バーボン、ストレート、ノーチェイサー

◆◆FOR BOURBON LOVERS ONLY◆◆ バーボンの製品情報、テイスティング・コメント、レーティング、思考、ブランドの歴史や背景などを紹介するバーボン好きによるアンフィルタード・レヴュー。バーボンをより好きになるため、より楽しむための初心者から中級者向けのブログ。

タグ:87.5点

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オールド・コモンウェルスの情報は海外でも少なく、そのルーツについてあまり明確なことは言えません。ですが、ネットの画像検索や少ない情報を頼りに書いてみます。

先ず始めにスティッツェル=ウェラーのアイリッシュ・デカンターに触れます。長年スティッツェル=ウェラー社を率いた伝説的人物パピー・ヴァン・ウィンクル(シニア)が亡くなった後、息子のヴァン・ウィンクル・ジュニアは1968年にオールド・フィッツジェラルド名義でセント・パトリックス・デイを記念するアポセカリー・スタイルのポーセリン・デカンターのシリーズを始めました。1972年にスティッツェル=ウェラー蒸留所が売却された後も、新しい所有者はヴァン・ウィンクル家が1978年にオールド・コモンウェルスのラベルの下で再び引き継ぐまでシリーズを続けます。1981年にジュニアが亡くなった後も息子のジュリアン・ヴァン・ウィンクル三世が事業を受け継ぎ、毎年異なるデザインを制作していましたが、このシリーズはデカンター市場が衰退した1996年に中止されました。オールド・コモンウェルスのアイリッシュ・デカンターの殆どには80プルーフで7年または4年熟成のバーボンが入っていた、とヴァン・ウィンクル三世自ら述べています。
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60年代は、50年代のファンシーでアーティスティックなグラス・デカンターに代わりセラミック・デカンターが人気を博しました。各社ともデカンターの販売には力を入れ、ビームを筆頭にエズラ・ブルックスやライオンストーンが多くの種類を造り、他にもオールド・テイラーの城を模した物からエルヴィス・プレスリーに至るまで様々なリリースがありました。おそらく、70年代にバーボンの需要が落ち込む中にあっても、記念デカンターは比較的売れる商材だったのでしょう。ジュリアン・ジュニアはスティッツェル=ウェラー蒸留所を売却した後、「J. P. Van Winkle & Son」を結成し、様々な記念デカンターを通して自分のバーボンを販売しました。 既に1970年代半ば頃からコモンウェルス・ディスティラリー名義は見られ、ノース・キャロライナ・バイセンテニアル・デカンター、コール・マイナーやハンターのデカンター等がありました。もう少し後には消防士やヴォランティアーを象った物もあります。

そして今回紹介するオールド・コモンウェルスは上に述べたデカンターとは別物で、ジュリアン・ヴァン・ウィンクル三世がシカゴのサムズ・リカーという小売業者向けにボトリングした特別なプライヴェート・ラベルが始まりでした(当時20ドル)。おそらく90年代半ば辺りに発売され出したと推測しますが、どうでしょう? 後には同じくシカゴを中心としたビニーズにサムズは買収され、ビニーズがオールド・コモンウェルスを販売していましたが、ヴァン・ウィンクルがバッファロー・トレース蒸留所と提携した2002年に終売となりました。中身に関しては、同時代のオールド・リップ・ヴァン・ウィンクル10年107プルーフと同じウィスキーだとジュリアン本人が断言しています。ORVWのスクワット・ボトルと違いパピーのようなコニャック・スタイルのボトルとケンタッキー州(*)の州章をパロった?ラベルがカッコいいですよね。では、最後に飲んだ感想を少しばかり。

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Old Commonwealth 10 Years Old 107 Proof
推定2000年前後ボトリング。前ポストのオールド・リップと比較するため注文しました。大した量を飲んでないので細かいことは言えませんが、こちらの方が度数が僅かに高いのにややあっさりした質感のような? でも、どちらも焦樽感はガッチリあってダークなフルーツが奥から漂うバーボンで点数としては同じでした。
Rating:87.5/100


*ケンタッキー州は日本語では「州」と訳されますが、英語ではステイトではなくコモンウェルス・オブ・ケンタッキーです。アメリカ合衆国のうちケンタッキー、マサチューセッツ、ペンシルヴェニア、ヴァージニアの四つの州は、自らの公称(州号)を「コモンウェルス」と定めています。これらは州の発足時に勅許植民地であった時代との決別を強調する狙いがあったものと解されているそう。オールド・コモンウェルスは如何にもケンタッキー・バーボンに相応しい命名なのかも知れません。
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「commonwealth」とは、公益を目的として組織された政治的コミュニティーの意。概念の成立は15世紀頃とされ、当初は「common-wealth」と綴られたそうで、「公衆の」を意味する「common」と「財産」を意味する「wealth」を繋げたもの。後の17世紀に英国の政治思想家トマス・ホッブズやジョン・ロック等によって一種の理想的な共和政体を指し示す概念として整理され、歴史的に「republic(共和国)」の同義語として扱われるようになったが、原義は「共通善」や「公共の福祉」といった意味合いだったとか。

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オールド・リップ・ヴァン・ウィンクルというブランドは、元は禁酒法時代(または以前?)に遡りますが、長年の沈黙からジュリアン・ヴァン・ウィンクル二世が1970年代半ばに復活させ、それを受け継いだ息子のジュリアン三世が伝説のレヴェルまで育て上げたブランドと言ってよいでしょう。

長年スティッツェル=ウェラー社を率いてきたジュリアン・"パピー"・ヴァン・ウィンクルが1965年に亡くなった後、息子のジュリアン・ジュニア(二世のこと)は他の相続人との意見の相違から、1972年にスティッツェル=ウェラー所有の蒸留所とブランドをノートン・サイモン社へ売却することを余儀なくされました。しかし、彼は名前や物語を余程気に入っていたのか、アメリカの小説家ワシントン・アーヴィングの物語をモチーフにしたブランドだけは売却せず、スティッツェル=ウェラー蒸留所からウィスキーを購入出来る権利とボトリング契約を残したことで、オールド・リップ・ヴァン・ウィンクルを甦らせ販売し始めます。その事業は1981年にヴァン・ウィンクル二世が亡くなると息子のジュリアン・ヴァン・ウィンクル三世に引き継がれますが、スティッツェル=ウェラーとのボトリング契約が切れたことでジュリアン三世は致し方なく(妻も子供四人もおり、多額の借金を背負うことになるから)アンダーソン郡ローレンスバーグにある旧ホフマン蒸留所をベン・リピーから購入しました。ジュリアン三世はスティッツェル=ウェラーからのバルク・ウィスキー、またその他の蒸留所からもウィスキーを購入し、コモンウェルス蒸留所として様々な銘柄でボトリングを続けました。80年代にはおそらく知る人ぞ知る小さな存在だった会社は、90年代に祖父への敬意を直接的に表す「パピー・ヴァン・ウィンクル」を発売、幾つかの賞を得たことでウィスキーの世界から注目を集め出します。しかし、スティッツェル=ウェラー蒸留所はユナイテッド・ディスティラーズの傘下になった90年代初頭に蒸留が停止されてしまいました。そこで、原酒の枯渇を懸念したジュリアン三世は、新しい供給先としてバッファロー・トレース蒸留所を選び、2002年、合弁事業としてオールド・リップ・ヴァン・ウィンクル・ディスティラリーを立ち上げます。同社のブランドは段階的にスティッツェル=ウェラーからバッファロー・トレースの蒸留物へ変わりました。2010年以降は「パピー」がバーボン愛好家以外の一般大衆にも認知され出し、バーボン・ブームの到来もあってカルト的人気を得、それに釣られてその他のブランドも高騰。オールド・リップ・ヴァン・ウィンクルも日本に住む「庶民派ウィスキー飲み」が手を出せる金額ではなくなり、そもそも日本へ輸入されることもほぼなくなりました。バッファロー・トレースのフランクフォート産の物ですらそのような状況の今日、ジュリアン三世がハンドメイドで瓶詰めしていたローレンスバーグ産の物は、特に愛好家に珍重され求められています。

そこで今回ご紹介する「ヴァン・ウィンクル」の付かないヴァン・ウィンクル製品であるスクエア・ボトルの「オールド・リップ」なのですが、これは日本向けの輸出用ラベルでした。4年熟成86プルーフ緑ラベルと12年熟成105プルーフ黒ラベルの二種類があり、日本のバーボン愛好家には知られたブランドです。おそらく発売期間は80年代後半から90年代後半(もしくは2000年代初頭?)までではないかと思われます。少なくともフランクフォート表記のオールド・リップは見たことがないので、2002年以降には製造されていないと推測しました。お詳しい方はコメントよりご教示下さい。
それは措いて、中身の原酒について。ジュリアン三世は「ヴァン・ウィンクル・ファミリー・リザーヴ」や「ヴァン・ウィンクル・セレクション」、初期の「パピー・ヴァン・ウィンクル」、またその他の銘柄ではスティッツェル=ウェラー以外の原酒を使うこともありました。しかし、聞くところによると彼は「オールド・リップ・ヴァン・ウィンクル」のブランドにはスティッツェル=ウェラー原酒を使うことを好んだとされます。それからすると、おそらくこの「オールド・リップ」もスティッツェル=ウェラー原酒で間違いないでしょう。では、最後に飲んだ感想を少しだけ。

OLD RIP 12 Years Old 105 Proof
今回はバー飲みです。先日まで開けてあったオールド・リップ12年が前回のウイスキークラブ(定期イヴェント)で飲み切られたとのことで倉庫からストックの新しいボトル出して来てくれました。なので開封直後の試飲となります。

推定88年ボトリング。キャラメルの他に植物っぽい香りも。ハイプルーフゆえのアルコールのアタックはあってもヒート感はほぼ感じない。現代の小麦バーボンよりもスパイス感がやや複雑で、フレイヴァー全体が濃厚な印象。余韻は少し渋め。
Rating:87.5/100

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ワイルドターキー・ダイヤモンド・アニヴァーサリーは2014年8月にジミー・ラッセルの勤続60周年を祝うために、当時アソシエイト・ディスティラーだった息子のエディ・ラッセルによって作成されました。業界で最も任期の長いマスターディスティラーであるジミー・ラッセルは正に「生ける伝説」であり、「ブッダ・オブ・バーボン」或いは「マスターディスティラーズ・マスターディスティラー」と尊敬の念を込めて呼ばれたりします。アメリカのワイルドターキー愛好家デイヴィッド・ジェニングス氏は「ロックにはエルヴィスがいる。カントリーにはハンクがいる。ソウルにはマーヴィンがいる。バーボンにはジミーがいる」と述べました。アメリカン音楽好きにはピンとくる喩えでしょう。

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(上1984年、下1967年のジミー)

1954年9月10日、ジミーは後年ワイルドターキー蒸留所と呼ばれることになるアンダーソン・カウンティ蒸留所(以前のリピー・ブラザーズ蒸留所、一年後にJTSブラウン蒸留所と改名)で働き始めました。まだ二十歳になる前のことです。当時ローレンスバーグには幾つかの蒸留所があり、ジミーのお父さんはオールド・ジョー蒸留所、おじさんはホフマン蒸留所で働いていました。そのためジミーが仕事を探していた時、蒸留所で働くことにしたのは自然な流れでした。実際、今だにジミーはアンダーソン郡の生まれた場所から1マイル以内、ワイルドターキー蒸留所から6マイル以内に住んでいると言います。後に時として「バーボンのファーストレディ」と紹介されることにもなる妻ジョレッタもジミーが働き始める前から蒸留所に勤めていました。
彼のキャリアは床掃きや品質管理から始まり、おそらく蒸留所の全ての仕事をこなしたと思われます。蒸留所の二代目マスターディスティラーである伝説のビル・ヒューズや、蒸留所の創業者ジェイムス・リピーの甥の息子で三代目マスターディスティラーのアーネスト・W・リピー・ジュニアから蒸留技術を学んだジミーは次第に頭角を表し、1967年にはJTSブラウン蒸留所のマスターディスティラーへと昇格しました。彼が働き始めた頃の蒸留所は日産80バレル程度でしたが、現在では550バレル以上になっていると言います。その躍進の全てがジミーただ一人の功績ではないでしょうが、彼はキャリアをスタートして以来普通の人間にはあり得ないほど長い年月そこにいて、何十年も精力的に働き、先代から受け継いだ昔ながらのバーボン造りを固守することで現代のバーボン世界を形作り、内外に影響を与えて来ました。

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ワイルドターキー蒸留所で製造される製品の中で最も「ジミー・ラッセルらしい」バーボンはスタンダードなワイルドターキー101(8年にしろNASにしろ)です。それは標準的であり原型であるが故に「生ける伝説」の刻印が深い。周知のようにそのブランドはジミーが蒸留所で働き始める以前の1942年に始まり、ブルックリンかどこかの経営者が産み出したのかも知れません。また、最先端の設備によるコンピューターの自動化が行われる現代にあっては、誰がどうしようと同じものが出来上がるのかも知れません。しかし、それでもジミーの技能とテイスティング能力、長年に渡るブランド定義がなければ、今に至るワイルドターキー101の成立はなかったと言っていいでしょう。
そしてジミーは伝統を頑なに守るだけの男ではありませんでした。バーボン産業は70年代半ばに大きな波を受ます。俗に言う「白物」、ウォッカやジンの隆盛です。消費者の嗜好の変化もありました。昔ながらの「伝統」は「古臭い」と同義になり、バーボンを飲むことはクールでなくなったのです(今は流行っているのでクールと認識されています)。ジミーは多くの女性がバーボンを飲まないことに気づき、彼女たちにとって魅力的な製品を作りたいと思い、1976年にワイルドターキー・リキュールと呼ばれるフレイヴァー・バーボンを実験的に開発しました。それは「レッドスタッグ」や「ファイヤーボール」に先駆けること遥か前、バーボンが流行していなかった時代にジミーが模索した新しい消費者を引き付ける方法でした。今日、その製品は2006年以降ワイルドターキー・アメリカンハニーとしてリニューアルされ、多くの人のお気に入りとなっています。また、2000年代前半には、今や当たり前になりつつあるバーボン樽以外を用いた「後熟」の魁として、ワイルドターキー・シェリー・シグネチャーも造っていました。これはスコッチに親しんだヨーロッパ市場向けに試された変種のワイルドターキーで、10年熟成のターキーをスパニッシュ・シェリー・カスクでセカンド・マチュレーションした後、バーボンにオロロソ・シェリーを加えバランスを整えたものです。当時は斬新過ぎてウケませんでしたが、今こそ再評価すべき時ではないでしょうか。
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70年代後半からバーボン全体の売り上げは目に見えて減少し始めました。80年代から90年代にかけてアメリカのバーボン需要は底辺を迎えます。そこでバーボン業界のエグゼクティブたちが採った主な戦略は二つありました。一つはバーボンのプレミアム化。もう一つは現場監督の職人に過ぎなかったマスターディスティラーを外の世界にスターとして送り出し、バーボンがいかに優れているかを一般消費者へ啓蒙することでした。こうした動きが現在のバーボン人気の礎の一部となったのは疑うことが出来ません。
前者の好例は、エンシェントエイジ蒸留所(現在のバッファロートレース蒸留所)のマスターディスティラー、エルマー・T・リーが1984年にプロデュースした最初の大衆市場向けシングルバレル・バーボンであるブラントンズと、ジムビーム蒸留所のマスターディスティラー、ブッカー・ノーが1988年にプロデュースしたスモールバッチにしてバレルプルーフ・バーボンのブッカーズです。ジミー・ラッセルも負けじと、ブラントンズに対しては1994年にワイルドターキー初のシングルバレル・バーボンとなるケンタッキー・スピリットをリリースし、象徴的な101プルーフで満たしました。それはブラントンズを意識するような非常に華やかなボトル形状で、重厚なピューター製のキャップを備え、バレル情報が手書きで書かれたネックラベルが貼られました。まるでジミーが「私」のためにバレルを特別にハンド・ピックしたかのように。 そしてブッカーズに対しては1991年に6・8・12年熟成の原酒をジミーが独自に組み合わせたバレルプルーフ・バーボンのレアブリードをリリース。何の衒いもなくノー・ギミックのそのバーボンは、かつて盟友エルマー・リーに「ピュア・ジミー・ラッセル」と評されました。これらのプレミアムなワイルドターキーはかなりの成功を収め、蒸留所のポートフォリオの定番としての地位を確立し、現在でも販売され続けています。
後者に於いても、ブッカー、エルマー、ジミーらは国内外を旅してパブリック・テイスティングを行い、彼らの目を通してバーボンのストーリーを語ることによって、今日のバーボン人気の成長を促した最初の世代でした。今、ブッカーの息子フレッドやジミーの息子エディのような次世代、またその次の世代の旗手たちは彼らが切り拓いた道を歩んでいるのです。ちなみにジミーは自分が訪れたことのある国外のお気に入りの都市の一つに、ありがたいことに日本を挙げてくれています。
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ジミーは世界中でバーボンの王者のように扱われますが、本人は至って呑気に「あんたが見たまんまの、ケンタッキー州ローレンスバーグ出身のただのおっさんじゃよ(意訳)」と言います。そうした謙虚さは本物の人間が持つ特質であり、蒸留所への訪問客を迎えるジミーの柔和な笑顔は却って揺るぎない信念の証のように思えます。ジミーなしで現在のバーボンブームはなかったと言っても過言ではありません。彼はSNSのインフルエンサーではないかもしれませんが、もっと重要な羅針盤でした。バーボンの衰退期を乗り越え、アメリカが自らのネイティヴ・スピリットを再発見する過程の全てを見て来たのです。
去る2019年9月10日には、ジミーはワイルドターキー蒸留所での驚異の65周年記念日も既に迎えました。ケンタッキー州アンダーソン郡に長年住む人なら、彼が比類のない蒸留の専門知識だけでなく、驚くべき運動能力についても知っているだろう、と伝えられています。高校でのジミーは「ラッセル・ザ・マッスル」として知られており、彼に不得意とするスポーツはなく、バスケットボールやサッカーから陸上競技に至るまで数々の記録を破り(一部は40年間残っていたそうな)、アンダーソン郡高校を勝利から勝利へと導いたのだとか。こうしたアスリートさながらの基礎体力がジミーの頑固な職人気質や長年の勤務を可能にした源なのかも知れませんね。


さて、そろそろ今回のレヴュー対象に触れましょう。ダイアモンド・アニヴァーサリーはジミーの息子エディが父親へのオマージュとして厳選した13年と16年という長期熟成を経たバレルをブレンドして造られました。
よく知られた話に、ジミーは8年熟成程度のバーボンを好み、エディは12年以上の長期熟成も好む、というのがあります。ジミーは昔ながらの風味豊かなバーボンを愛し、オリジナルのワイルドターキー・プロファイルから遠く離れることを躊躇い、こう言います。「私たちは常に新しいものを試したいと思っていますが、ほとんどの場合は古い基準に戻ります」、と。彼の基準は明瞭でした。「バーボンは6~8年ほど熟成すると有効なマチュリングをしなくなると考えます。12年を過ぎる頃には多くのキャラメルやヴァニラなどのスウィートネスを失い、オーク材の風味が支配的になります。そして、私はウッディな味わいが多いのはあまり好きではありません」。これがジミーの個人的な好みであり、彼と同世代や上の世代のバーボン・ディスティラーの基準です。それにも拘わらず、エディが長期熟成のバーボンを混ぜて父親へのトリビュート・バーボンを作成したのは、そうするに十分な理由があったに違いありません。
ジミー自身が12年以下のバーボンが好きだと公言しているので、一部を除きワイルドターキーの提供する製品はそれより若いバーボンが殆どです。もしジミー好みの6~12年のバレルを選択してダイヤモンド・アニヴァーサリーを作成してしまうと、中核製品の一つであるラッセルズ・リザーヴから遠く離れた製品にするのは難しくなるでしょう。おそらくエディはワイルドターキーの標準ラインナップとは一線を画すバーボンを提供するために、長熟バレルにターゲットを絞ったのだと思われます。その意味で、このダイヤモンド・アニヴァーサリーは他のワイルドターキー製品とは対照的です。そして…。

エディは1981年からワイルドターキー蒸留所でアシスタントとして働き始めました。つまり、既に30年以上ものキャリアを誇る訳ですが、余りにも偉大なジミーと比較してしまうと「僅か」30年であり、自虐的?に「僕はニュー・ガイだよ」と笑います。また、エディは長い間自分の名前は「No」だと思っていたとも言います。なぜなら、ジミーに何か新しい提案をする度にそう言われたからだそう(笑)。エディ流の愛情あるジョークですね。
WMJのインタビューではダイヤモンド・アニヴァーサリーについて、「特別な原酒を探し出して、ジミーに内緒でブレンドしたものです。私自身が最高と思ったのは間違いないですが、ジミーが『よし』と言ってくれなければ製品化はできませんから(笑)、正直なところとてもドキドキしました」、と語っています。
そんなエディも2015年には正式にマスターディスティラーの称号を得ました。その年から限定リリースのマスターズ・キープ・シリーズも始まり、その他の中核製品でも主導的な立場となったことでしょう。こうした流れの前年にリリースされたダイヤモンド・アニヴァーサリーは、謂わばエディ・ラッセルが初めて世に出した自分自身のバーボン。エディによると、ブレンドに使われた13年原酒はまだ12年に十分近く、ジミーがあまり動揺しないよう逃げを打って選ばれたと言います。 そして後に16年のバーボンを加えることでワイルドターキー・スパイスをもっと与え、ユニークでありながら馴染みのあるワイルドターキーの表現に仕上がった自信作だと。これを飲む我々は、ジミーだけでなくエディにも祝杯を挙げない訳にはいきません。では、心して注ぐとします。

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WILD TURKEY DIAMOND ANNIVERSARY 91 Proof
BATCH NO. B14-0035
オレンジがかったブラウン色。黒糖、濃密なヴァニラ、ダークなドライフルーツ、接着剤、ハニーピーナッツ、古い木材、土。さらさらしつつなめらかな口当たり。ミディアム・ボディ。味わいはマジックインキと爽やかなフルーティさ(特にオレンジ)が同居。余韻はチャードオークとベーキングスパイスが支配的でややビター。
Rating:87.5/100

Thought:先日まで開けていたディスティラーズ・リザーヴ13年と較べることで、ダイヤモンド・アニヴァーサリーの個性は明確になった気がします。DAはDR13よりパンチのないテクスチャーですが、余韻のスパイス感は複雑でした。香りはDR13の方が甘いのに、口蓋ではDAの方が甘く感じました。そしてDAはDR13のような薬っぽいノートはなく、全体的に古びた木材のトーンを多く感じます。
101プルーフだったらもっと美味しかっただろうとはよく言われますが、エディ・ラッセルによればダイヤモンド・アニヴァーサリーはバレルプルーフに近いとのこと。ワイルドターキー蒸留所はバレル・エントリー・プルーフを2004年にそれまでの107プルーフから110プルーフへ、続いて2006年にも115プルーフへと変更しています。その理由が、そうしておかないと主力製品であるワイルドターキー101のプルーフと生産量を確保できないからとされるところからすると、ワイルドターキーの長期熟成原酒は案外プルーフ・ダウンする樽がけっこう多いのかも知れません。個人的にも、やはり101プルーフで飲みたかったとは思いますが、91プルーフでも特別なフィーリングは少なからずあるように思えました。

Value:ワイルドターキーの特別限定リリースの物は昔からパッケージングに拘った造りの物が多いです。本品もボトルや木箱などの包装のカッコ良さは画像でも伝わると思います。問題は価格ですよね。アメリカでは約125ドルで売られ始め、日本では発売当初17500円程度する販売店もありました。正直、定価では高過ぎるとは思います。ですが、今ではオークションを利用すれば10000円以下での購入も出来る時はあるでしょう。ただし、安定してその値段ではありませんので、仮にダイヤモンド・アニヴァーサリーが15000円、ディスティラーズ・リザーヴ13年が5000円なら、迷わずディスティラーズ・リザーヴ13を三本買うことをオススメします。私にはダイヤモンド・アニヴァーサリーの方が僅かに美味しいと感じましたが、飽くまで「僅か」だからです。ディスティラーズ・リザーヴ13年は長期熟成でありダイヤモンド・アニヴァーサリーと同じプルーフなので、日本人にとっては良い代替製品となり得るのです。また、疑似分割や単ラベルあたりの12年101がオークションで12000円位で購入出来るなら、そちらを買うほうがいいでしょう。味わいの満足度は上なので。とは言えダイヤモンド・アニヴァーサリーは、8年101やレアブリードとは異なるワイルドターキーの長期熟成の世界への入り口にするなら良いと思いますし、米国では36000本のリリースとされるのでタマ数も十二分にあり、また近年流通品なので限定品としては比較的入手が容易、そして何よりジミー・ラッセルへの愛情として購入するならアリだと思います。

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ヘヴンヒル蒸留所の旗艦ブランド、エヴァンウィリアムスの中でもレッドラベルは、バーボン好きは言うに及ばず、スコッチ中心で飲む方にも比較的評価の高い製品です。長らく輸出用の製品(ほぼ日本向け?) でしたが、2015年にアメリカ国内でもヘヴンヒルのギフトショップでは販売されるようになりました。日本人には驚きの120~130ドルぐらいで売られているとか…。日本では一昔前は2000円弱、今でも3000円前後で購入できますから、日本に住んでいながらこれを飲まなきゃバチが当たるってもんですね。

ところでこの赤ラベル12年、一体いつから発売されているのか、よく判りません。80年代後半には確実にありましたが、80年代半ばあたりに日本向けに商品化されたのが始まりなのですかね? 当時のアメリカのバーボンを取り巻く状況からすると、長期熟成原酒はゴロゴロ転がっていた筈です。その輸出先として、バブル経済の勢いに乗り、しかも長熟をありがたがる傾向の強い日本向けにボトリングされたのではないかと想像してるのですが…。誰かご存知の方はコメント頂けると助かります。
さて、今回は発売年代の違う赤ラベルを飲み較べしようという訳でして、画像左が現行、右が90年代の物です。赤の色合いがダークになり、古典的なデザインがモダン・クラシックと言うか、若干ネオいデザインになりましたよね。多分このリニューアルは、上述のギフトショップでの販売開始を契機にされたものかと思います。まあ、ラベルは措いて、バーボンマニアにとっては中身が重要でしょう。言うまでもなく、現行の方はルイヴィルのニュー・バーンハイム蒸留所、90年代の方はバーズタウンの旧ヘヴンヒル蒸留所の原酒となります。

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目視での色の違いは殆ど感じられません。強いて言えば旧の方が艶があるようにも見えますが、気のせいかも。

Evan Williams 12 Years Red label 101 Proof
2016年ボトリング。プリン、焦樽、ヴァニラ、バターピーナッツ、レーズン、莓ジャム、煙、足の裏。ほんのりフルーティなヴァニラ系アロマ。余韻はミディアムショートで、アルコールの辛味と穀物香に僅かなフローラルノート。
Rating:87/100

Evan Williams 12 Years Red Label 101 Proof
95年ボトリング。豪快なキャラメル、香ばしい樽香、プルーン、ナツメグ、チェリーコーク、チョコレート、ローストアーモンド、鉄。クラシックなバーボンノート。スパイシーキャラメルのアロマ。パレートはかなりスパイシー。余韻はロングで、ミントの気配と漢方薬、土。
Rating:87.5/100

Verdict:同じものを飲んでいる感覚もあるにはあるのですが、スパイシーさの加減が良く、風味が複雑なオールドボトルの方を勝ちと判定しました。現行も単品で飲む分には文句ありませんし、パレートではそこまで負けてはないものの、較べてしまうと香りと余韻があまりにも弱い。総論として言うと、現行の方は典型的な現行ヘヴンヒルの長期熟成のうち中程度クオリティの物といった印象。一方の旧ボトルも、バーズタウン・ヘヴンヒルの特徴とされる、海外の方が言うところのユーカリと樟脳が感じやすい典型的な90年代ヘヴンヒルのオールドボトルという印象でした。

Thought:全般的に現行品はクリアな傾向があり、対してオールドボトルは雑味があると感じます。その雑味が複雑さに繋がっていると思いますが、必ずしも雑味=良いものとは言い切れず、人の嗜好によってはなくてもよい香味成分と感じられることもあるでしょう。かく言う私も、実は旧ヘヴンヒルの雑味はそれほど好みではありません。両者の得点にそれほどの開きがない理由はそこです。

Value:エヴァン赤は日本のバーボンファンから絶大な信頼を寄せられている銘柄だと思います。確かに個人的にも、例えばメーカーズマークが2500円なら、もう500円足してエヴァン赤を買いたいです。またジムビームのシグネイチャー12年やノブクリークが同じ価格なら、エヴァン赤を選ぶでしょう。おまけにワイルドターキーのレアブリードよりコスパに優れているし。つまり、安くて旨い安定の一本としてオススメということです。もっとも、たまたま上に挙げたバーボンはどれも味わいの傾向は多少違うので、好みの物を買えばいいだけの話ではあります。参考までに個人的な味の印象を誇張して言うと、腰のソフトさと酸味を求めるならメーカーズマーク、香ばしさだけを追及するならノブクリーク、ドライな味わいが好きならレアブリード、甘味とスパイス感のバランスが良く更に赤い果実感が欲しいならエヴァン赤、と言った感じかと。
問題は旧ラベルと言うか、旧ヘヴンヒル蒸留所産の物のプレミアム価格の処遇です。個人的な感覚としては、上のThoughtで述べた理由から、仮に旧ボトルが現行の倍以上の値段なら、現行を選びます。確かに多くのバーボンマニアが言うように、旧ヘヴンヒル蒸留所産の方が美味しいとは感じますが、あくまで少しの差だと思うのです。それ故、私の金銭感覚では、稀少性への対価となる付加金額を、現行製品の市場価格の倍以上は払いたくないのです。ただし、その少しの差に気付き、その少しの差に拘り、その少しの差に大枚を叩くのがマニアという生き物。あなたがマニアなら、或いはマニアになりたいのなら、割り増し金を支払ってでも買う価値はあるでしょう。

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EVAN WILLIAMS COPPER STILL CERAMIC  7 Years 90 Proof
1981年に発売されたものと言われています。エヴァン・ウィリアムスが当時使っていた蒸留器を再現したものなのでしょうか。とは言え中身のジュースはポットスティルで蒸留したものではないです。甘いキャラメル香と、現行バーボンとは異質の雑味のある風味は、オールドボトルの醍醐味ではあるものの、どうもエグみが強くて苦手な味でした。もしかすると劣化してたのかも知れませんね。飾りに買ったのでいいですけど。
Rating:73/100


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EVAN WILLIAMS Black Label 8 Years 90 Proof
94年ボトリング。なんか松脂っぽい風味のする今ではあまりないタイプのバーボンでした。古いお酒は保管状況により味がだいぶ異なる気がします。劣化とまでは言いませんが、どうも本来の味ではなかったのではないかと思います。
Rating:81/100


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エヴァン赤12年PhotoGrid_1368531685676
EVAN WILLIAMS Red Label 12 Years 101 Proof
2009年ボトリング。逆算するとバーズタウンにあったヘヴンヒル・ディスティラリーが火事で焼失して、ルイヴィルのバーンハイム・ディスティラリーを買い取る間に蒸留された計算になるので、中身はブラウン=フォーマンの所有するアーリータイムズのプラントで蒸留されたものかなと想像します。なんとなくいつものヘヴンヒルより幾分かフルーティな気がするのは気のせいでしょうか。これは旨いです。
Rating:87.5/100


エライジャクレイグ12年DSC_1093
ELIJAH CRAIG 12 Years 94 Proof
95年ボトリング。あっさりしつつコクのあるタイプで、穀物感とフルーツ感、甘味とスパイシーさの加減、度数どれをとってもバランス型かなと思います。2000年代後期から2010年代初頭の物を飲んだ時も、その印象は変わりませんでしたが、僅かに90年代の物の方が美味しかった気がします。
Rating:86.5/100

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