バーボン、ストレート、ノーチェイサー

バーボンの情報をシェアするブログ。

2023年10月

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(画像提供K氏)

「トリック・オア・トリート!」。ハロウィンの時期ですね。バーボン愛好家ならば「バーボンくれなきゃイタズラすっぞ」と云う訳で、バーボン仲間のKさんから大人のハロウィンに相応しい高級な「お菓子」が送られて来ました。ウィレット・ウィーテッド・バーボン8年熟成のサンプルです。

ウィレット・ウィーテッド・バーボン8年は2022年後半期にリリースされました。ウィレット蒸溜所の顔とも言えるファミリー・エステート、より一般的なオールド・バーズタウンやスモールバッチ・ブティック・バーボン・シリーズの4種とは異なる形状のボトルが目を引きます。黒光りするボトルに金の文字とパープル・フォイルのトップが高級感を演出しており、頗るエレガントでカッコいい。同社によるとこの「黒い宝石」は、2013年の春先に蒸溜、2022年の夏にボトリング(実際は9年熟成?)、独自のマッシュビルをチャー#4のアメリカン・オークに115プルーフでバレルに詰め、可能な限り風味を保つためチル・フィルトレーションせずにボトルに詰めたと言います。美しい外観以外でこのバーボンに特徴的なのはエイジ・ステイトメントがあることでしょう。ウィレットはファミリー・エステート以外の製品に熟成年数を記載することは殆どありませんから。そして更に注目なのは、マッシュビルにライ麦を含まない小麦レシピであることがボトルの裏面に記載されていることです。ウィレットは自社のウィスキーについて詳細な情報を開示しないことで知られ、ノアーズ・ミルのマッシュビルは何なんだ?とか、ローワンズ・クリークは?、ポットスティル・リザーヴは?となったりするのですが、このボトルに関してはその心配はない、と。彼らの小麦バーボンのマッシュビルは65%コーン、20%ウィート、15%モルテッドバーリーとされています。昨今のバーボン及びアメリカン・ウィスキー全般のブーム、そして「パピー」人気の爆発から棚ぼた式に?ウェラーの人気も沸騰し、延いてはウィーテッド・バーボン自体の人気も高まった印象があります。多くの蒸溜所がライを含有したレシピ以外に小麦レシピのバーボンも大抵の場合リリースしており、お陰で市場に於けるウィーテッド・バーボンの品揃えは充実しました。そうした流れの中、ウィレットも満を持してリリースしたのかも知れません。とは言え、ウィレットは既にファミリー・エステート・シングルバレルではウィーテッド・マッシュビルをリリースしているらしく、バレル・ナンバーが「32xx〜33xx」の物は上記のマッシュビルとされています。あと「11243」は実験的なウィーテッド・マッシュビルらしい。更に付け加えると、ウィレット・ポットスティル・リザーヴは2021年か2022年のどこかで小麦レシピに変更されたと云う噂もありますね。ところで、このバーボンの108プルーフでのボトリングは、ウェラー・アンティーク107に近く、何かしら意識しているのでしょうか。実際、ボトル形状もリニューアル後のウェラー・ブランドに似ています(と言うか同じ?)。

えーと…、このバーボンを語る時、避けては通れない話題が一つあります。それは価格です。8年熟成のバーボンの希望小売価格がなんと250ドルなのです。この点に関してバーボン愛好家達は頭を抱え、或る人はウィッスルピッグ・ブランド(の上級なラインの物)と同じ臭いがプンプンする、と言うほど怪しげな価格設定でした。ウィレット蒸溜所が現在、カルト的な地位を獲得しているのは皆さんもご存知でしょう。そして毎年極く限られた数量しかリリースされないウィレット・ファミリー・エステートのシングルバレルはウィスキー愛好家の垂涎の的となっています。それらが市場に出回ると、バーボン愛好家は勿論、転売ヤーもこぞって手に入れようとします。新しくリリースされたものは即座に売り切れ、二次流通市場に現れる頃には数倍の価格になります。それらのことをウィレットの背後にいる人々も認識し、このウィーテッド・バーボン8年の価格を予めある程度引き上げていると指摘している人を某掲示板で見かけました。その真偽は扨て措き、一般的なバーボン飲みの感覚では高過ぎる希望小売価格のせいか、このバーボンの評価は微妙だったりします。アメリカの或るレヴュアーは「品質だけならもっと高い点数をつけたいところだが、価格設定のために2点減点したい気分だ」と言い、10点満点中4点をつけていました。また、他のレヴュアーは「これは良い。ただ、価値以上の出費をしていることを知っておいてほしい」と述べ5点満点中3点をつけました。他にも「これは良いボトルだったが、230ドルという価格を正当化するには十分ではな」く、「親友や本物のバーボン狂にプレゼントするのでなければ、このボトルを再び購入することはないだろう」と云う意見もありました。挙げ句には、ウェラー・アンティーク107を買って来てツヤ有りブラックのスプレーでボトルをペイントすればいい、と言う人までいました。私は味の求道者ではないので、本ブログのレーティングは味のみでなくボトルの外観、バックストーリーやマーケティング、そして価格も考慮して点数をつけています。だから、私も彼らと同じような点数になってしまうかも知れないという不安はありますが、どうなるでしょうか。さっそく注いでみましょう。
と、その前に。私はこのバーボンを高過ぎる価格から買おうだなんて微塵も思いませんでしたし、況してや無料で試せるなんて思ったこともありませんでした。こんな貴重な物を惜しげもなく分け与えてくれたKさんには本当に感謝です。バーボン繋がりに乾杯!

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WILLETT WHEATED BOURBON AGED 8 YEARS 108 Proof
2022年ボトリング。ややオレンジがかったブラウン。スウィートオーク、干しブドウ、完熟桃、はちみつ、バターたっぷりの焼き菓子、ベーキングスパイス、チョコチップクッキー。とても甘い香り。オイリーなのにサラッとした口当たり。パレートでもかなり甘めで、スパイスが暴れる感じはしない。余韻はハイプルーファーにしてはあっさりしており、最後に柑橘類の苦味が残る。グラスの残り香はアーモンドトフィー。アロマがハイライト。
Rating:87.5/100

Thought:蓋を開けた瞬間から漂う、美味しい洋菓子とウィレット特有のフルーツが融合した圧倒的に甘い香りが至福でした。間違いなく旨いです。但し、標準的なリリースであるオールド・バーズタウンやピュア・ケンタッキーXO等と較べて5倍旨くはありません。ウィーテッド・マッシュビルではないと目される他のウィレット製品と較べてみると、私が好んでいるのど飴のような何と特定できない複数のハーブのノートは希薄に感じました。また、ウィレットに感じ易いグレープのようなフルーツ感も顕在していますが、それよりもペイストリー感が強いバランスの印象を受けました。もしかすると、水を追加したり氷を加えることでフルーツがより感じ易くなったのかも知れませんが、少量のサンプルということもあり、私は試しませんでした。飲んだことのある皆さんはどう思われましたか? コメント欄よりどしどし感想をお寄せ下さい。

Value:二次流通市場では一時は1000ドル程度で販売されていたこともあるようですが、記事を執筆するに当たって調べたところ、250ドルで買えるお店も幾つかあり、価格はだいぶ落ち着いたようで、300ドル以上の値を付けるお店は大体どこも在庫ありになっていました。これは先に紹介したレヴュワー達の意見が参考にされ、多くの人が購入をパスした結果なのかも知れませんね。試飲前の予想通り、私も海外のレヴュワーさん達と殆ど同じような意見になりました。懐に余裕があるのならば、ボトルを買うのに躊躇する必要はありません。美味しいから。ただ、殆どの人にはバーで一杯飲んでみることをオススメします。ボトル一本は高いから。

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オールド・オーヴァーホルトは数あるアメリカン・ウィスキーの中でも特別な位置を占める由緒あるブランドです。その長い歴史や家族の物語は以前の投稿で紹介しているので興味があれば覗いてみて下さい。ここではビームにブランドが移ってからの事柄のみ取り扱います。

1987年、アメリカン・ブランズ(後のフォーチュン・ブランズ)の子会社ジェームズ・B・ビーム・ディスティリング・カンパニーは、それまで長きに渡りオールド・オーヴァーホルトを所有して来たナショナル・ディスティラーズからブランドを購入しました。新しいオウナーは生産を統合するため、買収後すぐに同ブランドが製造されていたオールド・グランダッド蒸溜所での蒸溜を停止し、自社のメイン・ファシリティであるクレアモント(またはボストン)の蒸溜所での製造に切り替えました。こうした買収が行われた場合はウィスキーのストックも買い取るのが通例のため、買収後数年間はNDジュースを使用したかも知れませんが、少なくともそれがなくなると彼らは既にジムビーム・ライのために生産していたハイ・コーンなライ・ウィスキーを使ってオーヴァーホルトのブランドを作成しました。つまり、オールド・オーヴァーホルトとジムビーム・ライはラベルが違うだけで似たり寄ったりの製品になったのです。香りや味わいに違いを感じるとしたら、それはバレル・ピックやバッチングによる差と考えられます。ビームはブランドを買収してからの長い間、1990年までにオールド・オーヴァーホルトのプルーフを80に下げたことを除き、殆ど何もしませんでした。当時ライ・ウィスキーの人気は最底辺であり、まだ一部に残る消費者の需要に応えるために辛うじてブランドを存続させただけでした。2010年に迎えたオーヴァーホルト社の創立200周年の時でさえアニヴァーサリー・エディションの発売はありませんでした。しかし、ライ・リヴァイヴァルの到来によってそうした状況は徐々に変わって行きます。

クラフト・カクテルのバーテンダーを筆頭とする消費者は、その大胆でスパイシーなキャラクターを再発見し、2010年からの数年間でライ・ウィスキーの人気は急増しました。オールド・オーヴァーホルトの需要も増えたことで在庫は圧迫され、ビームは熟成年数を4年から3年に引き下げました。これは味わいの点ではマイナスでしたが、人気の再興による変化なのでプラスの面も齎しました。ビームがブランドを所有するようになってからの26年間、殆ど何も宣伝されなかったオールド・オーヴァーホルトは、2013年頃、同じくナショナル・ディスティラーズから引き継いでいたオールド・グランダッドとオールド・クロウを並べて「ザ・オールズ(THE OLDS)」としてウェブサイトでアピールされ出したのです。当時のビームのシニアPRマネージャーは「三つの象徴的なウィスキー・ブランドをまだ経験したことがない人に紹介することを目的としています」と述べていました。これはそれほど効果的な宣伝だったとは思えませんが、オールド・オーヴァーホルト復活の予兆ではありました。

2017年末もしくは2018年初め、長年に渡りブランドの生産を80プルーフに限定していたビームは、嘗てオーヴァーホルト社の主要製品だった100プルーフの「ボンデッド」を市場に再導入しました。これはライの売上が急落し続けたため1964年に製造中止になってから50年以上ぶりとなる復活でした。80プルーフのヴァージョンよりも確実に豊かなフレイヴァーを有する象徴的なオーヴァーホルトを再び楽しむことが出来ると飲み手が喜んでいると、2020年にはもっとエキサイティングなことが起こりました。先ずパッケージのアップグレードです。ボトルのプラスチック・キャップは黒色から昔のような赤色に戻り、「Since」と「1810」の文字が「BORN in PA」と「MADE in KY」に書き換えられ、「ボンデッド」ヴァージョンの名称は「ボトルド・イン・ボンド」に変更されました。そして何より、バーボン飲みにはブッカーズのバッチ・ステッカーの挿絵やオールド・グランダッドのベイゼル・ヘイデンの肖像、イエローストーンやレッドウッド・エンパイアのイラストを手掛けたことでお馴染みのアーティスト、スティーヴン・ノーブルによる緻密な筆致によって、オールド・エイブのポートレイトが初期さながらの不機嫌そうな表情に生まれ変ったのです。
更に重要なのは、スタンダードなヴァージョンが86プルーフに引き上げられた上に、BiBと共にノンチルフィルタードの仕様になったことでした。これで以前は失われていたエステルと脂肪酸の一部が残ることが期待されるでしょう。この変更の理由をビーム・サントリーのライ・ウィスキー担当者ブラッドフォード・ローレンスは「歴史的な理由もありますが、バーテンダーがカクテルを創造する際に、より良いリキッドを作るためです」と述べていました。そして、変化の波はこれだけに終わりません。
2020年の後半には、ペンシルヴェニア州とオハイオ州のみの限定販売ながら、バレルプルーフに近い114プルーフで4年物のライと、長期熟成ライとなる11年物で92.6プルーフの2種類がリリースされました。11年物は1回限りのリリースでしたが、114プルーフのヴァージョンは2021年半ばから全国展開されるようになりました。2022年夏には、スタンダードな86プルーフの3年熟成が廃止され、新たに4年熟成に引き上げられました。この変更はオーヴァーホルトの1942年のオリジナル・エイジ・ステイトメントに敬意を表したもので、同社によれば歴史的なルーツへの回帰を示すものだと言います。「ホーム・バーのお気に入りでありバーテンダーの定番でもあるオールド・オーヴァーホルトは、常に酒好きやライ愛好家達に信頼性の高い高品質のライを提供してきました」、「熟成年数表記を4年に戻すことで、私たちが知り、そして愛してもいるオーヴァーホルトをより忠実な姿で提供することが出来ます」と、ビーム・サントリーのアメリカン・ウィスキー・アンバサダーであるティム・ヒューイスラーは述べていました。
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更に今年(2023年4月)には驚きの情報が齎されます。オーヴァーホルト・ライウィスキーの新ラベルがTTBウェブ・サイトに掲載されたのですが、そこにはビームがオーヴァーホルト・ブランドを所有して以来使用している標準的なケンタッキー・スタイルのコーン多めのマッシュビルとは異なる、往年のペンシルヴェニア・スタイルに特徴的なコーンを使用しない80%ライ、20%モルテッドバーリーの全く新しいマッシュビルであることが示されていました。しかもペンシルヴェニアで栽培されたモノンガヒーラ・ライを調達しているらしいのです。ラベルには「モノンガヒーラ・マッシュ」とありますね。
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ライ・ウィスキーの市場がここ10年で飛躍的な成長を遂げたことで愛好家達の製品に対する本物志向の要求は高まりました。ライの本拠地とも言えるペンシルヴェニア州では地元の有名なスピリッツを復活させるために日々努力を重ねるクラフト・ディスティラリーが数多くあり(*)、彼らはポット・スティルを用いてより伝統的な蒸溜方法を行ったりします。また、伝統的なライ麦品種を繁殖させ、時の流れの中で失われてしまった風味を取り戻そうとしているメーカーもあると聞きます。ペンシルヴェニア州ではないものの(コロラド州)、リオポルド・ブラザーズのように嘗てライ・ウィスキー造りの主流だったスリー・チェンバー・スティルを復活させる蒸溜所まであります。こうしたライ・ウィスキー本来の味と香りを愛好家のために取り戻したいという真剣な思いに呼応するかのように、ビームもオーヴァーホルト・ブランドをペンシルヴェニアのルーツに立ち返らせるべく改革に乗り出した、と。現時点では、現行のオーヴァーホルトが廃止されてこの新しいオーヴァーホルトになるのか、はたまた現在のラベルを存続させつつその上位互換としてこのモノンガヒーラ・スタイルも並行して販売されるのかは定かではありません。おそらくこのラベルのリリースはもう少し先でしょう。ライ・ウィスキーは近年のルネッサンス以前は辛うじて生命を維持されているに過ぎない存在に見えましたが、それはもう過去の話となりました。今、ライ・ウィスキーの歴史そのものと謂えそうなオーヴァーホルトという偉大なブランドは、嘗ての栄光を再び浴びる好機を得ています。今後が楽しみですね。

偖て、今回飲むのは4年熟成になる前段階の3年熟成のノンチル物です。ちなみにビームのライ・マッシュビルは非公開ですが、51%ライ、35%コーン、14%モルテッドバーリーと推測されています。他の説としては、日本ではライを59%としていることが多く見られます。これの出典が何処からなのか定かではありませんが、日本のバーボン・ファンにはお馴染みの91年発行の『オール・ザット・バーボン』や97年発行の『ザ・ベスト・バーボン』ではそう断言されていました。また、ライ61%と云う説もあり、これはどうやらジム・マレイの著書『The Complete Guide to Whisky』(1997)に由来するようです。これらの説のうち、どれを信頼していいのか私には判断がつきません。詳細ご存知の方はコメント欄よりご教示下さい。では、そろそろ伝統あるブランドを注ぐとしましょう。

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OLD OVERHOLT STRAIGHT RYE WHISKEY NON-CHILL FILTERED 3 Years Old 86 Proof
推定2021年ボトリング。ゴールド寄りのアンバー。グリーングラス、ライスパイス、微かなヴァニラ、胡椒、薄っすら林檎、トーストブレッド。草っぽく少しフローラルなトップノート。中庸な口当たり。パレートはほんのり甘く、かつスパイシー&ドライ。余韻はあっさりと退けて行くが、ほろ苦さが心地良い。液体を飲み込んだ直後のキックがハイライト。
Rating:80/100

Thought:立ちのぼる香りはやや弱く、ボディも軽く、後味も特別なものではないものの、若い原酒のため渋みが殆どないので飲み易いし、僅かにオイリーなところは気に入りました。個人的にはもっと甘いかフルーティな方が好みではありますが、おそらく甘いのが苦手ですっきり飲みたい人には向いていると思います。カクテルベースには言わずもがなでしょう。
ところで、一つ気になることがあります。ジムビーム・ライのラベルが或る時リューアルしましたよね。黄色から緑色のラベルに変わり、プリプロヒビション・スタイルという名称が付きました。それを数年前に飲んだ時、私は従来よりフルーティで美味しくなったと思いました。きっと何かが改良されたのだろう、と。ビームのライ・マッシュは一種類と聞いているので、それならオーヴァーホルトも美味しくなっているに違いないと思って今回飲み始めた訳です。ところが、このオーヴァーホルトはそのジムビーム・ライとは随分とキャラクターが異なる印象を受けました。私にはジムビーム・ライはフォアローゼズ(特にブラックより上位の物)に近しいフルーティさを感じ、オーヴァーホルトはオーヴァーホルトのままと言うか、多少の違いはあれども下で言及する以前の黒キャップの物と同傾向のスパイシーでドライな特徴を維持しています。付け加えると、短命に終わったビームのプレミアム・ラインのライに(rī)¹[※ライワンと発音]というのがありましたが、それもジムビーム・ライ緑ラベルと同系統のフルーツ・フレイヴァーを有していました。これって、ジムビームのライとオーヴァーホルトのライとをバレル・セレクトによって造り分けてるのですかね? まさか、マッシュビルが複数あるのでしょうか? はたまたイーストを変えているのでしょうか? 仔細ご存知の方は是非コメント頂けると助かります。

Value:現行のオールド・オーヴァーホルト4年のMSRPは750mlボトルで約20ドル。日本では大体2200〜2800円くらいが相場のようです。熟成年数から見ると品質は同価格帯のバーボンと殆ど同じか少し低いくらいなのですが、80プルーフという最低限のボトリングでもないし、ノンチルフィルタードは通常は高級品の仕様と見ることも可能ですから、コストパフォーマンスは高いと言えるかも知れません。現行のオールド・オーヴァーホルトは、入手のし易さといい、比較的安価な値段といい、ライらしさの一面を味わえる点といい、ライ・ウィスキーへの初めての入り口としてはオススメです。

あと、かなり昔に飲んだボトルが取ってあったので、おまけでその感想も添えておきます。

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OLD OVERHOLT STRAIGHT RYE WHISKEY 4 Years Old 80 Proof
推定2003年ボトリング(瓶底)。確か2013年頃に当時販売されていた黒キャップのオーヴァーホルト(3年熟成)を飲み終えた直後に開封して味比べをしました。その2013年あたりのオーヴァーホルトは風味が薄くてあまりピンとこなかったんですよね。点数にすると78点くらいがいいとこです。多分、2013年より少し前から2018年頃までのボトルはオーヴァーホルト史上、最も低レヴェルな味わいかも知れません。それに較べるとこちらはよりミンティさがある上に円やかで全体的に風味がもう少し強く美味しかった記憶があります。この頃のラベルは後の物より黄色っぽく、キャップの色も赤というより小豆色でした。
Rating:80/100
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*ペンシルヴェニア州のクラフト蒸溜所
1675 Spirits (Bucks County)
Altered State Distillery (Erie County)
Barley Creek (Monroe County)
Barrel 21 Distillery (Centre County)
BlueBird Distilling (Chester County)
Boardroom Spirits (Montgomery County)
Brandywine Branch Distillery (Chester County)
Chicken Hill Distillery (Elk County)
CJ Spirits (McKean County)
Cooper Spirits (Philadelphia)
County Seat Spirits (Lehigh County)
Crostwater Distilled Spirits (York County)
Dad’s Hat Rye (Bucks County)
Dead Lightning Distilled Spirits (Cumberland County)
Disobedient Spirits (Indiana County)
Eight Oaks Distillery (Lehigh County)
Five Saints Distilling (Montgomery County)
Hazard’s Distillery (Juniata County)
Hewn Spirits (Bucks County)
Hidden Still Spirits  (Dauphin County)
Hughes Bros Distilling (Bedford County)
Hungry Run Distillery (Mifflin County)
Lakehouse Distilling (Franklin County)
Liberty Pole Spirits (Washington County)
Lucky Sign Spirits (Allegheny County)
Midstate Distillery (Dauphin County)
Nomad Distilling (Lycoming County)
New Liberty Distillery (Philadelphia)
Manatawny Still Works (Montgomery County)
Mason Dixon (Adams County)
Pennsylvania Distilling (Chester County)
Red Brick Distillery (Philadelphia)
Silverback Distillery (Monroe County)
Stoll and Wolfe (Lancaster County)
Strivers’ Row Distillery (Philadelphia)
Thistle Finch Distillery (Lancaster County)
Wigle Whiskey (Pittsburgh)

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ヴェリー・オールド・バートンは、バーボン生産の中心地バーズタウンで1879年の創業以来、最も長く操業を続けているバートン1792蒸溜所で造られています。そのヴァリエーションは80プルーフ、86プルーフ、90プルーフ、100プルーフと豊富ながら、全国展開のブランドではありません。そのせいなのか、日本での流通量が多くないのが残念なところ。ヴェリー・オールド・バートンは、嘗てはケンタッキー州と近隣の幾つかの州(KY、IN、OH、IL、WI、MI、TN)でのみ販売され、ジムビームやジャックダニエルズと真っ向から競合し、価格競争力に優れたバーボンとしてケンタッキー州では常に高い評判を得ていました。現在では主に中西部、東部、中南部の23の州で販売されているらしいです。
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奇妙なことに、現在バートン1792蒸溜所を所有するサゼラック・カンパニーの公式ウェブサイトの「OUR BRANDS」の欄にヴェリー・オールド・バートンは何故か載っておらず、不当な扱いを受けているようにも見えます。 同蒸溜所の主力製品は今は「1792スモール・バッチ」となっていますが、当初はヴェリー・オールド・バートンが主要なプレミアム・ブランドでした。昔の8年熟成のヴェリー・オールド・バートンは70〜80年代に掛けて最も高く評価されたケンタッキー・ストレート・バーボンの一つとされています。2000年頃までは基本的に8年熟成の製品だったようですが、その後、バーボンの売上増加と蒸溜所の所有者変更により、熟成年数は6年に引き下げられ、更にその後NASになりました。ところで、我々のような現代の消費者の感覚からすると、ヴェリー・オールド・バートンはその名前に反して、それほど長熟ではありませんよね。「ヴェリー・オールド」と聞くと、20年熟成とかを思い浮かべそうですし、そこまでではないにしろ少なくとも12年以上は熟成してそうなイメージがします。しかし、昔はそうではありませんでした。蒸溜所が連邦物品税を支払う前にウィスキーを熟成できる期間(保税期間)は1958年まで8年間だったため、当時は8年物で「ヴェリー・オールド」と呼ばれることが多く、このブランドがそれほど長熟でもないのにそう名前にあるのはその名残です。

ヴェリー・オールド・バートンは通常20ドル未満、プルーフが低い物はそれよりも更に安い価格で販売されています。それ故、20ドル以下のバーボン・ベスト10のようなオススメ記事によく顔を出していました。取り分け人気があったのは部分的に白色が使われたラベルの6年物のボトルド・イン・ボンドで、高品質でありながら手頃な価格は、長きに渡りコストパフォーマンスに優れたバーボンとして愛されて来ました。しかし、上でも述べたように以前はボトルに熟成年数を示す「6 years old」の記載がありましたが、2013年末頃?、サゼラックはネック・ラベルにあった「6 years old」から「years」と「old」を削除し、数字の「6」だけを残しました。サゼラックはバッファロー・トレース蒸溜所が製造するオールド・チャーターのラベルでも、同じように以前はあった8年熟成表記を単なる「8」という数字のみにしたりしました。熟成バレルの在庫が逼迫したことで、ラベルからエイジ・ステイトメントを削除するのは理解できます。しかし、熟成年数を変更したにも拘らず、恰もその年数を示すかのような数字をラベルに残した行為は、多くのバーボン愛好家が納得しないものでした。彼らからは、卑劣で陰険で極悪非道、間違いなく恥ずべきことだと謗られたり、不誠実でくだらないマーケティングと断罪されたり、または天才的なマーケティング手腕だと皮肉られる始末でした。暫くの間ラベルは「6」のままでしたが、軈て消えます。同社はVOBのラベルが「6」に切り替わった時点では平均してまだ6年熟成と主張していました。切り替え当初はそうだったのかも知れませんが、おそらく直に熟成年数は4〜6年のブレンドに移行したと思われます。それから数年後、ラベルから「Bottled in Bond」の表記がなくなり、代わりに「Crafted」と書かれるようになりました。巷の噂では、2018年の6月に1940年代に建てられたバートンの倉庫#30が崩壊したため異なる蒸溜シーズンのヴェリー・オールド・バートンを混ぜることを余儀なくされた、と言われています。
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偖て、今回飲むのは6年熟成でもなく、ボトルド・イン・ボンドでもない100プルーフのヴェリー・オールド・バートンです。私が気に入っていたバートン原酒を使ったコストコのカークランド・シグネチャーが、どうやら一回限りのコラボだったようで定番化されず、そのせいで常備酒とは出来ませんでした。そこで代替品となるのは、似たスペックをもつこのVOBしかありません。同じバートン産でありながら、二つのブランドにどれほどの違いがあるのかも興味深く、購入してみた次第。さっそく注いでみましょう。ちなみにVOBのマッシュビルについては75%コーン、15%ライ、10%モルテッドバーリーとされています。

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Very Old Barton 100 Proof
推定23年ボトリング(瓶底)。オレンジがかったブラウン。薄いキャラメル、若いプラム、トーストした木材、ピーカンナッツ、微かなカレーのスパイス、アニス、汗→整髪料。芳しい樽香に僅かにフローラルの混じった接着剤様のアロマ。口当たりはほんの少しとろっとしている。味わいはバートンらしいストーンフルーツが感じられるがやや弱い。余韻は短めながら香ばしい穀物とココナッツが漂う。
Rating:81/100

Thought:グレインとナッツ類に振れた香味バランスのバーボンという印象。軽いヴァニラ系統の甘み、ウッディなスパイス感、穀物の旨味、適度なパンチは飲み応え十分です。総合的に、驚くほど美味しくはないものの悪くはありません。しかし、正直言うと100プルーフに期待されるリッチなフレイヴァーは欠けているように感じました。バートン原酒を使用したコストコのカークランド・シグネチャーと較べると、特にフルーツ・フレイヴァーが弱く、自分の好みとしてはプルーフの低いスモールバッチよりもこちらは劣っています。KLSmBは開封から半年以上経った時に風味が物凄く伸びたので、このVOBも開封してから少しづつ飲んでスピリッツが開くのを待っていたのですが、半年経っても殆ど変化が見られませんでした。私はKLSmBの「スモールバッチ」はただのマーケティング用語ではないかと疑っていたのですが、これだけ差があるのなら本当に厳選されたバレル・セレクトがなされていたのかもと思い直したほどです。もしくは、コストコはカスタム・オーダーでマッシュビルのライ麦比率をやや増やして違いを作り出していたのかも知れない。VOBはライが15%とされている一方、バートン版カークランドはライが18%と推定されていることが多いので。飲んだことのある皆さんはどう思われましたか? コメントよりご意見ご感想どしどしお寄せ下さい。

Value:アメリカでの価格は地域によって大きく異なるようですが、基本的にヴェリー・オールド・バートンはアンダー20ドルの世界の戦士です。今の日本では3000円台後半〜4000円近い価格となっており、私も昔の感覚からすると高いなと思いつつもその金額で買いました。そもそも特別な日のためのバーボンではないのは言うまでもありませんが、日本で購入すると安価なデイリー・バーボンとも言い難い価格になるのが痛いところです。勿論、私とて物事が昔と同じようには行かないことは理解しています。最近では1792スモールバッチが4000円から6000円近い価格となっていることを考えると、適正な価格なのかも知れません。しかし、ここ日本で3500〜4000円となると、それより安い価格でメーカーズマークもワイルドターキーも買えてしまいます。個人的にはそれらの方がこのVOB100プルーフより上質なバーボンと感じます。もしこれがアメリカの小売価格に準じた2500円くらいならアリなのですが…。返す返すもコストコのバートン原酒を使用したカークランド・シグネチャーが買えなくなったのは残念です。

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