カテゴリ: ケンタッキーバーボン

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オークウッド・ブランドはラベルから読み取れる情報からすると、ヘヴンヒルが「Longs Drug Stores」のために作成したプライヴェート・ラベルと思われます。
現在のロングス・ドラッグスは特にハワイで有名なドラッグストアで、他にアメリカ西海岸を中心とした州にあるチェーン店です。ハワイ州全体で40以上の店舗があり、ローカルの人々にとってはドラッグストアに行くこと=ロングスに行くことのように親しまれているのだとか。その最初の店は、1938年にロングス・セルフサーヴィス・ドラッグとして、トーマスとジョセフのロング兄弟によってカリフォルニア州オークランドに設立されました。オークランド? まさかオークウッドの名は創業の地オークランドにあやかって掛かってるのでしょうか? まあ、それは措いて、ハワイで初めての店舗は1954年3月29日にホノルルにオープン。1971年までにロングズは54店舗で1億6,900万ドルの売り上げを記録したそうです。そして1977年にアラスカ、1978年にアリゾナとオレゴン、1979年にはネバダへと拡大し、1982年には162店舗となり売上高は遂に10億ドルを超えました(ロングスのその後は省略)。おそらくラベル記載の所在地から察するに、70年代初めから半ば頃に当のオークウッドが発売されたのではないかと思います。
オークウッドに他の種類があるのか判りませんが、これはボトルド・イン・ボンド規格の7年熟成ストレート・バーボン。ボンデッド法ではラベルに蒸留施設を銘記しなくてはならないので、裏ラベルにはヘヴンヒルの旧バーズタウン施設のパーミット・ナンバー(DSP-KY-31)が記載されています。 

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ところで、オークウッドにルーツはあるのか探ってみると、シンシナティのレクティファイヤー及び酒類販売会社メイヤー・ブラザーズ・カンパニーのブランドにオークウッド・ウィスキーというブランドがありました。彼らは1890年頃にレキシントンのサンダーズヴィルにあったコモンウェルス蒸留所(*)を「テナント・リーシー(**)」によりオークウッド蒸留所として事業をしていたようです。また他の情報源では、1893年にメイズヴィルの近くにあったオークウッド蒸留所を購入したともされていました。このブランドをヘヴンヒルが買収したのですかね? それとも全く関係ないのでしょうか? 詳細ご存知の方はコメントよりご教示頂けると助かります。では最後に飲んだ感想を少しばかり。

Oakwood BiB 7 Years Old 100 Proof
今回の投稿も、またもやバー飲みなのですが、実はそこで静かに燃える炎という印象の素晴らしい若きバーボンマニア様と邂逅を果たしまして、これはその方の注文品を一口だけ頂いたものです。Yさん、貴重な体験、また色々な情報をありがとうございました。バーボン繋がりに乾杯!

推定70年代ボトリング。キャラメルやオーク、きな粉やチョコレートのヒント、少々のオールド・ファンクの他に植物っぽいニュアンスを感じました。90年代の平均的なヘヴンヒルにはあまり感じたことのないフレイヴァー。これは美味しいです。
Rating:87.5/100


*ジュリアン・ヴァン・ウィンクル三世が経営していたローレンスバーグにあった同名のコモンウェルス蒸留所とは別。この蒸留所はレキシントン地区RD#12で、1880年にジェイムズ&リチャードのストール兄弟とヘンリー・C・クレイの共同による会社がサンダーズヴィルの古い綿工場を改造してウィスキー蒸留所にしたのが始まりです。工場はレキシントンの北西3マイルの位置にありました。投資資本は60,000ドル。独自のブランド「オウル・クラブ」や「エルクホーン」の他にバルク・ウィスキーを取引しました。「Commonwealth Distilling Company」は、ヘンリー・クレイとパートナーシップを解消した後の1885年頃、リチャード・ストールを社長、アイザック・ストラウスを副社長として設立され、会社の取締役にはチャールズ・ストールやジェイムズ・ストールもいましたが、リチャードが主要株主だったようです。

**蒸留所を数日間リースすることでブローカーがディスティラーを名乗ることが出来ました。これは所謂「DBA(doing business as)」とも知られています。

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スプリング・リヴァーはアメリカ本国での知名度は高くありませんが、日本のバーボン党には比較的知られた銘柄かと思います。

日本では80年代後半から2000年代にかけてヘヴンヒルの所謂「キャッツ・アンド・ドッグス」と呼ばれるラベル群(ブランド群)のバーボンが多く流通していました。網羅的ではないですが、代表的な物を列挙すると…
1492
Anderson Club
Aristocrat
B.J. Evans
Bourbon Center
Bourbon Falls
Bourbon Hill
Bourbon Royal
Bourbon Valley
Brook Hill
Country Aged
Daniel Stewart
Distiller's Pride
Echo Spring
Gold Crown
Heritage Bourbon
J.T.S. Brown
J.W. Dant
Jo Blackburn
John Hamilton
Kentucky Deluxe
Kentucky Gold
Kentucky Nobleman
Kentucky Supreme
Mark Twain
Martin Mills
Mattingly & Moore(M & M)
Meadow Springs
Mr. Bourbon
National Reserve
Old 101
Old 1889
Old Joe
Old Premium R.O.B.
Original Barrel Brand
Pap's
Rebecca
Rosewood
Sam Clay
Samuels 1844
Spring River
Stephen Foster
Sunny Glenn
T.W. Samuels
Virgin bourbon
Westridge
(The)Yellow Rose of Texas
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…などです。これらの幾つかは大昔のブランドを復刻したか、廃業した蒸留所もしくは大手酒類会社のブランド整理によって取得したラベルが殆どでした。またはヘヴンヒルが古めかしくそれっぽいありきたりなデザインで手早く作成したのもあるかも知れません。こうしたラベルは地域限定的で、ヘヴンヒル社にとっては比較的利益率の低いバリュー・ブランドでしたが、彼らのビジネスの82%は安価な酒類の販売とされています。或る意味ヘヴンヒルの「ブランド・コレクター」振りは、伝統を維持/保護する観点があったとしても、このビジネスのための必要から行っていると言えなくもないでしょう。広告も出さないし、ラベルもアップデートしないということは、マーケティング費用がほぼゼロに近いことを意味します。だから安い。

上に挙げたブランドは様々な熟成年数やプルーフでボトリングされました。一部はプレミアム扱いの物もあり、その代表例は「マーチンミルズ23年」や「ヴァージンバーボン21年」等です。或いはノンチルフィルタードをウリにした「オールド101」も、見た目のラベルデザインは地味でも中味はプレミアム志向を感じさせました。4〜6年の熟成で80〜86プルーフ程度の物に関しては、エントリークラスらしいそこそこ美味しくて平均的なヘヴンヒルの味が安価で楽しめました。しかしそれにも況して、熟成期間が7年以上だったり100プルーフ以上でボトリングされた物は、あり得ないほどお得感があり、古参のバーボン・ファンからも支持されています。また、上のリストには含めませんでしたが、ヘヴンヒル社の名前そのものが付いた「オールドヘヴンヒル」や同社の旗艦ブランドとなる「エヴァンウィリアムス」などの長期熟成物も日本ではお馴染みでした。

80年代〜90年代にこのような多数の銘柄が作成もしくは復刻され、日本向けに大量に輸出されていた背景には、アメリカのバーボン市場の低迷がありました。彼の国では、70年代から翳りの見えていたバーボン人気は更に落ち込み、過剰在庫の時代を迎えていたのです。逆に日本ではバブル期の経済活況からの洋酒ブームによるバーボンの高需要があった、と。上記の中で一部のブランドはバブルが終わった後も暫く継続され、2000年代をも生き延びましたが、やがてアメリカでのバーボン人気が復調しブームが到来、更には世界的なウィスキー高需要が相俟った2010年代になると、日本に於いては定番と言えた多くの銘柄は終売になるか、銘柄自体は存続しても長期熟成物は廃盤になってしまいました。今では、80〜90年代に日本に流通していたヘヴンヒルのバーボンは、ボトリング時期からしてバーズタウンにあった蒸留所が火災で焼失する前の物なので、欧米では「プリ・ファイヤー・ジュース」と呼ばれ、オークションなどで人気となり価格は高騰しています。

火災前の原酒がマニアに珍重されているのは、失われた物へ対する憧憬もありますが、そもそも味わいに多少の違い(人によっては大きな違い)があるからです。その要因には大きく二つの側面があります。
一つは製造面。先ず当たり前の話、施設が違うのですから蒸留機も異なる訳ですが、ヘヴンヒルが新しく拠点としたバーンハイム蒸留所は1992年にユナイテッド・ディスティラーズが建てた蒸留所であり、もともとバーボンの蒸留に向かない設計だったと言われています。そのためヘヴンヒルが購入した時、蒸留機の若干の修正や上手く蒸留するための練習を必要としたとか。そしてこの時、マッシュビルにも変更が行われました。ライ麦率を3%低くしてコーン率を上げたそうです(コーン75%/ライ13%/モルテッドバーリー12%→コーン78%/ライ10%/モルテッドバーリー12%)。あと、イーストもジャグ・イーストからドライ・イーストに変更を余儀なくされたようで、マスターディスティラーのパーカー・ビームはそのことを嘆いていたと言います。また、蒸留所のロケーションも違うのですから、水源も当然変更されたでしょう。旧施設のDSP-31では近くの湧水を使用していたとされ、DSP-1では市の水を独自に逆浸透膜か何かで濾過していると聞きました。
もう一つの側面は、上段で述べていた過剰在庫の件です。今でこそ長熟バーボンはアメリカでも人気がありますが、当時ほとんどのディスティラーの常識では8年を過ぎたバーボンは味が落ちる一方だし、12年を過ぎたバーボンなど売り物にならないと考えられていました。と言って倉庫で眠っている原酒を無駄にする訳にはいかない。そこで、例えばエイジ・ステイトメントが8年とあっても実際には10年であったり、或いは8年に12年以上の熟成古酒がブレンドされていて、それが上手くコクに繋がっていた可能性が指摘されています。実際にはどうか定かではありませんが、私個人としても、確かに旧ヘヴンヒル原酒は現行バーンハイム原酒よりスパイスが複雑に現れ深みのある風味という印象を受けます。

さて、そこでスプリング・リヴァーなのですが、調べてもその起源を明らかにすることはできませんでした。先ず、スプリング・リヴァー蒸留所という如何にもありそうな名前の蒸留所は、禁酒法以前にも以後にも存在していないと思われます(サム・K・セシルの本にも載っていない)。そしてそのブランド名もそこまで古くからあったとは思えず、ネットで調べられる限りでは71年ボトリングとされるクォート表記でスクエアボトルの12年熟成86プルーフがありました。その他に年代不明で「SUPERIOR QUALITY」の文字がデカデカと挿絵の上部に書かれたラベルのNAS40%ABVの物もありました。70年代の物はどうか判りませんが、少なくとも80年代以降は(ほぼ日本向けの?)エクスポート専用ラベルになっていると思われます。以上から考えるに、おそらく70年代にヘヴンヒルが作成したラベルと予想しますが、詳細ご存知の方はコメントよりお知らせ下さい。モダンさの欠片もないデザインが却って新鮮で素敵に感じますよね。
日本で流通していたスプリング・リヴァーは沖縄の酒屋?商社?が取り扱っていたらしく、90年代の沖縄の日本資本のバーには何処にでもあったとか。おそらく80~90年代に流通し、12年熟成101プルーフと15年熟成86プルーフの二つ(もう一つ追加。下記参照)があったようです。オークションで肩ラベルに「Charcoal Filtered」と記載され年数表記のない86プルーフで「ウイスキー特級」の物も見かけました。これも15年熟成なのでしょうか?(コメントよりご教示頂きました。これはそのままNASだそうです。コメ欄をご参照下さい)。ともかくバーボン好きに頗る評価が高いのは12年101プルーフです。熟成年数とボトリング・プルーフの完璧な融合からなのか、それとも過剰在庫時代のバレルを使ったバッチングに由来するのか…。なんにせよ余程クオリティが高かったのは間違いないでしょう。では最後に少しばかり飲んだ感想を。

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SPRING RIVER 12 Years 101 Proof
90年代流通品。がっつり樽香がするバーボン。スペック的に同じでほぼ同時代のエヴァンウィリアムス赤ラベルのレヴューを以前投稿していますが、それに較べてややフラットな風味に感じました。まあ、サイド・バイ・サイドではないですし、今回はバー飲みですので宅飲みと単純には比較できませんが…。
Rating:87.25/100

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WILD TURKEY 101 Proof
今回の投稿もバー飲みなのですが、こちらは偶然か故意か居合わせたバーの常連であり、Instagramで繋がりのあるTさんより自身のボトルキープをご馳走して頂きました。私と一緒に行ったツレの分まで頂戴しまして、Tさんの太っ腹に感謝です。このお方、バーボンをビールのように飲めてしまう酒豪で、お酒に弱い私からしたらバケモンのような人です(笑)。

推定80年代ボトリング。2000年以降とは異なるアーシーなフィーリングとパフューミーなアロマのある時代のターキー。以前、他のバーで同じくらいの年代の物を飲みましたが、こちらのほうがカビっぽさを感じなかったですね。ボトル・コンディションの差でしょうか。どちらにせよターキー好きにとっては「間違いない」代物です。
Rating:88/100

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オールド・コモンウェルスの情報は海外でも少なく、そのルーツについてあまり明確なことは言えません。ですが、ネットの画像検索や少ない情報を頼りに書いてみます。

先ず始めにスティッツェル=ウェラーのアイリッシュ・デカンターに触れます。長年スティッツェル=ウェラー社を率いた伝説的人物パピー・ヴァン・ウィンクル(シニア)が亡くなった後、息子のヴァン・ウィンクル・ジュニアは1968年にオールド・フィッツジェラルド名義でセント・パトリックス・デイを記念するアポセカリー・スタイルのポーセリン・デカンターのシリーズを始めました。1972年にスティッツェル=ウェラー蒸留所が売却された後も、新しい所有者はヴァン・ウィンクル家が1978年にオールド・コモンウェルスのラベルの下で再び引き継ぐまでシリーズを続けます。1981年にジュニアが亡くなった後も息子のジュリアン・ヴァン・ウィンクル三世が事業を受け継ぎ、毎年異なるデザインを制作していましたが、このシリーズはデカンター市場が衰退した1996年に中止されました。オールド・コモンウェルスのアイリッシュ・デカンターの殆どには80プルーフで7年または4年熟成のバーボンが入っていた、とヴァン・ウィンクル三世自ら述べています。
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60年代は、50年代のファンシーでアーティスティックなグラス・デカンターに代わりセラミック・デカンターが人気を博しました。各社ともデカンターの販売には力を入れ、ビームを筆頭にエズラ・ブルックスやライオンストーンが多くの種類を造り、他にもオールド・テイラーの城を模した物からエルヴィス・プレスリーに至るまで様々なリリースがありました。おそらく、70年代にバーボンの需要が落ち込む中にあっても、記念デカンターは比較的売れる商材だったのでしょう。ジュリアン・ジュニアはスティッツェル=ウェラー蒸留所を売却した後、「J. P. Van Winkle & Son」を結成し、様々な記念デカンターを通して自分のバーボンを販売しました。 既に1970年代半ば頃からコモンウェルス・ディスティラリー名義は見られ、ノース・キャロライナ・バイセンテニアル・デカンター、コール・マイナーやハンターのデカンター等がありました。もう少し後には消防士やヴォランティアーを象った物もあります。

そして今回紹介するオールド・コモンウェルスは上に述べたデカンターとは別物で、ジュリアン・ヴァン・ウィンクル三世がシカゴのサムズ・リカーという小売業者向けにボトリングした特別なプライヴェート・ラベルが始まりでした(当時20ドル)。おそらく90年代半ば辺りに発売され出したと推測しますが、どうでしょう? 後には同じくシカゴを中心としたビニーズにサムズは買収され、ビニーズがオールド・コモンウェルスを販売していましたが、ヴァン・ウィンクルがバッファロー・トレース蒸留所と提携した2002年に終売となりました。中身に関しては、同時代のオールド・リップ・ヴァン・ウィンクル10年107プルーフと同じウィスキーだとジュリアン本人が断言しています。ORVWのスクワット・ボトルと違いパピーのようなコニャック・スタイルのボトルとケンタッキー州(*)の州章をパロった?ラベルがカッコいいですよね。では、最後に飲んだ感想を少しばかり。

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Old Commonwealth 10 Years Old 107 Proof
推定2000年前後ボトリング。前ポストのオールド・リップと比較するため注文しました。大した量を飲んでないので細かいことは言えませんが、こちらの方が度数が僅かに高いのにややあっさりした質感のような? でも、どちらも焦樽感はガッチリあってダークなフルーツが奥から漂うバーボンで点数としては同じでした。
Rating:87.5/100


*ケンタッキー州は日本語では「州」と訳されますが、英語ではステイトではなくコモンウェルス・オブ・ケンタッキーです。アメリカ合衆国のうちケンタッキー、マサチューセッツ、ペンシルヴェニア、ヴァージニアの四つの州は、自らの公称(州号)を「コモンウェルス」と定めています。これらは州の発足時に勅許植民地であった時代との決別を強調する狙いがあったものと解されているそう。オールド・コモンウェルスは如何にもケンタッキー・バーボンに相応しい命名なのかも知れません。
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「commonwealth」とは、公益を目的として組織された政治的コミュニティーの意。概念の成立は15世紀頃とされ、当初は「common-wealth」と綴られたそうで、「公衆の」を意味する「common」と「財産」を意味する「wealth」を繋げたもの。後の17世紀に英国の政治思想家トマス・ホッブズやジョン・ロック等によって一種の理想的な共和政体を指し示す概念として整理され、歴史的に「republic(共和国)」の同義語として扱われるようになったが、原義は「共通善」や「公共の福祉」といった意味合いだったとか。

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オールド・リップ・ヴァン・ウィンクルというブランドは、元は禁酒法時代(または以前?)に遡りますが、長年の沈黙からジュリアン・ヴァン・ウィンクル二世が1970年代半ばに復活させ、それを受け継いだ息子のジュリアン三世が伝説のレヴェルまで育て上げたブランドと言ってよいでしょう。

長年スティッツェル=ウェラー社を率いてきたジュリアン・"パピー"・ヴァン・ウィンクルが1965年に亡くなった後、息子のジュリアン・ジュニア(二世のこと)は他の相続人との意見の相違から、1972年にスティッツェル=ウェラー所有の蒸留所とブランドをノートン・サイモン社へ売却することを余儀なくされました。しかし、彼は名前や物語を余程気に入っていたのか、アメリカの小説家ワシントン・アーヴィングの物語をモチーフにしたブランドだけは売却せず、スティッツェル=ウェラー蒸留所からウィスキーを購入出来る権利とボトリング契約を残したことで、オールド・リップ・ヴァン・ウィンクルを甦らせ販売し始めます。その事業は1981年にヴァン・ウィンクル二世が亡くなると息子のジュリアン・ヴァン・ウィンクル三世に引き継がれますが、スティッツェル=ウェラーとのボトリング契約が切れたことでジュリアン三世は致し方なく(妻も子供四人もおり、多額の借金を背負うことになるから)アンダーソン郡ローレンスバーグにある旧ホフマン蒸留所をベン・リピーから購入しました。ジュリアン三世はスティッツェル=ウェラーからのバルク・ウィスキー、またその他の蒸留所からもウィスキーを購入し、コモンウェルス蒸留所として様々な銘柄でボトリングを続けました。80年代にはおそらく知る人ぞ知る小さな存在だった会社は、90年代に祖父への敬意を直接的に表す「パピー・ヴァン・ウィンクル」を発売、幾つかの賞を得たことでウィスキーの世界から注目を集め出します。しかし、スティッツェル=ウェラー蒸留所はユナイテッド・ディスティラーズの傘下になった90年代初頭に蒸留が停止されてしまいました。そこで、原酒の枯渇を懸念したジュリアン三世は、新しい供給先としてバッファロー・トレース蒸留所を選び、2002年、合弁事業としてオールド・リップ・ヴァン・ウィンクル・ディスティラリーを立ち上げます。同社のブランドは段階的にスティッツェル=ウェラーからバッファロー・トレースの蒸留物へ変わりました。2010年以降は「パピー」がバーボン愛好家以外の一般大衆にも認知され出し、バーボン・ブームの到来もあってカルト的人気を得、それに釣られてその他のブランドも高騰。オールド・リップ・ヴァン・ウィンクルも日本に住む「庶民派ウィスキー飲み」が手を出せる金額ではなくなり、そもそも日本へ輸入されることもほぼなくなりました。バッファロー・トレースのフランクフォート産の物ですらそのような状況の今日、ジュリアン三世がハンドメイドで瓶詰めしていたローレンスバーグ産の物は、特に愛好家に珍重され求められています。

今回ご紹介する「ヴァン・ウィンクル」の付かないヴァン・ウィンクル製品であるスクエア・ボトルの「オールド・リップ」なのですが、これは日本向けの輸出用ラベルでした。4年熟成86プルーフ緑ラベルと12年熟成105プルーフ黒ラベルの二種類があり、日本のバーボン愛好家には知られたブランドです。おそらく発売期間は80年代後半から90年代後半(もしくは2000年代初頭?)までではないかと思われます。少なくともフランクフォート表記のオールド・リップは見たことがないので、2002年以降には製造されていないと推測しました。お詳しい方はコメントよりご教示下さい。
それは措いて、中身の原酒について。ジュリアン三世は「ヴァン・ウィンクル・ファミリー・リザーヴ」や「ヴァン・ウィンクル・セレクション」、初期の「パピー・ヴァン・ウィンクル」、またその他の銘柄ではスティッツェル=ウェラー以外の原酒を使うこともありました。しかし、聞くところによると彼は「オールド・リップ・ヴァン・ウィンクル」のブランドにはスティッツェル=ウェラー原酒を使うことを好んだとされます。それからすると、おそらくこの「オールド・リップ」もスティッツェル=ウェラー原酒で間違いないでしょう。では、最後に飲んだ感想を少しだけ。

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今回はバー飲みです。先日まで開けてあったオールド・リップ12年が前回のウイスキークラブ(定期イヴェント)で飲み切られたとのことで倉庫からストックの新しいボトルを出して来てくれました。なので開封直後の試飲となります。

推定88年ボトリング(*)。キャラメルの他に植物っぽい香りも。ハイプルーフゆえのアルコールのアタックはあってもヒート感はほぼ感じない。現代の小麦バーボンよりもスパイス感がやや複雑で、フレイヴァー全体が濃厚な印象。余韻は少し渋め。
Rating:87.5/100

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*この時期のジュリアン・ヴァン・ウィンクル三世は少し古めの瓶を使ってボトリングしていたことを示唆する情報がありますので、瓶底の数字は88なのですが、もしかするとボトリングは90年頃の可能性があります。

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2019年にラベルを一新したアーリータイムズ。そのラベルはアーリータイムズの創業者ジャック・ビームではなく、中興の祖サールズ・ルイス・ガスリーをフィーチャーしたものになっています。そのことも驚きでしたが、これだけ安価なブランドなのにラベルをただの色違いにせず、ほんの少しデザインを変更しているのも注目点。ブラウンの方はガスリーの横顔の絵がラベル正面に来ています。
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ガスリーについては以前投稿した新イエローラベルのレヴューで紹介してますのでご参照下さい。今回はブラウンラベルを試してみます。ブラウンラベルとイエローラベルの違いについてはこちらを。

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EARLY TIMES Brown Label 80 Proof
2019年ボトリング。ローストバナナのキャラメルソース掛け、焦樽、コーンチップス、接着剤、僅かにフローラル、ペッパー、ほんのりシャボン玉。水っぽく柔らかい口当たり。味わいはイエローよりややスパイシー寄りでさっぱりめ。余韻は短く、少しビター。
Rating:77/100

Thought:どうも昔飲んだブラウンラベルより美味しくない気がしました。私がイエローラベルに感じ易いと思っていたアーリータイムズ独特の嫌な風味を今回のボトルには感じます。また、私の記憶よりフルーティさも幾分か欠けるように感じましたし、余韻も苦いように思いました。以前に投稿したイエローとブラウンを比較する記事では、ブラウンの方を高く評価していたのですが、なぜか新しいラベルになってからのアーリータイムズに関してはイエローの方が美味しかったです。ここ数年で私の味覚が変わったのか、単なる気のせいなのか、それともアーリータイムズのバッチングの差なのか、謎。
ちなみに先日まで開封していたアーリータイムズ・プレミアムと比較すると、バカらしいほどにプレミアムの方が旨かったです…。

Value:否定的なことばかり書きましたが、価格の安さが最大の価値であるバーボンなので、 難癖をつけるつもりはありません。千円ちょっとでこれが飲めるのはありがたい話だと思います。ヘヴンヒルやジムビームの1000円代で購入できるバーボンより風味が濃いと評価する人もいますし、飲んだことのない方は迷わずトライしてみて下さい。しかも是非ストレートで。安いバーボンはハイボール専用などと思わずに。実際のところかなり美味しいですよ?

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ピュア・ケンタッキーXOはケンタッキー州バーズタウンのウィレット蒸留所(KBD)で製造されているスモールバッチ・ブティック・バーボン・コレクションの四つのうちの一つです。その他の三つはノアーズ・ミル、ローワンズ・クリーク、ケンタッキー・ヴィンテージとなっています。価格から言うと、この中でピュア・ケンタッキーXOは下から二番目の位置付け。コレクションの成立はおそらく90年代後半とみられ、その名称はジムビームのスモールバッチ・コレクションを意識したのでしょうか。しかし、同じスモールバッチでもその生産量には余りにも大きな違いがあります。スモールバッチとは一回のバッチングに使用するバレルの数が少ないことを意味する業界用語ですが、業界最大手のジムビームは300~350樽程度でのバッチング、小さなクラフト蒸留所のウィレットは概ね20樽程度のバッチングのようなので、実際のところウィレット製品はヴェリー・スモールバッチとでも言った方が分かり易い。猫も杓子もスモールバッチを名乗る昨今、スモールバッチという言葉は既に本来の意義を失って形骸化し、ただのマーケティング用語に成り下がったように見えなくもないです。大事なのはスモールバッチかどうかではなく、実際に飲んでみて美味しいと思うかどうか。
まあ、それは偖て措き、ここらでピュア・ケンタッキーXOの中身について触れたいところなのですが、実は日本でも海外でもPKXOに関する情報は少なく明確なことが分かりません。その名称のXOは通常「Xtra(Extra) Old」の略なので、おそらくケンタッキー産の長期熟成を経た格別な原酒をボトリングするイメージがブランドの根底にあると思います。ピュア・ケンタッキーXOは基本的にNASではありますが、ボトルのバックラベルには「少なくとも12年熟成、もしくはもっと」との文言がある時代がありました。
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日本では今でも多くの酒販店の商品紹介欄に「最低12年熟成」と書かれていることが多く、これはそのバックラベルを根拠としての記述でしょう。しかし、このバックラベルは2000年代流通の物には貼ってあったかも知れませんが、2010~2012年あたりに当該の文言は削除されたか、もしくはバックラベル自体が貼られなくなったのではないかと思います。熟成年数の声明(エイジ・ステイトメント)がないということは、蒸留所の都合(所有するバレルの在庫状況や市場の需要と供給のバランス等)で、ブレンドに使うバレル選択が熟成年数に縛られず自由に出来ることを意味します。それまで低迷していたアメリカにおけるバーボンの需要は2000年以降徐々に増え出し、2010年以降には爆発的な伸びを見せました。そのため旧来まであったエイジ・ステイトメントがなくなる銘柄が増えたり、もともとNASだったものは若い原酒をブレンドするようになりました。おそらくピュア・ケンタッキーXOもこうした流れと無関係ではいられなかったのだと思います。例えば、2006年頃の情報では1バッチ8~10樽ボトリングで最低11年~最高14年物の原酒をヴァッティング、2011年頃の情報では5〜12年熟成のバーボン樽のコレクション、と説明されていました。これらの説明の情報源は蒸留所の方からのものなので、当時としては正確だと思われます。また、海外のレヴュワーさんのPKXOの記事のコメント欄で、KBDは同じラベルの下で異なる市場向けに異なるブレンドをリリースしていると聞いた、と述べている方もいました(追記あり)。 その伝聞が正しいのかは判りませんが、そもそもNASであること、ヴェリー・スモールバッチであることを考慮すると、バッチ毎は言い過ぎとしても生産年の違いによる味の変動は少なからずあるのが普通でしょう。
ピュア・ケンタッキーXOは初期の頃から(多分)2000年代後半までは緑色のボトルに入れられていました。その後は透明のボトルに切り替わります。そして何年間かは上記のバックラベルは貼られていて、現在では貼られていません。個人的にはこうした外観の変更時に中身の大幅な変化があったのではと勘繰っているのですがどうでしょう? 飲み比べたことのある皆さんのご意見、コメントよりどしどしお寄せ下さい。
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ウィレット蒸留所は1980年代初頭に訳あって蒸留の停止を余儀なくされ、80年代中頃からはケンタッキー・バーボン・ディスティラーズ(KBD)というインディペンデント・ボトラーとして活動。そのため余所の蒸留所からニューメイクや熟成ウィスキーを仕入れ、同社のエイジング施設で熟成後に自ら販売したり、他のNDPのためにボトリングしたりしていました。そうした活動が実り、2012年1月、ウィレット蒸留所は再び蒸留を開始し、そして時を経た現在では自家蒸留原酒をボトリングし始めました。
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(画像提供K氏)

以前投稿したケンタッキー・ヴィンテージと同じようにウィレット原酒の物は瓶の形状が変わっています。画像をよくご確認下さい。
さて、今回も親愛なるバーボン仲間でありウィレット信者であるK氏にサンプルを提供して頂きました。お陰でバッチ違いの異なる原酒のちょっとした比較が可能となりました。この場を借りて、改めて画像や情報提供の協力にも感謝致します。ありがとうございました。
今回のレヴュー対象はウィレット原酒を使用した推定2018年ボトリングの物。おまけのサンプルはヘヴンヒル原酒と目される推定2014年ボトリングの物です。では、注いでみましょう。

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PURE KENTUCKY XO 107 Proof
Batch QBC No. 18-31
推定2018年ボトリング。熟したプラム、蜂蜜、シリアル、花、塩バター、キャラメル、ローストアーモンド、ダークチョコレート。ややオイリーな口当たり。味わいには煮たリンゴやグレープやアプリコットのようなフルーツぽさ、もしくはフルーツガムのような旨味がある。ジュースを飲み込んだ時のパンチや濃さは感じられるが、余韻は度数の割りにあっさりしていて少しドライ気味、と思いきやその後から濃厚でフルーティな戻り香がやってくる。一滴加水したほうが甘さが立った。
Rating:87/100

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PURE KENTUCKY XO 107 Proof
Batch QBC No. 14-12
推定2014年ボトリング。紅茶、グレイン、溶剤、ミルクチョコレート。口当たりは思うよりさらりとしている。パレートにややハーブっぽい苦味。余韻はオークのドライネスが支配的。あまりフルーツ感のないタイプで、香り以外に甘味が感じにくい。
Rating:82/100

Thought:先日飲んだ新しいケンタッキー・ヴィンテージが凄く美味しかったので、新しいピュア・ケンタッキーXOへの期待値は高まっていました。ところが107というハイ・プルーフから期待するほどのインパクトに欠ける印象でした(特に開封直後)。マッシュビルの違いなのかバレル・セレクトの違いなのか、はたまた加水具合のためなのか判りませんが、KVの方が香りと余韻により華やかさを感じたのです。それでも開封から二週間ほど経ち、残量が3分の2くらいになると徐々に旨味が増し、新ウィレット原酒らしい濃密なフルーツと豊かな穀物が感じ易くなりました。KVとの比較で言うと、PKXOの方が焦がしたオーク由来の風味が強いように感じます。
バッチ14-12は香りからして別の原酒なのは明らかでした。以前投稿したケンタッキー・ヴィンテージの味比べと同じような結果になっているのですが、どうしてもレヴェルが違い過ぎるので点数に差がつきます。通常のヘヴンヒル銘柄とは少し異なる紅茶やハーブのヒントがあるのは評価するとしても、どうも溶剤臭が強いのと甘味を欠く点が私の好みではありませんでした。
ところで、ウィレットの蒸留再開が2012年ということを勘案すると、「ヴィンテージ」や「XO」との名称が付いていても、おそらくKVやPKXOの熟成年数は4~6年程度と推測されます。この先、長期熟成樽が仕上がってくると、バッチングにそうした樽を使用し始めるのか、それとも販売価格とのバランスを考えて今のスペックをキープするのか? 成り行きを見守りつつ、続報を待つとしましょう。マッシュビルに関してもそのうち分かれば追記します(追記あり)。
ちなみに、同じウィレット蒸留所からリリースされているジョニードラム・プライヴェートストックも新原酒に切り替わっていますが、PKXOとJDPSの違いはチャコール・フィルターの有無だけで他は同じだそうです(もちろんPKXOがフィルターなし)。

Value:ピュア・ケンタッキーXOの日本での販売価格は概ね3800~4500円くらいのようです。ケンタッキー・ヴィンテージの相場が3500円程度なことを考えると、107プルーフのPKXOが最安値だとプラス300円足らずで購入出来ることになります。これはハイアー・プルーファー愛好家にとっては嬉しい選択肢でしょう。個人的には、度数が低い割りに満足感のあるケンタッキー・ヴィンテージの方を推しますが、パワーに勝るピュア・ケンタッキーも捨てがたいですね。いずれにせよ他社の同価格帯の競合製品と較べて頭ひとつ抜け出てる印象の新ウィレット原酒はオススメです。
私はピュア・ケンタッキーXOの青く縁取られたケンタッキー州の地図とブルーワックスのデザインがめちゃくちゃ好きなのですが、同じ感性の方います? これって大きな価値ですよね?


追記1:日本が誇るバーボンマニアの方から情報を頂きました。その方によると、PKXOの欧州向けと日本向けを比較したところ、バッチ違い程度の差異しかなかったとのことです。

追記2:マッシュビルはハイ・ライのレシピ(52% Corn / 38% Rye / 10% Malted barley)との情報が入りました。

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ワイルドターキー・ダイヤモンド・アニヴァーサリーは2014年8月にジミー・ラッセルの勤続60周年を祝うために、当時アソシエイト・ディスティラーだった息子のエディ・ラッセルによって作成されました。業界で最も任期の長いマスターディスティラーであるジミー・ラッセルは正に「生ける伝説」であり、「ブッダ・オブ・バーボン」或いは「マスターディスティラーズ・マスターディスティラー」と尊敬の念を込めて呼ばれたりします。アメリカのワイルドターキー愛好家デイヴィッド・ジェニングス氏は「ロックにはエルヴィスがいる。カントリーにはハンクがいる。ソウルにはマーヴィンがいる。バーボンにはジミーがいる」と述べました。アメリカン音楽好きにはピンとくる喩えでしょう。

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(上1984年、下1967年のジミー)

1954年9月10日、ジミーは後年ワイルドターキー蒸留所と呼ばれることになるアンダーソン・カウンティ蒸留所(以前のリピー・ブラザーズ蒸留所、一年後にJTSブラウン蒸留所と改名)で働き始めました。まだ二十歳になる前のことです。当時ローレンスバーグには幾つかの蒸留所があり、ジミーのお父さんはオールド・ジョー蒸留所、おじさんはホフマン蒸留所で働いていました。そのためジミーが仕事を探していた時、蒸留所で働くことにしたのは自然な流れでした。実際、今だにジミーはアンダーソン郡の生まれた場所から1マイル以内、ワイルドターキー蒸留所から6マイル以内に住んでいると言います。後に時として「バーボンのファーストレディ」と紹介されることにもなる妻ジョレッタもジミーが働き始める前から蒸留所に勤めていました。
彼のキャリアは床掃きや品質管理から始まり、おそらく蒸留所の全ての仕事をこなしたと思われます。蒸留所の二代目マスターディスティラーである伝説のビル・ヒューズや、蒸留所の創業者ジェイムス・リピーの甥の息子で三代目マスターディスティラーのアーネスト・W・リピー・ジュニアから蒸留技術を学んだジミーは次第に頭角を表し、1967年にはJTSブラウン蒸留所のマスターディスティラーへと昇格しました。彼が働き始めた頃の蒸留所は日産80バレル程度でしたが、現在では550バレル以上になっていると言います。その躍進の全てがジミーただ一人の功績ではないでしょうが、彼はキャリアをスタートして以来普通の人間にはあり得ないほど長い年月そこにいて、何十年も精力的に働き、先代から受け継いだ昔ながらのバーボン造りを固守することで現代のバーボン世界を形作り、内外に影響を与えて来ました。

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ワイルドターキー蒸留所で製造される製品の中で最も「ジミー・ラッセルらしい」バーボンはスタンダードなワイルドターキー101(8年にしろNASにしろ)です。それは標準的であり原型であるが故に「生ける伝説」の刻印が深い。周知のようにそのブランドはジミーが蒸留所で働き始める以前の1942年に始まり、ブルックリンかどこかの経営者が産み出したのかも知れません。また、最先端の設備によるコンピューターの自動化が行われる現代にあっては、誰がどうしようと同じものが出来上がるのかも知れません。しかし、それでもジミーの技能とテイスティング能力、長年に渡るブランド定義がなければ、今に至るワイルドターキー101の成立はなかったと言っていいでしょう。
そしてジミーは伝統を頑なに守るだけの男ではありませんでした。バーボン産業は70年代半ばに大きな波を受ます。俗に言う「白物」、ウォッカやジンの隆盛です。消費者の嗜好の変化もありました。昔ながらの「伝統」は「古臭い」と同義になり、バーボンを飲むことはクールでなくなったのです(今は流行っているのでクールと認識されています)。ジミーは多くの女性がバーボンを飲まないことに気づき、彼女たちにとって魅力的な製品を作りたいと思い、1976年にワイルドターキー・リキュールと呼ばれるフレイヴァー・バーボンを実験的に開発しました。それは「レッドスタッグ」や「ファイヤーボール」に先駆けること遥か前、バーボンが流行していなかった時代にジミーが模索した新しい消費者を引き付ける方法でした。今日、その製品は2006年以降ワイルドターキー・アメリカンハニーとしてリニューアルされ、多くの人のお気に入りとなっています。また、2000年代前半には、今や当たり前になりつつあるバーボン樽以外を用いた「後熟」の魁として、ワイルドターキー・シェリー・シグネチャーも造っていました。これはスコッチに親しんだヨーロッパ市場向けに試された変種のワイルドターキーで、10年熟成のターキーをスパニッシュ・シェリー・カスクでセカンド・マチュレーションした後、バーボンにオロロソ・シェリーを加えバランスを整えたものです。当時は斬新過ぎてウケませんでしたが、今こそ再評価すべき時ではないでしょうか。
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70年代後半からバーボン全体の売り上げは目に見えて減少し始めました。80年代から90年代にかけてアメリカのバーボン需要は底辺を迎えます。そこでバーボン業界のエグゼクティブたちが採った主な戦略は二つありました。一つはバーボンのプレミアム化。もう一つは現場監督の職人に過ぎなかったマスターディスティラーを外の世界にスターとして送り出し、バーボンがいかに優れているかを一般消費者へ啓蒙することでした。こうした動きが現在のバーボン人気の礎の一部となったのは疑うことが出来ません。
前者の好例は、エンシェントエイジ蒸留所(現在のバッファロートレース蒸留所)のマスターディスティラー、エルマー・T・リーが1984年にプロデュースした最初の大衆市場向けシングルバレル・バーボンであるブラントンズと、ジムビーム蒸留所のマスターディスティラー、ブッカー・ノーが1988年にプロデュースしたスモールバッチにしてバレルプルーフ・バーボンのブッカーズです。ジミー・ラッセルも負けじと、ブラントンズに対しては1994年にワイルドターキー初のシングルバレル・バーボンとなるケンタッキー・スピリットをリリースし、象徴的な101プルーフで満たしました。それはブラントンズを意識するような非常に華やかなボトル形状で、重厚なピューター製のキャップを備え、バレル情報が手書きで書かれたネックラベルが貼られました。まるでジミーが「私」のためにバレルを特別にハンド・ピックしたかのように。 そしてブッカーズに対しては1991年に6・8・12年熟成の原酒をジミーが独自に組み合わせたバレルプルーフ・バーボンのレアブリードをリリース。何の衒いもなくノー・ギミックのそのバーボンは、かつて盟友エルマー・リーに「ピュア・ジミー・ラッセル」と評されました。これらのプレミアムなワイルドターキーはかなりの成功を収め、蒸留所のポートフォリオの定番としての地位を確立し、現在でも販売され続けています。
後者に於いても、ブッカー、エルマー、ジミーらは国内外を旅してパブリック・テイスティングを行い、彼らの目を通してバーボンのストーリーを語ることによって、今日のバーボン人気の成長を促した最初の世代でした。今、ブッカーの息子フレッドやジミーの息子エディのような次世代、またその次の世代の旗手たちは彼らが切り拓いた道を歩んでいるのです。ちなみにジミーは自分が訪れたことのある国外のお気に入りの都市の一つに、ありがたいことに日本を挙げてくれています。
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ジミーは世界中でバーボンの王者のように扱われますが、本人は至って呑気に「あんたが見たまんまの、ケンタッキー州ローレンスバーグ出身のただのおっさんじゃよ(意訳)」と言います。そうした謙虚さは本物の人間が持つ特質であり、蒸留所への訪問客を迎えるジミーの柔和な笑顔は却って揺るぎない信念の証のように思えます。ジミーなしで現在のバーボンブームはなかったと言っても過言ではありません。彼はSNSのインフルエンサーではないかもしれませんが、もっと重要な羅針盤でした。バーボンの衰退期を乗り越え、アメリカが自らのネイティヴ・スピリットを再発見する過程の全てを見て来たのです。
去る2019年9月10日には、ジミーはワイルドターキー蒸留所での驚異の65周年記念日も既に迎えました。ケンタッキー州アンダーソン郡に長年住む人なら、彼が比類のない蒸留の専門知識だけでなく、驚くべき運動能力についても知っているだろう、と伝えられています。高校でのジミーは「ラッセル・ザ・マッスル」として知られており、彼に不得意とするスポーツはなく、バスケットボールやサッカーから陸上競技に至るまで数々の記録を破り(一部は40年間残っていたそうな)、アンダーソン郡高校を勝利から勝利へと導いたのだとか。こうしたアスリートさながらの基礎体力がジミーの頑固な職人気質や長年の勤務を可能にした源なのかも知れませんね。

さて、そろそろ今回のレヴュー対象に触れましょう。ダイアモンド・アニヴァーサリーはジミーの息子エディが父親へのオマージュとして厳選した13年と16年という長期熟成を経たバレルをブレンドして造られました。
よく知られた話に、ジミーは8年熟成程度のバーボンを好み、エディは12年以上の長期熟成も好む、というのがあります。ジミーは昔ながらの風味豊かなバーボンを愛し、オリジナルのワイルドターキー・プロファイルから遠く離れることを躊躇い、こう言います。「私たちは常に新しいものを試したいと思っていますが、ほとんどの場合は古い基準に戻ります」、と。彼の基準は明瞭でした。「バーボンは6~8年ほど熟成すると有効なマチュリングをしなくなると考えます。12年を過ぎる頃には多くのキャラメルやヴァニラなどのスウィートネスを失い、オーク材の風味が支配的になります。そして、私はウッディな味わいが多いのはあまり好きではありません」。これがジミーの個人的な好みであり、彼と同世代や上の世代のバーボン・ディスティラーの基準です。それにも拘わらず、エディが長期熟成のバーボンを混ぜて父親へのトリビュート・バーボンを作成したのは、そうするに十分な理由があったに違いありません。
ジミー自身が12年以下のバーボンが好きだと公言しているので、一部を除きワイルドターキーの提供する製品はそれより若いバーボンが殆どです。もしジミー好みの6~12年のバレルを選択してダイヤモンド・アニヴァーサリーを作成してしまうと、中核製品の一つであるラッセルズ・リザーヴから遠く離れた製品にするのは難しくなるでしょう。おそらくエディはワイルドターキーの標準ラインナップとは一線を画すバーボンを提供するために、長熟バレルにターゲットを絞ったのだと思われます。その意味で、このダイヤモンド・アニヴァーサリーは他のワイルドターキー製品とは対照的です。そして…。

エディは1981年からワイルドターキー蒸留所でアシスタントとして働き始めました。つまり、既に30年以上ものキャリアを誇る訳ですが、余りにも偉大なジミーと比較してしまうと「僅か」30年であり、自虐的?に「僕はニュー・ガイだよ」と笑います。また、エディは長い間自分の名前は「No」だと思っていたとも言います。なぜなら、ジミーに何か新しい提案をする度にそう言われたからだそう(笑)。エディ流の愛情あるジョークですね。
WMJのインタビューではダイヤモンド・アニヴァーサリーについて、「特別な原酒を探し出して、ジミーに内緒でブレンドしたものです。私自身が最高と思ったのは間違いないですが、ジミーが『よし』と言ってくれなければ製品化はできませんから(笑)、正直なところとてもドキドキしました」、と語っています。
そんなエディも2015年には正式にマスターディスティラーの称号を得ました。その年から限定リリースのマスターズ・キープ・シリーズも始まり、その他の中核製品でも主導的な立場となったことでしょう。こうした流れの前年にリリースされたダイヤモンド・アニヴァーサリーは、謂わばエディ・ラッセルが初めて世に出した自分自身のバーボン。エディによると、ブレンドに使われた13年原酒はまだ12年に十分近く、ジミーがあまり動揺しないよう逃げを打って選ばれたと言います。 そして後に16年のバーボンを加えることでワイルドターキー・スパイスをもっと与え、ユニークでありながら馴染みのあるワイルドターキーの表現に仕上がった自信作だと。これを飲む我々は、ジミーだけでなくエディにも祝杯を挙げない訳にはいきません。では、心して注ぐとします。

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WILD TURKEY DIAMOND ANNIVERSARY 91 Proof
BATCH NO. B14-0035
オレンジがかったブラウン色。黒糖、濃密なヴァニラ、ダークなドライフルーツ、接着剤、ハニーピーナッツ、古い木材、土。さらさらしつつなめらかな口当たり。ミディアム・ボディ。味わいはマジックインキと爽やかなフルーティさ(特にオレンジ)が同居。余韻はチャードオークとベーキングスパイスが支配的でややビター。
Rating:87.5/100

Thought:先日まで開けていたディスティラーズ・リザーヴ13年と較べることで、ダイヤモンド・アニヴァーサリーの個性は明確になった気がします。DAはDR13よりパンチのないテクスチャーですが、余韻のスパイス感は複雑でした。香りはDR13の方が甘いのに、口蓋ではDAの方が甘く感じました。そしてDAはDR13のような薬っぽいノートはなく、全体的に古びた木材のトーンを多く感じます。
101プルーフだったらもっと美味しかっただろうとはよく言われますが、エディ・ラッセルによればダイヤモンド・アニヴァーサリーはバレルプルーフに近いとのこと。ワイルドターキー蒸留所はバレル・エントリー・プルーフを2004年にそれまでの107プルーフから110プルーフへ、続いて2006年にも115プルーフへと変更しています。その理由が、そうしておかないと主力製品であるワイルドターキー101のプルーフと生産量を確保できないからとされるところからすると、ワイルドターキーの長期熟成原酒は案外プルーフ・ダウンする樽がけっこう多いのかも知れません。個人的にも、やはり101プルーフで飲みたかったとは思いますが、91プルーフでも特別なフィーリングは少なからずあるように思えました。

Value:ワイルドターキーの特別限定リリースの物は昔からパッケージングに拘った造りの物が多いです。本品もボトルや木箱などの包装のカッコ良さは画像でも伝わると思います。問題は価格ですよね。アメリカでは約125ドルで売られ始め、日本では発売当初17500円程度する販売店もありました。正直、定価では高過ぎるとは思います。ですが、今ではオークションを利用すれば10000円以下での購入も出来る時はあるでしょう。ただし、安定してその値段ではありませんので、仮にダイヤモンド・アニヴァーサリーが15000円、ディスティラーズ・リザーヴ13年が5000円なら、迷わずディスティラーズ・リザーヴ13を三本買うことをオススメします。私にはダイヤモンド・アニヴァーサリーの方が僅かに美味しいと感じましたが、飽くまで「僅か」だからです。ディスティラーズ・リザーヴ13年は長期熟成でありダイヤモンド・アニヴァーサリーと同じプルーフなので、日本人にとっては良い代替製品となり得るのです。また、疑似分割や単ラベルあたりの12年101がオークションで12000円位で購入出来るなら、そちらを買うほうがいいでしょう。味わいの満足度は上なので。とは言えダイヤモンド・アニヴァーサリーは、8年101やレアブリードとは異なるワイルドターキーの長期熟成の世界への入り口にするなら良いと思いますし、米国では36000本のリリースとされるのでタマ数も十二分にあり、また近年流通品なので限定品としては比較的入手が容易、そして何よりジミー・ラッセルへの愛情として購入するならアリだと思います。

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メーカーズマーク・プライヴェートセレクトは、メーカーズマーク・カスクストレングスのヴァリエーションとも、メーカーズ46のアップグレード・カスタム・ヴァージョンとも言える製品です。現在、アメリカの多くの蒸留所ではプライヴェート・バレル・プログラムが実施され人気を博していますが、それらはストア・ピックやバレル・ピックとも呼ばれ、酒類販売店、バーやレストラン、或いはバーボン・ソサエティ等が蒸留所の公式リリースとは違った独自の味わいのシングルバレルを顧客に販売することを可能にします。様々な味比べが出来るこの種の試みはバーボン人気を後押しするものと言えるでしょう。メーカーズのプライヴェートセレクトもそういった試みの一つ。しかしメーカーズはシングルバレル・プログラムに関しては他の蒸留所に遅れをとっていました。なぜならメーカーズマークでは熟成中に樽のローテーションを行うため、他の蒸留所のようには熟成庫のロケーションによる味の違いが明確ではないので、単純にシングルバレルを提供するだけではちょっと面白味に欠けるから。そこでメーカーズ46で培った技法を採り入れてバイヤーへ提供することになったのがプライヴェートセレクトです(※メーカーズ46についてはこちらの過去投稿をご参照下さい)。2016年に発表されるや瞬く間に人気となり、多くの小売店が独自のボトルを販売しています。

プライヴェートセレクトのプログラムは、ビル・サミュエルズJrの息子であるロブ・サミュエルズとディレクターであるジェイン・ボウイによって実現されました。先ずはテイスティング・チームを組織すると、メーカーズマーク・カスクストレングスのフレイヴァーをマッピングし、どのフレイヴァーを強調したいのかを決め、それからインディペンデント・ステイヴ・カンパニーに行き、46のようにメーカーズマークに存在する異なったキー・フレイヴァーを増幅するステイヴ作成の協力を仰ぎました。メーカーズマーク蒸留所はメーカーズ46の開発に費やした2年間で自社製品をコントロールする方法についてはかなりの量の知識を得ています。おそらく46での経験を活かし比較的短時間で完成に漕ぎ着けたでしょう。ボウイによると、もともとは8種類の風味増強ステイヴを用意していたそうですが、フレイヴァー・プロファイルの冗長性を最小限に抑えるために、最終的にそれらを五つに戻しました。これらのステイヴは既存のフレイヴァーを増幅すると同時に新しい何かを追加することになっています。プライヴェートセレクト・バレルの購入者は、メーカーズ46に使われているものを含む5種類のステイヴを自由に10枚選択して、1,001の可能な組み合わせの中から好みのフレイヴァー・プロファイルを作成、独自に大胆な味へとカスタマイズすることが出来ます。しかし、それでもその味わいは紛れもなくメーカーズマークに他ならないのでした。

プライヴェートセレクト・バレルを購入するバイヤーは、メーカーズ46の話が説明された後、オークについて、そしてフレイヴァーが木材のどこにあるのかについてレクチャーを受けます。ステイヴに施された加熱の時間や温度に基づいて、どのフレイヴァーを放出するかの概要が示され、オークの生理学的な細胞構造と熱が加えられるとどのような化学変化が起こるのか学ぶのだそう。それが終了したらテイスティングの時間です。
参加者の目前には、ベースラインとして味わうためのスタンダードなメーカーズマーク・カスクストレングスと共に、それぞれ異なるステイヴで仕上げられた五つのサンプルが置かれます。最終製品もバレルプルーフになるので、サンプルも全てバレルプルーフです。グラスの横には「Maker's Mark Private Select」というレクチャーを纏めたような小冊子もあり、有益な情報が後からでも確認出来るのでしょう。このバレルプログラムのために特別に開発された五つのステイヴは互いに非常に異なる香りと味がするとされ、その特徴は以下のようになっています。

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P2(Baked American Pure 2の略)
ベイクド・アメリカン・ピュア2は、五つのうち唯一アメリカン・オークで造られたクラシック・カットのステイヴ。ゆっくり時間をかけて低温にてコンヴェクション・オーヴンで焼かれています。このトリートメントは甘いブラウンシュガー、ヴァニラ、キャラメルなどの甘いノートを引き出すとされ、またシナモンやクローヴなどのスパイスの風味も高め、フィニッシュにドライなオークが現れるとも言います。

Cu(Seared French Cuvéeの略)
シアード・フレンチ・キュヴェは46と同じく赤外線オーヴンで焼かれたフレンチ・オークですが、カットが異なり、ステイヴには溝が切り込まれているためクラシック・カットより22%大きい表面積を持っています。それはジュースと木材の相互作用がより多いことを意味するでしょう。また、溝があるということは、上部(表面)と下部(谷間)では同じ量の熱変換を受けないため、焦がし具合の違いから風味のブレンドが期待されています。この特別なトリートメントはバタースコッチやキャラメル、ローストナッツやバター、若干の渋みを引き出すとされます。

46(Maker's 46の略)
メーカーズ46はもはやお馴染みとなった同ブランドの製造に使用されるステイヴです。Cuと同じく赤外線オーヴンで調理されますが、こちらは更に数分間長く加熱され、溝はありません。これらの違いがCuと46の味を全く異なるものにします。Cuはスイートなのに対し46はスパイシーさを追加するよう設計されました。このトリートメントはクリーミーな感触はなく、ヴァニラやスパイス、強いオーク、ドライフルーツ、若干の苦味を引き出すとされます。

Mo(Roasted French Mochaの略)
ローステッド・フレンチ・モカは、クラシック・カットのフレンチ・オークです。P2と同じくコンヴェクション・オーヴンで調理されますが、P2のような低い温度ではなく高い温度にてトーストされます。通常、華氏500度を超える高温に曝され、クーパーの観点からすると、これはオークが燃え始める前に処理できる最高温度なのだとか。
このトリートメントはダーク・チョコレート、焙煎されたコーヒー、メープル・シロップ、重いチャー・フレイヴァーを高めるとされます。また、通常のカスクストレングスと比較してドライになるが、非常に長いフィニッシュを有し、切れ上がりの味は甘いと言います。

Sp(Toasted French Spiceの略)
トーステッド・フレンチ・スパイスは、コンヴェクション・オーブンで高温と低温の両方で調理された(*)フレンチ・オークのクラシック・カット・ステイヴ。このトリートメントは、スモーク、シナモンやナツメグ、クマリンの風味を高め、味わいはフルーティかつスパイシーで少々渋いとされます。

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バイヤーはこれら五つのサンプルを慎重に試飲して、独自のカスタム・ブレンドを作成するよう奨励されます。例えば、チョコレートの風味が目立つメーカーズを欲するならMoを多く使用するとか、焦樽感がもっと欲しくスパイシーにしたいならSpを多くを使うとか、或いはバランスよく全てのステイヴを使うのも自由自在。とは言え、ヘンテコな物が出来上がらないように?脇には担当者の方がいて、味の方向性が決まれば適切なアドヴァイスをくれるようです。
視覚的に分かり易いようにテーブルにはステイヴの記号が描かれたチップも置かれており、それを並べてどのステイヴが何枚と決めて行きます。チップは一枚につき10mlを表し、選び抜いた十枚で100mlのカスタム・ブレンドのサンプルを造ってもらいます。こうすることで最終的なプライヴェートセレクトの仕上がりと想定されるものを試すことが出来るのでした。ロブ・サミュエルズによれば「皆さんは、最終製品が実験環境で行ったのと同じような味がするかどうかを尋ねますが、それはほぼ正確」で「マウスフィールは少し異なることがあっても、風味の特性は全く同じ」だと言います。
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ステイヴの組み合わせが決まったら、次はメーカーズマークの原酒をステイヴの挿入された樽へと満たす工程です。追加される10枚のステイヴは、バーボンと接触する木材の表面積を約33%増加させるとされ、実験を通じて最適な数として決定されました。典型的なバーボン樽は概ね32のステイヴで構成されていますが、プライヴェートセレクトの追加ステイヴはバレル・ステイヴよりは短くとも両面がトーストされているため、ジムビームの「ダブルオーク(トゥワイス・バレルド)」やウッドフォード・リザーヴの「ダブル・オークド」のような新樽で二度熟成させる製品と同じ位の効果があるのかも知れません。約6年ほど熟成した原酒でいっぱいに満たされた樽は、メーカーズ46の需要増への対応とプライヴェートセレクトのバレルを熟成させるために特別に設計されたライムストーン・セラーで、およそ9週間ほど眠りにつきます。そして熟成が終わると、通常のカスクストレングスと同じように、主にバレルのチャー残渣を除去する軽い濾過を経てボトリングされ完成です。言うまでもなく、カスクストレングスでのボトリングなので樽ごとに違いが出ますが、概ね55%前後のABVになります。各バレルは750mlのボトルをおよそ240本ほど産出し、同社は一本あたり約70ドルでの小売価格を提案。プライヴェートセレクト・バレルの費用は約13000ドルだとか。

蒸留所では自らのプライヴェートセレクトのボトリングもしています。代表的なそれは「Bill Samuels Jr.」と呼ばれ、メーカーズ46を産み出した当の本人でありメーカーズマークの前社長にちなんで名付けられました。故にそのシグネチャー・フレイヴァーを増幅するためステイヴのセレクトは46を10枚使用しています。つまりメーカーズ46のカスクストレングス・ヴァージョンという訳です。
また、メーカーズのウッド・フィニッシュ・シリーズはプライヴェートセレクト・プログラムだけに留まりません。2018年には「Maker's Seared Bu 1-3」というより実験的な「第二世代」のステイヴを使った製品が蒸留所限定で販売されました。これは375mlボトルで約40ドル、僅か1400本だけの提供です。そのステイヴは「virgin seared & Sous-Vide French oak」だと言います。「Sous-Vide(スゥヴィド)」はフランス語で「真空」の意。近年、料理の世界で真空調理法というのが注目されているようですが、木材を真空調理?って一体どんなことをしているのか、私には想像も付きません。実験の結果、このステイヴは美味しいバーボンを産み出したものの、プライヴェートセレクト・プログラムの他のステイヴを完全には補完しないため、蒸留所はこれを生産するプランはないけれど、メーカーズのDNAから生まれた愛するウィスキーを共有したいと考えて販売したそうです。
2019年9月からは、メーカーズマーク初となるアメリカ国内で全国配給される限定リリースのウッド・フィニッシング・シリーズが発売され始めました。第一段は「ステイヴ・プロファイル RC6」となっています。RCは「Research Center」の略で、そこの6番目のステイヴという意味です。リサーチ・センターというのは、メーカーズと共同して木材の実験を執り行うインディペンデント・ステイヴ・カンパニーの研究機関?か何かだと思います。RC6は屋外で一年半ほど乾燥させたアメリカン・オークをコンヴェクション・オーヴンでトーストしたステイヴで、主にスタンダードなメーカーズマークに存在するフルーツを引き立て、ベーキングスパイスやクラシックな甘さを向上させ、ブライトなフィニッシュになるそうな。正確なカウントではないらしいですが、だいたい255樽のスモール・クオンティティでの生産だそうです。おそらくこのシリーズは今後も、ワイルドターキーのマスターズキープのように年次リリースされて行くのでしょう。小売価格は約60ドルです。
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では、そろそろ今回レヴューするプライヴェートセレクトの出番です。こちらは「うきうきワインの玉手箱」という酒販店のセレクト。「玉手箱」という響きが気に入って買ってみました。スパイシーさを強調したセレクトになっているようです。

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Maker's Mark Private Select Stave Selection by Tamatebako 111.3 Proof
46 × 2
Mo × 4
Sp × 4
香ばしい焦げ樽、オールスパイス、タバコ、ドライクランベリー、レーズン、焦がし砂糖→プリンのカラメルソースの濃ゆいやつ、コーヒー、タバコ。焦樽の香りに僅かに酸っぱい香りが混じる。ややオイリーなマウスフィール、もしくはミルキー。パレートはメーカーズらしい酸味が感じられる。飲み込んだあとのスパイシーさはかなり強め。余韻には昆布も。テイスティング・グラスよりショット・グラスで飲むほうが美味しかった。
Rating:86.25/100

Thought:通常の46やカスクストレングスと較べて、よりねっとりとした舌触りであり、フレイヴァーが濃密な印象で、取り立ててオーヴァーオークな感じもせず、香ばしさが引き立てられていると思いました。パレートで感じる香味は確実に複雑ですが、反面、全体的にドライな傾向も強いのが個人的にはマイナス。口蓋で感じる強いスパイシーさや、余韻の苦味が退けた後にほんのり甘さが現れるあたりが、「大人な」メーカーズマークを目指したであろう本品の良さと言えます。ただ、もう少し分かりやすい甘味が余韻にあるほうが自分には好みなので、この評価でした。

Value:プライヴェートセレクトと言うか、ウッド・フィニッシュ・シリーズは、メーカーズ原酒の持つフレイヴァーをアンプリファイドした製品なので、例えば通常のカスクストレングスが6500円、プライヴートセレクトが7500円とすると、1000円が増幅代(手間賃)な訳です。ここに価値を見出だすかどうかが評価の分かれ道だと思います。もっと言うと、実際に飲んでみるまで通常のカスクストレングスより美味しいのか美味しくないのかが判らないギャンブル要素があるのに、少しだけ高い値段となるのがポイントなのです。1000円のギャンブルを安いと思うか高いと思うかはその人次第。結局のところ自分で飲むしか購入価値の判断が出来ないことがプライヴェートセレクトの欠点でもあり面白味でもあるでしょう。とは言え、概ね美味しくはなっていると思いますし、また幾つかのプライヴェートセレクトを飲んでみてステイヴ・セレクションが自分の好みに合ったリカー・ストアを見つけてしまえば、1000~1500円程度でのアップグレードは安いと言わざるを得ない「大きな価値」になります。


*一部の情報では、このステイヴのみ二つのトリートメントを組み合わせており、最初に高温の赤外線オーヴンで焼き、そして次にコンヴェクション・オーヴンへ移して低い温度で調理される、と説明されていました。真偽が判らなかったので、ここではメーカーズの公式ホームページでの説明がコンヴェクション・オーヴンの高温と低温とされていたため、そちらの説を採用しています。

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今夜は年末年始に向けてロカビリーやロックンロールな映画を集めてみました。どれも自分がティーンの時に影響を受け、今だに大好きな映画たち。

若きチカーノロッカーを完璧な青春映画として描いた「ラ・バンバ」、デニス・クエイドのキレた演技もさることながらウィノナ・ライダーが可愛すぎる「グレート・ボール・オブ・ファイヤー」、ジョニー・デップ他出演者みなが濃ゆいロカビリー版ミュージカル「クライ・ベイビー」、まだ有名になる前のブラッド・ピッドのリーゼントとファッションだけでノックアウトの「ジョニー・スエード」、お揃いのジャケットに憧れる「ザ・ワンダラーズ」、レザーとモーターサイクルが野郎を魅了する「ラブレス」、どれもカッコよくてクラクラしちゃいます。







これらに合わせるバーボンはもちろんレベルイェール。そもそもは、かの有名なスティッツェル=ウェラー蒸留所が南部限定でリリースしていた小麦バーボンで、現在はラクスコ(旧デイヴィド・シャーマン社)が販売しています。昔の物はラベルに南軍の兵士が刀を片手に馬を疾駆する姿が描かれていましたし、「ディープ・サウス専用」なんて文言も書かれていました。またロカビリアンのアイコンとも言えるレベル・フラッグがフィーチャーされた海外向けのラベルの物まであり、サザーン・カルチャーという共通項からロカビリーや初期ロックンロールとは相性がいいのです。
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そしてレベルイェールというブランド名ですが、日本ではよく「反逆の叫び」と訳されてるのを見かけます。別に間違いではないですし、それがロックなイメージを加速させるの役立っているのですが、実際には上に述べたラベルの件で分かるように、ここでの「レベル(Rebel)」は北軍に「反逆・反抗」した者の意となり、「イェール(Yell)」は日本語で「エールを送る」と言う時のエールと同じ英語の「怒鳴る・喚く・気合いを入れる掛け声」などを意味する言葉で、南北戦争における南軍の兵士が戦闘の時にあげる甲高い遠吠えのようなものを「レベル・イェール」と言います。だから日本語なら「南軍の雄叫び」とでも言うと分りやすいですかね。狼や犬の遠吠えを思わせる奇声で、多人数でやるとけっこう耳障り。

(元南部軍人によるレベル・イェールの再現)

レベルイェールと聞いてこの音声が頭に再生されるようになれば立派な南部愛好家バーボン飲みです。とは言え、現在のラベルは南部色は完全に払拭され、ただ名前にその名残があるのみ。それ故にレベルイェール本来の意味が忘れ去られ、「反逆の叫び」という一般化がなされてしまったのも仕方のないことかも知れません。ある時にレベルイェールを所有していた会社が全国展開を決定したことで、そういう方針になったのです(RYの歴史は別の機会に紹介します)。ロカビリー好きとしては残念ですが、時代の流れもありますし、販売戦略として南部色の撤廃は間違ってはいないでしょう。ただし、ロックに話を限るのではなく過去に戦争の歴史があったことや、オールド・サウスへの郷愁や南部人の心意気を喚起するラベルだったことは忘れたくないところです。ちなみに日本では「レベルイエール」とか、私も「レベルイェール」と綴ってますが、実際の英語発音に合わせるなら「レベルイェル」とした方が近いです。

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また、このバーボンはローリング・ストーンズのキース・リチャーズが愛飲したバーボンとして知られています。確かにキースがレベルイェールを手に持つ写真が残されているものの、どう考えても飲んだ量からしたらジャックダニエルズのほうが多い気がしません? キースはジャックダニエルズとレベルイェールのどちらが好みだったんでしょう? キースに詳しい方がいたら教えて頂きたいです。
そして更にはキース経由らしいですが、レベルイェールはビリー・アイドルのソング・タイトルにもなっています。ビリー本人が語るところによると、彼は或るイベントに出席した時、ミック・ジャガー、キース・リチャーズ、ロン・ウッドらのローリングストーンズの面々が、レベルイェールと云うバーボンウィスキーをボトルからがぶ飲みしてるのを見て、よく知らないブランドだったけれど、その名前が妙に気に入って「Rebel Yell」の曲を書くことにしたのだとか。


そんな訳でとにかくロックな酒として語られるバーボンですが、どちらかというとソフトな傾向とされる小麦バーボンであり、味わい的には荒々しい闘鶏がモチーフのファイティングコックでもラッパ飲みしてくれたほうがよっぽどロックじゃないかなという気がします(笑)。まあ、完全に個人的偏見ですけれど…。

さて、今回レヴューするレベルイェール・スモールバッチ・リザーヴは、2008年から導入されていた「レベル・リザーヴ」の後継として、2015年にパッケージと名前をリニューアルして発売された製品です。
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近年、ラクスコはレベルイェールを大きなブランドへ成長させる努力をしているように見えます。それは大幅なラインナップの拡大や、僅か数年でパッケージをマイナーチェンジする施策に見て取れました。製品の種類が増えるのは構わないのですが、ラベルのデザインをコロコロ変えるのは個人的には好ましいと感じません。何か腰の座ってないブランドとの印象を持ってしまいます。このスモールバッチ・リザーヴにしても、現在終売なのかどうかもよく判らないのです。2019年の4月にも新デザインとなり、それに合わせて100プルーフのヴァージョンが登場しました。もしかすると、そちらがスモールバッチ・リザーヴの後継なのかも知れませんね。
全てではないですが、一応ざっくりここ数年のレベルイェールを紹介しておくと、先ずエントリークラスのスタンダードの他、ハイプルーフ版となるスモールバッチ・リザーヴ、スモールバッチ・ライ(MGPソース)、ハニーとチェリーのフレイヴァーの物、バーボンとライのブレンドであるアメリカンウィスキー、10年熟成のシングルバレル等がありました。下画像の上段が旧ラベル、下段がリニューアル後のラベルです(シングルバレルは別枠)。
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話をスモールバッチ・リザーヴに戻しましょう。長い間NDPだったラクスコは、2018年4月に自社のラックス・ロウ蒸留所を完成させましたが、それまではヘヴンヒルから原酒を調達していた(販売数の確保のため今でも調達してると思われます)ので、この製品の中身はヘヴンヒルのバーンハイム蒸留所で造られた小麦レシピのバーボンです。つまり、元ネタとしてはヘヴンヒルのオールドフィッツジェラルドやラーセニーと同じな訳です。マッシュビルは68%コーン/20%ウィート/12%モルテッドバーリー、樽の焦がし具合は#3チャーとされ、熟成年数はNASですがスタンダードなレベルイェールの4年よりも少し熟成年数が長いのではないかと考えられています。では、そろそろレベルイェール・スモールバッチ・リザーヴを注ぐとしましょう。

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推定2017年前後ボトリング。グレイン、ウッド、少ないキャラメル、チェリー、ペッパー、微かなシナモン。かなりサイレントなアロマ。香りから想像するよりは濃い味。水っぽい口当たり。余韻はあっさり短く、地味なスパイス感と辛み。パレートがハイライト。
Rating:80/100

Thought:典型的なバーボンの香りはしますが、正直言って物足りない味わいでした。スタンダードより2年程度熟成年数が長いのではないかと予想していたのですが、どうかなあ、もっと若そうな…。もしくは、かなり質の低い樽から引き出されたと言うか、適切な熟成がなされていない小麦バーボンのような気がします。これを飲んだ個人的感想としては、若い小麦バーボンを飲むならコーン比率の高い普通のバーボンを飲むほうが甘さを感じられて美味しいと思ってしまいました。

Value:レベルイェール・スモールバッチ・リザーヴは、スモールバッチを名乗るとは言え、アメリカでの小売価格は25ドル前後だったので、所謂「ボトムシェルフ」バーボンです。そう割りきれば味のマイナス点は気にならないでしょう。つまり「スモールバッチ」と言う言葉から過度な期待をしなければ十分美味しいのです。しかし、日本での販売価格は概ね3000円代。それなら個人的には、同じ小麦バーボン縛りで言えばメーカーズマークの方が余韻に宜しくない辛さを感じないのでオススメです。よっぽどレベルイェールの名前やロックなイメージが気に入っているのならば話は別ですが…。

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