ワイルドターキー12年101は1980年代初頭に発売され始め、1999年にアメリカ国内での流通が停止されると以降は輸出市場のみでリリースされることになりました。そのお陰で日本では長いこと入手し易かったワイルドターキー12年も2013年には終売となり、それに代わって一部の市場でリリースされ始めたのがワイルドターキー13年ディスティラーズ・リザーヴ91プルーフでした。そして、永遠に続くと思われた沈黙を破り、2022年、遂にワイルドターキー12年101が帰って来ました。但し、これまた輸出専用となっており、オーストラリア、韓国、日本などの市場のみの限定的なリリースのようです。日本では2022年9月に発売されました。アメリカ本国のワイルド・ターキー愛好家には申し訳ない気持ちにもなりますが、彼らにはこちらで手に入り難い様々な製品(例えばラッセルズ・リザーヴ13年や様々なプライヴェート・ピック)があるのでお互い様ですかね。
この12年101は8年101と同様、デザインを一新したエンボスト・ターキー・ボトルに入っています。新しいボトルは鳥やラベルよりも液体に焦点を合わせることで、ワイルドターキーの特徴の一つである長期間の熟成をウィスキー自身の色味で視覚的に理解してもらう意図があるそうです。鳥の大きく描かれた古めかしい紙ラベルを廃止し、ボトル表面に浮き出たターキーとシンプルな小型のラベルにすることによって、モダンで都会的でスタイリッシュなイメージへと刷新する狙いなのでしょう。特筆すべきは付属のギフト・ボックスです。外側はバレルの木目が施されたインディゴ色のしっとりした手触りの厚紙で、蓋の内側にはアリゲーター・チャーを施されたバレルの内部を模したパターンがプリントされ、ボトルはこれまたインディゴ色のヴェルヴェットのようなクッションに収められています。マットな質感と落ち着いた色合いは高級感溢れるものとなっており、知人へのプレゼントにも自らの享楽にも適した仕上がり。蓋の裏面にはジミー・ラッセルからのメッセージもあります。
我が息子エディと私は本物のケンタッキー・バーボンを蒸溜することに人生を捧げて来ました。それは私たちの血管を流れるものだと言えるでしょう。
私たちは100年以上続く伝統と工程に忠実に、初まりの日から正しい方法で物事を進めて来ました。なぜなら良いものには時間が掛る、この12年物のバーボンも例外ではありません。
このバーボンは、長く熟成させてより個性を増したところが、私に似ていると言われます。汎ゆるボトルに物語があると思いたい。なだらかな丘陵地帯、荒々しい荒野、力強い色彩などと共に、ケンタッキーのスピリットを感じて下さい。可能な限り最高レヴェルのチャーで熟成されたバーボンからのみ得られるリッチで芳醇なフレイヴァーを味わって下さい。
さあ、目を瞑って。先ずはバーボンの香りを嗅ぎ、それからフレイヴァーを口の中で転がして。それがこの12年物のワイルドターキー・ケンタッキー・バーボンの真の個性を味わう本当の方法なのです。
ジミー・ラッセル
これが本当にジミーの言葉なのかコピーライターの仕事なのか判りませんが、我々の魂に訴えてくる質の高いマーケティングの言葉であるのは確かです。では、この待ち望まれたバーボンをさっそく味わってみるとしましょう。
と、その前に少しだけ基本情報を。マッシュビルは75%コーン、13%ライ、12%モルテッドバーリー。バレル・エントリー・プルーフは115。熟成年数を考慮すると、2011年に新しい蒸溜施設へと転換する以前の原酒を使用していると思われます。そして、12年101はシングルバレルではなく、そのエイジ・ステイトメントも最低熟成年数なので、12年よりも古いバーボンがブレンドされている可能性はあるかも知れません。また、発売当初の13年ディスティラーズ・リザーヴのようには、どのウェアハウスのどこら辺に置かれていたバレルかの記載もありません。従ってタイロンかキャンプ・ネルソンどちらの熟成庫かも不明です。
WILD TURKEY AGED 12 YEARS 101 Proof
2021年ボトリング。ボトルコードはLL/JL020936(推定2021年12月2日)。赤みを帯びた濃いブラウン。強烈な焦げ樽香、セメダイン、ココアウエハース、チェリーコーク、ヴァニラ、キャラメル、湿った木材、ミント、クローヴ、杏、チョコレート、ハニーローストピーナッツ、杉。アロマは香ばしく甘くスパイシー。滑らかでややとろみのある口当り。パレートはややドライで、ブラッドオレンジとグレインが感じ易く、ドクターペッパーぽい風味も。余韻は長めながらハービーなメディシナル・ノートとスモークが漂う。
Rating:88/100
Thought:開封直後に一口飲んだ時は、なにこれ薬? 渋いし、不味っ、と思いました。寧ろロウワー・プルーフの13年の方が水のお陰でフルーティさが引き出されたり樽の渋みが軽減していて良かったのかも知れないとまで考えました。ところが、妙な薬っぽさはすぐに消え味わい易くなり、徐々に渋みも落ち着いて美味しくなって行きました。そうなってみると、甘い香り、ダークなフルーツ感と複雑なスパイシネス、強靭なウッディネスと古びたファンキネスなどが渾然一体となった長熟バーボンの醍醐味を味わえます。
試しに今回の新しい12年と、とっておいた12の文字が青色の旧ワイルドターキー(即ち最も現行に近い物)をサイド・バイ・サイドで飲み較べてみると、旧の方がアルコールの刺激が少なく、やや味が濃いように感じました。これは開封からの経年でしょう。そうしたアルコールの力強いフレッシュ感を除くと、フレイヴァーの方向性は概ね同じに思いました。両者はかなり似ています。強いて言うと、青12年の方が枯れたニュアンスがやや強く、新12年の方がグレイン感が強めですかね。
地域限定販売となるこの12年101をなんとか手に入れた海外のバーボン・レヴュワーの評価は頗る良く、私のレーティングに換算すると大体92〜95点くらいを付けているイメージなのですが、率直に言うと私としては大好きなワイルドターキーではありません。その理由は、マスターズキープ・シリーズの長熟物やファザー&サン等に共通の「何か」のせいです。その何かとは、おそらくワイルドターキーの大家であるデイヴィッド・ジェニングス氏がこの12年101のテイスティング・ノートで「強烈なメディシナル・チェリー」と記述したものだと思われます。彼の仔細なテイスティング・ノートを見ると明らかに同じ物を飲んでいると感じる(表現は雲泥の差だとしても…)ので間違いないかと。この風味、私はバーボンに欲してないんですよね。
チェリーついでに言うと、これは喩えですが、(青12年よりもっと前の)大昔のターキー12年が「チェリー」そのものに近く感じるとしたら、近年の長熟ターキーは「チェリーコーク」と感じます。つまり大昔の物も近年の物もどちらも同じチェリー感がありながらも、どことなく違う風味で、昔の方が美味しかったように感じるのです。勿論、大昔の12年のようなプロファイルがどこのメーカーであれ現代のバーボンにないのは当然の話であり、較べる脳でいることが駄目なのかも知れません。それに、味の違いを分かる大人のように書いておいて、ブラインドで飲んだら全くトンチンカンな答えを言う可能性も大いにあります(笑)。
そうそう、もう一つ苦手な点を挙げるとすれば、オレンジの存在感です。バーボンの長熟物でオレンジっぽい柑橘風味が現れることが多いと思うのですが、私はオレンジよりアップルやグレープに喩えられる風味が現れる方が好きなのです。どうも近年の長熟ターキーはオレンジが感じ易い気がして…。皆さんはこのワイルドターキー12年について、或いは新旧の違いについてどう思われます? コメントよりどしどし感想をお寄せ下さい。
Value:上で文句と受け取られかねないことを言ってしまってますが、私はワイルドターキー好きであり、この新しい12年を評して日本の或るバーテンダーさんが言っていた「現行としては良いよね」と云う言葉に賛同します。日本では7000円前後で購入出来ます。どうもその他の市場より割安みたいですし、昨今の長熟ウィスキーの高騰から考えると、特にアメリカ人からしたら信じ難いほどのお買い得な価格です。我々は「日本人の特権」を行使しましょう。
コメント
コメント一覧 (15)
ターキー12年遂に来ましたね。私の感想は、フルーツ感満載で甘みもあり美味しいのですが、渋みのせいか味の濃さのせいというのか少々飲み疲れる印象でした。私の安い舌には8年の方がバランスも良く飲みやすいな、と改めて思った次第です。でも箱もカッコいいし気軽に超熟バーボンを味わえるのも幸せでこういう商品が出るのはありがたいことです。
おお、くがさん、お久し振りです!感想コメントありがとうございます!
いや、全く同じです、私も8年の方が全然好みでして、どうも安い舌のようで(笑)。そしてご指摘の通り、豪華な箱や選択肢が増えることは全くもってありがたいですよね。
早速のご返信、また覚えてくださっててありがとうございます。ターキーって限定品以外はホントに良心的な価格設定ですし有り難いブランドですよね!引き続きブログ楽しませて頂いてます!これからもどうぞよろしくお願いいたします!
いや〜、残念ながらなかなかブログにコメントくださる方が少ないので、覚えていない訳がないです(笑)。
私はホントに酒に弱くて殆ど飲めないし、いわゆる筆の進みも遅い(書き途中の記事が100を超えて首が回らない状況w)ので、楽しんで頂いてる方には申し訳ないほどのまったりペースの投稿となっていますが、こちらこそ末永く宜しくお願いしますm(_ _)m
自分も、自分の父も普段からバーボンウイスキーを飲んでいるのですが
このターキーを飲んで、まず出てきたコメントが、記事の最後と同じ
「現行品にしては良いね、悪くない。」でした。うん、偉そうですねw
2人の味わいの感じ方の違い、好みの違いも当然あるので
同時に評した言葉が同じだったので笑ってしまいました。
その印象が強く残っているので、思わずコメントしてしまいました。
追伸、いつもブログを拝見しながら「すごいなぁ」と感動しております。
いつかバーボンウイスキーの在る所で、ご一緒したいですね^ー^
ジーオーさん、コメントありがとうございます!
親子でバーボン派とは素晴らしいですね!血の繋がりを感じてしまうエピソードですねぇw
そして、やはり皆さんそういう感想が多いのでしょうかね。
また気軽にコメント頂けると嬉しいです。
追伸、どこかのバーでお会いしましょう!
私も同じく開封直後はかなり悪いイメージしか無かったです
一月以上経って飲むと良い印象は強くなりました
が、やはり好みじゃない
バーボンにこの味を求めてないんですよね
でも評判は割と良いみたいなのでワイルドターキーはもうこの路線で行くのでしょうね
世田谷さん、いつもコメントありがとうございます!
ほとんど同じ感想のようで、やはり味覚が一緒説ありますね(笑)。
エディの好みなんですかねえ、若くない原酒はだいたいあの味しますよね…。
新しい12年は悪くはないんですがべた褒めするようなレベルでもなく、
「現行としては悪くない」というのは皆さんと共通ですね。
やはり昔の12年と比べると違いますね。
甘さ強めでチャー/トースト控え目、みたいな、
よく言えば洗練されたというか少し新ラベル8年と共通する甘くてすっきりした感じに思いました。
この12年新蒸溜所の原酒が入っているわけではないのですが、
新8年と似た原酒の入った「新旧のハイブリッド」っぽいという感想です。
オレンジっぽさというか柑橘香はライ比率が高いほど強く感じるのですが
最近のターキーも感じますね。
この12年を飲んで良い発見だったのは、比較的
旧ラベル8年や旧101はジューシーで意外にうまいということでした。
逆に危惧しているのは、原酒のほとんどが新蒸溜所製造のものに置き換わると
ワイルドさが失われるのではないかということです。
新しい8年はガラリと変わり、都会の養殖ターキーと例えています…不安の種です。
Toruさん、詳細なコメントありがとうございます!
箱買い!?凄いですね!
DJ氏が絶賛してる故に私もある程度は期待していました。しかし、そもそも私はオールドボトルでも8年派なので、元からそこまで期待していませんでした。それに彼と自分は違う味覚を備えた人間ですしね。
で、飲んでみると悪くない、いや、大昔のと較べなければ良いのかも知れない。むしろ青12年と似た傾向の味わいだったことに、プロファイルを維持する凄みを感じたほどでした。きっと長熟が好きな人には楽しめる味わいだと思います。
確かに、新原酒に切り替わったらどうなるかは不安がありますね。ただ、先日、新ラベル8年のリッター瓶をようやく飲んだのですが、皆さんが言うほど悪く感じなかったというか、ガラリと変わったとは思わなかったんですよね。余韻が従来より良くなくなったとは思ったのですが…。バッチングの差なのでしょうかね…。
12年は、まだ悪くないのでたまの日常用として楽しめています。
新8年はレビューがちらほら出た後に疑って飲んだのもありますが、
正直変化に驚きました。
今までのラベルチェンジとは完全に違い、ボトルチェンジとともに
大きく方針転換したなーという感じを受けました。
ターキーらしさのイメージや好みからかけ離れてしまい…。
元々バッチ差があるのかもしれないので、間をあけて2本目を購入し
飲んでみましたが味の印象にあまり差が無かったです(笑)
2022年はアーリー白に次いで新ターキー8年はネガティブな衝撃でした。
どうもそういう意見を多々聞いていたので私も恐る恐る開封したのですが、あれ?悪くない…というか旧ラベルのそれほどでもないやつより旨いぞ?となりまして…。なんなんですかね、この違いは(笑)。もう少し研究が必要かも知れませんね。
文中にオレンジよりもアップルやグレープに喩えられる風味がお好きとあり、
自分もそういったもののほうが好みなのですが、例えば他にどのような銘柄がありますか?参考にさせていただきたいです。
たきさん、はじめまして、コメントありがとうございます!
これはあくまで個人的な印象ですし、風味にバッチ間の変動もあり、おまけに感じる味覚には個人差もありますので、参考になるかわかりませんが、グレープならウィレットの製品が感じやすいと思っています。アップルは強いて言うとビームのライウイスキーに感じ易いような気がしてます。