ワイルドターキー レアブリードは、6年と8年と12年熟成の原酒をブレンドし、加水なしでボトリングした所謂バレルプルーフバーボンとして知られています。そのためバッチごとにボトリングの度数に僅かな変動があります。日本ではお馴染みの8年101より格上、12年や13年といった長期熟成物よりは格下という位置付けの製品で、91年の発売以来長いこと継続して販売されており、バレルプルーフの製品としては比較的安価なのが人気の秘訣でしょうか。
昔は輸出用ラベルの「1855リザーヴ」というのもありましたが、これはレアブリードと概ね同じと見做していい物です。おそらく、ファースト・ロット以外はプルーフを共有するので、中身は同一のバッチングに由来すると思われます。或るバーボンマニアの方がレアブリードのリストを作成していたので、それを基に以下に纏めさせて頂きましょう。左から順に生産年、ラベル名、バッチナンバー、プルーフです。
1991 / Rare Breed / W-T-01-91 / 109.6
1991 / Rare Breed / W-T-02-91 / 110
1992 / 1855 Reserve / W-T-10-92 / 110.0
1993 / Rare Breed / W-T-01-93 / 110.8
1993 / Rare Breed / W-T-02-93 / unknown
1993 / Rare Breed / W-T-03-93 / 111.4
1994 / Rare Breed / W-T-01-94 / 112.2
1994 / 1855 Reserve / W-T-01-94 / 112.2
1994 / Rare Breed / W-T-02-94 / 109.6
1994 / 1855 Reserve / W-T-02-94 / 109.6
1995 / Rare Breed / W-T-01-95 / 109
1995 / 1855 Reserve / W-T-01-95 / 109
1995 / Rare Breed / W-T-02-95 / 109
1996 / Rare Breed / W-T-01-96 / 108.8
1996 / 1855 Reserve / W-T-01-96 / 108.8
1997 / Rare Breed / W-T-01-97 / 108.6
1999 / Rare Breed / W-T-01-99 / 108.4
2003 / Rare Breed / WT-03RB / 108.2
2015 / Rare Breed / ーーーー / 112.8
2017 / Rare Breed / ーーーー / 116.8
ラベルの変遷はざっくり下のような感じになります。
少し言葉で補足しておくと、リストや画像で判る通り「1855リザーヴ」は96年で廃止となりレアブリードに一本化されました。そして2015年リリースの物(金ピカの筒に入ったやつ)からはバッチナンバーがなくなり今に至ります。これらはバッチナンバーで呼ぶわけにいかないので「112.8は○○だね、116.8は□□だよ」のようにプルーフの数値でその個体を指します。また、よく判らないのがWT01-99の生産期間でして、海外のレヴューやボトルの紹介を見ると2004年ボトリングとされる物が散見されるのです。私の理解ではWT03RBの「03」は2003年のことだと思っていたのですが、もしWT01-99が2004年まで生産されていたとすると、WT03RBは2005年から発売なのかも知れません。一応、上のリストではWT03RBは2003年ということにしておきましたが、誰かここら辺の事情をご存知の方はコメントからご教示頂けると助かります(※追記あり)。
それはさて措き、レアブリードのバッチの中でも取り分け異質なのがWT03RBです。このバッチだけが2014年春に終了となるまで約10年に渡って流通していました。そのため、とんでもない量のバッチングされたバーボンを巨大なステンレスタンクか何かに保管していたのではないか、との疑いがあったのですが、マスターディスティラー エディ・ラッセルの息子ブルース氏によるとそうではないとのことです。ワイルドターキー蒸留所は比較的ロウ・プルーフのバレル・エントリー・プルーフで知られていますが、このWT03RBが発売されていた期間中、二回ほどより高いエントリー・プルーフへと変更されています。それは2004年にそれまでの107プルーフから110プルーフとなり、続いて2006年には115プルーフとなりました。この変更は風味プロファイルに変化を生じさせるでしょう。そのためWT03RBは生産年ロットによって原酒の配合比率を少し変えることで風味を一定にしているとブルース氏は語っています。例えば、或るロットは他のロットより8年の比率が多い等。そしてそれを、おそらく少量の加水で108.2プルーフぴったりに調整したのだと思われます(※規則上、少量の加水をしてもバレルプルーフを名乗ることが出来ます)。外国のターキーマニアでWT03RBの生産年ロット違いを飲み較べした方によると、風味に若干の違いはあるものの概ね似た同等レべルの物になっているようです。マスターディスティラー以下テイスターやブレンダーの驚異の仕事と言わざるを得ませんね。
さて、今回はWT03RBとWT01-99の飲み較べをしたいと思います。目視での色の違いは感じられません。
WILD TURKEY Rare Breed 108.2 Proof
BATCH No. WT-03RB
推定2011年ボトリング。並行輸入品。香ばしい樽香、ヴァニラ、バターポップコーン、ナツメグ、微かなチェリー、塩、ビオフェルミン。こちらのほうがとろりとした口当たりで、やや甘い。口の中ではペッパースパイスが踊る。余韻はターキーらしい焦げたウッディネス。
Rating:86.5/100
WILD TURKEY Rare Breed 108.4 Proof
BATCH No. W-T-01-99
推定2001年? ロット番号はL0261031。正規輸入品。シナモンの入った焼き菓子、ペッパー、マロン、ピスタチオ、蜂蜜、オレンジ、バター、コーンチップス、強いて言うと焼いたパイナップル。こちらのほうがさっぱりした口当たりで、やや酸味がある。口中と余韻に豊かなスパイス。
Rating:86.75/100
Verdict:続けて飲めば明らかな違いは感じるものの、どちらもレアブリードだなあという味に収まっていると思います。実は海外のバーボンマニアの評価はWT01-99の方が圧倒的に高いのですが、個人的にはそこまで大差はない印象でした。流石にWT03RBもジミー・ラッセルがフェイヴァリットと言うだけあって負けてるとは思えません。確かに、どうしてもどちらかを選ぶのなら、アロマが若干強く、テクスチャーは軽いもののフルーツ感とスパイス感に勝るWT01-99の方に軍配を上げます。
Thought:バレルプルーフにしてはやや深みに欠ける味わいに感じました。私の嗅覚と味覚ごときではアーシーなフィーリングやカビっぽさ、また香水のようなフローラルや赤い果実感といった「美味しいターキー」の諸要素もあまり感じ取ることが出来ません。8年101と比較すれば、断然ナッティな香ばしさが強く、オイリーなマウスフィールもあります。けれどバレルプルーフだから風味が複雑かと言うと期待するほどでもなく、出来の良い時期の8年101には負けている気が…。なによりパレートとフィニッシュがドライ過ぎる嫌いがあり、なんとなく6年熟成原酒の割合が多いのではないかと想像します。それに12年熟成原酒の比率はだいぶ低いのではないでしょうか? 例えば20%以下とか、もっと? 或いは価格から考えて、シングルバレルやヴェリースモールバッチ(*)に選ばれなかった樽から造られているとすれば、シュガーバレルの混和率が低いのも当然なのかも知れません。飲んだことのある皆さんの意見を伺いたいですね。
Value:上で否定的と取られかねない言いっぷりをしてしまいましたが、私はターキー好きであり、お薦めなのかお薦めじゃないのかで言ったら、そりゃお薦めです。レアブリードはバレルプルーフバーボンの中でも入手のしやすさと安さでは一番ですから(**)。ただし、今回飲んだバッチは少し古いものです。それほど希少性はなくとも現行製品のようにどこでも売ってる訳ではありません。定価(と言うのか希望小売価格と言うのか)と同程度であれば二次流通市場で購入する価値はあると思いますが、付加価値を支払うほどではないというのが私の意見です。
追記:その後に得た情報では、やはりWT01-99は2004年まで発売されていたようです。そしてWT03RBは2004年から発売され、一年間だけコルクの周りがブラック・ラップで、そのあとクリア・ラップに変更されています。
また、私の表と画像では112.8を2015年、116.8を2017年としていますが、アメリカではそれぞれ2014年と2016年とされていました。
*ワイルドターキーの通常品は1500樽前後のバッチング、スモールバッチは150~200樽、ヴェリースモールバッチは20~30樽程度との情報がありました。おそらくレアブリードはスモールバッチではないかと思われます。
**すみません、オールドグランダッド114があるのを忘れて書いてます。
コメント
コメント一覧 (12)
個人的には何故WT-03のプルーフ、構成を長く使い続けたのかが今一つ腑に落ちないところです。正直、バッチナンバーが更新されなくなった時点で「あぁ、ターキーのバレルプルーフとしては「これが正解です」ということにしたのか」と思っていたのですが(ダッド114の如く)、最近になってプルーフが立て続けに変更となり、正直混乱しています。単純にマスターディスティラーの方向性の変化なんでしょうかね?
コメントありがとうございます。なぜWT-03RBだけ長く生産されていたのかに関しては全く謎というしかありませんね。手に入る情報だけを頼りに推測すると、単にジミーのお気に入りだったから、或いは商品構成にラッセルズリザーヴが導入されたことによる変化なのかも。もしかすると裏事情的には2000年の火災によるボトリング施設の変更(インディアナ州ローレンスバーグ、2006年からはアーカンソー州フォートスミス)が関係してるんですかねえ…いや、これは関係ないかな。
最近のプルーフによるバッチ変化に関しては、ご指摘の通り2015年代にエディラッセルがマスターディスティラーに昇格したのを契機としているでしょうね。マスターズキープが発売されたのもその時からなので、長らく同じだった古い製品の刷新を図っているのだと思います。ちなみに2017年版から劇的に味が変わっているのは、マスターディスティラーがエディになったからというよりは、新しい蒸留施設(2011年)の原酒がメインになったからだと思われます。こちらの方はそのうち2015年版と合わせてレビューする予定です。
最近現行ボトルを飲んで(試飲)、あまり響かなかったレアブリードなのですが、、たまたま1855リザーブが手に入りまして、これを飲んだものか売却したものか、、と頭を悩ませているのですが筆者さまは飲まれたことありますでしょうか??
もしその時の味わいを覚えていらっしゃいましたら、お教えいただけると幸いです(^人^)
スコッチマンさん、コメントありがとうございます!
1855リザーヴは要するに90年代のレアブリードの海外輸出版です。味わいはだいたい同時期のターキーに準じます。現行レアブリードとはまるで違う印象になる筈なので、私としては是非とも飲んでみて欲しいですが…。
私個人としてはスタンダードな8年101のほうが好きですね。もしスコッチマンさんも同じなのであれば売却するのも手でしょう。
ありがとうございます。
なるほど・・そういうティストなのですね
( ^ω^ )
やはり8年が1番好きなので、
同時期(90年代)の8年とレアブリードを頑張って探してみて、味わいを確認してから考えようかな〜とコメント見ていて思いました。またコメさせていただきます。
ありがとうございます!バーボンの輪が広がることを祈っております。
2022現行の116.8proofのレアブリードを飲んだのですがひたすら若く、
アルコール刺激と香りが強烈に主張してきつかったです。
価格も結構いいお値段がするので非常に残念な感じがします。
楕円ラベルのときはかなりマシだったのですが…。
グランダッド114の方がオイリーで旨みがある感じがしますね。
Toruさん、コメントありがとうございます!
現行レアブリードいまいちだったようですね、新原酒が多めだからですかね…。私はまだそこまで新しいのは飲んでないのですが、アルコール感高めなのはなんとなく想像つきます。グランダッド114のほうがよく感じるのもなんとなくわかる気がします。新しいレアブリードも、しばらく放置しておくと、少し柔らかくなる可能性はありますが…。
その通りで、開封したてのため、という感じもしますが
味がライトで辛さが全面に来るんですよね…8年や13年と比べると明らかで
脳裏にある味のイメージがガラッと変わるとショックですね。
しばらく置いてから飲みます。次の一口目は美味しいかもしれません。
思い至る感想としては8年101のほうが安心して飲めそうです。
現行の8年はここ3年は飲んでないので怖いもの見たさがありますが…。
ん〜、ワイルドターキーに限らず、脳裏にある味のイメージよりメロウさのない若い味と感じる時、皆さん不味くなったって言うんですよね。90年代から2000年代になった時も、2000年代から2010年代になった時もそう言われていました。おそらく暫く放置して飲んでも少し改善されるくらいで根本的な解消にはならないでしょうね。
更に不安を煽るようなことを言うなら、3年ぶりとなると、8年101を飲んですら、あれっ?て思う可能性は高いかも知れません。美味しいバッチに出会えることを祈っております…。
旨みは来ますが刺激と苦みが割合的に多めでした。
アルコール刺激先行で、チャー由来かと思われる苦みがじわりと広がり最後の余韻が苦みと甘味料みたいな舌残りのように思うのでそこがネックなのかもしれません。
2021年販売の8年と比べると原酒が違う印象です。8年101は以前とは印象は違い木質な感じはしましたが意外と美味かったです。
特級の正面向き8年や12年のメロウな印象がターキーの基準になっているところはあると思います。
やはりアルコール感が少しやわらいだのですかね。とは言え、新原酒はどうも尖っていそうな印象ですねぇ…。「甘味料みたい」というところが気になるところで、そこをどう評価するかが分かれ道な気がします。
正面向きターキーはもう再現不可能だと思いますね、メロウさを求めて熟成年数を長くとってもあの味わいにならないのは新しい12年やマスターズキープのシリーズで明らかになっているように思います。我々の頭の中の基準を変えて行くしかないかと…。