カテゴリ: コーンウィスキー

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一見オイルやペンキかなと思えてしまう缶に入ったデザインが人気のスティルハウス・オリジナル・ウィスキー。無色透明アンエイジドの100%コーンウィスキーで、いわゆるムーンシャイン(*)というやつです。このウィスキーは初めてリリースされた時(2010年頃?)は、小さな取っ手付きのガラス製ジャグに容れられ、おそらく販売地区も限られた極少量生産だったのではないかと思いますが、2016年にデザインを一新すると忽ち評判となり配給も全国的に拡がっていきました。

この極度に差別化されたデザインは、我々バーボン飲みにはお馴染みのブレット・フロンティア・ウィスキーを手掛けたオレゴン州ポートランドのデザイン・エージェンシー、サンドストロム・パートナーズが作成しています。ビールのようなアルミ缶ではなくステンレスで出来た缶で、ガラス瓶より軽く平たい形状は持ち運びの利便性に優れ、落としても割れず、リサイクル利用も可能。長方形ブリキ缶の工業的強度と有用性はインスピレーションとして役立ったとか。型は何かの流用ではなくカスタムオーダーのオリジナルだそうです。このパッケージングはスティルハウス・スピリッツ社の創設者兼CEOであるブラッド・ベッカーマンの企業家精神をうまく体現したものと言っていいでしょう。父もスポーツブランドの起業家であるブラッドによって設立されたスティルハウス・スピリッツ社は、業界の破壊者であり革新者であり大胆な挑戦を旨としています。そういった精神(姿勢)こそが、そのユニークな容器を産み出し、スピリッツ業界で今のところ唯一の缶入りウィスキーとしているのかと。「あなたのガレージ」に何の違和感もなく溶け込む見事なデザインですし、バーに置いても敢えて異質な感じがよく映えると思います。斯く言う私も中身よりパッケージに惹かれて買いました。飲み終えたら飾りたいなって。

2010年頃のガラスジャグと2016年にリニューアルされた物には「Moonshine」、また多分その後の物には「Clear Corn」の記載があり、現在ではそれらはなくなり単に「Original」と名乗っていますが、おそらくどれも同じ100%コーン・マッシュビルを使用した未熟成のコーンウィスキーで、80プルーフ(40%ABV)だと思われます。これをベースに天然フレイヴァーを加えた69プルーフ(34.5%ABV)のヴァージョンもオリジナルと同じ象徴的なチェリーレッドの缶にシールの色を変えて販売され、味はアップルクリスプ、ピーチティー、ココナッツ、ミントチップ、レッドホット等があります。その他にオリジナル以外のヴァリエーションとして、黒い缶のブラックバーボン(トップ画像左の物)や、白い缶のウォッカも近年発売されました。

さて、肝心の中身についてもう少し掘り下げたかったのですが、どうもデザインの話題が先行するせいか、ネット上にはしょぼい情報しか転がってなく、いくつかの情報源を参照して纏めると、地所で育てられたトウモロコシと隣接する川の帯水層からライムストーン・ウォーターを使い、独自のサワーマッシュレシピを用いて、本格的なカッパー・スティルにて蒸留された後、品質と味わいのために木炭濾過されているとのこと。2017年?頃まではケンタッキー州とヴァージニア州の蒸留所で造られていたようですが、リニューアル後の前例のないレベルの需要により、最初の生産からほぼ売り切れだったとされ、製品に対する需要の水準に合わせるために、2018年頃?蒸留所と生産施設をテネシー州コロンビアに移したそうな。カンパニー情報系のサイトで調べると会社の本部はロサンゼルスとされ、スティルハウス・スピリッツ社が自社の蒸留設備を所有してるのかどうかよくわかりませんでした。蒸留施設の写真が全然見つからないところからして、もしかするとNDPなのかも知れません。別に悪いことではありませんが。では、飲んだ感想を少しばかり。

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Stillhouse America's Finest Original Whiskey 80 Proof
SERIAL No. OG-B006-1917
焼いてない食パン、強いて言えばマスカットと白桃。口当たりはなかなか円やかで、味わいも未熟成にしてはそれほどトゲトゲしさを感じない。それなりに甘い。日本では最も入手しやすい「ムーンシャイン」のジョージアムーンと較べるとだいぶ飲みやすく感じる。
Rating:70/100

Value:個人的にはどうしてもブラウンリカーが好きなので、それらに較べれば点数が低いのは致し方ありません。そもそも製品意図として、冷凍庫でキンキンに冷やしたり、果物ジュース等のミキサーありきの製品なので、常温ストレートで飲むシッピング・ウィスキーではなく、正直このまま飲んで美味しいものとは言い難いのです。ただデザインは頗るカッコいいので買う価値はあると思います。


*ムーンシャインは本来、政府の認可を得ずに違法蒸留されたスピリッツを指しますが、現代ではマーケティング用語として、熟成のされていない主にトウモロコシのウィスキーを指しています。同じように主原料が砂糖黍だとシュガーシャインと呼び習わされています。

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Georgia Moon Corn Whiskey 80 Proof
フルーツ・ジャーに入ったコーン・ウィスキー、ジョージア・ムーン。英語では密造酒のことをムーンシャインと言い、密造酒の造り手をムーンシャイナーと言います。違法な蒸溜は夜陰に乗じて月明かりのもとに行われるところから由来している言葉です。このジョージア・ムーンはちゃんとした蒸溜所で違法行為でも何でもなく造られたお酒ですが、そういうイメージを上手く活用したパッケージとなっています。ネーミングといい、瓶に使われるジャーといい、ペーパーバッグ的質感のラベルといい、密造酒文化へのオマージュとも言えそうな独特のカッコ良さ。ラベルには「Less than 30 days old(30日未満の熟成)」と書かれていますが、これはおそらく未熟成の意ではないかと思います。たかが30日以内に樽の出し入れをしてたら手間ですし、中途半端な中古樽が出来てしまいますから。

偖て、現在ではヘヴンヒル蒸溜所で造られているジョージア・ムーン、そのオリジンや来歴をネットで調べてみたのですが詳しい情報が見つかりませんでした。けれども、ジョージア・ムーン(ジョージアの月光)という名前と、年式の古いボトル(70年代あたり?)のラベルに記載された所在地から判断するに、ジョージア州オーバニーで蒸溜されていたのではないでしょうか。おそらくそこに、現在でもラベルに書かれているジョンソン・ディスティリング社があったものと推測します(追記あり)。そしてそれより年式の新しい物(おそらく70年代終わり頃から80年代)には、ケンタッキー州オーウェンズボロの記載が見られ始めます。これはグレンモア蒸溜所を指していると思われます。80年代後半から90年代前半のバーボン業界を取り巻く買収劇の中で、グレンモアはユナイテッド・ディスティラーズに買収され、その後、90年代中頃にジョージアムーンをその他のブランドと一緒にヘヴンヒルが買い取ったのでしょう。たいして根拠のない推理ですので、話し半分に聞いておいて下さい(ここら辺の事情に詳しい方はコメントから御教示頂けると幸いです)。

で、お味の方はと言いますと、30日以下の熟成なので……お世辞にも美味しいとは言えません。ストレートで飲むには、本当に酔うだけのためと言った感じです。しかも自家製カクテルのベースとしても少々荒削り過ぎる嫌いがあり、純度の高いウォッカのほうが素人には遥かに使いやすい。けれども、その荒々しさこそムーンシャインの真骨頂ですよね。本ボトルは推定06年ボトリング。
Rating:68/100

追記:どうやらジョンソン・ディスティラリーはヴァイキング・ディスティラリーという事業名を持っていたようです。自らアラバマ州で初めての合法的蒸溜所と名乗っていました。ジョージア・ムーンのオリジナルはここで間違いないと思います。他にも海外のオークションでジョージア・ムーンと同じジャーに入ったバスタブ・ジンも見かけました(ヴァイキング・ディスティラリー名義)。また、ジョージア・ムーンで4年熟成100プルーフの画像も見かけました。こちらはマサチューセッツ州ボストンとオーウェンズボロの記載があるやつです。熟成されているので、きっとメロウ・コーンに近い味わいだったろうなと想像しました。

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PLATTE VALLEY 100% STRAIGHT CORN WHISKEY 3 YEARS OLD 80 PROOF STONE JUG
ミズーリ州にあるマッコーミック・ディスティリング社のストレートコーンウィスキー。おそらく80年代後半か90年代前半の流通品だと思います。現行のボトルとは図柄の感じが少し違います。なぜか分かりませんがこの頃は「Distilled in Kentucky」と書かれており、蒸留はミズーリ州でやってなかったようです。
3年熟成のジュースは正直言って熟成不足で味の深みは全くもってありません。けれど、ほんのり甘みがあってライト志向の方には良いのかも。そして安いことと、ストーンジャグの格好良さは抗し難い魅力があります。
Rating:73/100

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MELLOW CORN BOTTLED IN BOND 100 Proof
コーン・ウィスキーの代表的な銘柄メロウコーン。コーン・ウィスキーらしい癖がハッキリと感じられるハイ・プルーフ、しかも安いとあって、アメリカではかなり人気があります。昔はメドリー蒸溜所のブランドでしたが、現在ではヘヴンヒル蒸溜所のブランドになっており、ラベルにその名残が見られます。こちらはボトルド・イン・ボンド規格ですから、おそらく熟成年数は最低限の4年でしょう。またコーン・ウィスキーの規定から、熟成樽は古樽もしくはチャーしてない新樽になります。そのためか、バーボンに比べ円やかさに欠ける嫌いがあるし、深みや奥行のある芳香もないし、コーン・ウィスキー臭さも残ってますが、100プルーフあるので満足度は高いです。
Rating:79/100


さて、問題はここからです。ラベルに注目してください。ボトルド・イン・ボンド規格のスピリッツには、蒸溜した施設のDSPナンバーと、ボトリングした施設のDSPナンバーも記載せねばなりません。ラベルから読み取れるのは、蒸溜はDSP-KY-354、ボトリングはDSP-KY-31です。「354」はブラウン=フォーマンが所有するアーリータイムズを作っているプラントを表し、「31」はヘヴンヒル所有のバーズタウンにあるボトリング施設を表します。ヘヴンヒルの蒸溜施設は元々バーズタウンにあったのですが、96年の大火災により全焼し、現在はボトリング施設と熟成庫のみとなっています。そして99年にルイヴィルのバーンハイム蒸溜所を購入して蒸溜を再開し現在に至るのですが、この蒸溜所がなかった期間はブラウン=フォーマンやジムビームが蒸溜を代行していました。
で、このボトルは推定2013年ボトリングと思われます(瓶底判定)。熟成期間の4年を引くと蒸留は2009年。はて? とっくに自社蒸溜に切り替わっている頃なのではないでしょうか? 残り物のラベルを使用している可能性もなくはないと思いますが、だとしたら余りにも残り過ぎな気がします。いや、第一厳格なボトルドインボンド規格を謳いながら、残り物など使っていたら駄目でしょう。

ここからは私の推理なので話し半分に聞いて(読んで)下さい。ヘヴンヒルからリリースされているライウィスキーにリッテンハウス・ライ・ボトルド・イン・ボンドという銘柄があります。安くて旨いライ・ウィスキーということもあり大変人気のあるブランドです。有名な話なのですが、火災後このリッテンハウス・ライはブラウン=フォーマンが契約蒸溜をしていました。ボトルド・イン・ボンド規格ですからラベルに「DSP-KY-354」の記載があり、或る年のものから「DSP-KY-1(バーンハイム蒸溜所の番号)」に変わりました。調べてみると、どうやらその契約が2008年までだったようなのです。ごく単純に計算して、2008年蒸溜に熟成期間の4年をプラスすると2012年となり、このメロウコーンのボトリング2013年との誤差が一年のみになります。一年の誤差ならなんとでもなる差です。あまり語られることのないメロウコーンの裏話だけに、情報が少なくて混乱しましたが、おそらくメロウコーンも2008年までブラウン・フォーマンが契約蒸溜していたのではないでしょうか? だとしたらラベルの謎も合点がいくのですが…。ここら辺の事情に詳しい方がいらっしゃいましたら、是非とも情報提供をお願いしたいです。

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