タグ:86.75点

IMG_20190328_174632_629

レアブリードは90年代初頭に発売され始めました。80年代後半にジムビームから発売されたブッカー・ノーのバレルプルーフ・バーボン「ブッカーズ」に対する、ワイルドターキーのジミー・ラッセルによる「回答」だったと言われています。ブランド紹介は過去投稿のW-T-01-99とWT-03RBのレビュー時にやってますのでそちらを参照下さい。今回は2014~16年発売の112.8プルーフと2016年から発売の116.8プルーフの飲み較べです。

PhotoGrid_1544348347950
PhotoGrid_1544394869527
2018-12-08-18-56-34
116.8の方が当然濃いわけですが、目視ではそれほどの差を感じません。

WILD TURKEY RARE BREED 112.8 Proof
穀物臭、ヴァニラ、ペッパー、コーン、焦げたトーストブレッド、ピーカン、グレープフルーツ、タバコ、メロン。柑橘類の爽やかさとスパイシーなアロマ。すっきりした口当たり。口の中ではスパイシーな風味というよりアルコールのピリピリ感が強め。舌先で転がせば仄かな甘味も感じるものの、ナッツの香りと酸味とスパイスで攻める感じ。余韻はドライ。
Rating:86.25/100

WILD TURKEY RARE BREED 116.8 Proof
推定2017年ボトリング。ロットLL/FH。マロンの甘露煮、香ばしい樽香、タバコ、甘いコーヒーミルク、塩コショウ、僅かなラヴェンダー。今までのレアブリードと一線を画す甘いアロマ。パレートもやや甘め。まったりした口当たり。アルコールの尖りとソーピーな雰囲気も。余韻にピーナツバターと微かに薬品ぽいノート。
Rating:86.75/100

Verdict:香り、口当たり、余韻ともに自分の好みだった116.8を勝ちと判定しました。海外のターキーマニアの評判も116.8のほうが圧倒的に高く、112.8は他のバッチと較べても低評価です。確かに開封直後は私もそう思っていたのですが、時間の経過とともに112.8の味わいに伸びが出て、結果としてはそれほど差はつきませんでした。

Thought:実を言うと、過去にレビューしたWT01-99とWT03RBを飲み干さずに取って置き、四本の年代別(バッチ別)レアブリードをサイド・バイ・サイドで飲み較べる、ちょっとしたヴァーティカル・テイスティングをやっていました。
2019-03-28-18-03-08
販売年数の長かったWT03RBをレアブリードの基本的な味わいと仮定してみます。そうするとWT01-99は、90年代までのワイルドターキーに感じやすかったアーシーなノートが余韻にほんの僅かに感じられ、WT03RBよりも複雑と言えるでしょう。ですが、それはあくまで続けざまに飲んだから気づいただけで、私ごときの味覚では別の機会に飲んだらどちらか判らない気がします。それに較べると今回の二本は、ベーシックなレアブリードから少々逸脱している印象を受けました。112.8はシトラスとスパイシーさが美味しく感じやすい反面、ウッディなドライネスも強く、何というか味を色で例えると「黄色い」と感じます。116.8は度数が上がっている影響も大きいとは思いますが、そもそもバレルセレクトの基準が違うのではないかと思うほど劇的な変化が感じられ、実はここからが本当のエディ・ラッセルのレアブリードなのでは、と勘ぐりたくなります。ワイルドターキー蒸留所は旧来のブールヴァード蒸留所から2011年に新しい蒸留施設へと転換しました。116.8の風味プロファイルが従来のレアブリードと違うのは、おそらく新しい蒸留施設の6年原酒を多く含むからとも推測されます。もしかすると日本限定の8年101も、単純計算で2019年のロットから劇的に味が変わる可能性もあるのかも知れませんね。
ところで、私の飲んだ116.8はロット番号の頭の英字がLL/FHの物です。それゆえ推定2017年ボトリングとしておいたのですが、どうやら2018年のLL/GHのロットには、もう少し熟成年数の古いバレルが多く混和されているとされ、海外のターキーマニアの評価が高いようです。日本にも輸入されてるのならそのうち飲んでみたいものです。

それともうひとつ、前から気になっていることがあります。112.8のラベルは2014~16年とされ比較的短期間で終了な訳ですが、このデザインは本来2011~2015年のセピア・トーンの横向きターキーと一致するラベルデザインですよね? 下に8年101とレアブリードのそれぞれ対応する画像を挙げてみましょう。
2019-03-29-05-24-49
2019-03-29-05-34-43
2019-03-29-05-28-52
年数はアメリカの情報を基にしています。日本で流通が始まるのは大概半年から一年遅れです。ましてやワイルドターキーほどの人気ブランドだと流通量も多いため、旧ラベルの在庫がハケるのに時間もかかり、8年101の「2011~2015」とレアブリードの「99~2013」のラベルがほぼ同時流通していた気がします。なのに近年のモノクロ チラ見ターキー8年101の「2015~」とレアブリードの「2016~」は早々に切り替わった印象があり、そこでなんだかレアブリードの「2014~16」ラベルが過渡期の物のように錯覚してしまっていました。それを初めて見たとき「えっ、今さらラベルチェンジ?」と思いましたし、モノクロが出たときは「えっ、もう変わるの?」と思いました。それもこれもレアブリードの「2014~16」ラベルのリリースされるタイミングが遅いせいじゃないですか。これは一体なぜなのでしょうか? いや、WT03RBだけが十年近く販売されていたのがそもそも謎で、そのせいで「2014~16」ラベルが押し出されてるような気もしますけど…。一説には「怠惰」と言われますが、事情をご存じの方はコメント頂けると助かります。


DSC_0039

IMG_20181105_063246_564

ワイルドターキー レアブリードは、6年と8年と12年熟成の原酒をブレンドし、加水なしでボトリングした所謂バレルプルーフバーボンとして知られています。そのためバッチごとにボトリングの度数に僅かな変動があります。日本ではお馴染みの8年101より格上、12年や13年といった長期熟成物よりは格下という位置付けの製品で、91年の発売以来長いこと継続して販売されており、バレルプルーフの製品としては比較的安価なのが人気の秘訣でしょうか。
昔は輸出用ラベルの「1855リザーヴ」というのもありましたが、これはレアブリードと概ね同じと見做していい物です。おそらく、ファースト・ロット以外はプルーフを共有するので、中身は同一のバッチングに由来すると思われます。或るバーボンマニアの方がレアブリードのリストを作成していたので、それを基に以下に纏めさせて頂きましょう。左から順に生産年、ラベル名、バッチナンバー、プルーフです。

1991 / Rare Breed / W-T-01-91 / 109.6
1991 / Rare Breed / W-T-02-91 / 110
1992 / 1855 Reserve / W-T-10-92 / 110.0
1993 / Rare Breed / W-T-01-93 / 110.8
1993 / Rare Breed / W-T-02-93 / unknown
1993 / Rare Breed / W-T-03-93 / 111.4
1994 / Rare Breed / W-T-01-94 / 112.2
1994 / 1855 Reserve / W-T-01-94 / 112.2
1994 / Rare Breed / W-T-02-94 / 109.6
1994 / 1855 Reserve / W-T-02-94 / 109.6
1995 / Rare Breed / W-T-01-95 / 109
1995 / 1855 Reserve / W-T-01-95 / 109
1995 / Rare Breed / W-T-02-95 / 109
1996 / Rare Breed / W-T-01-96 / 108.8
1996 / 1855 Reserve / W-T-01-96 / 108.8
1997 / Rare Breed / W-T-01-97 / 108.6
1999 / Rare Breed / W-T-01-99 / 108.4
2003 / Rare Breed / WT-03RB / 108.2
2015 / Rare Breed / ーーーー / 112.8
2017 / Rare Breed / ーーーー / 116.8

ラベルの変遷はざっくり下のような感じになります。
2018-10-24-17-24-34

少し言葉で補足しておくと、リストや画像で判る通り「1855リザーヴ」は96年で廃止となりレアブリードに一本化されました。そして2015年リリースの物(金ピカの筒に入ったやつ)からはバッチナンバーがなくなり今に至ります。これらはバッチナンバーで呼ぶわけにいかないので「112.8は○○だね、116.8は□□だよ」のようにプルーフの数値でその個体を指します。また、よく判らないのがWT01-99の生産期間でして、海外のレヴューやボトルの紹介を見ると2004年ボトリングとされる物が散見されるのです。私の理解ではWT03RBの「03」は2003年のことだと思っていたのですが、もしWT01-99が2004年まで生産されていたとすると、WT03RBは2005年から発売なのかも知れません。一応、上のリストではWT03RBは2003年ということにしておきましたが、誰かここら辺の事情をご存知の方はコメントからご教示頂けると助かります(※追記あり)。
それはさて措き、レアブリードのバッチの中でも取り分け異質なのがWT03RBです。このバッチだけが2014年春に終了となるまで約10年に渡って流通していました。そのため、とんでもない量のバッチングされたバーボンを巨大なステンレスタンクか何かに保管していたのではないか、との疑いがあったのですが、マスターディスティラー エディ・ラッセルの息子ブルース氏によるとそうではないとのことです。ワイルドターキー蒸留所は比較的ロウ・プルーフのバレル・エントリー・プルーフで知られていますが、このWT03RBが発売されていた期間中、二回ほどより高いエントリー・プルーフへと変更されています。それは2004年にそれまでの107プルーフから110プルーフとなり、続いて2006年には115プルーフとなりました。この変更は風味プロファイルに変化を生じさせるでしょう。そのためWT03RBは生産年ロットによって原酒の配合比率を少し変えることで風味を一定にしているとブルース氏は語っています。例えば、或るロットは他のロットより8年の比率が多い等。そしてそれを、おそらく少量の加水で108.2プルーフぴったりに調整したのだと思われます(※規則上、少量の加水をしてもバレルプルーフを名乗ることが出来ます)。外国のターキーマニアでWT03RBの生産年ロット違いを飲み較べした方によると、風味に若干の違いはあるものの概ね似た同等レべルの物になっているようです。マスターディスティラー以下テイスターやブレンダーの驚異の仕事と言わざるを得ませんね。

さて、今回はWT03RBとWT01-99の飲み較べをしたいと思います。目視での色の違いは感じられません。
PhotoGrid_1533809734388
2018-08-11-00-02-44

WILD TURKEY Rare Breed 108.2 Proof
BATCH No. WT-03RB
推定2011年ボトリング。並行輸入品。香ばしい樽香、ヴァニラ、バターポップコーン、ナツメグ、微かなチェリー、塩、ビオフェルミン。こちらのほうがとろりとした口当たりで、やや甘い。口の中ではペッパースパイスが踊る。余韻はターキーらしい焦げたウッディネス。
Rating:86.5/100

WILD TURKEY Rare Breed 108.4 Proof
BATCH No. W-T-01-99
推定2001年? ロット番号はL0261031。正規輸入品。シナモンの入った焼き菓子、ペッパー、マロン、ピスタチオ、蜂蜜、オレンジ、バター、コーンチップス、強いて言うと焼いたパイナップル。こちらのほうがさっぱりした口当たりで、やや酸味がある。口中と余韻に豊かなスパイス。
Rating:86.75/100

Verdict:続けて飲めば明らかな違いは感じるものの、どちらもレアブリードだなあという味に収まっていると思います。実は海外のバーボンマニアの評価はWT01-99の方が圧倒的に高いのですが、個人的にはそこまで大差はない印象でした。流石にWT03RBもジミー・ラッセルがフェイヴァリットと言うだけあって負けてるとは思えません。確かに、どうしてもどちらかを選ぶのなら、アロマが若干強く、テクスチャーは軽いもののフルーツ感とスパイス感に勝るWT01-99の方に軍配を上げます。

Thought:バレルプルーフにしてはやや深みに欠ける味わいに感じました。私の嗅覚と味覚ごときではアーシーなフィーリングやカビっぽさ、また香水のようなフローラルや赤い果実感といった「美味しいターキー」の諸要素もあまり感じ取ることが出来ません。8年101と比較すれば、断然ナッティな香ばしさが強く、オイリーなマウスフィールもあります。けれどバレルプルーフだから風味が複雑かと言うと期待するほどでもなく、出来の良い時期の8年101には負けている気が…。なによりパレートとフィニッシュがドライ過ぎる嫌いがあり、なんとなく6年熟成原酒の割合が多いのではないかと想像します。それに12年熟成原酒の比率はだいぶ低いのではないでしょうか? 例えば20%以下とか、もっと? 或いは価格から考えて、シングルバレルやヴェリースモールバッチ(*)に選ばれなかった樽から造られているとすれば、シュガーバレルの混和率が低いのも当然なのかも知れません。飲んだことのある皆さんの意見を伺いたいですね。

Value:上で否定的と取られかねない言いっぷりをしてしまいましたが、私はターキー好きであり、お薦めなのかお薦めじゃないのかで言ったら、そりゃお薦めです。レアブリードはバレルプルーフバーボンの中でも入手のしやすさと安さでは一番ですから(**)。ただし、今回飲んだバッチは少し古いものです。それほど希少性はなくとも現行製品のようにどこでも売ってる訳ではありません。定価(と言うのか希望小売価格と言うのか)と同程度であれば二次流通市場で購入する価値はあると思いますが、付加価値を支払うほどではないというのが私の意見です。

追記:その後に得た情報では、やはりWT01-99は2004年まで発売されていたようです。そしてWT03RBは2004年から発売され、一年間だけコルクの周りがブラック・ラップで、そのあとクリア・ラップに変更されています。
また、私の表と画像では112.8を2015年、116.8を2017年としていますが、アメリカではそれぞれ2014年と2016年とされていました。


*ワイルドターキーの通常品は1500樽前後のバッチング、スモールバッチは150~200樽、ヴェリースモールバッチは20~30樽程度との情報がありました。おそらくレアブリードはスモールバッチではないかと思われます。

**すみません、オールドグランダッド114があるのを忘れて書いてます。

↑このページのトップヘ