
現在、ワイルドターキーからはエディ・ラッセルが主導するマスターズ・キープという限定生産で概ね長熟の特別リリースがありますが、それがスタートする2015年以前からジミー・ラッセルの主導する限定版の長熟バーボンがありました。ワイルドターキー・トリビュート15年はそうしたリリースの一つで、2004年に発売され、アメリカ国内版と日本輸出版のニ種類があります。アメリカ流通の物は101プルーフでのボトリングで5500本(6本入り800ケースの合計4800本という説も)、日本流通の物は110プルーフでのボトリングで9000本の数量とされています。各々はボトルの形状やパッケージングも異なり、アメリカ版は今のラッセルズ・リザーヴに似たボトルを採用してスクロール式のボックスに、日本版は旧来のケンタッキー・スピリットで使用されたフェザーテール・ボトルを採用して紙箱に入っていました。中身に関しては、ジミー・ラッセルも語っているらしいのですが、両トリビュートは同一バッチのウィスキーで、ボトリング・プルーフだけの違いのようです。それら二つを比較すると、一般的なコンセンサスは輸出用トリビュートの方が僅かにベターとされています。ハイアープルーフだからでしょうね。

(WT "Tribute" 15yr USドメスティック版のラベル)
このバーボンには次のような逸話が伝わっています。2004年の或る日、マスター・ディスティラーのジミー・ラッセルはワイルドターキーの親会社であるペルノ・リカールから、記念品としてリリースするためのバレルの選定を依頼されました。彼はその意図を、きっと2005年に訪れるオースティン, ニコルズ&カンパニー設立150周年記念のためだろうと思いました。ところが実際には、経営陣の計画はジミーが蒸溜所に勤務し始めて50周年を迎えることを「トリビュート」する記念ボトルの作成でした。つまり、工場で行われていることの殆どを知り尽くした男に、サプライズのため?秘密裏に依頼していたのです。
ジミーが選んだのは、ある段階からバレルをリックハウスの低層階へと移し、ゆっくりと熟成させ特別に育ったバレルでした。ケンタッキー州の蒸し暑い夏にチャード・オークの新樽で寝かせたバーボンは、スコットランドの寒冷な気候や使用済みの樽で寝かせるよりも遥かに早く熟成し、ケンタッキーでの熟成はスコットランドでの熟成の3倍に匹敵すると表現される場合もあります。ワイルドターキー蒸溜所では、もっと熟成するに値しそうだと判断されたか、或いは単純に熟成の進んだバレルを倉庫の涼しい場所に移すなどして慎重な管理を行います。そのため、通常バーボンには不適切とされる熟成期間を経ていたにも拘らず、そしてジミーの哲学に於いても8〜10年の熟成がバーボンに最適とされているにも拘らず、それらは当時のワイルドターキーのストックの中で最も上質と見做せるものでした。「ホワイト・オークのスティックをチューイングしているような味わい」ではない「シュガーバレル」です。ジミーによれば、これほど古く、それでいて絶妙なバーボンになるのはほんの一握りのバレルだけだと言います。上品なメープルシロップを思わせる華やかな香り、ビターチョコのような重く奥深いコク、大胆なスパイス、レザーのような複雑な風味が鼻に抜けるダークなウィスキー。ちなみに、このバーボンの熟成年数を考えると、まだバレル・エントリー・プルーフが変更される前なので(*)、日本版の110プルーフはバレルプルーフに近いボトリングでしょう。
US版トリビュートのスクロール式の箱には次のような賛辞が記載されていました。
ジミー・ラッセルのワイルドターキー・バーボンへの50年に渡る貢献を記念して、限定版の15年熟成のスモールバッチ・バーボン「トリビュート」を提供できることを誇りに思います。この「ザ・マスター・ディスティラー」へのオマージュは、ワイルドターキー・ケンタッキー・ストレート・バーボン・ウィスキーを世界最高のバーボンとするための彼の半世紀に渡る情熱と献身を真に反映したものです。
偖て、こちらは今回のバー遠征に共に行った友人の注文品を一口だけ頂いたものです。その友人は、他にはワイルドターキー8年新旧(スケッチと横向きフルカラー・ラベル)やラッセルズ・リザーヴ・シングルバレル・ライ、ジャックダニエルズのシングルバレル三種の飲み比べ等をしていました。では、最後にトリビュート15年の感想を少しだけ。

WILD TURKEY TRIBUTE Aged 15 Years 110 Proof
BATCH # JR-8904
BOTTLE # 8605
その熟成期間の割に、確かに口蓋で凄く甘味を感じました。余韻はややビターで、甘さに流されず引き締める感じでしょうか。オークの存在感は支配的ですが、ワイルドターキーの近年の長熟プレミアムに見られたキツさや苦味や渋さはなく、全体的にバランスの良い熟成加減に思います。多少は経年により柔らかさが出てるのかも知れませんが、それ以前に最近の物とは風味の深みが違う次元にあるような気がしますね。
このバーボンは近年オークションでは高騰の一途を辿る銘柄の一つで、大体10万を超えて来ます。あぁ、もう買えないんだなと寂しくなります…。皆さんもバーで見かけたら飲んでみて下さい。
Rating:91.5/100
*ワイルドターキー蒸溜所のバレル・エントリー・プルーフは、2004年に107から110 に、2006年に110から115へと変更されました。
コメント
コメント一覧 (8)
本当にオークションでバーボンが凄まじく高騰してますね。
比較的弾数が多いワイルドターキーでここまで高騰するなんて、
数年前は思いもしなかったです。
そういえば、ターキー12年が復活しましたがあれはどうなのでしょうか。
最近の8年は結構いい感じなので楽しみです。
ターキー好きさん、初コメありがとうございます!
90年代のスタンダードなターキーですらなかなか手を出しづらい値段になってきましたよね。私もまったく油断してました。このトリビュートにしたって数年前は2万程度で買えたのですが…。
新しいターキー12年は予約しましたよ。そのうちレヴューしますけど、昔のものほどおいしくないのではないかと予想しています。とは言え、13年よりはプルーフが上なので期待してます。
このボトルは飲んだ事あるはずなんですが当時のターキーはラインナップ色々あってもう覚えてないですねえ
フェザーテイルは存在感あって良いですね
新12年が旧12の味を超える事が無いのは同意ですが現行ケンスピの味を明確に超えてくれたら激しく嬉しいですね
どうかおいしい物でありますように
ははは、どうしたって期待してしまいますよね。もう飲んだ方によると、なかなかいいみたいですよ。ケンスピを明確に超えるかとうかは定かではないですけれど、超えてもおかしくはないでしょうね。
記事の内容とはあまり関係がないコメントで申し訳ありません。
何年か前に正面ラベルのターキー8年を購入したのですが、86.8プルーフで輸入業者がアイ・ダヴリュ・エイ・ジャパンのものでした。
ネット上にもあまり情報がなく、BSNCさんのブログに辿り着いたのですが、お飲みになられたことはありますでしょうか?製品に関する情報など御存じでしたら教えていただければと思いコメントいたしました。
さいこさん、はじめまして、コメントありがとうございます!
実物を見てないのではっきりとはしないのですが、私は飲んだことがないと思います。ネットで少し、似たものがないかと探ってみたところ、ヨーロッパ向けの低プルーフ・ヴァージョンのNo. 8 Brandを見かけました。もしお手持ちの物が「年」でなく「ブランド」の物なら、おそらく、中身は8年に満たない熟成の原酒がブレンドされていると思われます。もし8年表記の物なら、かなり希少性があるかと。どちらにせよ、90年代にリリースされた物なら輸出物かなと予想します。
86.8プルーフは70年代に初めてリリースされ、単純に言えば101に対するライト版という位置づけの製品ではないでしょうか。その半端な数値は、ある種の象徴性を帯びた数値だったから採用されたプルーフィングなのではないかと想像します。
あまり役に立てず申し訳ないです…。
返信ありがとうございます!
改めてラベルを見返したのですが、No.8 Brandの記載はなく〔years old ⑧ ans d'âge〕と表記がありフランス向けに輸出された物かもしれないです(ans d'âgeの部分は翻訳かけました)
購入した時は101プルーフだと思い込んでいて、86.8プルーフだと分かったときは少しガッカリしたのですが、これも縁だと思って何かの節目かお祝い事が出来たときに開栓したいと思います。
なるほど、フランス語の記述があったのですね。
昔のターキーなら86.8プルーフでも現行より豊かなフレイヴァーかも知れませんから、その時が来たら楽しんでください!