2018年08月

DSC_1001

ファイティングコックというブランドは強烈なインパクトがあります。日本語で「闘鶏」。戦う姿が如何にも荒々しく男らしいではないですか。バーボン・ドリンカーがワイルドさを演出したい時に、ワイルドターキーだとメジャー過ぎるからファイティングコックを選びたい気持ち、私にはよく理解できます。しかしターキーよりメジャーでないぶん、情報量もまた少ないのは必然的なことです。私はファイティングコックの起源を知りたくてネットで情報を収集していました。そのことはファイティグコック6年と8年のレヴュー投稿に書きました。一説にはイーグルレアと同じくワイルドターキーを打倒するために創造されたブランドと言われますが、真偽のほどは定かではありません。なぜなら、現行製品の情報はいくらでも見つかる割りに、起源に関しては確信を得れる情報が見つからないからです。まず初めて発売された時期が明らかでなく、何処の蒸留所が産み出したかも判らないのです。ちなみにFCブランドのもとに、バーボン以外にもウォッカやジン、バーベキューソースまであったりします。

そんな折りに出会ったのがこちらのメリーランド・ストレート・ライをボトリングしたファイティングコックでした。まさかこんな物まであるとは衝撃でした。こちらに触れる前に、過去投稿時には知らなかった情報を得たので、繰り返しの部分もありますが再度ファイティングコックについて整理しておきます。私の推測も含みますので注意して下さい。

PhotoGrid_1534338774835

現行のファイティングコックは2015年あたりにNASとなりました。それまでは6年熟成が比較的長く流通していて、それはおそらく90年代の終わり頃か2000年あたりに8年熟成にとって替わり、紙ラベルが廃止となった現行と同じクリアシールのボトルデザインです。90年代を通して発売されていたのは紙ラベルの8年熟成。その他に日本限定で15年熟成がありました。

さあ、ここからがちょっとややこしいのですが、ついて来て下さい。ネットでファイティングコックの写真を探していると、新たにバーズタウン産の7年熟成の写真を発見しました。そしてヘヴンヒルがファイティングコックのブランドを購入したのは78年という情報もやっと見つけました。これはボトルの写真とボトリング年の情報から察するに真実味のある年数に思われます。おそらく80年代には7年もしくは8年熟成のバーズタウン産が出回っていたのでしょう。では、その前は?

70年代中期とみられるファイティングコックのボトルにはケンタッキー州ローレンスバーグで瓶詰めと記載されています。いったい何という蒸留所だろうと、わくわくしながら想像していました。まさかフォアローゼズ(オールドプレンティス)蒸留所やワイルドターキー蒸留所なんてことは絶対ないよな、だって鳥ラベルのライバル同士のイーグルレアとワイルドターキーを造ってる蒸留所だよ?なんて。そうしたらサム・K・セシルの本によれば、70年代中頃にホフマン蒸留所はベン・リピー(よく知りませんが有名な蒸留一家リピー・ファミリーの一人でしょう)によってボトリング施設として運営されており、ファイティングコックをボトリングしていたというのです。しかも、それだけでなく、ジュリアン・P・ヴァン・ウィンクル三世のためのプライヴェート・ブランドまでボトリングしていた、と書かれています。ホフマン蒸留所といえば、エズラブルックス・ブランドがメドレー蒸留所に移行する前にそれを造っていた蒸留所であり、後の83年にはジュリアンが買い取りオールド・コモンウェルス蒸留所という名称でボトリング施設として使用した蒸留所です。まさかそこでファイティングコックがボトリングされていたとは…。で、68年当時のホフマン蒸留所はどうやらエズラブルックスとして運営され、まだ新しいウイスキーを生産していたと言います。ということは、70年代中頃のファイティングコックを6〜8年熟成のバーボンと仮定し、熟成年数を遡ると、そのウィスキーこそがファイティングコックである可能性が高いのではないか?という訳です。

ところで、ヴァン・ウィンクルと言えば小麦バーボンで有名です。上に述べたジュリアンのためのプライヴェート・ブランドと言うのが、仮に小麦バーボンだったとしたら、ファイティングコックもある時期だけ小麦バーボンであった可能性は高まります。私は過去投稿のレビューで、日本に広く流布している「ファイティグコック小麦バーボン説」は間違いではないかと提起し、その原因はファイティグコックの公式ウェブサイトにあったのではないかと勘繰ったのですが、このエズラブルックスが造っていたウィスキー、つまりローレンスバーグ産のファイティングコックが小麦バーボンだったのならば、そのことを昔の人は知っていて、それが現行品の説明に誤って転用された、という説が急浮上して来ます。まあ、これは珍説だし、仮定の話です。ヴァン・ウィンクルの全てのバーボンが小麦バーボンではないですし、ホフマン蒸留所が小麦バーボンを製造していたという話も聞いたことがありませんから。

ええ、話題が逸れたし、だいぶ話も長くなりました。でも、もう少し前の時代も見てみましょう。60年代ボトリングとされるファイティングコック6年を写真で眺めてみると、それにはコネチカット州スタンフォードにて瓶詰めと書かれています。そして今回のファイティグコック・ライウィスキーにも、裏ラベルには「Bottled by ESBECO DISTILLING CORP., Stamford, Ct.」とあります。このEsbeco Distilling Corporationというのは、1933年初頭にEsbeco Beverage Companyという名称で発足し、ウィスキー製造が合法となる憲章改正に伴い名称変更されたようで、本社はデラウェア州らしいですが、事務所がコネチカット州スタンフォードのジェファーソン・ストリートにあったそうな。おそらく自らは蒸留を行わないレクティファイヤー(整流業者)だと思われます。今で言うボトラーとかNDPのことです。ネットで調べられる限りでは、オールド・ウェストバリー・クラブ、マクラフリンズ、ケンタッキー・ブルー・ブラッド、リンブルック、サニーリッジ等のブランドを所有していたようです。他にオークション画像で、V.O.S クラブ(ブレンデッド)やバルトランド(メリーランド・ライ)というブランドもありました。始めに述べたように、この会社がファイティングコックを創造したのかどうか判りません。ですが、今のところ得れる情報では一番古いファイティグコックがESBECOのボトリングなのです(誰か詳細ご存じの方は情報提供お願いします)。

で、件のファイティングコック・メリーランド・ライなのですが、肝心のボトリング年がこれまたはっきりしません。ラベルが60年代とされるファイティグコックと少し異なるので50年代製でしょうか? 50年代製とされるワイルドターキーのメリーランド・ライをネットで見かけたことがあるので、ファイティングコックがワイルドターキーを打倒するために産まれたブランドという説が本当なら、これは直接対決と言える訳で、あながちない推測ではないと思います。または上記のバルトランドが40年代の物とされており、本ファイティングコックとそれが同じメリーランド・ストレート・ライであるところからすると40年代製の可能性もあるのかも。それに細かいことを言えば、60年代初頭と後期でラベルやボトルデザインが切り替わってることだって考えられます。マスターの話によると、昔イギリスのオークションで禁酒法時代の物という触れ込みで購入した物だそうですが、見たところ禁酒法時代のウィスキーに見えず、いい加減な鑑定をしていたのじゃないか、とのことでした。私も見たところ禁酒法時代より新しい印象を受けます。

さて、今回のボトルはネットの画像検索ではなく実際に手に取れたので裏ラベルもガッツリ写真に撮っておきました。これです。

DSC_1002
こいつはボトルド・イン・ボンドじゃない、だけど殆どのボトルド・イン・ボンド・ウィスキーより3プルーフ高くボトリングされている。それ故に、特徴的な風味、キャラクター、滑らかさがある。無双クオリティのウィスキーは、個人的満足に気前よく分け前を与える。
ファイティングコックのファイティングコックたる所以は、やはりボトルド・イン・ボンド規格を上回る「3」プルーフに込められているのでしょう。ライバルと目されるワイルドターキーを必ず何かで上回る必要があった。それが101プルーフならぬ103プルーフだった、と。103プルーフじゃなければファイティングコックはファイティングコックじゃない!
はい、そろそろ飲んだ感想へ。

DSC_1003
Fighting Cock Maryland Straight Rye Whiskey 6 Years 103 Proof
推定40〜60年代ボトリング(ごめんなさい、確信が持てないので期間を長めに取りました)。ペンシルヴェニアと並びライウィスキーの産地として名高いメリーランド産です。
キャラメル様のスイートネス。スパイシーさよりも甘味のほうが目立つ。薬品や薬草ぽさもあまり感じないが、僅かに子供用風邪薬の味。比較的厚みのあるテクスチャー。余韻はアールグレイ・ティー。飲んだ感じ、穀物比率で言うと51〜95%のちょうど中間、65〜75%ぐらいのライ麦率かなという印象。ロマンが含まれてる分レーティングは甘めかも。
Rating:89/100

追記:その後、新しく情報を入手したので追記しておきます。US特許商標局によるとファイティングコックは少なくとも1954年以来継続しているブランドとのこと。この年にファイティングコックが創造されたのだとしたら、本文に取り上げたEsbecoがオリジナルである可能性は大いにありそうです。また、1975年5月の段階ではファイティングコック・ブランドはJ.T.S. Brown & Sonsが所有していたという情報も見かけました。もしそうなると、おそらくファイティングコックはJTSブラウンと一緒にヘヴンヒルに購入されたのではないでしょうか。更に73年ボトリングとされるファイティングコック7年スタンフォード産の物もネットで発見しました。こうなると70年代にブランドが転々としていた歴史が見えて来ますね。

DSC_0999


ソサエティ・オブ・バーボン・コニサーズ・カスク・プルーフ(バーボン愛好家協会 樽出原酒、以下SOBCと略す)は、90年代半ばにジュリアン・ヴァン・ウィンクルが日本市場向けにボトリングした長期熟成酒で、今ではユニコーンの一つとされるバーボンです。当時の日本は既にバブル景気は終わっていたと思いますが、アメリカ市場と較べたらまだまだバーボンに大金を注ぎ込む余地があり、プレミアム・バーボンもしくは本品のようなスーパー・プレミアム・バーボンのいくつかは日本市場限定で販売されていました(スタンダードなバーボンでも今よりずっと多くの銘柄が90年代を通して発売されていた)。当時のアメリカではバーボンは下層階級のドリンクのイメージが一般的で、もし長期熟成のプレミアム価格のバーボンを販売しても、購入するのは極く一部の好事家のみだったでしょう。逆に日本ではアメリカへの憧れと共に長期熟成酒をありがたがる下地があったので、利益率の高い日本(や一部のヨーロッパ)向けに輸出していたのです。
このSOBCはスーパー・プレミアムに相応しいよう、コニャック・スタイルのボトルに入れられ、ラベルもワインの影響を感じさせる優雅な雰囲気を醸しています。ラベルにはバッチ・ナンバー、樽入れとボトリングの時期、そしてご丁寧にテイスティング・ノートまで書かれているのも高級感の演出でしょうか。中身のジュースはスティッツェル=ウェラー(オールド・フィッツジェラルド)の原酒を独自に熟成したものだと言われています。ボトリング名義のコモンウェルス・ディスティラリーは、80年代前半にジュリアンがケンタッキー州アンダーソン郡ローレンスバーグの旧ホフマン蒸留所を改名してボトリング施設とした会社です。おそらくスティッツェル=ウェラーで蒸留され眠っていた樽を、ある時そこまで運び、更に自社のウェアハウスで熟成させたのでしょう。

で、上に述べたローレンスバーグでのボトリングから時を経た2000年代の終わり頃には、今度はKBD(ウィレット蒸留所)からSOBCがリリースされました。この初めがジュリアンで後にKBDがボトリングという流れは、ヴェリー・オールド・セントニックやブラック・メイプル・ヒルなどに共通しています。こちらはスティッツェル=ウェラーの原酒ではないとされ、ヘヴンヒル蒸留所の原酒と目されますが、KBDのソースは基本的に秘匿なので、もしかしたら他の蒸留所の原酒かも知れません。こればかりは飲んだことのある方のご意見を伺いたいところです。少なくともローレンスバーグ瓶詰めの物と較べて、カスク・プルーフでのボトリング度数が違い過ぎますから、スティッツェル=ウェラー産を否定する根拠ではあるでしょう(*)。

取り敢えずネットで調べられる限りのSOBCのヴァリエーションを以下に纏めておきたいと思います。おそらく初期リリースの物は94年に発売され、4種類(樽違い)あるようです。

SOBC CP 20 years old
Batch No. 74-241
Date Barreled : April, 1974
Date Bottled : October, 1994
51.8% Alc.
Bottled by Commonwealth Distillery, Lawrenceburg, KY

SOBC CP 20 years old
Batch No. 74-327
Date Barreled : April, 1974
Date Bottled : October, 1994
55.0% Alc.
Bottled by Commonwealth Distillery, Lawrenceburg, KY

SOBC CP 20 years old
Batch No. 74-476
Date Barreled : April, 1974
Date Bottled : October, 1994
51.2% Alc.
Bottled by Commonwealth Distillery, Lawrenceburg, KY

SOBC CP 20 years old
Batch No. 74-706
Date Barreled : April, 1974
Date Bottled : October, 1994
53.5% Alc.
Bottled by Commonwealth Distillery, Lawrenceburg, KY

そして2001年には2種類が発売されたようです。ここまではスティッツェル=ウェラー原酒で間違いないでしょう。初期リリースに較べ味が落ちるという意見も聞き及びますが(**)、ラベルのテイスティング・ノートを担当したマイク・ヴィーチはその味わいを絶賛しています。

SOBC CP 20 years old
Batch No. 80-040
Date Barreled : December, 1980
Date Bottled : March, 2001
54.2% Alc.
Bottled by Commonwealth Distillery, Lawrenceburg, KY

SOBC CP 20 years old
Batch No. 80-045
Date Barreled : December, 1980
Date Bottled : March, 2001
56.1% Alc.
Bottled by Commonwealth Distillery, Lawrenceburg, KY

それから08年と09年にボトラーがKBDとなり、ウィレット蒸留所名義にて瓶詰めし、2種類発売されたようです。しかも熟成年数が20年ではなくなりました。ここまで来るとローレンスバーグ産とは別物と言ってよく、むしろ製品仕様としては現在のウィレット・ファミリー・エステートの祖先といった感があります。

SOBC CP 18 years old
Batch No. 08-74
Date Barreled : March, 1990
Date Bottled : July, 2008
59.7% Alc.
Bottled by The Willett Distillery, Bardstown, KY

SOBC CP 19 years old
Batch No. 09-82
Date Barreled : 3-26-1990
Date Bottled : 7-3-2009
59.4% Alc.
Bottled by The Willett Distillery, Bardstown, KY

以上がネットで把握できるSOBCの一覧です。他にもあるのをご存じの方は情報提供お願いします。

さて、前置きが長くなりましたが、そろそろ飲んだ感想を。今回は宅飲みではなく、バー飲みです。私が飲んだ物は店のマスターによると、その当時出回っていたSOBCを仲間うちで飲み比べて一番美味しかったやつなのだとか。マスターのコレクションされているアンティークグラスに注いでくれました。もはや崇高さが漂っていますね。

DSC_1000


Society of Bourbon Connoisseurs CASK PROOF 20 years old 55.0% Alc.
Batch No. 74-327
Barreled : April, 1974
Bottled : October, 1994
深く甘いキャラメル香と共に渋みのある香り。ブランデーのような芳香。口に含むと55度にしてはアルコール感を感じさせない柔らかさ。味わいはオーキーで湿った地下室を思わせる。ビターチョコとダークチェリーにハーブの余韻。現代バーボンとは異質の焦げ樽感で、なるほどこれが樽香か、という味。古の味がする。
私があまり長期熟成が好みでないのと、少々過大評価の嫌いがある気がするので、ユニコーンとか「聖杯」と言われるバーボンにしては得点は抑えめとなりました。
Rating:89/100


*カスク・プルーフ(バレル・プルーフ)の違いは熟成期間中の蒸発率も関係しますが、ローレンスバーグ産とバーズタウン産ほどボトリングの度数に違いがあるのであれば、そもそもバレル・エントリー・プルーフが違うことを示唆しています。おそらくスティッツェル=ウェラーは、130プルーフ程度で蒸留後、114プルーフで樽入れしていたと思われます。そして長期熟成酒はウェアハウスの下層階に保管されるのが一般的なので、そこでは上層階で熟成されたバーボンとは逆にプルーフアップせず、スコッチの熟成のようにプルーフダウンする筈です。そうなるとKBD版SOBCの120に近いプルーフは、125のバレル・エントリー・プルーフを実行する蒸留所の物と推測されるでしょう。

**個人的な味覚や好みを措いての話ですが、ジュリアンに限らず、またスティッツェル=ウェラーに限らず、蒸留所から樽を買う場面を想像してみると、その時に試飲した中で最も美味しいと判断したものを買うのが当たり前でしょう。そして良質な物には限りがあるのだとすれば、ある意味、良い物が早い者勝ちでなくなっていってもおかしくはありません。そう考えると、初期リリースの方が美味しかったという感想は、あながちない話ではないように思われます。

IMG_20180501_033345_361

Evan Williams Bottled in Bond White Label 100 Proof
ヘヴンヒルの看板製品と言えるエヴァンウィリアムスのボトルドインボンド。通称ホワイトラベルとも呼ばれ、2012年に市場へ導入されたと言います。でもこれって昔もありましたよね?  一旦終売になってからの再導入という意味でしょうか?  もしくはアメリカ国内では昔は販売されてなかったか、或いは地域限定販売だったのかも知れません。
マッシュビルは当然エヴァンブラックやエライジャクレイグと同じで、コーン/ライ/バーリーがそれぞれ75%/13%/12%(他説では78%/10%/12%)。また、熟成年数は実質5年だそうです。

ボトルドインボンド(またはボンデッド)というのは1897年に制定された主に商標と税収に関わる法律で、単一の蒸留所・単一の年・単一のシーズンに蒸留され、政府管理の連邦保税倉庫で最低4年以上熟成し、100プルーフ(50度)でボトリングされたスピリットのみ、そう称することが許されます。またラベルには蒸留所の連邦許可番号(DSPナンバー)の記載が義務づけられ、ボトリング施設も記載しなければなりません。上の条件を満たした物は緑の証紙で封がされ、謂わばその証紙が消費者にとって品質の目印となっていました。紛い物やラベルの虚偽表示が横行していた時代に、ラベルには真実を書きなさいよというアメリカ初の消費者保護法にあたり、結果的に蒸留酒の品質を政府が保証してしまうという画期的な法案だったのです。現在では廃止された法律ですが、バーボン業界では商売上の慣習と品質基準のイメージを活かして、一部の製品がその名残を使っています。このEW BIB White Labelもその一つ。では、レビュー行きましょう。

本ボトルは2015年ボトリング。一言、キャラメルボム。コーンフレークにキャラメルをかけてほんの少しスパイスを振りかけたような感じ。余韻はリンゴの皮の煮汁。複雑さのない単純で直線的な味わいながらも、それが却って好結果という典型例。開封直後から甘いキャラメル臭全開で美味しかった。ボトル半分の量になると甘い香りが減じてしまい、他の香味成分が開くのかと思いきやそうでもなく、全体的に穀物感の強い少々退屈なものへ。とは言え、相変わらず旨いは旨い。これは100プルーフの成せる業か。
同じヘヴンヒル産で、これより度数が高く熟成年数の長いファイティングコック6年と比べて、キャラメル香の豊富さと甘みで勝ってる(ただし、余韻の複雑さでは負ける)。このブランドによる差異を、熟成庫のロケーションの違いとバレルセレクトでしっかりと造り分け、尚且つどのロットも継続的にこのキャラクターで安定しているのだとしたら大したもの(他年度製品と比べた事がないので判らない)。
Rating:84.5/100

Value:上でファイティングコック6年を持ち出して比較しましたが、本来であれば較べたいのはヘヴンヒル・ボトルドインボンド・ホワイトラベル6年でした。ところがそのHH BIB 6yrはケンタッキー州限定の製品らしく、日本では購入しづらいときてます。そこで同蒸留所産でスペックと価格の似ているのが上述のFC 6yr(*)だったのです。で、それら二つはキャラクターは若干違えど私的には同点です。お好みの方を買えばいいでしょう。
さあ、ここからが問題なのですが、日本に於いて人気の高いエヴァンウィリアムスの一つに赤ラベル12年というのがあります。これは日本限定(**)の製品でして、約3000円で購入できてしまいます。そしてこの白ラベルは2500〜3000円で販売されているのです。赤ラベルのほうがフルーティーさと複雑さで勝りつつ、なおパワーも劣っていない格上のバーボン。アメリカ国内では安くて旨いという評判を誇るボトルドインボンドも、500円の差額、時には同額で格上の赤ラベルが買えてしまう日本の状況下では、正直言ってその存在意義は小さいと言わざるを得ません。かなり美味しいバーボンらしいバーボンだけに、もし2000円だったら大推薦なのですが…。いや、赤ラベルが4000円程度であれば、2500〜3000円の白ラベルも存在意義はあります。あとはお好み次第。


追記:コメント欄にありますように、エヴァン赤ラベルが値上がりした今、この白エヴァンは非常にコスパに優れたオススメなバーボンになりました。願わくばラベルをリニューアルした後の白エヴァンのクオリティが維持されていることを願います。


*現行のファイティングコックは熟成年数の表記がなくなりました。6年より若い原酒が入ってる可能性が高いです。例えば6年と4年のブレンドとか。

**アメリカでもヘヴンヒルのギフトショップでは販売されているようです。私が直に目で見た情報ではないのですが、Instagramで$140と言ってる方がいました。日本の恩恵に感謝するしかありませんね…。

2018-04-07-22-41-51
PhotoGrid_1534663983404

今宵の一曲はブッカー・リトルの「マイナー・スイート」です。TIME盤と言えばリトルがワンホーンで臨んだ名盤であり、彼お得意のマイナー調の曲が多い作品として知られますが、この作品の人気はもうひとりの夭折の天才、ベーシストのスコット・ラファロの存在にある、と言っても過言ではないでしょう。グイグイと強靭なベースを聴かせてくれてます。その他のバックも鉄壁の面子。さて、合わせたバーボンは、

JIM BEAM SIGNATURE CRAFT 12 YEARS 86 Proof
2013年にリリースされたシグネチャー・クラフト・シリーズの12年熟成物。ビームの製品はブッカーズで6〜7年、ノブクリークで9年程度と、長期熟成をあまりしない中で異例とも言える12年熟成なのがウリでしょうか。当然ながらマッシュビルはジムビームと同じ77%コーンのロウ・ライ・レシピ。そしてスモール・バッチでのボトリングです。では、飲んでみましょう。

焦がしたオーク、フレッシュフルーツ、ヴァニラビーンズ、ピーナッツ、ビターチョコ、紫蘇。思いの外、キャラメル系の甘い香りが薄め。飲み口はすっきり。余韻はやや苦めでナッティかつビール様、更にヨモギ。海外の有名なバーボンレビュワーの評価がなかなか良かったので期待しすぎたのか、少々拍子抜け。確かにジムビームらしい焦樽系のアロマは豊富なのだがテクスチャーが滑らか過ぎる。出来ればもう少し引っ掛かるものが欲しい。47度でボトリングしてもらいたかった。
Rating:84/100

Thought:これは単に私の好みなだけかも知れませんが、どうも現行のジムビームは音で喩えると、低音域と高音域が効いているのに中音域がすっぽりと抜けた音のようなバーボンに感じます。勿論、その音が好きな人もいるでしょう。けれども個人的には好きな音ではありません。またビームのスモールバッチシリーズのバーボンたちと比べると余韻が好みでなかったこともあり、値段を考慮するならもう一度購入したいお酒ではなく、同程度の価格ならばハイアープルーフのノブクリークを選びます。

IMG_20180405_053415_698

Branton's SINGLE BARREL BOURBON 93 Proof
Dumped 2-6-17
Barrel No. 343
Warehouse H
Rick No. 72
友人から開封直後の1ショットを頂いての試飲。並行ではなく正規です。ブラントンズのブランド紹介は過去投稿のこちらを参照下さい。

焦がしたオーク、エタノール、フルーティーな香り、僅かにフローラル。ウォータリーさとクリーミーさが同居したような口当たり。口中はヴァニラ〜キャラメル系の甘味とシナモン〜ナツメグ系の風味、ブラックペッパー的な刺激。フィニッシュはスパイスとバター。45度前後でここまでバタリーな風味はなかなかない。酸味や苦味があまり目立たず、バーボンの味わいを構成する各要素が突出しないマイルドなバランス型の味わいと思う。けれども、そのせいなのかセクシーさに欠ける。
Rating:85/100

Value:数年前に並行輸入品を飲んだ時も思ったのですが、現行製品のブラントンはどうも「硬い」ような気がします。おそらく、これから酸化することでもう少し香りが開き、味に深みが出ると予想されますが、どうも開けたてはパッとしない。正直に言うと、パッケージングの華やかさとブランド神話は「買い」であるものの、値段を考えると自分の選択肢からは外れます。ブラントンはゴールド・エディション以上、できればストレート・フロム・ザ・バレルなら買ってもいいですが、現行のスタンダード日本正規品を定価では買いたくありません。販売店により価格差がありますので一概に言えませんが、これは仮にスタンダードの最高値が6000円だとして、ストレート・フロム・ザ・バレルの最安値が7500円だとすればの話です。ここには値段以上の「開き」があります。

また、ブラントンズはオークションでそれほどは高騰していないブランドの一つです。少なくとも私の口には90年代のブラントンズは現行より遥かに美味しく感じるので、現行品と大差ない価格であればセカンダリーマーケットでオールドボトルの購入をオススメします。80年代の物はもっと美味しいと聞き及びますが、90年代の物より少し高い値が付くでしょう。

2018-08-16-22-49-39
2018-08-16-22-51-22

JACK DANIEL'S 150TH ANNIVERSARY 100 Proof
2016年にジャックダニエル蒸留所の創業150年を記念して発売されたボトル。ぶっちゃけ蒸留所の創業年は論拠の薄弱なものが多く、大概は民間伝承ぐらいのレベルのもので大した意味はありません。けれど、そのために特別に造られたと言われれば興味をそそられます。

JDのマスターディスティラー、ジェフ・アーネットによると、記念ボトルを造るにあたり初めはマッシュビルの変更も検討したものの、結局はオリジナルに敬意を払うことが重要だと感じて「Old No.7 」と同じ伝統のレシピ(80%コーン/8%ライ/12%バーリー)を採用したそうです。
では何が違うのかと言うと、まずは樽。通常よりも「トーストの時間を長くとり、チャーは短時間で切り上げた特別な新樽」の使用です。「あらかじめじっくりと熱を通すことで、樽内部にあるより多くの糖分を変質させ、樽が本来持つ深く豊かな風味を最大限に引き出」せるのだとか。
次にバレル・エントリー・プルーフ(樽詰め時の度数)を通常の125プルーフ(62.5度)から100プルーフ(50度)に下げたことが挙げられます。一般にエントリープルーフが低いと、よりフレイヴァーフルに仕上がると言われていますが、そのぶん多くの樽が必要となるため贅沢な仕様なのです。
更に熟成場所。どこの蒸留所もプレミアムな原酒が育つスイートスポットを有しているものですが、ジャックダニエル蒸留所ではコイヒルという丘に建つウェアハウスがそれに当たります。そこの日照時間が長く寒暖の差が激しい最上階、通称「天使のねぐら」と呼ばれる場所でのみ熟成されているそうです。
そしてボトリング。エントリープルーフが100プルーフでボトリングが100プルーフなのですから、少量の加水調整はしていると思いますが、所謂バレルプルーフということになります。徹底して贅沢に造っていますね。えーと、これだけ聴いたら期待値高過ぎませんか(笑)。では、テイスティングしてみましょう。

IMG_20180315_162012_039

メープルシロップ、ローストナッツ、スイートコーン、梅干し、なぜか海老。スタンダードなOld No.7と較べてジャック特有のセメダイン臭が薄め。口当たりは50度のわりにややウォータリーな印象。だからと言って風味が弱いかと言えばそうでもない。パレートでは甘味が支配的ながらハーブっぽいテイストがあり、苦味もスパイシーさも強く感じる。後味はさっぱりと切れ上がる感じで、余韻にはマッチを擦ったあとのようなスモーキーさが。

今まで飲んだジャックの中で最もメープルシロップを感じた一本であると同時に、最もハービーな一本でした。正直に言うとこれより旨いと感じたジャックはありますが、複雑さでは一番かも知れません。特別なフィーリングは感じられました。しかし値段はちょっと高過ぎる…。
Rating:88/100

2018-08-16-22-53-45


PhotoGrid_1518344522001
PhotoGrid_1534326680492

(ri)1  92 Proof
記号のような表記の名前は「ライワン」と発音します。2008年10月にビームグローバルから発売されたという情報を目にしました。熟成年数の異なるいくつかの原酒のブレンドで、最低でも4年半の熟成とされ、原酒構成はおそらく4.5〜6年程度ではないかと思われます。新世代のバーテンダーやミクソロジスト向けの製品企図があるようですが、ストレートで飲んでも美味しかったです。ジムビームらしいバーボン寄りのライウィスキーで、フルーティーなバーボンみたいな感じです。軽やかな口当たりに、ややスパイシーなトーンを維持しつつ甘味もあり、強いて言うと赤リンゴのフルーツ感を感じました。ジムビームライと較べると度数が高いので当たり前ですが味わいと余韻は強いです。ノブクリークライと較べるとスモーキーさやダスティなフィーリングに欠けていると言えます。
現在では終売になっているものの、プリプロヒビション・スタイルと銘打たれリニューアル(2015)したジムビーム・ライのアメリカ仕様?は90プルーフのようなので、そちらで代用する感じでしょうか。ましてやノブクリーク・ライもあっては終売も仕方なしかと。ちなみに上記のプリプロヒビション・スタイルは日本にも90プルーフの物が並行輸入で入って来てます。日本正規品とはボトル形状とラベルが少し違うやつを酒屋で見かけました。私は試していませんが、500円程度の違いでアルコール度数が5度も上がるのはお買い得な気がします。
Rating:84/100

IMG_20180201_012024_768

EARLY TIMES 354 BOURBON
アーリータイムズ蒸留所の創業は1860年と言われており、ジム・ビームの叔父にあたるジャック・ビームがバーズタウン近くのアーリー・タイムズ・ステーションにて創始したとか。禁酒法の施行は小さな蒸留所に大きな打撃を与え、数多くの蒸留所が廃業に追い込まれました。アーリータイムズも例外ではなかったのでしょう、1923年からブラウン・フォーマンに買収され生き延びているブランドです。50年代にはアメリカで最も成功したブランドの一つでしたが、1983年以降アメリカ国内ではバーボン規格ではなくケンタッキーウィスキーとして販売され(*)、国外輸出向けにはストレート規格のバーボンとして人気を博してはいたものの、本国では最下層のアメリカンウィスキーの地位に甘んじているように見えます。ところが2011年に突如この354と名付けられたバーボン規格のアーリータイムズが発売されました。あまり売れ行きが芳しくなかったせいか、2014年に終売となりました(**)。

354という数字はアーリータイムズを造るプラントの連邦許可番号(DSP-KY-354)から由来しています。熟成年数はNAS(No Age Statement)ながら4年とされ、特別に選ばれた樽からボトリングされているようです。
通常のイエローラベルと較べるとフレッシュフルーツ感が強まっている印象。オレンジやリンゴっぽい。やや水っぽく、澄んだ酒質。確かにイエローラベルより高級なテイストは感じられるが、正直言って物足りない。おそらく43度でボトリングしてくれてればもう少し美味しかったに違いない。ボトルのデザインは古めかしくてカッコいいのだが…。
Rating:81/100


*古樽で3年熟成された原酒が混ぜられているためバーボンと名乗れない。

**今ではボトルド・イン・ボンド規格のアーリータイムズが発売されてます。

IMG_20180112_005205_037


Wild Turkey 12 years 101 Proof
アメリカ国内では1999年あたりに終売となり、輸出用の製品となったワイルドターキー12年101プルーフ。日本では長らく親しまれたものの、現在では13年熟成91プルーフに取って替わられ、二次流通市場とバー以外ではお目にかからなくなりました。特別な思い入れのある方も多いバーボンが終売になるのは悲しいことですね。

本ボトルは、ちょっと自信はないんですが、推定2002年ボトリングじゃないかなと思います。もっと大きくラベルが分割された昔の12年に対して「擬似分割ラベル」と呼ばれているラベルデザインです。

干しブドウ、オーク、ヴァニラ、塩キャラメル。8年に較べるとだいぶパンチはなく、柔らかい口当たりで、すーっと喉に入っていく。ナツメグやシナモン、タバコの香ばしさが漂い、またラム酒もしくはワイン様のフレイバーが、別樽の後熟なしで出るあたりは圧巻です。余韻にはダスティ・ノートとターキーらしいスパイスネス。個人的には8年派ですが、深みや複雑さは確かに12年の方が上で、おそらくシェリーカスク好きなスコッチ党の方には飲みやすいバーボンでしょう。
Rating:90.5/100

2018-08-02-18-22-48

今宵の一曲はミルドレッド・ベイリーの歌う「ラヴァー・カムバック・トゥ・ミー」です。彼女自身そのキャリアの中で何度も吹き込んでいて思い入れのある一曲なのでしょう。

1930~40年代に人気を誇り、ヒット曲にあやかって「ロッキンチェア・レディ」と渾名され、また「スウィングの女王」とも言われたミルドレッド・ベイリー。元祖ぽちゃカワ?とでも言えそうな風貌です。 彼女はブルースを歌ってもブラックフィーリングのある歌い手さんでした。

オスカー・ハマースタイン二世とシグムンド・ロンバーグの名コンビによる「Lover, Come Back To Me」は、邦題を「恋人よ我に帰れ」と訳され、元々は「朝日の如く爽やかに」も歌われるオペレッタ『ニュー・ムーン(18世紀ルイジアナの農園を舞台とした、お嬢様マリアンヌと奴隷ロベールの恋の物語)』からのナンバーです。
名曲は時代を越えて歌い継がれて行くもの。数多のジャズ・シンガーが歌い、大変ポピュラーなジャズ・スタンダードとなっています。一番有名なのはビリー・ホリデイのヴァージョンでしょうか。しかし私はなぜか、この曲はミルドレッドの歌唱が好きなのです。理由はまったく分からないのですが(笑)。

※通常「恋人よ我に帰れ」とされるタイトルを訳詞に合わせて変更してます。


"Lover, Come back to me"
『恋人よ戻って来て』

The sky was blue
空は青かった
And high above
そして高かった
The moon was new
月は新しかったし
And so was love
愛もそうだった
This eager heart of mine was singing
この切望する私の心は歌ってた
Lover where can you be
恋人はどこにいるの?と

You came at last
あなたはついに現れ
Love had its day
愛の日を過ごした
That day is past
それは過去
You've gone away
あなたは去ってしまった
This aching heart of mine is singing
この痛む私の心は歌ってる
Lover come back to me
恋人よ戻って来てと

I remember every little thing
私は思い出す、全ての些細なこと
You used to do
あなたがかつてしていた
I'm so lonely
私はとても寂しい
Every road I walked along
どの道を歩くにも
I walked along with you
私はあなたと一緒に歩いた
No wonder I am lonely
当然ね、私が寂しいのも

The sky is blue
空は青い
The night is cold
夜は寒い
The moon is new
月は新しい
But love is old
でも愛は古いまま
And while I'm waiting here
そして私がここで待つあいだ
This heart of mine is singing
この私の心は歌ってる
Lover come back to me
恋人よ戻って来てと


さて、合わせたバーボンはオールド・テイラーです。メロー・イエローと親しまれた歴史あるブランドなのですが、現在では「コロネル・E・H・テイラー」というプレミアムラインの別製品があり、こちらは最下層の安バーボンとなってしまいました。それだけならまだしも、ビーム社からサゼラックにブランドが移行してある時期から、熟成年数表記の「6 years」から「years」だけ外して、6年熟成ではなくするという荒業?というか殆ど悪意とも取れる手法を使うのは如何なものかと。同社のオールドチャーター8年にも同様の手口がみられるので、数字イコール熟成年数と勘違いしないように注意が必要ですね。では今宵はこれにて。

2018-08-10-23-12-21

↑このページのトップヘ