですが、前ラベルよりも味が落ちてるように感じるのです。前のはライトではあってもそれなりに美味しかったし、比較的味わいも安定していたと思うのですが、これはとても4年熟成とは思えないほど熟成感が乏しい。どうも当たり外れがあるのかも知れませんし、何らかの理由で味が落ちたのかも知れませんし、もしくは時が経過してから開封したら美味しかったのかも知れません。一応レーティングはしておきます。
弱々しいバーボンノート、米、コーン、ハチミツ、だいぶよく言ってパイン。開封して二週間位で少しマシになったものの、どうもピンとこない。前ラベルの物は、調子の良いとき(笑)は白ワインを思わせるマスカットの風味が感じれたのですが。そちらのはこちらをご参照下さい。
Rating:76/100

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OLD CROW 80 Proof
1200〜1500円程度
歴史あるブランドのオールドクロウも、今やビームの下層バーボンとなっています。マッシュビルはジムビームホワイトと同じで間違いないと思われますが、酵母も同じという説と、酵母は違うという二説がありました。正直言って酵母の違いまでは飲んでも私には判りません。マチュリティの違いが絡んでくるからです。ジムビームホワイトが4年熟成、オールドクロウは3年熟成と言われています。それでいて流通量の多いものは安価になるという経済法則によって、ジムビームのほうが安く買え、僅かながら高い価格のオールドクロウは、スペック的にみれば買う意味のないバーボンとなってしまいます。ところが…です。熟成というウイスキーの味の決め手となるプロセスが神の手に委ねられているせいか、それともマスターディスティラーの悪戯か、或いは会社の良心か、はたまた瓶内熟成(微妙な酸化)のお陰か、もしくはチャーリングやトーストのレベルを変えているのか、ともかくこのオールドクロウに関してはジムビームホワイトを上回ってます。
本ボトルは2012年ボトリング。全てがライトではあるし、穀物感もありありとあるものの、樽香、味の濃さ、余韻の深みはジムビーム白より少し良好。特に焦げた樽の風味は断然あります。ただし、全てのオールドクロウがこうではないと思われます。と言うのも私は1990年代後半と2000年代初頭に二本ほど当時の現行オールドクロウを飲みましたが、その時はジムビームホワイトより格下の味わいだと感じたからです。それらなら3年熟成と言われても納得出来る味であり、レーティングするなら76点でした。現在のオールドクロウは少しだけラベルデザインが違います。それの味わいはどうなんでしょうね。
Rating:79/100

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JIM BEAM RYE PRE-PROHIBITION STYLE 80 Proof
1400〜1500円程度
ジムビームライは私の過去投稿でレビューしてますのでこちらを参照して頂ければと思います。また旧ラベルのライ(俗にいうイエローラベル)もレーティングしています。
Rating:82/100

この他にビーム産の安バーボンには数年前までバーボンデラックスがありましたが、どうも現在では終売となったらしく、購入しづらくなってるので割愛させてもらいました。
また当企画における比較対象が同時点で購入したボトルでないことをお詫びいたします。

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今回から数回に分けて「安酒を敬いたまえ」と題して、700〜750mlあたり1500円までのエントリークラスバーボンの飲み比べとレーティングの一覧を作ってみようと企画しました。正確には1500円を少し越える物も含む、1500円前後までと受け取って下さい。ここはジャックダニエルズもワイルドターキーもメーカーズマークもいないチープな世界。もう最低のラインですよ。ちょっと上物を飲んだ後では満足出来っこない。けれど、これも愛せてこそのバーボンマニアだと思うのです。高級品やレア物を飲むだけがマニアじゃない。あなたの口や脳や臓器がバーボンのために出来ているのなら、これらも愛せるはずだ(笑)。

では、蒸留所別に分けまして、今回はイントロダクションとヘヴンヒル蒸留所編となります。

Heaven Hill Distillery◆ヘヴンヒル蒸留所
ヘヴンヒルの通常のバーボンマッシュビルは、コーン/ライ/バーリーがそれぞれ78%/10%/12%と75%/13%/12%という二つの説があります。どちらが正しいのか判断がつきませんので並記させてもらいました。チャーリングレベルは# 3 と言われており、バレルエントリープルーフは125です。

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Heaven Hill 80 Proof
980〜1200円程度
ヘヴンヒル蒸留所はエヴァンウイリアムス黒ラベルをスタンダードなバーボンとして売り出しているようです。そこから考えるとこちらは、それよりも格下のバーボンと言えます。熟成年数はおそらく4年。或いは3年程度かも知れませんね。アメリカではヘヴンヒルのボトルド・イン・ボンド規格のものが売られているようです。昔は「オールド」のついた熟成年数の長いものもありました。
正直なにもコメントが思い浮かばないほど普通。いや、普通に旨いとは言えるのですが、それ以下でもそれ以上でもないと言うか…。うっすら甘く、さっぱりしていて、フルーティーと言うには果実感が足りない感じ。弱々しいキャラメル香は感じますが、穀物っぽさとケミカルなノートのほうが強く感じられます。と言って、くっさーい酒、クセのある酒とは言い難く、癖のないクリアでライトな如何にも現代の安バーボンです。しかし、値段からしたら十分美味しい。
Rating:77/100

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John Hamilton 80 Proof
980〜1300円程度
ジョン・ハミルトンという人はケンタッキーの初期蒸留家のようです。詳しくは調べてもよく分かりませんでした。もしかすると現行の物はアメリカでは売られてないエクスポートオンリーのブランドかも知れません。
これまた殆どヘヴンヒルと同じ印象です。全てがライト。バーボンらしいオーク臭や甘味や酸味があるけれども弱々しい。けれど値段からしたら満足というやつです。
Rating:77/100

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OLD VIRGINIA 6 Year 80 Proof
1300〜1500円程度
ヴァージニアと名付けられてはいるが、ケンタッキーストレートバーボン。ケンタッキー州はもともとヴァージニア州の一部だったので、ヴァージニア州で造られてなくてもこの名前はアリなのかも。日本には流通してませんが他国では同ラベルの8年熟成の物があるようです。原酒は明らかにされてませんが、香りからして典型的なヘヴンヒルのジュースだと思われます。
6年熟成ともなると40度とは言え、上記二つと較べだいぶ香りが豊かになります。スパイシーさも出てきました。しかし芳醇とは言い難く、やはりまだ穀物臭とケミカルな香りが強い。弱いヴァニラにコーン、ビオスリー。 フルーツ感も弱いけれど、安いのでけっこうお買い得感はあり。
Rating:79/100

他にもテンガロンハットという、日本にバーボンブームがあった時代に、日本酒類販売とナショナル・ディスティラーズが共同開発したブランドがあります。おそらく当時はND傘下の蒸留所、その後ジムビームの原酒を使っていたと思いますが、現在ではヘヴンヒルの原酒が使われています。なので、ここに並べても良かったのですが、価格的にみてヘヴンヒルやジョンハミルトンと大差ないと判断して割愛しました。値段は1000円ちょいです。是非お試しあれ。
更にはマークトゥエイン、マーチンミルズ、T.W.サミュエルズ等、ヘヴンヒルの若い原酒を使用したとおぼしきバーボンがありますが、同じ理由で割愛させて頂きます。
また、ヘヴンヒル蒸留所を代表する銘柄エヴァンウィリアムスのブラックラベルは1500円以内で購入できることもありますが、一つ上の価格帯と判断してここには載せてません。
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MELLOW CORN BOTTLED IN BOND 100 Proof
コーン・ウィスキーの代表的な銘柄メロウコーン。コーン・ウィスキーらしい癖がハッキリと感じられるハイ・プルーフ、しかも安いとあって、アメリカではかなり人気があります。昔はメドリー蒸溜所のブランドでしたが、現在ではヘヴンヒル蒸溜所のブランドになっており、ラベルにその名残が見られます。こちらはボトルド・イン・ボンド規格ですから、おそらく熟成年数は最低限の4年でしょう。またコーン・ウィスキーの規定から、熟成樽は古樽もしくはチャーしてない新樽になります。そのためか、バーボンに比べ円やかさに欠ける嫌いがあるし、深みや奥行のある芳香もないし、コーン・ウィスキー臭さも残ってますが、100プルーフあるので満足度は高いです。
Rating:79/100


さて、問題はここからです。ラベルに注目してください。ボトルド・イン・ボンド規格のスピリッツには、蒸溜した施設のDSPナンバーと、ボトリングした施設のDSPナンバーも記載せねばなりません。ラベルから読み取れるのは、蒸溜はDSP-KY-354、ボトリングはDSP-KY-31です。「354」はブラウン=フォーマンが所有するアーリータイムズを作っているプラントを表し、「31」はヘヴンヒル所有のバーズタウンにあるボトリング施設を表します。ヘヴンヒルの蒸溜施設は元々バーズタウンにあったのですが、96年の大火災により全焼し、現在はボトリング施設と熟成庫のみとなっています。そして99年にルイヴィルのバーンハイム蒸溜所を購入して蒸溜を再開し現在に至るのですが、この蒸溜所がなかった期間はブラウン=フォーマンやジムビームが蒸溜を代行していました。
で、このボトルは推定2013年ボトリングと思われます(瓶底判定)。熟成期間の4年を引くと蒸留は2009年。はて? とっくに自社蒸溜に切り替わっている頃なのではないでしょうか? 残り物のラベルを使用している可能性もなくはないと思いますが、だとしたら余りにも残り過ぎな気がします。いや、第一厳格なボトルドインボンド規格を謳いながら、残り物など使っていたら駄目でしょう。

ここからは私の推理なので話し半分に聞いて(読んで)下さい。ヘヴンヒルからリリースされているライウィスキーにリッテンハウス・ライ・ボトルド・イン・ボンドという銘柄があります。安くて旨いライ・ウィスキーということもあり大変人気のあるブランドです。有名な話なのですが、火災後このリッテンハウス・ライはブラウン=フォーマンが契約蒸溜をしていました。ボトルド・イン・ボンド規格ですからラベルに「DSP-KY-354」の記載があり、或る年のものから「DSP-KY-1(バーンハイム蒸溜所の番号)」に変わりました。調べてみると、どうやらその契約が2008年までだったようなのです。ごく単純に計算して、2008年蒸溜に熟成期間の4年をプラスすると2012年となり、このメロウコーンのボトリング2013年との誤差が一年のみになります。一年の誤差ならなんとでもなる差です。あまり語られることのないメロウコーンの裏話だけに、情報が少なくて混乱しましたが、おそらくメロウコーンも2008年までブラウン・フォーマンが契約蒸溜していたのではないでしょうか? だとしたらラベルの謎も合点がいくのですが…。ここら辺の事情に詳しい方がいらっしゃいましたら、是非とも情報提供をお願いしたいです。

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