2022年09月

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ワイルドターキー13年ファーザー&サンは、トラヴェル・リテイル専用として2020年に限定リリースされた製品です。86プルーフで、1リットル瓶に入っています。日本では長期熟成のワイルドターキーというとWT12年101に取って代わった同じ13年熟成のディスティラーズ・リザーヴがある(あった)ので、あまり購買意欲をそそられないかも知れません。特に、そのボトリング・プルーフがディスティラーズ・リザーヴより低いのは懸念点でしょう。熟成年数が同じでプルーフが類似している二つを飲み比べた海外のレヴュアーの方々の感想を見ると、ディスティラーズ・リザーヴの方が良いとするものとファーザー&サンの方が良いとするものの両方があります。自分がどっちに転ぶかは実際飲んでみるしかない。と言う訳で、さっそく。

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WILD TURKEY 13 Years Father & Son 86 Proof
推定2020年ボトリング。色はオレンジ寄りのブラウン。アップルサイダー、ヴァニラ、焦げ樽、ライスパイス、ビオフェルミン、アーモンドトフィー、パイナップル、タバコ、杏仁豆腐、チョコレート。アロマはフルーツをコアにお菓子のような甘い焦樽香とスパイス。口当たりは水っぽい。パレートはフルーティだがメディシナルノートも。余韻はミディアムショート、クローヴが強めに現れチャードオークのビター感と僅かにバターが残る。
Rating:86.5→84.5/100

Thought:アロマは凄く良いです。香りだけなら日本で流通しているディスティラーズ・リザーヴ13年よりファーザー&サンの方が良いと思います。ただ味わいはディスティラーズ・リザーヴ13年の方が旨味があった気がします。よって同点と言いたいところなのですが、こちらは開封してから暫くすると妙に渋みが強くなったのが個人的にマイナスでした。これが上記のレーティングの矢印の理由です。もしこの変化がなければ、ディスティラーズ・リザーヴ13年よりプルーフが低いのを考慮すると、こちらの方がリッチなフレイヴァーだったのかも知れない。とは言え、両者はかなり似ています。何ならダイアモンド・アニヴァーサリーから一連のマスターズ・キープに至る近年の長熟ワイルドターキーに共通の風味があります(いや、もっと昔のターキーでも少しはあったりするのですが…)。それは薬っぽいハーブ感とでも言うかクセのあるスパイス香とでも言うのか、とにかく私としてはバーボンに求める風味ではありません。それが少し香る程度なら崇高性を高めるのでアリなものの、他のフレイヴァーを圧倒するほどになると話は変わって来ます。これが私個人が近年の長熟ターキーをあまり評価しない理由です。アロマ以外でファーザー&サンの良い点としては、飲み終えた今にして思うと、飲む以前に気になっていたプルーフィングの低さ、即ち加水量の多さは、却ってフルーティさを引き出していたのかも知れず、飲み易さの一点に関しては功を奏していたように思います。また、ラベルの豪奢な雰囲気はなかなか良いのでは?

Value:メーカー希望小売価格は約70ドル程度のようです。日本での流通価格もそれに準じているでしょうか。13年物のワイルドターキー・バーボンが1リットルも入っているのだから、長期熟成酒の価格が高騰している現状を考慮すると、その値段に見合うだけの価値はあると思います。但し、8年101よりディスティラーズ・リザーヴ13年を好む方にのみオススメです。

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(画像提供F氏)

マスターズ・レアは、今となっては正に名前の如くレアなバーボン。グレンモア・デイスティラリーズが1970年頃に導入したブランドです。現代に生き残っていない古いブランドにありがちなことですが、ネットで探っても情報が殆ど見つからず詳細は分かりません。よって以下は憶測になります。おそらく、マスターズ・レアという名前からしても、ラベルのデザインからしても、限定的で高級志向なバーボンだったのではないでしょうか。また90.9プルーフという半端な数字でのボトリングなどには、どことなく現代のプレミアム・バーボンに通ずる趣が感じられます。

このバーボンの面白いところと言うか興味深いところは、ラベルに「SINCE1836」と、ジョセフ・ワシントン・ダントの有名なログ・スティルの創業年を記載しているところです。当時、「J.W.ダント」というブランドはシェンリーが所有していました。そのため、何故グレンモアがJ.W.ダントの創業年を匂わせるん?となる訳ですが、これはおそらくイエローストーン・コネクションによるものかと思われます。JWの息子であるジョセフ・バーナード・ダントはゲッセメニーに独自の蒸溜所を建設し、それをコールド・スプリングス蒸溜所と名付けました。ルイヴィルの卸売酒類業者テイラー&ウィリアムズ社は、この蒸溜所から供給されるバーボンでイエローストーン・ブランドを作成すると、すぐにヒットさせ彼らの旗艦ブランドにしました。この間にダントのディスティラーとしての評判は高まりましたが、禁酒法によりゲッセメニーの蒸溜所は一旦停止されてしまいます。禁酒法期間中、テイラー&ウィリアムズは薬用ウィスキーの販売ライセンスを持っていませんでしたがブランドを維持し、ウィスキーの保管料とボトリング手数料を払うことで、ライセンスを取得していた企業の一つブラウン=フォーマンによってイエローストーンは販売されました。禁酒法が解禁されると、JBとその息子達は蒸溜会社としてイエローストーン社を設立し、ルイヴィル郊外のシャイヴリーに新しい蒸溜所を建設しました。禁酒法以降、蒸溜所を始めるのは簡単ではありませんでしたし、40年代には戦争もありました。そのせいなのか、1944年にイエローストーン・ブランドはグレンモアにより購入され、同社は以後それを主力ブランドの一つにしていました。バーボンという「商品」のマーケティングは、伝統を重んじ、如何に歴史を遡れるかで価値が高まるようなところがあります。「なんと創業は18○○年!」などと言って。だからこそ、マスターズ・レアのラベルでJ.W.ダントの創業年を謳っているのではないかと…。

1966年頃にはイエローストーンはケンタッキー州で最も人気のあるブランドになったと言われますが、1970年代を迎える頃にはバーボンの売り上げは年々減少し汎ゆる蒸溜所の倉庫は満杯となっていたとも聞きます。そういう観点からすると、マスターズ・レアはNAS(熟成年数の記述なし)ながら、少なくともある程度は長期熟成原酒を含むのではないかと想像しています。ブランド名に使われる「レア(希少さ)」というワードにしても長熟の高尚表現と勘繰ることが出来るでしょうし。
ボトル前面下部のラベルに記載の「Bottled at the distillery by MSTER'S RARE DISTILLING CO. Louisville, Ky.」のマスターズ・レア・ディスティリング・カンパニーというのは想定企業名(架空企業名、DBA)ですが、所在地がルイヴィル表記であるところからすると、ボトリングはイエローストーン蒸溜所でしょう。使用している原酒もイエローストーンの可能性は高いと思いますが、グレンモアのもう一つの蒸溜所であるオーウェンズボロのプラントから来ている可能性も否定できません。何しろ「Distilled」とは書かれてませんから。また、海外の有名なバーボン掲示板で或るアメリカン・ウィスキー愛好家の方は、ダントの創業年とルイヴィルの所在地を記載しているところから、JBの弟のジョン・P・ダントの蒸溜所から来ているのではないかと書いていました。まあ、どれも憶測ではあります。海外のオークション・サイトの商品説明文ではグレンモア蒸溜所で製造された、と書かれていました。前後の文脈からしてオーウェンズボロのプラントを指していますね。

偖て、このようなレアなバーボンを飲むことが出来るのは、今年の4月から長野県諏訪市に新しくオープンしたバーボン・バー「Fujisan's_Bar」のマスターのご厚意によるものです。マスターのF氏とはインスタグラムで知り合い、バー開店以前から同じバーボン好き同士として仲良くしてもらっていたのですが、お店のストックの中でも希少な部類に属する物を開封したので是非味見をして欲しいとのことで、サンプルを送って頂けたのです。本来ならこちらがオープン祝いに何かしらせねばならぬところ、逆にこんなにも希少な物を飲む機会を提供して頂き感謝しかありません。この場を借りて再度お礼をさせて下さい。画像提供も含め、本当にありがとうございました! そして、いつかお店に伺いたいと思っております。最後尾にお店の紹介をしてありますので、バーボン好きの方は是非ともチェックしてみて下さい。では、飲んだ感想を少しばかり。

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MASTER'S RARE 90.9 Proof
推定70年代ボトリング。赤みを帯びた濃いブラウン。黒蜜、樹液、アニス、フェンネル、炭焼ハンバーグ、ドライオレンジ、お爺ちゃんの薬箱、レモングラス、僅かにバター。ノーズは濃密な甘い香りと爽やかなスパイス香が主で、柑橘系の香水のような香りも。水っぽい口当たり。パレートは複雑なハーブ&スパイス、収斂味も。余韻は長く、ややドライでハービー。アロマがハイライト。

中身に関する情報が全くないのですが、飲んでみるとけっこう長熟なのでは?というフレイヴァーに感じました。10年は超えていそうなマチュレーションです。時間をおくと複雑に変化する香りが面白く、崇高性を感じました。個人的には味わいにもう少し熟成フルーツもしくは濃い色のフルーツを、または甘みを感じたかったですかね。
Rating:88/100


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バーボンをコレクションして十数年のオウナーが、昼間農業に勤しむ傍ら、上諏訪駅から徒歩5分の位置にオープンした隠れ家的なバー。小さいながらも白を基調とした小綺麗な印象の店内は、アメリカン・ポップな飾りでレトロな雰囲気が味わえます。80〜90年代のオールド・バーボンを中心とした品揃えを、当時の仕入れ価格をもとにしたリーズナブルな値段で提供。パピー・ヴァン・ウィンクルからワイルドターキー、プリ・ファイアー・ヘヴンヒルからエンシェント・エイジまで。バーボンが8割、スコッチ1割、ジャパニーズとその他が1割という構成です。厳しい世の中にも拘らず、ほぼバーボンしかないお店を開く男気に乾杯。

Fujisan's_Bar
長野県諏訪市大手2-3-3桑澤店舗ビル1階

営業時間
月 19:00 〜24:00
火 19:00 〜24:00
水 19:00 〜24:00
木 19:00 〜24:00
金 19:00 〜25:00
土 19:00 〜25:00
日 19:00 〜24:00 

休日
殆どの場合やっていると思われますが、不定休のため利用前に店舗に確認するの無難かと。連絡は下記のエキテンのサイトが便利そうです。

Instagram
https://instagram.com/fujisans_bar?igshid=YmMyMTA2M2Y=

エキテン店舗情報
https://s.ekiten.jp/shop_34423568/?from=top_page

You Tubeでお店が紹介されていました

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テンプルトン・ライのブランドには定番の物に4年熟成と少し上位の6年熟成、限定生産の物に10年熟成とバレル・ストレングスがあり、そこへ2019年からバレル・フィニッシュ・シリーズという追加熟成を施したリミテッド・リリースが加わりました。その第一弾として発売されたメイプル・カスク・フィニッシュに続く2020年のシリーズ第二弾がこのカリビアン・ラム・カスク・フィニッシュです。ちなみに2021年はオロロソ・シェリー樽でのフィニッシングでした。テンプルトン・ライ自体のブランド紹介は過去の投稿でやってますので、興味のある方はそちらを参考にして下さい。

テンプルトン・ライ・カリビアン・ラム・カスク・フィニッシュは、蒸溜所のエイジング・ソースド・ストックから厳選された伝統的なアメリカン・オークのチャード・バレルで5年間の完璧な熟成を経たストレート・ライ・ウィスキーを、更にジャマイカ産ダーク・ラムの中古樽で6ヶ月間「仕上げ」たものです。このファーストフィルのカリビアン・ラム・カスクでのセカンダリー・マチュレーションにより、ライ・スパイスが強調され、繊細でエグゾティックなフレイヴァーとトロピカル・フルーツのトーンを加えると言われています。そして、特別な表現に相応しいノンチルフィルタードでのボトリング。ニートでもロックでも楽しむことが出来、更にはクラシック・ライ・カクテルに完璧なトゥイストを加えることが期待されています。ちなみにテンプルトン・ライ蒸溜所は2018年に自社蒸溜を開始したとされていますが、こちらの原酒は発売年から判る通りまだMGPからの調達です。

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TEMPLETON RYE CARIBBEAN RUM CASK FINISH 92 Proof
Limited Bottling Series 2
2020年ボトリング。トーストした木材→香ばしい焦げ樽、草、ライスパイス、ピクルス、チョコレート、スペアミント、ヴァニラ、青リンゴ、ラスク、洋梨、シガー。アロマは爽やかスパイシーノート。円やかな口当たり。味わいはグリーンリーフ多めでレッドフルーツも。余韻は、口の中の甘さがスッと消えると、尖ったスパイシーさとドライさが来て、最後に苦味が残る。
Rating:87.5/100

Thought:めちゃくちゃラムかと言うとそうでもなく、個人的にはそれほどラムっぽいスパイスやトロピカル・フルーツは感じませんでした。けれど、4年熟成や6年熟成の物にはない深みも確かにありました。それを言葉にするのは難しいのですが、強いて言うと焦げ樽感が強まっているのと口中で何かしらの赤い果実を感じるところがそれなのかなと思います。但し、本質的にMGP95ライの旨さで飲んでる感はありました。自分的には多分フィニッシングされてなくても旨いと思っちゃうだろうな、と。

Value:アメリカでの価格は45〜50ドル程度、日本でも5000〜5500円くらいが相場でしょうか。私ならこれとバレル・ストレングスが大差ない値段の場合、ハイアー・プルーフのバレル・ストレングスを選びますかね。とは言え、他社の追加熟成を施したスペシャル・リリースより比較的安価なのは良い点であり、スタンダードな製品と較べてみたり、同じバレル・フィニッシュ・シリーズのメイプル・カスクとシェリー・カスクと同時に味較べ出来たりしたらなお面白いでしょうし、迷わず買うだけの価値はあると思います。

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周知のようにバッファロー・トレース蒸溜所は毎年アンティーク・コレクション(BTAC)をリリースし、その発売はアメリカン・ウィスキーの一途な愛好家から飲み始めたばかりの初心者、そして転売ヤーまでこぞって待ち望むイベントです。現在のBTACはサゼラック18年、ジョージTスタッグ、イーグルレア17年、ウィリアム・ラルー・ウェラー 、トーマスHハンディ・ライで構成され、しばしばアメリカン・ウィスキーの頂点として扱われています。サゼラック・ライ18年は、2000年からリリースされ始めたBTACの最初の三つのうちの一つでした(他の二つはイーグルレア17年とW.L.ウェラー19年)。その名前は、1850年にルイジアナ州ニューオリンズのエクスチェインジ・アレーに誕生したコーヒーハウスを有名にした伝説のカクテル、及びトーマス・H・ハンディによって設立されたサゼラック・カンパニー(バッファロー・トレース蒸溜所の現親会社)に由来しています。「アメリカ最初のカクテル」とも「ニューオリンズのオフィシャル・カクテル」とも呼ばれるカクテルの歴史については過去に投稿したこちらで取り上げていますので、興味があれば参考にして下さい。

サゼラック18年はスタンダードのサゼラック・ライと同じ90プルーフでのボトリングとなっており、現在のBTACの中で最も低いプルーフではありますが(※イーグルレア17年は従来90プルーフだったが2018年から101プルーフに変更された)、同蒸溜所から定期的にリリースされている最もオールダーなライ・ウィスキーです。W.L.ウェラー19年がスティッツェル=ウェラーの原酒を使っていたのと同じように、サゼラック・ライ18年は2015年のリリースまでバッファロー・トレース蒸溜所の蒸溜物ではない原酒を使用して作成されていたかも知れません。その出処は旧バームハイム蒸溜所のクリーム・オブ・ケンタッキー・ライもしくはメドレー・ライが有力視されています。またはヴァン・ウィンクル・ファミリー・リザーヴ・ライのようにそれらを混ぜていたのかも知れないという憶測もあったりします。サゼラック社の社長マーク・ブラウンが2003年頃に語ったところによると、サゼラック・ライ18は1981年などにクリーム・ オブ・ケンタッキーとして造られたストレート・ライ・ウィスキーのバッチの一部で、バッファロー・トレースの在庫目録から完全に失われてしまっていたが、バレルの在庫を全面的に見直し、精査して漸く発見された、とのこと。クリーム・オブ・ケンタッキー・ライを当時のエンシェント・エイジ蒸溜所が造り、そしてそのバレルのみを使用していたのであればバッファロー・トレース蒸溜所産と言ってもいいでしょうが、詳細は不明瞭です。もしかすると、サゼラック18年の最初期の数年間だけエンシェント・エイジ産、その後にバーンハイム産に切り替わったというような可能性もあるのかも(下記のリスト参照)。皆さんはどう思われます? コメントよりご意見どしどしお寄せ下さい。
クリーム・オブ・ケンタッキーというブランドは、長年に渡ってシェンリー社が所有し、決して同社の旗艦ブランドではありませんでしたが、それなりに支持されていました。しかし、1960〜70年代に掛けてのウィスキー販売減少の犠牲となり、1980年代にこのブランドは廃止されました。バーボンがメインと思われますが、シェンリーはブランドのためにライ・ウィスキーも製造していました。シェンリーがメインで使用していたDSP-KY-1のプラント・ナンバーを持つオールド・バーンハイム蒸溜所のライはクリーム・オブ・ケンタッキー・ライとして親しまれ、非常に限定的なリリースで、製造したライの殆どは様々なブレンドに使われました。ライはブレンド用であってもシェンリーはバレルを「ストレート・ライ・ウィスキー」として扱い、ボトリングまで混合やヴァッティングをしなかったとされています。クリーム・オブ・ケンタッキーは他の傘下の蒸溜所であるエンシェント・エイジでも造られ、アメリカン・ウィスキーの販売減少にも拘らず生産を減らさなかった時期があり、その結果、1990年代のバーンハイムの巨大な倉庫にはクリーム・オブ・ケンタッキーのブランド用に造られたウィスキーのバレルが多く残ってしまいました。当時シェンリーを吸収していたユナイテッド・ディスティラーズは、それらのうちバーボンをオールド・チャーターやI.W.ハーパーに使用しましたが、ライ・ウィスキーはバルク市場にて販売することにしました。その当時はまだライ・ウィスキーのリヴァイヴァルには程遠く、ライに目を向ける人は一握りでした。その一人であったジュリアン・ヴァン・ウィンクル三世は自身の13年物のライ・ウィスキー用にメドレー・ライと共にクリーム・オブ・ケンタッキー・ライの多くを購入しました。ジュリアンが選ばなかった他のバレルはKBDのエヴァン・クルスヴィーンに売却され、後年、ウィレット・ファミリー・エステートや他のプライヴェート・ラベルのためにボトリングしたライ・ウィスキーの重要な支えとなりました。彼らのライが現在では伝説的な名声を得ているのは歴史の知るところです。

2005年、バッファロー・トレースは残りのウィスキーの熟成が完璧であると判断したか、或いはこれ以上熟成が進んでオーヴァーオークになるリスクを回避するため、サゼラック18年用のバレル全てを13500ガロンの巨大なステンレス・スティール・タンクに入れ保管するようにしました。ステンレス・タンクでの保存は、なるべくウィスキーを変化させないようにするのに適した伝統的な方法です。有名なところではペンシルヴェニア1974原酒のA.H.ハーシュ16年がこれを行いました。ヘヴンヒルはこっそり隠し持っていた?貴重なスティッツェル=ウェラー原酒をタンクに保管してジョン・E・フィッツジェラルド・スペシャル・リザーヴとしてリリースしました。また、最近ではプリザヴェーション蒸溜所のヴェリー・オールド・セントニック・ロストバレル17年がその好例として挙げられるでしょう。
今回私が飲んだのは2006年のボトリングで、これが初めてリリースされた「タンクド」サゼラック18年となります。2008年には各2100ガロンの3つの小さなタンクに移し替えられたそうです。以後2015年のリリースまで、1985年に蒸溜され18年間熟成された同じライ・ウィスキーをその年毎にタンクから取り出してボトリングされました。それらのウィスキーは一定のフレイヴァーを維持しましたが、異なるリリース年の飲み比べをした方によると、若干の違いが感じられるようです。それはおそらく、タンク内の空気のレヴェルは常にコントロールされている訳ではないので、微妙な酸化によるものだろうと推察されています。また、ウィスキーを移動する際に空気が混和し味を変化させたのではないかとも。

2015年を最後にタンク入りのサゼラック18は底を尽き、2016年からはバッファロー・トレース蒸溜所で蒸溜したジュースに切り替わりました。BTのライ・マッシュビルは非公開ですが、概ねライ51%、コーン39%、モルテッドバーリー10%ではなかろうかと予想されています。海外のレヴューを参考にすると、BTジュースは伝説のタンクド・ウィスキーに比べるとだいぶ評価が落ちますが、年々良くはなって行ったようです。以下にサゼラック18年のリリースをリスティングしておきます。左から順にリリース年、蒸溜年、熟成年数 、ボトリング・プルーフ、熟成されていた倉庫、選ばれたバレルが置かれていたフロアー、熟成中の蒸発率、使用されたバレルの数、その他の事項となります。


Sazerac 18 Year Old Straight Rye Whiskey 
Spring of 2000|Spring of 1981|18 years|90 proof|Warehouse Q|N/A|74%|1 barrel at a time
2001:not found
Fall of 2002|Spring of 1984|18 years|90 proof|Warehouse Q|N/A|74%|1 barrel at a time
Fall of 2003|N/A|18 years|90 proof|Warehouse Q|N/A|74%|1 barrel at a time
Fall of 2004|Spring of 1984|20 years|90 proof|Warehouse K|N/A|68.47%|25 barrels
Fall of 2005|Spring of 1985|18 years|90 proof|Warehouse K|N/A|67.73%|28 barrels
Fall of 2006|Spring of 1985|18 years|90 proof|Warehouse K|N/A|67.73%|28 barrels|stored in stainless steel tank
Fall of 2007|Spring of 1985|18 years|90 proof|Warehouse K|N/A|51.94%|28 barrels|stored in stainless steel tank
Fall of 2008|Spring of 1985|18 years|90 proof|Warehouse K|N/A|54.08%|28 barrels|stored in stainless steel tank
Fall of 2009|Spring of 1985|18 years|90 proof|Warehouse K|N/A|56.13%|28 barrels|stored in stainless steel tank
Fall of 2010|Spring of 1985|18 years|90 proof|Warehouse K|N/A|56.49%|28 barrels|stored in stainless steel tank
Fall of 2011|Spring of 1985|18 years|90 proof|Warehouse K|N/A|57.27%|28 barrels|stored in stainless steel tank
Fall of 2012|Spring of 1985|18 years|90 proof|Warehouse K|N/A|57.61%|28 barrels|stored in stainless steel tank
Fall of 2013|Spring of 1985|18 years|90 proof|Warehouse K|N/A|58.21%|27 barrels|stored in stainless steel tank
Fall of 2014|Spring of 1985|18 years|90 proof|Warehouse K|N/A|58.35%|26 barrels|stored in stainless steel tank
Fall of 2015|Spring of 1985|18 years|90 proof|Warehouse K|N/A|58.48%|25 barrels|stored in stainless steel tank
Fall of 2016|Spring of 1998|18 years|90 proof|Warehouse K|2nd floor|72.1%|24 barrels
Fall of 2017|Spring of 1998|18 years|90 proof|Warehouse K|2nd floor|72.7%|25 barrels
Fall of 2018|Spring of 1998|18 years|90 proof|Warehouse K|2nd floor|72.7%|24 Barrels
Fall of 2019|Spring of 2001|18 years, 4 months|90 proof|Warehouse L & K|2nd floor|83.5%|N/A
Fall of 2020|Spring of 2002|18 years, 4 months|90 proof|Warehouse K|3rd floor|76.9%|N/A
Fall of 2021|Spring of 2003|18 years, 6 months|90 proof|Warehouse K & P|2nd & 4th floors|69%|N/A


これらはバッファロー・トレース蒸溜所の公式ホームページで見れるファクトシートからデータを採りましたが、何故か2001年の物だけ欠落していました。ところで、リスティングしていて気づいたのですが、2016〜18年のウィスキーは同じ物っぽく見えるので、もしかするとこれもタンクに入れて保管していたのを小分けに瓶詰めしたのですかね? 詳細ご存知の方はコメントよりご教示下さい。では、最後に飲んだ感想を少々。

2022-08-27-09-33-53-075
Sazerac 18 Year Old Straight Rye Whiskey 90 Proof
Bottled Fall 2006
甘く、ややフローラルなアロマ。味わいはダークなフルーツ感のベースにけっこう土っぽさがあり、飲めばすぐにライだなあと思えました。バターぽい余韻も良く、官能的で複雑なフレイヴァーです。或る人の表現を借りれば、エロい味と言うのでしょうか。短熟でも比較的美味しいライ・ウィスキーですが、これは長熟ライの良さが存分に感じられます。旨っ。この度のバー遠征を〆るのに選んで正解でした。
Rating:92/100

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