バーボン、ストレート、ノーチェイサー

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バーボンの製品情報、テイスティングのメモ、レーティング、思考、ブランドの歴史や背景、その他の小ネタなどを紹介するバーボン・ラヴァーによるブログ。バーボンをより知るため、より楽しむため、より好きになるための記事を投稿しています。バーボンに興味をもち始めたばかりの初心者から、深淵を覗く前の中級者まで。なるべくハイプルーフ(情報量多め)かつアンフィルタード(正直)なレヴューを心掛けています。バーボン好きな方は是非コメント残して下さい!

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ジャズクラブはマーシィ・パラテラのアライド・ロマー(インターナショナル・ビヴァレッジ)のブランドで、おそらく80年代後半から2000年代に掛けて日本市場へ向けて輸出されていたと思われます。ジャズ・クラブというとミュージシャンの写真が色々と使われた12年、15年、20年の長熟物が知られていますが、それ以外にこのクラブハウス・スペシャルというNASの物がありました。これがどれくらいの期間販売されていたかよく判りません。画像も含め私が見たことのあるクラブハウス・スペシャルには、輸入者が河内屋酒販のもの、東亜商事のもの、インポーター・シールがないものがあります。個人的な印象としては、多分このラベルは後期にはリリースされてないような気がしています。そのせいなのか、年数表記のあるものよりオークションで見掛けることは少ないです。マーシィ自身はこのラベルを80年代にデザインしたと言っていたので、これがそもそものジャズ・クラブの姿なのかも知れませんね。販売時期などの仔細をご存知の方はコメントよりご教示ください。よく分からないことは偖て措き、上述の年数表記のあるジャズクラブのような同じブランドの名の元に異なる人物の写真を使用するコレクターズ・シリーズはアライド・ロマーの得意芸?であり、他にも西部開拓史を彩った象徴的なヒーロー達を揃えた「レジェンズ・オブ・ザ・ワイルド・ウェスト」、それらと同時代の荒くれ者やお尋ね者を揃えた「アウトロー」、それらほど熟成年数が高くない「ギャングスター」や「ブルースクラブ」、「R&B」や「ロックンロール」、「USAベースボール」等がありました。これらの中ではレジェンズとアウトローとジャズクラブの長期熟成物が頭一つ抜け出たプレミアム製品だったように思います。これらはどれもKBD(ケンタッキー・バーボン・ディスティラーズ、現ウィレット蒸溜所)がマーシィのためにボトリングしました。で、このクラブハウス・スペシャルの中身に就いてですが、例によって謎です。可能性としてマーシィが持ち込んだスティッツェル=ウェラーのバレルかも知れないし、KBDのストックからかも知れないし、異なるバレルのブレンドなのかも知れません。NASであることを考えると、年数表記のあるものよりクオリティは低いのではないでしょうか。聞いた話では、これがジャズクラブの中ではエントリー品と言うかスタンダード品と言う位置付けで値段も一番安かったらしいので。

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JAZZ CLUB Clubhouse Special 110 Proof
ハイ・プルーフから期待するほどフレイヴァー・ボムではありませんでした。と言うか、キャラクターが捉え難いところがあり、過剰にオーキーでもなく、フルーティさが全面に出るのでもなく、如何にも長熟ぽい渋さもないし、かと言って溌剌とした若いウィスキーだなぁという印象もないのです。マーシィのブランドにありがちなオールドなファンキネスはそれなりにありますが…。実際飲んでみても原酒の供給元は全く分かりません。色々なバレルのブレンドなのかしら? 飲んだことのある方はコメントから感想を教えてもらえると助かります。
Rating:83.5/100

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ミルウォーキーズクラブさんでの2杯目は、海外のレヴューを見て評判が良さそうだったので前から飲んでみたかったケンタッキー・アウル・ライ11年バッチ1にしてみました。日々追いきれないほどの新しいアメリカン・ウィスキーのブランドが誕生しているここ十年、歴史的なウィスキー・ブランドが復活を遂げることも少なくありません。ケンタッキー・アウルはそうしたブランドの一つであり、その背景に素晴らしい家族の物語と興味深い歴史をもつウィスキーです。そこで今回はこのブランドの現在までをざっくりと辿ってみたいと思います。

1870年代、ケンタッキー州の孤児だったチャールズ・モーティマー・デドマンは、アンダーソン郡のシダー・ブルック蒸溜所(RD#44)を経営していた養父のザ・ジャッジことウィリアム・ハリソン・マクブレヤーから結婚祝いとして、自分の蒸溜所とバーボン・ブランドを設立できるように必要な土地と資金を贈られました。彼の母メアリー・マクブレヤー・デドマンはジャッジの妹でした。1879年にチャールズによって設立され、C.M.デドマン蒸溜所またはケンタッキー・アウル・ディスティリング・カンパニーと知られた蒸溜所(マーサー郡第8区RD#16)は、ケンタッキー州オレゴン(ローレンスバーグの南方のサルヴィサから東へ数マイルの場所)のケンタッキー・リヴァーのフェリー乗り場近くにて操業していました。彼の蒸溜所は大きな蒸留所ではなく、1909年のマイダズ・ファイナンシャル・インデックスでは10000〜15000ドルのFランクだったそう。主な銘柄は言うまでもなくケンタッキー・アウルでした。チャールズは薬剤師でもあり、ハロッズバーグにドラッグストアも経営していました。彼が製造していた「THE WISE MAN'S WHISKEY」は単なるキャッチフレーズではなく、彼のビジネスの根幹をなすものとされ、知恵や知識の象徴である梟をアイコンにしたコンセプトは、人々が賢くアルコールを摂取できる、または摂取すべきだという彼の信念を表しており、ケンタッキー・アウルはローカル・シーンでは絶大な人気を誇ったと伝えられます。
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(オリジナルのケンタッキー・アウルのラベルと蒸溜所)
蒸溜所は禁酒法の影響から1916年まで操業した後に閉鎖。チャールズは1918年に死去しました。彼の義父母が宗教上の理由から酒類に反対していたため、蒸溜所は再開されることはありませんでした。蒸溜所が閉鎖された当時、ケンタッキー・アウルは将来の利益が見込まれる約25万ガロン(約4700バレル)の熟成段階の異なった「賢者のウィスキー」を貯蔵していましたが、残念なことに一部の不謹慎な連邦税務署員によって押収されました。バレルは艀で川を遡ってケンタッキー州フランクフォートに送られ、そこの政府の倉庫に保管されました。連邦政府はフランクフォートの安全な倉庫でウィスキーを見守る筈でした。しかし、禁酒法が全国的に施行された1919年の或る日の夜、倉庫は謎の火災に見舞われ、ウィスキーは一滴残らず倉庫と共に短時間で全焼してしまいます。奇妙なことにアルコールで満たされた建物にしては火災が数時間で済んだことで、ケンタッキー・アウルの全在庫もしくはウィスキーの大半は、活況を呈していたスピークイージーズに提供するため、アル・カポーンか他のブートレガーかは定かでないものの、組織犯罪によって事前に持ち去られていたのではないか、と当時の多くの人々は疑いました。上質なアメリカン・ウィスキーは、禁酒法期間中、この「ナイト・アウルズ」を存分に稼動させ、バスタブ・ジンに代わる金持ちの嗜好品として最高級の酒場で振る舞われていたらしいのです。禁酒法の厳格な条項により、デドマン一家はウィスキーの損失に対する補償を受けることが出来ず、家族は薬局の経営に戻り、往年のケンタッキー・アウル・ブランドは突如として終焉を迎えました。こうして他の多くのブランドと同様に、嘗て繁栄したブランドは人々の記憶から消え去って行くことになります。
ハロッズバーグのドラッグストアは同じく薬剤師だった息子のトーマス・カリー・デドマンが後を継ぎ、父の義理の両親に配慮して、禁酒法時代には処方箋によるウィスキーの販売を断ったと云います。それから約100年後、C.M.デドマンの玄孫がウィスキー事業を復活させる訳ですが、その間、デドマン家は宿の経営で名を馳せました。次はそちらの歴史を見て行きましょう。

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(WIKIMEDIA COMMONSより)
ケンタッキー州ハロッズバーグにあり、ゴッダード家とデドマン家の5世代が経営して来たボーモント・インは、南部の魅力とエレガントを体現するケンタッキー州で最も古い歴史的な宿です。この建物は元々は若い女性のための学校として使われていました。グリーンヴィル・スプリングスとして知られていた保養地の区画の一部に、1841年、サミュエル・G・マリンズ博士がグリーンヴィル・インスティテュートを設立しました。この土地は一旦は焼失しましたが、多くの公共心のある市民が再建を支援し、1855年まで運営されました。1856年にC・E・ウィリアムス博士とその息子のジョン・オーガスタス・ウィリアムス教授が周辺の地区を購入し、その年の暮れ、ドーターズ・カレッジと改名されます。ドーターズ・カレッジは、19世紀後半にケンタッキー州に設立された数少ない女子大学の一つで、女子に男子大学と同様のカリキュラムを提供しました。1844年に建てられた建物は、ドーターズ・カレッジのカタログには「エレガントなブリック・マンションで、80×52フィート、3階建て、風通しがよく、部屋の湿気を防ぐために中空壁で造られ、金属製の屋根やその他の手段で火災に対する安全が確保され、最も広々としたダイニングルーム、キッチン、バスルームがあり、1万ドルを掛けて完成し、100人の生徒を収容できるように準備されている」とあったそうです。ケンタッキー大学の元学長だったジョン・オーガスタス・ウィリアムスは、1892年までの40年近くに渡り学長を務め、指揮を執りました。 彼は時代を先取りした素晴らしい教育者であり、まるで自分の子供のように女学生達の教育を計画し、教授としてだけでなく父親代わりともなりました。南北戦争中、南部の裕福な家庭の多くは迫り来る戦争という敵対行為から逃れるために娘達をこの本格的な大学に送り込んだと云います。ヴァージニアンでトーマス・J・"ストーンウォール"・ジャクソン将軍の部下だった元南軍将校のトーマス・スミス大佐とその夫人が学校を購入すると、1894年にボーモント・カレッジと改名されました。フランス語で「Beaumont(ボーモン)」は「美しい山」という意味であり、これは建物が町で最も高い場所の一つに位置していたからのようです。ボーモント・カレッジでは「芸術、弁論術、音楽院、そしてアメリカやヨーロッパの一流校を目指すための強力な文学コース」を提供していたとされ、そのモットーは「エレガントな文化と洗練されたマナーに恵まれた誇り高き品性」でした。残念ながら再オープンしたボーモント・カレッジは、大幅な拡張のための基金がなく、1916年に閉鎖されました。閉校した後の1917年、アニー・ベル・ゴッダードとメイ・ペティボーン・ハーディンの2人の卒業生がこの建物を購入します。彼女達には自らが通った学校に思い入れがあったのでしょう。アニー・ベルは1880年にドーターズ・カレッジを卒業し、同カレッジで数学を教え、後に学部長も務めていた人でした。最終的にグレイヴとアニー・ベルのゴッダード夫妻がもう一人から権利を買い取って単独所有者となった後、彼女は1918年にこの建物をカレッジの元同窓生向けの宿に改装し、1919年にボーモント・インが誕生しました。インはすぐに「南部のおもてなし」で知られるようになり、この施設は歴史的な場所の一部となったのです。その後、アニー・ベルと前夫ニックの娘であるポーリーン・ゴッダード・デドマンが母の後を継いでインキーパーとなりました。このポーリーンの結婚相手がチャールズ・モーティマー・デドマンの息子トーマス・カリー・デドマンでした。この宿の経営は三代目のトーマス・カリー・"バド"・デドマン・ジュニアとその妻メアリー・エリザベス・ランズデル・デドマンが続き、更にその息子チャールズ・マイナー・"チャック"・デドマンとその妻ヘレン・ウィリアムズ・デドマンによって引き継がれて行きます。こうして凡そ1世紀に渡り、ゴッダード家とデドマン家の子孫が伝統を受け継いでボーモント・インの家族経営を続けました。
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(アニー・ベル・ゴッダード)
この宿は正に歴史に彩られており、学校として使われていた時代の本や写真、書類など、多くの芸術品が展示されています。入り口近くの部屋は学校の図書室だったそうで、チェリー材の本棚には、生徒や教師が使った古い本が壁一面に並んでいるとか。ホールには1934年にフランクリン・D・ルーズヴェルトがハロッズバーグを訪れオールド・フォート・ハロッズのジョージ・ロジャース・クラーク記念碑の奉納式に出席した際に使用したと言う大きな木製の椅子があったり、ゲストルームには家族が四方から受け継いだか或いは時のオウナーが収集したアンティークが置かれているそうです。レストランは南部料理を出すことで知られ、メニューにはカントリーハム、コーンプディング、フライドチキン、コーンブレッド、デザートなど、5世代に渡って受け継がれてきたケンタッキー州の特産品が並びます。当初はカントリー・ハムとフライド・チキンの2種類しかメイン・ディッシュがなかったそうですが、世紀を超える営業のうちに進化し、1949年にはアメリカの料理評論家ダンカン・ハインズに、ケンタッキー州で最高のレストランと評されました。今日のボーモント・インは、ジェームズ・ビアード財団から「時代を超越した魅力を持ち、地域社会の特徴を反映した質の高い料理で知られる」レストランに贈られるアメリカズ・クラシック・アワードを2015年に受賞したことで、ケンタッキー州を越えてその名を知られるようになりました。チャック・デドマンは、この栄誉は現在の宿主に与えられたのではなく、アニー・ベルや祖母や両親に遡る、ボーモント・インが長年に渡って事業を続けてきたことに対する評価だと語っています。また、サザーン・リヴィング・マガジンからは南部の魅力的な宿トップ20に選ばれるなど、他にも多くの賞を受賞しています。
しかし、常に順風満帆だったという訳でもなく、一時は経済的に苦しい時期がありました。冬になると客足が途絶え、宿は4か月間閉鎖されていたのです。そのため収益が落ち込み資金不足から大規模な改修は延期されていました。問題の一つはそのロケーションにありました。ハロッズバーグはバーズタウンのすぐ東でありフランクフォートのすぐ南というバーボン産地の真ん中にありながらドライ・カウンティだったため、蒸溜所を見学に来た人達がせっかくインに立ち寄っても、2000年代初頭までレストランではブラック・コーヒーを出すのが精一杯だったのです。風向きが変わったのは、第5世代のサミュエル・ディクソン・デドマンが2003年にワッフォード・カレッジを卒業し、家業に戻った頃のことでした。8歳の時から「お手伝い」をしていたディクソンは、大学在学中も夏季や休日に妹のベッキー・デドマン・ボウリングと共にボーモント・インで働いており、家業を継ぐことに疑問の余地はありませんでした。彼は卒業後1週間も経たないうちに宿の仕事をやり出したそうです。2003年、ローカル・オプション条例が可決され、それまで「ドライ」だったハロッズバーグはバーやレストランでのアルコール販売を許可する「モイスト」になりました。この法改正はデドマン家にとって歓迎すべきニュースであり、ディクソンはすぐにインのメイン・ダイニングで酒類を提供し始めると、オールド・アウル・タヴァーンの建設に取り掛かり、更にパブの雰囲気をもつアウルズ・ネストもオープンしました。タヴァーンは本館の南端に位置し、元々は馬車や荷馬車が保管されていた場所でした。言うまでもなくその名前は高祖父が造ったウィスキーに由来します。
https://www.facebook.com/oldowltavern
酒類をグラスで販売できるようになったことで、この場所の運勢は一変しました。地元の人々がこの店のバーに集まっただけでなく、近隣の蒸溜所を巡るウィスキー観光客がインに泊まるために列をなすようになり、2005年には通年営業となります。ハロッズバーグでの規制緩和の決定とディクソンの変革は、ちょうどバーボン業界が数十年に渡る需要の低迷から回復し始めた時期と一致していました。2000年から2010年の間にアメリカン・ウィスキー蒸溜所の収益は46%増加したと言います。新たにウィスキーに興味をもった人々がバーボン体験のために本場ケンタッキーへと押し寄せるようになったのです。ディクソンは2008年には宿の経営を全面的に手伝っていました。宿の財政が安定したところで愈よ彼は夢の実現に乗り出します。

「C・M・デドマン以来どの世代もこれをやりたがっていました」。「これ」とはファミリー・ラベルの復活に他なりません。ディクソンの父も祖父も屡々ブランドの再開に就いては話をしていましたが、それはたわいのない話に留まっていました。「私の祖父は、もし宝くじに当たったら二つのことをする、と我々に言っていました。先ずはリムジンを買う。そしてウィスキー・ビジネスを再開するんだ」と冗談半分に。幸いディクソンは人脈に恵まれました。インキーパーの友人であるマークとシェリィのカーター夫妻の協力を得ることが出来たのです。二人はワインメーカーとしても成功しており、2007年にエンヴィ・ワイナリーでの生産を拡大した後、プライヴェート・ラベルを作る新しい顧客を探していました。彼らは緊密な繋がりのある旅館経営コミュニティに目を向け、或る時、テキサス州オースティンで行われた旅館コンヴェンションで古い友人のディクソン・デドマンに会いました。マークはディクソンを赤ん坊の頃から知っており、彼の父親が1990年代にハロッズバーグ地区でのアルコール販売規制を解除するためのロビー活動を成功させるのを手伝ったことがありました。ディクソンはカーター夫妻が顧客を探していると聞きつけ、ボーモント・インのためのプライヴェート・ラベル作成に興味があると伝えました。しかしマークはデドマンのためにワインを造ることには関心がなく、寧ろディクソンの父チャックが酒類法改正のためにハロッズバーグを訪れていた時に聞いた話、即ち家族が嘗て所有していた蒸溜所がケンタッキー・アウルというバーボンを製造していたことの方に興味がありました。マークはワインを造って欲しいというディクソンのリクエストにこう答えたと言います。「問題なく君のためにワインを造ることは出来るよ。でもね、お父さんが話してくれた、君の家族のバーボン・ブランドを復活させる手助けをすることに我々はもっと興味があるんだ」と。何度かミーティングを重ねた後、カーター夫妻はコンプライアンスや資金調達の殆どを自分たちで処理し、シェリィのアーティストとしてのスキルをデザインに生かすことだって出来るとディクソンに確約しました。ウィスキーを販売するまでにはTTB、税金、ディストリビューターとの取引など人々が思っている以上に多くの困難がありますが、彼らはその全てを手伝えると言ったのです。ディクソンは、コストと時間の掛かり過ぎる自社蒸溜所を開設するのではなく、他の場所で蒸溜されたウィスキーを調達し、それを自身のラベルでボトリングすることに決めました。後はバーボンを見つけるだけです。友人のツテを頼ったのか自分で飛び込んだのか分かりませんが、おそらくバーズタウン地域を中心とする複数の蒸溜所からウィスキーを調達したと思われ、彼は十分な量の原酒を手に入れました。
ディクソンの恵まれた人脈の中にはフォアローゼズ蒸溜所のマスター・ディスティラーだったジム・ラトリッジもいました。同蒸留所で49年間も働いていたラトリッジは最も尊敬を集めるウィスキーマンの一人です。そこでディクソンは2010年頃から購入したウィスキー・バレルの5つのサンプルをラトリッジの自宅に持ち込んで評価してもらいました。しかしラトリッジの評価は芳しくなく、彼の回想によると「それらを試飲してみて、『これらを絶対にボトルに入れないようどう伝えるか』考えました。私はブレンドする必要があるかも知れないと言った」そうです。ブレンドはバレルの無限の組み合わせを試飲する大変な作業でしたが、ディクソンは夜になって宿を閉めた後、レストランの奥でテーブルに何十ものバレルのサンプルを並べ、熟成年数やアルコール度数、倉庫のどこに置かれていたかにも細心の注意を払いながら試行錯誤を繰り返しました。おそらくこの作業にはカーター夫妻も関与していたと思われます。そして何処かの段階で3人のパートナーズは、ウィスキーを二度目のバレルに注ぐダブル・バレル方式が有益だと考えました。「私たちはワイン造りのプロセスを取り入れました。この製品にもう少しオークを加えたかったのです」とシェリィ・カーターは語っています。これはバッチの一部に使用する原酒をニュー・チャード・オーク・バレル(もしくは前に別の蒸溜所のバーボンが入っていたユーズド・バレル)に再度入れるというものでした。この方法によって元のウィスキーは完全に変化したと考えられ、原酒の大部分が例えばヘヴンヒルやバートンもしくはブラウン=フォーマンで造られていたとしても、ボトリングされる頃にはかなり味わいは異なるものになっていたと思われます。ディクソン達が最終的にケンタッキー・アウルとなるバーボンの原酒を考え出すまでに数年を要しました。彼らは皆、ケンタッキー・アウルに頼らずとも人生で成功していたので、標準以下の製品でも売り出さなければならないプレッシャーはなく、製品が完成していないと思えば待つことが出来たのです。ディクソン・デドマンが一族の遺産を復活させることを決意してから約6年、チャールズ・モーティマー・デドマンが生産していたウィスキーを彷彿とさせながらも現代の消費者に十分アピールするモダンな風味を造り上げるための研究と実験を経て、漸くその名に相応しいスモールバッチのブレンドは完成しました。ボトリングとラベリングを担当したのは、パートナーシップを結んでいるストロング・スピリッツでしょう。
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(初期のケンタッキー・アウルのラベル)
2014年9月、ケンタッキー・アウル・バーボンのバッチ1はリリースされました。チャー#5とチャー#6のバレルに風味の多くを頼った5樽から、水を加えず、118.4プルーフで1250本のボトリング。ディクソンは家族と一緒にその最初の1本を先祖が埋葬されている墓地に持って行き、C・M・デドマンと失われたラベルを取り戻そうとしたその後の世代に乾杯したそうです。ケンタッキー州でのみ発売され、価格は1本160〜175ドルほどでした。マーク・カーターによれば「我々はこの製品は少し敬意を払うに値すると感じたので、プレミアム価格と思われるものを付けました。 ダブルオーキングをすることで、よりコストが掛かりましたしね」とのこと。 また「カット(※希釈。ボトリング前に最終製品に水を加える工程)すればもっと儲かるだろうと人々は言っていましたが、私達はそうしたことに全く興味がありませんでした。私たちはただ質の高い製品を造りたかった」とも語っています。当時、小売価格で150ドルを超えるバーボンは殆どありませんでした。いや、50ドルを超えるものすら少数でした。しかし、ケンタッキー・アウルがルイヴィル周辺の酒屋の棚に並び始めて僅か10日、または数週間でボトルはほぼ完売しました。誰もレヴューしないうちに、いつの間にかケンタッキー・アウルのボトルを買い求める人々が集まっていたと言います。セカンダリー・マーケットでは、フリッパーズ(転売ヤー)は店頭で買った値段の数倍もの値段を要求しました。ケンタッキー・アウルを後押しした要因は幾つかありました。先ず物語と伝統がありましたし、小売業者による初期の宣伝も功を奏したし、ウィスキーの調達先に関する謎も関心を高めたでしょう。そうした噂話やソーシャル・メディアのお陰でその名前は瞬く間に広まりました。ワイズマンズ・バーボンというキャッチーなフレーズとラベル・デザインも頗る魅力的で、個人的には人を惹き付けた要素だと思います。そして取り分け、適切な時期に適切な場所に居たことは大きな一因でした。ケンタッキー・アウルがデビューしたのは、バーボンの売上が50%以上急増したと言わる2012〜2017年の最中であり、経済の高揚で潤沢な資金をもつウィスキー愛好家が次の注目されるバーボンを手に入れるために追加料金を支払うことを厭わなかったタイミングでした。このウィスキーには何処か神秘性があり、品格があり、説明し難いクールな要素があり、「次のパピー・ヴァン・ウィンクル」と見做されれていた節もあります。ケンタッキー・アウル・バーボンは『ガーデン&ガン』誌のメイド・イン・ザ・サウス賞のドリンク部門に選出され、2014年12月/2015年1月号に掲載されました。このアワードは、現在の当該地域で作られている最高の製品を表彰するもので、各部門の優勝者と次点者はG&Gの編集者とゲスト審査員によって選出されます。アメリカのウィスキー市場が活況を呈し、次々と新しいバーボンが登場する中にあってケンタッキー・アウルは何かが違いました。但し、ディクソンは商業的に成功するウィスキーを造ることは決して計画していなかったと言っています。もともと彼はバーボンのコレクターであり、ボーモント・インで定期的にテイスティング会を開いて味の特徴や歴史について話すのが好きな愛好家ではありましたが、バーボンを副業として楽しめると思って始めただけで販売計画もマーケティング戦略もなかった、と。

2015年にバッチ2が発売された頃には、このブランドは既にバーボン愛好家の間で人気を博していました。バッチ2は、4年目にニュー・チャード・オーク・バレル(チャー#4と#5の両方)に詰め替えた約9年熟成の6つの異なる樽から出来ていて、最終的に117.2のバレル・プルーフでボトリングされ、バッチ1より若干多い1380本が生産されました。ディクソンとカーター夫妻は、ワインがヴィンテージ毎に異なるフレイヴァー・プロファイルがあるのと同じように、各バッチの味がユニークであることを望みました。シェリィ・カーターは「各バッチの出来栄えにとても満足しています。皆さんそれぞれにお気に入りのバッチがあるようです」と言っています。ディクソンも「バッチ毎に殆ど新しいスタートを切っています。それが私にとっては楽し」く、「毎年異なるヴィンテージが重要になるでしょう。 我々が造るどのバッチもユニークな品質が備わります」と言っています。アメリカン・ウィスキーの需要が爆発的に高まった時期にも拘らず、その後のロットも同様に限定されたものでした。ケンタッキー・アウルはバーボン界で最も人気のある新ブランドの一つへと急速に成長し、入手困難なスニーカーと同じようにほぼ全てのボトルが2倍、3倍、4倍の価格で転売されており、カルト的な人気を獲得しています。その影響からかそもそも小売価格も相当な値段で、ディクソンとビジネス・パートナーら3人は当然それが美味しく価値のあるものだと思っていましたが、小売業者はそれ以上の何かを見出し値付けしました。ディクソンは「蒸溜所も倉庫も持たずに小規模で何かをするには、かなりのお金が掛かります。それが価格がこのような値になっている理由の一部です。しかし、小売業者がそれに上乗せする金額は…かなりの額になります」と言い、小売店がどうするかは彼の手に負えないと語っていました。ちなみに、オールド・アウル・タヴァーンでは比較的安価で飲めるらしいです。余りに高額なウィスキーは、その価格故に厳しい目に晒されるでしょう。実際、価格を考慮してスコアを付けるレヴュワーの中にはケンタッキー・アウルを低評価にする人はいます。美味しいは美味しいのだが価格に見合うとは思えない、という訳です。あのバーボンの歴史家マイケル・ヴィーチですら、業界の試飲会でディクソンに会った時、「君のバーボンは好きですが、値段が気に入らない」と言いました。ディクソンは「少なくともウィスキーを気に入ってくれて嬉しい」と答えたとか。

2016年のサンクスギヴィング・デイの前、ディクソンはロシア人実業家ユーリ・シェフラーのオフィスから電話を受けます。ストリチナヤ・ウォッカで知られる世界的な飲料会社SPIグループからのケンタッキー・アウル・ブランドの買収話でした。シェフラーはポートフォリオを改善するためのホットなアイテムを探しており、ケンタッキー・アウルに興味を持ったのです。ディクソンはパートナーのカーター家に電話を掛け、真剣な買い手が接触して来たことを知らせました。カーター夫妻は当初、ブランドのシェアを売却することにまったく乗り気ではなかったと言います。しかし、最終的に取引は成立し、2017年1月に7桁台後半と噂される非公開の金額でこのブランドを売却しました。カーター夫妻は事業を去り、新しいプロジェクトのためにウィスキーのバレルを探し始めました。彼らの計画はケンタッキー・アウルをヒットさせた主要な要素の殆どを繰り返すことでした。どうやらカーター夫妻は小規模な生産に留まることを好むようで、シェリィ・カーターによれば、「私たちは何かを大量生産することに興味を持ったことはありません。量より質に誠実さがあると信じています」とのこと。そうして後にオールド・カーターというブランドを成功させる訳ですが、これは別のお話です。一方のディクソンは契約の一環でアンバサダー兼ブレンダーとして残りました。2017年1月25日、SPIグループの子会社ストーリ・グループUSAがケンタッキー・アウル・ブランドの流通、販売、マーケティング及び世界展開を引き継ぐと発表されました。SPIグループのドミトリー・エフィモフCEOは「アメリカン・ウィスキーを検討し始めた時、その複雑でありながら非常に滑らかな味わいからケンタッキー・アウルに惹かれました」、「オウナーと同席し、話を聞くうちに、私達はこのブランドの再生に熱意を持ち、SPIのウィスキー・ラインの頼みの綱のバーボンになるだろうという結論に達しました」と語っています。ストーリ・グループUSAのパトリック・ピアナ社長は「ケンタッキー・アウルは当社のプレミアムとラグジュアリーなブランドのポートフォリオにとって素晴らしい次のステップです。バーボンは最近目覚しい成長を遂げており、特にスーパー・プレミアムのサブカテゴリーに大きなチャンスがあると見ています」、「私はディクソン・デッドマンと共に、彼の家族が北米のブラウンスピリッツ消費者向けにカルト・バーボン・ブランドとして築き上げた信頼ある製品を加速させることを楽しみにしています」と発言しました。同社がこのウィスキーに力を入れるのに時間は掛かりませんでした。少量生産のスーパー・プレミアム・バーボンであるこのブランドはストーリ・グループUSAによってアメリカの主要都市にも進出して行くことになります。
2017年8月から9月に掛けてリリースされたケンタッキー・アウル・バーボンのバッチ#7は、販売地域が単一州からカリフォルニア、イリノイ、フロリダ、ケンタッキー、テキサス、ニューヨーク、テネシーの7州に拡大されました。バッチ#7は、13年以上熟成の11樽と、2年目にダブル・バレルドされた8~9年熟成の4樽から、118プルーフのボトリングで計2535本の生産とされています。ディクソンは「どのバッチもそうですが、私は特定のテイスト・プロファイルを念頭に置いて始めません。代わりに、そのフレイヴァーをフォローして、前のバッチよりもフロントにより甘みがあり、フィニッシュはより複雑でスパイシーな組み合わせに辿り着きました」と語りました。希望小売価格は200ドルだったようです。同じ頃、ケンタッキー・アウルに新しくライ・ウィスキーも発売されました。
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ディクソンはどうやら大量のライ・ウィスキーを手に入れるチャンスに恵まれたらしい(ライはその後の数年間で計4つのバッチが造られた)。バーボンのリリースとは異なり、ケンタッキー・アウル・ライに使用されたバレル数やボトル本数は明らかにされていませんが、このリリースには7000本以上のボトルがあると噂されていたり、一説には最初のバッチは45000本ほど造られたとされます。これはカリフォルニア、コロラド、コロンビア特別区、フロリダ、ジョージア、イリノイ、インディアナ、ケンタッキー、ルイジアナ、メリーランド、マサチューセッツ、ミシガン、ミネソタ、ミズーリ、ニューハンプシャー、ニュージャージー、ニューヨーク、ノース・キャロライナ、オハイオ、ペンシルヴェニア、サウス・キャロライナ、テネシー、テキサス、ヴァージニア、ワシントン、ウィスコンシンを含む国の半分の州でリリースされました。そして、ケンタッキー・アウル・ライはバレルプルーフでのボトリングではなく、加水調整されています。バッチ1のバッチ・プルーフは130くらいで、その後、ディクソンは自分好みのスウィート・スポットになるまでプルーフを下げて行き、最終的に110.6プルーフとなったそうです。ケンタッキー・アウル・ライの総ボトル本数が多いのは、バレル・プルーフでボトリングされていないことも一つの要因かも知れません。調達したライ・ウィスキーが何処産のものかも公開されていませんが、おそらくその出所はバートンだろうと多くの人に推測されています。10年を超すなかなか長熟なライ・ウィスキーというのは市場にそうそう出回っていません。だから、熟成年数だけから2017年の段階で11年物もしくはそれ以上の長熟ケンタッキー・ストレート・ライ・ウィスキーの在庫がありそうな蒸溜所を絞り込むことが出来る訳です。ユタ州のハイ・ウェスト蒸溜所は、長熟のバートン・ライを遠回りして手に入れ、ダブル・ライ!やランデヴー・ライ等に在庫がなくなるまでの間、使用していました。バートン蒸溜所は、2009年にサゼラックに買収される以前は柔軟なカスタム蒸溜をしていたそうです。そうした中で或る顧客にオーダーされ造ったのか、それとも気紛れもしくは実験的に蒸溜したものか、或いは古典的なレシピなのかは判りませんが、兎も角バートンには三つのライ・マッシュビルがあることが知られています。一つはケンタッキー・スタイルに準じた53/37/10です。もう一つは80/10/10で、これはブレンデッドに使用するフレイヴァー・ウィスキーとして造られたと思われます。残りの一つがコーンを含まない高モルトの65/35で、これはカーネルEHテイラー・ストレート・ライに使われていると根強く信じる人達がおり、或るウィスキー・レヴュワーはケンタッキー・アウル・ライのバッチ1を飲んだ後にEHテイラー・ライを試飲したら驚くほど似ていたと言っていました。当時バートンから調達可能だったのは53/37/10と65/35の2種類のライ・ウィスキーと見られるので、強ちなくはない感想かも知れません。但し、ディクソンは全てのライ・ウィスキーが一つの生産者のものではないことを仄めかしています。おそらく使われたバレルの大半はバートン蒸溜所からだと予想されますが、単一の蒸溜所からではないのなら、この時期に11年物(もっと古い原酒がブレンドされているという噂もある)のライを製造していた蒸溜所という観点から候補を絞ると、2000年代初頭にヘヴンヒルのライ・ウィスキーを何年も代行で蒸溜していたり、2004年頃からのミクターズ・ライ10年の供給元と見られるブラウン=フォーマン(旧アーリー・タイムズ・プラント)、2016年に発売されたブッカーズ・ライ13年やノブクリーク・ライの熟成されたストックを持っていた可能性のあるジム・ビーム蒸溜所、サゼラック18年用のライ・ウィスキーが余っていたのならバッファロー・トレース蒸溜所、2019年リリースのコーナーストーンは9年から最大11年の熟成期間とされているので、それに使用されなかった長熟ライが存在するならワイルド・ターキー蒸溜所、と言ったあたりでしょうか。また、そもそもディクソンは或るインタヴューで、調達したウィスキーを他の蒸溜所のバレルでフィニッシングを行うアイディアを説明しているそうですし、ケンタッキー・アウル・バーボンと同じようにニュー・チャード・オーク・バレルでフィニッシングさているのかも知れず、そうなると元のソーシング・ウィスキーの味わいはかなり変化していると見なければなりません。まあ、中身の詳細は藪の中なので措くとして、ケンタッキー・アウル・ライのバッチ1はライ・ウィスキー・ファンの間で最も高く評価され、熱狂的なファンもおり、それを示すような二次価格が付いています。
ケンタッキー・アウル・バーボンのリリース以上にその名を有名にしたのはライでした。ライの発売後、ケンタッキー・アウルは良い意味でも悪い意味でも爆発的に売れたと言います。悪い意味の方は転売ヤーに買い占められた、または愛好家がストックのために買い溜めしたという意味でしょう。ケンタッキー・アウルというブランドに対するウィスキー愛好家の評価は二つの陣営、つまり熱烈に賞賛する陣営と価格に嫌悪感を抱く陣営に分かれますが、嫌悪感陣営がケンタッキー・アウル全体を貶したとしても、称賛陣営からは「あぁ、でもライの最初のバッチは…」云々と言われることが少なくないとか。このようにバッチ1は今や伝説的な地位を獲得していますが、2017年に初めて発売された当時の120ドルは、多くの消費者にとって購入を見送るのに十分に高い価格でした。ところが2018年のバッチ2はボトル1本あたり80ドル高い約200ドルへと値上げされました。熟成年数はそのままでしたが、プルーフは101を僅かに上回る程度まで下げられたにも拘らずです。なぜこれほど大幅な値上げになったのかと愛好家達は困惑しました。そのせいか、バッチ2はケンタッキー・アウル・ライの全リリースの中で最悪の売れ行きとなったらしい。大幅な値上げはまた、まだ安いバッチ1を急いで買いに走らせる要因ともなりました。ぽつりぽつりと現れたレヴューでは、バッチ2よりバッチ1の方が優れていると指摘されました。2019年のバッチ3では、プルーフは上がりましたが(114プルーフ)、どういう訳か熟成年数が1年減って10年熟成となりました。価格は200ドルのままです。ディクソンの語る製法上、夫々のバッチは味わいが異なる筈なので、熟成年数の記載が変わったと言うことは主成分となる原酒が全く異なる蒸溜所のものになっていたり、或いは少なくともその割合には大きな変化があった可能性はあるのかも知れません。繰り返しますがケンタッキー・アウルは秘密のヴェールで覆われているので真相は想像するしかないです。中身のライ・ウィスキーが美味しくなかった訳ではありませんが、バッチ3が登場する頃には、あまりに高過ぎる価格と原酒に関する謎がこのブランドに対する不信感を生んでいます。そして、ケンタッキー・アウル・ライは2020年のバッチ4をもって終了することになりました。チューブに入れられ、その値段はなんと300ドルに値上げられました。廃止の理由は明らかにされていませんが、主成分となっていたバレルが尽きた、または仕入れ先がなくなったとかバレルが高過ぎて仕入れられなくなった、或いはディストリビューターが製品を販売する能力が急低下していることに気づいた等の幾つかの推測があります。

ストーリ・グループは、2017年1月にウィスキー事業参入の基盤としてケンタッキー・アウル・ブランドの権利を購入した後、11月になるとバーボンの首都であるケンタッキー州バーズタウンに1億5000万ドルを投じて新しい蒸溜所を建設する計画を正式に発表し(9月には既にプロジェクトが始動していることが報じられていた)、起工式を行いました。これは長期的には420エーカーの土地に、蒸溜所、ヴィジター・センター、クーパレッジ、リックハウス、ボトリング・センター、コンベンション・センター、釣りやレクリエーションのための淡水湖、レストラン、ホテル、年代物の旅客列車と鉄道駅などで構成される、まるでディズニーランドのようなケンタッキー・アウル・パークと呼ばれる複合施設をバーボン・トレイル最高の目的地として確立する壮大な計画でした。ここはジョン・ローワン・ブールヴァード沿いにあり、もともと石灰岩の採石場だった場所で、すぐ近隣にラックス・ロウ蒸溜所があります。
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一年後の2018年11月には、プリツカー賞を受賞した世界的に有名な建築家の坂茂率いるシゲル・バン・アーキテクツ(坂茂建築設計)に主要建物の設計を依頼して最先端のケンタッキー・アウル・パークを建設することを発表し、3Dレンダリングを公開しました。光を取り込んだピラミッド型の蒸溜所、石灰岩で濾過された澄んだ水を湛える湖、自然との繋がりを感じさせる敷地全体のデザインは息を呑むほど美しく、バーズタウンはおろか世界でも類を見ないものでした。
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2017年の発表の時は、蒸溜所を含むプロジェクトの第一段は2020年のオープンを目標に来年早々にも建設が開始、とされていました。2018年の発表の時は、この巨大プロジェクトは2020年に着工予定で完成までには数年を要する、とされていました。 ところが、聞くところによると、この計画は土地取得に関する障害にぶつかったとか、コストが大幅に上昇したとかで、物静かな状態が続き、人々はこの蒸溜所が本当に建設されるのか訝るようになりました。2021年の情報では、全体的な建設は来年開始される予定で、2022年にボトリング設備とバレル倉庫、蒸留所の建設は2024年に始まり2025年に完成予定、ホテル/コンサート・ホール/鉄道駅などは2026年以降になり完成は未定とされていました。2022年9月の情報では、来月から建設を開始し、2023年4月までにオープンする仮設ヴィジター・センターの建設を計画しており、訪問者はこの複合施設がゼロから建設されて行く様子を見ることが出来る、また複合施設の蒸溜所は約2年半以内に稼働を開始する予定とされていました。2023年の情報では、2025年後半に蒸溜所部分が完成する予定で、2029年に自社のスピリッツをブレンドの一部にすることを目標にしている、とありました。…と、まあ、このようにバーボンのディズニーランドであるケンタッキー・アウル・パークの建設は遅れています。いつ撮られたものか判りませんが、現時点でグーグル・マップの航空写真を見ても建造物は何も出来ていませんでした。完成は当分先になりそうなので、我々としては楽しみにしながら待つしかないでしょう。

蒸溜所の建設が進まない一方で、ストーリはケンタッキー・アウル・ブランドを更に拡大するため、2019年4月にケンタッキー・アウル・コンフィスケイテッドを発売しました。名前となった「Confiscated」は日本語では「没収」や「押収」を意味する言葉で、初期のデドマン家の「バーボン・ビジネスへの道を当分の間終わらせることになった」政府からの押収を指し、C・M・デドマンの遺産である二度と見ることも味わうことも出来なかったバレルに敬意を表して名付けられています。これまでのケンタッキー・アウルと違い、このバーボンはアメリカ全50州で販売できるほど大規模なリリースでした。96.4プルーフでボトリングされ、希望小売価格は750mLボトルで125ドルでした。
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ストーリのもとで4年間ブランドを率いてきたディクソン・デドマンは2021年にマスター・ブレンダー兼ブランド・アンバサダーの職を辞しました。自らの家族のブランドを離れることは、彼の人生で最も辛い決断でした。それでもそうしたのは概ね以下のような理由からでした。ディクソンとカーター夫妻によるケンタッキー・アウル復活が成功を収めた時、その事業に大手グローバル企業から参入の申し出がありました。しかし、ディクソンらは大企業の自慢の種になりたくはありませんでした。ブランド売却当時のストーリはまだ比較的小さな会社で、彼らは「あなたのヴィジョン、あなたの夢を活用してケンタッキー・アウルを成長させたい」と言いました。カーター夫妻は別の道を行きましたが、ディクソンはその提案を受け入れ、夢は実現しました。しかしその後、組織の性質全体が変わってしまいました。ストーリはグローバルな組織となり、ブランドを牽引するディクソンの能力を奪うようになりました。彼は自分の進む方向に誇りを持たなければならないと思い、ブランドを放棄するに至った、と。
ストーリを退社するとディクソンはすぐに、バーボンとウィスキーに重点を置きながらアルコール飲料業界に特化したアドヴァイザリー・サーヴィス(ワインとスピリッツ業界への合併、買収、戦略的思考に関する助言)も提供するバルク・スピリッツの大手サプライヤーであるブリンディアモ・グループにコンサルティング・リソースとして雇われました。アメリカン・ウィスキーの成長を支える原動力の一つである同社のクライアントには、エンジェルズ・エンヴィの共同創業者ウェス・ヘンダーソンやバーズタウン・バーボン・カンパニーの社長兼CEOマーク・アーウィンなど大物がいます。ディクソンもクライアントの一人として過去数年間、ブリンディアモの創業者ジェフ・ホプメイヤーやそのチームと関係を築いて来たので自然な流れでそうなったのでしょう。嘗てジェフはケンタッキー・アウルを「このウィスキーは、世界クラスの高級ブランドに仲間入りしてその地位を維持する可能性を秘めている。そういう名声がある」と評価し、彼の助言のもとストーリはケンタッキー・アウルを買収して物流の改善に投資することが出来ました。ディクソンのブリンディアモ参入の際に、ジェフは「ウィスキー業界が進化し続けていることを目の当たりにし、業界のニーズにより的確に応えるために今こそ彼を迎え入れるべき時だと判断しました」と語っています。 

ディクソンは業界でコンサルタントをしながらも、彼は別のウィスキー・ブランドを作ることに興味を持ち続けていました。そのチャンスは思いのほか早く、突然、訪れます。彼はブリンディアモ・グループで短期間働き、ブランド及び投資のコンサルティングの内情を垣間見ることが出来ました。オープン・マーケットを渡り歩くうちに、彼は主に利益を得る手段としてバーボンに興味を持つ熱心な投資家も見ました。現今のバーボン界隈には大量の資金が流入しており、ディクソンは多くの人からアプローチを受けます。個人投資家は白紙の小切手と投資の即時回収を条件に彼のもとにやって来ましたが、そうした提案は自分の仕事には上手く合致しない不誠実なものであると感じ、最適な機会が訪れるまで辛抱強く待つ必要があると思いました。ヴィジョンの違いからケンタッキー・アウルを離れたディクソンは、次の事業では地に足を付けた仕事をしようと決意し、新しいブランドと提携することを急いではいなかったのです。しかし、ディクソン・デドマンは常に適切な時に適切な場所にいる男でした。彼はフリーランスとしてブレンディングやコンサルティングを行うことを期待していましたが、程なくしてワインやスピリッツのインポーターであるプレスティッジ・ビヴァレッジ・グループから大量のバレルの備蓄をどうしたらいいかアドヴァイスを求められます。同社は、ケンタッキー州の2つの蒸溜所で契約蒸溜を行い、2015年から何年もの間寝かせた独自のマッシュビルのバーボンを数千バレル所有しており、加えて他のケンタッキー・ストレート・ウィスキーにもアクセス出来ました。彼らは自分たちが大きな間違いを犯したかどうかを知りたがっていました。その6年近く熟成したウィスキーを味わった瞬間、ディクソンはパートナーを見つけたと確信しました。彼は飲む前は4~5年熟成の基本的なものだと思っていましたが、実際に飲んでみるとそれは素晴らしいものでした。ディクソンはそのことを伝え、自分のアイディアを話しました。ディクソンには在庫が必要で、彼らと組めば市場に出回っている樽を追いかける必要もなく管理する必要もありません。プレスティッジ・ビヴァレッジにはコンセプトが必要でした。彼らはディクソンを信頼し、最初のミーティングから1時間以内にマスター・ブレンダーと彼らにとって初めてのアメリカン・ウィスキー・ブランドを手に入れることになります。ディクソンのケンタッキー・アウルに続く次のアイディアは「2XO」というブランドでした。この名前は「two times oak」を意味し、リリースされる全てのウィスキーを何らかの二次的なオーク材に晒す製法で造られています。2XOブランドは2022年の暮れに初めて発売され、現在ではオーク・シリーズ、アイコン・シリーズ、シングルバレルのシリーズで構成されています。毎日飲む用途として開発されたオーク・シリーズは、アメリカン・オークとフレンチ・オークがあり、常時販売され、約50ドル。全てのリリースが独自のフレイヴァー・プロファイルをもつと言う1回限りの限定品であるアイコン・シリーズには、発売順に言うとザ・フェニックス・ブレンド、ザ・インキーパーズ・ブレンド、ザ・トリビュート・ブレンド、ザ・カイワ・ブレンド、ザ・スニーカーヘッド・ブレンドがあり、価格は凡そ100ドル。手元にある最高のバレルから造られるシングルバレルのジェム・オブ・ケンタッキーは大体200ドル程度です。
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(S・D・デドマンと2XOのラインナップ。2XOのウェブサイトより)
2XOに使用されているバーボンは、ケンタッキー州にある二つの別々の蒸溜所から供給されており、一つはライ麦35%のマッシュビルで、もう一つがライ麦18%のマッシュビルとのこと。供給元は非公開ですが、おそらく35%の方はウィルダネス・トレイル蒸溜所、18%の方はバートン蒸溜所かバーズタウン・バーボン・カンパニーではないかと推測されたりしています。それと、聞くところによるとオーク・シリーズのアメリカン・オークでの「トゥー・タイムズ・オーク」のプロセスは、バーボンを2つめのバレルに入れ換えるのではなく、8〜10フィートのオークの鎖(ステンレス製のコードで何百もの焦がしたオークのブロックを纏めたもの)を元のバレルにバングホールから挿入して8ヶ月間放置されているそうです。これらの木製ブロックの表面積は、樽の内部と全く同じ表面積を再現するようになっているとか、或いは約75%に相当するようになっているとされます。なんだかメーカーズマークの46等に使われるインナー・ステイヴを漬け込む手法と似ていますが、鎖状にすることで表面積が増えてオークの影響も強く出るのでしょうか? ちょっと興味深いですね。まあ、それは兎も角…、ディクソンは若くスマートで、何よりブレンドの才能がありました。ウィスキーのイヴェント等を訪れると、ファンは彼を業界のスターとして扱い、サインや写真を頼むと言います。2XOがあっという間に躍進したのはディクソン・デドマンの名前があったからに違いないでしょう。

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一方のディクソンが去った後のストーリ・グループは、2021年6月にジョン・レア(*)をケンタッキー・アウルのマスター・ブレンダーに迎えたことを発表しました。レアは40年に渡る輝かしいキャリアを経た2016年にフォア・ローゼス蒸溜所のチーフ・オペレーティング・オフィサーを退任していました。彼は大学を卒業したあと僅か3日で同蒸溜所でのキャリアをスタートすると、長い在職期間中に品質管理、熟成、評価、製品のブレンドなどを担当し、定年退職するまでその職を離れることはありませんでした。業界への貢献により2016年にはケンタッキーバーボンの殿堂入りを果たしています。また、17年間、ケンタッキー・ディスティラーズ・アソシエーションの理事を務め、130年以上の歴史の中で5人しかいない終身会員の1人として栄誉に輝きました。「私が引退から復帰するきっかけとなったのは、ケンタッキー・アウルのバーボンとライの世話役を務める機会を得たからでした」とレアは語り、「私は長い間ケンタッキー・オウルの製品ラインナップには感心していたので、このような機会を得れて嬉しく思っています」とコメントしています。彼の役割は、その豊富な知識と専門技能を駆使して製品の一貫性と卓越性のために最良の条件を選択し、また同様に製品ラインナップを拡大する新しいブレンドを導入することでした。従来からのケンタッキー・アウル・バーボンの続きとなるバッチ#11もリリースしつつ、製品拡張の一環として、品質を求めながらも200ドルも払えないZ世代やミレニアル世代を取り込むため、ストーリはやや廉価な「ザ・ワイズマン」というブランドを立ち上げます。マスター・ブレンダーのジョン・レア監修のもと、2021年9月にバーボン、続いて2022年4月にライがリリースされました。ケンタッキー・アウルのウィスキーはコンフィスケイテッドを除いて全て限定リリースでしたが、それらのプレミアムでより高価な製品と区別するための新しいデザインのラベルが施されています。ザ・ワイズマン・バーボンは、4年熟成のウィーテッド・バーボンとハイ・ライ・バーボン、そしてケンタッキー産の5.5年熟成と8.5年熟成の4つの異なるストレート・バーボンのブレンドで、若い要素はバーズタウン・バーボン・カンパニーと提携して契約蒸溜されたものと言われています。ザ・ワイズマン・ライは、バーズタウン・バーボン・カンパニーで蒸溜されたライ95%のマッシュビルです。
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更にストーリは世界中の様々なウィスキー愛好家を引き付けることを目的とし、世界各地のブレンダーとコラボレーションするシリーズも始めました。その第一弾として、2022年のセント・パトリックス・デイ(3/17)に合わせて2022年2月に発売されたのがセント・パトリックス・エディションです。これはケンタッキー・アウルのレアと、アイルランド初の近代ウィスキー・ボンダー(**)であり、J.J.コーリー・アイリッシュ・ウィスキーの創設者であるルイーズ・マグアンによるコラボレーション。アイリッシュ・ウィスキーのボンディングは、19世紀から20世紀に掛けて一般的だったブレンド方法であり、当時は殆どのアイルランドの蒸溜所がウィスキーを製造し、ボンダーが熟成、ブレンド、瓶詰めしていました。1930年代にアイリッシュ・ウィスキー業界が崩壊すると、ボンディングは衰退しましたが、2015年にマグアンが再びこの伝統を復活させました。このウィスキーはブラインド・テイスティングによって選ばれた個々のカスク・サンプルから二人が共同でブレンドしたもので、最終的に4〜11年熟成のブレンドに落ち着きました。そこにはマグアンがターゲット・プロファイルのために赤い果実の香りに焦点を当て、多くのウィーテッド・バーボンが含まれていたと言われています。
2022年9月には、日本の長濱蒸溜所のブレンダー屋久佑輔とコラボした第二弾のタクミ・エディションが発売されました。これは新旧ブレンダーの技倆を融合させると同時にジャパニーズ・ウィスキーの目を通してケンタッキー・バーボンを紹介する試みでした。我々日本人には馴染み深い「Takumi(匠/工/巧み)」は、英語では「master」もしくは「artisan」の意味だと説明されています。レアは熟成年数とマッシュビルの異なる4種類の配合を作ってサンプルを日本に送り、屋久はそれらを品質査定したあと彼のジャパニーズ・ウィスキー・スタイルをベースに更にブレンドしました。パーセンテージは公表されていませんが、ブレンドされているウィスキーは4年、5年、6年、13年熟成のケンタッキー・ストレート・バーボンとされ、マッシュビルにはコーン、ライまたはウィート、モルテッドバーリーが含まれていると言われています。タクミ・エディションは25000本のリリースで、セント・パトリックス・エディションの12000本の倍以上がボトリングされたそう。
国際コラボレーションの3番目(にして最後)は2023年9月にリリースされたメイスター・エディションでした。「Maighstir」はゲール語で、英語の「master」に相当します。メイスター・エディションの目標は、様々なバーボンをブレンドすることで、スコッチのスピリット、エッセンス、そして可能であればフレイヴァーを表現することでした。コラボの相手はスコッチ界のモーリーン・ロビンソン。彼女は、スピリッツの巨大企業ディアジオに45年間勤務したヴェテランで、マスター・ブレンダーの称号を獲得した最初の女性の一人です。ジョニーウォーカー、オールドパー、ブキャナンズ等で仕事をし、ファンに人気のフローラ&ファウナのボトルやプリマ&ウルティマなどのスペシャル・リリースを手掛けた人物であり、そのキャリアの後期に手掛けたシングルモルトのシングルトン・ブランドを大いに発展させました。またロビンソンは、ウィスキー・マガジンの殿堂入りを果たしており、数少ないマスター・オブ・ザ・クエイヒ(***)にも任命されています。これらはスコッチ・ウィスキーの世界に多大な貢献をした人々を称える業界最高の大きな名誉です。レアとロビンソンは協力して、コーン、ウィート、ライ、モルテッドバーリーを含むマッシュビルのケンタッキー・ストレート・バーボンをブレンドし、スコットランド風(とされる)エディションを造り上げました。
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このコラボレーションは一つの章の終わりと次の章の始まりを意味していました。ケンタッキー・アウルで過去2年間マスター・ブレンダーを努めて来たレアが退職し、代わりにモーリーン・ロビンソンが同職に就くことになったのです。ロビンソンは2022年6月末にディアジオでのシングルモルトとブレンデッドのマスター・ブレンダーを引退し、好きなゴルフでもしてのんびりしようと思っていました。しかし、彼女のもとに仕事が舞い込みます。ケンタッキー・アウルは上述のようにこれまでに2度、他国のマスター・ブレンダーにその国のスタイルの「バーボン」を作るよう依頼していました。ストーリは2022年後半にロビンソンに連絡を取り、ブレンデッド・スコッチに関する彼女の専門知識を反映させた表現を創り出そうと考えました。ケンタッキー・アウルから最初に連絡を受けたのは、キーパーズ・オブ・クエイヒを通じてでした。その仕事がスコッチを彷彿とさせながらもバーボンの資質を失わないウィスキーの作成を手伝うことだと知って、ロビンソンはすぐに興味を唆られこれは面白いプロジェクトになると思いました。「以前にもスコッチをバーボンのような味にするよう頼まれたことはありますが、今回はその逆でした。バーボンをスコッチのような味にしようとしているんです」。結局、彼女はテイスティング・グラスから一歩も離れることは出来ませんでした。ロビンソンがこのプロジェクトを引き受けると伝えた後、ジョン・レアを紹介されました。彼はバーボン業界で最も経験豊かな人物の一人でしたが、スコッチの経験も少々ありました。二人はズームで何度も話し合い、メイスター・エディションのヴィジョンを磨き上げました。レアは作業に取り掛かると、スコッチのような味わいのバーボンを作るという珍しい目標に最も役立つと思われるサンプルを選び、ロビンソンのもとへ送りました。彼女はキッチンに座ってそれぞれの香りや味をカスク・ストレングスで試し、ブレンドを作るための基礎と枠組みを整えました。ブレンドの成分はスタンダードなストレート・バーボン3種類とウィーテッド・バーボン1種類の4つから構成されています。3種類のうちの1つは8~9年、2つめは5~6年、3つめは9~10年熟成され、ウィーテッド・バーボンが4~5年熟成。若いバーボンはライト・チャー、古いものはヘヴィ・チャーが施されたバレルから造られているとのこと。ロビンソンは、特にウィーテッド・バーボンのサンプルと、それがもたらすスコッチのような柑橘系の香りに感銘を受けました。「私にとって、これがスコッチを彷彿とさせるものでした」。そこで、彼女はウィーテッド・バーボンをベースとすることを決め、それからスコッチのブレンドの原則を適用して幾つかのブレンドを試しました。構成成分の中で最も古いものだった9~10年熟成のウィスキーはオークの香りが強く、彼女が考える典型的なバーボンの特徴に最も近いものでした。そこで、ロビンソンは9~10年物の比率を下げ、他の「スコッチらしい」要素の影響を強める必要があると考えてそれを試していました。ところが実際はまったく逆だったと彼女は言います。「ウィスキーの味が詰まってしまい、風味が殆どなくなってしまいました」。彼女はスコッチ・ウィスキーをブレンドする際にも似たような経験をしていました。常識的に考えれば、ピートのスモークはブレンドの味を支配してしまうので、多すぎるのは避けるべきでありそうです。しかし実際には、ピーテッド・スピリッツは他の要素の風味と香りを結び付ける一種の「調味料」として活用でき、ブレンデッド・スコッチも「スモーキーさがないと全く味気ないものにな」ってしまう、と。9〜10年物のオークの古めかしい風味もそれと同じような要素として現れたのでした。暫く試行錯誤を繰り返し、満足のいく出来になった後、彼女はレシピをレアに送り、彼が自分の側で再現できるようにしました。こうして、メイスター・エディションは誕生しました。ロビンソンは、このエディションを「柑橘系の香りとフローラルなグリーンの香り、そしてほんのりとした甘さとオークの風味が軽めのスタイルのスコッチを彷彿とさせますが、それでもバーボンの素質はすべて保たれています」と語り、「香りはスコッチから始まって、その後バーボンに変わります。味はバーボンのような味からスコッチのような味に変わります」と評しました。とは言え、このウイスキーからスコッチ、特にブレンデッド・スコッチの香りを嗅ぐには、想像力を働かせる以上のことが必要だともロビンソンは言っていますし、況してやこれはアイラ・ウィスキーを再現しようとするバーボンではありませんから、そういう意味でのスモーキーな香りは期待しない方がいいでしょう。この作品の制作と発売の間に、レアが再び引退することになっていたので、彼の役割をロビンソンが継ぐというアイディアが生まれました。そこでストーリはこのプロジェクトの終わりが近づいた時、彼女にケンタッキー・アウルのマスター・ブレンダーに興味はないかと声を掛けました。彼女は興味があると答え、その役を引き受けました。メイスター・エディション作成以前、ロビンソンのバーボンに関する知識は限られていました。彼女は何年も前に当時ディアジオ(UD)傘下のブランドだったレベル・イェールを飲んだことはありましたが、すぐにこのカテゴリーについてもっと詳しくならなければならないと思いました。最大の課題はアメリカン・ウィスキーに使われる多くのマッシュビルを理解することでした。それはスコッチ・ウィスキーではあまり一般的ではありません。「マッシュビルは違っても、風味豊かなブレンドを目指しています。バーボンを扱ったことはありませんでしたが、ジョン・レアと一緒にメイスター・エディションに取り組むうちに、そのニュアンスをすぐに理解できるようになりました。今後数年間、このブランドで何をするのか楽しみです」。他の汎ゆるブランドのアプローチを理解するため、世の中にある様々な種類のバーボンを把握しようとしているロビンソンですが、彼女は自分を暫定的なマスター・ブレンダーだと思っていると発言しており、レアと同様にあまり長くその職に留まるつもりはないようです。おそらく、そのうちもっと若い世代の誰かにバトンは受け渡されるのでしょう。

ケンタッキー・アウル・ブランドには、ここまでに紹介していない限定版があと2つあります。一つはケンタッキー・アウル・ドライ・ステイトです。これは1920年の禁酒法開始から100年が経過したことを記念(過去への反省)して、2020年9月にリリースされました。各ボトルは1920年代をイメージした美しい手作りのコレクターズ・ウッド・ボックスに入れられています。中身のジュースに関しては、これまでで最も古く最も希少な12年から17年熟成のケンタッキー・ストレート・バーボン・ウィスキーを使い、ディクソン・デドマンが4か月以上かけて完成させブレンドで、100プルーフにてボトリングされました。例によって他のケンタッキー・アウルと同様、ウィスキーの出所に就いては明らかにされていません。ロットのサイズは2000ボトルとされています。ケンタッキー・アウルは最初のリリース以来、高級ウィスキー・ブランドとしてその名を馳せ、忽ちカルト的な人気を博した一方で、値段の高過ぎるウィスキーとしても知られていますが、このドライ・ステイトの希望小売価格は驚きの1000ドルでした。ちなみに、パピー・ヴァン・ウィンクル23年ですら希望小売価格は300ドル(まあ、セカンダリー・マーケットではもっとしますが…)、ブラウン=フォーマンのスーパー・プレミアムな限定バーボンであるキング・オブ・ケンタッキーでも希望小売価格は250ドルです。流石にボトル1本あたり1000ドルという価格では飲める人が限られているせいかレヴューも少ないのですが、それらを見るとその価格を正当化する味わいではないとの評でした。発売時期もあってか、ドライ・ステイトは「COVID-19の悪影響でキャリアを棒に振ったサーヴィス業従事者の長期的な回復策を確立するための慈善事業」である全米レストラン協会の従業員向上基金に直接寄付するために、クリスティーズと提携して一握りのボトルがオークションに掛けられました。
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もう一つは、2022年11月に発売されたケンタッキー・アウル・ライ・バイユー・マルディグラXOラムカスク・フィニッシュです。これは11年熟成のライ・ウィスキーをベースとし、ルイジアナ州ラカシーンにあるバイユー・ラム蒸溜所(ルイジアナ・スピリッツ蒸溜所とも)のバレルを使用してフィニッシングしたもの。この蒸溜所はティムとトレイのリテル兄弟が長年の友人であるスキップ・コルテースと共に2013年に設立しました。彼らは、ルイジアナ州最大かつアメリカで最も古い現役の製糖工場から糖蜜を調達し、銅製のポット・スティルを使用して蒸溜しています。2016年6月にSPIグループがバイユーの株式の72.5%を取得したことでストーリ・グループUSAがバイユー・ラムの国内総代理店となり、その2年後に残りの株式を購入して完全子会社化しました。このリミテッド・エディションは、空になったばかりの38個のバイユー・マルディグラXOラム樽へ3月にライ・ウィスキーを入れ、1年以上かけて追加熟成されているとのことです。3月に再樽詰めする理由は、ウィスキーに長く、暑く、湿度の高い夏を与えることで、美味しい風味をより引き出すことが出来るからでした。バイユー・ラムのマスター・ブレンダーであるレイニエル・ヴィセンテ・ディアスは、ルイジアナの特徴的な気候の湿度がバイユー・ラムに素晴らしい効果をもたらすことを知っており、それをケンタッキー産のリッチなライ・ウィスキーにも応用してみた、と。ボトリングは102.8プルーフで、希望小売価格は500ドルでした。

偖て、現在までのブランドの歴史を辿ったところで、ケンタッキー・アウルのバッチ情報を纏めておきます。希望小売価格はUSドルで「約」です。詳細が不明の部分もあるので、追加情報や間違いの指摘はコメント欄よりどしどしお寄せ下さい。


【KENTUCKY OWL BATCHES】

KENTUCKY STRAIGHT BOURBON WHISKEY

Batch #1
Release Date : September 2014
Bottle Release : 1250 Bottles
Age : NAS
Proof : 118.4
4 年熟成時にチャード・ニュー・アメリカン・ホワイト・オークに再導入した5樽(チャー#2、チャー#3、チャー#4、チャー#5、チャー#6)のブレンドで、その風味はチャー#5とチャー#6のバレルに大きく依存していると言われています。

Batch #2
Release Date : September 2015
Bottle Release : 1360 Bottles
Age : NAS
Proof : 117.2
4 年熟成時にチャード・ニュー・アメリカン・ホワイト・オークに再導入した6樽(半分がチャー4、チャー5)のブレンド。バッチ2は9樽から始め、それらは全て4年目にチャーした新樽に再度入れ直したものでした。そして、この9樽から24種類の組み合わせのブレンドを造ってテイスティングを開始して、ブラインド・テイスティングを繰り返し、信頼できる人達にもサンプルを送って彼らがどのバッチを選ぶかを確かめると、最終的に全員が同じサンプルに戻り続け、それがバッチ2になったと言われています。

Batch #3
Release Date : December 2015
Bottle Release : 206 Bottles
Age : NAS
Proof : 107.8
Barrel #16 – Single Barrel (Blue Ink)
シェリィ・カーターによれば、このバッチはケンタッキー州ルイヴィルの新しいピアレス蒸溜所で造られたと言います。2年熟成時にチャー#4が施されたニュー・アメリカン・ホワイト・オークに再導入されたそう。

Batch #4
Release Date : December 2015
Bottle Release : 212 Bottles
Age : NAS
Proof : 116.8
Barrel #20 - Single Barrel (Red Ink)
2年熟成時にチャー#4が施されたニュー・アメリカン・ホワイト・オークに再導入されたそう。これもバッチ3と同じくピアレスなのだろうか?

Batch #5
Release Date : December 2015
Bottle Release : 194 Bottles
Age : NAS
Proof : 108
Barrel #12 - Single Barrel (Green Ink)
2年熟成時にチャー#4が施されたニュー・アメリカン・ホワイト・オークに再導入されたそう。これもバッチ3、4と同じくピアレスなのだろうか?

Batch #6
Release Date : September 2016
Bottle Release : 1634 Bottles
Age : NAS
Proof : 111.2
2~4年熟成の時にチャード・アメリカン・ホワイト・オークの新樽に再導入された8樽から構成され、熟成年数は8~11年。別の情報源では、1つのバレルで熟成されたバーボンと2つ目のニュー・チャード・オーク・バレルで熟成されたバーボンのミックスで、両タイプの熟成年数は4〜7年、という説もあった。「このウィスキーがヘヴンヒル産であること、特に78%コーン、10%ライ、13%バーリーのマッシュビルから造られたことに私は賭ける」と或るレヴュワーは言っていました。

Batch #7
Release Date : August 2017
Bottle Release : 2535 Bottles
Age : NAS
Proof : 118
MSRP: $200
15樽のブレンドで、そのうち4樽は2年目に新樽に投入された8〜9年熟成、残りの11樽は13年もしくはそれ以上の熟成とされています。

Batch #8
Release Date : July 2018
Bottle Release : 9051 Bottles
Age : NAS
Proof : 121
MSRP: $300
バッチ8は、5年、8年、11年、14年熟成のブレンドとされています。

Batch #9
Release Date : October 2019
Bottle Release : 10314 Bottles
Age : NAS
Proof : 127.6
MSRP: $300
バッチ9は、これまでで最も高いプルーフです。4つの異なるマッシュビルを使用し、6〜15年の幅広い熟成年数のものをブレンドしているそう。

Batch #10
Release Date : October 2020
Bottle Release : ????? Bottles
Age : NAS
Proof : 120.2
MSRP: $300
ネット上に中身の情報が見当たりませんでした。

Batch #11
Release Date : ???? 2021
Bottle Release : ????? Bottles
Age : NAS
Proof : 118.8
MSRP: $300
バッチ11は、マスター・ブレンダーのジョン・レアによって丁寧に造られ、6年から14年までの特別に熟成されたバーボンを使用したブレンドとされています。

Batch #12
Release Date : November 2022
Bottle Release : ????? Bottles
Age : NAS
Proof : 115.8
MSRP: $400
バッチ12は、マスター・ブレンダーであるジョン・レアが注意深く造り上げた、4~14年のよく熟成された力強いバーボンを使用したブレンドとされています。

KENTUCKY STRAIGHT RYE WHISKEY

Batch #1
Release Date : September 2017
Bottle Release : ????? Bottles
Age : 11 Years Old
Proof : 110.6
MSRP: $120

Batch #2
Release Date : June 2018
Bottle Release : ????? Bottles
Age : 11 Years Old
Proof : 101.8
MSRP: $200
バッチ2はバッチ1よりもバッチ量が少なくなっているそうです。2018 年 6 月に、アリゾナ、カリフォルニア、コロラド、コネチカット、コロンビア特別区、フロリダ、ジョージア、イリノイ、インディアナ、ケンタッキー、ルイジアナ、メリーランド、マサチューセッツ、ミシガン、ミネソタ、ミシシッピ、ミズーリ、モンタナ、ネヴァダ、ニュー・ハンプシャー、ニュー・ジャージー、ニューヨーク、ノース・キャロライナ、オハイオ、オレゴン、ペンシルヴェニア、ロード・アイランド、サウス・キャロライナ、テネシー、テキサス、ユタ、ヴァージニア、ワシントン、ウィスコンシン、ワイオミングの各州の市場にリリースされました。

Batch #3
Release Date : August 2019
Bottle Release : ????? Bottles
Age : 10 Years Old
Proof : 114
MSRP: $200

Batch #4
Release Date : ???? 2020
Bottle Release : ????? Bottles
Age : 10 Years Old
Proof : 112.8
MSRP: $300
バッチ#4は「最後のライ麦(The Last Rye)」と呼ばれ、10〜13年熟成のライのブレンドとされています。

SPECIAL LIMITED EDITION

Kentucky Owl Dry State
Release Date : September 2020
Bottle Release : 2000 Bottles
Age : NAS
Proof : 100
MSRP : $1000
これまでで最も古く最も希少な12年から17年熟成のケンタッキー・ストレート・バーボンのブレンド。

Kentucky Owl Bayou Mardi Gras XO Cask
Release Date : November 2022
Bottle Release : ???? Bottles
Age : 11 Years (Finished an additional 1 year in Bayou Mardi Gras XO Rum casks)
Proof : 102.8
MSRP : $500
マルディグラの精神とルイジアナの誇りを祝した限定版。11年間熟成されたストレート・ライ・ウィスキー
を選りすぐりの希少なバイユーXO樽で更に1年間寝かせたもの。

INTERNATIONAL COLLABORATION

St. Patrick’s Edition
Release Date : February 2022
Bottle Release : 12000 Bottles
Age : NAS
Proof : 100
MSRP : $135
アイリッシュ・ウィスキーとケンタッキー・ウィスキーを結びつける長年の絆を記念した限定版。アイリッシュ・ウィスキーのボンダーであるルイーズ・マグアンと提携し、彼女の技術をマスター・ブレンダーのジョン・レアとのコラボレーションに生かした、4年から11年熟成のケンタッキー産ストレート・バーボンのブレンド。もしくは4年から12年熟成と言われているのも目にしました。

Takumi Edition
Release Date : September 2022
Bottle Release : 25000 Bottles
Age : NAS
Proof : 100
MSRP : $135
ジャパニーズ・ウィスキーのブレンダーが求めるフレイヴァー・プロファイルを世界のウィスキー愛好家に提供する限定版。ケンタッキー・アウルのマスター・ブレンダーであるジョン・レアと、日本の滋賀県にある長濱蒸溜所の新進気鋭のチーフ・ブレンダー屋久佑輔とのコラボレーション。日本のウィスキー造りの技術を反映した、4年、5年、6年、13年熟成のケンタッキー・ストレート・バーボンのブレンドで、マッシュビルにはコーン、ライまたはウィート、モルテッドバーリーが含まれていると言われています。

Maighstir Edition
Release Date : September 2023
Bottle Release : ????? Bottles
Age : NAS
Proof : 100
MSRP : $150
アメリカとスコットランド両国の豊かなウィスキーの伝統に敬意を表した限定版。バーボンとスコッチのマスター・ブレンダー2人によるコラボレーション。コーン、ライ、ウィート、モルテッドバーリーを含むマッシュビルからなる、4年、5年、8年、9年熟成のケンタッキー・ストレート・バーボンのブレンド。

NOT LIMITED RELEASE

Kentucky Owl Confiscated
First Release : April 2019
Age : NAS
Proof : 96.4
MSRP : $125
アメリカ全50州で販売された最初のケンタッキー・アウル製品。創業者C・M・デドマンが政府に押収された熟成バーボン樽に敬意を表して名付けられました。このバーボンは非公開の蒸溜所から仕入れたもので、マッシュビルも非公開。幾つのバッチがあるのかも不明で、バッチ・サイズ(ボトル本数)も不明。少なくともラベル的には2タイプ確認でき、火災の絵が色無しと色有りがあり、前者はボトリングの所在地がバーズタウン、後者はラカシーンになっていました。

The Wiseman Bourbon
First Release : September 2021
Age : NAS
Proof : 90.8
MSRP : $60
ジョン・レアのもとで初めてパーマネント・リリースされた製品。ワイズマン・バーボン・ウィスキーは、バーズタウン・バーボン・カンパニーとケンタッキー州の非公開の蒸溜所から選ばれた4種類のそれぞれ4年、5.5年、8.5年熟成のケンタッキー・ストレート・バーボンのブレンドとされています。

The Wiseman Rye
First Release : April 2022
Age : NAS (Aged at least 4 years based on label requirements set by TTB)
Proof : 100.8
MSRP : $60
ワイズマン・ライは、バーズタウン・バーボン・カンパニーによって蒸溜されたライ麦95%マッシュビルのケンタッキー・ストレート・ライウィスキー。


では、最後にケンタッキー・アウル・ライ・バッチ1を飲んだ感想を蛇足で。

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KENTUCKY OWL RYE 11 Years 110.6 Proof
BATCH NO. 01
BOTTLED : 07 / 2017
甘い香りにうっすらハーブ香が混じり、オークの熟成香もあります。味わいはけっこう薬のようなハーブが効いていて、フルーツやウッディなスパイス、草や土っぽさも少し感じられ複雑。余韻はややビターになって引き締まって行きます。噂に違わず美味しかったです。しかし、期待が大き過ぎたのか、そこまで感銘を受けるほどではありませんでした。長熟ライという観点で以前飲んだサゼラック・ライ18年と較べると、そちらの方がドライフルーツが濃厚で美味しく感じました。熟成年数はだいぶ違いますが、同じケンタッキー・ライであり、ボトリング・プルーフの似ているパイクスヴィル6年と較べてみても、単純にケンタッキー・アウルが上とは言い切れない感じがしました。それらよりこちらの方がハービーな傾向が強く、好みの分かれるところなのでしょう。本来ならボトル1本とじっくり向き合いたいライであり、そうすればもっと色々な飲み方も出来て楽しめ、点数も上がったような気がします。
Rating:87.5〜88/100


*「Rhea」をここでは「レア」と表記しましたが、人や国によっては「レェー」もしくは「レイ」、または「リア」と書いた方が近い発音をされています。

**ウィスキーの人気が急上昇した19世紀から20世紀初頭に掛けて、アイルランドの殆どの町にはウィスキーのボンダーがいました。これは平たく言えば、蒸溜所から直接ウィスキーを購入する許可を得た商人のことです。蒸溜所は今日のように生産物をボトリングして販売までしていた訳ではありません。アイリッシュ・ウィスキーの黄金時代、アイルランドには何百もの蒸溜所がありましたが、当時その多くは自社ブランドのウィスキーをもたず、新しいウィスキー原酒を製造するとボンダーにバルク販売していました。ボンダーには酒場の主人、食料雑貨商人、商館主など様々な人々が含まれていました。ウィスキーの完全性を維持するためには専門知識と細心な注意が必要であり、彼らは高品質のウィスキーを調達し、厳格な品質管理基準を守り、熟成状況を綿密に監視する職人でした。そうした知識をウィスキー業界で長年の伝統を誇る一族から受け継いだボンディング職人もいれば、見習い期間や蒸溜所での前職を通じて学んだ職人もいました。これらのボンダー達は自分の樽を持って地元の蒸溜所まで行き、その樽にニュー・メイクを詰めて家に持ち帰り、自分のボンデッド・ウェアハウスで熟成させてから、地元のホテルや個人の顧客向けに個別のブレンドをボトリングしました。往時、ボンダーはアイルランドのどの町にも数多く存在し、彼らの実践的なアプローチは地域社会からの信頼を築き上げ、地域ごとに個性的なスタイルのアイリッシュ・ウィスキーが数多く生まれたと言います。しかし、アイルランドが大英帝国から分離し、アメリカで禁酒法が施行されると、ボンダーの事業も縮小して行きました。残念ながら1930年代にアイリッシュ・ウイスキー産業が崩壊すると、僅かに残った蒸溜所はボンダーへの供給を打ち切り、アイリッシュ・ウイスキーに於けるボンディングの伝統はほぼ途絶えてしまいました。その伝統を復活させ、アイリッシュ・ウィスキーの新時代を切り拓いた一人がルイーズ・マグアンです。2015年、酒類業界で長年働いて来た彼女は、カウンティ・クレアのワイルド・アトランティック・ウェイ沿いにあるマグアン・ファミリー・ファームにボンデッド・ラックハウスを建設しました。そして、ウィスキー探求の途上で発見したJ・J・コーリーの先駆的な伝説にインスピレーションを受け、その名を使ってブランドを創設しました。マグアンとそのチームは、アイルランド島全土の蒸留所からスピリッツを調達し、世界中の樽を使用して他では不可能なユニークな風味を実現するために、比類なきフレイヴァー・ライブラリーを構築しています。
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***クエイヒ(Quaich)は17世紀頃からスコットランドで使われていた両端に取っ手のある金属製の杯。両手を使って飲むため武器を持っていないことを示し、友好の証としても用いられて来たと云います。ガラス製のコップが普及してからは主に儀式で使用されるようになり、今ではスコットランドのウィスキー文化の象徴として知られています。マスター・オブ・ザ・クエイヒやキーパーズ・オブ・ザ・クエイヒに就いて詳しくは下記を参照。
https://www.keepersofthequaich.co.uk/
https://www.ballantines.ne.jp/scotchnote/69/index.html

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ミルウォーキーズ・クラブさんでの始めの一杯は軽めのライにしました。マーティン・ミルズ・ライです。マーティン・ミルズと言うと24年物のプレミアム・バーボンが有名ですが、それは例外的であって、基本的にこのブランドはボト厶シェルファーのカテゴリーに入ります。ブランドの起源は良く分かりません。かろうじて、初期ヴァージョンは1959年に初めて発売され、ヘヴンヒルはその数年後に国内および輸出品として販売をした、と云う情報はありました。私はその初期の物は画像でも見たことがないです。画像検索で見つけられた比較的古い物では、上述の1999年にボトリングされた24年熟成の物以前、90年代と思しき輸出品の80プルーフでボトリングされたNASの物がありました。既にこの頃にはアメリカ国内では販売されておらず、輸出専用になっていたのではないかと思います。2000年以降でも小売価格の安い最下位のボトルは引き続き販売されていました。また、2010年頃にはアーティストのSHAGがデザインしたオリジナル・ラベルの物があり、ミッドセンチュリーのカルチャーが好きな人には好評でした。これは普通のラベルのマーティン・ミルズより100円ほど高かったらしいです。
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で、このライですが、おそらく2000年代半ば頃に流通していたものと思われます。これまた画像検索しても海外物が発見できなかったところからすると、日本への輸出のみなのかも知れません。と言うか、(24年物を除外した)マーティン・ミルズというブランド自体、酒販店のやまやの専売なのかも? 仔細ご存知の方はコメントよりご教示下さい。偖て、次に中身に関してですが…、こういったマイナーなブランドと言うか最下層製品は、宣伝費用を掛けてもらえないため、バックストーリーは語られませんし、製品情報も朧げです。勝手に憶測するに、まだライ・ウィスキーの人気が爆発する前ですから、ヘヴンヒルが年に1日だけライを蒸溜していた当時の少量生産で、地域限定販売だったリッテンハウス・ライの80プルーフやパイクスヴィル・スプリームと大差ないのではないかと思われます。或いはそれらに選ばれなかった樽から造られてるのかも知れない。多分、熟成年数は3〜4年程度でしょう。ヘヴンヒルによると現在の彼らのスタンダードなライ・マッシュビルは51%ライ、35%コーン、14%モルテッドバーリーとのことですが、少し前の情報源だと51/39/10や51/37/12としているものもあるので、もしかすると時代による変遷があった可能性はあります。また、2000年代半ばのボトリングで熟成年数が3〜4年なのが正しいのならば、蒸溜時期は2000年代の初め頃となります。バーボニアンにはよく知られるように、1996年11月9日、アメリカン・ウィスキー史上最大最悪の火災が発生し、バーズタウンのヘヴンヒル蒸溜所は焼失しました。そこでヘヴンヒルは暫くの間、他の蒸溜会社を頼り、ジムビームやブラウン=フォーマンに契約蒸溜をしてもらいました。ヘヴンヒルは1999年にルイヴィルのバーンハイム蒸溜所をディアジオから購入して蒸溜を再開するのですが、生産調整のためかこの契約蒸溜は2008年まで続き、この間ヘヴンヒルのライ・ウィスキーは全てブラウン=フォーマンの元アーリータイムズ・プラントで製造されていたとされます。なので、このマーティン・ミルズ・ライもブラウン=フォーマンが蒸溜したものなのかも知れません。マッシュビルはヘヴンヒルが指定したものと思われるので、上記の何れかでしょう。
そして、なかなかに目立つイエローのラベル、個人的には好きですね。今ではライと言えばグリーンを使ったラベルが一般的となっていますが、マーティン・ミルズ・ライがリリースされた時分はまだそうではありませんでした。おそらく昔のジムビーム・ライのイエロー・ラベルに倣ったのではないでしょうか。そう言えばライに限らず、フォアローゼズも従来象徴的だったイエロー・ラベルが何時の間にかベージュに変化し、アーリータイムズのイエロー・ラベルは消滅しています。新しいアメリカン・ウィスキーが続々と誕生している昨今、イエローのラベルと言うとストラナハンズくらいしかパッとは思い付きません。現代のアメリカン・ウィスキー業界では何故こんなにもイエローの人気がないのでしょうか? 現代アメリカ人には古臭いか安っぽい印象を与える色なのかしら…。まあ、それは扨て措き、最後に飲んだ感想を少しばかり。


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Martin Mills Rye 80 Proof
推定2007年ボトリング(瓶底)。ややミンティな香り。しかし、キャラウェイやフェンネルのようなハーブは感じることが出来ない。ドライな味わい。若くて穀物っぽいところが荒々しい印象を残す。新樽由来のバーボンに近しい香味の方が優勢な感じ。全体的にライ・フレイヴァーは希薄で口当たりも軽いが、それは始めの一杯としてこちらの意図通りなので不満はない。また、ハイボールには向いていそう。
Rating:78/100

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(画像提供MILWAUKEE'S CLUB様)

先日、久々にバーボン遠征に行ってきました。今回お邪魔したのは、バーボン・マニアには言わずと知れた埼玉県は川口の名店ミルウォーキーズ・クラブさん。バーボン600種を含む1000種類を超えるウィスキーを取り扱うその品揃えは圧巻で、バーボンに関しては関東随一と昔から目されています。実際に目にしてみると、80年代後半から90年代初頭に日本へ輸入され、現在ではユニコーンとされるバーボンの品揃えは特に凄まじいです。また、お店オリジナルのメモリアル・ボトルや蒸溜所とコラボしたスペシャル・ボトル、独自にピックされたシングルバレルのボトル等も、当然ながら豊富にあり、それらを目当てに伺うお客さんも多いようです。しかし、このお店の魅力は、希少なバーボンが飲めるだけに留まらず、オウナーの白井慎一さんその人にもあるでしょう。白井さんは、リード・ミテンビューラーの名著『Bourbon Empire : The Past and Future of America's Whiskey(バーボン帝国─アメリカのウィスキーの過去と未来)』を翻訳した我々にお馴染みの日本版『バーボンの歴史』(原書房)の監訳[※出版翻訳や学術論文などで、監修の役割で全体を査読し、内容や翻訳に間違いがないかを最終的にチェックすること]を担当し、これまた我々にはお馴染みの『ザ・ベスト・バーボン』と『バーボン最新カタログ』(共に永岡書店)に関わっていたり、ウィスキーのコンペティションの審査員を務めたり、ウィスキー雑誌に執筆したりと、日本に於けるバーボン業界の重鎮です。現地の蒸溜所を訪れた際のエピソードや業界の裏話を交えたトークはここに通う楽しみの一つとなっており、売り上げも白井さんが店にいるかいないかで大きく変わるのだとか。貴重なバーボンを求めて海外のマニアが訪れることも多く、MILWAUKEE'S CLUBから始まって、FIVEさん、GEMORさん、ANKIさん、ROGIN'S TAVERNさん等を巡る日本バーボン・バー・ツアーをする強者もいると聞き及びます。

マスターの白井さんは、ご実家が代々飲食店を経営しており、甘味処しらゆり(耳で聴いたので表記は不明)は有名だったそう。お父さんは洋食屋を営み、自身もフレンチの修行へ出ていました。それまで安酒ばかり飲んでいたところにフォアローゼズを飲んで衝撃を受けバーボンに開眼したと言うマスターは、琥珀の世界とアメリカへの憧れを一気に強くし、2階のレストランの上にバー「ビア&バーボン・ミルウォーキーズクラブ」を1990年に開店。店名はアメリカのビール「オールド・ミルウォーキー」から。もしバーボンから店名を取るなら「テンガロンハット」になってただろうね、そうなると西部劇のサルーンみたいな雰囲気の店にしなくちゃならなかった、とマスターは笑っていました。今年で34年目を迎える老舗のミルウォーキーズ・クラブさんですが、現在では川口駅東口の再開発により2023年春にオープンした「樹モールプラザ」の2Fへ移転して営業しています。モールの中の一店舗ということもあってか、店内は比較的明るめで、素人が入りにくい雰囲気はありません。上掲の画像のようにテラス席もあったりします。整然と並んだウィスキーの数々は、図書館を意識した陳列らしく、銘柄が見やすいのも特筆すべき点。レアなバーボンのオールド・ボトルが最大の魅力ではありますが、アメリカンだけでなくスコッチやジャパニーズ・ウィスキーの品揃えもなかなかの粒揃いなので、決してバーボン・マニア専門の敷居が高いバーではないですから、ウィスキーに興味を持ちたての方でも、近隣遠方問わず是非立ち寄ってみて下さい。

あと、これはかなり個人的な感想ですが、チェイサー用の水がかなり大きめのグラスで提供されるのはとても有り難かったです。私はお酒に弱いので、出先のバーで飲む時は大量の水を必要とし、チェイサー用グラスが空になる度に店員さんを呼ばなければなりません。だからグラスが大きいと呼ぶ回数が減って助かるのです。なんなら途中からは大きめのウォーター・ピッチャーを用意してくれたので、自分で好きな時に水を注げるようになりました。これは凄く嬉しい気遣いでした。勿論、水がなくなったり少なくなるとマスター及び店員さんが先に気付いて注いでくれることも多いですが、その場合、こちらとしては何度も注がせてしまって申し訳なく感じるので、やはり自分で勝手に注げるのは気が楽なものです。ちなみに、当ブログのタイトルが「バーボン、ストレート、ノーチェイサー」であるところから、これをお酒の注文方法や飲み方のことと勘違いして、私のことをチェイサーも飲まずにバーボンをストレートでガブ飲みするとんでもない酒豪のようにイメージする方が偶にいるのですが、このタイトルは単に私の敬愛するバーボン作家チャールズ・カウダリーの名著「Bourbon, Straight」と、ユニークなジャズ・ピアニストであるセロニアス・モンクの名曲「Straight, No Chaser」を、響きが良いかなと思い合体させて名付けただけであって、私自身はバーではチェイサーに水は必須です。まあ、自宅では殆どの場合、1回にショットグラス1杯しか飲まないので、確かにチェイサーを飲んではいませんから、全く酒の飲み方を表していないとは言い切れませんけれども…。


〒332-0017
埼玉県川口市栄町3丁目13-1
樹モールプラザ2F
区画209

営業時間 17:00-23:30
定休日 : 火曜日
Tel : 048-253-0280(営業時間内)

Website
https://milwaukees.net/

Facebook
https://www.facebook.com/groups/milwaukeesclub/?ref=share

Instagram
https://www.instagram.com/whiskey_milwaukees_club?igsh=YXNwN2xqZGoxbTNu

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テネシー州の長閑で小さな町リンチバーグにあるジャック・ダニエル蒸溜所は、世界で最も売れているウィスキーの一つを生産しています。長きに渡り、その言わずと知れたジャックダニエルズ・オールド№7と一部の製品を生産するだけで満足していた同蒸溜所は、近年ではライ・ウィスキーやアメリカン・シングルモルトなど従来とは異なるマッシュの製品も開発したり、シナトラ・セレクトのような高価な限定品やテネシー・テイスターズのような蒸溜所限定の製品を発売して、新しいファンの獲得を狙っています。世界的なウィスキー人気の高まりが背景にあるとは言え、アメリカのバーボン・ブームの一翼を担う気概が感じられます。こうした様々な新表現のなかには従来品のヴァリエーション拡張も含まれ、シングルバレルのバレル・プルーフ版の発売などはその一例でしょう。アメリカのウィスキー愛好家は、日本人よりお酒に強いせいかバレル・プルーフのウィスキーを熱望します。そのため、各社の各ブランドには特別なバレル・プルーフ版が大抵の場合は提供されており、世界中のJDファンもそれを求めていました。トップ画像のジャックダニエルズ・シングルバレル・バレルストレングスは、マスターディスティラーによって厳選され、129プルーフ(または125プルーフ)で提供される、世界の一部のマーケット向けの製品です。2015年秋にアメリカで初めて発売されたジャックダニエルズ・シングルバレル・バレルプルーフの輸出市場版という認識でいいかと思います(JDSiBBPは、凡そ125〜140プルーフでのボトリング)。
ジャックダニエルズのシングルバレル・ブランドは94プルーフのウィスキーとして1997年に導入されました。名前が示すように、そのコンセプトは品質と風味を重視して厳選された個々のバレルでウィスキーを販売することでした。当時はまだ新しいウィスキーに関する情報が迅速に世間へと広まらないインターネット以前の時代。ウィスキーの新製品はなかなか売れない状況でした。オールド№7という安価で安定の選択肢があったため一般的な消費者はあまり関心を示しませんでしたし、シングルバレルと言えばブラントンズがあったものの、まだまだシングルバレルに関心を持つ愛好家が殆どいなかった時期に、ジャックダニエルズ・シングルバレル・セレクトは採算の取れる十分な支持を得ていたとされます。発売当初、蒸溜所は1日当たり僅か10バレルの生産から始めるも、需要がすぐに生産量の20倍以上にまで増加したとか…。ジャックダニエルズ・シングルバレルは現在、ラベルの色違いで整理され、ブラックの94プルーフ(または90プルーフ)、シルヴァーの100プルーフ(旧シルヴァー・セレクト)、ゴールドのバレル・プルーフ(バレル・ストレングス)、他にライ・ウィスキーのヴァージョンがあります。
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ジャック・ダニエル蒸溜所はシングルバレルの称号に値するとされるウィスキーは0.5%未満であると述べており、選ばれるバレルは通常は熟成庫の高層階から来ています。ラックハウスの最も暑い場所で熟成されるということは、高温によって蒸溜液と木材の相互作用が高まることを意味します。そうすると、比較的短期間でハイアー・プルーフになり、ウィスキーの琥珀色も濃くなり、複雑でロバストなウィスキーに仕上がる傾向にあるのです。高層階でのみバレルを熟成させると、液体が蒸発し過ぎてしまったり、オーク材の影響が強過ぎて苦くなることなどが挙げられますが、過熟成の兆候を見逃さずマチュレーション・ピークを見極めれば、最上階で熟成させたウィスキーは素晴らしいものになる、と。同蒸溜所がシングルバレル・セレクト・プログラム用のバレルを高層階から選んでいる理由はこのためです。このプログラムに使用するのに十分な熟成期間と見做されるまでに約5年、或いは4~7年熟成と噂されていますが、熟成年数が明記されていないため具体的には判りません。テネシーの暑い太陽の下、上層階で熟成するのなら十分過ぎる期間ではあるでしょう。マッシュビルはスタンダードなものと同じ80%コーン、8%ライ、12%モルテッドバーリーの伝統的なハイ・コーン・レシピです。

今回開封したこのバレル・ストレングスは、フランスの著名なウィスキー輸入業者ラ・メゾン・デュ・ウィスキー(LMDW)が選んだもので、所謂ストアピックとかプライヴェート・バレルと呼ばれるものです。JDの言い方では、シングルバレルのパーソナル・コレクションと言っています。LMDWは2021年に創業65周年を記念してジャックダニエルズのカスク・ストレングスを3つの名前で瓶詰めしました。これには「スウィート・フォワード」というニックネームが付けられており、他のものには「フル・ボディード&ロバスト」と「フレイヴァーフル&バランスド」がありました。私は甘いバーボンが好きなので、これを買ってみた次第。ちなみに、全てのシングルバレルが何処かのお店やグループによって選ばれる訳ではなく、通常の形で棚に並んでいる物もあり、そうした物はおそらくジャック・ダニエル蒸溜所のテイスターが選んだバレルなので品質にそれほどの差はないと思われます。と言うか、当該のお店やグループが選ぶものも、事前にテイスターがある程度絞って選んでいる中から更にピックしているのではないでしょうか。では、そろそろこの樽出しに近いテネシー・ウィスキーを注いでみましょう。

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JACK DANIEL'S SINGLE BARREL BARREL STRENGTH 129 Proof
Sweet Forward
RICK № R-2
BARREL № 21-08392
BOTTLING DATE 9.30.21
色はダークアンバー。黒糖→メープルシロップ、バナナパウンドケーキ、セメダイン、塩、タバコ、穀物、ミルクチョコレート、素朴なビスケット、花火の燃えカス、ピーカンナッツ、おばあちゃんのぽたぽた焼き、おしろい。時間をおくと甘い香り。オイリーな口当り。パレートではベリー系のジャムぽさも僅かにある。余韻は度数の割に短めで、どこかワイニーな穀物感、シナモンぽさも漂う。加水すると柑橘感も出た。
Rating:87.5/100

Thought:シングルバレルだから当然なのかも知れませんが、通常のオールド№7の延長線上の「濃いだけ」とは少しフレイヴァー・バランスが異なるように感じます。流石にかなりのハイ・プルーフなので、ちょっと加水した方が甘みが感じ易かったですね。具体的には6滴くらい。それ以上薄めるとせっかくのオイリーさが台無しになりますが、そのままでは感じ難かったオレンジっぽさも出ました。このシングルバレルは、私が今まで飲んで来たジャックダニエルズで最高のジャックダニエルズではないという意味に於いて、または他のバレル・プルーフ・バーボンと比べて特別複雑とも言えないと言う点に於いて、少し平凡であることを除けば、特に欠点はありません。余韻が少しドライな傾向はあるものの過度にタニックではないですし、キャラメルやヴァニラやブラウンシュガーの甘いノート、接着剤の心地良い香り、焦がしたオークの風味、スパイスに熱など汎ゆる面はレヴェルアップしており、スタンダードなオールド№7やプルーフの低いシングルバレル・セレクトよりも間違いなく豪胆な味わいを楽しめます。バレル・ストレングスのヴァージョンはバレル・プルーフを加水調整して少しだけプルーフが下げられていますが、64.5%の度数があれば物足りなさを感じることはないでしょう。ハイ・プルーフならではの滑らかな口当たりも、125プルーフを超えるウィスキーが有する凶暴性もしっかりと味わえます。

バーボン仲間のK氏からフルボディード&ロバストのサンプルを頂けたので、おまけで少し比較が出来ました。画像提供も含めいつもありがとうございます。バーボン繋がりに乾杯!

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(画像提供K氏)
JACK DANIEL'S SINGLE BARREL BARREL STRENGTH 129 Proof
Full Bodied & Robust
RICK № R-2
BARREL № 21-08387
BOTTLING DATE 9.30.21
色はダークアンバー。カラメライズドシュガー、メロン、黒胡椒、パイナップル、セメダイン、木の酸、ホットチリ、穀物、コーンパフ、ローストナッツ。こちらの方は、口の中での刺激が強く、かつ明るいフルーツが感じ易かったです。そして、全体的にスパイシーでもありました。熟成環境が似た位置にあったせいか、共に通底するものがありつつ、フルーツのキャラクターに少し違いがある感じですかね。こちらとサイド・バイ・サイドで飲み比べれたお陰で、スウィート・フォワードの甘さがより明確に分かった気がします。
Rating:87.5/100

Value:アメリカでのジャックダニエルズ・バレルプルーフは凡そ65〜70ドル程度。日本の酒屋さんでバレル・ストレングスを買おうとすると10000円は超えるようです。このLMDWのピックしたものだと、15000円を超えて来ます。これは少々お高い気もします。ですが、この製品のスペックからすると競合はブッカーズ、ブラントンズ・ストレート・フロム・ザ・バレル、スタッグ、ラッセルズ・リザーヴ・シングルバレル、フォアローゼズ・シングルバレル・バレルストレングス等になります。ラッセルズ・リザーヴはそれほど高騰してないから別として、ブッカーズやブラントンズSFTBやスタッグが20000円やら30000円やら40000円するのであれば、ジャックのバレルストレングスはかなりコスパが高いと言わざるを得ません。もし、貴方が長年のJDファンであり、そのプロファイルの最高峰を経験したいのであれば、躊躇なく購入して下さい。しかし、貴方の金銭感覚からこれが高いなと思うなら無理に買う必要はなく、個人的には価格と味わいのバランスが良いのはジャックダニエルズ・シングルバレルの中なら、シルヴァーの100プルーフだと思うので、そちらをオススメします。

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フォアローゼズ蒸溜所では2種類のマッシュビルと5種類のイースト・ストレインを組み合わせてそれぞれ味わいや香りの特徴が異なる10種類の原酒を造り、それらをミングリングすることで安定した品質を保つ独特のスタイルで知られています。そして、彼らは2023年に135周年を迎えるにあたりブランドの刷新を行いましたが、その際、10種類のレシピが50mlづつ入った「ザ・テン・レシピ・テイスティング・エクスペリエンス」という限定版キットをリリースしました。希望小売価格が約130ドルで、6月30日からケンタッキー州ローレンスバーグとコックス・クリークのフォアローゼズ・ヴィジター・センターで販売され、7月中旬からはジョージア州、イリノイ州、ケンタッキー州、カリフォルニア州の一部小売店でも販売されたみたいです。各レシピは同等になるように104プルーフにカットされ、熟成年数は全てほぼ同じ。それにより、酵母とマッシュビルがどのような影響を与えるかを体験できる非常に面白いキットでした。
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これはバーボン・ファンならば是非試してみたくなる代物です。しかし、ここ日本でこれを入手するのはなかなか難しいので、代わりと言っては何ですが、今回はその昔、フォアローゼズの販促品としてオマケで付いていた3種類の「心とろける香りの原酒」を開封してみました。この試供品(非売品)はネットで調べてみると2005年前後あたりのものらしいです。ラベルの細かい部分が若干異なるものや度数違いのものがあるところから、何年間かもしくは何回か提供されていたのかも知れませんが、私には詳細が分かりません。仔細ご存知の方はコメント欄よりご教示いただければ幸いです(※)。また、他にも種類があるかどうかですが、私はこの3タイプしか見たことがなく、おそらくフルーティ、スパイシー、フローラルの3つで全部と思います。ですが、本来なら5つのイーストの分だけ用意するか、フルーティを特徴とするイーストは2種類あるのでそれらは一つに纏めたとしても、もう一つハーバル・タイプはあって然るべきところでしょうから、この3つ以外にもあるのを知ってる方はコメントよりお知らせ下さい(※)。

情報を頂けましたのでコメント欄を参照下さい。また、少し追加の情報を得たので追記をご覧下さい。


注ぐ前にフォアローゼズの10レシピに就いて軽くおさらいしておきましょう。これらのレシピは4文字のアルファベットによって「O■S◆」というように表記されます。「O」と「S」は必ず付き、「O」はフォアローゼス蒸溜所で造られていることを意味し、「S」は「Straight whiskey」もしくは「distilled Spirit」を意味します。「S」の略は分かりやすいですが、なぜ「O」がフォアローゼズ蒸溜所を表すかと言うと、それは同蒸溜所が昔はオールド・プレンティス蒸溜所という名称だったからです。嘗てフォアローゼズ蒸溜所を所有していたシーグラムは、他に幾つもの蒸溜所を抱えていたため、原酒の産出される蒸溜所のバレルに各略号を与えており、その名残から「Old Prentice」の頭文字「O」でフォアローゼズ蒸溜所を指しているのです。そして「■」の部分にはマッシュビルの種類を表す「B」もしくは「E」が入ります。ライ麦の使用比率が多く、スパイシーな味わいが特徴とされるマッシュビルBは、

60%コーン、35%ライ、5%モルテッドバーリー

コーンの使用比率が多く、柔らかな甘みが特徴とされるマッシュビルEは、

75%コーン、20%ライ、5%モルテッドバーリー

となっています。末尾の「◆」には香りの個性が異なる5つの酵母の種類を表す「V・K・O・Q・F」の何れかが入ります。夫々の特徴は以下のよう。

V─デリケート・フルーツ
K─スライト・スパイシー
O─リッチ・フルーツ
Q─フローラル・エッセンス
F─ハーバル・ノーツ

これら2種類のマッシュビルと5種類のイーストによる10レシピは、日本のフォアローゼズ公式ホームページでは次のように説明されています。

OBSV
繊細な果実香とライ麦のスパイシ―さ
OBSK
ベーキングスパイス(微かなクローブ・シナモン様)とライ麦のスパイシーさ
OBSO
レッドベリー系の豊かな果実香
OBSQ
薔薇の花びらのようなフローラルさとライ麦のスパイシーさ
OBSF
繊細なハーブ香とライ麦のスパイシーさ
OESV
繊細な果実香とキャラメル様の甘く芳ばしい風味
OESK
ベーキングスパイス(微かなクローブ・シナモン様)で芳醇
OESO
レッドベリー系の果実香とバニラ
OESQ
薔薇の花びらのようなフローラルさとクッキー様のほのかに甘い芳ばしさ
OESF
繊細なハーブ香とクッキー様のほのかに甘い芳ばしさ

偖て、今回飲むフルーティ/スパイシー/フローラルの各タイプがこれらのうちどれなのかは名称からすると、フルーティ・タイプはOBSOかOESOかOBSVかOESVのどれか、スパイシー・タイプはOBSKかOESKのどちらか、フローラル・タイプはOBSQかOESQのどちらかなのではないでしょうか。え、待って、これシングルバレルって認識でいいんですよね? ラベルには取り立ててシングルバレルとは記載がないですけど…。私自身は実物を見たことがないのですが、この試供品に付いていたリーフレットには以下のようなことがタイプに拘らず共通で書かれていたようです。ネット上に引用している方がいたので孫引きさせて頂きます。
フォアローゼスの原酒のうち、フローラルなタイプのものを樽出しに近い度数でボトリングしたもので、日本国内での、フォアローゼスのおまけとして付けられた試供品(非売品)。別名、心とろける香りの原酒。
で、この後に各タイプの説明が続くのですが、それらを読む限りここで言う「原酒」は取り敢えずシングルバレルの意味と解釈しておいてよいのではないかと思います。その解釈が正しいとして、少量加水で度数を調整したほぼバレルプルーフという仕様は、先述の「ザ・テン・レシピ・テイスティング・エクスペリエンス」と殆ど同じであり、この試供品が10種類の中からかなり傾向の異なる3タイプを厳選したものなのだとしたら、物凄く贅沢な良い販促品ですよね? テン・レシピ・キットよりハイプルーフですよ? それに販売年を考えたら、もう二十年近く前な訳で、プチ・オールドボトルな価値もあって期待は膨らみます。では、そろそろ注いでみましょう。

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画像では判り難いと思われますが、ぱっと見でフルーティ・タイプが一際色濃く感じます。スパイシー・タイプとフローラル・タイプはそこまで差はありませんが、フローラル・タイプの方が僅かに薄い色に見えますね。今回はノーズ、パレート、フィニッシュの各々に順位を付けてみました。

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Fruity Type 108 Proof
少し濃いめのブラウン。林檎、キャラメル、熟したプラム、オールドオーク、ローストナッツ、シナモン、レザー。よく熟したバーボンの甘いアロマ。とろりとした口当たり。口の中では茶色いスパイスが感じ易い。余韻はミディアム・ロングで、焦がした木材のノート。残り香は僅かなベリーとブラウニー。
ノーズ─1
パレート─2
フィニッシュ─3
Rating:87.5/100

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Spicy Type 114 Proof
中庸なブラウン。青リンゴ、草、チョコレートのヒント、オレガノ、ローズマリー、メープルクッキー、炙った木材。あまり甘くない香り。とろりとしてオイリーな口当たり。ややドライな味わい。余韻は長く、甘いハーブと心地良い石鹸香。残り香はオレンジゼストとレモン、爽やかなハーブ。
ノーズ─3
パレート─1
フィニッシュ─1
Rating:90/100

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Floral Type 108 Proof
明るい琥珀色。スイートピー、マッシュルーム、ホワイトチョコレートのヒント、ローズペタル、ミント、蜂蜜、白桃、プリン。フローラルで仄かに甘い香り。ややとろりとした口当たり。味わいは酸味が強め。余韻はミディアム・ロングで、ライフレイヴァーが広がる。残り香は甘い花の蜜とピーナッツシェル。
ノーズ─2
パレート─3
フィニッシュ─2
Rating:87.5/100

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Thoughts:
三者三様でどれも美味しかったです。そしてフォアローゼズは自分の好みにぴったりのバーボンだと改めて感じました。ノーズ、パレート、フィニッシュに順位を付けたものの、3位だからと言って悪い訳でもないですし、そもそも単なる私の好みに過ぎません。飲んだ感じ、マッシュビルはどれもBなのではないかなという印象を受けました。どれもが共通してフォアローゼズらしいフルーティさはありつつ、ライの穀物感が強いような気がしたのです。その上で個別に感じたことを言います。
フルーティ・タイプは最も甘くウッディ。飲む前の予想ではもっとフルーティなのかと思っていたら、寧ろ意外とオーク・フォワードなバーボンでした。色通り、最も熟成感を感じます。試飲前はOBSOかなと思っていたのですが、上記の10レシピの説明文に当て嵌めるとOESVと一致している気も…。
スパイシー・タイプは、これまた飲む前の予想に反して、私にはスパイシーと言うよりハービーに感じました。10レシピの説明文に当て嵌めるとOBSFなのではないかと思われる程です。また、前回まで開けていたフォアローゼズ産の90年代ヘンリーマッケンナにあったソーピーな風味がこれにも感じられたのですが、そちらでは過剰過ぎて嫌悪を抱いたそのフレイヴァーはこちらでは絶妙な加減だったので好印象でした。全体として自分の好みに合っていて抜群に旨いです。
フローラル・タイプは最も繊細な風味。10レシピの説明文からすると、OBSQでもOESQでもどちらでも当て嵌まりそうな感じでした。私の嗅覚や味覚は平均的な日本人より下なので、スタンダードなフォアローゼズから花の香りを感知するのは難しいのですが、これは分かり易かったです。
どれも加水したらもっとフルーティさを引き出せたのかも知れません。けれどもミニボトルは少量なので私はニートでしか飲みませんでした。これらが10レシピのどれなのか、或いはシングルバレルではなく数レシピがミックスされたスモールバッチなのかは、答えが解らないので措くとして…、これらを飲んだことのある皆さんはどう思ったでしょうか? ご意見ご感想をどしどしコメントよりお寄せ下さい。そう言えば、私は基本的にバーボンはラッパ飲みかショットグラスで飲んだ方が美味しく感じるのですが、今回の3種のフォアローゼズはどれもテイスティンググラスで飲んだ方が香りが愉しめて美味しく感じました。


追記:とあるミニチュア・ボトルのコレクター様によると、この試供品は2004~2006年に配布されたもので、 ラベルの種類としては筆記体風、活字、活字+ウイスキーの3種があり、従ってFruity、Spicy、Floralの3風味×3ラベル=9つの種類が存在するそうです。
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ティンカップ・アメリカン・ウィスキーはジェス・グレイバーによって創設され、2014年に発売されたアウトドアがコンセプトのウィスキーです。ボトルにはアメリカン・ウィスキーとだけでなくマウンテン・ウィスキーともあり、公式ウェブサイトにはコロラドの雄大な山々や自然を背景にしたウィスキーの写真が使われています。本国でのアンバサダーには登山家、スキーヤー、写真家などが起用されているそう。ブランド名はロッキー山脈の西側、コロラド州ガニソン郡にある古い鉱山の町ティンカップにちなんで名づけられました(ケヴィン・コスナー主演の1996年の映画『ティン・カップ』からではありません)。その町の名前は伝説の探鉱者の1人から由来しています。1859年10月、ジム・テイラーはウィロー・クリークで行方不明の馬を探している時に有望な砂利を見つけ、それをブリキのカップに入れてキャンプ地に持ち帰りました。砂利には金が含まれていたため彼はそこの谷を「ティン・カップ・ガルチ」と名付けました。この地域は何年もの間、季節的な砂金採掘の場所でしたが、ネイティヴ・アメリカンの敵対行為の危険性もあって通年居住するコミュニティは設立されませんでした。しかし、1878年にこの地域で大きな鉱脈が発見されると、1879年3月にヴァージニア・シティという町が定められます(1880年の国勢調査では人口は1495人)。そして、すぐ後にネヴァダ州やモンタナ州の同名のヴァージニア・シティと混同されたため住民は名前をティン・カップに変更しました。このウィスキーはこうした歴史、コロラド州で最初にウィスキーを飲んだと思われる先駆的な人々、19世紀半ばのゴールドラッシュで幸運を求め、厳しい条件下での生活や仕事をしていた鉱夫達に敬意を表しています。付属している金属のカップは野外でもそのまま使用することが出来、また深いエンボス加工が施されたロッキー山脈を思わせる無骨な六角形のボトルはバックパックなどに取り付けた際の滑り落ちや転がりを防ぐためだとされています。アメリカ市場ではこのコンセプトと味わいが高く評価され、発売以来僅か4年で販売数を5倍以上に伸ばしたのだとか。
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(1906年のティンカップ。Western Mining Historyより)

ティンカップ・アメリカン・ウィスキーは初期の頃、コロラド州を象徴させるようなマーケティングにも拘らず、ベースとなるウィスキーが実際にはコロラド州で蒸溜されていないため、アメリカン・ウィスキー愛好家やコロラドの地元愛の強い民からは少なからず批判的な目で見られることもありました。ティンカップのベースは多くの非蒸溜生産者(NDP)のウィスキーの供給源であるインディアナ州ローレンスバーグのMGPで蒸溜/熟成されたウィスキーです。初期の物は、ボトルの肩シールにコロラドとありましたし、ネックに付いていたリーフレットにも大きくコロラドとあり、ストラナハンズ・コロラド・ウィスキーとジェス・グレイバーの繋がりを誇って、如何にも同州を連想させました。法律上「コロラド・ウィスキー」とは言いたくても言えないので「Colorado」と「Whiskey」を別々に多く鏤めることで消費者がそれらを一緒にしてくれることを期待しているように映ったのです。
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何より、チャック・カウダリーに代表されるアメリカン・ウィスキー愛好家らに問題視されたのは、TTB規則5.36(d)で義務づけられている「distilled in Indiana」の文字がラベルになかったことでした。この規則では、ラベルの住所と蒸溜地の州が異なる場合、蒸溜地の州をラベルに明記しなければなりません。草の根の「5.36(d)運動」が功を奏したのか、私の手持ちのボトルには裏ラベルに書かれた文言に「distilled in Indiana」とあるので、どこかの段階で改訂されたのでしょう。そもそもジェスは誠実で率直な男だったのでティンカップの真実は当初から秘密にされては来ませんでした。テンプルトン・ライの二の舞いとなるのを上手く避けることが出来た要因はそこら辺にあったように思われます。ティンカップの顔であるジェスは、ブレット・ウィスキーに於けるトム・ブレットのような存在。各地でのトレード・ショーやフェスティヴァル、酒類のプレゼンテーション等でブランド代表として活躍して来ました。彼は「これはストラナハンズからの自然な派生物です」とティンカップについて語り、このようなバーボンを造ることは昔からやりたいと思っていたと言います。ストラナハンズは禁酒法以来、コロラド州で初めて合法化されたウィスキー蒸溜所でした。 そこのロッキー・マウンテン・シングル・モルトは「グレイン・トゥ・グラス」の理念で手造りされています。 先ずはティンカップ以前の物語からざっくり紹介しましょう。

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(ジェス・グレイバー、三菱食品のPR TIMESより)
ジェス・グレイバーは中西部カンザス州とミズーリ州の農村で育ち、ボーイスカウト時代にキャンプをした山岳地帯に住むという夢を叶えるため1972年にコロラドに移り住みました。ボルダー郊外のネダーランドに辿り着いたジェスは、直ぐに同じ出身のラリー・ザ・ミズーリ・リヴァー・ラットという誰も本名を知らない男と出会います。ラリーは趣味でコーン・ウィスキーを蒸溜していました。しかし、故郷ミズーリに戻ることになっており、トラブルに巻き込まれるのを懸念して古い銅製の蒸溜器を持って行きたくはありませんでした。そこでラリーはジェスに15ガロンのシンプルな蒸溜器を託すことにしました。ジェスは父親が昔に自家製ビールを造っていた影響で自身もビールは造っていましたが、蒸溜に就いては何も知りませんでした。するとラリーは、簡単だよ、コーンを煮てそれをスティルに通して配れば皆が君の友達になるさ、と言ってジェスの初めての蒸溜を一緒に行い、ムーンシャインの手解きをします。これがジェスにとって、後に成功へと繋がる、ケンタッキーやテネシーのような蒸溜酒の温床ではないコロラドでのユニークな趣味の切っ掛けとなりました。
1974年になるとスキーや建築の仕事のためにアスペンに移り住み、軈て自分の住宅請負会社を立ち上げたジェスは、仕事の傍ら蒸溜に関する文献の読書を始め、何年も掛けてどんどん学び、隣人から譲り受けた小さな蒸溜器を使って実験的な蒸溜を行っていました。次第に、友人や同僚が集まるパーティーで十分な量の酒を供給したり、クリスマス・クッキーを焼く代わりに独自ブランドのムーンシャインを造ってワーカー達へのユニークなクリスマス・プレゼントとしてジャーに入れ提供し始めます。建築家、請負業者、サプライヤー、友人達など周りの人々はジェスのクリスマス・プレゼントを欲するようになりました。1989年にウッディ・クリークの自宅を購入した後には、金属加工業に携わる友人に協力を仰ぎ蒸溜器をアップグレードすらします。1990年代半ばにはジェインと結婚して家庭を持ち、馬小屋で1バッチあたり10ガロンを製造するまでになり、地元での評判は上々でした。しかし、連邦政府の酒類製造許可を得ずにウィスキーを製造することは違法なので、或る時、誰かによって全国ネットのテレビ番組『アメリカズ・モスト・ウォンテッド』に、彼がアスペン近郊で密造酒を製造していると通報されてしまいます。FBI捜査官が来ると聞いた彼は、古来のムーンシャイナー達がそうしてきたように自分のスティルを森の中へ隠しましたが、FBIは現れませんでした。結局ジェスはグレンウッド・スプリングスのFBIに自ら電話を掛けてみます。すると、FBIは周囲を調べてみたが密造は控えめで友人同士でやっているだけのものと聞いたから彼を煩わせる価値はないと判断したとの事情が分かりました。ジェスはこの件でかなり怖い思いをしましたが、ムーンシャイニングを止めるほどではなく、彼は当時それを実験的なアートだと考えていました。
ジェスは1990年代後半にはアスペン消防署のヴォランティア消防士になっていました。 1998年4月2日の夜、彼は呼び出しに応じ、ウッディ・ クリークの自宅近くの納屋火災に駆け付けます。この納屋はレナド・ロードにあるジョージ・ストラナハンのものでした。彼はフライング・ドッグ・ブリュワリーの創設者兼オウナーであり、ウィスキー愛好家でもありました。納屋を救うことは出来ませんでしたが、炎が収まった後、二人は話をしました。ジョージが造ってコロラド中に売り出したフライング・ドッグ・ビアーの成功について、ジェスが建設業で忙しくない時は30年近く蒸溜を試し馬小屋でクリスマス・プレゼント用の自家製スピリッツを造っていたことについて。ジョージはジェスの「小さな事業」については聞いたことがありませんでしたが、その会話の中で二人はコロラドのアウトドアへの愛情、ウィスキーに対する共通の理解を見出しました。ジョージは当時、ウッディ・クリークで多くの芸術形態を支援していたので、自分の納屋に蒸溜器を設置したらいいと申し出ました。その時からジェスは商業的な蒸溜所を持つとはどういうことかをずっと考えていました。90年代後半にはコロラド州全体を見回しても商業蒸溜所はありませんでした。そんな或る日、ジェスがジョージの牧場を訪れた際、フライング・ドッグのビール作業で残​​ったマッシュ(乃至はウォートもしくはウォッシュ)が樽に入ってるのを見掛けました。その瞬間、これを調理して液体を蒸溜すればシングルモルト・ウィスキーのベースとして使える、と彼は閃きます。樽を貰って帰り、さっそく蒸溜器に入れて試してみると、これまで自分が造ってきたものよりクリーンでピュアな蒸溜液が出来ました。自らが何をしたいのか明確となったジェスはジョージのもとへ赴き、自分のためのウィスキー・マッシュを造ってくれないかと頼みます。するとジョージは「蒸溜所なんて誰もやったことがないじゃないか」と言うので、ジェスは 「君はビール醸造所を始めたじゃないか」と言い返しました。軈てジョージはフライング・ドッグのマッシュを使ってシングルモルト・ウィスキーを造るというアイディアに賛同。二人は上質なウィスキーの具体的な特徴や好みについて話し合いました。ウィスキーの名前には「グレイバー」は相応しくないと考え、ジョージから取って「ストラナハンズ」に決まります。ジェスはオーク樽の破片を切り刻み、蒸溜酒と一緒にジャーに入れ、オーク・エキスの風味と色を吸収させたり、ストラナハンズ・コロラド・ウィスキーの完璧な風味を生み出すために、約6年に渡ってレシピの膨大な量の研究と様々な実験を重ねました。その過程には、自分達のリキッド造りを合法化するために取り組んだコロラド州の酒類免許当局からの何年ものお役所仕事も含まれます。ようやっと彼らは2002年にアルコールの蒸溜ライセンスを取得し、コロラド州初の小規模蒸溜所、禁酒法以来コロラド州で初めてとなる合法的な蒸溜所を2004年に開設、蒸溜を開始しました。最初のバッチは2006年にボトリングされ、当初は週に3バレルほどのストラナハンズを生産しました(2022年には週に60〜70バレルを生産しているとのこと)。ストラナハンズがユニークだったのはアメリカのシングル・モルトだからでした。その原料はたった4つから造られます。100%麦芽、酵母、ロッキー山脈の水、そして樽熟成の時間。100%モルテッド・バーリーから造られるのでスコッチと似ていますが、熟成のさせ方が異なるためフレイヴァー・プロファイルには違いが生じます。そのためストラナハンズはアメリカン・ストレート・コロラド・ウィスキーとかロッキー・マウンテン・シングルモルト等と呼称されています。創業以来、コロラド州のクラフト蒸溜革命を起こし、数々の賞を受けたストラナハンズは年々評価を上げていきました。そうした成功はメガ・ブランドのホセ・クエルボ・テキーラやスリー・オリーヴス・ウォッカやクラーケン・ラムなどを所有するニュージャージー/ニューヨークを拠点とした世界的な大手酒類販売会社のプロキシモ・スピリッツの目に留まり、彼らは2010年にストラナハンズを買収しました。操業はコロラド州のままです。
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ストラナハンズの人気が高まり「コロラドのお気に入り」になると、多くの人がモルト・ウィスキーではないアメリカン・ウィスキー、もっと言えばバーボンを造らないのかどうかに関心を抱くようになりました。しかし、ストラナハンズのようなクラフト蒸溜所は容易に限界に達してしまいます。或る時点でストラナハンズは、広めるために十分な量のウィスキーを造ることが出来ず割り当て配給になっていました。人々はそれをマーケティング戦略だと思ったようですが、実際には需要に供給が追い付かない状態だったのでしょう。となると、ストラナハンズが損なわれてしまうから、ストラナハンズ蒸溜所でバーボンは造れません。そこでジェスは、少し異なる原料を使い、少し異なる製法の別のウィスキーを造ることにしました。自分達が築き上げたストラナハンズのようなクラフト・ウィスキーではなく、もっと大衆が手に入れ易く、ライ麦含有率の高いバーボンを。インディアナから調達するウィスキーを使用する方が製品コストが抑えられる訳ですが、ジェスはそれを単純にボトリングするのではなく、少しひねりを加えたいとも思っていました。彼は先ず、3分の2がコーンで3分の1がライのバーボン・レシピをMGPにリクエストします。すると、64%コーン、32%ライ、4%モルテッドバーリーのマッシュビルのバーボンが出来上がりました。MGPのマッシュビルを暗記しているウィスキー・マニアの方はご存知のように、彼らのスタンダードなライ・バーボン・マッシュビルは以下の2つです。
75% Corn / 21% Rye / 4% Barley Malt
60% Corn / 36% Rye / 4% Barley Malt
これらとは若干異なるティンカップのマッシュビルは、おそらくこれら2種類のマッシュビルのバーボンをブレンドしたものではないかと考えられています。ブレンドに使用されているウィスキーのバレルのチャー・レヴェルは#3。熟成期間はティンカップの公式ウェブサイトによると4年と書かれていました。ストラナハンズと同様にティンカップのオウナーであるプロキシモ・スピリッツはベース・ウィスキーが造られているインディアナ州の蒸溜所のすぐ近くにボトリング工場を所有していますが、バーボンはMGPで独自に調合が行われた後、コロラド州デンヴァーにあるストラナハンズの施設に出荷され、ボトリング前に2つの作業が行われます。一つはジェスが「世界一素晴らしい水源」と自負するコロラドのロッキー・マウンテン・ウォーターでカット(希釈)すること。水はエルドラド・スプリングスから取水しているそう。ティンカップのボトルのエンボスには「BOTTLED AT ELEVATION 5,251(フィート、標高約1600m)」と印字されており、これはその水源への敬意の表れです。もう一つはインディアナ州で蒸溜/熟成されたライ・バーボンに、ストラナハンズの各ボトルに使われているのと同じコロラド産シングルモルト・ウィスキーを「食事に塩とコショウを加えるように」少量ブレンドすること。その割合は、当初は10%にしようと考えていましたが、ストラナハンズのレヴェルを変えて実験し、最終的には3〜4%になりました。この割合がバーボンの風味を損なわず、オリジナルなウィスキーの味を堪能するのに十分と判断したようです。ジェスは担当者から、バーボンにシングルモルト・ウィスキーを加えるとバーボンとは呼ぶことは出来なくなると言われました。しかしそれは望むところでした。彼は「いや、私たちはコロラド出身だから、アメリカン・ウィスキーと呼ぶことにするよ」と答えたと言います。バーボンと呼びたくない理由の一つは、市場に多く出回っている他のバーボンと真っ向から競争したくなかったからでもありました。そして、現代のアメリカン・ウィスキーらしくパッケージにも拘りが詰まっています。ティンカップの誕生にはプロキシモも関わっており、六角形のボトル形状は同社のマーケティング担当者が思い付いたアイディア。山でボトルを落としたり、寝袋の横に置いておいても転がらず、翌朝一番に飲むことが出来るように、と。ボトルのエンボス加工は古い時代の薬用ボトルに見られる仕様にインスパイアされたもの。そして、友人と焚き火を囲んだりする時に皆と一口づつ分かち合ったり、屋外の汎ゆるシチュエーションで飲むために使用できるカップも付属しています。最終的に、コロラド州の古い鉱山の町から着想を得、そこの鉱夫達とウィスキーを関連付けて、この製品はティンカップと名付けられました。こうしてジェスはプロキシモ傘下に新しいブランドを立ち上げ、自らのアイディアを市場に送り出したのでした。MGPのソーシング・ウィスキーを使用したお陰で、ティンカップはウィスキー愛好家向けのストラナハンズのような高級価格帯ではなく、約半額の控えめな価格の大衆的なウィスキーとして成功を収めています。

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ティンカップ・ブランドには現在、幾つかの種類がありますがトップ画像のものが主力商品で、本国では「オリジナル」と呼ばれています。他のヴァリエーションには、2017年もしくは18年発売で「オリジナル」のMGP原酒を10年熟成の物に置き換えたティンカップ10年84プルーフ、2020年に発売されたMGP95ライの3年熟成を使用したティンカップ・ライ90プルーフ、2023年発売でMGPの14年熟成のハイライ・バーボンを使用したフォーティーナー84プルーフ等があります。画像を見てみると、ティンカップ10年には「アメリカン・ウィスキー」表記の物と「バーボン・ウィスキー」表記の物があり、もしかするとストラナハンズを混ぜている物と混ぜていない物とがあるのかも知れません。ちなみにこのティンカップ・アメリカン・ウィスキーは、日本では三菱食品株式会社が2022年から正規取り扱いをしています。そのお陰なのかスーパーのお酒コーナーでも見かけるアメリカン・ウィスキーだったりします。買い易いのは嬉しいことですね。では、そろそろ注ぐとしましょう。

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Tincup American Whiskey 84 Proof
推定2023年ボトリング。並行輸入品。ゴールド寄りの薄いブラウン。薄いヴァニラ、グレイン、ライトなチャー、ライスパイス、オレンジピール、ホワイトペッパー、微かな蜂蜜。柑橘類の爽やかなアロマ。味わいはドライでピリリとした刺激。余韻は短めでちょっとスパイシーな穀物感が。グラスの残り香は僅かなナッツ。
Rating:79.5/100

Thought:全体的にフレイヴァーが薄く、ライト・ボディの若いウィスキーという印象。ベースがMGPのハイ・ライ・バーボンなら間違いないだろうと思って購入したのですが、自分が期待する味わいではありませんでした。個人的な好みとしては、もう少し甘さかフルーツかMGPのライに特徴的なディル・ノートが感じられたらなぁ、と。また、グラスに入れて暫く放置したり、開栓して時間が経ってもフレイヴァーに特別な変化はありませんでした。ぶっちゃけ上のレーティングは2点はパッケージングとブランディングに対してです。前回まで開けていた同じくMGP産で熟成年数が約2年とされるリデンプション・ハイライ・バーボンと較べると、リデンプションの方が絶妙な甘み、草っぽさや青リンゴなどのグリーン感があって美味しく感じました。これってブレンドされているストラナハンズのモルト成分が数パーセントであるにも拘らず、思ったより効いている結果なのでしょうか? いや、私はバーボンを中心とした市販のウィスキーを自分勝手に混ぜ合わせてオリジナルのブレンドを楽しんだりするのですが、その経験からすると3〜4%の別のウィスキーを混ぜただけでそれ以前のウィスキーのフレイヴァーが消え去ることはないと感じています。同じように、これがティンカップ独自のマッシュビル、つまり数パーセントのライ麦率の違いが齎した結果とも思えません。ティンカップに就いての海外のレヴューやそのコメント欄を見ていて気になったのは、甘いとしている人が結構な割合でいることです。私が飲んだところ、このボトルは甘いと言えるほど甘くはありませんでした。また、このウィスキーは全然良くないと否定的な意見もそれなりにありました。評者やコメンターの個人的な趣味嗜好はあるにしても、評価がバラけがちなのはその時々のソーシング・ウィスキーのクオリティに依存しているからではないでしょうか。実際、ベースがソースド・ウィスキーなので、自社で製造する場合ほど品質管理が出来ず、味や香りがバッチ毎にかなり変化する可能性を示唆するウィスキー・レヴュワーもいました。勿論、モルト・ウィスキーをブレンドしていること、マッシュビルの僅かな違い、カットに使用する水の違いは、最終的なフレイヴァーに少なからず影響を与えてはいる筈なので、それらが私にとってのMGPハイ・ライの良さを打ち消している可能性も否定出来ませんが…。
ところで、自分としてはどうも旨くないなぁと思い、他の皆はどう思っているのだろうとネット上で感想を探っている時に、或る日本のバーのオウナーの方が並行と正規を飲み比べしたところ正規品の方が断然美味しかったという趣旨の発言をしているのを見かけまして、マジか!?と気になってしまい、私も三菱食品の正規輸入品の小さいボトルを購入して飲み較べることにしました。

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Tincup American Whiskey 84 Proof
推定2022年ボトリング。三菱食品正規輸入品、375mlボトル。液体の見た目の色、口の中ではそれほど変わらない気がしますが、こちらの方が香りはやや甘く、余韻も僅かに甘く更に穀物の風味が芳醇でした。確かにこちらの方が美味しく感じたので点数に差を付けました。とは言え、フレイヴァー・プロファイルはほぼ同じに感じるので、バッチ違い程度とは思います。上述のバー・オウナーも、おそらくバッチの問題だろうとしていましたし。もしかすると、これより更に前のバッチはもう少し美味しかったのかも…、また発売当初の2014年頃はもっと美味しかったのかも…、と思わせるポテンシャルは感じれました。初期から現在のティンカップまで飲んだことのある皆さんはどう思われますか? ご意見ご感想をコメント欄よりどしどしお寄せ下さい。
Rating:80.5/100

Value:アメリカでは約30ドル、日本では3500円前後で売られています(輸入者の三菱食品による参考小売価格は750mlが4000円+消費税、375mlが2500円+消費税)。このウィスキーのターゲットは、ハイ・プルーフやフル・フレイヴァーを求めるバーボン純粋主義者やウィスキー・コニサーではなく、飽くまでライト層向け。その割にボトリング・プルーフが最低限の80よりは高い84ですし、パッケージングやブランディングは素晴らしく、そこらが最大の魅力の製品です。側面に創業者名などのエンボス加工が施された六角形のボトルは印象的で美しく、文字通り金属のカップが付属しているのもクール。バーボンの価格が急速に上昇しつつある中、この価格帯のウィスキーとしては有り得ないほど秀逸過ぎるデザインだと思います。「素晴らしいマーケティングは悪いウィスキーを隠すためにある」と云う格言?もしくは皮肉?もあったりしますが、これをクラフト・バーボンと勘違いして飲まなければ、おそらく失望することはないでしょう。シンプルなハイライ・バーボンの味わいです。個人的には、値段が高くなってもいいからシングル・モルトの成分をより多くして個性がより一層輝くようにしてくれると面白いかなとは思うのですが、まあ、そうすると違うものになっちゃいますね。旅や登山、キャンプのお供にどうぞ。

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ルイヴィルの南東約60マイルに位置するロレットの由緒あるメーカーズマーク蒸溜所。彼らは1953年の創業以来、一部地域への限定的なハイアー・プルーフのヴァリエーションを除き、50年以上に渡って一つの製品しか造って来ませんでした。それが変わったのは2010年から。アメリカ本国でのバーボン熱がジリジリと高まりつつあった背景に後押しされたのか、スタンダードなメーカーズマークのみを提供するという長き伝統を打ち破って、インナー・ステイヴによるフィニッシングを施したメーカーズ46をリリースしたのです。その方法論は2016年の開始と同時に業界初のカスタムバレル・プログラムとなったメーカーズマーク・プライヴェート・セレクトの導入にも受け継がれ、大成功を収めました。また、2014年からのカスク・ストレングスや、2018年から旅行用免税店での販売のみとして始まり2020年に国内での発売もされたメーカーズマーク101など、より高いプルーフにてボトリングされた製品も展開するようになりました。2019年のRC6でデビューし、2020年のSE4xPR5、2021年のFAE-01とFAE-02、2022年のBRT-01とBRT-02と来て、2023年のBEPで終了したウッド・フィニッシング・シリーズや、2021年末から2022年初頭のメーカーズDNAプロジェクトなど実験的かつプレミアムな限定リリースもありました。しかし、メーカーズマークは長期熟成のハイエンドなバーボンをリリースする流行に乗ることは断固として拒否して来ました。「65年以上もの間、ウィスキーを10年以上熟成させるということは、私達が行ってきたことではありませんでした」と、メーカーズマーク創業者の孫であるロブ・サミュエルズは語っています。
ボトルのネックに滴る赤いワックスが目を惹くメーカーズマークは、マーケットで最も認知度の高いバーボンの一つであり世界的に広く親しまれた存在であるにも拘らず、これまで公式に熟成年数が明記されたものはありませんでした。それはメーカーズマークの創業者が掲げたヴィジョン、即ち常に驚くほどスムースで円やか、ソフトでクリーミーでリッチ、辛い刺激やタンニンを最小限に抑えたフレイヴァーに拘り続け、時間ではなく味わいに合わせてウィスキーを熟成させて来た結果でした。ケンタッキーの暑さはバーボンをすぐにオーヴァー・オークドなドライでタンニンが強い味わいにする傾向にあり、これは創業者ビル・サミュエルズ・シニアのフレイヴァー・ヴィジョンと真っ向から衝突するのです。 通常のリックハウスで10年以上熟成させたメーカーズマークを蒸溜所で試飲したことがある方は、彼らの懸念には真実味があり、確かにそういう味わいだったと言っていました。上に挙げた「哲学」こそメーカーズマーク蒸溜所の本質と言えましたが、愛好家はどうしてもまだ見ぬものを欲望します。メーカーズマークの長期熟成バーボンは、このブランドのファンが長年待ち望んだ製品でした(有名なウィスキー・ライターのフレッド・ミニックもその一人)。そして、遂に「セラー・エイジド」の登場によって歴史が動く時が来ます。

嘗てビル・サミュエルズ・ジュニアはステイヴ・フィニッシュド・バーボンのアイデアを持ち込み、メーカーズマークの歴史に足跡を残しました。今度はその息子ロブの番でした。9歳の時から蒸溜所で汎ゆる仕事を経験してきたというロブは、父ビル・ジュニアの後を継ぎ、2011年にメーカーズマークCOOに就任しています。ロブがセラー・エイジドを考案する際に直面した課題は、ブランドのファンが長年求めて来たウィスキーを提供すると同時に一族の伝統に忠実であることでした。彼はそれを解決しようと、46やプライヴェート・セレクトのバレルを熟成させるため2016年12月にスターヒルの丘の中腹に新設されたライムストーン・セラーを利用することを思い付きます。「外がどんなに過酷な温度になっても、石灰岩でできたセラーの内部は常に10℃前後に保たれます。この自然の恩恵を活かせば、もっと時間をかけた熟成ができるのではないかと考え、これまでは不可能だった長期熟成に挑戦することに」したと、或るインタヴューでロブは語りました。他のウィスキー・メーカーのようにマッシュビルを変更したり、全く新しい方法で造るのではなく、伝統を重んじ、創業から変わらないヴィジョンを基に新たなフィーリングの味わいを築く、それがメーカーズマークの流儀な訳です。
メーカーズマーク・セラーエイジドになるために、バレルは先ず蒸溜所の伝統的な倉庫で約6年間、ケンタッキー州の気候や季節ごとの気温の変化に耐え、「メーカーズマーク」と呼べるようになるまで熟成されます。バーボンの場合、熟成庫内のロケーションが重要な役割を果たしますが、メーカーズマークはウィスキーをリックハウスで熟成させるに際し、熟成庫の上層階と下層階でバレルをローテーションすることにより、バレル間の温度差やその他の要因を均等にしている蒸溜所です。このプロセスのお陰で、どのバレルも全体的に同じような熟成を見せ、バレル毎の味わいは比較的似たものとなるのだとか。こうして標準的なメーカーズマークとしては「完熟」と看做されたバレルは、その後、ケンタッキーの丘陵地帯にある天然の石灰岩層に造られた独自のウィスキー・セラーに移され、更に5~6年の熟成を経ることになります。メーカーズマークによれば、このセラーは常に冷涼な環境であるため、エクストラ・エイジド・バーボンによく見られる刺々しいタンニンの影響を緩やかにし、奥行きを秘めたより深みのあるダークな風味を醸し出すことを可能にするのだそう。樽保管を木造やレンガの熟成庫でするのが一般的なアメリカン・ウィスキーのメーカーに於いてセラーを使用するのはメーカーズマークのみ。最終的に味を見ながらブレンドされた後、カスク・ストレングスにてボトリングされ完成となります。

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メーカーズマーク・セラーエイジドは、本国アメリカでは2023年9月に発売され、日本では2024年3月に発売されました。メーカーズマークからのプレスリリースによると、この商品は今後も世界中の特定の市場で年1回限定リリースされる予定です。毎年同じ熟成方法で造られますが、味わいを基準とし、バーボンの熟成年数の具体的なブレンドはその年によって異なります。初リリースとなる2023年エディションは、12年熟成87%と11年熟成13%のマリアージュで、115.7プルーフでボトリングされました。225バレルのバッチで、アメリカで約20000本、その他のグローバル市場で約10000本がリリースされた模様。今後のリリースも同じような数量が予想されるでしょう。それ以外の詳細は、メーカーズマークが公表しているスタッツ・シートによれば以下のようになっています。
マッシュビルは同蒸溜所自慢の70%コーン、16%ソフト・レッド・ウィンター・ウィート、14%モルテッド・バーリー。ミリングはローラー・ミル、ファーメンテーションは3日、コラム・スティルで120プルーフを得たあとダブラーで130プルーフ、そしてバレル・エントリーは110プルーフ。バレルは、ケンタッキーの夏を含む1年間を屋外でシーズニングしたアメリカン・ホワイトオークを使用し、チャー・レヴェルは#3。12年熟成87%は10L13、11B07、11B15、11B(or C)29、11年熟成13%は12B16のコードのバレルが選ばれています。それぞれのバレルのウェアハウス・ロケーションは、10L13がウェアハウスQ、11B07がウェアハウスO、11B15がウェアハウスL、11C(or B)29がウェアハウスH、12B16がウェアハウス29からでした。バレル・コードは最初の2つの数字が年を、アルファベットが月を、最後の2つの数字が日を表しています。セラーへの移動はそれぞれ2017年10月と2018年5月に行われました。平均的なセラーの温度は47°F/8.3°C、湿度は58.1%とされます。バレルからのダンプは2023年6月3日に行われました。
では、さっそくメーカーズマーク史上最も長熟のバーボンであるセラー・エイジドを味わってみましょう。

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Maker’s Mark Cellar Aged(2023) 115.7 Proof
2023年ボトリング。色はディープアンバー。ミルクキャラメル→クレームブリュレ→黒糖、チェリー、杏仁豆腐、唐辛子、ラズベリー、パフ入りチョコ、接着剤、僅かに杉、あんずジャム。甘いお菓子にフルーティなアロマ。期待よりは緩いが、とろりとした口当り。ダークな樽感と穏やかなスパイスの中にスッキリとしたフルーティさもある味わい。ウッディなスパイスが来てからのややドライで微かに苦い余韻。アロマがハイライト。
Rating:88/100

Thought:まるでデザートのようなバーボン。特に少し空気に触れさせておくと漂う美味しそうな洋菓子の甘美な香りが心地良かったです。アロマだけなら汎ゆるメーカーズマークで一番かも知れない。口の中では意外とフレッシュなベリー感が印象的。開封したては果実味がやや鈍く感じましたが、液量が半分を下回る頃には甘酸っぱが増して頗る美味しくなりました。確かにメーカーズマークが言うように、味わいや余韻は過度にドライでもなく渋みもありません。おそらく彼らが意図的に狙った味は上手く表現出来ているのでしょう。余韻に関しては、この価格帯ならもう少し長く広がりがあって欲しいとは思いましたが…。
プルーフに違いがあり過ぎるスタンダードなメーカーズマークやステイヴの選択に様々な種類があるプライヴェート・セレクションは別として、バッチの違いにより多少異なるものの似たようなプルーフをもつカスク・ストレングスと較べると、ノーズは明らかに豊かでスウィートでテクスチャーはソフトに感じました。ただ、フルーツ・フレイヴァーの芳醇さはカスク・ストレングスも負けてない気がします。曖昧な書き方をしたのは、これがサイド・バイ・サイドではなく以前に飲んだ物と記憶で比較しているからです。まあ、その記憶が確かだったとして言えるのは、総合的に見るとセラー・エイジドはカスク・ストレングスより2倍近い熟成年数にも拘らず、変に癖のあるフレイヴァーが追加されることもなく、寧ろメーカーズマークの古典的なフレイヴァーを維持しつつソフトさとリッチさと複雑さを僅かに増幅させており、物凄く美味しくなってはいないけれども確実に少し美味しくなっている、と云うこと。これは著名なバーボン・レヴュワーの何人かと同じような感想であり、彼らは「メーカーズマーク・カスクストレングスを並べて比較すると、セラー・エイジドに軍配が上がるが、その差は圧倒的ではない(要約)」とか、セラー・エイジドを「メーカーズマーク・カスクストレングス+」だと評したりしています。彼らから指摘されているのは、熟成期間の後半をかなり涼しく、暗く、湿ったセラーで過ごしたことで、液体とバレルの相互作用はリックハウスで熟成を続けて得られるものとは異なり、このセラー・エイジドが人々が思い描くような長熟のバーボンではないという点です。セラーエイジドは本物の12年熟成製品のように扱うべきではないという指摘すらありました。個人的には長熟は苦手な風味を感じることが多いので、メーカーズマークの考えには基本的に賛同なのですが、確かに従来品と較べて「突き抜けて違うもの」を期待したせいか若干拍子抜けした感は否めません。有名な某ネット掲示板のセラー・エイジドの投稿では、木製のリックハウスで全期間熟成させた12年物のバーボンを求める声はちらほら見られました。メーカーズマーク自身は嫌うものの、実際に蒸溜所のイヴェントでそうした熟成バレルのサンプルを試飲した方で、それは格別だったと一部の人からは評価されたりもしています。私がリックハウス熟成の12年物を好むかどうかは飲む機会もないので措いておくとして、これはそもそも論なのですが、メーカーズマークに就いて海外の或る方が「床は高く、天井は低い」と言っていました。実を言うとあまりメーカーズマークに熱心でない私にとって、その意見は腑に落ちるものでした。私なりにメーカーズマークを野球で例えると、必ず二塁打か三塁打を打つが絶対に凡打もホームランも打たないバッター、というイメージがあります。安定の優等生とでも言うのでしょうか。これは良い悪いではなく、そういうキャラクターというだけなのですが、時に感情を振り回されるからこそ惹かれるファン心理というのもありますから、メーカーズマークの最大の長所であると同時にちょっとしたウィークポイントとなっているように私には感じられるのです。それが今回のセラー・エイジドにも、まんま当て嵌まると言うか…。いや、誤解のないように繰り返すと、これは瑕疵ではありません。だって素晴らしいバッターですもの。それに、この解釈は単に私がそもそもメーカーズと親和性がないためにそう思うだけで、メーカーズマークのプロファイルが好きな人にとっては毎回ホームランを打つバッターかも知れないですからね。皆さんはメーカーズマークに就いてどう思われるでしょうか? コメント欄よりどしどしご意見お寄せ下さい。

Value:アメリカでは150ドル、日本では17600円が希望小売価格でした。海外のセカンダリー・マーケットでは発売後、瞬く間に300〜500ドルになったことを思えば、サントリーが正規に取り扱ってくれたお陰で我々日本人はお店で予約さえすれば労せず適正な価格で買うことが出来ました。プレミアム・バーボン及びアメリカン・ウィスキーの価格設定が全体的に上昇している現状を踏まえると、このメーカーズマーク・セラーエイジドの価格は、かなり安いと言うか、少なくとも妥当な価格と思えます。例えばワイルドターキーで言うと、マスターズキープのヴォヤッジ(ボヤージュ)の30000円や、ジェネレーションズの77000円と比較すればかなり安く感じます。セラー・エイジドはメーカーズマークの哲学が詰まった製品ですから、メーカーズ・ファンならば買って失望することはないでしょう。変に割増金が乗せられた価格ではなく、希望小売価格であれば完全にオススメです。また、長熟バーボン嫌いな人でも飲み易いが故に、メーカーズのファン以外にもオススメ出来るバーボンです。但し、カスク・ストレングスの約8000円とセラー・エイジド18000円弱の価格差ほどは味わいが大きく向上した気はしないので、希望小売価格でも高過ぎると思う方へは、カスク・ストレングスを2本買うか、同じ12年熟成枠としてワイルドターキー12年かエヴァンウィリアムス12年を2本買うことをオススメします。

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ローワンズ・クリークはケンタッキー州バーズタウンのウィレット蒸留所(KBD)で製造されているスモールバッチ・ブティック・バーボン・コレクションの四つのうちの一つです。その他の三つはノアーズ・ミル、ピュア・ケンタッキーXO、ケンタッキー・ヴィンテージとなっています。価格から言うと、ローワンズ・クリークはこの中では上から二番目の位置付け。コレクションの成立は90年代半ば(一説には94年)とされます。当時の業界ではプレミアムなバーボンが胎動し始め、ジムビームもスモールバッチ・コレクションを開始するなど、そのコンセプトは軌を一にしていました。
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(画像提供K氏)
ローワンズ・クリークの名は蒸溜所の敷地内を流れる小川にちなんで付けられました。その小川は1700年代後半から1800年代前半に掛けてケンタッキー州の政治家であったジョン・ローワンにちなんで名付けられ、彼のフェデラル・ヒルの邸宅はスティーヴン・コリンズ・フォスターの歌曲「マイ・オールド・ケンタッキー・ホーム」にインスピレーションを与えたと言われています。このバーボンは、ノアーズ・ミルと手描きのようなラベルの雰囲気やワイン・タイプのボトルといった共通点があり、更に熟成年数とボトリング・プルーフが少し低く、尚且つ安い価格ということもあって、その姉妹品というか弟分のように認識されていました。「ベイビー・ノアーズ・ミル」と呼ばれているのも見かけたことがあります。もっと言うと、ローワンズ・クリークはノアーズ・ミルより一段劣る廉価版と常に考えられていた節があります。しかし、だからといって品質が劣った製品という訳ではなく、飲み易さと財布への優しさが魅力だったためか、2011年当時の情報によるとアメリカの27州で販売され、KBD(ケンタッキー・バーボン・ディスティラーズ)が生産するバーボンの中で最も売れている銘柄だったそうです。ローワンズ・クリーク・バーボンが長期に渡ってKBDのポートフォリオに於いて重要なブランドだったとされる所以でしょう。個人的に、オールド・タイミーな雰囲気の薄茶のラベルとマルーン色のワックス(及びフォイル)の組み合わせは凄く好きなデザインです。ところで、ワイルドターキーのような101ではなく100.1という小数点まで使ったボトリング・プルーフは一体何なのでしょうか? ハンドメイド感の演出? 或いは単なるユーモア? まあ、それは措いて、このローワンズ・クリーク、初登場から今に至るまで外観はそれほど大きく変化しませんでしたが、中身はかなり変化しました。ここからはその変遷を追ってみましょう。

しかし、実はこのバーボンの中身のジュースの明確な詳細は、発売当初から今に至るまで不明です。周知のように、ウィレット蒸溜所は2012年から自家蒸溜を再開しましたが、それまではKBDとして他の蒸溜所からバレルを購入していました。従ってローワンズ・クリークも他の製品も、発売からある時点までは実際には別の生産者によって蒸溜され、KBDによってブレンド及びボトリングされたものでした。彼らは、ローワンズ・クリークに限らず、自らの製品に就いて明瞭に語ることは殆どなく、どこで蒸溜されたウィスキーなのかは推測の域を出ません。軈て、自社の蒸溜原酒が熟成するにつれ、それらはボトリングされるようになり、2020年頃には殆ど全ての製品がバーズタウンにある自社製に切り替わっていると見られています。その頃からラベルに記載される事業名が、ローワンズ・クリーク・ディスティラリーからウィレット・ディスティラリーに変更されました。ここら辺の現代ローワンズ・クリークも、公式にマッシュビルや熟成年数などのスペックは公開されてはおらず、他ブランドとどういった造り分けをしているのか謎のままです。これらを念頭に置いて見て行きます。

発売された当初、ノアーズ・ミルとローワンズ・クリークにはエイジ・ステイトメントがありました。前者が15年、後者が12年です。この熟成表記は、メイン・ラベルの上に貼られた細いラベルに余り目立たない感じで記載されていました。また、この頃の物(*)はボトルの横もしくは後に貼られたバッチ・ラベルに、蒸溜年とボトリング年が手書きで記されています。
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12年表記のある初期のローワンズ・クリークは、文字通り最低でも12年熟成、もしくはもっと長い熟成バレルを使ったブレンドもあった可能性はあります。実際、今回私が開栓した12年表記のあるローワンズ・クリークは、蒸溜年とボトリング年を参照すると13年熟成となっていますし(上画像参照)、他のバッチでも12年熟成以上の物を見たことがあります。スモールバッチ・バーボンの代表的な銘柄であるブッカーズに記載される熟成年数が最も若いバレルの物であるのと同様に、ローワンズ・クリークのバッチ・ラベルに記載されている蒸溜年も最も若いバレルの物でしょう。この頃のバッチング・サイズは10樽程度と何処かで読んだ気がしますが、本当かどうかは判りません。
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おそらく発売当初は豊富にあった長期熟成バレルはバーボン需要の増加に伴って少なくなり、ノアーズ・ミルとローワンズ・クリークの両ボトルともエイジ・ステイトメントを失いました。切り替わりの正確な時期が特定できないのですが、2006年後半あたりからではないかと思われ、少なくとも2011年までには完全に切り替わっていた筈です。そして、NASとなってからは若いバレルも混和するようになり、2011年の情報では「5年から15年のバーボン樽のコレクション」とされていました。また、同情報源によれば「どの樽を使い、どの樽を使わないかという固定観念に囚われることはない」と言われていました。その言葉からすると、もう少し熟成年数の幅は前後することもあると思われます。バッチング・サイズは、おそらく当時は15バレル程度かな? このNASのローワンズ・クリークのレヴューを参照すると、やや若い味がするとか、若いアルコールのキツさがあるとの指摘が見られ、5〜15年の熟成バレルの構成は主に若い熟成のバーボンに少し長熟バーボンが混じっている配分なのではないか、と考える人もいます。
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2013年後半頃には、これまたローワンズ・クリークとノアーズ・ミルともに、ワックス・トップだったものがフォイル・トップへと変更されました。これらのワックス・トップとフォイル・トップにはテイスティング・プロファイルに違いがないと考える人もいれば、あると信じる人もいました。あると信じる人達はより若くなったと感じたようです。まあ、ワックスかフォイルの違い以前に、ローワンズ・クリークにはバッチ間の差もかなりあると言われています。その出来にはバラつきがあって素晴らしいものもあれば殆ど飲めないものまである、と言っている人も見かけました。個人的には飲めないほど酷い物はないと信じていますが、SNS等でローワンズ・クリークに限らずウィレットのスモールバッチ・バーボンを「美味しい」と投稿している方には、せめてバッチ番号を明記して欲しいとは思います。そうでないと、どの時代の物を美味しいと言っているのか判りにくいので…。それに、大規模な蒸溜所の「大きな」スモールバッチですらシングルバレルに劣らず個性的であるのに、実際にはヴェリー・スモールバッチと呼んだほうが適切な数十樽のスモールバッチは尚更そうですから。

偖て、90年代から2010年代半ばまでのローワンズ・クリークは、他のスモールバッチ・ブティック・バーボン・コレクションの面々やジョニー・ドラム及びオールド・バーズタウンといった主要なブランドと同様にソースド・バーボンでした。その大半はヘヴンヒルのバーズタウンの蒸溜所かルイヴィルのバーンハイム蒸溜所から仕入れていたのではないかと見られています。しかし一方で、KBDは長年に渡ってほぼ全ての主要な蒸溜所(メーカーズマーク以外とされる)のウィスキーを入手しており、彼らは個性的なフレイヴァー・プロファイルを得るために異なる蒸溜所のバレルを混ぜ合わせていたとも言われています。当時は多くの人がヘヴンヒルやバートンのウィスキーをボトルに入れただけと思っていましたが、2つかそれ以上(3つか4つ)の蒸溜所のウィスキーのマリッジだった、と。KBDの社長エヴァン・クルスヴィーンは手持ちのウィスキーから素晴らしい風味を生み出す達人であり、様々な業者から入手可能になる度にバレルを調達していた結果、彼とブレンディング・チームは少量のウィスキーをブレンドして各ブランドに合う風味を造り出すことに熟練するようになった、と。勿論、詳しい構成比率が明かされる訳もなく、全ては謎に包まれています。

そして、ウィレットの製品は現在では100%自家蒸溜物に移行したと考えられています。しかし、一体いつローワンズ・クリークが自身の蒸溜物に切り替わったかはよく判りません。仮に熟成年数4年程度でボトリングしているならば、2012年から蒸溜を再開したことを考慮すると、早くて2016年から新ウィレット原酒を使用することは可能ではあります。また、よく分からないのが他の蒸溜所産のウィスキー、つまり何処かから調達した旧来のストックと、自前の蒸溜所産の新しいウィスキーを混合しているのかどうかです。個人的には味わい的に混ぜてないような気がしますが、どうなのでしょう? 皆さんはどう思われますか? バッチ毎の味わいの違いに関する情報などと合わせて、仔細に精通している方は是非ともコメント欄より情報提供下さい。で、現在のウィレット蒸溜所には以下のような4つの異なるバーボン・マッシュビルがあります。

①オリジナル・マッシュビル
72%コーン/13%ライ/15%モルテッドバーリー

②ハイ・コーン・マッシュビル
79%コーン/7%ライ/14%モルテッドバーリー

③ハイ・ライ・マッシュビル
52%コーン/38%ライ/10%モルテッドバーリー

④ウィーテッド・マッシュビル
65%コーン/20%ウィート/15%モルテッドバーリー

ソーシング・ウィスキーではない現在のローワンズ・クリークのマッシュビルに就いて調べてみると、4つのマッシュビルのブレンドとしているもの、①としているもの、味わいから②と推測するもの、更にはハイ・ライ・バーボンであることは確かだとする説もあったりと、てんでバラバラで混乱するばかりです。熟成年数は、5〜7年ではないかと推測するものや、推定8年程度であると考えられているとするものがありました。孰れにせよ正確な熟成年数も不明です。バッチによって一貫性がないとされるスモールバッチ・バーボンですから、何ならマッシュビルの変更やバッチングに使用されるバレルの熟成年数の変化だってあったのかも知れない。まあ、判らないことは措いておき、そのうち何か情報が入れば追記することにしましょう(※追記あり)。

では、そろそろ注ぐ時間です。今回は自分の手持ちの12年表記のある2006年ボトリングとNASの2017年ボトリングを開封しました。この2つに加え、バーボン仲間のK氏から2つのサンプルを頂けたので、計4つの年代別バッチ別の比較が可能となりました。画像提供も含め、いつも本当にありがとうございます。バーボン繋がりに乾杯!

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ROWAN'S CREEK Twelve years 100.1 Proof
BATCH QBC No. 06-94
推定2006年ボトリング。赤みを帯びたダークブラウン。床用ワックス、フローラル、焦樽、オールドファンク、トフィ、杉、ベーキングスパイス、土、アプリコットジャム、抹茶ミルク。よく熟成したバーボンの香り。プルーフから期待するよりは緩いが、とろりとした口当り。味わいは甘く、スパイシーかつフルーティとバランスが良い。そして何より味が濃い。余韻はミディアムで、ややビター。
Rating:88/100

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ROWAN'S CREEK NAS 100.1 Proof
BATCH QBC No. 17-67
推定2017年ボトリング。パイナップル、グレイン、蜂蜜ハーブのど飴、シリアル、グレープジュース、ビール、プラム、ヨーグルト、マッチの擦ったあと。香りはフルーツの盛り合わせ。ややとろみのある口当たり。パレートはフルーティな甘みと共に穀物の旨味が凄い。余韻は最後に少し苦味。
Rating:87.5/100

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(画像提供K氏)
ROWAN'S CREEK NAS 100.1 Proof
BATCH QBC No. 12-135
推定2012年ボトリング。ワックス・トップでNASの物。ウッドニス、プリンのカラメルソース、穀物、カカオ、木の酸、ナツメグ、ヴァニラウエハース。清涼感を伴った仄かに甘いアロマ。味わいは薄っすらフルーティで穏やかなスパイス感。余韻はミディアム・ショートで、ほんのり甘みが来てから一気にドライになって切れ上がる。
Rating:83/100

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(画像提供K氏)
ROWAN'S CREEK NAS 100.1 Proof
BATCH QBC No. 21-9
推定2021年ボトリング。四つの中でこれのみラベルの記載がローワンズ・クリーク・ディスティラリー名義ではなくウィレット・ディスティラリー名義。僅かにゴールドがかったブラウン。紅茶、蜂蜜、檸檬、焦げ樽、フローラル、塩、ゴム、ピーナッツ、ジンジャー。香りは蜂蜜レモンティー。ややオイリーで滑らかな口当り。パレートではほんのり甘いオークの風味が感じ易い。余韻はミディアムでダージリン・ティー。
Rating:85.5/100

Thoughts:バッチ06-94は、明らかに長熟バーボンのオールドな風味を感じます。しかし、それは不快ではない程度に収まっており、却って心地良いくらいでした。そういったオールド感も含めてバランスの良いバーボンという印象。香りや味わいは、ヘヴンヒルぽくは感じましたが、微妙に異なる風味もあって、例えて言うとエヴァン・ウィリアムス12年をフォアローゼス・プラチナで薄めたような味わいですかね。それは兎も角、これが往時3000〜5000円程度で買えていたと思うと驚異です。今なら12000円位から、ブランディングによっては20000円を超えてリリースされそうなクオリティ。
バッチ17-67はアロマだけで新ウィレット原酒と思いました。一言でいうと穀物フルーツ系バーボンです。飲んだ印象としてはライ麦の要素があまりないように感じたので、マッシュビルは②かなと予想しますが、まあ分かりません。ミックス・マッシュビルかも知れないですし。私が以前に飲んだケンタッキー・ヴィンテージやピュア・ケンタッキーXOの特定のバッチと較べてみると、幾分か穀物感とフルーツ感で上回るように感じましたが、だからと言ってそれが取り立てて明確に上位の味わいとは思えませんでした。特にオールド・バーズタウン・エステート・ボトルドと比べるとミルキーなテイストを欠いており、価格が上がる割に良いフレイヴァーがないのは気掛かりです。とは言え、ウィレット蒸溜所が生産するウィスキーは非常に自分の好みに合っており、私は彼らの比較的若いウィスキーでも楽しめる消費者の一派に入るので、美味しいのは間違いありません。
バッチ12-135は、全体的なフレイヴァー・バランスは整っているのですが、12年物と較べるとアロマもテイストも何もかもが薄いと感じました。アルコールのピリピリ感もあって、確かに若い原酒の比率がかなり高くなった印象を受けます。サイド・バイ・サイドで12年物と較べるからスケールが小さく感じるとは言え、他のバーボンとの比較に於いても特に誉めるべき点は見つからず、逆に特に悪いところもない凡庸なバーボンという感想でした。正直言って、ローワンズ・クリークというブランドから自分が抱く勝手なイメージからすると期待外れな出来です。
バッチ21-9は紅茶でも飲んでるかのような味わい。同じ新ウィレット原酒と思われるバッチ17-67とフレイヴァー・プロファイルがかなり違うのが面白かったです。こちらはバッチ17-67と較べると、自分が今まで飲んで来た新ウィレット原酒に感じ易いと思っているハーブのど飴のような複合的なハーブとグレープを殆ど感じれず、それが点数を下げる要因となりました。それにしても、何故これ程までにプロファイルが異なるのでしょうか? もしかしてマッシュビルの変更があったのかしら? これがミックス・マッシュビルなの? それとも単にバレル・セレクトの違いなのか…。海外の有名なバーボン・レヴュワーがローワンズ・クリークに対して、本質的に悪いところはないがウィレットが蒸溜するようになったという事実以外に特筆すべき点もないとか、同価格帯のより有能な他のボトル(ブランド)には敵わないとか、評判の悪いウィレット・ポットスティル・リザーヴと同じような風味がする、と評しているのを目にするのですが、それがバッチ17-67のような味わいに言われているのか、それともバッチ21-9のような味わいに言われているのか、はたまた両方なのか、これが判らない。ウィレット蒸溜所のウィスキーを色々飲んでいる皆さんはどう思われますか? コメント欄よりご意見ご感想、お待ちしております。

Value:「12年」表記のあるローワンズ・クリークは、古い物なのでオークション等である程度の価格は覚悟しなければならないでしょう。しかし、もし貴方が古典的な熟成バーボンを好むなら素晴らしい価値のある製品です。現行のローワンズ・クリークは、アメリカでは地域差がありますが大体40〜45ドル程度、日本では大体6500円くらいで売られています。もし貴方が近年のウィレット蒸溜所のウィスキーのフレイヴァーを愛するなら、バッチ毎の違いはあるかも知れませんが、概ねオススメ出来る製品だと思います。これらの中間に当たる時代のローワンズ・クリークは、少々中途半端と言うかあまり印象に残らないバーボンで、正直それほどオススメではありません。


*初期の物でも蒸溜年が記されていないものや、「E」で始まるバッチ番号の物を見かけたことがあります。

追記:現行のマッシュビルは72%コーン、13%ライ、15%モルテッドバーリーのオリジナル・マッシュビルだそうです。

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ワイルドターキー・マスターズキープ・ワンは、基本的に年に一度、限定発売される同シリーズの第6弾で、2021年9月にリリースされました(日本では約一年遅れの2022年10月18日に発売)。マスターズキープは毎年異なるテーマを設け、マスター・ディスティラーのエディー・ラッセル自身がコンセプトに沿ってバレルを選び造り上げられます。バーボンとしては長期熟成の「17年(2015)」や「ボトルド・イン・ボンド(2020)」、過去のワイルドターキーの遺産へのオマージュとも取れる「シェリー・シグネチャー」にインスパイアされた「リヴァイヴァル(2018)」や「フォーギヴン」を強力にしたような「アンフォガトゥン(2022)」、ワイルドターキー史上初の限定版ライ・ウィスキーだった「コーナーストーン(2019)」などがあります。
この「ワン」は、二つのレガシーを「一つ」に調和させるところから名付けられました。言うまでもなく二つのレガシーとはラッセル父子を指しています。一つは有名な父ジミー・ラッセル。彼の中期熟成バーボン(具体的には8~10年熟成)好きは周知の事実として知られており、そこでエディは父の好みを反映させるために9年と10年熟成のバレルを厳選しました。もう一つはエディ・ラッセル自身。彼は長期熟成されたバーボンの複雑な特徴に対して情熱を注いでいるので、慎重に熟成させた14年熟成のバレルを少量選びました。そして、それらの原酒を巧みにブレンドし、更にそのバーボンを特別にトーストとチャーを施した新樽に入れ、エディが個人的に気に入っているタイロンのGリックハウスにて非公開の時間を掛けて二次熟成させることで、父と息子の異なる二つの個性が一つになった、と。
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トーステッド・バレル・バーボンは近年人気を高め、2020年代初頭のトレンドの一つとなっています。ここ日本でもミクターズのトーステッド・バレル・フィニッシュは比較的知られているのではないでしょうか。ヘヴンヒルのエライジャクレイグ・ブランドもこの方法で大成功を収め、このカテゴリーには大手メーカーからクラフト蒸溜所まで様々な例が散見されます。それだけにマスターズキープの2021年リリースがトーステッド・バレル・フィニッシュになると聞いて、ワイルドターキーが他のプロデューサーの後を追従しただけであるかのように思われ、「ワイルド・ターキーはアイデアを使い果たしているに違いない」などと落胆したWTファンもいたようです。確かに、過去のマスターズキープのデケイズ(ディケイド)も10年から20年の中期熟成と長期熟成ウィスキーをブレンドしたものでしたから、そのアイディアにはそれほど根本的な違いはなく、有名な親子デュオの二つのプロファイルを一つにすると云うワンの物語は、トレンドの波に乗り遅れたのを取り繕うただのマーケティングのようにも感じられます。とは言え、フィニッシングだけで全てが決まる訳ではなし、選ばれた原酒が希少そうだし、これはこれでワイルドターキーのバーボンであることに意味があるでしょう。

フィニッシングは、既に完全に熟成させたアメリカン・ウィスキーを他のスピリッツやコーヒー等を貯蔵するために使用されてきた樽や従来とは全く異なる新種の木樽などに再度入れ、数ヶ月から数年ほど追加で熟成させる手法です。トーステッド・バレルもその一つ。伝統的なチャーはバレルの内部を高温の炎で40~60秒かけて焼くのに対して、トーストは短時間で一気に熱を加えるのではなく、より低温かつより長時間、木の奥深くまで熱に曝すロー&スロー・アプローチであり、時間が掛かる分コストも掛かります。チャー工程で出来る樽内部の黒ずんだ炭化層は濾過という実用的な機能を果たします。この層自体は本質的に木炭であり、最終的な風味にはあまり影響せず、熟成中に木炭浄水フィルターと同じように機能して新しいウィスキーの望まれない異臭や風味を取り除きますが、寧ろバーボンのお馴染みの愛すべき風味はその炭化層のすぐ下にある「レッド・レイヤー」から生まれ、こちらの層がバーボンの特徴であるヴァニラやキャラメル、ナッツやスパイスなどの芳香成分やフレイヴァー、また色も齎すとされます。そこで、トースティングによって厚いレッド・レイヤーを作り出し、バーボンの特徴を更に際立たせたのがトーステッド・バレルという訳です。トースティングとチャーリングは互いに排他的な効果でありません。多くの蒸溜業者はバーボン・バレルに両方の方法を使います。トーステッド・バレルで比較的知名度があると思われるミクターズの「トーステッド・バレル・フィニッシュ」は敢えてチャーしないセカンド・バレルを使うタイプですが、エライジャクレイグの「トーステッド・バレル」ではトーストした後に表層は黒くはなるものの木材に亀裂が入らない程度の「フラッシュ・チャード」を施しています。或いは「トーステッド」とは名乗られていませんが、ウッドフォード・リザーヴの「ダブル・オークド」も二次熟成に使うバレルは深くトーストした後に軽くチャーリングしていると言います。前述のようにワンのフィニッシングに使われるバレルも「特別なトーストとチャー」を施したと謳っているのですが、何秒焼成したとかの詳細は明かされていません。エライジャクレイグ・トーステッド・バレルやウッドフォード・リザーヴ・ダブル・オークドに近しい製法なのでしょうか? まあ、分からないことは措いておきましょう。
トーステッド・バーボンはヴァニラ、仄かなカラメル、ライトなオーク、ロースト・マシュマロ、スモア、シロップ、ココナッツ等の香りが特徴とされています。但し、トーステッド・バレルを使えば「勝ち確」という訳ではなく、実際には気難しいプロセスでもあるようです。トーステッド・フィニッシュが強過ぎると、ベースとなるウィスキーが圧倒され、異質な味わいのバーボンに変貌してしまうのだとか。トースティングやチャーリングは繊細な作業であり、芸術の域に達していると言われる所以かも知れませんね。では、そろそろワンを注ぐ時間です。ちなみにマッシュビルは75%コーン、13%ライ、12%モルテッドバーリーのワイルドターキーお馴染みのもの。

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WILD TURKEY MASTER'S KEEP ONE 101 Proof
BATCH No. 0001
RICKHOUSE : G
僅かに赤みを帯びた艷やかなブラウン。クミン、香ばしい焦樽、ライスパイス、メープルシロップ、爽やかな野菜感、辛子蓮根、タバコ、スミレ、ヘーゼルナッツ、バター。ツンとした刺激的でスパイシーな香り立ち。時間を置くと甘い香りやフローラルも出た。ややとろみのある口当たり。甘さとスパイスの均整が取れ、柑橘類のアンダートーンとバターぽさもある味わい。余韻はミディアムロングで、香ばしい樽の香りとウッディなスパイスが広がる。液体を飲み込んだ直後から余韻に掛けてがハイライト。
Rating:88.5/100

Thought:凄く美味しいです。通常のワイルドターキー8年と較べると香ばしさが圧倒的でした。溌剌としていて、出て来るスパイスも少し異なりますかね。14年物が含まれてる割に渋みがないのも個人的には好印象。全体的に長熟の雰囲気はあまり感じませんでしたが、ボトルの半分以下の量まで飲み進めると、少し長熟のニュアンスが感じれるようにはなりました。無理やり同じシリーズのマスターズキープで例えるなら、デケイズをより甘くよりフレッシュにしたような味わい(但し、デケイズのほうが深みで勝る)。どこまでがトーステッド・フィニッシュの効果なのか判りませんが、何らかのフレイヴァー強度を上げつつ、他のワイルドターキーにない個性が加わっていると思います。強いて弱点を挙げるなら、殆どのワイルドターキーに感じられるチェリー・ノートがスタンダードのボトルよりも弱くなっているところでしょうか。
このワン、グレンケアンのブレンダーズ・グラスで飲んでも久々に美味しく感じるバーボンでした。今時のバーボンや若い熟成年数のバーボンはグレンケアンでなくてもテイスティング・グラスで飲むと美味しくなく感じることが多いのですが、これは旨かったです。そう言えば、ザ・ライト・スピリットのマーク・Jはワンに関して面白い感想を述べていました。彼は開封直後のワンをグレンケアンで飲んだ時は平凡でドライオークが心地良くないと思ったのに、10日後に今度はブランディ・グラスで試したところ味わいは素晴らしいものに変わっていたと言うのです。その3日後、またブランディ・グラスで飲んでみてもやはり美味しかったので、グラスのせいかも知れないと考え、グレンケアンにも注いでみると、よりドライになったように感じたがそれでも2週間前よりは良かった、と。彼はグラスのせいなのか、瓶の中で空気に触れて香りが開いたのか、科学的な根拠は何もないが、敬遠していたウィスキーを2週間後にはすっかり気に入ってしまったと言い、「ウィスキーよ、どうしてそんなにミステリアスなんだい?」と文章を締めくくりました。私はブランディ・グラスでは試してませんが、酸化による味わいの変化やグラスを変えることによる感じ方の変化を常々不思議に思っていたので、この最後の言葉には大いなる賛同しかないですね。ちなみに、有名なウィスキー・レヴュアーの一人ジョシュ・ピータースはこのワンを大絶賛していました。彼のマスターズキープ・ランキングのトップに君臨しているとして、(金銭的に)余裕があれば1ケース買い占めたいくらいだ、とまで言っています。一方、ワイルドターキーの大家デイヴィッド・ジェニングスは、ラッセルズ・リザーヴが良いという意味でワンも良いが、値段を考慮するとトーステッド・バレルの先達ほど強くはない、という趣旨の評価をしていました。

Value:アメリカでは175ドル、日本では20000円の希望小売価格でした(日本に於ける販売数量は約5000本とされる)。昨今のウィスキー全般の価格高騰からすると、下手にプレミアム価格になっていなければ、高級感のあるパッケージも含めてアリだと思います。但し、ボトル1本に20000円も掛けられないと感じる人のために言っておくと、価格と味わいのバランスを考慮するなら日本で入手し易い8年や12年、ケンタッキー・スピリットやラッセルズ・リザーヴでも十分美味しく、ワンの購入を諦めても泣く必要はありません。一部の人が言うように、通常ラインナップの拡張として「ワイルドターキー・トーステッド・バレル」なるものが70ドル程度でリリースされるのが理想なのかも知れない。しかし、それが実現したとしても、このワンとはまるっきり別物になるでしょう。おそらく、このバーボンが美味しい理由(または高い値付けの正当性)は、トーステッド・バレル云々よりは選ばれた原酒のクオリティにこそあるのではないか?、私にはそう思えます。そのことを信じる人は買えばいい、ワンはそういう製品です。

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