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現在のバーボン・ブームは「プレミアム」なバーボンがその人気を助長しているように見えます。多くのブランドは長年の主力製品をプレミアム化しました。特殊な環境下で熟成させたり後熟を施したり、高価なボトルに入れたり新規のラベルを貼り付けたり、壮大なストーリーを宣伝して、数量限定や割り当て配給にすることにより、時には100ドル超の高価格帯の製品を追加しています。また、ここ10年の間に登場した多くの新しいバーボン・ブランドも、目新しいボトルや凝ったラベルを用いてプレミアム感を演出し、消費者へのアピールをしています。それらを首尾よく手に入れ、SNSで自慢気に披露するのはよく見る光景です。ワイルドターキーの製品にもプレミアムなマスターズ・キープというシリーズがあります。レアな物を手に入れたり飲むことは、我々の気分を高揚させ、魅惑的で貴重な経験をさせてくれるでしょう。しかし、バーボン愛好家はそのようなプレミアム製品だけでなく、絶対的なお気に入りの安くて旨いバーボンも同時に愛するものです。
そう、ワイルドターキー101のことを言っています。熱烈なターキー信者は、もしも貴方の残りの人生でバーボンを一種類だけしか飲めないとしたら何を選びますか?と訊ねられたら、必ずやワイルドターキー101と高らかに宣言するに違いありません。それは彼らがワイルドターキー101を否定できない価値のある素晴らしい製品であると知っており、他のアメリカン・ウィスキー製造業者には到達できない何かがあると信じているからです。60年以上前、19歳のジミー・ラッセルはケンタッキー州ローレンスバーグの蒸留所で働き始め、後にマスター・ディスティラーに昇進し、今日でも共同マスター・ディスティラーである息子のエディ・ラッセルと共にそこにいます。変転の多い世の中にあって、これは何の誇大宣伝も必要としない紛うことなき伝説と伝統です。過去にワイルドターキーの特別なボトリングは幾つか発売されていますが、バーボン・ブッダと称される男の魂を最も体現するのはワイルドターキー101に他なりません。長らく卓越性の基準であったボトルド・イン・ボンド規格を大幅に上回る熟成期間と、その法定プルーフを僅かに越える1プルーフの追加を行うことで、見た目にも美しい並びの「101」という象徴的な数字をもつバーボンは、常に信頼できる品質を誇りながら何時でも手頃な価格であり続けました。頑固だけど気さく、厳しいけど優しい、まるでジミーのように。

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(2015年の終わり頃から採用されたスケッチ・ターキー・ラベル)

日本人にとってワイルドターキーの定番中の定番と言えば今でも8年表記のある101。1992年以降、アメリカ国内の101からはエイジ・ステイトメントが削除されNASの6〜8年熟成となりましたが、輸出市場の日本では8年物が流通し続けているのです。その理由を或るインタヴューでエディは、日本の消費者は味の判る方が多いからというようなことを言っていました。本当かどうかは怪しいですが、日本向けの建前としてはそうなのでしょう。
同時期のエクスポート8年とアメリカ流通NASを飲み比べた海外のターキーマニアの方によると、味わいはどちらもモダン・ワイルドターキーのコア・フレイヴァーを共有し、明確な差はそれほど感じないとのこと。エイジ・ステイトメントの有り難みは確かにありますし、熟成年数の明確な違いはフレイヴァー・バランスを変えますが、寧ろ実際にはバッチングにどのようなバレルが選択されたかの方が重要なようです。ワイルドターキーでは毎年、全てのリックハウスから均等にバレルが選ばれる訳ではありません。各バッチに「収穫」されるバレルは、その時「旬」の限定された選りすぐりのリックハウスから、成熟度と味に基づいて引き出されることが知られています。或る時はタイロンのB、D、H、K倉庫から多く引き出され、別の年はG、M、O倉庫から、また或る年はキャンプ・ネルソンのAとF倉庫から多く引き出されるという具合に。ワイルドターキーは比較的バッチやロット間の味わいの変動が大きそうな印象がありますが、もしかするとここら辺がその理由の一端なのかも知れませんね。
エディ・ラッセルの息子でブランド・アンバサダーのブルースは某掲示板で、2018年のワイルドターキー101には通常の8年より10年原酒が多く含まれていると述べ、ターキー愛好家をざわつかせました。或る愛好家は機会を待ってさっそく「仕事」に取り掛かりました。彼によると、2018年前期の物は2017年の物と比較してプロファイルに大きな違いは見つからなかったらしいですが、2018年後期の物(レーザーコードがLL / GG〜LL / GJの物)はとても優れていたそうです。そして2019年ボトルも概ね良さげな評価に見えます。逆に2020年2月のハンドル付リッター・ボトルは「オフ」バッチだったという報告もネット上で話題になりましたが、これは極めて稀な例でしょう。まあ、これらはNAS101の話。今回レヴューに取り上げるのは日本向け8年101の推定2019年ボトルです。

私はここ最近、ワイルドターキーの限定版やレアブリード等は飲んでいましたが、スタンダードな8年101を飲むのは約2年ぶり。実を言うと、敢えて飲むのを避けていたのです。その理由は、以前投稿したレアブリード116.8のレヴュー時に言及した件が関係しています。
ワイルドターキー蒸留所は旧来のブールヴァード蒸留所から2011年に新しい蒸留施設へと転換しました。新しい施設の生産能力は年間1100万ガロンで、旧蒸留所の2倍以上です。新しいビア・スティルとダブラーは古い物と全く同じ大きさであり、全体的な生産容量の増加はより大きなクッカーとファーメンターから由来しています。新原酒を含むNAS101を飲み比べたアメリカの方によると、どうやら旧原酒よりもナッティな傾向が強いらしい。レアブリード116.8を飲んだ時、フレイヴァー・プロファイルがそれまでのレアブリードとはかなり違う印象を受けました。それはおそらく新しい蒸留施設の6年原酒を多く含むからなのでは?と推測し、ならば日本限定の8年101も単純計算で2019年のロットから劇的に味わいが変わるかも!と楽しみに待っていたのです。で、たまたま近所のスーパーに並んでいたワイルドターキー8年101が2019年ボトリングぽい、じゃあ買ってみるか、と。なので、さっそく注いでみましょう。

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WILD TURKEY AGED 8 YEARS 101 Proof
推定2019年ボトリング。レーザーコードはLL/HJ。スパイシーヴァニラ、香ばしい焦げ樽、クレームブリュレ、ドライアプリコット、チョコチップクッキー。口当たりはオイリーではないがゆるくもない。味わいはかなりフルーティで、僅かなレーズンと微かなチェリー。液体を飲み込んだ直後のスパイシーなキックはなかなか。余韻はややドライなウッド・ノートと穀物が主で、ほんのりナッツが香る。
Rating:86.5/100

Thought:久しぶりに飲んだせいか、あれ?こんなに旨かったっけ!?というのが正直な感想です。熟成感も丁度いいし、バーボンの美味しい基本的なフレイヴァーが各々、実にバランス良く感じられます。ブラインドで試せばもう少し格上の物と間違えそう。唯一、余韻は深みに欠けるのがウィークポイントかな。日本では、ターキーの現行ボトルとオールドボトルを比較して、薄くなったとかコクがないとか、樽のえぐみが出てるとかアルコール感が強いとかよく聞く(見る)のですが、自分にはちょっと信じられません。凄く良く出来たバーボンという印象です。まあ、オールド派の言いたいことは分かりますし、確かに私もそのようなことを言ってしまう時があります。オールドボトルの方がダークチェリーや複雑なスパイス、アーシーなフィーリングの現れが感じ易く美味しい、とか。ですが、オールドボトルはそれらに加えてオールド臭と言うのか古びた風味が強過ぎることも多いです。それに較べると現行品はフレッシュ感が美味しいので、つまりは一長一短…。どっちも愛せばいいんじゃないの?と自戒の念を込めて言っておきましょう。
そして、上述の新原酒の件ですが…、うーん、どうでしょうね、2年前に飲んだ時より美味しくは感じたのですが、それはここ最近、私が自分の苦手な長期熟成の限定版ワイルドターキーを飲み続けていて、久しぶりにスタンダードな8年を味わったからなだけなのかも知れません。ただ、フレイヴァー・プロファイルはそれほど変わったとは感じませんでした。サイド・バイ・サイドで比べてる訳でもなく、記憶と比べてるので曖昧ですが。
このボトルはおそらく2019年10月のロットと思われます。となると、このボトルにはギリギリ新原酒が混和されていない可能性もあり得るでしょう。逆にこのボトルは新原酒で構成されているが、新原酒と旧原酒はそこまでの著しい大差がない可能性もあります。ここはもう一度、2020年か2021年のボトルを飲んでみるしかなさそうです。既にそれらを飲んだことのある皆さんはワイルドターキー新施設の蒸留原酒をどう思いましたか? コメントより感想をどしどしお知らせ下さい。そう言えば、2020年11月には、アメリカの或る州では早くも新ボトル・デザイン(エンボス・ターキー)が流通し始めました。そのうち日本流通の物も切り替わって行くのでしょう。見た目が変わると味も変わったように感じ易いので、またその時に試すのもいいかも知れませんね。

Value:相場は大体2500円くらいでしょうか。間違いなく購入する価値はあると思います。と言うか、これを愛さず何を愛せと言うのか…(笑)。