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今回はジャグに入ったジョージディッケル・オールドNo.12ブランドを飲んでみます。ジャグの底には1988とあるのでボトリングはその年だと思われます。ジョージディッケルのブランドの歴史や蒸溜所の紹介は過去に投稿していますのでそれらを参照して下さい。

ガラス製のボトルがまだ高価だったため、安価なガラス・ボトルが普及する以前の1900年代初頭までは、アルコールはバレルのまま売られていました。バーやリカーストアはバレルを蒸溜所や仲介業者から直接購入し、顧客は自分のグラス、フラスク、デキャンタ等に酒を入れ買いました。そして多くの蒸溜所や販売業者がブランド名の入った陶器のジャグを提供していました。ガラス・ボトルが一般的になった後も、幾つかのブランドは懐古主義的に?ウィスキーをジャグに入れ販売していました。ミクターズやヘンリーマッケンナ、或いはマコーミックのコーン・ウィスキーなどは特にジャグとの繋がりが強い印象があります。ディッケル・ウィスキーも画像検索ですぐ見つかるものに1976年製のジャグがありました(参考)。私が飲んだ物と概ね似たような形状に見えるので、これの復刻版が今回の物ということなのかも知れません。形状で言うと、ディッケルは今回のオールドNo.12ブランドと同型の色違いで、裏面にカントリー・シンガーのマール・ハガードがプリントされたオールドNo.8ブランドの黒い(もしくはダーク・ブラウン?)ジャグを1987年に発売しています。
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ウィスキー・ビジネスにとって暗黒時代の真っ只中だった1980年代半ば、ディッケルはハガードを広告キャンペーンに採用していたようです。そしてジョージディッケル・ウィスキーはマール・ハガード・アンド・ザ・ストレンジャーズによる1987年のエイント・ナッシン・ベター・ツアーを後援し、その一環として様々なグッズが製造されました。オールドNo.8ブランドの黒いジャグもツアーに合わせた物なのでしょうか? 発売年代から考えると、今回のオールドNo.12ブランドの白いジャグは、ハガードのジャグの姉妹製品というかセットの上位モデルという位置づけと見ることも可能かと…。

これは現在スーペリアNo.12レシピと表記されている現行品の古いものな訳ですが、このジャグが通常のガラス・ボトルの物と較べて中身にクオリティの差があるのかどうかは分かりません。当時はまだ「バレル・セレクト」や「ハンド・セレクテッド」などのヴァリエーションがなかったので、ジャグに特別に選ばれたバレルが使用された可能性もなくはないですが、この頃のディッケルにはプレミアム・ウィスキーの概念がなさそうな気がするので、おそらくガラス・ボトルとジャグにそれほど明確な差はないと思います。
ちなみにディッケルが製品に付けたナンバー「8」や「12」は、紛らわしいことに熟成年数ではありません。シェンリーがジャックダニエルズの対抗馬としてジョージディッケルを作成した時、彼らは消費者調査を行い、21以下の数字を全て調べました。結果、既にジャックダニエルズ・オールドNo.7で使われていた「7」を除くと「8」と「12」が次に最も人気のある番号であることが判りました。そこで、その数字をブランドに採用したと言われています。おそらく酒名に人名を用いることやNo.8の白と黒を基調としたラベルはJDを意識していたと思います。品名にナンバーを付けるあたりもジャックダニエルズへの剥き出しのライヴァル心からだったのではないでしょうか。
と言う訳で、一部の熟成年数が明記された製品を除き、No.8と12は発売当初から現在に至るまで全てNASのウィスキーです。それ故、販売された年代によって中身の熟成年数は様々で、我々は正確に知ることが出来ません。70年代のNo.12はバックラベルに5年熟成と書かれていたとの情報もありました。過去にマスター・ディスティラーを務めていたデイヴィッド・バッカスによると、No.12は平均して7~8年熟成だがもっと古いウィスキーのこともあり得ると言っていました。実際、90年代に発売されたバーボン・ヘリテッジ・コレクションでは10年物のウィスキーが使われ、また海外ではNo.12ではなくディッケル10年として販売されていたものがあったとの話もありました。
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(左はUDのBHC、右はおそらくヨーロッパ向け?)
そしてジョージ・ディッケル蒸溜所は過剰生産のため1999年2月に停止、2003年までの期間閉鎖されています。その間、既存の在庫は熟成され続けたでしょう。再出発した時、つまり2000年代初頭から中期に掛けてNo.12ブランドに含まれるウィスキーの中には、過剰生産時代のバーボンのように古いストックが混じり12年物に近づいたり超えたりしたものもあったのかも知れない。尤も、休止期間中も既存の在庫は販売され続けていた筈なので、先入先出方式?の在庫管理で長熟ウィスキーはそれほどなかった可能性もあります。とは言え、後に長熟のディッケルが販売されたところからすると、絶えず長熟ウィスキーは存在していたのではないかとも思えます。まあ、全ては憶測に過ぎません。で、今回のこの80年代後期のオールドNo.12ブランドのジャグですが、アメリカ本国のバーボン需要が下火だった時代背景から考えると、8〜10年もしくは10年超のウィスキーではないかと予想しています。 では、そろそろウィスキーを注いで試してみましょう。
と、その前に…。この記事のために色々とバーボン系ウェブサイトで取り上げられたディッケルに関する情報を読み漁っていたら、そのマッシュビルをNo.8はコーン84%/ライ8%/モルテッドバーリー8%、No.12はコーン84%/ライ10%/モルテッドバーリー6%としているものを見かけました。私自身はディッケルのマッシュビルは前者しか知らなかったので驚きました。これって、いつの頃からか両者をマッシュの微調整で造り分け始めたのか、それとも単なる間違いなのか、或いは近年マッシュビルの変更があったのか…。最新の情報をご存知の方がいましたらコメント頂けると助かります。

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George Dickel Old №12 Brand Ceramic Jug 90 Proof
推定88年ボトリング。赤みを帯びた濃いめのブラウン。ビターなカラメルソース、砂糖漬けオレンジ、オールドコーン、ブラウンシュガー、ベーキングスパイス、いちじく、土、アプリコット、ラヴェンダー、花火。円やかでソフトな刺激が少ない口当たり。味わいは、酸味を仄かな甘さと穏やかなスパイスが包み込むといった感じ。余韻はややビターでタバコっぽさも。
Rating:86.5/100

Thought:そこそこ古いお酒ですがオールド臭はあまりなく、陶器ボトルにありがちな鉛風味もなく、とてもいい状態でした。海外の多くの人はジョージディッケルの特徴的なキャラクターをフリントストーンズ・チュアブル・ヴァイタミンのような味だと説明しています。私はそれを口にしたことがないのですが、おそらくディッケル特有の酸味とちょっとした苦味のことを指しているのではないかと思います。仮にそれが正しいとして、その風味が過剰であるか、又はそもそも苦手な人は、ディッケルをあまり評価しません。斯くいう私も、テネシー・ウィスキーのニ大巨頭であるジャックダニエルズとジョージディッケルを較べると、その風味がないジャックの方が遥かに好みです。で、このジャグはそのディッケルの著名な風味が過剰ではなく、その他のフレイヴァーとギリギリ良いバランスを保っていたので、美味しく感じました。と言うか、私が今まで飲んだディッケルで最も美味しく感じました。その風味の由来は、個人的にはイーストと水と長期間の熟成が主な要因となって醸されるのではないかと考えています。と言うのも、15〜18年の熟成年数では、そこにあるべきではない味わいがあるとして、ディッケルは古いものが良いとは限らない典型的な例だと言う人がおり、私自身も飲んだ印象で長熟気味の方がこの風味を感じ易い気がするのです。現行のNo.8には全く感じず、昔のNo.8にはかなり感じ、現行のNo.12やバレルセレクトには少しだけ感じる、と言った具合です。皆さんはどう思われるでしょうか? コメントよりどしどしご意見ご感想お寄せ下さい。