カテゴリ: ケンタッキーバーボン

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オールド・バーズタウンはウィレット蒸留所の代表的な銘柄。このブランドがいつ誕生したのか明確ではありませんが、ウィレットの公式ホームページの年表によれば1940年代とされ、1935年に蒸留所を開設してからの最初のブランドであろうと見られます。海外の情報では、その名の由来はバーボン生産の一大拠点でありウィレット蒸留所のある町の名前からではなく、1950年代に活躍したハンディキャップのある競走馬からだとされています。ただし、その馬はレキシントンのカリュメット・ファームで育成され、ネルソン郡バーズタウンにちなんで命名されました。足首と股関節に問題があったため4歳までレースに出走しなかったものの、その後4年間レースに出場し当時のトップ・レヴェルの高齢馬の一頭となったとか。しかし、これだとブランドの発売時期と「バーズタウン」と名付けられた馬の活躍時期とが一致しません。日本での情報では、ブランド名は当時の蒸留所のオウナーであるトンプソン・ウィレットもしくはその父親ランバートが所有していた競走馬の名前から付けられた、とされています。どちらにせよ、こうしたブランド・ストーリーは真偽の程が定かではなく、何となく後から取ってつけたものであるような気がしますね。

さて、ここらでオールド・バーズタウンの初期ボトルにでも言及したいところなのですが、実は画像検索でそのような古いボトルは殆ど見つかりません。広告で見る限り、4年熟成90プルーフとボトルド・イン・ボンドがあり、また86プルーフのヴァージョンもあったようです。あと年代は判りませんが、6年熟成90プルーフや7年熟成BiBの物も見かけました。その他に画像検索で見つかり易い物には70年代後半ボトリングのケンタッキー・ダービーにちなんだデカンターがあります。78年のオートモービル・カー・デカンターもありました。70年代に入りめっきり売上の減少したバーボンにあって、こうした何らかの記念デカンターは比較的売れる商材であったため、他にもオールド・バーズタウンのデカンターはあるのかも知れませんが、そもそもビームやエズラやマコーミックに較べるとウィレットの製品は絶対的に流通量が少ないような印象を受けます。

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(様々なオールドバーズタウン。画像提供K氏)

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我々日本人にとって馴染み深いオールド・バーズタウンと言えば、80年代半ば頃?から輸入されているブラック・ラベルに馬の頭と首のみがゴールドで描かれた物でしょう。ブラザー・インターナショナルが輸入した物に付いていたカード(上画像参照)を読む限り、ブラザーが正規輸入代理店となって初めて日本にオールド・バーズタウンを広めたのだと思われます。ジャパン・エクスポートのブラック・ラベルには6年熟成86プルーフと12年熟成86プルーフがありました。その後、後述する2016年まではブラック・ラベルのデザインがスタンダードなオールド・バーズタウンになったようで、輸出国の違いによりNAS(もしくは4年熟成)86プルーフと90プルーフがあります。見た目が豪華なゴールド・ラベルには10年熟成80プルーフとNAS80プルーフがありました。使われる色が豪華だと中身のスペックもより上位なのが通例なのに、ゴールドの方がブラックより格下という珍しいパターンですね。寧ろスタンダードなブラックより上位の物にはエステート・ボトルドというのがあり、それには初期の頃と同じ「オールド・レッド・ホース」が描かれたラベルと、丸瓶や角瓶と違うずんぐりしたボトルが採用されています。おそらく日本向けの15年熟成101プルーフ、10年熟成101プルーフ、そしてもう少し後年のNAS101プルーフがありました。

ウィレット蒸留所は1980年代初頭、訳あってバーボンの生産を停止し、同社は80年代半ばにケンタッキー・バーボン・ディスティラーズ(KBD)として再スタート。その当初は独自の蒸留物でオールド・バーズタウンのブランドをリリースするのに十分なエイジング・バーボンのストックがあったと思われますが、在庫が枯渇する前に余所の蒸留所からバーボンを調達するようになりました。KBDのバーボンの大部分はヘヴンヒルから来ていると見られ、90年代以降のオールド・バーズタウンは概ねヘヴンヒル原酒で構成されていたと考えられています。トンプソン・ウィレットの娘婿でKBDの社長エヴァン・クルスヴィーンは、蒸留所を再開する夢を持ってオールド・バーズタウンやジョニー・ドラムといったブランドを存続させ、ノアーズ・ミルやローワンズ・クリーク等のスモールバッチ・ブティック・バーボンを相次いで発売しました。こうした自社ブランドのの販売、他社のためのボトリングやブローカーとしての活動が実り、2012年、遂にエヴァンとその家族の長年の夢は達成され、蒸留所は再び蒸留を開始します。そして熟成の時を経た2016年、ようやく自家蒸留による「新しい」オールド・バーズタウン90プルーフとボトルド・イン・ボンドがリリースされました。その両者のラベルはトンプソン・ウィレットがプレジデントだった時代のオールド・バーズタウンを再現したものです。
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どちらもウィレット・ファミリー・エステートのボトルほどエレガントではない古典的なバーボンらしいボトルに詰められています。スタンダードな90プルーフのラベルのフロントには馬がいません。代わりに紋章が描かれたシンプルなもの。クリームとブラウンの色合わせと相俟ってカッコいいですよね。一方のボトルド・イン・ボンドのラベルは、これぞオールド・バーズタウンという邸宅の前に佇む牧歌的な馬が描かれたもの。当初はキャップの色がゴールドでしたが、2018年後半あたりにブラックに変更されたようです。
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(画像提供K氏)
ちなみにこちらのBiB、初めは蒸留所のギフトショップでのみ売られ、その後ケンタッキー州だけでリリースされるようになりました。もしかすると現在ではもう少し広い範囲に流通しているのかもですが、私には詳細は分かりません。それはともかく、今回、現行の新しいオールド・バーズタウン90プルーフのレヴューと一緒に、日本では一般流通していない希少なBiBを飲めることになったのはバーボン仲間のK氏よりサンプルを頂いたお陰です。画像提供の件も含め、改めて感謝致します。ありがとうございました!
では、そろそろバーボンを注ぐ時間です。

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OLD BARDSTOWN 90 Proof
推定ボトリング年不明、購入は2019年。プロポリス配合マヌカハニーのど飴、熟したプラム、コーン、グレープジュース、食パン、干しブドウ、干し草。円やかな口当たりながら若いアルコール刺激もある。味わいはグレープキャンディと穀物を感じ易い。余韻はミディアム・ショートで、最後にレモンジンジャーのような苦味が残るのは悪くない。
Rating:86.5/100

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OLD BARDSTOWN Bottled-in-Bond 100 Proof
推定ボトリング年不明。フロランタン、焦げ樽、蜂蜜、熟したプラム、グレイン、塩、フローラル。若干ウォータリーな口当たり。余韻はあっさりめで度数から期待するほど長くない。キャラメル系の香りはこちらの方が強いものの、フルーティさはスタンダードの方が感じ易かった。また、バレルプルーフでない50度のバーボンでここまで塩気を感じたことはない。
Rating:86.5/100

Thought:どちらも、同社の上位銘柄でありマッシュビル違いとなるケンタッキー・ヴィンテージやピュア・ケンタッキーXOと比べると、共通項もありつつグレイン・ノートが強く出ている印象。スタンダードとボトルド・イン・ボンドの違いは後者が単に濃くなっただけだろうと事前予想していたのですが、思ったより異なるフレイヴァーを感じました。ボトリング・プルーフが上がったことで何かしらのフレイヴァーが感じ易くなったと言うよりは、バッチングに由来する違いのような気がします。或いは熟成年数に少々差があるのでしょうか? 海外のレヴュワーで、プルーフの違いを除くと両者の違いは、通常のオールド・バーズタウンには4年に達していない幾つかのバレルがブレンドされてるのではないか(BiBは法律上確実に4年以上)、という意見を述べている人を見かけました。まあ、実際のところはよく判らないのでそれは措いて(追記あり)、現在のウィレット蒸留所は6種類のマッシュビルでウィスキーを造り、それぞれのレシピによってバレル・エントリー・プルーフも変えています。以下に纏めておきましたので参照下さい。

①オリジナル・バーボン・レシピ
72%コーン / 13%ライ / 15%モルテッドバーリー / 125バレルエントリープルーフ

②ハイ・コーン・バーボン・レシピ
79%コーン / 7%ライ / 14%モルテッドバーリー / 103バレルエントリープルーフ

③ハイ・ライ・バーボン・レシピ
52%コーン / 38%ライ / 10%モルテッドバーリー / 125バレルエントリープルーフ

④ウィーテッド・バーボン・レシピ
65%コーン / 20%ウィート / 15%モルテッドバーリー / 115バレルエントリープルーフ

⑤(ハイ・ライ)ライ・ウィスキー・レシピ
74%ライ / 11%コーン / 15%モルテッドバーリー / 110バレルエントリープルーフ

⑥(ロウ・ライ)ライ・ウィスキー・レシピ
51%ライ / 34%コーン / 15%モルテッドバーリー / 110バレルエントリープルーフ

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そして、オールド・バーズタウンのマッシュビルは海外で普及している情報では①とされています。バーボンをメインで扱うどのウェブサイトを閲覧してもそう書かれています。しかし、ウィレット蒸留所と縁の深いバーGのマスターによるとオールド・バーズタウンのマッシュビルは②のハイ・コーン・レシピと断言されていました。ビーム社で言うところのジムビーム・ホワイトに当る存在、つまり当該蒸留所のエントリー・クラスのバーボンであり代表的銘柄となるオールド・バーズタウンに、バーボンに於いてかなり一般的な穀物配合率の①のレシピを用いていても不思議ではありません。ただし、私が飲んだ感想だと②のレシピという印象を受けました。ウィレットの自社蒸留原酒は、他のケンタッキーの大手蒸留所のバーボンに較べるとアロマにライウィスキーぽいフルーティさが常に感じられるのですが、ケンタッキー・ヴィンテージやピュア・ケンタッキーXOと比較すると、オールド・バーズタウンはよりコーン率が高そうな味わいに思ったのです。
ところで、ウィレットのマッシュビルで興味深いのは、モルテッドバーリーの割合が一般的なバーボンよりも高いことです(だいたいのバーボンは5〜12%が殆ど)。①や②のレシピなどはモルテッドバーリーがライよりも大きな成分であるため、糖化のための酵素の役割としてだけでなくフレイヴァー要素を担わせているように思われます。おそらくモルトの含有量が増えると、一般的なバーボン・フレイヴァーから半歩外れるように感じる人もいるのではないでしょうか。まあ、実際にはモルテッドバーリーの配合率より酵母の違いやポット・スティルでのディスティレーション、或いは②に関してはバレル・エントリー・プルーフの低さの方がフレイヴァーにとって重要なのかも知れませんけれども。新しいオールド・バーズタウンを飲んだことのある皆さんはそのフレイヴァーについてどう思われましたか? どしどしコメントよりご感想をお寄せ下さい。

Value:ウィレットは長い歴史を持つ蒸留所ですが、規模や製造工程の点から言うと新しいクラフト蒸留所に近しいでしょう。まるで工場のような大手蒸留所と比べて生産規模の小さいクラフト蒸留所の製品はどうしてもお値段が高くなります。4年未満熟成のクラフト・バーボンで40ドルを超えることは珍しくありません。それなのに、ウィレットのプレミアムな一部の製品を除くレギュラー製品は、自身の新しい蒸留物であるにも拘らず、従来品とさほど変わらない値段が維持されています。オールド・バーズタウン90プルーフはアメリカでは17〜25ドル程度。日本での小売価格はだいたい2500〜3000円程度です。スモールバッチ・バーボンであるケンタッキー・ヴィンテージやピュア・ケンタッキーXOやポットスティル・バーボン、また同じブランドのオールド・バーズタウン・エステート・ボトルド等と較べると、やや「若さ」を感じる味わいではありますが、それらより安い2000円代で買えるこのスタンダードは完全にオススメ。なぜなら既に十分美味しいのですから。
90年代の調達されたバーボンから造られたオールド・バーズタウンも勿論悪くはありませんでした。しかし、新ウィレット原酒はソースド・バーボンとフレイヴァー・プロファイルが異なるだけでなく、はっきり言ってレヴェルが違うと個人的には思っています。初めて新ウィレット原酒を味わった時は、初めてMGP95%ライを飲んだ時と同じくらい衝撃を受けました。昔のオールド・バーズタウンにピンと来なかった方にも、是非とも再度試してもらいたいところです。


追記:現行オールド・バーズタウンの三つはそれぞれ、90プルーフのスタンダードは4〜5年熟成、ボトルド・イン・ボンドは5年熟成、エステート・ボトルドは6年熟成との情報が入りました。またオールド・バーズタウンにスモールバッチ表記は無いものの、おそらくどれも21〜24樽でのバッチングのようです。と言うか、ウィレットはスモールバッチ専門なので、他の製品も今現在はそれ位のバッチ・サイズなのでしょう。

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(画素提供Bar FIVE様)

こちらは大宮Bar FIVEの会員限定ウイスキークラブにて提供された一つで、ハーフショットでの試飲。当方のリクエストに応えて頂いたかたちとなります。マスターの心意気に感謝しかありません。ありがとうございました!

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Maker's Mark Old Style Sour Mash 90 Proof
推定78年ボトリング。酸のあるヴァニラ香、バタークッキー、薄いキャメル、オレンジ、オールドファンク、薬草、ブラックコーヒー、キンモクセイ。如何にもオールドバーボンらしい香り。口当たりは水っぽい。味わいは香りほど甘くなく、ややスパイシーかつビター。余韻は基本的にはミディアム・ロングだが、後々まで穏やかなスパイスとほろ苦さが鼻腔に残る。アロマがハイライト。

60年代後半や70年代前半のメーカーズマークをブラインド・テイスティングでその年代のスティッツェル=ウェラーと判別するのは難しいだろう、と言う人もいます。で、今回のボトルは推定70年代後半の物。それなりに期待が高まります。私に判別出来るかどうかは偖て措き、個人的な印象としてはS-Wほどのアロマや油性の口当たりは感じられず、味わいも少しフラットのような…。一応、現行のメーカーズマークともサイド・バイ・サイドで飲み較べて見ました。ベースとなるもののムードはかなり似つつも、オールドの方が香りの強さやスパイスの複雑さがあり、アルコールの尖りも感じにくいのは確か。ですが、原材料や樽材や熟成の違い以前にオールド・ボトル・エフェクトが掛かり過ぎていて、較べること自体に意味がないようにも感じました。皆さんは古いメーカーズやオールドボトルに対しどのような意見を持つでしょう? どしどしコメントお寄せ下さい。
Rating:84/100

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「バレル・バーボン」はバレル・クラフト・スピリッツ(BCS)が連続番号のバッチで定期的にリリースするバーボン・ラインの製品です。ここで言うバレルは「BARRELL」と表記し、樽の「Barrel」より一個「L」が多いのに注意して下さい。2013年にケンタッキー州ルイヴィルで設立されたBCSは、独自のエイジド・ウィスキーやラムのインディペンデント・ブレンダー兼ボトラーであり、その卓越したブレンド技術で知られています。彼らの目標は様々な蒸留方法や熟成環境にあった樽を探求してセレクト及びブレンドし、カスク・ストレングスでのボトリングで製品化すること。全てのバッチはそれぞれフレイヴァー・プロファイルが異なるよう意図され、どれもが限定リリースとして生産されます。BCSは高品質の樽を豊富にストックしているため、素材のニュアンスを最大限に引き出した特別なブレンドを作ることが出来、自由なアプローチでのブレンディングと各ウィスキーをカスク・ストレングスで提供する強い拘りこそが製品全体の基盤となっているのです。彼らの製品は現在全米46州で販売され、ウィスキー誌での評判もよく、あのフレッド・ミニックによって2018年のベスト・アメリカンウィスキーにも選ばれた他、数々のコンペティションでの受賞歴もあります。

バレル・クラフト・スピリッツの創業者ジョー・ベアトリスは、そのキャリアを常に新しいアイディアに基づいて築いて来ました。元マーケティングとテクノロジーの起業家でニューヨーカーであったジョーは、1990年代に最初の会社ブルー・ディンゴ・ディジタルを設立し、企業がインターネットを使った開設やブランド化や自らのプロダクトを成長させる支援をしていました。BCSを立ち上げるまで創業者の経歴に「ウィスキー」の文字はなかったのです。それでも「私はいつもウィスキーが大好きだったし、ホーム・ブリュワーだったんだ」と彼は言います。ジョーはマーケティングとテクノロジーの業界で20年を過ごした後、或る時、初めて樽から直接ウィスキーを味わうという経験をすると、真のスピリッツの魔法を見ました。それは変革の経験となりました。そうして2013年、彼はバーボンの中心地とも言えるケンタッキー州ルイヴィルでバレル・クラフト・スピリッツを創業します。ジョーは素晴らしい味覚を持つ熟練のウィスキー愛好家でしたが、なにぶんブラウン・スピリッツの経験値はありません。彼は自分がウィスキー・ビジネスについてあまり知らないことを知っていました。しかし、自分の職歴から「知っていたことを応用して、製品のポジショニングやマーケティングの方法、独自のフレームワークを作ることが出来た」とも言います。
ジョーは蒸留所を建てるのではなく別の道を歩みました。同社は自分達のジュースを蒸留する代わりに、定評ある生産者から優れたバーボンやライやラムの樽を調達してブレンドし、それを可能な限り透明性の高い方法で販売したのです。彼らの会社には、怪しげな曽祖父の秘密のレシピや違法な密造酒の歴史もありません。そのアプローチはアメリカでは比較的ユニークでしたが、世界を見るとそうではなく、スコットランドの老舗インディペンデント・ボトラーはジョーにとって大きなインスピレーションでした。

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ジョーはBCSの製造プロセスの全てのステップに深く関わり、チーフ・ウィスキー・サイエンティストの肩書をもつトリップ・スティムソンと共に、米国だけでなく世界中の65の異なるサプライヤーから調達した優れたスピリッツを選び、新しい製品を作り上げています。そのため、あまり馴染みのない場所からも樽は供給され、例としてはバレル・ライ・バッチ003ではアメリカのインディアナ州とテネシー州、カナダ、ポーランドという3ヶ国のライウィスキーのブレンドだったりします。また、ウィスキー・カテゴリーの製品では複数の珍しいフィニッシュ(後熟)を施したりします。同社の最も人気のある「ダヴテイル」などは、厳密にはウィスキーと認められません。ラベル表記を取り仕切るTTBは、ダヴテイルを特定のクラス・タイプのウィスキーに完全には適合しないと判断したのです。そこでラベルには「バレル・ダヴテイル」と銘打たれ、その下に小さく「ウィスキー・フィニッシュト・イン・ラム、ポート、アンド・ダン・ヴィンヤーズ・カベルネ・バレルズ」と長ったらしく書かれています。他にも15年以上熟成されたストレート・バーボン・ウィスキーの特別ブレンドであるウルトラ・プレミアムな「バレル・クラフト・スピリッツ・ライン」やインフィニティ・ボトルから着想を得た「インフィニット・バレル・プロジェクト」や「プライヴェート・リリース」もあり、BCSはとにかく注目を集め続けています。ちなみに全てのブレンドはルイヴィルの古いデータ・ファシリティで行われ、かつてのサーヴァー・ルームがボトリングに使用されているため、温度や湿度に厳格な管理が可能なのだとか。

先述のマスターブレンダーでもあるトリップ・スティムソンはテネシー州チャタヌーガ出身で、2004年にテネシー工科大学で生化学と分子生物学の学位を取得した後、ブラウン=フォーマン社の研究開発科学者として採用されました。彼はそこで経験を積み9年間働いた後、自分のコンサルティング会社を設立し、新しい蒸留所の設計や建設、効率的な運営に必要な技術的専門知識を提供していました。ケンタッキー・アーティザン蒸留所の設計と建設を手伝い、後にマスターディスティラーとして雇用され、そこでジョーと出会います。そして2017年1月にBCSに入社し、製品開発とオペレーション監督の責務を担っています。その他のスタッフでは、2016年5月にナショナル・ディレクターとして入社したウィル・シュラギスや、2019年にBCSに参加したシングルバレル・プログラム・マネジャー&アシスタント・ブレンダーのニック・クリスチャンセンなども活躍。

さて、今回私が飲んだのはバレル・バーボンのバッチ008。上に述べたようにBCSのリリースは非常に透明なので、サプライヤーへの守秘義務を除いて中身のジュースに関してはかなり明らかです。バッチ008のスペックは同社のウェブサイトに拠れば、ストレート・バーボン規格、マッシュビルは70%コーン / 25%ライ / 5%モルテッドバーリー、テネシー州で蒸留されアメリカン・ホワイト・オークの樽で9.5年間熟成、エイジングはテネシー州とケンタッキー州、ケンタッキー州にてクラフトされ132.84プルーフのカスク・ストレングスでボトリング、ノンチルフィルタードです。リリースは2016年7月、MSRPは90ドルでした。マッシュビルからするとジャックダニエル蒸留所でもジョージディッケル蒸留所でもないと思われますが、一応蒸留所は非公開となっています。海外のレヴュワーでプリチャーズ蒸留所ではないか?と言っている方がいましたが証拠はありません。
このバッチは今のところバレル・バーボンがこれまでにリリースした中で最も高いプルーフです。最終的なプルーフはヴァットに投棄された全部の樽の平均ですから、他のバッチのプルーフと比較して平均値が高いこのバッチには、ハズマット(140プルーフ)の樽があったのではないかと推測するマニアもいます。ところでバッチ008にはバッチ08Bというセカンド・リリースがあり、そちらは半年長く熟成された10年熟成でボトリング・プルーフが128.3に下がっています。同一番号が割り振られているということは、同一の樽に由来したバッチなのでしょうけれど、僅か半年の熟成でこれほどプルーフダウンとは…。まあ、それは措いて最後に飲んだ感想を少々。

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BARRELL BOURBON BATCH 008 132.8 Proof
BOTTLE# 2076
AGE : 9yrs
ハイプルーフゆえの強いアルコールも感じますが、フルーティーな香りをコアにヴァニラや焦がしたオークが広がるアロマ。味わいはかなりフルーティな印象で、ドライフルーツよりはフルーツキャンディもしくはトロピカルフルーツ。ここら辺はマッシュビルのライ麦が高い影響でしょうか。個人的に好きな傾向のバーボンです。本当はエライジャ・クレイグ・バレルプルーフやスタッグJr.のようなヘヴィー級ハイ・プルーファーと飲み比べたかったのですが、お酒に弱い私には断念せざるを得ませんでした。
Rating:87.5/100

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Branton Distilling Company KENTUCKY STRAIGHT  BOURBON WHISKEY 93 Proof
Dumped on 5/28/87
Barrel No. 639
Warehouse H on Rick No. 30
今回もバー飲み投稿。この度お邪魔したフストカーレンさんはブラントンズの年代別の取り揃えが多いのを知っていたので、87年ボトリングの物をリクエストしました。マスターが87年をお気に入りと聞いていたのです。その理由はここでは書きませんので気になる方は店に伺った際、直接訊いてみて下さい。開封済みの87年は少し前に飲み干されたそうで、新たなストックを開封して頂きました。
開栓直後のせいか、始めはアロマが立ちませんでしたけど、時間をおくと徐々に開いてきました。焦樽やキャラメルと共に湿った木材調のオールド・ファンクもあります。きっと、もう少し時間をかけると風味は濃密になるのではないかという予想。今後に期待ですね。ブラントンズは比較的液面が低下しやすいバーボンというかコルク栓という印象がありますが、このボトルもそれなりに低下していました。写真のボトルの液面はハーフショットを注いだのみです。けれど特に劣化はなく感じました。
そもそもブラントンズはシングルバレルなので味の一貫性は問われないし、オールドボトルゆえのコンディションの差もあるだろうし、なにより私自身それほどブラントンズの経験値がある訳でもないのですが、基本的に90年代の物より80年代の物の方がオーキーな傾向にあるような気がします。熟成年数が長そうな深みのある味わいと言うか…。ブラントンズのマニアの方はどう思われるでしょう? コメントよりご意見どしどしお寄せ下さい。
Rating:87/100

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ダコタ・マイクロ・バーボンはアライド・ロマーのブランドで、「アメリカン・カウボーイ」、「コック・オブ・ザ・ウォーク」、「プリザヴェーション」、「ピュア・アンティーク」、「レア・パーフェクション」、「ワッティ・ブーン」等とだいたい同じくらいの時期の2000年代半ば(2005年?)に発売されたと思われます。このバーボンについての情報は余りにも少なく、名前のダコタがアメリカの州から取られたのか、その由来となったインディアンのダコタ族(スー族の一部)から取られたのか定かではありません。要するにアメリカっぽさを喚起するブランディングなのは間違いないでしょうが、まさか上下に分断されたラベルがそれぞれノース・ダコタ州とサウス・ダコタ州を表しているなんてこともあるのでしょうか? ご存知の方はコメントよりお知らせ下さい。ラベルのデザインはヴェリー・オールド・セントニックと同じ会社がやっています。昔、そのデザイン会社のホームページで見たのですが、何という会社名か忘れてしまいました。すいません…。

ラベルには「純粋な穀物とケンタッキーのライムストーン・ウォーターを使用してポット・スティルで」云々と書かれていますが、ここで言うポット・スティルはアメリカの法律で規制された用語ではないマーケティングの言葉であって、旧ミクターズがポット・スティルをフィーチャーしていたのと同じ意味です。スコッチ・モルトのような意味での単式蒸留のことではないので注意して下さい。近年の本当のクラフト蒸留所の勃興以前のアメリカン・ウィスキーは、ほぼコラム・スティルで蒸留後、二度目の蒸留にダブラー(もしくはサンパー)を使い、そのダブラーのことをポット・スティルと呼び習わしていました。同じくアライド・ロマーのブランドで「ビッグ・アルズ」というバーボンがあり、そのラベルにも「ポット・スティルド」と大きく謳われていますが、それも同様です。アライド・ロマーのマーケティング手法は「マイクロ」や「スモール・バレル」や「リトル・バレル」のような「小さい」ことを強調し、「ピュア」や「レア」や「ヴェリー」を過剰に使う傾向があります。この「小さな樽」というのも、これまたポット・スティルと同じく近年のクラフト蒸留所の誕生以前に実験的な生産以外で標準より小さい樽を使った蒸留所はなかった筈で、実際にはスタンダード・アメリカン・バレルで間違いないでしょう。有り体に言うと、こうしたマーケティング手法は、法律の抜け穴を上手く利用して旧来品とあまり変わらない製品を新しいクラフト・バーボンかのように見せかける巧妙な仕掛けです。と言っても、私はアライド・ロマーを非難してる訳ではありません。誰もが消費者の心を掴むためのマーケティングは行いますし、バーボンの90%はマーケティングとも言われますからね。寧ろ、そのファンシーなボトルやラベル・デザイン等、女社長マーシィ・パラテラの独創的なブランディング手腕は評価されるべきでしょう。
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さて、ここらで肝心の中身について触れたいところなのですが、こうしたNDP(非蒸留業者)によるソーシング・ウィスキーの出処は、現在のバーボン・ブームの中では比較的明示的な物も増えているものの、これが発売された頃は原酒の調達先をラベルに明示する物は殆どありませんでした。
ダコタが初めてリリースされた時は、ボトルの形状からバッファロートレース蒸留所の製品ではないか?と推測されましたが、当時のサゼラック/バッファロートレースのブランド・マネージャー、ケン・ウェバーはバッファロートレースのものではないと言っていました。当時はまだアライド・ロマーの存在は一般に知られていなかったのです。
個人的には、冒頭に挙げたブランドと同じ流れでボトリングはKBDではないかと思っています。まだバーボンが低需要だった当時のアメリカでは流通していない日本とヨーロッパ向けの製品かな?と。ネット検索では、6年熟成86プルーフ、8年熟成86プルーフ、12年熟成86プルーフの三種が見つかりました。ところで気になるのは裏ラベル記載の所在地がルイヴィルなことですよね。大概のKBDがアライド・ロマーのためにボトリングしたものには「バーズタウン」と記されています。アライド・ロマーの本社はカリフォルニア州バーリンゲイムにあり、ラベルにその所在地が記されたことはありません。そして事務所か何かがルイヴィルにあったという話は聞いたことがなく、また2000年代初頭にルイヴィルに他のボトラーがあったという話も聞いたことがないし、ましてや12年の熟成期間をマイナスした当時にバーボンを造れたクラフト蒸留所もありませんでした。なのにルイヴィル…。これは一体どういうことなのでしょうか?
実はダコタと同時期に発売された「プリザヴェーション・バーボン12年」の裏ラベルにはフランクフォートとあります。それはこのダコタと同じく「disilled」とも「bottled」とも書かれていない単なる所在地の表記です。フランクフォートと言えばバッファロートレース蒸留所がある地であり、ジュリアン・ヴァン・ウィンクル三世のバッファロートレースとの合弁事業オールド・リップ・ヴァン・ウィンクル社の事業地でもあります。ジュリアン三世は初期アライド・ロマーのビジネス・パートナーでした。その縁から久々にジュリアンにボトリングを依頼し、所在地表記がフランクフォートになったというのなら話は分かり易いでしょう。しかし、これは憶測であって何の確証もありません。繰り返しますがラベルにはあくまで「disilled」とも「bottled」とも書かれていないのですから。
ダコタ・マイクロ・バーボンやプリザヴェーション・バーボンを日本語で検索すると出てくる情報では、一説に原酒はバッファロートレースではないかとされています。そこで一つの仮説として、アライド・ロマー製品の所在地表示がコロコロ変わるのが、原酒の調達先を仄めかすヒントになっているのだとしたら…と考えてみました。そうなると、ダコタの発売を2005年として、ヴァリエーション中最長熟成の12年をマイナスすると1993年、この時稼働していたルイヴィルの蒸留所はヘヴンヒルが購入する前のニュー・バーンハイムかアーリタイムズしかないでしょう。個人的には、この仮説が正しいのならニュー・バーンハイムかなという気がしますね。
一方で、裏ラベルの所在地は原酒のヒントでも何でもないというのも考えられます。冒頭に挙げたブランドで言うと、アメリカン・カウボーイやピュア・アンティークは明らかにKBDのボトリングながら、前者は「ネルソン・カウンティ」までしか書かれておらず、後者は「Distilled and Bottled in Kentucky」としか書かれてません。つまり、一律バーズタウンと記載される訳ではなく、表記に法則性や一貫性がないのです。前回投稿した「ラン・フォー・ザ・ローゼズ」もKBDのボトリングと思うのですが、これがもしアライド・ロマーのブランドだとしたら、所在地表記はレキシントンですから、ますます混乱するばかり。そう言えば、過去に投稿した「ドクター・ルイーズ・シュア・ポーション」という謎のバーボンがあるのですが、これもどことなくアライド・ロマーっぽいノリのラベルと言うかブランディングだし、裏ラベルの所在地はルイヴィルで、ダコタと同じですね。誰かここらへんのバーボンの謎をご教示下さい。まさかKBD以外にもっと知られていないボトラーが当時からあったのでしょうか…。みなさんはどう思われます? コメントよりご意見お待ちしております。
では、最後に飲んだ感想を少しばかり。

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Dakota Micro Bourbon 12 Years 86 Proof
特にオーキーでもなく、ちょっとフルーティ、ちょっとハービーといったバランス。すぐ前に飲んでいたラン・フォー・ザ・ローゼズ16年のような過熟感はなく断然バランス良く感じました。あまり自信はないですが、少なくとも旧ヘヴンヒルぽくはない気がします。飲んだことある皆さんはどう思われたでしょうか? コメントどしどしお寄せ下さい。
Rating:84/100

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ラン・フォー・ザ・ローゼズ・サラブレッド・バーボンは、その名とラベルの見た目通りケンタッキーに縁の深い競馬や馬をモチーフにしたバーボンです。

ケンタッキー州はバーボンのみならずサラブレッドが育つ土地としても知られ、ルイヴィルにあるチャーチル・ダウンズ競馬場で行われるケンタッキー・ダービーは夙に有名。1875年に始まったケンタッキー・ダービーはアメリカに於いて最も歴史のあるスポーツ・イヴェントの一つであり、世界大恐慌および二度の世界大戦時も中断されませんでした。競馬の最高峰なのは言うまでもなく、その競走時間から「スポーツの中で最も偉大な2分間」と形容されます。生粋の競馬ファン以外への知名度も非常に高く、華やかな帽子を被り、ミント・ジュレップを飲みながら、観客同士が一緒に「マイ・オールド・ケンタッキー・ホーム」を歌うという伝統は、単なるスポーツ・イヴェントの枠を超え、サザン・カルチャーの祝典として、またアメリカ文化の象徴として発展して来た歴史があります。そして優勝馬には400本以上の赤い薔薇を縫い合わせて作ったレイ(ブランケット)が掛けられることから「Run for the Roses(薔薇のために走れ)」の別称が与えられているのです。この伝統は1932年に勝利馬バーグー・キングに赤い薔薇のレイが贈られたことから始まりしたが、バラがケンタッキー・ダービーと関連付けられたのは1896年にベン・ブラッシュに白とピンクのバラのアレンジメントが贈呈されたことがきっかけだったとか。その後、1904年に赤いバラがケンタッキー・ダービーの公式の生花となります。「ラン・フォー・ザ・ローゼズ」という言葉は、後年、チャーチル・ダウンズの有名な支配人マット・ウィンの死後にプレジデントとなったスポーツ・コラムニストのビル・コラム(Bill Corum)によって1925年に初めてそう表現されました。

ちなみにバーボンとは関係がないですが、1970年代後半から1980年代前半にかけて人気を博したシンガー・ソングライター、ダン・フォーゲルバーグ(1951~2007)の1981年に発表された自身最大のヒット・アルバム『イノセント・エイジ(The Innocent Age)』 に「Run for the Roses」という曲が収録されています。シングルカットもされた代表曲の一つで、どこか郷愁を誘うような曲調と素朴なメロディ、ダンの優しげなヴォーカル、そして人間が馬へと語りかける形式で進む歌詞が肝の美しい曲です。興味があれば是非、聴いてみて下さい。


さて、我々バーボン・ファンにとって肝心な中身に関してなのですが、ラン・フォー・ザ・ローゼズはイマイチ詳細の分からない謎のバーボンです。先ず、ブランドを所有する会社が一切分からない。ただし、ボトリングはKBDであろうと思われます。裏ラベルの会社名はサラブレッド・ディスティリング・カンパニーとなっていますが、これはトレーディング・ネームであり、ジムビームからリリースされるノブ・クリークのラベルにノブ・クリーク・ディスティラリーと書かれるようなもので、架空の社名(所謂DBA)なのは明らか。会社の所在地表記はレキシントンとなっています。
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レキシントンはサラブレッドの聖地なので、このバーボンに相応しい所在地ではありますが、当時そこにバーボンをメインで扱うNDPの会社があったという話は聞いたことがなく、おそらくこのバーボンは何かの企画?で海外向け(日本とヨーロッパ)に作成されたブランドではないかというのが私の推測です。ウェブ検索で見つかるネット記事の投稿日時から推測すると、おそらく2005〜2010年くらいに流通していたと思われます。継続的なリリースだったのか単発のリリースだったのかは判りません。少なくとも生産量はそれほど多くないのは間違いないと思います。ヴァリエーションには8年86プルーフ、12年86プルーフ、16年86プルーフ、16年101プルーフがネット検索で見つかりました。このうち「16年101プルーフ」はラベルのプルーフ表示に訂正のシールが貼られています。ラベル自体は86プルーフのヴァージョンしか作っていないことが窺われるでしょう。この101プルーフ版は日本では見たことがなく、ネットで見かけたのもヨーロッパのウェブサイト、そこから多分ヨーロッパのみの流通かと。
ところで、表ラベルをよく見ると「ストレート」の表記がありません。このストレート表記のないパターンはアライド・ロマーのためにKBDがボトリングするバーボンによく見られました。レジェンズ・オブ・ザ・ワイルド・ウェストやジャズ・クラブやコック・オブ・ザ・ウォークなどです。一説にはこのパターンは複数の蒸留所の原酒をブレンドする製法ではないかとされ、もしかするとラン・フォー・ザ・ローゼズもそうなのかも…と思ったら裏ラベルには「ストレート」とありますね。まあ、中身のジュースに関してはよく分からないってことです。では、最後に飲んだ感想を少し。

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Run for the Roses Thoroughbred Bourbon Aged 16 Years 86 Proof
香りはダークチョコレートやタバコの複雑さがあり悪くないのですが、味わいはウッディで、全体的にビターな印象。特に余韻には長期の樽熟成や長年ボトルに容れられ放置されていたバーボンに出やすいメディシナル・ファンクが過剰に感じられて私の好みではなかったです。頂いたのが残り数杯分の液量の物だったので、多少の酸化はあったかも知れませんが。
Rating:81.5

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ラーセニーはヘヴンヒル蒸留所で造られるウィーテッド・バーボンで、2012年9月に歴史的なオールド・フィッツジェラルドの後継として市場に導入されました。ヘヴンヒルは1999年にオールド・フィッツジェラルド・ブランドを買収して以降、安価なボトムシェルファーとして販売していましたが、プレミアムな製品が現代のバーボン・ブームの人気を支える現状を捉えてブランドの大胆な刷新を図ったのでしょう。2018年には毎年春と秋の2回だけの限定リリースで、50年代に販売されていた豪華なダイヤモンド・デカンターを再現した「オールド・フィッツジェラルド・ボトルド・イン・ボンド」を復活させました。また2020年にはラーセニー・バレルプルーフを導入し、こちらは1月と5月と9月の年3回リリースとなっています。

私はバーボンの味は言うまでもなく、そのラベルやボトルのデザイン、ブランドの物語や蒸留所が背負う歴史なども大好きです。ラーセニーにもそれらがあります。先ず、腰をつまんだフラスク型のボトル形状や、鍵をデザイン・コンセプトにしたパッケージは極めてカッコ良い。今日語られるブランド・ストーリーの多くは必ずしも100%正確であるとは限りませんが、ラーセニー・バーボンのバック・ストーリーは興味をそそられる面白いものです。すぐ上でラーセニーはオールド・フィッツジェラルドの後継だと書きました。そしてラベルにはジョン・E・フィッツジェラルドの名がフィーチャーされています。「ラーセニー」とは「窃盗もしくは窃盗罪」を意味する言葉です。それが「鍵」のデザインやフィッツジェラルド氏とどのような関係にあるのでしょうか?

ラーセニー・バーボンのブランド基盤を形成するのは、故ジュリアン・"パピー"・ヴァン・ウィンクルによって有名になったオールド・フィッツジェラルドの歴史とジョン・E・フィッツジェラルドのやや物議を醸す物語です。
オールド・フィッツジェラルドというブランドは、ウィスコンシン州ミルウォーキーを拠点としたワインとスピリッツの卸売業者であるソロモン・チャールズ・ハーブストによって登録され、ケンタッキー州フランクフォートの近くにある彼の所有するオールド・ジャッジ蒸留所で造られました。ハーブストがブランドを作成した時、彼はそれに合わせて物語を紡ぎました。後年まで残った業界の伝承によると、ジョン・E・フィッツジェラルドは南北戦争が終わった直後にフランクフォートで蒸留所を設立し、1870年から鉄道や蒸気船のプライヴェート・クラブのみに販売する高級なバーボンとしてオールド・フィッツジェラルドを製造した、と。この物語は1880年代から禁酒法までブランドを所有していたハーブストと、禁酒法の間にブランドを購入してスティッツェル=ウェラー蒸留所を代表するバーボンにした「パピー」によって更に進められました。それは全てフィクションであり、ジョン・E・フィッツジェラルドは実在の人物ではあるもののディスティラーではなく、実際には倉庫の鍵​​を使って良質な樽からバーボンを盗み出す財務省のエージェントでした。当時から1980年代初頭まで保税倉庫への出入りは財務担当者が管理しており、税金が支払われ、ウィスキーが政府の基準で製造されていることを保証するためには、そうする方が確実だったのです。このため、地元に割り当てられた「政府の人」は非常に力のある立場となり、ハーブストのような蒸留所の経営者やオウナーはエージェントが時々味見をしても、気づかないか気づいても殆ど何も出来ませんでした。
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ランタンに火を灯すと夜な夜なウェアハウスへと近づき、自分が握る鍵を使ってリックハウスに侵入、最高のバレルを吟味するとウィスキーシーフを使って樽から中身をこっそり抜き取り、悠々とジャグを家へと持ち帰える…。現在のラーセニーのホームページでは、ジョン・フィッツジェラルドのそのような姿が再現映像で流れます。バーボンを瓶詰めする時が来ると、通常では考えられないほど軽い幾つかの樽が発見され、そこには極めて滑らかで良質なバーボンが入っていました。中身を盗まれた樽が殆どの場合模範的であることが判明すると、ハーブストの蒸留所の人々の間でフィッツジェラルドは優れた樽の裁判官であるという評判を得ます。すると彼が鋭敏な鼻と肥えた舌で選び出した特に優れた樽を「フィッツジェラルズ・バレル」と呼ぶのは蒸留所の人々の内輪のジョークとなりました。そしてハーブストがオールド・フィッツジェラルド・ブランドの架空のプロデューサーとしてジョン・E・フィッツジェラルドを採用した時、そのジョークは不滅のものとなったのです。この逸話は、パピーの孫娘であるサリー・ヴァン・ウィンクル・キャンベルと彼女の歴史コンサルタントであるサム・トーマスによって、1999年の著書『But Always Fine Bourbon』で明らかにされました。
今は簡単に纏めましたが、もっと詳しくオールド・フィッツジェラルドの歴史やジョン・E・フィッツジェラルドという謎の人物について知りたい方は、過去投稿のオールドフィッツのプライム・バーボンの時にもう少し込み入った話を紹介していますので参考にして下さい。

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ヘヴンヒルがラーセニーを立ち上げた頃のキャッチフレーズは「悪名高い行為によって有名になった味」でした。なかなか上手い言い回しですよね。では、そんなラーセニーの「味」に関わる部分を見て行きましょう。
ウィーテッド・バーボン(小麦バーボン)は、バーボンに於いて最も一般的なライを含むマッシュビルと違い、フレイヴァー・グレイン(セカンダリー・グレイン)にライの代わりにウィートを用いるマッシュビルで造られたバーボンを指す言葉です。ウィーターとも言ったりします。オールド・フィッツジェラルドやウェラーのような旧スティッツェル=ウェラーからのブランドや、メーカーズマーク、そしてヴァン・ウィンクル等が有名。冬小麦の使用は、ライ麦が供するスパイシーなキックがないため、柔らかで丸く甘いのが特徴とされています。とは言え、ブラインドで味わうと、そのバーボンにセカンダリー・グレインとして小麦を含むかどうかを実際に判別できる人はそういないとも言われています。実際、法律で定められたバーボンのマッシュビルの主成分であるトウモロコシや焦がした新樽は、それ自体でかなり甘いノートを提供するため、ライを含むバーボンであっても甘さを感じることは珍しいことではないからです。ちなみに、ヘヴンヒルの小麦バーボンのレシピは68%コーン、20%ウィート、12%モルテッドバーリー。
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ラベルにはヴェリー・スペシャル・スモールバッチとあります。ラーセニーが発売された頃のセールス・シートには「75樽もしくはそれ以下」と書かれていました。おそらくヘヴンヒルでは100樽以下をヴェリー・スモールバッチ、200樽以下をスモールバッチと呼んでいるように思われます。で、このラーセニー、海外のレヴューを色々読んでみると、バッチングのバレル数が100以下としていることもあれば200以下としていることもあるのです。それらは蒸留所からの情報提供であったり公式ウェブサイトからの引用なので、発売当初は75樽前後だったものが、次第に生産量を増やすにつれバッチングに使用するバレル数も増えたのかも知れません。それが正しい推測だとすると、じゃあヴェリー・スモールバッチじゃなくね?となりかねませんが、業界最大手のジムビームのスモールバッチが凡そ300樽なので、それよりは少ないことを考えればヴェリー・スモールバッチを称しても決して間違いではないかと…。まあ、それはともかく、ラーセニーのバレルは4、5、6階の上層階から選ぶと言います。これに関してはロバストなフレイヴァーのウィスキーを選んでいることが覗えるでしょう。そして熟成年数はNASですが、6〜12年(6~10年とする情報もある)の範囲とされます。多分6年熟成の原酒がメインと思われ、もし熟成年数を表記する場合は「6年」ということになりますけど、もう少し長熟のバレルをブレンドすることで、より熟成したプロファイルのバーボンになるように努めているのだそうです。ただし、ヘヴンヒルの公式ウェブサイトには「当社のマスターディスティラーは、ラーセニーのために、6年熟成のテイスト・プロファイルの、ピークに達した限られた数のバレルをリックハウスの特定のフロアの場所から選んでいます」という記述があり、もしかすると上のバレル数の件と同じように年々長熟バレルの混和率が下っている可能性もある気がします。と言うより、そもそも「75樽以下、6〜12年熟成」のスペック自体がラーセニー販売当初にパーカーとクレイグ・ビームが造り上げた仕様であって、2013年にパーカー・ビームが病気で引退した後は後任のデニー・ポッター(*)がNASの利点を活かしてある程度自由にバレルを選んで初期のラーセニーに近いプロファイルをクリエイトしてるだけの話なのかも知れません。初期物と近年物を飲み較べたことのある方は是非コメント頂けると嬉しいです。
では、そろそろラーセニーを注ぐとしましょう。

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LARCENY 92 PROOF
ボトリング年不明(2015年くらい?)。赤みを帯びたブラウン。香ばしい焦げ樽、バター、シナモン、ダークチェリー、レーズン、ナツメグ、焦がし砂糖、たっぷりベリーのパンケーキ。焦げ樽を中心としてスパイスと少し酸っぱい香り、しばらく置くと激しいピーナッツ・ノート。口当たりはさらりとして喉越しも滑らか。口中でもアロマと同じくシナモ二ーなウッディ・フレイヴァーが。余韻はミディアム・ショートでドライ気味ながら仄かに甘い木の香りとダークなフルーツが少し。
Rating:84/100

Thought:開封から約二分の一に減るまでパッとしないバーボンでした。焦がした樽の風味は強いのにそれだけと言うか。しかし、香りが開いてからは甘い香りも味もありました。特にアロマは良い感じです。ただ、味わいと余韻はやや深みに欠けるのは同じでした。
前回まで開けていた小麦バーボンであり元ネタは同じヘヴンヒルと見られるデイヴィッド・ニコルソン1843(NAS100プルーフ)と比べると全然違う熟成感。ラーセニーの方がより焦がした樽の風味やチェリー感が強く、口当たりが滑らかです。
寧ろ、口当たりや風味はバーンハイム・オリジナル・ウィート・ウィスキーに似てる気がしました。小麦繋がりで、取っておいた物をサイド・バイ・サイドで飲み較べたのですが、ラーセニーの方がオイリーさで上回るし余韻も強くて美味しく感じます。

Value:ラーセニーはアメリカでは25〜30ドルが相場です。この価格は以前のオールド・フィッツジェラルドのプライムやボトルド・イン・ボンドよりも高いのですが、デザイン性やスモールバッチならではのバレル・セレクションを考えれば、市場での価値は妥当でしょう。問題は日本での小売店の販売価格が大体5000円を超えてしまっていることです。これは痛い。本来、似たようなプルーフの小麦バーボンで25〜30ドルならメーカーズマークのスタンダードとウェラー・スペシャル・リザーヴが競合製品。或いはラクスコのレベル・イェールやデイヴィッド・ニコルソン1843も含めていいかも知れません。しかし、ウェラーのラインの人気がアメリカで高まり日本に入ってくる量が減ったこと、またラクスコの製品の生産量がMMやBTと比べて少ないことを考えると、ラーセニーと直接対決できる小麦バーボンは、実質的にはメーカーズマークだけとなります。両者はどちらも似たスペックであり、プルーフィングも熟成年数も近く、アメリカではほぼ同じ価格での販売。なのに日本ではラーセニーはメーカーズマーク・スタンダードの2倍かそれ以上…。まあ、割り切って競合するバーボンとは思わないようにしましょう。良い点を言うと、ラーセニーの方がメーカーズマークよりもバランスがいいとの評価があります。個人的にもメーカーズマークのスタンダードは酸味が強く、人を選ぶバーボンかなという気がしています。その酸味がなく、樽感が強いという意味で、寧ろラーセニーはメーカーズ46に似てると言えなくもない。46なら日本での販売価格もラーセニーと近いですし。そして何よりラーセニーはパッケージが凄くカッコいい。だから私は買いました。案外そんなところで価値が決まるものですよね。


*2013〜2018年までヘヴンヒルのマスターディスティラー兼ヴァイス・プレジデント。現在はメーカーズマークに移籍し、グレッグ・デイヴィスの後任としてジェネラル・マネージャー兼マスターディスティラーに就任しました。フォアローゼズのブレント・エリオットやバッファロー・トレースのハーレン・ウィートリーと同世代。

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ワイルドターキー・マスターズキープ・デケイズはシリーズの第二弾として、ワイルドターキー蒸留所でのエディ・ラッセル自身の勤続35周年を祝ってリリースされました。3人兄弟の末っ子として生まれたエディーことエドワード・フリーマン・ラッセルは、1981年6月5日に同蒸留所でファミリー・ビジネスに参加。当初の肩書は本人曰く「ジェネラル・ヘルパー」でした。草刈りのような雑務や樽の移動から始まって次第に任務を広げ、勤続20年となる頃には樽の熟成とリックハウスの管理責任者となり、2015年には遂に偉大なる父ジミー・ラッセルと並ぶマスターディスティラーに就任したのです。
デケイズ発売前後のワイルドターキーの限定リリースを見ると、父ジミーの勤続60周年を記念した「ダイヤモンド・アニヴァーサリー」を2014年、エディーがマスターディスティラーとして初めの一歩を踏み出した「マスターズキープ17年」を2015年、オーストラリア市場のみでの販売だった「マスターズキープ1894」を2017年、ジミーの過去の作品を再現するかのような「リヴァイヴァル」を2018年とほぼ年次リリースしています。ここから判る通り、デケイズは当初は2016年半ばにリリースされる予定でした。それでこそ35周年に合致しますからね。しかし、理由は不明ながら殆どの市場で2017年2月まで突然リリースが延期されたそう。おそらくボトリング自体は2016年6月頃までになされたと見られます。日本でも延期されたかどうかはよく判りませんでしたが、当時のサントリーの公式プレスニュースでは2016年11月15日発売で、日本国内3480本限定とあります。

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エディの名を冠しているとは言え2015年のマスターズキープ17年は、熟成環境やプルーフに於いてかなり特殊かつ偶発的なバーボンでした(MK17については過去投稿のこちらを参照下さい)。対してデケイズは10年から20年熟成のブレンドなので、エディが意図的にクリエイトしたフレイヴァー・プロファイルのバーボンと言えるでしょう。ブレンドに使用されたバレルは、フォアローゼズ蒸留所の道路を挟んですぐ向かいにある、ワイルドターキーが1976年から所有するマクブレヤー・リックハウスの中央階と上層階から選ばれました。同社の「最も希少かつ最も貴重な樽」の幾つかです。そしてそれらを「17年」よりだいぶ高い104プルーフ、ノンチルフィルタードでボトリング。若いバーボンの活気をバックボーンに、古いバーボンの深みも兼ね備えたバランスが目指されたのかも知れませんね。

ワイルドターキー蒸留所はフレイヴァーフルな味わいを重視し、ボトリング時の加水を最小限に抑える意図から比較的低いバレル・エントリー・プルーフで知られていますが、2000年代にそれを二回ほど変更しました。従来まで107だったのを2004年に110へと上げ、2006年には再度115へと上げています。つまりバレル・エントリーの違いだけに着目すると、
①2004年以前の107プルーフ
②2004年から2006年の110プルーフ
③2006年から現在に至る115プルーフ
と、異なるエントリー・プルーフのバレルがワイルドターキーにはある訳です。デケイズを構成する10〜20年熟成のバレルには、理論上これら三種の全てが含まれていることが可能です。それ故、2012〜2013年のレアブリードを除くと、デケイズは三つのバレル・エントリー・プルーフを使用した唯一のワイルドターキー・バーボンかも知れないと示唆されています。
バレル・エントリー・プルーフに限らず、蒸留所にとって何かしらの変化は珍しいことではありません。それは法律の変更、所有権の変遷、ディスティラーの交代、ブランドの繁栄と凋落、テクノロジーの発展などにより起こり得ます。そして消費者の嗜好もビジネスのあり方も変わり、あらゆるものが時代により変化するのが常。この特別なリリースのワイルドターキーの名称「デケイズ」は年月に関わるワードであり、長期に渡る時代の移り変わりという含みと中身のバーボンの内容を的確に表していると言ってよいでしょう。「Decade」は十年間を意味する言葉です。そこで10〜20年熟成だから複数形の「Decades」と。そして、それだけの歳月にはバレル・エントリー・プルーフに代表される変化があった、と。
ちなみに日本ではこの「Decades」を「ディケイド」と表記するのが一般的。でも実際の発音は「デケイズ」が近いです。正規輸入元だったサントリー自ら「ディケイド」と表記しているので、販売店がそれに倣うのは仕方ないのですが、上の理由によってワイルドターキーが付けた名前なのだから、敬意を払って「s」は省略せずにせめて「ディケイズ」としたほうが良いのでは…。まあ、ここで文句を言ってもしょうがないですけれども。

ところで、デケイズにはバッチ2があるそうです(発売も同じ2017年)。全てのバッチには独自性があり、完全に同じにすることは出来ません。この世に完全同一なバレルが存在しないからです。しかし、蒸留所のマスターブレンダーは、意図的な変更をしない限りバッチに一貫性を齎すのが基本的な仕事です。バッチ1に使用された樽は全てマクブレヤーからでしたが、バッチ2は殆どがマクブレヤーからとされています。つまり、言葉を換えれば少数のバレルは他のウェアハウスから引き出されたということ。エディ・ラッセルは「ストーリー」を一貫させるよりもフレイヴァー・プロファイルを一貫させることを目指した筈です。マーケティング担当者がバーボンの箱やラベルに印刷したストーリーは、常に100%正確であるとは限りません。実際のところ、蒸留技師はマーケティングには余り注意を払わないと言うか関心がないと思います。ディスティラーの職務は物語を書くことではなくウィスキーを造ることですから。バッチ1と2を飲み較べた海外のターキーマニアによると、どちらも同じくらい素晴らしいバーボンであり、バッチ2も紛れもなくデケイズであり、あらゆる点でその名前に忠実とのこと。
では、そろそろ時代を超えたワイルドターキーを注ぐとしましょう。マッシュビルは75%コーン、13%ライ、12%モルテッドバーリーです。

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WILD TURKEY MASTER’S KEEP DECADES 104 Proof
BATCH №:0001
BOTTLE:68703
色はラセット・ブラウン。接着剤、強いアルコール、香ばしい焦げ樽、銅、ビターなカラメルソース、オレンジ、焼きトウモロコシ、ブラウンシュガー、ナツメグ、パイナップル、レザー、輪ゴム。ディープ・チャード・オークが支配的なアロマ。少しとろみのある口当たり。口の中ではグレインとオレンジピールが感じ易く、刺激がビリビリと。味わいはけっこうドライ。余韻は長く、土と煙が現れ、消えゆく最後にふわっと苦味が残る。
Rating:86.5(87.5)/100

Thought:全体的に焦げの苦味が特徴的な印象。10年から20年熟成のブレンドとのことですが、若そうなアルコール感がガツンとありながら、枯れた風味とビタネスが混在するバランス。前回まで開けていたMK17年と較べると、余韻に渋みがないのは好ましく感じました。ですが、MK17年よりもツンとくる刺激臭はかなりありました。そのせいかその他の香りが感じにくく、一、二滴の加水をした方が甘い香りが立ちましたし、味わいにもフルーツを感じ易かったです。そのため上のレーティングは括弧内の点数が加水した場合のものとなっています。もしかして、20数年後に開封して飲んだら微妙な酸化の進行でとんでもなく美味しかったのでしょうかね? そんなポテンシャルを僅かに感じさせる一品でした。ただし、デケイズもまたMK17年と同じくオークのウッディネスが強過ぎて、バーボンの魅力である甘いノートを抑えてしまっているような気はします。

Value:アメリカでの希望小売価格は150ドル。日本でも同じくらいで15000〜17000円が相場。オークションだともう少し安く購入することも出来るかも知れません。本国での味わいの評判はなかなか良いのですが、やはりと言うか少し値段が高いという評価を受けています。自分的には正直言ってデケイズを買うならレアブリードでいいかなと思いました。ただ、確かに長期熟成酒のテイストやクラシック・ワイルドターキーっぽさも少しあるので、そこを求めるなら購入を検討してもよいでしょう。或いは、箱やボトルやキャップは豪華でめちゃくちゃカッコいいので、金銭的に余裕があるのなら贅沢な気分を味わうために購入するのはアリだと思います。

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(画像提供Bar FIVE様)

ジュリアン・ヴァン・ウィンクル三世は様々な原酒を用いて自身のブランドを構築して来ました。その中で最も有名なのはスティッツェル=ウェラー原酒でしたが、ゴードン・ヒューJr.に依頼されてボトリングしたペンシルヴェニア1974原酒もよく知られています。旧ミクターズ(ペンコ)で蒸留されたそのバーボンについては過去にA.H.ハーシュ・リザーヴ16年の投稿で取り上げたのでそちらを参照下さい。

今回紹介するヴァン・ウィンクル・セレクション16年ロットHに入っているバーボンの出所については、実はジュリアン三世からの決定的な証言がありません。そのため海外ではその使われた原酒については可能性の指摘に留まっていますが、表ラベルに「Kentucky」表記がなく更に「Pot Stilled」とあること、ロットの「H」は「Hirsch」の略ではないかと推測されること、裏ラベルの「Kentucky」表記はインポーターのミスであろうこと、そしてハーシュ・リザーヴに同じボトリング・プルーフが存在することから、個人的にはほぼ間違いなくペンシルヴェニア1974原酒だと思います。恐らくこの16年のセレクションは、コニャック・タイプのボトルに入った「HIRSCH RESERVE 16 YEARS OLD 47.8% ABV」やスコッチ・タイプのボトルに入った「A.H. Hirsch RESERVE 16 YEARS OLD 47.8% ABV」のラベル(ブランド)違いではないかと。また、ヴァン・ウィンクル・セレクション・ロットHには17年熟成もありますが、A.H.ハーシュ・リザーヴにも17年があり、どちらも95.6プルーフと共通のボトリング・プルーフとなっています。これではペンシルヴェニア1974原酒でないことを疑うほうが難しいのでは…。まあ、それは措いて、さっそく注ぐとしましょう。

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VAN WINKLE SELECTION 16 Years Old Lot “H” 95.6 Proof
こちらは大宮Bar FIVEの会員限定ウイスキークラブにて提供された一つで、ハーフショットでの試飲。当方のリクエストに応えて頂いたかたちとなります。マスターの心意気に感謝しかありません。ありがとうございました!

推定90年もしくは91年ボトリング(AHハーシュの情報からの判断)。ハーブ、キャラメル、古い木材、オールスパイス、オレンジ・ティー、ミント。アロマは甘い香りとハーブ&スパイスが混在。パレートは果物で言うとオレンジが感じ易い。スムーズな喉越しだが、飲み込んだ直後のパンチはなかなか。余韻は長く、爽やかなハーブ香とメディシナル・ノートが少々。

サイド・バイ・サイドではないので不確かかも知れませんが、以前飲んだA.H.ハーシュ・リザーヴ16年ブルー・ワックスと同様、基本的にハービーな傾向はある気がしました。現行の4〜6年のバーボンが「子供」味だとすると、こちらは「大人」味と言ったところでしょうか。ペンシルヴェニア1974原酒は長期熟成酒にありがちなウッディ・ノートが出過ぎない完璧なバランスのバーボンと評されたりするのですが、私の個人的な意見では長熟の特徴的なタンニンはかなりあると思います。飲んだことのある皆さんはどう思われますか? ご意見ご感想コメントよりどしどしお寄せ下さい。
Rating:88.5/100

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ジムビーム・デヴィルズ・カットは2011年に発売されました。2〜4年程度で廃止されるブランドも多い中で、今でもラインナップに残っているところを見ると人気があるか少なくとも利益率の悪くないバーボンと思われます。現在、日本で入手し易いジムビームの比較的廉価な物にはデヴィルズ・カット以外では、白のスタンダード、黒のエクストラ・エイジド、紺のダブルオーク、緑のライとありますが、この中では上から二番目に小売価格が高い。市場に出回っている殆どのバーボンウィスキーには、消費者の注意を引くためのラベルやギミック、関心を喚起するためのストーリーといったマーケティングの業があります。では、この「悪魔」までをも引き合いに出したブランディングのバーボンは一体どのようなものなのでしょうか?

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ウィスキーについて多少なりとも学んだことのある人は「エンジェルズ・シェア」という言葉を聞いたことがある筈です。これはスピリッツやワインを樽熟成する過程で蒸発によって失われる水分やアルコールに付けられた用語。お洒落な言い回しですよね。ウィスキーが閉じ込められているオーク樽はしっかりと密封されていますが、木材は多孔質のため蒸発が起こります。ウィスキーの熟成過程では毎年数%の液体がバレルから蒸発するのです。数%ならそれほど多くはないように思えますが、熟成期間が長ければ長いほど失われる量は多くなります。20年超の熟成ウィスキーは蒸発により内容物の半分以上が失われる可能性もあり、これが長期熟成酒の価格を押し上げる主な要因。熟成年数が長ければそれだけ美味しくなるとは限りませんが、熟成の過程に蒸発は付き物であり、謂わば蒸発なくしては木材から甘美なフレイヴァーを得れない、少なくとも古典的な製法では。そこで、ウィスキーを美味しくするために年会費を請求する天使への供物であると解釈するのが「エンジェルズ・シェア」という訳です。これは日本語では「天使の分け前」とか「天使の取り分」と翻訳されています。
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(AWZ作。天使はウィスキーがお好き)

ウィスキーを樽で熟成する過程で中身の液体が失われる理由は主に三つあり、一つが上のエンジェルズ・シェアでした。もう一つは味を確認するための定期的な試飲。そして、残るもう一つが樽の木材自体に染み込み吸収される分です。日々の、或いは年間を通しての高い温度と低い温度のサイクルによってウィスキーが樽の木材に押し込まれ、そして再び戻って来ることでそのフレイヴァーは増幅します。木材に入り込んだウィスキーの一部は、そこに残ったまま基本的には戻って来ません。そこでビーム社はこれを「エンジェルズ・シェア」の巧みな言葉遊びとして、天使に捧げたものに対する悪魔に奪われたもの、即ち「デヴィルズ・カット」と名付けました。
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(TP作。あくまでイメージですw)

中身をダンプして空になった樽には、かなりの量のバーボンが木材に染み込んだまま残っています。その量は約2ガロンとも、他説では約7ガロンともする情報がありました。ビームはこれを独自のプロセスを使って抽出すると言います。そのプロセスは完全には公開されていませんが、どうやら空になったバレルに水を入れ、それを高速で撹拌するだけらしい。ジムビームのマスターディスディラー、フレッド・ノーはペイント・シェイカーのように樽を振ると説明しています。また、もしかすると熱(蒸気)も加えているかも知れません。ともかく、そうして抽出した樽材の奥深くに閉じ込められていたタンニンやヴァニラやシャープなウッド・フレイヴァーを多く含むとされる液体を、6年熟成のバーボンとバランスを整えてブレンドし、90プルーフでボトリングしたら「ジムビーム・デヴィルズ・カット」の出来上りです。ちなみに抽出されたウィスキー残滓を含む液体と通常バーボンのブレンド比率については明かされていません。

ところで、スピリットが熟成されている樽に吸収されることをデヴィルズ・カットという用語で呼ぶのを「ジムビーム・デヴィルズ・カット」登場以前に聞いたことがある人は殆どいないでしょう。おそらくこの用語はビーム社によって発明された巧妙なマーケティング用語です。彼らは「独自のプロセス」と言いますが、実際には使用済みの樽からウィスキーを抽出する作業は古くから知られていました。ヒルビリーやムーンシャイナー、或いは嘗ての蒸留所の労働者達は、使用済みのウィスキーやラムのバレルに一定量の水(またはお湯)を注ぎ、その樽を横に置いて数日(または数ヶ月)おきに少しづつ回転させ、俗に「スウィッシュ」と呼ばれる非公式な使用のための酒を造ったと言います。それにはかなりのアルコールが含まれており、一部の人々はスウィッシュを「本物」と同じくらい優れていると考えたとか。ジムビームがしているのは基本的に同じことのように見えます。つまりジムビーム・デヴィルズ・カットは言葉を換えれば、6年熟成のバーボンをスウィッシュでカット(希釈)したバーボンだ、と。
ビーム家の現当主フレッド・ノーにしても、ケンタッキー州バーズタウンで蒸留一家の下に生まれ育ったからには「スウェッティング」として知られる地元の通過儀礼を経験していたと思われます。子供たちは地元の蒸留所から中身が投棄されたばかりの樽に数ガロンの水を入れ、バングホールをしっかり塞ぎ、暑い太陽の下で退屈するまで樽を転がしました。そうすると軽く酔うのに十分なアルコールが得られるのでした。これが製品化のヒントになったのでしょうか。「樽の発汗」は何も飲料用のみとも限りません。パブリカー/コンチネンタルの創始者ハリー・パブリカーは創業当初、フィラデルフィアのあらゆる小規模蒸留所に行き使用済みウィスキー・バレルを手に入れ、スウェッティングの技法を用いてウィスキー残滓を抽出し、工業用アルコールとして販売することで業界に参入しました。

「デヴィルズ・カット」はビームによって商標登録されていますが、一般的にダンプしたばかりの樽に数ガロンの水を入れ軽くリンスして残滓の一部を抽出することは多くのウィスキー蒸留所で行われていると聞きます。バレル・リンシングというプロセスです。他の大手酒類会社であるブラウン=フォーマンは、標準的な53ガロンの樽の1/3から1/2の間まで水を満たし、少なくとも三週間放置することで樽内部の木質繊維からより多くのウイスキーを抽出する独自のリンス・プロセスのパテントを持っているそう。ビームは攪拌を使用しますが、ブラウン=フォーマンは撹拌を使用しません。デヴィルズ・カットの発売より数年前、ジャックダニエルズはそうしたプログラムを開始しました。その手法はただのリンシングよりもアルコール含有量で測定すると約五倍多くのウィスキーを回収できるそうです。
ビームのプロセスがどれほど独創的であるかは偖て措き、ジムビーム・デヴィルズ・カットはバレル・リンシング・テクニックをブランディングに用い、主要製品の一つとして大衆市場へ向けて導入された初めてのバーボンだったと言ってよいでしょう。ビーム傘下にあるメーカーズマークは、供給不足解消のため2013年にそれまでの90プルーフから86プルーフにプルーフィング・ダウンする計画を発表したところ、ファンから猛反発を受けて瞬く間に前言を撤回し、その後、バレル・リンシングを導入することにより供給の問題に対応すると発表しました。これはデヴィルズ・カットの成功から来ているとみて間違いないように思います。この発表の後、新しいオーク樽で熟成されるバーボンとは異なり主に使用済みのバーボン樽で熟成させるスコッチの生産者、またバーボン・バレル熟成を行うクラフト・ビールの製造者やバーボン・バレル・フーズのような周辺産業の一部の関係者は懸念を表明しました。ビームやブラウン=フォーマンが行うようなディープ・バレル・リンシングは、自分達が使う中古樽から木材のフレイヴァーを奪い取ってしまうのではないか、という訳です。この問題がその後どうなったかは寡聞にして知りません。あくまでバーボンそのものではない数ガロンのスウィッシュを増産するに過ぎないことを考えると、全ての生産者がディープ・バレル・リンシングを行うとも思えませんし、2015年以降も増え続けるクラフト蒸留所や熟成倉庫を増設する大手蒸留所の存在もあります。どこかで需要と供給のバランスは上手く取れたのでしょうか? 少なくとも、大手企業にとってはバレルの再販とリンシングのどちらがより収益が大きいかは鍵になったのではないかとは思いますが…。ここら辺の事情に詳しい方はコメントよりご教示頂けると助かります。
ちなみに味わい的には、バレル・リンシングによって抽出されるウィスキーは非常に強いウッド・プロファイルを有し、それをブレンドすると実際よりも熟成年数の高い物に感じられるとされますが、同じような結果を齎す方法にスモール・バレル・エイジングがあります。小さい樽はウィスキーと木材の接触する表面積が増えるため、熟成が早く進むと言うか木材のフレイヴァーを取り込み易くなるのです。伝統を持たない小さなクラフト・ディスティラリーでは多く採用されています。リンシング対スモール・バレルの戦い?も興味深いですね。では、そろそろ悪魔のエキスが入ったバーボンを注ぐとしましょう。

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JIM BEAM DEVIL'S CUT 90 Proof
推定2015年ボトリング。石鹸、フローラル、生木、バターピーナッツ、ヴァニラ、ドライフルーツ入りクッキー、胡椒、煙、サイダー、僅かにプルーン。水っぽい中に少しだけとろみのあるテクスチャー、ピリリと刺激も。口の中ではビーム特有のフルーツ感もあるが、あまり甘くなくスパイシー。余韻はグレイン&スパイス中心でドライながら木炭の風味が尾を引く。液体を飲み込んだ直後がハイライト。
Rating:81/100 

Thought:少々キワモノ的なブランディングが好みではないので今まで敬遠していたデヴィルズ・カットなのですが、今回やっとこさ飲んでみました。悪くないですね。普通のジムビーム・ホワイトやブラックとは少し異なるキャラクターはあるように感じました。事前の予想通り、確かにスパイシネスと木材感が強まっています。開けたてはソーピーなアロマとアルコールの尖りを感じましたが、飲み進めて残量3分の1くらいになる頃にはビームらしいフルーツも顔を出して美味しくなりました。
現行のデヴィルズ・カットはラベルの字体が少し変わり、ボトル形状もその他のジムビームに合わせて変更されました。なので今回私の飲んだのは旧デザインということになります。私は現行を試してないので何とも言えませんが、日本の有名なウィスキーブロガーさんでデヴィルズ・カットの新旧比較を行っている方がいて、その記事には「旧」の方を高く評価する趣旨の発言が見られます。「新」の方が小売価格自体が下がっており、バーボン原酒の熟成年数も下がっているのではないか?と邪推できなくもありません。だって現行(新の方)はブラックと小売価格が殆ど変わらないですから。飲み比べたことのある方はどう思われたでしょうか? どしどしコメントよりご意見お寄せ下さい。

Pairing:敢えてスパイシー系ソース焼きそばに合わせると美味しかったです。私は食前酒にも食中酒にも食後酒にもバーボンを飲みますが、個人的にはデヴィルズ・カットは食後酒ではなく食中酒に適してるように思われました。食後にはより滑らかなバーボンか、もっと甘みのあるハイ・プルーファーが望ましく感じます。

Value:現行のデヴィルズ・カットは概ね1800〜2400円の間くらいが相場のようです。ホワイトが1200〜1500円、ブラックが1800〜2200円、ダブルオークが2500〜3000円なので、随分と狭い価格帯でのブランド展開となっています。上に述べたように、私は現行のデヴィルズ・カットを飲んでいないので、あくまで品質が今回飲んだ物とほぼ同等であると見做しての話になりますが、もしブラックと同じ価格かプラス数百円の違いなら個人的にはデヴィルズ・カットがオススメです。よりハイアー・プルーフですから確実にお得。しかし、バランスを重視するならライトなブラックの方がいいでしょう。おそらくブラックの方が甘さは感じ易いと思います。

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