カテゴリ: 企画シリーズ

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今回ご紹介するのは小岩のバー、マスターピースです。バーテンダーとして30年以上の経験を積んだオウナーさんが一人でやっているお店で、2015年10月21日にオープンしました。基本的にカクテル・バーなので、メインはカクテルなのですが、モルトやバーボンのレア物もあることで知られています。店名となっている「Masterpiece」という英語は、「傑作」、「名作」、「代表作」などの意味をもつ言葉であり、ここに来ればそういう傑出したお酒に出会えますよ、或いは貴方にとってそういうお酒に出会って欲しいとの想いを込めて名付けられました。とは言え、このバーの魅力はお酒よりも寧ろ気さくで人懐っこいマスターのトークにあるかも知れません。私が伺った時は、新婚旅行のエピソードや酒の失敗談などで爆笑し、楽しい時間を過ごせました。カクテルが充実していることもあり、適度に薄暗い店内の照明やBGMのジャズと相俟って、女性一人でも訪れやすいバーです。現に私が行った時は、常連?の女性が一人で飲んでいました。季節限定のカクテルなどは拘りのあるものが飲めるようです。

マスターはイタリアかぶれのバーテンダーを自称していたりするのですが、アメリカのバーボンも大好きでよく飲んでいたそう。愛飲していたのは、なんとヴァージン・バーボン7年。昔はケースで買って、週に一回程度、一晩で2ボトル開けてしまうという訳の分からん飲み方をしていたとか…(笑)。よほど好きなのでしょう、店内にはヴァージン・バーボンのパブ・ミラーも飾られていました。バーボン好きには堪らないカッコ良さですよね。
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我々バーボン愛好家としては、気になるのはバーボンの品揃えですが、流石にボトルの本数的にはバーボン主体の店のようには多くありません。しかし、そこら辺で簡単には飲めない厳選された銘柄が残っています。また、まだ未開封の90年代のレアなボトルもありました。気になる方はバーのツイッターでチェックしてみて下さい。


BAR Masterpiece
〒133-0057 東京都江戸川区西小岩1丁目19−36 ケイズファーストビル 201
Tel. 03-3672-7507

営業時間 19:00〜25:00
日曜定休日
※マスターが一人で営業のため、用事がある時は臨時休業になります。店休のお知らせは各種SNSでご確認を。

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今回は同じ蒸溜所で造られ、同じプルーフでのボトリング、そしてほぼ同じ価格である二つを飲み比べる企画です。一つがヘンリーマッケンナの(並行輸入品ではない)キリン正規品、もう一つがフォアローゼズのブラックラベル。どちらも現在酒販店に流通している所謂「現行品」です。この比較対決は、以前このブログへコメントしてくれた方からヒントを得て企画されました。

フォアローゼズ・ブラックがフォアローゼズ蒸溜所で造られているのは名前の通りなので判り易いですが、ヘンリーマッケンナについてはヘヴンヒル製造の物もあるので少し説明が必要でしょう。
アイルランド移民のヘンリー・マッケンナは、1855年、ケンタッキー州フェアフィールドにて蒸溜を開始しました。量よりも質を重視し、1日1バレル程度の規模で操業していたと言われています。1880年頃までにマッケンナのブランドは人気が高まり、上質なケンタッキー・バーボンとして評判を得、1883年には新しいレンガ造りの蒸溜所を建設し、1日3バレルに生産量を増やしたそうです。1893年にヘンリーが亡くなると、息子達が事業を引き継ぎ、ビジネスを更に成長させました。しかしご多分に漏れず禁酒法の訪れにより蒸溜所は閉鎖を余儀なくされます。マッケンナ家の所有する熟成ウィスキーは、A.Ph.スティッツェル蒸溜所の集中倉庫に保管され、薬用ライセンスを取得していた彼らに手数料を支払うことでボトリングしてもらいメディシナル・ウィスキーとして販売されました。禁酒法が撤廃されるとマッケンナ家はフェアフィールドで蒸溜所を再開。新しい蒸溜所の生産能力は1日20バレル程度だったようです。大恐慌とそれに続く第二次世界大戦の到来によって会社は継続するのに苦労し、ヘンリーの息子の死により残された一族は1941年にブランドと蒸溜所をシーグラムに売却しました。シーグラムはヘンリーマッケンナ・バーボンの販売を続けますが、フェアフィールドの蒸溜所で製造されたウィスキーの殆どはセヴン・クラウンやフォアローゼズ等のブレンデッド用に回されたと言います。その後、1960〜80年代に掛けてのストレート・バーボンの売上減少は、多くのケンタッキー蒸溜所の閉鎖を招きました。フェアフィールドのヘンリー・マッケンナ蒸溜所もその例外ではなく、1974年、遂に閉鎖されてしまいます。生産はルイヴィルのシーグラム工場に移り、そこも閉鎖されるまでの短期間はそちらで造られていた可能性も示唆されています。そして1980年代初頭にシーグラムはヘンリーマッケンナのアメリカ国内でのブランド権をヘヴンヒルに売却しますが、海外市場向けのブランド権は保持しました。これにより、海外向けの生産はローレンスバーグのオールド・プレンティス蒸溜所(現フォアローゼズ蒸溜所)、アメリカ国内向けの生産はバーズタウンのヘヴンヒル蒸溜所と、マッシュビルや酵母を共有しないニ種類のヘンリーマッケンナが産出されることになります。
21世紀初頭、長年に渡りスピリッツ業界の頂点にあったシーグラムも、飲料ブランドの名前としては一部残ったものの企業としては終りを迎えました。サミュエル・ブロンフマンとその息子エドガーが運営していた頃には業界を支配していたシーグラムですが、1994年にエドガーの息子エドガー・ジュニアに経営がバトンタッチされると、残念なことにスピリッツ事業に関心がなかった彼が率いる会社は急速にエンターテインメント事業への傾斜を強めます。しかし、巨額の買収費用に対して映画部門ではヒット作に恵まれず収益も上がらなかったため、2000年にフランスのヴィヴェンディと合併するに至りました。メディア事業の拡大を進めるヴィヴェンディにはアルコール飲料会社の所有権は必要なかったので、短期間所有した後、酒類部門はイギリスの新生ディアジオとフランスのペルノ・リカールに分割して売却されます。嘗て世界最大級の酒類会社であったシーグラム帝国は、エドガー・ジュニアが会社を継承して僅か8年で消滅した訳です。シーグラムの酒類部門が売却されたのに伴い、2002年2月、最終的に日本のキリンがフォアローゼズのブランドとローレンスバーグの蒸溜所を所有することになりました。キリンとシーグラムは1972年に合弁会社キリン・シーグラムを設立して事業を展開して来ましたし、キリンは以前からフォアローゼズのアジアでの販売業者となっておりブランドとの繋がりがありました。キリン・シーグラムはシーグラムの酒類事業売却により社名をキリン・ディスティラリーに変更しています。取引の詳細は分かりませんが、おそらくフォアローゼズの全事業権を取得した時にヘンリーマッケンナの海外事業権もキリンが取得したものと思われます。2006年にオーストラリアとニュージーランドで大手の飲料会社であるライオン・ネイサン(現ライオン)はキリンからマッケンナ・バーボンの権利を取得しているようなので。ともかく、こうして現在の日本では、ヘヴンヒルが製造するアメリカ国内版の並行輸入品と、フォアローゼズが製造するキリン正規品とが同時に市場に流通しているのでした。ただ、どちらかと言えば並行品の方が多くの酒販店で取り扱われ、正規品を取り扱っている店舗は少なそうな印象がありますね。

※重要な追記:記事を投稿後にキリンのヘンリーマッケンナのホームページを調べたら、最上部に「『ヘンリー マッケンナ』は2022年10月7日をもって出荷を終了させていただきました」との告知がありました。せっかく現行製品同士での対決という企画だったのですが、残念ながらキリン版のフォアローゼズ製ヘンリーマッケンナは終売になったようです。私が下調べのためにキリンのホームページを見た時は確かそんな事は書かれてなかったと思うのですが…。いや、タイミング悪っ。一応、私が記事を書いた時点でこれは分ってなかったので、タイトルや記事内容は修整しません。皆さんの頭の中で修整よろしくお願いします。

今回は同じヘンリーマッケンナという名を持つヘヴンヒル産とフォアローゼズ産の二つの違いを較べるのではありません。それも蒸溜所の個性の違いが味わえて面白いでしょうが、私にとってもっと興味深いのは同じ蒸溜所で造られながらどこまで違うのか、或いはどこまで同じなのかという方だったからです。周知のようにフォアローゼズ蒸溜所では2種類のマッシュビルとキャラクターの異なる5つのイーストを使って10種類の原酒を造り、それらをブレンドすることで品質と味を安定させたり、その組み合わせにより異なるフォアローゼズ・ブランドを作成しています(FRの10レシピについての仔細は過去に投稿したこちらを参照ください)。それならば、ヘンリーマッケンナとフォアローゼズ・ブラックで造り分けもし易いのではないか、と。いや、逆に手抜きしてブランドは違うが中身はほぼ一緒なんてことだってあるかも知れないぞ、と。冒頭に述べたように、幸いにもこの二つは同一のプルーフで市場価格もほぼ同じ、これは対決するしかないでしょ!?という訳で、そろそろバーボンを注ぐ時間です。

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目視での色の濃さは殆ど差を感じません。

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HENRY McKENNA 80 Proof
ボトリング年不明(購入は2022年)。明るめのブラウン。ライスパイス、薄っすらキャラメル、ウエハース、洋梨、ペッパー、青りんご、コーンフレーク。ややフルーティでトースティな木の香り。僅かにとろみのあるテクスチャー。口全体に甘みを感じつつもピリリとスパイシーな味わい。余韻はグレイニーでほろ苦くドライ気味。
Rating:81→82/100

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FOUR ROSES Black Label 80 Proof
ボトリング年不明(購入は2022年)。薄めのブラウン。熟したプラム、トーストした木、蜂蜜、ヴァニラウエハース、ホワイトペッパー、リンゴの皮。熟したフルーツを内包したややフローラルな香り。水っぽい口当たり。口中では甘くもありスパイシーでもありフルーツの存在感も。余韻はあっさりめながら豊かな穀物が現れ、最後に苦味が少し。
Rating:86/100

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Thought:両者は思ったより違いました。値段が殆ど同じなのでもっと味わいも近いのではないかと予想していたのですが、意図的にブレンド構成を変えている可能性はありそうなくらいに違いはあります。レシピ(マッシュビルとイーストの組合せ)が違うのか、熟成年数が違うのか、バレル・セレクトの基準が違うのか、或いはそれら全てなのか判りませんけれども。
私は昔からフォアローゼズ・ブラックを買い求め易い80プルーフのバーボンでは最も美味しいと非常に高く評価しています。90年代から現在のボトルまで一貫してリッチな熟したフルーツの風味があり、品質が安定しているからでした。その風味はフォアローゼズ蒸溜所で造られていた時代のブレット・バーボンでも感じ易かったです(特にブレット10年)。ところがこのヘンリーマッケンナにはそれが欠落しています。両者の違いをやや誇張して言うと、ヘンリーマッケンナは基本的にライトなフルーツ感をもつスパイシーなグレイン・フォワード・バーボンで、出てくるフルーツは洋梨や青りんごのようなフレッシュ・フルーツであるのに対し、フォアローゼズ・ブラックは基本的にスパイシーなフルーツ・フォワード・バーボンで、HMよりもう少し熟したフルーツ感があり、樽感も幾分かダークに感じます。仮に両者でバッチングに使用されるバレルの平均熟成年数が異なるのであれば、ヘンリーマッケンナは4〜5年熟成程度、フォアローゼズ・ブラックは6年熟成以上と言ったイメージかな、と。
二つのバーボンの似た部分は、どちらも液体を飲み込んだ直後のライ・キックが強いところでしょうか。とは言え、フォアローゼズ蒸溜所の2種類のマッシュビル「E」と「B」のどちらなのかの判断は難しいです。「B」マッシュビルの方がライ35%とライ麦多めのレシピではありますが、「E」マッシュビルであってもライ20%と他の蒸溜所ではハイ・ライと言ってもよいライ麦含有率ですし、フォアローゼズ・ブラックはOESKとOBSKの50/50のブレンドとどこかで見かけたことがあるので、ヘンリーマッケンナだって両マッシュビルを使ったレシピのブレンドの可能性も大いにありますから。
ところで、フォアローゼズのレシピに使用される5つのイースト「V・K・O・Q・F」は、イーストの研究に余念のなかったシーグラムが往時ケンタッキー州で所有していた五つの蒸溜所にルーツをもつと聞きます。どれがどの蒸溜所のものなのか私には判りませんが、その五つはルイヴィルのカルヴァート蒸溜所、シンシアナのオールド・ルイス・ハンター蒸溜所、ラルーのアサートンヴィル蒸溜所、ローレンスバーグのオールド・プレンティス蒸溜所、そしてネルソンのヘンリー・マッケンナ蒸溜所とされます。となると、ヘンリーマッケンナ・バーボンにはヘンリー・マッケンナ蒸溜所に由来するイーストが使われているのでしょうか? もしそうだとするならば、ヘヴンヒル製造の物よりも「血統」というロマンがあると思うのですが…。ここらへんの秘密を知ってる方は是非ともコメントよりご教示お願いします。
※ヘンリーマッケンナは開封直後はサイレントなアロマで味わいもパッとしなかったのですが、液量が半分以下になる頃には甘い香りが増して美味しくなりました。これが上記のレーティングの矢印の理由です。

Verdict:フォアローゼズ・ブラックに軍配を上げました。単に好みの問題かも知れませんが、個人的にはこちらの方が高いウィスキーの味がするような気がするので。ヘンリーマッケンナに関しては、もしかするとスタンダードなフォアローゼズ・イエローの現行品(ラベルがベージュになったやつ)にすら自分の好みとしては負けるかも知れません。全体的に少し単調な印象なのです。まあ、フォアローゼズ蒸溜所産だけに安心の美味しさですし、ライ麦の効いた味わいは私の好みでもあり、飽くまで高いレヴェルの中での些細な話ですがね。

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(画像提供F氏)

マスターズ・レアは、今となっては正に名前の如くレアなバーボン。グレンモア・デイスティラリーズが1970年頃に導入したブランドです。現代に生き残っていない古いブランドにありがちなことですが、ネットで探っても情報が殆ど見つからず詳細は分かりません。よって以下は憶測になります。おそらく、マスターズ・レアという名前からしても、ラベルのデザインからしても、限定的で高級志向なバーボンだったのではないでしょうか。また90.9プルーフという半端な数字でのボトリングなどには、どことなく現代のプレミアム・バーボンに通ずる趣が感じられます。

このバーボンの面白いところと言うか興味深いところは、ラベルに「SINCE1836」と、ジョセフ・ワシントン・ダントの有名なログ・スティルの創業年を記載しているところです。当時、「J.W.ダント」というブランドはシェンリーが所有していました。そのため、何故グレンモアがJ.W.ダントの創業年を匂わせるん?となる訳ですが、これはおそらくイエローストーン・コネクションによるものかと思われます。JWの息子であるジョセフ・バーナード・ダントはゲッセメニーに独自の蒸溜所を建設し、それをコールド・スプリングス蒸溜所と名付けました。ルイヴィルの卸売酒類業者テイラー&ウィリアムズ社は、この蒸溜所から供給されるバーボンでイエローストーン・ブランドを作成すると、すぐにヒットさせ彼らの旗艦ブランドにしました。この間にダントのディスティラーとしての評判は高まりましたが、禁酒法によりゲッセメニーの蒸溜所は一旦停止されてしまいます。禁酒法期間中、テイラー&ウィリアムズは薬用ウィスキーの販売ライセンスを持っていませんでしたがブランドを維持し、ウィスキーの保管料とボトリング手数料を払うことで、ライセンスを取得していた企業の一つブラウン=フォーマンによってイエローストーンは販売されました。禁酒法が解禁されると、JBとその息子達は蒸溜会社としてイエローストーン社を設立し、ルイヴィル郊外のシャイヴリーに新しい蒸溜所を建設しました。禁酒法以降、蒸溜所を始めるのは簡単ではありませんでしたし、40年代には戦争もありました。そのせいなのか、1944年にイエローストーン・ブランドはグレンモアにより購入され、同社は以後それを主力ブランドの一つにしていました。バーボンという「商品」のマーケティングは、伝統を重んじ、如何に歴史を遡れるかで価値が高まるようなところがあります。「なんと創業は18○○年!」などと言って。だからこそ、マスターズ・レアのラベルでJ.W.ダントの創業年を謳っているのではないかと…。

1966年頃にはイエローストーンはケンタッキー州で最も人気のあるブランドになったと言われますが、1970年代を迎える頃にはバーボンの売り上げは年々減少し汎ゆる蒸溜所の倉庫は満杯となっていたとも聞きます。そういう観点からすると、マスターズ・レアはNAS(熟成年数の記述なし)ながら、少なくともある程度は長期熟成原酒を含むのではないかと想像しています。ブランド名に使われる「レア(希少さ)」というワードにしても長熟の高尚表現と勘繰ることが出来るでしょうし。
ボトル前面下部のラベルに記載の「Bottled at the distillery by MSTER'S RARE DISTILLING CO. Louisville, Ky.」のマスターズ・レア・ディスティリング・カンパニーというのは想定企業名(架空企業名、DBA)ですが、所在地がルイヴィル表記であるところからすると、ボトリングはイエローストーン蒸溜所でしょう。使用している原酒もイエローストーンの可能性は高いと思いますが、グレンモアのもう一つの蒸溜所であるオーウェンズボロのプラントから来ている可能性も否定できません。何しろ「Distilled」とは書かれてませんから。また、海外の有名なバーボン掲示板で或るアメリカン・ウィスキー愛好家の方は、ダントの創業年とルイヴィルの所在地を記載しているところから、JBの弟のジョン・P・ダントの蒸溜所から来ているのではないかと書いていました。まあ、どれも憶測ではあります。海外のオークション・サイトの商品説明文ではグレンモア蒸溜所で製造された、と書かれていました。前後の文脈からしてオーウェンズボロのプラントを指していますね。

偖て、このようなレアなバーボンを飲むことが出来るのは、今年の4月から長野県諏訪市に新しくオープンしたバーボン・バー「Fujisan's_Bar」のマスターのご厚意によるものです。マスターのF氏とはインスタグラムで知り合い、バー開店以前から同じバーボン好き同士として仲良くしてもらっていたのですが、お店のストックの中でも希少な部類に属する物を開封したので是非味見をして欲しいとのことで、サンプルを送って頂けたのです。本来ならこちらがオープン祝いに何かしらせねばならぬところ、逆にこんなにも希少な物を飲む機会を提供して頂き感謝しかありません。この場を借りて再度お礼をさせて下さい。画像提供も含め、本当にありがとうございました! そして、いつかお店に伺いたいと思っております。最後尾にお店の紹介をしてありますので、バーボン好きの方は是非ともチェックしてみて下さい。では、飲んだ感想を少しばかり。

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MASTER'S RARE 90.9 Proof
推定70年代ボトリング。赤みを帯びた濃いブラウン。黒蜜、樹液、アニス、フェンネル、炭焼ハンバーグ、ドライオレンジ、お爺ちゃんの薬箱、レモングラス、僅かにバター。ノーズは濃密な甘い香りと爽やかなスパイス香が主で、柑橘系の香水のような香りも。水っぽい口当たり。パレートは複雑なハーブ&スパイス、収斂味も。余韻は長く、ややドライでハービー。アロマがハイライト。

中身に関する情報が全くないのですが、飲んでみるとけっこう長熟なのでは?というフレイヴァーに感じました。10年は超えていそうなマチュレーションです。時間をおくと複雑に変化する香りが面白く、崇高性を感じました。個人的には味わいにもう少し熟成フルーツもしくは濃い色のフルーツを、または甘みを感じたかったですかね。
Rating:88/100


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バーボンをコレクションして十数年のオウナーが、昼間農業に勤しむ傍ら、上諏訪駅から徒歩5分の位置にオープンした隠れ家的なバー。小さいながらも白を基調とした小綺麗な印象の店内は、アメリカン・ポップな飾りでレトロな雰囲気が味わえます。80〜90年代のオールド・バーボンを中心とした品揃えを、当時の仕入れ価格をもとにしたリーズナブルな値段で提供。パピー・ヴァン・ウィンクルからワイルドターキー、プリ・ファイアー・ヘヴンヒルからエンシェント・エイジまで。バーボンが8割、スコッチ1割、ジャパニーズとその他が1割という構成です。厳しい世の中にも拘らず、ほぼバーボンしかないお店を開く男気に乾杯。

Fujisan's_Bar
長野県諏訪市大手2-3-3桑澤店舗ビル1階

営業時間
月 19:00 〜24:00
火 19:00 〜24:00
水 19:00 〜24:00
木 19:00 〜24:00
金 19:00 〜25:00
土 19:00 〜25:00
日 19:00 〜24:00 

休日
殆どの場合やっていると思われますが、不定休のため利用前に店舗に確認するの無難かと。連絡は下記のエキテンのサイトが便利そうです。

Instagram
https://instagram.com/fujisans_bar?igshid=YmMyMTA2M2Y=

エキテン店舗情報
https://s.ekiten.jp/shop_34423568/?from=top_page

You Tubeでお店が紹介されていました

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(画像提供Destiny様)

過日、今のような状況になる前に、久々にバーボン・バー遠征に行ってきました。マニア筋の方には言わずと知れた名店、上大岡の「Shot Bar Destiny」です。

私がまだ殆どバーボンの知識がない時分、ワクワクしながら楽しみに読んでいた『バーボンウィスキー大百科』というブログがありました。自らが最も好きな銘柄から「ランドルフ」とハンドルネームを付けたバーボンマニアの方が、バーボンに対する想いやら、飲んだ銘柄の感想やら、忌憚のない意見などを開陳されているので面白いし、何より当時までに発売されていたバーボン関連の書籍や雑誌記事などのほぼ無意味なマーケティングの言葉を引用したブランド紹介と違ってもっと突っ込んだ情報を得れる有益なブログだったのです。残念ながら、もう10年以上前から更新されなくなっているため過去形で言いました。もし彼があのままブログを続けていてくれれば、私ごときが当ブログを始めることもなかったかも知れません。それは措いて、そこにはランドルフ氏自身のバーボン人生と重ねて幾つかのバーが紹介されており、その中でも目を惹くほど絶賛されていたのがデスティニーの前身にあたるお店でした。これ以上に熱情と愛のある紹介文もなかなかありませんので、ここに少しだけ引用させて頂きましょう(文意を変えない程度に省略を施しています)。

「関西の名店訪問を楽しんだ後も精力的に関東のお店を飲み歩」き、「飲んだバーボンの数400種類になっていました。その頃になると、徐々にではありますが追いかける銘柄も頭打ちに成り始めました」。「当時、私はとにかく飲んだことのない銘柄を追いかけ」、「飲んだことが無いものは新旧問わず飲みたくて仕方が無かったのです」。そこに現れたのが上大岡のバーボン・バー「ブルボン」でした。関東や関西の名店「にも無かったボトルがこのお店の棚に並んでい」て、「私はものすごいテンションが上がり、興奮したのを今でも覚えています」。「そんなマニアックな私をお店のマスター」は「暖かく出迎えてくれました」。マスターは「私より少し年上の方ですが、話を聞くと、私以上にバーボンマニア。ですので、私のような飲み手の気持ちをとてもよく分かってくれていて、ボトルを見たくて店の中をうろちょろしても、新たに開封したボトルのハーフショットでも、快く対応してくれました。今まで色々なお店でバーボンを飲んで来ましたが」、ここのマスター「ほどバーボンに強くこだわりを持ち、強く愛着を持っているバーテンダーさんは初めてでした。バーボンの味わい方、ボトルのラベルに書かれている地名から蒸留所を判別する方法、バーボンの歴史や現在までの流れなど、楽しいバーボン談義の中でさりげなく教えてもらいました。今まで私はとにかく銘柄だけを追いかけて飲んでいただけに、目から鱗が落ちるような話ばかりでした。このお店は単にバーボンの数があるだけではありません。バーボンの楽しみ方自体が色々できるのです。その後、何度も通いましたが」、「今振り返ると、もの凄い貴重なボトルも開けてくれたと思います。ここのお店でヴィンテージバーボンの魅力に開眼できたと思っています」。このお店そしてマスター「との出会いが、私にとってバーボンの魅力をさらに発見するきかっけになったのは間違いありません。私のバーボン人生の中ではとても大きな出会いになりました」。

どうでしょう、こんなものを読ませられては、バーボン愛好家は行きたくなってしまいますよね? また、私が本ブログのバー紹介で以前取り上げたフストカーレンに行った際、そこのオウナーのS氏も「バーボンの味わいを勉強するという点に関してはデスティニーさんがオススメです」という趣旨の発言をされていました。そんな訳で、私とて何年も前から行きたかったバーだったのですが、漸く機会あってこの度お邪魔することが出来た、と。

デスティニーは2003年5月7日に上大岡で「Shot Bar BOURBON(ブルボン)」としてオープンしました。数年間そこで営業された後、2007年7月1日に銀座に移転し、2010年8月まで営業。同年9月から元の上大岡へと戻り「Shot Bar Destiny」がオープンし現在に至ります。オウナーは98年頃から1200〜1300本位のバーボンを蒐集しており、その末にバーをオープンしたと聞きました。個人的に気になっていたのは、なぜ店名を変更したかでした。バーボンへの熱量から店名もそのままバーボン(ブルボン)というのは分かり易いではないですか。英語の「Destiny」は運命や宿命と訳される言葉なので、もしかすると「貴方とバーボンの運命的な出会いを提供しますよ」というような意味合いなのではないかと勘繰っていたのですが、まさかの単なる旧店舗(以前のバー?スナック?)の名前をそのまま使用しただけだそうですw。いや、まあ、それこそ「運命」なのかも知れません。私の解釈は正しいに違いない(強引)。

偖て、こちらのバー、そしてマスター、噂に違わぬ魅力がありました。取り揃えられたバーボンは、十年前に比べると超貴重酒の数は減ってしまったかも知れませんが、まだまだ関東屈指。特筆すべきことに、少なくとも今回私が飲んだ物に限っては、どれもボトル・コンディションが素晴らしかったです。基本的なことかも知れませんが、マスターは注文されたボトルを注ぐ前に入念に香りをチェックされていました。また、飲み終えたグラスはすぐ下げずに、分かり易いよう飲んだ銘柄のボトルの前に置き、グラスの残り香をいつでも確認できるように配置してくれる気遣いもありました。
そして私がマスターと同じ種類のバーボンを愛する人間ということもあり、バーボンの話は面白い面白い。バーボンに関して「何でも聞いてください」と仰って頂けたのに、私が極度に酒に弱いため数杯で思考回路が停止し、事前に用意していた質問の殆どが頭から抜け落ちる体たらく…。しかしそれでも、夜8時頃から閉店まで滞在し、至福の時間を過ごせました。何よりバーボンの知識云々は関係なく、それ以上にマスターのお笑い要素強めの?人柄が心地良かったのです。バーボン好きは絶対、そうでない方にもオススメ。現在の社会情勢が落ち着いたら是非行ってみて下さい。

そう言えば、一つ面白いなと思ったエピソードがあります。私がお店に滞在中、マスターは「今日はちょっと緊張してます」と何度か言っておられました。それは、日本で指折りのバーボン・バーと言えども、そうそう毎日バーボンマニアが集う訳ではなく、多少なりともバーボンを知っていそうな奴が久々に来店したから出て来た言葉でした。私は、入店時に前から来たかったバーであることは告げましたが、流石に自分から「どうもー、僕はバーボンに詳しいでーす」などとは名乗り出ていません。では、どうして私がある程度バーボンのことを知っている人間だとマスターは判ったのでしょう?
それはマスターによれば、ボトル群の眺め方で判別できたと言うのです。デスティニーはカウンターの座席の後ろ側にもボトルを並べた棚があるので、私は初めの一杯を何にしようか座席を立って眺めていました。その眺め方が少なくともバーボンの銘柄を相当知っている人間の眺め方であった、と。マスター曰く、それほど銘柄を知らない人(例えば大手酒類販売店に並んでいる銘柄を知っている程度)なら端から端へぼんやり「スゥーーーーッ」と眺める、しかし多くの銘柄を知っている人なら「サーーーーッ」と素早く見るのだけれど一つ一つ「タンッ、タンッ、タンッ」とちゃんと認識しながら眺める、だから判るのだそう。凄い洞察力だなあと思いましたし、そういう所作から滲み出るものがあるのだなあと、とても面白く感じた次第です。では、最後に店舗情報を。


Shot Bar Destiny
〒233-0002
神奈川県横浜市港南区上大岡西2-9-15 シャンローゼ上大岡1階
営業時間:18:00~翌3:00
定休日:第一日曜日(日・月連休のときは月曜日)
※行く前に最新の情報はSNSをチェックして下さい

Instagram
https://www.instagram.com/shotbarbourbon/

現行Blog
https://ameblo.jp/shotbardestiny/

旧Blog
https://ameblo.jp/shotbarbourbon/

旧々Blog(バーボンウイスキー名鑑)
https://www.sakedori.com/spn/s/bourbonwhiskey/

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ワイルドターキー・ケンタッキー・スピリットは、アメリカの現行ワイルドターキーのラインナップの中では1942年の古典的な「101」、1991年の「レアブリード」に次ぐ、3番目に古いリリースの由緒あるブランドであり、ワイルドターキー101のシングルバレル・ヴァージョンとして1994年に作成されました。公式リリースは1995年なのかも知れませんが、最初のボトルは1994年に充填されています。おそらくは、バーボン界で初めての商業的なシングルバレル・バーボン、ブラントンズの対抗馬であったと推測され、ブラントンズの競走馬やケンタッキー・ダービーをモチーフとした華麗なボトルの向こうを張った七面鳥のファンテイル・ボトルは流麗で目を惹くものでした。またブラントンズと同じように、ラベルには手書きでボトリングされた日付やバレル・ナンバー、倉庫やリック・ナンバーが記されているのもプレミアム感をいやが上にも高めています。そして、キャップはピューター製の重厚で高級感のあるものでした。それ故ケンタッキー・スピリットの初期のものは通称ピューター・トップと呼ばれています。2002年からストッパーはピューター製からダーク・カラーの木製のものに変更されました。更に2007年もしくは2008年頃にはダークだった木材がライトな色味へと変わります。ラベルに描かれる七面鳥も、ケンタッキー・スピリットに於ける明確な変更時期は特定出来ませんが、ブランド全体に渡るラベルのリニューアルに合わせ、前向きが横向きへ、カラーがセピア調へと更新されました。と、ここまではキャップ等のマイナーチェンジとシリーズ全般の変化なので、ケンタッキー・スピリットの姿自体はそれほど変わりありませんでしたが、2019年、遂にケンタッキー・スピリットの象徴的なテイルフェザー・ボトルは廃止、レアブリードに似たデザインに置き換えられ、ラベルの七面鳥の存在感は薄くなります。
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「ケンタッキー・レジェンド」と免税店の「ヘリテッジ」といった一部の製品を除き、ケンタッキー・スピリットは2013年にラッセルズ・リザーヴ・シングルバレルが発売されるまでの20年近く、ワイルドターキーのレギュラー・リリースで孤高のシングルバレルであり続けました。アメリカの小売価格で言えば、ワイルドターキー101より2倍以上高く、ラッセルズ・リザーヴより少し安い製品です。ケンタッキー・スピリットをラッセルズ・リザーヴと比べてしまうと、ラッセルズ・リザーヴは冷却濾過されずによりバレルプルーフに近い110プルーフでボトリングされるため、スペック的にケンタッキー・スピリットを上回ります。そのせいもあってか、2014年頃から始まったプライヴェート・バレル・セレクションでもラッセルズ・リザーヴのほうが人気があります。その味わいの評価に関しては、アメリカの或る方の喩えでは「ワイルドターキー・ケンタッキー・スピリットは、天井は高いが床はラッセルズ・リザーヴ・シングルバレルよりも低い」と言っていました。ターキーマニアの代表とも言えるデイヴィッド・ジェニングス氏などは、ケンタッキー・スピリットのボトルがリニューアル(同時に値上げも)されたのには相当ガッカリし、ラッセルズ・リザーヴ・シングルバレルの方が愛好家向けにアピールする製品であり、逆にもっとライトな飲酒家向けにはラッセルズ・リザーヴ10年や「ロングブランチ」などがあるため、ケンタッキー・スピリットの立ち位置がブレて消費者への訴求力が落ちているのを危惧して、価格以外に三つの解決策を提案をしています。
第一はボトルの変更です。テイルフェザー・ボトルが高価なのなら、せめて同様の美しさをもった往年のエクスポート版のケンタッキー・レジェンド(101)や「トラディション(NAS)」のようなボトル・デザインに先祖返りするのはどうか?、と。
第二にケンタッキー・スピリットもノンチルフィルタードのバーボンにする。そうすればスタンダードなワイルドターキー101よりも優れた利点が確実に得られる、と。
第三にラベルに樽詰めされた日付も記載する。現在でもボトリングの日付はありますが、ケンタッキー・スピリットが愛好家に向けた製品を目指すのなら、より細部に拘ったほうがいい、と。
そして更には、先ずは一旦ケンタッキー・スピリットの販売を休止し、現在の115エントリー・プルーフのバレルを維持しつつ、昔のような107エントリー・プルーフのバレルも造り、二つの異なるバーボン・ウィスキーを用意、最後に理想的な熟成に達した107エントリー・プルーフのバレルからケンタッキー・スピリット101を造り上げるという提言をしています。これは謂わばジミー・ラッセルのクラシックなケンタッキー・スピリット・シングルバレル・バーボンを復活させるというアイディアです。確かにこれが実現したら素晴らしい…。
ちなみに彼は現在のケンタッキー・スピリットを扱き下ろしているのではありません。ラッセルズ・リザーヴ・シングルバレルとワイルドターキー101の中間にあっては、昔ほど誇らしげに立っていないと言っているだけです。実際、彼はここ数年のケンタッキー・スピリットの高品質なリリースを幾つか報告しています。まあ、少々否定的な物言いになってしまいましたし、今でこそケンタッキー・スピリットの特別さがやや薄れてしまったのも間違いないのですが、それでもその「魂」は眠ってはいないでしょう。ケンタッキー・スピリットはジミーラッセルの元のコンセプトに忠実であり続けるバーボンであり、殆どの場合ワイルドターキー101よりも美味しく特別なバーボンであり、またストアピックのラッセルズ・リザーヴが手に入りにくい日本の消費者にとってはワイルドターキー・シングルバレルの個性的な風味を経験するよい機会を提供し続けています。

改めてケンタッキー・スピリットの中身について触れておくと、その熟成年数はNASながら8〜10年とも8.5年〜9.5年とも言われており、とにかくワイルドターキー8年と同じ程度かもう少し長く熟成されたシングルバレルをジミー・ラッセルが選び(現在はエディ?)、冷却濾過して101プルーフでボトリングしたものです。つまり単純に言えば、冒頭に述べたようにケンタッキー・スピリットは現在でも日本で販売されているワイルドターキー8年101のシングルバレル・ヴァージョンなのです。ジミー自身はケンタッキー・スピリットについて、タキシードを着たワイルドターキー101と表現していたとか。多分、スタンダードな物より格調高く華やいでいる、といった意味でしょう。発売当初のボックスの裏には彼自身の著名でこう書かれました。
時折、完璧なものを垣間見ることがあります。私はいつもそれを上手く説明することは出来ないのですが、或る樽は熟成するにつれて並外れた味を帯びるのです。信じられないかも知れませんが、私は20年以上前の樽を今でも正確に覚えています。ワイルドターキー・ケンタッキー・スピリットは、そのような記憶に残る発見の喜びを与えてくれます。このボトルには、特別な1つの樽から直接注がれた純粋なバーボンが収められており、私はそれを皆さんにお届けすることを誇りに思います。
マスターディスティラー、ジミー・ラッセル
ついでに言っておくと、ケンタッキー・スピリットとラッセルズ・リザーヴという二つの同じシングルバレル製品の違いは、ボトリング・プルーフとチルフィルトレーションを除けば、そのフレイヴァー・プロファイルにあるとされます。現在のマスターディスティラー、エディ・ラッセルによれば、ケンタッキー・スピリットが父ジミーの好みをより代表しているのに対し、ラッセルズ・リザーヴは本質的にエディ自身の好みを代表しているそう。
ケンタッキー・スピリットの味わいについては、先に引用した「天井と床」の喩えで判る通り、アメリカでも日本でも多少のギャンブル性が指摘されています。つまり、ケンタッキー・スピリットはラッセルズ・リザーヴ・シングルバレルと同等かそれ以上に優れている場合もあれば、スタンダードなワイルドターキー101や8年101に非常に似ている可能性もあるということです。これはケンタッキー・スピリット云々というより、シングルバレルの特性上仕方のない面でもあります。通常3桁から4桁のバレルを混ぜ合わせる安価なバーボンは平均的なフレイヴァーになるのに対し、文字通り一つのバレルから造られるシングルバレル製品はフレイヴァー・バランスが異なります。具体的に例を言うと、普段飲んでいるワイルドターキー8年の味が脳にインプットされていて、さあ、いつもより上級なものを飲んでみたいと思いケンタッキー・スピリットを買いました、いざ飲んでみるといつものターキーよりスパイシーでオーキーでした、あれ? いつものほうがフルーティで美味しくない?、となったらその人にはハズレを引いたと感じられるでしょう。こればかりはその人の味覚次第だから。とは言え、本職の方が選んだバレルですから美味しいに決まってますし、それだけの価値があります。ケンタッキー・スピリットは甘くフルーティなものから、ややドライでタンニンのあるものまで様々なプロファイルを示しますが、真のワイルドターキー・ファンならば勇んで購入すればよいのです、好みのもの好みでないものどちらに転ぶにせよ。

ケンタッキー・スピリットはラベルの七面鳥やボトル・デザインの変化でなく、別の視点から概ね三つに分けて考えることが出来ます。ワイルドターキー蒸留所はフレイヴァーフルな味わいを重視し、ボトリング時の加水を最小限に抑える意図から比較的低いバレル・エントリー・プルーフで知られていますが、2000年代にそれを二回ほど変更しました。2004年に107プルーフから110プルーフ、2006年に110プルーフから115プルーフに。これは良かれ悪しかれフレイヴァー・プロファイルが変わることを意味します。また、ワイルドターキー蒸留所は旧来のブールヴァード蒸留所から2011年に新しい蒸留施設へと転換しました。これも良かれ悪しかれフレイヴァー・プロファイルが変わることを意味するでしょう。そこで、ケンタッキー・スピリットの平均的な熟成年数である8年を考慮して大雑把に分けると、

①1994〜2012年の107バレル・エントリー原酒
②2013〜18年の110/115バレル・エントリー原酒
③2019年からの新蒸留所原酒

というようになります。このうち①、特にピューター・トップのものは昔ながらのワイルドターキーの味わいであるカビっぽいコーンや埃のような土のようなオーク香があり複雑な風味があるとされます。②は①のようなファンクが消え、ライトもしくはいい意味で単純な傾向に。③は前出のDJ氏によれば、選ばれたバレルによっては「床が上がっている」そうです。そこで今回は、私の手持ちのケンタッキー・スピリットの年代が異なるもの2種類と、先日投稿したワイルドターキー8年101の推定2019年ボトルを同時に飲んで較べてみようという企画。実を言うと投稿時期が違うだけで、3本をほぼ同時期に開封しています。

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WILD TURKEY KENTUCKY SPIRIT Single Barrel 101 Proof
Bottled on 01-14-16
Barrel no. 2830
Warehouse O
Rick no. 2
2016年ボトリング。ややオレンジがかったブラウン。接着剤、香ばしい焦樽、香ばしい穀物、ローストナッツ、コーン、ライスパイス、ブラックペッパー、若いチェリー、ハニーカステラ、ナツメグ、アーモンド。口当たりはややオイリー。パレートは基本的にグレイン・フォワードで、甘みもあるが飲み込んだ直後はかなりスパイシー。余韻はミディアム・ロングで豊かな穀物と共に最後にワックスが残る。

8年101と較べて良い点は口当たりがオイリーでナッティさが強いところでした。悪い点は接着剤が強すぎるのと荒々しい「若さ」があるところ。全体的には、スパイス&グレインに振れたバーボンという印象。また、101プルーフよりも強い酒に感じるほどアルコール刺激を感じます。正直言って8年101の方がマイルドで熟したフルーツ感もあり私好みのバランスでした。
Rating:86.5/100

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WILD TURKEY KENTUCKY SPIRIT Single Barrel 101 Proof(Pewter top)
Bottled on 10-5-95
Barrel no. 63
Warehouse E
Rick no. 47
1995年ボトリング。やや赤みを帯びたブラウン。ヴァニラ、湿った木材、オールド・ファンク、ベーキングスパイス、ブラッドオレンジ、紅茶、タバコ、土、漢方薬、ドライクランベリー、鉄、バーントシュガー。アロマはスパイシーヴァニラ。口当たりは柔らか。パレートはフルーティな甘さにスパイス多め。余韻はハービーで、マスティ・オークが後々まで長く鼻腔に残る。

2016年のケンタッキー・スピリットが若さを感じさせたのに対して、こちらは寧ろ近年飲んでいたマスターズ・キープ17年のような超熟バーボンを想わせる味わいです。今回私の飲んだ8年101と較べても、90年代の8年101と比べても、ハーブぽいフレイヴァーが強く複雑ではあるのですが、あまり私の好みではありませんでした。多分なんですが、10年前に開封して飲めていたらもっともっと美味しかったのではないかなと思います。言葉を変えれば飲み頃を逃したような気がするということです。
Rating:87.5/100

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Verdict:95年ピュータートップに軍配を上げました。比較として飲んでいた8年101の方が自分好みではあったのですが、やはり特別な味わいではあると思ったし、2016年物は軽く一蹴したからです。


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今回の投稿は告知です。

本ブログでは既にお馴染みのイラストレーターKazue Asaiさんの作品が、お酒の美術館中野店にて7月初旬から約1ヶ月間展示されます。ギリギリの告知になってしまったのには、皆様もご承知のようにコロナ禍での緊急事態宣言の影響、およびその後の動向がよく分からないためでした。また「初旬」とか「約」とか言ったりしてるのもその影響でして、細い日程は分かり次第、追記の形でお知らせ致します(※7/1〜31の展示で本決まりになりました!)。
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関西からスタートして今や全国的な展開を見せている「お酒の美術館」は、株式会社のぶちゃんマン(代表者 滝下信夫)が運営する事業の一つで、自社買取したオールドボトルを販売するビジネス以外に、希少なお酒をもっと気軽に楽しんでもらいたいとの想いから生まれたスタンディング・バーです。独自ルートでの格安仕入れをしているため、希少なお酒を1杯500円からという驚異の価格設定で提供しながらも高い利益率を確保することが出来るのが強み。店内の品揃えの大半は、現在は原酒不足で終売となった入手困難なジャパニーズ・ウィスキーも含む70年代〜バブル期の洋酒ブームに流通していたボトル群であり、それを手の届きやすい価格で提供するものだから、学生から若い女性、仕事帰りのちょい呑みサラリーマン、 訪日外国人、終売ボトルを懐かしむ中高年まで幅広い方々に支持されています。

8坪あれば開業できるお酒の美術館の加盟店舗は個々にオウナーの個性が出せるようで、オーセンティックな雰囲気のレトロ・バーと言った店舗もあれば、アンティーク感のないパブのような雰囲気の店舗、果ては大手コンビニチェーンとの提携によりイートインスペースを活用した店舗まであります。で、今回ご紹介するのがその中の一つ中野店。2019年12月14日にオープンした同店はオウナーの山田さんの奥様が絵を描かれる方だそうで、店舗には沢山の絵が飾られているのが特徴です。その時々で或る作家さんをフィーチャーするらしく、お酒の美術館であると同時に文字通り絵の美術館ともなる訳です。これはなかなかに独創的なバーと言えるのではないでしょうか。詳しくは下記の「まるっと中野」さんの記事が素晴らしいので参照して下さい。
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そしてこの度、ここに作品展示をすることになったのがKazue Asaiさん。キュートでロックでクレイジーでパンクなお洒落ガールを描かせたら天下無双、只今人気急上昇中のイラストレーターです。彼女はお酒の美術館に合わせて、美女とお酒をモチーフにした絵を大量に描きました。彼女の作品が約30枚も一度にナマで観れる機会はそうそうありません。しかも、お酒を呑みながら…。気に入ったイラストがあれば購入も出来るようですよ☆ 皆さん、是非機会があれば足を運ぶことをオススメします。勿論、私も行きます。「美女」に囲まれながらオールドバーボンを嗜む贅沢時間ですからね。おそらく例の条件付酒類提供(※同一グループの入店 2人以内、酒類提供の時間制限11時〜19時まで、利用者の滞在時間90分以内)になると思われるので、遠方よりご来訪の方は事前にお店に確認を。

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JR中野駅、北口サンモール中野、コージーコーナーを右手に曲がるとすぐのお店です。


お酒の美術館ホームページ
中野店ツイッター
中野区公式観光サイト「まるっと中野」の記事
https://www.visit.city-tokyo-nakano.jp/gourmet/cospa/204983/


Kazue AsaiさんInstagramのギャラリー
https://instagram.com/kazue696?igshid=klp7laozh3e7

Kazue Asaiさんへのお仕事依頼はこちら
audiard196@gmail.com

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今回紹介するバーは新小岩の知る人ぞ知るフストカーレン。駅の南口から6〜10分程度歩いたところにあり、派手な看板はなくひっそりと佇んでいます。97、8年頃からこの場所で営業しているらしく、かつては住所/電話番号非公開だったこともあり、文字通り「伝説のバー」と呼ばれ、マスターとその品揃えは多くのファンを魅了し同業のバーテンダーも通った名店で、2016年に先代の目黒氏から弟子の白石氏に引き継がれました。

私は先代マスターの時代に行ったことはありませんが、おそらく現在のほうがバーボンは充実しているようです。90年代を中心として、80年代後半から2000年代の今では希少なオールドボトルがずらり。特にブラントンズの年代別のストックの数はおそらく日本一ではないかと思えるほど。ヘヴンヒルやワイルドターキーもなかなか豊富。現行品はリミテッド・リリースのちょっと拘ったバーでないと見かけられないバーボンを置いてます。そう、現マスターはバーボンに人並みならぬ愛があるのです。それ故、我々にとっては準バーボン・バーと謂える存在。マスターに自分がバーボン好きなのを告げると、私には高くて購入する気にならなかった貴重な「Evan Williams」の本(写真集?)を見せて頂けました。

バーボン以外では、本数はモルトの方が多いと思われますし、その他のスピリッツやリキュール、旬のフルーツを贅沢に使用したカクテルなどがあります。なのでウィスキー沼にハマったマニアにも、そうでない女性の方などにもオススメ。店内の照明はその日の天候などで微調整するそうで(私が行った日は暗め?)、雰囲気もバツグンです。時々提供されるチャームは多分その時ある旬のフルーツやチョコや生ハムなど拘りの食材。マスターの話術もあり、あっという間に帰る時間になってしまいました。既に現マスターの「自分の色」は出ていますね。

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(画像提供AKR様)

Bar Fust Carlent
東京都葛飾区新小岩4-13-6 水村コーポ1F
03-5607-3484
営業時間 19:00~
水曜定休日

フェイスブック
https://m.facebook.com/pages/%E3%83%95%E3%82%B9%E3%83%88%E3%82%AB%E3%83%BC%E3%83%AC%E3%83%B3/308199912524189?locale=ja_JP

インスタグラム
https://instagram.com/fustcarlent?igshid=1akwow515nouf

食べログ
https://s.tabelog.com/tokyo/A1312/A131204/13039850/top_amp/

「男の隠れ家」紹介記事
https://otokonokakurega.com/meet/bar/14421/

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今宵の映画は『ジャッジ 裁かれる判事』。2014年のアメリカ映画です。謎が謎を呼ぶような法廷ミステリーを期待して観ると、実は家族の物語が主題のため、肩透かしを食らうとされ、脚本よりはロバート・ダウニーJrやロバート・デュヴァル他の俳優陣の演技が評価されています。個人的にも、悪くはないし、時間の無駄とは思いませんけれど、特別映画史に残る傑作とは言い難いという評価です。まあ、当ブログはバーボンのブログですから、粗筋や解説は映画評論サイトを参考にして頂くとして…、この映画なんとバーボンが劇中に登場します。ラベルはほんの一瞬チラッとしか映らないし、ストーリーに関与する訳でもないのですが、ただ何となく劇中で飲まれているだけではなく、ちゃんとにセリフで触れられているのです。あのバーボン・マニアから愛される銘酒「エヴァンウィリアムス23年」が…。

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(イメージ)

エヴァンウィリアムス23年が登場するのは映画の後半、主演の二人演じる親子の間にすったもんだあった後、或る時ハンク(ロバート・ダウニーJr)が家に戻ると父のジョセフ(ロバート・デュヴァル)が秘蔵の酒を開けているのに気づき、そのことを訊ねる場面です。セリフでは「エヴァンウィリアムスだ。この子は23年物でね。1979年、ケンタッキーのバーズタウンにドライブしに行った時に買ったんだ」というようなことを言ってます。えっ? 1979年? 私の認識では、エヴァンウィリアムス23年は1980年代後半に日本向けに販売されたものだと思っていたのですが…。これってあくまでフィクションとしての映画の中での設定なだけなのか、それとも当時蒸留所内もしくはその近隣の酒屋限定とかで買えたのでしょうか? 1980年前後であればアメリカのバーボン需要は底辺だった筈です。ならば当時に売れなかったバレルから23年物のバーボンをリリースすることは可能ではあるような気も…。仔細をご存知の方は、是非ともコメントよりご教示いただければと思います。

今回の投稿はそれを言いたかっただけです(笑)。ではでは、皆さんも映画とバーボンのコンビネーション、お楽しみ下さいね〜。

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先日、久し振りにバーへ遠征して来ました。お邪魔したのはバーボン好きなら誰しも知っている埼玉県大宮のBar FIVE。となると大袈裟に言えばバーボン巡礼の旅という訳ですね。

FIVEのオープンは1998年。元々の店名はファイヴ・ハンドレッドだったと言います。その名の由来は、ウィスキーもカクテルもビールも料理も全て500円だったから。しかも当時は営業時間も夕方5時から翌朝5時だったとか。マスターが「5」を好きなのですかね? そこのところは聴きそびれちゃいました(※追記。マスターがお釣りを渡すのが面倒だったかららしいです)。
あの多くの被災者を生み出した東日本大震災の折り、FIVEも無害だった訳ではなく、200~300本の貴重なオールドボトルが失われたそうです。するとオーナーのマスターはすかさず移転を決め、数ヵ月後には近くの現店舗へ移りました。旧店舗はレッド・ゼッペリンの似合うもっと猥雑な雰囲気だったそうですが、現店舗は黒と白を基調とした小粋なジャズの似合うシックな雰囲気です。

FIVEは基本的にオールドボトル専門で現行品は置いてなく、2000年以前の希少なボトルがずらりと並んだバックバーは壮観であり、それ目当てに県外や果ては海外からもお客さんが訪れるのですが、それだけのバーではありません。寧ろ、強面だが優しくユーモアのあるマスターと気遣いの出来るバーテンダーさんお二人のホスピタリティこそが最大の魅力。バーは「お酒」よりも「人間」に引き寄せられて行く場所だと実感しました。バーテンダーさんの「常連様に支えられています」と云う言葉に深く納得です。ここには酒の自慢話とウンチクだけを語る下品な輩は似合わない。ハイエンド・バーほど畏まりすぎず、居酒屋ほどくだけすぎない、絶妙なバランスはとても居心地が良いのです。

そして「日本一鍋を振るバーテンダー」と異名を取る漢が造るメニューの無い料理もウリの一つ。私は苦手な食材だけを告げてオススメを造ってもらいました。彼の腕前は近隣の会社からデリヴァリーの依頼が来るほどなのです。私が居た時間も注文がけっこう立て込み、来店のお客さんの分もあったので、忙しく料理を造り続け、更には配達まで行っていました。おかげで残念なことに彼とは会話が殆どできず仕舞いでした(笑)。

レアなバーボン目当てで行くのもいいでしょうし、ただ飲んで楽しみたいだけで行くのもいいでしょう。バーボン以外のリカーやカクテルもあり、落ち着いた薄暗い店内と洒落た料理の提供は女性一人でも入りやすいバーでもあります。また不定期で週末にジャズ・ライヴが催されたり、月1でウイスキークラブという厳選されたラインナップを安価に提供するイヴェントもあります。

あと、珍しいのが、これだけの品揃えのバーにしてはランチ営業までやっているところ。なんでもメニューはカレーだけだそうで、サラダとドリンク付きの500円ワンコイン・ランチ。FIVEの由来からして想像通りのお値段。そしてメニューが一種ゆえに吉野家並みのスピードで提供されるのだとか(笑)。気になる方は食べログやRettyで調べてみて下さい。

FIVEは、バーボンの品揃えに関しては少なくとも関東でベスト「5」に入る名店です(ええ、もしかしたら一番か二番かも知れませんが、敢えてこう言いました)。関東圏、もしくは埼玉へお越しの際は是非立ち寄ってみてはいかがでしょうか。あ、メンバー外の方は事前予約が無難かと思われます。訪問される際は一応お店に確認して下さいね。


BAR FIVE
埼玉県さいたま市大宮区桜木町2-223 モナークヴィラ1F
048-644-3550

ランチ営業
平日のみ 11:30~14:00(売り切れ次第終了)

バー営業
平日 17:00〜26:00
祝日 17:00~0:00

フェイスブック
https://m.facebook.com/barfive1998/?locale2=ja_JP

インスタグラム
https://instagram.com/fivemao0124?igshid=cxv8c9cm97zs

ツイッター
https://twitter.com/shufuchefkitch2?s=09

ユーチューブ
https://youtu.be/_06Abu7uTUo

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今夜は年末年始に向けてロカビリーやロックンロールな映画を集めてみました。どれも自分がティーンの時に影響を受け、今だに大好きな映画たち。

若きチカーノロッカーを完璧な青春映画として描いた「ラ・バンバ」、デニス・クエイドのキレた演技もさることながらウィノナ・ライダーが可愛すぎる「グレート・ボール・オブ・ファイヤー」、ジョニー・デップ他出演者みなが濃ゆいロカビリー版ミュージカル「クライ・ベイビー」、まだ有名になる前のブラッド・ピッドのリーゼントとファッションだけでノックアウトの「ジョニー・スエード」、お揃いのジャケットに憧れる「ザ・ワンダラーズ」、レザーとモーターサイクルが野郎を魅了する「ラブレス」、どれもカッコよくてクラクラしちゃいます。







これらに合わせるバーボンはもちろんレベルイェール。そもそもは、かの有名なスティッツェル=ウェラー蒸留所が南部限定でリリースしていた小麦バーボンで、現在はラクスコ(旧デイヴィド・シャーマン社)が販売しています。昔の物はラベルに南軍の兵士が刀を片手に馬を疾駆する姿が描かれていましたし、「ディープ・サウス専用」なんて文言も書かれていました。またロカビリアンのアイコンとも言えるレベル・フラッグがフィーチャーされた海外向けのラベルの物まであり、サザーン・カルチャーという共通項からロカビリーや初期ロックンロールとは相性がいいのです。
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そしてレベルイェールというブランド名ですが、日本ではよく「反逆の叫び」と訳されてるのを見かけます。別に間違いではないですし、それがロックなイメージを加速させるの役立っているのですが、実際には上に述べたラベルの件で分かるように、ここでの「レベル(Rebel)」は北軍に「反逆・反抗」した者の意となり、「イェール(Yell)」は日本語で「エールを送る」と言う時のエールと同じ英語の「怒鳴る・喚く・気合いを入れる掛け声」などを意味する言葉で、南北戦争における南軍の兵士が戦闘の時にあげる甲高い遠吠えのようなものを「レベル・イェール」と言います。だから日本語なら「南軍の雄叫び」とでも言うと分りやすいですかね。狼や犬の遠吠えを思わせる奇声で、多人数でやるとけっこう耳障り。

(元南部軍人によるレベル・イェールの再現)

レベルイェールと聞いてこの音声が頭に再生されるようになれば立派な南部愛好家バーボン飲みです。とは言え、現在のラベルは南部色は完全に払拭され、ただ名前にその名残があるのみ。それ故にレベルイェール本来の意味が忘れ去られ、「反逆の叫び」という一般化がなされてしまったのも仕方のないことかも知れません。ある時にレベルイェールを所有していた会社が全国展開を決定したことで、そういう方針になったのです(RYの歴史は別の機会に紹介します)。ロカビリー好きとしては残念ですが、時代の流れもありますし、販売戦略として南部色の撤廃は間違ってはいないでしょう。ただし、ロックに話を限るのではなく過去に戦争の歴史があったことや、オールド・サウスへの郷愁や南部人の心意気を喚起するラベルだったことは忘れたくないところです。ちなみに日本では「レベルイエール」とか、私も「レベルイェール」と綴ってますが、実際の英語発音に合わせるなら「レベルイェル」とした方が近いです。

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また、このバーボンはローリング・ストーンズのキース・リチャーズが愛飲したバーボンとして知られています。確かにキースがレベルイェールを手に持つ写真が残されているものの、どう考えても飲んだ量からしたらジャックダニエルズのほうが多い気がしません? キースはジャックダニエルズとレベルイェールのどちらが好みだったんでしょう? キースに詳しい方がいたら教えて頂きたいです。
そして更にはキース経由らしいですが、レベルイェールはビリー・アイドルのソング・タイトルにもなっています。ビリー本人が語るところによると、彼は或るイベントに出席した時、ミック・ジャガー、キース・リチャーズ、ロン・ウッドらのローリングストーンズの面々が、レベルイェールと云うバーボンウィスキーをボトルからがぶ飲みしてるのを見て、よく知らないブランドだったけれど、その名前が妙に気に入って「Rebel Yell」の曲を書くことにしたのだとか。


そんな訳でとにかくロックな酒として語られるバーボンですが、どちらかというとソフトな傾向とされる小麦バーボンであり、味わい的には荒々しい闘鶏がモチーフのファイティングコックでもラッパ飲みしてくれたほうがよっぽどロックじゃないかなという気がします(笑)。まあ、完全に個人的偏見ですけれど…。

さて、今回レヴューするレベルイェール・スモールバッチ・リザーヴは、2008年から導入されていた「レベル・リザーヴ」の後継として、2015年にパッケージと名前をリニューアルして発売された製品です。
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近年、ラクスコはレベルイェールを大きなブランドへ成長させる努力をしているように見えます。それは大幅なラインナップの拡大や、僅か数年でパッケージをマイナーチェンジする施策に見て取れました。製品の種類が増えるのは構わないのですが、ラベルのデザインをコロコロ変えるのは個人的には好ましいと感じません。何か腰の座ってないブランドとの印象を持ってしまいます。このスモールバッチ・リザーヴにしても、現在終売なのかどうかもよく判らないのです。2019年の4月にも新デザインとなり、それに合わせて100プルーフのヴァージョンが登場しました。もしかすると、そちらがスモールバッチ・リザーヴの後継なのかも知れませんね。
全てではないですが、一応ざっくりここ数年のレベルイェールを紹介しておくと、先ずエントリークラスのスタンダードの他、ハイプルーフ版となるスモールバッチ・リザーヴ、スモールバッチ・ライ(MGPソース)、ハニーとチェリーのフレイヴァーの物、バーボンとライのブレンドであるアメリカンウィスキー、10年熟成のシングルバレル等がありました。下画像の上段が旧ラベル、下段がリニューアル後のラベルです(シングルバレルは別枠)。
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話をスモールバッチ・リザーヴに戻しましょう。長い間NDPだったラクスコは、2018年4月に自社のラックス・ロウ蒸留所を完成させましたが、それまではヘヴンヒルから原酒を調達していた(販売数の確保のため今でも調達してると思われます)ので、この製品の中身はヘヴンヒルのバーンハイム蒸留所で造られた小麦レシピのバーボンです。つまり、元ネタとしてはヘヴンヒルのオールドフィッツジェラルドやラーセニーと同じな訳です。マッシュビルは68%コーン/20%ウィート/12%モルテッドバーリー、樽の焦がし具合は#3チャーとされ、熟成年数はNASですがスタンダードなレベルイェールの4年よりも少し熟成年数が長いのではないかと考えられています。では、そろそろレベルイェール・スモールバッチ・リザーヴを注ぐとしましょう。

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REBEL YELL Small Batch Reserve 90.6 Proof
推定2017年前後ボトリング。グレイン、ウッド、少ないキャラメル、チェリー、ペッパー、微かなシナモン。かなりサイレントなアロマ。香りから想像するよりは濃い味。水っぽい口当たり。余韻はあっさり短く、地味なスパイス感と辛み。パレートがハイライト。
Rating:80/100

Thought:典型的なバーボンの香りはしますが、正直言って物足りない味わいでした。スタンダードより2年程度熟成年数が長いのではないかと予想していたのですが、どうかなあ、もっと若そうな…。もしくは、かなり質の低い樽から引き出されたと言うか、適切な熟成がなされていない小麦バーボンのような気がします。これを飲んだ個人的感想としては、若い小麦バーボンを飲むならコーン比率の高い普通のバーボンを飲むほうが甘さを感じられて美味しいと思ってしまいました。

Value:レベルイェール・スモールバッチ・リザーヴは、スモールバッチを名乗るとは言え、アメリカでの小売価格は25ドル前後だったので、所謂「ボトムシェルフ」バーボンです。そう割りきれば味のマイナス点は気にならないでしょう。つまり「スモールバッチ」と言う言葉から過度な期待をしなければ十分美味しいのです。しかし、日本での販売価格は概ね3000円代。それなら個人的には、同じ小麦バーボン縛りで言えばメーカーズマークの方が余韻に宜しくない辛さを感じないのでオススメです。よっぽどレベルイェールの名前やロックなイメージが気に入っているのならば話は別ですが…。

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