2023年01月

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ワイルドターキー12年101は1980年代初頭に発売され始め、1999年にアメリカ国内での流通が停止されると以降は輸出市場のみでリリースされることになりました。そのお陰で日本では長いこと入手し易かったワイルドターキー12年も2013年には終売となり、それに代わって一部の市場でリリースされ始めたのがワイルドターキー13年ディスティラーズ・リザーヴ91プルーフでした。そして、永遠に続くと思われた沈黙を破り、2022年、遂にワイルドターキー12年101が帰って来ました。但し、これまた輸出専用となっており、オーストラリア、韓国、日本などの市場のみの限定的なリリースのようです。日本では2022年9月に発売されました。アメリカ本国のワイルド・ターキー愛好家には申し訳ない気持ちにもなりますが、彼らにはこちらで手に入り難い様々な製品(例えばラッセルズ・リザーヴ13年や様々なプライヴェート・ピック)があるのでお互い様ですかね。

この12年101は8年101と同様、デザインを一新したエンボスト・ターキー・ボトルに入っています。新しいボトルは鳥やラベルよりも液体に焦点を合わせることで、ワイルドターキーの特徴の一つである長期間の熟成をウィスキー自身の色味で視覚的に理解してもらう意図があるそうです。鳥の大きく描かれた古めかしい紙ラベルを廃止し、ボトル表面に浮き出たターキーとシンプルな小型のラベルにすることによって、モダンで都会的でスタイリッシュなイメージへと刷新する狙いなのでしょう。特筆すべきは付属のギフト・ボックスです。外側はバレルの木目が施されたインディゴ色のしっとりした手触りの厚紙で、蓋の内側にはアリゲーター・チャーを施されたバレルの内部を模したパターンがプリントされ、ボトルはこれまたインディゴ色のヴェルヴェットのようなクッションに収められています。マットな質感と落ち着いた色合いは高級感溢れるものとなっており、知人へのプレゼントにも自らの享楽にも適した仕上がり。蓋の裏面にはジミー・ラッセルからのメッセージもあります。
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我が息子エディと私は本物のケンタッキー・バーボンを蒸溜することに人生を捧げて来ました。それは私たちの血管を流れるものだと言えるでしょう。
 
私たちは100年以上続く伝統と工程に忠実に、初まりの日から正しい方法で物事を進めて来ました。なぜなら良いものには時間が掛る、この12年物のバーボンも例外ではありません。
 
このバーボンは、長く熟成させてより個性を増したところが、私に似ていると言われます。汎ゆるボトルに物語があると思いたい。なだらかな丘陵地帯、荒々しい荒野、力強い色彩などと共に、ケンタッキーのスピリットを感じて下さい。可能な限り最高レヴェルのチャーで熟成されたバーボンからのみ得られるリッチで芳醇なフレイヴァーを味わって下さい。
 
さあ、目を瞑って。先ずはバーボンの香りを嗅ぎ、それからフレイヴァーを口の中で転がして。それがこの12年物のワイルドターキー・ケンタッキー・バーボンの真の個性を味わう本当の方法なのです。
 
ジミー・ラッセル

これが本当にジミーの言葉なのかコピーライターの仕事なのか判りませんが、我々の魂に訴えてくる質の高いマーケティングの言葉であるのは確かです。では、この待ち望まれたバーボンをさっそく味わってみるとしましょう。
と、その前に少しだけ基本情報を。マッシュビルは75%コーン、13%ライ、12%モルテッドバーリー。バレル・エントリー・プルーフは115。熟成年数を考慮すると、2011年に新しい蒸溜施設へと転換する以前の原酒を使用していると思われます。そして、12年101はシングルバレルではなく、そのエイジ・ステイトメントも最低熟成年数なので、12年よりも古いバーボンがブレンドされている可能性はあるかも知れません。また、発売当初の13年ディスティラーズ・リザーヴのようには、どのウェアハウスのどこら辺に置かれていたバレルかの記載もありません。従ってタイロンかキャンプ・ネルソンどちらの熟成庫かも不明です。

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WILD TURKEY AGED 12 YEARS 101 Proof
2021年ボトリング。ボトルコードはLL/JL020936(推定2021年12月2日)。赤みを帯びた濃いブラウン。強烈な焦げ樽香、セメダイン、ココアウエハース、チェリーコーク、ヴァニラ、キャラメル、湿った木材、ミント、クローヴ、杏、チョコレート、ハニーローストピーナッツ、杉。アロマは香ばしく甘くスパイシー。滑らかでややとろみのある口当り。パレートはややドライで、ブラッドオレンジとグレインが感じ易く、ドクターペッパーぽい風味も。余韻は長めながらハービーなメディシナル・ノートとスモークが漂う。
Rating:88/100

Thought:開封直後に一口飲んだ時は、なにこれ薬? 渋いし、不味っ、と思いました。寧ろロウワー・プルーフの13年の方が水のお陰でフルーティさが引き出されたり樽の渋みが軽減していて良かったのかも知れないとまで考えました。ところが、妙な薬っぽさはすぐに消え味わい易くなり、徐々に渋みも落ち着いて美味しくなって行きました。そうなってみると、甘い香り、ダークなフルーツ感と複雑なスパイシネス、強靭なウッディネスと古びたファンキネスなどが渾然一体となった長熟バーボンの醍醐味を味わえます。
試しに今回の新しい12年と、とっておいた12の文字が青色の旧ワイルドターキー(即ち最も現行に近い物)をサイド・バイ・サイドで飲み較べてみると、旧の方がアルコールの刺激が少なく、やや味が濃いように感じました。これは開封からの経年でしょう。そうしたアルコールの力強いフレッシュ感を除くと、フレイヴァーの方向性は概ね同じに思いました。両者はかなり似ています。強いて言うと、青12年の方が枯れたニュアンスがやや強く、新12年の方がグレイン感が強めですかね。
地域限定販売となるこの12年101をなんとか手に入れた海外のバーボン・レヴュワーの評価は頗る良く、私のレーティングに換算すると大体92〜95点くらいを付けているイメージなのですが、率直に言うと私としては大好きなワイルドターキーではありません。その理由は、マスターズキープ・シリーズの長熟物やファザー&サン等に共通の「何か」のせいです。その何かとは、おそらくワイルドターキーの大家であるデイヴィッド・ジェニングス氏がこの12年101のテイスティング・ノートで「強烈なメディシナル・チェリー」と記述したものだと思われます。彼の仔細なテイスティング・ノートを見ると明らかに同じ物を飲んでいると感じる(表現は雲泥の差だとしても…)ので間違いないかと。この風味、私はバーボンに欲してないんですよね。
チェリーついでに言うと、これは喩えですが、(青12年よりもっと前の)大昔のターキー12年が「チェリー」そのものに近く感じるとしたら、近年の長熟ターキーは「チェリーコーク」と感じます。つまり大昔の物も近年の物もどちらも同じチェリー感がありながらも、どことなく違う風味で、昔の方が美味しかったように感じるのです。勿論、大昔の12年のようなプロファイルがどこのメーカーであれ現代のバーボンにないのは当然の話であり、較べる脳でいることが駄目なのかも知れません。それに、味の違いを分かる大人のように書いておいて、ブラインドで飲んだら全くトンチンカンな答えを言う可能性も大いにあります(笑)。
そうそう、もう一つ苦手な点を挙げるとすれば、オレンジの存在感です。バーボンの長熟物でオレンジっぽい柑橘風味が現れることが多いと思うのですが、私はオレンジよりアップルやグレープに喩えられる風味が現れる方が好きなのです。どうも近年の長熟ターキーはオレンジが感じ易い気がして…。皆さんはこのワイルドターキー12年について、或いは新旧の違いについてどう思われます? コメントよりどしどし感想をお寄せ下さい。

Value:上で文句と受け取られかねないことを言ってしまってますが、私はワイルドターキー好きであり、この新しい12年を評して日本の或るバーテンダーさんが言っていた「現行としては良いよね」と云う言葉に賛同します。日本では7000円前後で購入出来ます。どうもその他の市場より割安みたいですし、昨今の長熟ウィスキーの高騰から考えると、特にアメリカ人からしたら信じ難いほどのお買い得な価格です。我々は「日本人の特権」を行使しましょう。

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今回はジャグに入ったジョージディッケル・オールドNo.12ブランドを飲んでみます。ジャグの底には1988とあるのでボトリングはその年だと思われます。ジョージディッケルのブランドの歴史や蒸溜所の紹介は過去に投稿していますのでそれらを参照して下さい。

ガラス製のボトルがまだ高価だったため、安価なガラス・ボトルが普及する以前の1900年代初頭までは、アルコールはバレルのまま売られていました。バーやリカーストアはバレルを蒸溜所や仲介業者から直接購入し、顧客は自分のグラス、フラスク、デキャンタ等に酒を入れ買いました。そして多くの蒸溜所や販売業者がブランド名の入った陶器のジャグを提供していました。ガラス・ボトルが一般的になった後も、幾つかのブランドは懐古主義的に?ウィスキーをジャグに入れ販売していました。ミクターズやヘンリーマッケンナ、或いはマコーミックのコーン・ウィスキーなどは特にジャグとの繋がりが強い印象があります。ディッケル・ウィスキーも画像検索ですぐ見つかるものに1976年製のジャグがありました(参考)。私が飲んだ物と概ね似たような形状に見えるので、これの復刻版が今回の物ということなのかも知れません。形状で言うと、ディッケルは今回のオールドNo.12ブランドと同型の色違いで、裏面にカントリー・シンガーのマール・ハガードがプリントされたオールドNo.8ブランドの黒い(もしくはダーク・ブラウン?)ジャグを1987年に発売しています。
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ウィスキー・ビジネスにとって暗黒時代の真っ只中だった1980年代半ば、ディッケルはハガードを広告キャンペーンに採用していたようです。そしてジョージディッケル・ウィスキーはマール・ハガード・アンド・ザ・ストレンジャーズによる1987年のエイント・ナッシン・ベター・ツアーを後援し、その一環として様々なグッズが製造されました。オールドNo.8ブランドの黒いジャグもツアーに合わせた物なのでしょうか? 発売年代から考えると、今回のオールドNo.12ブランドの白いジャグは、ハガードのジャグの姉妹製品というかセットの上位モデルという位置づけと見ることも可能かと…。

これは現在スーペリアNo.12レシピと表記されている現行品の古いものな訳ですが、このジャグが通常のガラス・ボトルの物と較べて中身にクオリティの差があるのかどうかは分かりません。当時はまだ「バレル・セレクト」や「ハンド・セレクテッド」などのヴァリエーションがなかったので、ジャグに特別に選ばれたバレルが使用された可能性もなくはないですが、この頃のディッケルにはプレミアム・ウィスキーの概念がなさそうな気がするので、おそらくガラス・ボトルとジャグにそれほど明確な差はないと思います。
ちなみにディッケルが製品に付けたナンバー「8」や「12」は、紛らわしいことに熟成年数ではありません。シェンリーがジャックダニエルズの対抗馬としてジョージディッケルを作成した時、彼らは消費者調査を行い、21以下の数字を全て調べました。結果、既にジャックダニエルズ・オールドNo.7で使われていた「7」を除くと「8」と「12」が次に最も人気のある番号であることが判りました。そこで、その数字をブランドに採用したと言われています。おそらく酒名に人名を用いることやNo.8の白と黒を基調としたラベルはJDを意識していたと思います。品名にナンバーを付けるあたりもジャックダニエルズへの剥き出しのライヴァル心からだったのではないでしょうか。
と言う訳で、一部の熟成年数が明記された製品を除き、No.8と12は発売当初から現在に至るまで全てNASのウィスキーです。それ故、販売された年代によって中身の熟成年数は様々で、我々は正確に知ることが出来ません。70年代のNo.12はバックラベルに5年熟成と書かれていたとの情報もありました。過去にマスター・ディスティラーを務めていたデイヴィッド・バッカスによると、No.12は平均して7~8年熟成だがもっと古いウィスキーのこともあり得ると言っていました。実際、90年代に発売されたバーボン・ヘリテッジ・コレクションでは10年物のウィスキーが使われ、また海外ではNo.12ではなくディッケル10年として販売されていたものがあったとの話もありました。
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(左はUDのBHC、右はおそらくヨーロッパ向け?)
そしてジョージ・ディッケル蒸溜所は過剰生産のため1999年2月に停止、2003年までの期間閉鎖されています。その間、既存の在庫は熟成され続けたでしょう。再出発した時、つまり2000年代初頭から中期に掛けてNo.12ブランドに含まれるウィスキーの中には、過剰生産時代のバーボンのように古いストックが混じり12年物に近づいたり超えたりしたものもあったのかも知れない。尤も、休止期間中も既存の在庫は販売され続けていた筈なので、先入先出方式?の在庫管理で長熟ウィスキーはそれほどなかった可能性もあります。とは言え、後に長熟のディッケルが販売されたところからすると、絶えず長熟ウィスキーは存在していたのではないかとも思えます。まあ、全ては憶測に過ぎません。で、今回のこの80年代後期のオールドNo.12ブランドのジャグですが、アメリカ本国のバーボン需要が下火だった時代背景から考えると、8〜10年もしくは10年超のウィスキーではないかと予想しています。 では、そろそろウィスキーを注いで試してみましょう。
と、その前に…。この記事のために色々とバーボン系ウェブサイトで取り上げられたディッケルに関する情報を読み漁っていたら、そのマッシュビルをNo.8はコーン84%/ライ8%/モルテッドバーリー8%、No.12はコーン84%/ライ10%/モルテッドバーリー6%としているものを見かけました。私自身はディッケルのマッシュビルは前者しか知らなかったので驚きました。これって、いつの頃からか両者をマッシュの微調整で造り分け始めたのか、それとも単なる間違いなのか、或いは近年マッシュビルの変更があったのか…。最新の情報をご存知の方がいましたらコメント頂けると助かります。

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George Dickel Old №12 Brand Ceramic Jug 90 Proof
推定88年ボトリング。赤みを帯びた濃いめのブラウン。ビターなカラメルソース、砂糖漬けオレンジ、オールドコーン、ブラウンシュガー、ベーキングスパイス、いちじく、土、アプリコット、ラヴェンダー、花火。円やかでソフトな刺激が少ない口当たり。味わいは、酸味を仄かな甘さと穏やかなスパイスが包み込むといった感じ。余韻はややビターでタバコっぽさも。
Rating:86.5/100

Thought:そこそこ古いお酒ですがオールド臭はあまりなく、陶器ボトルにありがちな鉛風味もなく、とてもいい状態でした。海外の多くの人はジョージディッケルの特徴的なキャラクターをフリントストーンズ・チュアブル・ヴァイタミンのような味だと説明しています。私はそれを口にしたことがないのですが、おそらくディッケル特有の酸味とちょっとした苦味のことを指しているのではないかと思います。仮にそれが正しいとして、その風味が過剰であるか、又はそもそも苦手な人は、ディッケルをあまり評価しません。斯くいう私も、テネシー・ウィスキーのニ大巨頭であるジャックダニエルズとジョージディッケルを較べると、その風味がないジャックの方が遥かに好みです。で、このジャグはそのディッケルの著名な風味が過剰ではなく、その他のフレイヴァーとギリギリ良いバランスを保っていたので、美味しく感じました。と言うか、私が今まで飲んだディッケルで最も美味しく感じました。その風味の由来は、個人的にはイーストと水と長期間の熟成が主な要因となって醸されるのではないかと考えています。と言うのも、15〜18年の熟成年数では、そこにあるべきではない味わいがあるとして、ディッケルは古いものが良いとは限らない典型的な例だと言う人がおり、私自身も飲んだ印象で長熟気味の方がこの風味を感じ易い気がするのです。現行のNo.8には全く感じず、昔のNo.8にはかなり感じ、現行のNo.12やバレルセレクトには少しだけ感じる、と言った具合です。皆さんはどう思われるでしょうか? コメントよりどしどしご意見ご感想お寄せ下さい。

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