カテゴリ:ケンタッキーバーボン > ウィレット蒸溜所(KBD)

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(画像提供K氏)

「トリック・オア・トリート!」。ハロウィンの時期ですね。バーボン愛好家ならば「バーボンくれなきゃイタズラすっぞ」と云う訳で、バーボン仲間のKさんから大人のハロウィンに相応しい高級な「お菓子」が送られて来ました。ウィレット・ウィーテッド・バーボン8年熟成のサンプルです。

ウィレット・ウィーテッド・バーボン8年は2022年後半期にリリースされました。ウィレット蒸溜所の顔とも言えるファミリー・エステート、より一般的なオールド・バーズタウンやスモールバッチ・ブティック・バーボン・シリーズの4種とは異なる形状のボトルが目を引きます。黒光りするボトルに金の文字とパープル・フォイルのトップが高級感を演出しており、頗るエレガントでカッコいい。同社によるとこの「黒い宝石」は、2013年の春先に蒸溜、2022年の夏にボトリング(実際は9年熟成?)、独自のマッシュビルをチャー#4のアメリカン・オークに115プルーフでバレルに詰め、可能な限り風味を保つためチル・フィルトレーションせずにボトルに詰めたと言います。美しい外観以外でこのバーボンに特徴的なのはエイジ・ステイトメントがあることでしょう。ウィレットはファミリー・エステート以外の製品に熟成年数を記載することは殆どありませんから。そして更に注目なのは、マッシュビルにライ麦を含まない小麦レシピであることがボトルの裏面に記載されていることです。ウィレットは自社のウィスキーについて詳細な情報を開示しないことで知られ、ノアーズ・ミルのマッシュビルは何なんだ?とか、ローワンズ・クリークは?、ポットスティル・リザーヴは?となったりするのですが、このボトルに関してはその心配はない、と。彼らの小麦バーボンのマッシュビルは65%コーン、20%ウィート、15%モルテッドバーリーとされています。昨今のバーボン及びアメリカン・ウィスキー全般のブーム、そして「パピー」人気の爆発から棚ぼた式に?ウェラーの人気も沸騰し、延いてはウィーテッド・バーボン自体の人気も高まった印象があります。多くの蒸溜所がライを含有したレシピ以外に小麦レシピのバーボンも大抵の場合リリースしており、お陰で市場に於けるウィーテッド・バーボンの品揃えは充実しました。そうした流れの中、ウィレットも満を持してリリースしたのかも知れません。とは言え、ウィレットは既にファミリー・エステート・シングルバレルではウィーテッド・マッシュビルをリリースしているらしく、バレル・ナンバーが「32xx〜33xx」の物は上記のマッシュビルとされています。あと「11243」は実験的なウィーテッド・マッシュビルらしい。更に付け加えると、ウィレット・ポットスティル・リザーヴは2021年か2022年のどこかで小麦レシピに変更されたと云う噂もありますね。ところで、このバーボンの108プルーフでのボトリングは、ウェラー・アンティーク107に近く、何かしら意識しているのでしょうか。実際、ボトル形状もリニューアル後のウェラー・ブランドに似ています(と言うか同じ?)。

えーと…、このバーボンを語る時、避けては通れない話題が一つあります。それは価格です。8年熟成のバーボンの希望小売価格がなんと250ドルなのです。この点に関してバーボン愛好家達は頭を抱え、或る人はウィッスルピッグ・ブランド(の上級なラインの物)と同じ臭いがプンプンする、と言うほど怪しげな価格設定でした。ウィレット蒸溜所が現在、カルト的な地位を獲得しているのは皆さんもご存知でしょう。そして毎年極く限られた数量しかリリースされないウィレット・ファミリー・エステートのシングルバレルはウィスキー愛好家の垂涎の的となっています。それらが市場に出回ると、バーボン愛好家は勿論、転売ヤーもこぞって手に入れようとします。新しくリリースされたものは即座に売り切れ、二次流通市場に現れる頃には数倍の価格になります。それらのことをウィレットの背後にいる人々も認識し、このウィーテッド・バーボン8年の価格を予めある程度引き上げていると指摘している人を某掲示板で見かけました。その真偽は扨て措き、一般的なバーボン飲みの感覚では高過ぎる希望小売価格のせいか、このバーボンの評価は微妙だったりします。アメリカの或るレヴュアーは「品質だけならもっと高い点数をつけたいところだが、価格設定のために2点減点したい気分だ」と言い、10点満点中4点をつけていました。また、他のレヴュアーは「これは良い。ただ、価値以上の出費をしていることを知っておいてほしい」と述べ5点満点中3点をつけました。他にも「これは良いボトルだったが、230ドルという価格を正当化するには十分ではな」く、「親友や本物のバーボン狂にプレゼントするのでなければ、このボトルを再び購入することはないだろう」と云う意見もありました。挙げ句には、ウェラー・アンティーク107を買って来てツヤ有りブラックのスプレーでボトルをペイントすればいい、と言う人までいました。私は味の求道者ではないので、本ブログのレーティングは味のみでなくボトルの外観、バックストーリーやマーケティング、そして価格も考慮して点数をつけています。だから、私も彼らと同じような点数になってしまうかも知れないという不安はありますが、どうなるでしょうか。さっそく注いでみましょう。
と、その前に。私はこのバーボンを高過ぎる価格から買おうだなんて微塵も思いませんでしたし、況してや無料で試せるなんて思ったこともありませんでした。こんな貴重な物を惜しげもなく分け与えてくれたKさんには本当に感謝です。バーボン繋がりに乾杯!

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WILLETT WHEATED BOURBON AGED 8 YEARS 108 Proof
2022年ボトリング。ややオレンジがかったブラウン。スウィートオーク、干しブドウ、完熟桃、はちみつ、バターたっぷりの焼き菓子、ベーキングスパイス、チョコチップクッキー。とても甘い香り。オイリーなのにサラッとした口当たり。パレートでもかなり甘めで、スパイスが暴れる感じはしない。余韻はハイプルーファーにしてはあっさりしており、最後に柑橘類の苦味が残る。グラスの残り香はアーモンドトフィー。アロマがハイライト。
Rating:87.5/100

Thought:蓋を開けた瞬間から漂う、美味しい洋菓子とウィレット特有のフルーツが融合した圧倒的に甘い香りが至福でした。間違いなく旨いです。但し、標準的なリリースであるオールド・バーズタウンやピュア・ケンタッキーXO等と較べて5倍旨くはありません。ウィーテッド・マッシュビルではないと目される他のウィレット製品と較べてみると、私が好んでいるのど飴のような何と特定できない複数のハーブのノートは希薄に感じました。また、ウィレットに感じ易いグレープのようなフルーツ感も顕在していますが、それよりもペイストリー感が強いバランスの印象を受けました。もしかすると、水を追加したり氷を加えることでフルーツがより感じ易くなったのかも知れませんが、少量のサンプルということもあり、私は試しませんでした。飲んだことのある皆さんはどう思われましたか? コメント欄よりどしどし感想をお寄せ下さい。

Value:二次流通市場では一時は1000ドル程度で販売されていたこともあるようですが、記事を執筆するに当たって調べたところ、250ドルで買えるお店も幾つかあり、価格はだいぶ落ち着いたようで、300ドル以上の値を付けるお店は大体どこも在庫ありになっていました。これは先に紹介したレヴュワー達の意見が参考にされ、多くの人が購入をパスした結果なのかも知れませんね。試飲前の予想通り、私も海外のレヴュワーさん達と殆ど同じような意見になりました。懐に余裕があるのならば、ボトルを買うのに躊躇する必要はありません。美味しいから。ただ、殆どの人にはバーで一杯飲んでみることをオススメします。ボトル一本は高いから。

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ウィレット・ポットスティル・リザーヴは名前の通り見栄えのするポットスティル型のボトルが特徴的なバーボン。ウィレット蒸溜所に設置されている銅製のポットスティルを模したデザインになっています。2008年から導入されました。同蒸溜所がリリースしているスモールバッチ・ブティック・バーボン・コレクションの四つ(ノアーズ・ミル、ローワンズ・クリーク、ピュア・ケンタッキーXO、ケンタッキー・ヴィンテージ)がジムビームのスモールバッチ・コレクション(ブッカーズ、ベイカーズ、ノブ・クリーク、ベイゼル・ヘイデン)に相当するならば、このポットスティル・リザーヴはバッファロートレース製造のブラントンズやワイルドターキーのケンタッキー・スピリットに相当すると言えるでしょうか。おそらくは現在市場に出回っているバーボンのガラス・ボトルの中で最も派手な部類に属し、酒屋の棚では一際目立つ存在です。但し、そのボトル形状のせいでグラスへ注ぎにくいとか、ボトムの面積が広いためコレクション棚への収納が難しい等の声も聞かれたります。それでもやはり、このボトル形状にはウィスキー飲みが惹かれてしまう魅力がありますね。
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この製品は元々はシングルバレルとしてリリースされていましたが、2015年からひっそりとスモールバッチに変更されました。そもそものシングルバレル版では、キャップを封するストリップにバレル番号とボトル番号が手書きで記載されていました。「Bottle No. ○○○ of ○○○ from Single Barrel ○○○」という具合で○には数字が入ります。スモールバッチになるとストリップにはボトル番号は記載されなくなり、バッチ番号のみとなりました。明確な時期を特定できませんが、帯の色は初期から現在にかけてオレンジ、黒、紺と変わって行ったと思います。ただ、画像検索で幾つかのWPSRSmBを探ってみると、より新しいバッチであっても紺ではなく黒の場合もあるように見え、輸出国の違いとかバッチの違いによってパッケージングが異なっている可能性も考えられます。ボトル前面に貼られたワックスシールのエレガントなメダリオンの文言も何時からか段階的に変化しており、「SINGLE BARREL ESTATE RESERVE」から「POT STILL RESERVE」へ、また「WILLETT」の文字はブロック・レターからスクリプトへ変更されました。
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(画像提供K氏)

おそらくはバーボン需要の高まりに応じるかたちで2015年頃からスモールバッチになったポットスティル・リザーヴですが、このブランドを際立たせていたのがバーボンの味わいではなくボトル・デザインであったせいなのか、ノアーズ・ミルやローワンズ・クリークがエイジ・ステイトメントを失いNASへと変化した時のように残念がる声を上げる消費者は殆どいませんでした。このブランドの成功の大部分はウィレット蒸溜所のポットスティルを模したガラス製デキャンターのデザインにあったに違いありません。実際、2008年のサンフランシスコ・ワールド・スピリッツ・コンペティションのパッケージング・デザイン部門でダブル・ゴールドを受賞しています。しかし、その外見の良さは諸刃の剣でもありました。外見の良さは中身を伴わないと非難と嘲笑の対象になるからです。或るリカー・ショップの商品レヴューでは、約50ドルの小売価格のうち20ドルがバーボンで30ドルがボトルだ、と言うような趣旨の皮肉めいた見出しの評がありました。とは言え、この発言はそのショップのレヴューでは少数意見ではあります。ところが、TikTok界隈ではそうではありません。バーボン系ティックトッカー達によるウィレット・ポットスティル・リザーヴのレヴューは、ライター/ジャーナリストのアーロン・ゴールドファーブによると、「一部にプロフェッショナルな者もいるが大部分はアマチュア、少数の真面目なものもあるが多くはコミカル、殆どが容赦のないもの。まるでこのウィスキーを非難することが、この人気の高いプラットフォームでバーボン・レヴュアーになるための通過儀礼であるかのようにほぼ全て否定的です」。TikTokのポットスティル・リザーヴのレヴューは殆どの場合、ボトルの形が如何にクールでどれほど見栄えがし、評者自身が気に入っていると述べるところから始まります。しかし、次にグラスに注いだ液体を口にした瞬間、様相は一変します。滑稽な調子で咳き込んで窒息しそうになってみたり、「わーーー、これはホットだ」と叫んで最終的にウィレット・ポットスティル・リザーヴを「ゴミ」と呼んだり、「今まで飲んだバーボンの中で一番不味いかも知れない」と述べる人もいたりします。このようにポットスティル・リザーヴへのバッシングの多くは、そのボトルの豪華さに比べて中身が如何に酷いものであるかを笑いものにしている訳ですが、これらはTikTok特有のユーモアを多分に含んだオーヴァー・リアクションと言うのか、短い時間内で一発芸的に笑いを取るショート動画にありがちな或る種のジョークであって真に受ける必要はないと個人的には思います。けれども気になるのは、僅かながら存在するもっと真摯なTikTokレヴュワーや他のバーボン系ウェブサイトに於いてもウィレット・ポットスティル・リザーヴがそれほど高評価を得てはいないところです。ゴールドファーブ自身も「ポットスティル・リザーヴは確かに美味しくない(私は決してこのボトルを家に置かないだろう)が、TikTokが信じ込ませているほど悪くはない」と微妙な評価。まあ、それらは全て「スモールバッチ」への言及であり、「シングルバレル」についてではありません。

ウィレット・ポットスティル・リザーヴはシングルバレルであれスモールバッチであれ、94プルーフでのボトリングとNAS(Non-Age Statement=熟成年数表記なし)での提供は共通しています。ウィレット蒸溜所は中身の原酒に関して明らかにしないことが多いので、飽くまで噂と憶測になりますが、ここからはポットスティル・リザーヴの中身の変遷について整理して行きたいと思います。と、その前に少しだけ歴史の復習を。
禁酒法撤廃後、ケンタッキー州バーズタウン郊外にランバートとトンプソンのウィレット父子によって設立されたウィレット・ディスティリング・カンパニーは、訳あって1980年代初頭に蒸溜を停止しました。1984年、会社はトンプソンの娘マーサと結婚したエヴァン・クルスヴィーンに引き継がれ、以後ケンタッキー・バーボン・ディスティラーズ(KBD)というボトラーとして活動することになります。同社は倉庫で何年ものあいだ寝ていた熟成ウィスキーをボトリングして販売を続けましたが、自社の在庫が枯渇する前に他の蒸溜所からウィスキーを購入しました。それらを効果的に使用して、オールド・バーズタウンやジョニー・ドラム、ノアーズ・ミルやローワンズ・クリーク等の自社ブランドを販売する傍ら、自らが所有していない他の多くのブランドのための契約ボトラーとしても働きました。エヴァンのKBDは蒸溜はしなかったものの、その代わりに名高いバーンハイムやスティッツェル=ウェラー、ヘヴンヒルやジムビームやフォアローゼズ等の近隣の蒸溜所から不要な在庫を調達し、それらの一部を巧みにブレンドすることで自らのフレイヴァー・プロファイルをクリエイトしました。そしてエヴァンとその息子ドリューは、現代のアメリカン・ウィスキー・ブームに先駆けて、ウィレット・ファミリー・エステートの名の下にバレルプルーフでノンチルフィルタードのシングルバレルとして最も上質のバーボンとライのストックをリリースし、好事家からの称賛を受けました。そうした全ての活動が実り、蒸溜所は復活、2012年1月21日に蒸溜を再開することが出来たのです。今、アメリカン・ウィスキー愛好家にとってウィレットの名は神聖とも言える特別な位置を占めています。
ここから分かる通り、ウィレット蒸溜所は1980年代初頭から2012年まで蒸溜を停止していたため、このポットスティル・リザーヴの発売から暫くの間は別のディスティラリーで蒸溜されたものを使用している筈です。現在ポットスティル・リザーヴと呼ばれている製品のシングルバレル(もしかすると初期の正式名称はウィレット・シングルバレル・エステート・リザーヴだったのかも知れない。上掲のワックスシールの画像参照)は、リリースされた当初は多くのウェブサイト上の情報源によると8〜10年の熟成であるとされていました。そして、ボトル内のバーボンは彼らの他の製品と同様に、すぐ隣のヘヴンヒル蒸溜所から来ていると推測されています。シングルバレルはその特性上、風味の一貫性を問われませんから、もしかすると他の蒸溜所産のバレルも使用していた可能性もありますが、こればかりは公開されてないので謎のままです。いずれにせよ、何処の蒸溜所の原酒であれ、ポットスチルを模したボトルの形状やその製品の名称にも拘らず、このバーボンは一般的なコラムスティル+ダブラーを使用して製造されているのは間違いないでしょう。ちなみにウィレット蒸溜所の自家蒸溜でも、おそらく最初の蒸溜をコラムスティル、2回目の蒸溜で銅製ポットスティルをダブラーとして使用していると見られています。

2015年頃、前述のようにポットスティル・リザーヴはシングルバレルからスモールバッチに置き換えられました。ウィレット蒸溜所はバーボン界での世界的な人気の高まりがあっても、所謂クラフト蒸溜所に近い規模の操業を維持しています。そのため「スモールバッチ」と名付けられていなくても実際には全ての製品がスモールバッチのようです。スモールバッチという用語は政府によって規制されていないため、ただのマーケティング・フレーズに過ぎませんが、大規模蒸溜所のスモールバッチが100〜200樽、中には300樽にまで及ぶこともあるなか、ウィレットのバッチ・サイズは、おそらく2000年代は12樽程度、現在でも20樽ちょいとされていますので、ウィレット製品のスモールバッチ表現は我々消費者が抱く「スモールバッチ」のイメージと一致しているでしょう。このバッチ数量は時間の経過と共に変化する可能性はありますが、少なくとも今のところヴェリー・スモールバッチと呼んだほうが誤解がなく適切な気がします。ヴェリー・スモールバッチの弱点は、ごく少数のバレルからバッチを形成するため、バッチ毎に味わいの一貫性が低下するところです。ポットスティル・リザーヴの評価が定まらないのは、もしかするとこのせいもあるのかも。
最終的にウィレットの製品は100%自家蒸溜に移行する(した?)と思われますが、彼らは自身の蒸溜物がいつポットスティル・リザーヴに組み込まれたかについて明らかにしていません。有名なバーボン・ウェブサイトの2017年時点のレヴューでは、ケンタッキー州の他の蒸溜所から供給されたバーボンの可能性が高い、と言われていました。一説には、帯が紺色の物は新ウィレット原酒と聞いたこともあります。今回、私がおまけとして試飲できた推定2016年ボトリングのスモールバッチの帯は紺色なのですが、ボトルの裏面(メダリオンのない側)には下画像のようにプリントされています。
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(画像提供K氏)
この「Distilled, Aged and Bottled in Kentucky」という記述の仕方は、ウィレット・ファミリー・エステートのラベルでもそうなのですが、基本的に自家蒸溜原酒ではない他から調達されたウィスキーの場合の書かれ方です。しかし、旧来のボトルを使い切るか、或いはボトル会社(プリント会社?)に文言の変更を依頼するまで?は、中身がウィレット原酒であっても上のままの記述である可能性があります。逆に「Distilled, Aged, and Bottled by Willett Distillery」と記載があれば確実にウィレットの自家蒸溜原酒でしょう。私自身は直に見ていないのですが、おそらく近年のボトルにはそうプリントされていると思われます。2020年のレヴューでは、或る時点で100%自社蒸溜に移行したと考えられる、とされていました。仮にポットスティル・リザーヴ・スモールバッチのウィレット蒸溜原酒の熟成年数が4〜6年程度であるならば、2012年から蒸溜を再開したことを考慮すると、早くて2016年から新ウィレット原酒を使用することは可能です。海外のレヴューを読み漁ってみると、多くのレヴュアーが共通して指摘しているバターポップコーンやレモンや蜂蜜のヒントが感じられる場合、新ウィレット原酒である可能性は高そうです。
現在、ウィレットにはバーボン4種類とライ2種類のマッシュビルがあり、そのうちバーボンは以下のようになります。

①オリジナル・レシピ
72%コーン / 13%ライ / 15%モルテッドバーリー / 125バレルエントリープルーフ

②ハイ・コーン・レシピ
79%コーン / 7%ライ / 14%モルテッドバーリー / 103 & 125バレルエントリープルーフ

③ハイ・ライ・レシピ
52%コーン / 38%ライ / 10%モルテッドバーリー / 125バレルエントリープルーフ

④ウィーテッド・レシピ
65%コーン / 20%ウィート / 15%モルテッドバーリー / 115バレルエントリープルーフ

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(こちらはライも含むウィレットのマッシュビル表。これは私が作成したものなので、勝手にダウンロードして転載して構いません)

ポットスティル・リザーヴにどのマッシュビルが使われているかは正式には公開されていません。しかし、或る情報筋からの話によると①②③のブレンドと聞きました。ところが、2021年や2022年に執筆されたバーボン系ウェブサイトの記事ではマッシュビルは④のウィーテッド・マッシュとされています(※追記あり)。どちらかが正しいのか、或いは時代によるマッシュビルの変更があったのか? はたまた両者の情報を掛け合せて④を含むミックスなのか? 蒸溜所からの公式の発表はないので謎です。まあ、このミステリアスなところもウィレットの魅力の一つではあるのですが、真相をご存知の方は是非ともコメントよりご教示下さい。また、バッチ情報と共に味わいの感想などもコメントより共有して頂けると助かります。では、そろそろバーボンを注ぐとしましょう。

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WILLETT POT STILL RESERVE Single Barrel 94 Proof
Bottle No. 145 of 233
Barrel No. 1581
ボトリング年不明(購入は2013年頃なのでそれ以前は確実)。黒蜜、甘醤油、キャラメル、アニス、湿った木材、ドライピーチ、バナナ、ナッツ、ウッド・ニス、銅、プルーン。途轍もなく甘く、樹液のような香り。ややとろみのある口当たり。パレートでも甘く、更にハーブぽい風味が濃厚。余韻はミディアムで豊かな穀物とレザー、最後はビター。アロマがハイライト。
Rating:86.5/100

Thought:先ず、いにしえのシュガーバレルを想起させるアロマが印象的。味わいも独特で、これぞシングルバレルという感じ。口当たりや濃厚な風味は、確かに8〜10年くらいの熟成感と思いました。ボトリング年は不明ながら、シングルバレルでリリースされた時期であるところからすると、原酒はヘヴンヒルだろうと思われるのですが、いざ飲んでみると香りも味わいも一般的なヘヴンヒルとは全然違う印象を受けました。だからと言って他の蒸溜所、バートンとかワイルドターキーとかフォアローゼズに似てる訳でもなく、ウィレットの風味と言うしかないと感じます。ヘヴンヒルからの購入とするなら、ホワイトドッグを購入してウィレット蒸溜所の倉庫で熟成させてるのか、もしくはヘヴンヒルが自分たちの味ではないと判断したオフ・フレイヴァーのバレルを購入しているかのどちらかなのかな? 或いは出来損ない(笑)のブラウン=フォーマンとか? まあ、それは兎も角、ウィレットにはウィレット・ファミリー・エステートという最高峰のシングルバレル・ブランドがあるので、普通に考えて最も優れたシングルバレルはそちらにまわされるでしょう。それ故、このシングルバレルのポットスティル・リザーヴは飽くまで「次点」のシングルバレルの筈。味わいがアロマほど良くないところが、このボトルのらしさなのかも知れない。アロマをそのまま味わいにも感じれたら、もしくは微妙なオフ・フレイヴァーがなければ、点数は88点を付けてました。ぶっちゃけ、上のレーティングのうち1点はボトルに対してです。

偖て、今回は私の手持ちのシングルバレル版ポットスティル・リザーヴをメインに飲んだ訳ですが、そこに加えて先述のようにスモールバッチ版のサンプルを頂けたので、おまけで少しだけ比較が出来ます。サンプルは例によってInstagramで繋がっているバーボン仲間のKさんから。ウィレッ党のKさん、本当にいつも貴重な情報やバーボンをありがとうございます! 

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(画像提供K氏)
WILLETT POT STILL RESERVE Small Batch 94 Proof
Batch No. 16D1
推定2016年ボトリング。シングルバレルより薄いブラウン。香ばしい穀物、キャンディ、シリアル、砂糖、新鮮な木材。ウッディなスパイス香。ややとろみのある口当たりながら、尖りも感じさせるテクスチャー。口の中でもスパイシーでメタリック?でドライ。余韻はやや甘みも。

バーボンらしさを象徴する風味は全てあるのですが、それ以上に若々しく、荒く、何と言うかギラついた金属感のようなものを感じました。多分、ウィレット原酒だと思います。もしヘヴンヒルなら4年以下の熟成物でももう少しこなれた感があると思うのです。不思議なのは、新ウィレット原酒を使ったオールド・バーズタウンやケンタッキー・ヴィンテージやピュア・ケンタッキーXOの良さの片鱗を感じれなかったこと。単純に熟成年数の短さに由来するのか、それともマッシュビルに由来するのか…。いや、そもそもウィレット蒸溜ではないのか? 謎が謎を呼びますが、バーボン・ティックトッカーが怒りの声を上げているのは、おそらくこのレヴェルの物なのでしょう。そうであるならば、まあ確かに頷けるかな、と。とは言え、ウィレット自家蒸溜のスモールバッチは、これより後の物はもう少し味わいが改善している可能性はあるかも知れません。2020年以降のボトルを飲んでみたいですね(追記参照)。
Rating:81/100

Value:現行ウィレット・ポットスティル・リザーヴ・スモールバッチのアメリカでの750mlの小売価格は地域差が大きく、40ドル未満の場合もあれば60ドル近い場合もあるようです。日本でもそれに準じて5000円台後半から7500円の間が相場でしょうか。この価格には華麗なボトルの代金も含まれるので、同じウィレットのスモールバッチ・ブティック・コレクションやオールド・バーズタウンのエステート・ボトルドの価格を考えると、中身にのみお金を払っているという意識の方には少し高く感じられるかも知れません。購入検討している方は、外観を含めてお金を払う意識でいた方が良いと思います。
シングルバレル版に関しては、もし7500円程度で購入できるチャンスがあるなら、買う価値は間違いなくあると思います。たとえ当たり外れがあったとしても…。

追記:どうやら2021年か2022年のどこかの段階でポットスティル・リザーヴはウィーテッド・マッシュビルに変更されたようです。この変更移行の物は、おそらく16D1とは比較にならないくらい美味しくなっているのではないかと予想されます。

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(画像提供K氏)

ウィレット・ファミリー・エステート・シングルバレルのバーボンとライのリリースは、アメリカン・ウィスキー市場で最もカルト的な人気があり、「ユニコーン」と呼ばれるウィスキーの代名詞的存在です。パピー・ヴァン・ウィンクルやバッファロー・トレース・アンティーク・コレクションと同じか、或いはマニア筋にはそれ以上に評価されています。WFEはプライヴェート・バレル・セレクション・プログラムのラベルであるため、それぞれのストアや様々なウィスキー・ソサエティのピック、輸出のみのオファリング、チャリティー・ボトル、蒸溜所のギフト・ショップでのリリース等がありますが、当該のコミュニティに属しているか小売業者または個人とのコネがないと、法外な価格を支払わずにボトルを購入することは難しいです。一部のスモールバッチのWFEを除いて、シングル・バレルに関しては常に需要が供給を遥かに上回っており、今後もその傾向は続くと予想されます。
当のアメリカ、また世界的にそのような状況の中、日本でも一部の輸入業者や酒販店のストアピックが入荷され即完売となる現状に於いて、日本で最も数多くのウィレット・ファミリー・エステートが飲める場所と言えば、ウィレット蒸溜所と親交のある豊橋のバーボン・バー、ゲモーを措いて他にありません。ゲモーと言えばウィレット、ウィレットと言えばゲモーなのです。
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(画像提供K氏)

今回取り上げるのはお店の25周年を記念している「GEMOR 2021」です。ゲモーさんセレクトのWFEと言えば、名高いのは以前20周年記念の時にリリースした「C70A」でした。そちらはバーンハイム・ウィーターの20年熟成でしたが、こちらのバレル・ナンバー「2103」はウィレット蒸溜所の代表銘柄オールド・バーズタウンのシリーズで使用されるハイ・コーン・バーボン・マッシュビル(79%コーン、7%ライ、14%モルテッドバーリー)を使った自社蒸溜原酒となっています。バレル・エントリーは125プルーフだそう(「19xx-21xx(125p)」)。
WFEは導入された当初、全て調達されたバレルからボトリングされていました。1980〜90年代のアメリカン・ウィスキー低迷期には、オープン・マーケットへの需要は殆どなく、ハイ・クオリティなウィスキーが安く手に入りました。それらを購入するNDPは競争相手があまりいないので、基本的にどんな年数のバレルでも選ぶことが出来たと言います。このブランドの初期の評価を伝説的なものにした要因は、そうした優れたバレル(特に長熟の)を惜しげもなくバレルプルーフ、アンチルフィルタードにてボトリングしたことにあったでしょう。バーンハイム蒸溜所のウィーテッド・バーボンはそのうちの一つだった訳です。2012年からウィレット蒸溜所は再び蒸溜を再開し、彼らのオリジナル蒸溜液で満たされたバレルは熟成を続け、今日ではそれらを使った様々なレシピの4〜8年熟成のWFEシングルバレルが市場に出回って来ました。
この大変貴重なWFEを飲めるのは、例によってバーボン仲間のK氏よりサンプルを提供頂けたお陰。画像提供も含めてこの場でお礼申し上げます。こちらからは大したお返しも出来ないにも拘らず、本当にいつもありがとうございます、感謝の極みです! では、飲んだ感想を少しばかり。

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(画像提供K氏)
WILLETT FAMILY ESTATE BOTTLED SINGLE BARREL BOURBON "GEMOR 2021" 25th ANNIVERSARY 8 Years 122.6 Proof
GEMOR 零号樽
Barrel No. 2103
2021年ボトリング。ややオレンジがかったアンバー。グレープ、マヌカハニー、スウィートグレイン、蜂蜜レモン、柑橘、木質の酸、ローストコーン、バターを塗ったトーストしたパン。バレルプルーフにしては刺激が少なく滑らかな口当たり。味わいはフレッシュフルーツ。余韻は豊かな穀物とビターチョコ。

オールド・バーズタウンのスタンダードやボトルド・イン・ボンド、エステート・ボトルドと同系統の頗るフルーティなアロマや味わいを感じました。それらと較べてプルーフィングや熟成年数の違いから、こちらの方がもっとダークな味わいかと予想していたのですが、むしろ溌剌としたブライトな樽感が印象的でした。おそらく開封からさほど時間が経ってない状態での試飲なので、今後もう少しフレイヴァーに変化はありそうな気はしますね。
Rating:89/100

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(画像提供K氏)

アメリカ国内でのバーボン需要が低かった1980年代から2000年頃まで何年にも渡って海外へ販売されたKBD(プレミアム・ブランズ、ウィレット)の数多いブランドのうちの一つがバーボンタウン・クラブです。多分、80年代後半~90年代前半にかけて日本に輸入され、比較的短期間で使われなくなったラベルかなと思います。名前の「バーボンタウン」というのは、どう考えてもバーズタウンのことを指しているでしょう。だから、バーズタウン・クラブと言ってるに等しいかと。ちょっと紛らわしいですが、実際このバーボンタウン・クラブと同時期くらいに同じくKBDのブランドで「バーズタウン・クラブ」という姉妹品?もありました。ラベルのデザインから言って、プレミアム感を構築する意図は感じられません。そのため壮大なブランド・ストーリーなどは特にないです。このブランドが昔のラベルの復刻なのか、それとも輸出専用ラベルとしてその当時に作成されたのかもよく分かりませんでした。

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(画像提供K氏)
バーボンタウン・クラブにはヴァリエーションとして、6年86プルーフ、10年86プルーフ、12年86プルーフ、スクワット・ボトルの15年101プルーフがありました。初期の丸便のラベルでは「THE WILLETT DISTILLING COMPANY」を、後の角瓶では「OLD BOURBONTOWN DISTILLERY」を、DBAの名義として使っています。どちらにしても、6年物はどうか判りませんが、10〜15年物は発売年と熟成年数を考慮すると旧ウィレット原酒の可能性が高いと思われます。今となってはオークションで高騰の一途を辿る原酒の一つな訳ですが、今回もまたInstagramで活躍中のウィレット信者K氏よりサンプルを頂きました。画像提供の件も含め、こちらで改めてお礼を言わせてもらいます。貴重なバーボンをありがとうございました。バーボン繋がりに乾杯!

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BOURBONTOWN CLUB 10 Year 86 Proof
推定1989年ボトリング。オールドボトルファンク、ヴァニラウエハース、キャラメル、クローヴ、ミント、茴香。ノーズはオールド臭の中に僅かな甘い香り。口当たりは水っぽい。味わいは漢方薬のようなハーブのような薬っぽさで苦く、甘み弱め。余韻は、口の中から香りはあっという間に消え、鼻腔と喉奥にオールド臭が長く残る。
Rating:74/100

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BOURBONTOWN CLUB 12 Year 86 Proof
推定1989年ボトリング。キャラメル、湿った地下室、焦がしたオーク、樹液、オレンジ、茴香、ミント、タバコ、土、コーン、ビターチョコ。水っぽい口当たり。アルコールのヒリヒリ感は全くない。味わいはアーシーなハーバルノート強め。余韻は86プルーフにしては長く、ビターな風味が尾を引く。
Rating:82.5/100

Thought:実は10年の方は見た目がけっこう曇っていました。おそらくボトリング時の味や香りも多少は存命しつつも、かなりオールドボトル・エフェクトが効いていて、このバーボン本来の味わいとは程遠いと思います。正直このままではキツイほど…。しょっぱいオツマミ、例えばサラミとかに合わせると幾分か飲み易くなりました。バーボンに限った話ではないかも知れませんが、直前に食べた物によって感じる風味は変化します。自分的に飲みづらいと思うバーボンに出会ったら、何かしら相性の良い食べ物とペアリングするのはオススメの手法ですね。
12年の方も少し曇りはあるのですが、10年と較べるとかなりクリアだったので、軽めのオールド臭くらいで済んでいましたし、グラスに注いで暫くするとそれも消えたので普通に飲めました。薬っぽい風味がやや少なく飲み易かったのです。ノーズでもパレートでも10年と共通する傾向は感じ、おそらく両者はかなり似ている気がします。10年がまともな状態だったら、あまり差が分からなかったのかも知れません。残念だったのは、思ったよりフルーティさを感じれなかったところです。もしかすると6年物の方が自分の好きなフルーティさが取れたのかも…。

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今回はウィレット蒸留所の代表的なブランドであるオールド・バーズタウンのラインナップの一つエステート・ボトルドです。オールド・バーズタウンのブランド自体の説明は以前に投稿した現行スタンダードのレヴューを参照ください。
エステート・ボトルドの起源はよく分かりません。ネット検索で知り得る限りでは15年熟成の物が最も古いような気がするのですが、どうでしょう? 私が見たものには、年式を90年と95年としているものがありました。エステートのラベルは、80年代から日本に輸入されていた当時のスタンダードである馬の頭と首だけの描かれたブラック・ラベルと違い、初期と同じ「オールド・レッド・ホース」の佇む絵柄です。そこからすると、より上位の物にスタンダードの丸瓶や角瓶とは異なるずんぐりしたボトルを採用し、そのトップをワックスで浸し、中身は101プルーフでボトリング、そして伝統的な絵柄のラベルを貼り付けることでプレミアム感を出したのがエステート・ボトルドなのかな、と推測しています。「Estate Bottled」というのがどういった意味かはよく解りませんが、エステートは一般的に「財産、遺産、不動産、土地」などの意味なので、「Family Reserve」や「Private Stock」とほぼ同じような意味なのではないでしょうか。上の意味の他に「種馬」の意味もあると書かれた辞典もありましたから、もしかするとお酒のラベルでよく使われるファミリー・リザーヴやプライヴェート・ストックを敢えて避け、馬のラベルに関連付けてエステート・ボトルドにしたのかも知れませんね。また、常にボトリングが101プルーフであることを考えると、ボトルド・イン・ボンド規格以上ですよと云う意味合いで「Bottled」をかけているのかも。仔細ご存知の方はコメントよりご教示ください。で、その15年熟成の物は、おそらく日本向けか一部の市場のみでの販売と思います。販売された年代と熟成年数から考えると、中身は旧ウィレット原酒であってもおかしくはないでしょう。或いは、開けただけでワイルドターキーの15年物と分かった、と仰ってる海外の方も居られました。飲んだことのある皆さんはどう思いましたか? コメントよりどしどしご感想をお寄せ下さい。
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その後、高齢原酒の不足のためか、いつの頃からか10年熟成の物に切り替えられました。この10年表記の物はアメリカでも流通していたようなので、もしかすると切り替えと言うよりはそもそもアメリカ国内向けと輸出用を分けていたのかも知れません。例えば、15年熟成は日本へ90〜95年に少量輸出、10年熟成はアメリカ国内にて90年代後半に発売とか? ともかく、いつから販売されていたかは私には判らないです。そしてもう少し後年、おそらく2008年あたりに熟成年数を表すシールの貼られてないNASになったと思われます。これは確実に長期熟成原酒の不足が理由でしょう。緩やかにではありましたが、2000年代を通してバーボンのアメリカ国内需要は復調していったのです。10年やNASの中身は、おそらくヘヴンヒル原酒の可能性が高いと見られています。

1970年代にバーボンの売上げが劇的に減少し、折からの石油不足が燃料用アルコールへの投資を促すと、投資家はウィレット蒸留所の飲料用アルコール生産を止め、燃料用の生産にシフトしようとしました。しかし、それは使い物にならない機器を残し失敗に終わりました。ありがたいことに、エヴァン・クルスヴィーンは平常心を保ち、一家をバーボン業界に留めるため、1984年にケンタッキー・バーポン・ディスティラーズ(KBD)というボトリング事業を始めます。エヴァンはその後の約30年間、他の蒸留所からウィスキーを購入し、オールド・バーズタウンを守り続け、新しいブランドも創り上げながら、伝統ある自身の蒸留所の再開を夢見ていました。2012年に漸く彼のその夢は叶い、蒸留所は再び蒸留を開始します。2016年になると自家蒸留されたオールド・バーズタウンの二種類(スタンダード90プルーフとボトルド・イン・ボンド)が販売され出しました。
エステート・ボトルドがいつから新原酒になったのか定かではありませんが、6年熟成とされているところからすると、早くて2018年あたりなのでしょうか? ところで、新しいスタンダード90プルーフとボトルド・イン・ボンドのラベルは、どちらもウィレット蒸留所によって蒸留および瓶詰めされていると記載されていますが、対してエステート・ボトルドの私の手持ちのボトル、またそれ以前のボトルのラベルには、蒸留はケンタッキー、ボトリングは「Old Bardstown Distilling Company」によりされたと記載されており、海外ではこれをウィレットが蒸留していないバーボンを販売するときに使用される戦術とする向きもあります。まあ、概ねそうなのかも知れませんが、旧来のラベルはなくなるまで使い続けられることもあるし、そのバーボンの名をDBAとして使用した蒸留所名だからといって全てがソーシング・バーボンとは限らない気が個人的にはしています。現に私の手持ちのボトルは確実に新ウィレット原酒です。おそらく実店舗では、現在日本で流通しているエステートの殆どは新原酒を使用している筈。とは言え、オークションや売れ残りで旧来のエステートが販売されていることも稀にはあるでしょう。そこで旧と新の目安とするならラベルよりもボトル形状に着目して下さい。最近流通しているボトルはネックにやや丸み(膨らみ)のあるものが採用されています。
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或いはボニリが正規輸入している物は新原酒と聞き及びますので、裏のラベルを目印に購入するとよいでしょう(*)。
では、そろそろバーボンを注ぐ時間です。ちなみにエステート・ボトルドは、スタンダードやBiBと共通のハイ・コーン・マッシュビル、そして上述のように6年熟成、スモールバッチ(21〜24樽)でのボトリングとされています。

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OLD BARDSTOWN ESTATE BOTTLED 101 Proof
推定2020年?ボトリング。焦げ樽、焼きトウモロコシ、プロポリス配合マヌカハニーのど飴、麦芽ゼリー、ミロ、ミルクチョコレート、熟したプラム、蜂蜜、レモン。液体はさらさらしているが、口当たりはややオイリー。パレートではモルティなグレインを強く感じる。余韻はややあっさりめと思いきや、穀物の旨味が広がり、最後にコーヒーの苦味。
Rating:87.5/100

Thought:先ず、スタンダードの4年と比べて2年の熟成期間の追加でかなり印象の違うものになっているのが驚き。スタンダードはフルーティさが強かったのに対して、エステートは味わいに凄くモルティさを感じました。私はフルーツ・フォワードなバーボンが好きなので、実はスタンダードの方が美味しく感じたのですが、私のレーティングは味だけで採点していないためエステートの方を上にしています。スタンダードではあまり感じなかった甘いミルクチョコやココアのような風味は、追加の熟成期間で育まれたと思われ、やはりそこは評価すべきかと。現行のバーボンとオールドボトルの様々な違いの要因について言われていることの一つに、昔は商業用酵素剤を使わずモルトを多く使用していたと云うのがありますが、このエステートにはそういった古のバーボンらしさがあるのかも知れません。同じウィレット蒸留所の同レヴェルの製品と目されるケンタッキー・ヴィンテージやピュア・ケンタッキーXOと比べても、マッシュビルの違いからか共通なフレイヴァーもありつつグレイン感の旨味が強いように感じます。どれが好きかは貴方の味覚や感性によって決まりますが、どれもハイ・クオリティで頗る美味しいです。

Value:日本では大体3500円前後。もうね、買え、そして飲め(笑)。オールドボトルでも長熟でもないバーボンの魅力が詰まってますよ。


*誤解のないように言っておくと、これはネックに膨らみのある物やボニリの物だと新原酒である蓋然性が高いと言うことであって、ストレートネックや並行輸入が新原酒ではないと言いたいのではありません。あくまで、ぱっと見で新原酒を購入したい人へ向けたアドヴァイスに過ぎないのです。

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オールド・ケンタッキーのシリーズは1988年に、バーボンのメッカであるネルソン郡バーズタウンのバーボン造り200周年を記念して発売されました。おそらく日本市場限定の製品だと思います。そのラインナップには、「スペシャル・リザーヴ(15年熟成101プルーフ)」を最高峰として、「No.88ブランド(13年熟成94プルーフ)」と「アンバー(10年熟成90プルーフ)」のような上位クラスの物から、「ケンタッキー・ドライ(5年熟成86プルーフのブレンデッド)」や「スピリット・オブ・トゥデイ(4年熟成80プルーフ)」といったエントリー・レヴェルまで、五つありました。90年前後に発行された幾つかのバーボン本によれば、88年2月に「スペシャル・リザーヴ」と「88」が発売され、89年に「アンバー」と「トゥデイ」がラインナップに加わったとされています。
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今となっては、このバーボンの情報をネットで検索しても殆ど出て来ません。そこで、バーボンのマーケティングに於ける常套句ばかりではあるのですが、首に掛かったタグに記載の紹介文を丸ごと訳しておきます。誤字と思われる箇所は勝手に修正して意味を通じ易くし、また概ね直訳ですが部分的に意訳もしました。

オールド・ケンタッキー・スペシャル・リザーヴ
ケンタッキー州は多くのことで有名です。ブルーグラス、サラブレッドの馬、そして何よりもケンタッキー・ストレート・バーボン・ウィスキー。地下の石灰岩層を通った豊富な湧き水に恵まれたネルソン郡は、古くからケンタッキー州の蒸留酒産業の中心地でした。そしてネルソン郡の中心にあるバーズタウンは1788年に設立され、「世界のバーボン首都」として広く知られています。
バーズタウンでのバーボン製造200周年(1788〜1988)の特別な記念として、オールド・ケンタッキー・ディスティラリーはオールド・ケンタッキー・スペシャル・リザーヴを提供することを誇りに思います。 間違いなく世界で最高のバーボン・ウィスキーです。
どのようにしてこのような良いバーボンを造ることが出来たのでしょうか? その答えは四つの要素から成ります。優れた原料、クラフトマンシップ、品質管理、そして時間。
我々は注意深く選び出した穀物とピュアなライムストーン・ウォーターという最高の素材から始めました。そして、同じ家系のマスターディスティラーが何世代にも渡り受け継いできたスキルとクラフツマンシップを駆使します。次に、些細な点まで細心の注意を払い、可能な限り最高の品質を提供できるよう生産量を厳しく制限するのです。そして最後に、この並々ならぬバーボンを焦がしたオークの新樽に貯蔵し、ゆっくりと完全に熟成するまで15年という長い歳月を待ちました。
そういう訳でお分かりでしょう。他に類を見ないブーケとテイストとキャラクターのバーボン、オールド・ケンタッキー・スペシャル・リザーヴの物語。
だからリラックスして、寛ぎながら、ゆっくりとこの本当に格別なウィスキーを飲んでみて下さい。オールド・ケンタッキー・スペシャル・リザーヴの楽しみは、それがケンタッキーの至高のバーボン・ウィスキーの成果、最高級の中の最高級、世界でも比類なき15年物バーボンであるという知識で更に大きくなる筈です。乾杯!
バーズタウンはまた1818年に建てられたローワン・ハウスの所在地としても有名で、ローワン家の従兄弟である著名なアメリカン・ソングライター、スティーヴン・フォスター作曲のよく知られた歌曲『ケンタッキーの我が家(My Old Kentucky Home)』で不朽の名声を与えられています。
オールド・ケンタッキー・スペシャル・リザーヴの出荷時に使用される一時的な木製ストッパーは、ウィスキーを15年間熟成する55ガロンのチャード・オーク・バレルのストッパーとして使用される種類の本物のオーク・バングと同じです。このバングは出荷中の漏れを防ぐようにバーズタウンの蒸留所でシールドされました。
ひとたびオールド・ケンタッキー・スペシャル・リザーヴが貴方の家に到着したら、バングは付属してある永続的なクリスタル・ストッパーと交換することが出来ます。その後は、液漏れを防ぐためデカンターを垂直にしておく必要があります。

オールド・ケンタッキーのシリーズで頂点となるスペシャル・リザーヴ15年は、パッケージも中身のプレミアム感を倍増させるように豪華でした。液体が入ったデキャンターは重厚な造りで凄く重みがあります。上掲のハングタグにストッパーがクリスタルとあるので、本体のほうも流石にクリスタル製でしょう(※追記あり)。更に外装はオルゴール付の木箱の物と、紙箱の物の2パターンありました。
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(紙箱版。写真提供K氏)

私の手持ちの木箱のオルゴールはゼンマイが壊れてるのか錆びてるのか動きませんでした。本来はハングタグでも言及されているスティーヴン・フォスターの『マイ・オールド・ケンタッキー・ホーム』が鳴ります。皆さんにお聴かせしたかったのですが、そういう訳にもいかないので、代わりに同曲のユーチューブ・リンクを貼っておきます。このバーボンを飲むなら、今宵の一曲はこれしかありません。同曲には数多の演奏と歌唱があり、私もユーチューブで数十曲は聴いてみましたが、このヴァージョンが最も好みでした。



My Old Kentucky Home
マイ・オールド・ケンタッキー・ホーム

The sun shines bright in the old Kentucky Home
太陽は燦然と輝く古きケンタッキーの家に
'Tis summer, the darkies are gay
夏が来て、はしゃぐ黒人たち
The corn top's ripe and the meadow's in the bloom
トウモロコシの穂先は熟し、牧草は生い茂り
While the birds make music all the day
鳥たちは音楽を囀る日がな一日

The young folks roll on the little cabin floor
若者たちは小さなキャビンの床を転がる
All merry, all happy, and bright
皆んな陽気に、愉快に、活発に
By'n by hard times comes a-knocking at the door
もうすぐ辛い時がやって来てドアをノックする
Then my old Kentucky Home, good-night
そうしたら我が古きケンタッキーの家に、さよならだ

Chorus
Weep no more, my lady
もう泣かないで、愛しき人よ
Oh weep no more today
おぉ、もう泣かないで今日は
We will sing one song for the old Kentucky Home
我らは一曲歌おう懐かしきケンタッキーの家のために
For the old Kentucky Home, far away
懐かしきケンタッキーの家のために、遥か遠くの

They hunt no more for the 'possum and the coon
彼らはもう狩らないオポッサムもアライグマも
On the meadow, the hill and the shore
草っ原でも、丘でも岸辺でも
They sing no more by the glimmer of the moon
彼らはもう歌わない朧な月明かりのもとでも
On the bench by the old cabin door
古いキャビンのドアそばのベンチでも

The day goes by, like a shadow o'er the heart
一日が過ぎ行く、影が心を覆うように
With sorrow where all was delight
喜びあるところ悲しみもあった
The time has come when the darkies have to part
時は来た黒人たちが別れねばならない時が
Then my old Kentucky Home, good-night
そうしたら我が古きケンタッキーの家に、さよならだ

Chorus

The head must bow and the back will have to bend
頭を下げてお辞儀して背中を曲げなきゃならん
Wherever the darkey may go
黒人はどこへ行くにも
A few more days and the trouble all will end
何日かしたら厄介事は全て終わり
In the field where the sugar canes grow
砂糖黍の実る畑での

A few more days for to tote the weary load
何日かしたらうんざりする重荷を運ばなくては
No matter, 'twill never be light
なんて事ない、決して軽くはないけれど
A few more days till we totter on the road
何日かしたらついに我らは道路でよろよろしてる
Then my old Kentucky Home, good-night
そうしたら我が古きケンタッキーの家に、さよならだ

Chorus


『ケンタッキーの我が家』もしくは『懐かしきケンタッキーの我が家』との邦題で知られるこの曲は、日本でもどこかしらでよく流れているので、殆どの日本人がメロディだけなら確実に知っていると思います。ケンタッキー・フライド・チキンのCMで使われたりしたことで広まったでしょうか。スティーヴン・フォスター作詞作曲によるこの曲はケンタッキー州の州歌として1928年から採用され、曲のファースト・ヴァースとコーラスはアメリカで最も長く継続的に開催されているスポーツ・イベントのケンタッキー・ダービーでルイヴィル大学のマーチング・バンドの演奏に合わせて会場に集まった観客全員で斉唱する伝統があります。ルイヴィル大学マーチング・バンドは1936年以来、数年を除いてこの曲を演奏して来ました。チャーチル・ダウンズで歌っているのは主に裕福な白人の観客であり、ファースト・ヴァースとコーラスのみに限れば、古き良き南部に対するロマンチックな郷愁や家を失った悲しみの個人的な共感を喚起するのかも知れません。我々日本人にしても、カントリーのアレンジや童謡としてこの曲を聴くと、どことなく陽気な印象を受けるか、「懐かしき」のタイトルやメロディに引っ張られて郷愁や懐かしさを感じるのではないでしょうか。しかし、曲を聞き進めると歌詞は南部讃歌どころか、実は家族と強制的に引き離された奴隷の嘆きであることに気付かされます。夫と妻、親と子を遠ざけた奴隷制への非難が根底にある切ない哀歌に聴こえて来るのです。

ペンシルヴェニア生まれのスティーヴン・コリンズ・フォスター(1826年―1864年)は、曲を演奏するのではなく作曲することで生計を立てようと試み、そして暫くの間成功したアメリカで最初のプロのソングライターでした。フォスター自身はいわゆる奴隷制廃止論者ではなかったようですが、「同調者」程度には看做されていた可能性はあります。1852年の3月に出版された奴隷制廃止論者ハリエット・ビーチャー・ストウの小説『アンクル・トムの小屋』はケンタッキー州の奴隷の窮状について書かれました。フォスターはこの小説に大いに影響を受け、後の作品のトーンを変えたとされます。さっそく彼はストウの小説に触発された歌詞を書き上げました。その作品は最初「プア・オールド・アンクル・トム、グッド・ナイト!」と名付けられましたが、最終的にはストウの小説への言及を削除し、名前を「マイ・オールド・ケンタッキー・ホーム、グッド・ナイト!」に変更します。おそらくストウの小説と同年の1852年頃に作詞作曲されたと見られ、1853年1月にニューヨークのファース, ポンド&カンパニーから出版されました。「マイ・オールド・ケンタッキー・ホーム、グッド・ナイト!」は急速に人気を博し、あっという間に数千部を売り上げたと言います。曲の意味は当初から争われていたらしいですが、家を失うというノスタルジックなテーマは多くの人々の共感を呼び、奴隷制廃止運動の一部からも支持を受けました。この曲は南北戦争中も人気を保っていたとされ、同曲がアメリカ全土に普及し人気を博したのは、戦争中に兵士たちがこの曲を場所から場所へと伝えたからだと考えられています。19世紀を通して人気があったこの歌のタイトルの縮小、「グッド・ナイト!」の脱落は世紀の変わり目に起こったそうです。
20世紀に入り、フォスターが亡くなって数十年を経て奴隷制度が非合法化されてからも『マイ・オールド・ケンタッキー・ホーム』はミンストレル・ショーの白人観客の間で人気がありました。しかし、歌詞の最も悲痛な部分は省略されることが多かったと言います。或いは歌詞中のアフリカン・アメリカンへの差別用語だった「darkies」は、「everyone」や「children」や「friends」に置き換えられたようです。直にこの曲はケンタッキー州の観光の賛歌となり、1904年のセントルイス万国博覧会で1万部の楽譜が配布されました。曲が本来持っていた反奴隷制の意味合いが薄れて行くと、当然のことながら演奏に対する反対意見が出て来ました。1916年にボストンのNAACPは『マイ・オールド・ケンタッキー・ホーム』を含む「プランテーション・メロディー」を公立学校で禁止することに成功し、1921年にはケンタッキー出身の黒人詩人ジョセフ・コッターが黒人の社会的進歩を強調した新しい歌詞を提案したりもしました。いつしかこの曲はケンタッキー州のシンボルとして扱われ出します。しかし時はまだ、人種差別的なジム・クロウ法の真っ只中。白人至上主義者の力が強化された時期でもありました。この時期、ケンタッキー州の多くの著名な白人の議員やジャーナリストやビジネスマンは、歌に描かれていた動産奴隷の歴史を覆い隠し、フォスターの歌をアンテベラムに於けるケンタッキーのロマンティックなイメージの象徴として採用するようになったとされています。そして1928年、ケンタッキー州議会はこの曲を「文明社会の中でケンタッキーを不滅のものにした」として公式の州歌にするのでした。
その後、1986年に一つの変更が加えられ現在に至ります。同年3月11日、訪米中の仙台キリスト教育児院の生徒達がケンタッキー州議会を訪れ、「darkies」という言葉を使用したオリジナルの歌詞で州歌を唱し、黒人議員を驚かせました。それが原因なのでしょうか、州議会によって州歌としての『マイ・オールド・ケンタッキー・ホーム』の歌詞は「darkies 」の代わりに「people」を使う決議案が採択されました。この曲は過去1世紀を通じて少なくない改訂や更新が行われましたが、だからこそアメリカ文化に影響を与える楽曲であり続け、その文化に深く根付き、アメリカの作詞作曲の進化に於いて重要な役割を果たしたと評されるのでしょう。今日でも『マイ・オールド・ケンタッキー・ホーム』は世界中で演奏されています。そしてケンタッキアンでないバーボン飲みにとっても、この曲が特別な一曲であるのは言を俟ちません。

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ハングタグでも触れられているように、フォスターの遠い親戚でケンタッキーの政治家ジョン・ローワンの邸宅が一般的にはこの「我が家」のモデルとされています。1795年に建設され始め1818年に完成したという歴史的な7501平方フィートの邸宅と周囲1200エーカーの農場は、邸宅が建設された時分、家に名前を付けるというイギリスの習慣を受け、現在では存在しない政党である連邦党に敬意を表して元々は「フェデラル・ヒル」と名付けられました。ローワンが所有していた時代には、この邸宅は地元の政治家たちの集会場となり、何人もの来賓を迎えたと言います。アメリカ全土で楽曲の人気が高まった後、フェデラル・ヒルはケンタッキー州に購入され史跡として指定されると、1923年7月4日に「マイ・オールド・ケンタッキー・ホーム」へと改名されました。スペシャル・リザーヴ15年のラベルに描かれているのがフェデラル・ヒルと言われるジョン・ローワンのマンション、即ち「マイ・オールド・ケンタッキー・ホーム」でしょう。ちなみに同じウィレット蒸留所のリリースしているローワンズクリーク・バーボンの名前の由来の小川も彼にちなんで名付けられています。
フォスターの歌にはジョン・ローワンのプランテーションを訪れた時のケンタッキーのイメージが明確に含まれているという説があります。フォスターの兄弟モリソンは1898年の手紙の中で、スティーヴンがフェデラル・ヒルを「時々訪れていた」と述べたとか。しかし、『マイ・オールド・ケンタッキー・ホーム』が作曲された頃にフォスターがこの農園を訪れていたことを示す現代的な証拠はなく、曲中のどこにもフェデラル・ヒルを特定する目印は含まれていません。有名な曲とフェデラル・ヒルとを繋ぐ伝説にも拘らず、おそらくフォスターはこの場所を訪れたことはなく、ジョン・タスカー・ハワード、ウィリアム・オースティン、ケン・エマーソン、ジョアン・オコンネルなどの伝記作家達は曲との関係について異議を唱えているとされ、なんなら「ケンタッキー」の名称の採用は語呂の良さで選んだのではないかとする説もあるそうです。

さて、そろそろ肝心の中身について。オールド・ケンタッキー・スペシャル・リザーヴ15年はKBDによりボトリングされました。リリース時期と熟成年数から考えると、おそらくは旧ウィレット原酒で間違いないでしょう。これ以上の情報は語るほどはなく、判明しているのは最低15年熟成されチャコール・フィルターを通過した(紙箱に記載)101プルーフのバーボンということだけ。しかし、SNS上でオールド・ケンタッキーは小麦バーボンと言っている人を見かけました。小麦バーボンだとしたら、おそらくシリーズ中、このスペシャル・リザーヴ15年とNo.88ブランド13年だけではないかと思いますが、どうでしょう? まさかアンバーも? 誰か仔細ご存知の方はコメントよりご教示下さい。
また、よく分からないのがリリースされた期間です。No.88ブランドはボトル形状と色の違う物が3種類あり、ある程度の期間流通していた気がしますが、スペシャル・リザーヴは一回限り、もしくは多くて二回くらいしかリリースされていないのではないかという印象があります。つまり88年だけか、或いは88年と89年だけとか? こちらも正確に把握している方がいましたらコメントを頂けると助かります。
では、この余りにもケンタッキーの刻印が深く余りにもバーズタウンらしさに溢れるバーボンを注ぐとしましょう。

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OLD KENTUCKY SPECIAL RESERVE 15 Year 101 Proof
推定1988年ボトリング。ほぼダークレッドと言っていいようなブラウン。濃密なキャラメル、ヴァニラ→メープルシロップ、古い木箱、メロンぽい接着剤、薬用歯磨き粉、炭、お婆ちゃんのスパイスキャビネット、黒糖、栄養ドリンク、タバコ。少しカビっぽく官能的な甘いアロマ。比較的ゆるい口当たり。パレートはオレンジゼストと渋柿。液体を飲み込んだ直後はハービー。余韻はメロンクリームソーダぽい甘味が感じられるが、それは思うよりあっさりと退いて行き、長熟らしい渋味が口蓋全体に残りつつ、オールドバーボンらしいオーク香が鼻腔に長く残る。
Rating:91.5/100

Thought:長熟バーボンはバレルに入っている期間が長いためウッディさが勝ち過ぎて甘味を感じにくい弱点があります。しかし、このバーボンは強い甘味を保ちながらタンニンの渋味とギリギリのところで調和し、ハーバルな風味もする長熟バーボン好きには堪らない逸品だと思います。個人的にはバーボンに渋みを欲しないので、決して好きな傾向の味わいではないのですが、これはこれで上手く熟成しているとは思いました。特に強烈なキャラメル香はハイライトであり、ほぼ満点です。味わいも渋みはあっても鋭い苦味のない点は良かったです。
で、件の小麦バーボンかどうかですが、これ単体で飲んでいる時点では正直分かりませんでした。口当たりと穏やかなスパイス感にそれっぽさを感じたくらいです。そこで比較のため、同じくKBDがボトリングしている長熟バーボンの一つ「オールド・ディスティラーズ・スペシャル・リザーヴ15年」をサイド・バイ・サイドで試飲してみました。すると全然違いました。まず香りはオールド・ケンタッキーの方が断然スイートなアロマです。そして味わいはかなり異り、オールド・ディスティラーズにはオールド・ケンタッキーにないライ・キックや爽やかなフルーツを感じたのです。あと、オールド・ディスティラーズの方が渋みもなく余韻はスッキリしており、なんとなく熟成が少し若そうな印象を持ちました。勿論、これは飽くまで個人的な感想であって「答え」ではありません。それに、たった二種類での比較に過ぎませんし、オールドボトル故のコンディションの差もあるでしょう。けれど、それらを差し引いても、オールド・ケンタッキー・スペシャル・リザーヴ小麦バーボン説は私には信憑性が高いような気がします。また、もしやオールド・ケンタッキー・スペシャル・リザーヴには15年以上の熟成古酒が含まれてるのではないか、なんて妄想もしてみたり…。飲んだことのある皆さんはどう思われたでしょうか? どしどし感想をコメントよりお寄せ下さい。
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Value:発売当時は20000円の小売価格でしたが、現在のオークション相場は10万円を超えています。15万近くで落札されてるのも見かけました。ウィレット蒸留所の人気が上がるにつれ、旧来のKBDがボトリングして日本へ輸出していたバーボンは、二次流通市場で年々高騰しているのです。もはや一部の奇特な人以外には手が出しにくいバーボンの一つがオールド・ケンタッキー・スペシャル・リザーヴでしょう。バーで見かけたら飲んでみるのをオススメします。


追記:記事を書き上げた後にフランス製のクリスタル・デカンターと判明しました。

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オールド・バーズタウンはウィレット蒸留所の代表的な銘柄。このブランドがいつ誕生したのか明確ではありませんが、ウィレットの公式ホームページの年表によれば1940年代とされ、1935年に蒸留所を開設してからの最初のブランドであろうと見られます。海外の情報では、その名の由来はバーボン生産の一大拠点でありウィレット蒸留所のある町の名前からではなく、1950年代に活躍したハンディキャップのある競走馬からだとされています。ただし、その馬はレキシントンのカリュメット・ファームで育成され、ネルソン郡バーズタウンにちなんで命名されました。足首と股関節に問題があったため4歳までレースに出走しなかったものの、その後4年間レースに出場し当時のトップ・レヴェルの高齢馬の一頭となったとか。しかし、これだとブランドの発売時期と「バーズタウン」と名付けられた馬の活躍時期とが一致しません。日本での情報では、ブランド名は当時の蒸留所のオウナーであるトンプソン・ウィレットもしくはその父親ランバートが所有していた競走馬の名前から付けられた、とされています。どちらにせよ、こうしたブランド・ストーリーは真偽の程が定かではなく、何となく後から取ってつけたものであるような気がしますね。

さて、ここらでオールド・バーズタウンの初期ボトルにでも言及したいところなのですが、実は画像検索でそのような古いボトルは殆ど見つかりません。広告で見る限り、4年熟成90プルーフとボトルド・イン・ボンドがあり、また86プルーフのヴァージョンもあったようです。あと年代は判りませんが、6年熟成90プルーフや7年熟成BiBの物も見かけました。その他に画像検索で見つかり易い物には70年代後半ボトリングのケンタッキー・ダービーにちなんだデカンターがあります。78年のオートモービル・カー・デカンターもありました。70年代に入りめっきり売上の減少したバーボンにあって、こうした何らかの記念デカンターは比較的売れる商材であったため、他にもオールド・バーズタウンのデカンターはあるのかも知れませんが、そもそもビームやエズラやマコーミックに較べるとウィレットの製品は絶対的に流通量が少ないような印象を受けます。

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(様々なオールドバーズタウン。画像提供K氏)

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我々日本人にとって馴染み深いオールド・バーズタウンと言えば、80年代半ば頃?から輸入されているブラック・ラベルに馬の頭と首のみがゴールドで描かれた物でしょう。ブラザー・インターナショナルが輸入した物に付いていたカード(上画像参照)を読む限り、ブラザーが正規輸入代理店となって初めて日本にオールド・バーズタウンを広めたのだと思われます。ジャパン・エクスポートのブラック・ラベルには6年熟成86プルーフと12年熟成86プルーフがありました。その後、後述する2016年まではブラック・ラベルのデザインがスタンダードなオールド・バーズタウンになったようで、輸出国の違いによりNAS(もしくは4年熟成)86プルーフと90プルーフがあります。見た目が豪華なゴールド・ラベルには10年熟成80プルーフとNAS80プルーフがありました。使われる色が豪華だと中身のスペックもより上位なのが通例なのに、ゴールドの方がブラックより格下という珍しいパターンですね。寧ろスタンダードなブラックより上位の物にはエステート・ボトルドというのがあり、それには初期の頃と同じ「オールド・レッド・ホース」が描かれたラベルと、丸瓶や角瓶と違うずんぐりしたボトルが採用されています。おそらく日本向けの15年熟成101プルーフ、10年熟成101プルーフ、そしてもう少し後年のNAS101プルーフがありました。

ウィレット蒸留所は1980年代初頭、訳あってバーボンの生産を停止し、同社は80年代半ばにケンタッキー・バーボン・ディスティラーズ(KBD)として再スタート。その当初は独自の蒸留物でオールド・バーズタウンのブランドをリリースするのに十分なエイジング・バーボンのストックがあったと思われますが、在庫が枯渇する前に余所の蒸留所からバーボンを調達するようになりました。KBDのバーボンの大部分はヘヴンヒルから来ていると見られ、90年代以降のオールド・バーズタウンは概ねヘヴンヒル原酒で構成されていたと考えられています。トンプソン・ウィレットの娘婿でKBDの社長エヴァン・クルスヴィーンは、蒸留所を再開する夢を持ってオールド・バーズタウンやジョニー・ドラムといったブランドを存続させ、ノアーズ・ミルやローワンズ・クリーク等のスモールバッチ・ブティック・バーボンを相次いで発売しました。こうした自社ブランドの販売、他社のためのボトリングやブローカーとしての活動が実り、2012年、遂にエヴァンとその家族の長年の夢は達成され、蒸留所は再び蒸留を開始します。そして熟成の時を経た2016年、ようやく自家蒸留による「新しい」オールド・バーズタウン90プルーフとボトルド・イン・ボンドがリリースされました。その両者のラベルはトンプソン・ウィレットがプレジデントだった時代のオールド・バーズタウンを再現したものです。
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どちらもウィレット・ファミリー・エステートのボトルほどエレガントではない古典的なバーボンらしいボトルに詰められています。スタンダードな90プルーフのラベルのフロントには馬がいません。代わりに紋章が描かれたシンプルなもの。クリームとブラウンの色合わせと相俟ってカッコいいですよね。一方のボトルド・イン・ボンドのラベルは、これぞオールド・バーズタウンという邸宅の前に佇む牧歌的な馬が描かれたもの。当初はキャップの色がゴールドでしたが、2018年後半あたりにブラックに変更されたようです。
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(画像提供K氏)
ちなみにこちらのBiB、初めは蒸留所のギフトショップでのみ売られ、その後ケンタッキー州だけでリリースされるようになりました。もしかすると現在ではもう少し広い範囲に流通しているのかもですが、私には詳細は分かりません。それはともかく、今回、現行の新しいオールド・バーズタウン90プルーフのレヴューと一緒に、日本では一般流通していない希少なBiBを飲めることになったのはバーボン仲間のK氏よりサンプルを頂いたお陰です。画像提供の件も含め、改めて感謝致します。ありがとうございました!
では、そろそろバーボンを注ぐ時間です。

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OLD BARDSTOWN 90 Proof
推定ボトリング年不明、購入は2019年。プロポリス配合マヌカハニーのど飴、熟したプラム、コーン、グレープジュース、食パン、干しブドウ、干し草。円やかな口当たりながら若いアルコール刺激もある。味わいはグレープキャンディと穀物を感じ易い。余韻はミディアム・ショートで、最後にレモンジンジャーのような苦味が残るのは悪くない。
Rating:86.5/100

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OLD BARDSTOWN Bottled-in-Bond 100 Proof
推定ボトリング年不明。フロランタン、焦げ樽、蜂蜜、熟したプラム、グレイン、塩、フローラル。若干ウォータリーな口当たり。余韻はあっさりめで度数から期待するほど長くない。キャラメル系の香りはこちらの方が強いものの、フルーティさはスタンダードの方が感じ易かった。また、バレルプルーフでない50度のバーボンでここまで塩気を感じたことはない。
Rating:86.5/100

Thought:どちらも、同社の上位銘柄でありマッシュビル違いとなるケンタッキー・ヴィンテージやピュア・ケンタッキーXOと比べると、共通項もありつつグレイン・ノートが強く出ている印象。スタンダードとボトルド・イン・ボンドの違いは後者が単に濃くなっただけだろうと事前予想していたのですが、思ったより異なるフレイヴァーを感じました。ボトリング・プルーフが上がったことで何かしらのフレイヴァーが感じ易くなったと言うよりは、バッチングに由来する違いのような気がします。或いは熟成年数に少々差があるのでしょうか? 海外のレヴュワーで、プルーフの違いを除くと両者の違いは、通常のオールド・バーズタウンには4年に達していない幾つかのバレルがブレンドされてるのではないか(BiBは法律上確実に4年以上)、という意見を述べている人を見かけました。まあ、実際のところはよく判らないのでそれは措いて(追記あり)、現在のウィレット蒸留所は6種類のマッシュビルでウィスキーを造り、それぞれのレシピによってバレル・エントリー・プルーフも変えています。以下に纏めておきましたので参照下さい。

①オリジナル・バーボン・レシピ
72%コーン / 13%ライ / 15%モルテッドバーリー / 125バレルエントリープルーフ

②ハイ・コーン・バーボン・レシピ
79%コーン / 7%ライ / 14%モルテッドバーリー / 103または125バレルエントリープルーフ

③ハイ・ライ・バーボン・レシピ
52%コーン / 38%ライ / 10%モルテッドバーリー / 125バレルエントリープルーフ

④ウィーテッド・バーボン・レシピ
65%コーン / 20%ウィート / 15%モルテッドバーリー / 115バレルエントリープルーフ

⑤(ハイ・ライ)ライ・ウィスキー・レシピ
74%ライ / 11%コーン / 15%モルテッドバーリー / 110バレルエントリープルーフ

⑥(ロウ・ライ)ライ・ウィスキー・レシピ
51%ライ / 34%コーン / 15%モルテッドバーリー / 110バレルエントリープルーフ

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そして、オールド・バーズタウンのマッシュビルは海外で普及している情報では①とされています。バーボンをメインで扱うどのウェブサイトを閲覧してもそう書かれています。しかし、ウィレット蒸留所と縁の深いバーGのマスターによるとオールド・バーズタウンのマッシュビルは②のハイ・コーン・レシピと断言されていました。ビーム社で言うところのジムビーム・ホワイトに当る存在、つまり当該蒸留所のエントリー・クラスのバーボンであり代表的銘柄となるオールド・バーズタウンに、バーボンに於いてかなり一般的な穀物配合率の①のレシピを用いていても不思議ではありません。ただし、私が飲んだ感想だと②のレシピという印象を受けました。ウィレットの自社蒸留原酒は、他のケンタッキーの大手蒸留所のバーボンに較べるとアロマにライウィスキーぽいフルーティさが常に感じられるのですが、ケンタッキー・ヴィンテージやピュア・ケンタッキーXOと比較すると、オールド・バーズタウンはよりコーン率が高そうな味わいに思ったのです。
ところで、ウィレットのマッシュビルで興味深いのは、モルテッドバーリーの割合が一般的なバーボンよりも高いことです(だいたいのバーボンは5〜12%が殆ど)。①や②のレシピなどはモルテッドバーリーがライよりも大きな成分であるため、糖化のための酵素の役割としてだけでなくフレイヴァー要素を担わせているように思われます。おそらくモルトの含有量が増えると、一般的なバーボン・フレイヴァーから半歩外れるように感じる人もいるのではないでしょうか。まあ、実際にはモルテッドバーリーの配合率より酵母の違いやポット・スティルでのディスティレーション、或いは②に関してはバレル・エントリー・プルーフの低さの方がフレイヴァーにとって重要なのかも知れませんけれども。新しいオールド・バーズタウンを飲んだことのある皆さんはそのフレイヴァーについてどう思われましたか? どしどしコメントよりご感想をお寄せ下さい。

Value:ウィレットは長い歴史を持つ蒸留所ですが、規模や製造工程の点から言うと新しいクラフト蒸留所に近しいでしょう。まるで工場のような大手蒸留所と比べて生産規模の小さいクラフト蒸留所の製品はどうしてもお値段が高くなります。4年未満熟成のクラフト・バーボンで40ドルを超えることは珍しくありません。それなのに、ウィレットのプレミアムな一部の製品を除くレギュラー製品は、自身の新しい蒸留物であるにも拘らず、従来品とさほど変わらない値段が維持されています。オールド・バーズタウン90プルーフはアメリカでは17〜25ドル程度。日本での小売価格はだいたい2500〜3000円程度です。スモールバッチ・バーボンであるケンタッキー・ヴィンテージやピュア・ケンタッキーXOやポットスティル・バーボン、また同じブランドのオールド・バーズタウン・エステート・ボトルド等と較べると、やや「若さ」を感じる味わいではありますが、それらより安い2000円代で買えるこのスタンダードは完全にオススメ。なぜなら既に十分美味しいのですから。
90年代の調達されたバーボンから造られたオールド・バーズタウンも勿論悪くはありませんでした。しかし、新ウィレット原酒はソースド・バーボンとフレイヴァー・プロファイルが異なるだけでなく、はっきり言ってレヴェルが違うと個人的には思っています。初めて新ウィレット原酒を味わった時は、初めてMGP95%ライを飲んだ時と同じくらい衝撃を受けました。昔のオールド・バーズタウンにピンと来なかった方にも、是非とも再度試してもらいたいところです。


追記:現行オールド・バーズタウンの三つはそれぞれ、90プルーフのスタンダードは4〜5年熟成、ボトルド・イン・ボンドは5年熟成、エステート・ボトルドは6年熟成との情報が入りました。またオールド・バーズタウンにスモールバッチ表記は無いものの、おそらくどれも21〜24樽でのバッチングのようです。と言うか、ウィレットはスモールバッチ専門なので、他の製品も今現在はそれ位のバッチ・サイズなのでしょう。

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ピュア・ケンタッキーXOはケンタッキー州バーズタウンのウィレット蒸留所(KBD)で製造されているスモールバッチ・ブティック・バーボン・コレクションの四つのうちの一つです。その他の三つはノアーズ・ミル、ローワンズ・クリーク、ケンタッキー・ヴィンテージとなっています。価格から言うと、この中でピュア・ケンタッキーXOは下から二番目の位置付け。コレクションの成立はおそらく90年代後半とみられ、その名称はジムビームのスモールバッチ・コレクションを意識したのでしょうか。しかし、同じスモールバッチでもその生産量には余りにも大きな違いがあります。スモールバッチとは一回のバッチングに使用するバレルの数が少ないことを意味する業界用語ですが、業界最大手のジムビームは300~350樽程度でのバッチング、小さなクラフト蒸留所のウィレットは概ね20樽程度のバッチングのようなので、実際のところウィレット製品はヴェリー・スモールバッチとでも言った方が分かり易い。猫も杓子もスモールバッチを名乗る昨今、スモールバッチという言葉は既に本来の意義を失って形骸化し、ただのマーケティング用語に成り下がったように見えなくもないです。大事なのはスモールバッチかどうかではなく、実際に飲んでみて美味しいと思うかどうか。
まあ、それは偖て措き、ここらでピュア・ケンタッキーXOの中身について触れたいところなのですが、実は日本でも海外でもPKXOに関する情報は少なく明確なことが分かりません。その名称のXOは通常「Xtra(Extra) Old」の略なので、おそらくケンタッキー産の長期熟成を経た格別な原酒をボトリングするイメージがブランドの根底にあると思います。ピュア・ケンタッキーXOは基本的にNASではありますが、ボトルのバックラベルには「少なくとも12年熟成、もしくはもっと」との文言がある時代がありました。
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日本では今でも多くの酒販店の商品紹介欄に「最低12年熟成」と書かれていることが多く、これはそのバックラベルを根拠としての記述でしょう。しかし、このバックラベルは2000年代流通の物には貼ってあったかも知れませんが、2010~2012年あたりに当該の文言は削除されたか、もしくはバックラベル自体が貼られなくなったのではないかと思います。熟成年数の声明(エイジ・ステイトメント)がないということは、蒸留所の都合(所有するバレルの在庫状況や市場の需要と供給のバランス等)で、ブレンドに使うバレル選択が熟成年数に縛られず自由に出来ることを意味します。それまで低迷していたアメリカにおけるバーボンの需要は2000年以降徐々に増え出し、2010年以降には爆発的な伸びを見せました。そのため旧来まであったエイジ・ステイトメントがなくなる銘柄が増えたり、もともとNASだったものは若い原酒をブレンドするようになりました。おそらくピュア・ケンタッキーXOもこうした流れと無関係ではいられなかったのだと思います。例えば、2006年頃の情報では1バッチ8~10樽ボトリングで最低11年~最高14年物の原酒をヴァッティング、2011年頃の情報では5〜12年熟成のバーボン樽のコレクション、と説明されていました。これらの説明の情報源は蒸留所の方からのものなので、当時としては正確だと思われます。また、海外のレヴュワーさんのPKXOの記事のコメント欄で、KBDは同じラベルの下で異なる市場向けに異なるブレンドをリリースしていると聞いた、と述べている方もいました(追記あり)。 その伝聞が正しいのかは判りませんが、そもそもNASであること、ヴェリー・スモールバッチであることを考慮すると、バッチ毎は言い過ぎとしても生産年の違いによる味の変動は少なからずあるのが普通でしょう。
ピュア・ケンタッキーXOは初期の頃から(多分)2000年代後半までは緑色のボトルに入れられていました。その後は透明のボトルに切り替わります。そして何年間かは上記のバックラベルは貼られていて、現在では貼られていません。個人的にはこうした外観の変更時に中身の大幅な変化があったのではと勘繰っているのですがどうでしょう? 飲み比べたことのある皆さんのご意見、コメントよりどしどしお寄せ下さい。
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ウィレット蒸留所は1980年代初頭に訳あって蒸留の停止を余儀なくされ、80年代中頃からはケンタッキー・バーボン・ディスティラーズ(KBD)というインディペンデント・ボトラーとして活動。そのため余所の蒸留所からニューメイクや熟成ウィスキーを仕入れ、同社のエイジング施設で熟成後に自ら販売したり、他のNDPのためにボトリングしたりしていました。そうした活動が実り、2012年1月、ウィレット蒸留所は再び蒸留を開始し、そして時を経た現在では自家蒸留原酒をボトリングし始めました。
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(画像提供K氏)

以前投稿したケンタッキー・ヴィンテージと同じようにウィレット原酒の物は瓶の形状が変わっています。画像をよくご確認下さい。
さて、今回も親愛なるバーボン仲間でありウィレット信者であるK氏にサンプルを提供して頂きました。お陰でバッチ違いの異なる原酒のちょっとした比較が可能となりました。この場を借りて、改めて画像や情報提供の協力にも感謝致します。ありがとうございました。
今回のレヴュー対象はウィレット原酒を使用した推定2018年ボトリングの物。おまけのサンプルはヘヴンヒル原酒と目される推定2014年ボトリングの物です。では、注いでみましょう。

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PURE KENTUCKY XO 107 Proof
Batch QBC No. 18-31
推定2018年ボトリング。熟したプラム、蜂蜜、シリアル、花、塩バター、キャラメル、ローストアーモンド、ダークチョコレート。ややオイリーな口当たり。味わいには煮たリンゴやグレープやアプリコットのようなフルーツぽさ、もしくはフルーツガムのような旨味がある。ジュースを飲み込んだ時のパンチや濃さは感じられるが、余韻は度数の割りにあっさりしていて少しドライ気味、と思いきやその後から濃厚でフルーティな戻り香がやってくる。一滴加水したほうが甘さが立った。
Rating:87.5/100

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PURE KENTUCKY XO 107 Proof
Batch QBC No. 14-12
推定2014年ボトリング。紅茶、グレイン、溶剤、ミルクチョコレート。口当たりは思うよりさらりとしている。パレートにややハーブっぽい苦味。余韻はオークのドライネスが支配的。あまりフルーツ感のないタイプで、香り以外に甘味が感じにくい。
Rating:82/100

Thought:先日飲んだ新しいケンタッキー・ヴィンテージが凄く美味しかったので、新しいピュア・ケンタッキーXOへの期待値は高まっていました。ところが107というハイ・プルーフから期待するほどのインパクトに欠ける印象でした(特に開封直後)。マッシュビルの違いなのかバレル・セレクトの違いなのか、はたまた加水具合のためなのか判りませんが、KVの方が香りと余韻により華やかさを感じたのです。それでも開封から二週間ほど経ち、残量が3分の2くらいになると徐々に旨味が増し、新ウィレット原酒らしい濃密なフルーツと豊かな穀物が感じ易くなりました。KVとの比較で言うと、PKXOの方が焦がしたオーク由来の風味が強いように感じます。
バッチ14-12は香りからして別の原酒なのは明らかでした。以前投稿したケンタッキー・ヴィンテージの味比べと同じような結果になっているのですが、どうしてもレヴェルが違い過ぎるので点数に差がつきます。通常のヘヴンヒル銘柄とは少し異なる紅茶やハーブのヒントがあるのは評価するとしても、どうも溶剤臭が強いのと甘味を欠く点が私の好みではありませんでした。
ところで、ウィレットの蒸留再開が2012年ということを勘案すると、「ヴィンテージ」や「XO」との名称が付いていても、おそらくKVやPKXOの熟成年数は4~6年程度と推測されます。この先、長期熟成樽が仕上がってくると、バッチングにそうした樽を使用し始めるのか、それとも販売価格とのバランスを考えて今のスペックをキープするのか? 成り行きを見守りつつ、続報を待つとしましょう。マッシュビルに関してもそのうち分かれば追記します(追記あり)。
ちなみに、同じウィレット蒸留所からリリースされているジョニードラム・プライヴェートストックも新原酒に切り替わっていますが、PKXOとJDPSの違いはチャコール・フィルターの有無だけで他は同じだそうです(もちろんPKXOがフィルターなし)。

Value:ピュア・ケンタッキーXOの日本での販売価格は概ね3800~4500円くらいのようです。ケンタッキー・ヴィンテージの相場が3500円程度なことを考えると、107プルーフのPKXOが最安値だとプラス300円足らずで購入出来ることになります。これはハイアー・プルーファー愛好家にとっては嬉しい選択肢でしょう。個人的には、度数が低い割りに満足感のあるケンタッキー・ヴィンテージの方を推しますが、パワーに勝るピュア・ケンタッキーも捨てがたいですね。いずれにせよ他社の同価格帯の競合製品と較べて頭ひとつ抜け出てる印象の新ウィレット原酒はオススメです。
私はピュア・ケンタッキーXOの青く縁取られたケンタッキー州の地図とブルーワックスのデザインがめちゃくちゃ好きなのですが、同じ感性の方います? これって大きな価値ですよね?


追記1:日本が誇るバーボンマニアの方から情報を頂きました。その方によると、PKXOの欧州向けと日本向けを比較したところ、バッチ違い程度の差異しかなかったとのことです。

追記2:マッシュビルはハイ・ライのレシピ(52% Corn / 38% Rye / 10% Malted barley)との情報が入りました。

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ケンタッキー・ヴィンテージはウィレット蒸留所(KBD)が現在リリースしているスモールバッチ・ブティック・バーボン・コレクションの四つのうちの一つです。そのうち最も安価なブランドで、その他のラインナップはピュア・ケンタッキーXO、ローワンズ・クリーク、ノアーズ・ミルとなっています。このコレクションの成立は、おそらく90年代後半ではないかと思いますが、ケンタッキー・ヴィンテージだけもう少し前から一部の国へ向けてボトリングされていました。その頃の物は、現在のような茶色系のラベルではなく、白地に青と赤のトリコロールが印象的なカラーリングでした。ケンタッキー・ヴィンテージの起源は明確ではないのですが、私の知っている限り最も古いのは、ラベルに艶のない「15年101プルーフ」です。これは80年代後半あたりに当時のKBD(プレミアム・ブランズLTD)の社長エヴァン・クルスヴィーンが日本向けに発売した一連のプレミアムな長期熟成原酒の一つかと思われます。多分その後に艶のあるラベルの「12年101プルーフ」と「13年94プルーフ」が90年代初頭に発売されたと推測しています。
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レギュラー製品としてケンタッキー・ヴィンテージが発売された後にも、2000年には、上記と同じ艶のある白青赤ラベルで、ネック部分には熟成年数の替わりに蒸留年ヴィンテージが示されつつ蒸留日とボトリングの日付を手書きで記したシールが貼られ、ブルゴーニュ・スタイルのワインボトルにブルーのワックスで封された「1974」が日本限定で発売されました。またその他に発売年代が判別できませんが、おそらくヨーロッパ向け?と思われる薄紫色のバッグ付きの「1973」と「1974」というヴィンテージ表記の物もありました。両者ともにワイン・タイプではないボトルですし、デザイン的に90年代初頭ぽい気が…。ここら辺までの初期ケンタッキー・ヴィンテージに精通している方は是非ともコメントより情報提供お願いします。
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ケンタッキー・ヴィンテージのそもそもの製品コンセプトは、その名前からしてケンタッキーに長い間眠っていた長期熟成原酒をボトリングすることだったのだと思います。初期の物や限定リリースの物こそその名に相応しいとは思いますが、どういう訳かスモールバッチ・コレクションに再編されました。ウィレットのスモールバッチのバッチ・サイズはせいぜい12バレル程度とされ、選択を18〜20バレルから始めて絞り込むのだとか。そして初期の物と違いレギュラーのケンタッキー・ヴィンテージはNASです。熟成年数に関しては、2011年頃の情報では5〜10年、もう少し前の情報だと6年~12年とされていました。こうした極端に少ないバレル数のバッチングであること、NASであることを考え合わせると、バッチ毎の味の変動が大きい可能性はあるでしょう。バッチ毎は言い過ぎとしても、需要と供給の変化により選択する樽の構成を調整し易いのがNASの利点ですから、少なくとも生産年度に数年の違いがあれば、味わいの変動は十分考えられます。ちょっと明確な時期が判らないのですが、コレクションに編入された時から2000年代半ば(もしくは後半?)までは、色の付いた首の長い独特な瓶にボトリングされていました。その後の物も首は長めですが、もう少し一般的な形の透明の瓶に切り替わります。こうした外見の変化、パッケージのリニューアルは中身の大幅な違いをも表しているかも知れません。
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元ウィレット蒸留所のKBDことケンタッキー・バーボン・ディスティラーズ社は、80年代初頭に訳あって蒸留を停止してから長きに渡ってボトラーとして活動して来ました。そのため原酒を他所から調達しており、その殆どはヘヴンヒル蒸留所からと目されています。それが変わったのは2012年。長年の自社蒸留復活の夢が遂に叶い、蒸留を再開したのです。そして、それから数年を経て、自社蒸留原酒をボトリングし始めた、と。そこで新しいケンタッキー・ヴィンテージの登場です。
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(写真提供K氏)
画像で判る通り、ボトル形状が少し変わりました。新しい物は首が少し短くなり、肩周辺がより丸みを帯びたシェイプになっています。おそらく2017年もしくは2016年のバッチあたりから新しい物に切り替わっているのではないかと推察していますが、皆さんのお手持ちのバッチ情報があったらコメントよりお知らせ下さい。

さて、今回は私の手持ちの推定2017年ボトリングのケンタッキー・ヴィンテージをレヴューするのですが、親愛なるバーボン仲間でありウィレット信者のK氏から二種のサンプルを頂きまして、そのお陰でサイド・バイ・サイドによるちょっとした比較が可能になりました。男気溢れるK氏には掲載画像の件も含め、改めてこの場でお礼を言わせてもらいます。ありがとうございました。
で、その二種のサンプルは、一つが推定2018年ボトリングのもの。これにより半年~一年差のバッチ違いの比較が出来ると想定しています。もう一つは推定2010年ボトリングのもの。こちらでは原酒の違いを比較できるかと思います。では、飲み比べてみましょう。

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Kentucky Vintage 90 Proof
BATCH QBC No. 17-62
推定2017年ボトリング。蜂蜜、熟したプラム、トーストブレッド、チャードオーク、グレープ、コーン、パイナップル、梅干。さらりとした口当たり。パレートはモルティな風味とフレッシュフルーツ。余韻は豊かな穀物と穏やかなスパイスが割りと長く続く。
Rating:87.5/100

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Kentucky Vintage 90 Proof
BATCH QBC No. 18-10
推定2018年ボトリング。バッチ17-62とほぼ同様なフレイヴァー・プロファイル。強いて言うならポップコーンぽさが強いのと、オークのバランスがやや違うような気もするが、それは酸化の進行状況の違いかも知れず、概ね同じものと見做していいと思う。
Rating:87.5/100

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Kentucky Vintage 90 Proof
BATCH QBC No. 10-174
推定2010年ボトリング。上記2つより色は濃いめ。金属、薄いキャラメル、木材、コーンブレッド、ホワイトペッパー、クローヴ。ちょっとメタリックな匂い。味はビター感が強めで甘さが足りない。余韻はスパイシーでさっぱり切れ上がる。
Rating:81.5/100

Thought:現行のケンタッキー・ヴィンテージは、渋いラベルからは想像もつかないデリケートなフルーティさに満ち、なんと言うか原酒本来の穀物感が活きたバーボンだと思いました。現在のウィレット蒸留所には6種類のマッシュビルがあるとされ、その内訳は、

①クラシック・バーボン・レシピ
(72% Corn / 13% Rye / 15% Malted barley)
②ロウ・ライ・バーボン・レシピ
(79% Corn / 7% Rye / 14% Malted barley)
③ハイ・ライ・バーボン・レシピ
(52% Corn / 38% Rye / 10% Malted barley)
④ウィーテッド・バーボン・レシピ
(65% Corn / 20% Wheat / 15% Malted barley)
⑤ハイ・コーン・ライウィスキー・レシピ
(51% Rye / 34% Corn / 15% Malted barley)
⑥ロウ・コーン・ライウィスキー・レシピ
(74% Rye / 11% Corn / 15% Malted barley)

と、なっているようです(上記のレシピ名は、分かりやすいようにセカンド・グレインの差を中心に据えて私が勝手に付けたものです)。一瞥して気付くのはモルテッドバーリーの配合率の高さですよね。これはもしかすると商業用酵素剤を使用していないのかも。それは偖て措き、ケンタッキー・ヴィンテージです。KVのマッシュビルは公表されていませんが、個人的には③一種もしくは少なくとも③を中心としたブレンドではないかと感じました。飲んだことのある皆さんはどう感じたでしょうか? どしどしコメントをお寄せ下さい。
一方のヘヴンヒル原酒と目されるバッチ10-174は、フレイヴァー・プロファイルが全く異なります。異なるだけでなく、ウィレット原酒とは正直言ってレヴェルが違うと思いました。私の好みにウィレットの方が合っていたとは言えますが、そもそもアロマの強さと余韻の広がりが段違いなのです。それとバッチ17と18を飲み比べた結果、ここまで似ているのなら、今後も安定してこの味でリリースされると予想されるでしょう。ウィレット蒸留所に拍手を、 そしてブレンダーの腕に乾杯を。

Value:ケンタッキー・ヴィンテージの現行製品の日本での販売価格はだいたい3500円前後が相場でしょうか。その価格帯の製品としては、ハイエンド感を演出するワックス・スタンプとワックス・シールドが施された外見はとても魅力的です(ただし、スクリュー・キャップとラベルの質感は安っぽい)。そして外見に劣らず中身がこれまた素晴らしいときたらオススメでない訳がありません。個人的な印象としては、焦樽感で押し通すタイプのバーボンではないので、普段スコッチやジャパニーズウィスキーを飲まれる方にも好まれるのではないかと思います。そして何より、現行製品は旧来のヘヴンヒル原酒の物とあまりにも違いがありますので、昔飲んで印象に残らなかったという方には是非とも再チャレンジして頂きたい銘柄です。


追記:ウィレット蒸留所と縁の深いバーGのマスターより情報頂けました。最近のものは21樽のバッチングだそうです。
またマッシュビルは①との情報が入りました。

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ウィレット蒸留所(KBD)がリリースするジョニードラムのブラックラベルです。その名前の由来について日本でよく語られるのは、ジョニー・ドラムは1870年にバーズタウンで酒類販売をしていた人物で、樽買いした原酒をブレンドし自分の名前をつけ売り歩いたのが始まり云々。海外では、ジョニー・ドラムという名前のティーンは家を出て南北戦争の南軍に参加、しかし彼は若すぎて武器を取ることは出来ず、1861年にドラマー・ボーイ(*)を務め、故郷のケンタッキー州に戻ってからトウモロコシを使い蒸留を始めた云々、と言われます。このジョニー・ドラムなる(愛称の?)男が実在の人物なのか分かりませんが、海外で語られている話が彼の前半生、日本で語られている話が後半生として辻褄は合っています。けれども、どうも取って付けたバックストーリーな感は否めません。ラベルのデザインからしても、ジャックダニエルズやエヴァンウィリアムス流のクラシックな人名ラベルを想起させます。ウィレットの公式ホームページによれば、60年代にカリフォルニアの卸売業者のために開発されたとの記述がありました。
ジョニードラムには現在、80プルーフのグリーンラベル、86プルーフのブラックラベル、101プルーフのプライヴェート・ストックの三つがあります。と言っても全てがいつでも利用可能な状態ではないようで、ウィレットのホームページの製品紹介欄にグリーンラベルは載ってませんし、日本でもネット酒販店では売り切ればかりです。おそらくグリーンは廃番もしくは出荷調整、または輸出国により供給に差があるのでしょう。

さて、ここらで古いジョニードラムについてでも語りたいところなのですが、実はその類いの情報はネットで調べてもイマイチ分かりません。80年代後半以前のオールドボトルの画像も皆無と言えます。先に述べた60年代のオリジナルと目されるジョニードラムが、特定の卸売業者のために作成されたということは、流通範囲はかなり限られていたと推察されるので、画像が見当たらないのも仕方ないでしょう。しかし、いくらウィレット蒸留所がジムビームやワイルドターキー蒸留所と較べて生産規模の小さい蒸留所とは言え、これほど過去のボトルの写真がネット上にないのは、60年代のリリース後に継続して製造されていなかったからではないでしょうか。おそらく、時を経た80年代になって主に輸出用のブランド(特に日本)として再開され、アメリカ国内では例えばケンタッキー州限定での販売だったのではないかと想像します。そして、その後全国配給になった…と。これはあくまで私の想像なので話半分で聞き流して下さい。と言うか、詳細ご存知の方はコメントよりご教示頂けると助かります。

先日オークションで丸瓶のジョニードラム12年グリーンラベルが出品されているのを見かけました(年式は不明)。それは「12年」表記の楕円形シール(**)が本体ラベルと別個で付けられていて、私としては初めて見たパターンの物でした。比較的、日本人に馴染み深い(よく見かける)オールドボトルのジョニードラムというと、80年代後半あたりから90年代にかけて流通していたと思われる日本の都光商事のアドレスがラベル正面下部に記載されたボトルかと思います。
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この頃の物はグリーンが8年熟成、ブラックが12年熟成、そして共に86プルーフでした。現行にせよこの時代の物にせよ、色で言うとブラックは常にグリーンより格上のようです。それだけに、上に述べたグリーンラベルの12年があったのに驚いたのです。その後、グリーンはいつの間にか4年熟成になり、プルーフも80に下がりました。ブラックはおそらく90年代後半か2000年代前半頃にNASとなったと思われます。NASのブラックラベルの中身に関しては、一説には4~12年の原酒を使用しているとされます。ただ、この中身の熟成年数は発売年式および生産ロットにより変動している可能性はあるでしょう。ではテイスティングの時間です。

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Johnny Drum Black Label 86 Proof
推定2008年ボトリング。杉、ナツメグ、弱いカラメル、グレープ、僅かなアーモンド、インク。あまり甘くないウッド・スパイス系のアロマ。やや酸味のある味わい。ソフトな酒質。余韻は軽めのスパイスと穀物感が主で、ビタネスを伴いすっきり切れ上がる。
Rating:81.5/100

Thought:ウィレット蒸留所が蒸留を再開したのは2012年からなので、推定ボトリング年からすると、原酒は100%ソーシング・ウィスキーとなります。概ねヘヴンヒルからの調達であるとされるので、エヴァンウィリアムス等と較べてどのくらいの違いがあるのかが気になるところでした。海外のバーボンマニアで、エヴァンウィリアムスに選ばれなかったバレルが樽売りされているのではないか、という趣旨のことを言っている方がいましたが、正直、私には調達方法の詳細は判りません。仮にそうであれ、蒸留したての原酒を購入しているのであれ、マッシュビルを共有するとしても、ウィレットの熟成倉庫でエイジングすれば風味は多少変化する筈です。更にブレンディング(バッチング)の違いも考慮すれば、どのみち異なるバーボンとは言えるでしょう。
で、私の飲んだ感想としては、通常のエヴァンウィリアムスとはかなり違うバーボンであると思いました。強いて言えば、スパイス感の方向性がエヴァンウィリアムスと言うかヘヴンヒルのフレイヴァーぽいような気もしますが、独特の木香とビター感はこのボトル特有かと。また、海外の或るバーボン飲みの方は、いつのボトリングか分かりませんが、ジョニードラム黒ラベルNASをワイルドターキーのレアブリードに似ていた、と言っていました。少なくとも私の飲んだ物や私の舌にはそうは感じられなかったです。それと、日本の酒販店の多くには、ジョニードラム黒ラベルの商品紹介に「12年原酒をメインにブレンド」と書かれています。どこまで信じてよいか判らない情報ですが、確かにタニックなビター感とソフトな酒質はそうであってもおかしくはないかなとは思わせます。飲んだことのある皆さんはどう思われるでしょうか? どしどしコメントお待ちしております。

Value:KBDのリリース中、スモールバッチの物と較べると量産型であろうジョニードラム。特にNASは凄くハイクオリティとは言い難いです。日本では概ね2500円前後の販売価格でしょうか。個人的には現行のエヴァンウィリアムス黒ラベルよりかは美味しく感じましたので、もし同じ価格ならジョニドラを選びます。ですが現行のエヴァンウィリアムス赤ラベルが3000~3500円で買えるなら、そちらを選ぶのが私の好みです。


*軍隊の中で非戦闘員として、戦場での使用のためにドラムを担当した少年のこと。
ドラムは戦場で歩調を合わせるために使われるだけでなく、指揮系統の重要な一部であり、ドラムロールを使用して士官から部隊へ様々なコマンドを通知したと言います。ドラマーには公式の年齢制限がありましたが、しばしば無視され、時として最年少の少年は成人兵士によってマスコットとして扱われました。ドラマーの少年の生活はかなり魅力的に見え、そのため、少年は時々家から抜け出して入隊したのだとか。または、同じ部隊に仕える兵士の息子や孤児であったかも知れないそうです。
Wounded_Drummer_Boy_by_Eastman_Johnson,_San_Diego_Museum_of_Art

**ジョニードラム15年の昔の物や、イーグル・クエスト、バーボンスター等と共通するデザインの、KBDのバーボンによく使われている「あの」シールのことです。

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