バーボン、ストレート、ノーチェイサー

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タグ:エディ・ラッセル

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ワイルドターキー・ジェネレーションズはその名の通り、ラッセル家の3世代が初めて協力して造り上げたウィスキーであり、一族の素晴らしい伝統に敬意を表した製品です。現在、ワイルド・ターキー蒸溜所には三世代の一族が同時に在籍しています。ワイルドターキーというブランドがラッセル・ファミリーの影響によって形成されたものであることに議論の余地はありません。ケンタッキー・バーボンの生ける伝説ジミー・ラッセルは、1954年に後にワイルド・ターキー蒸溜所となる場所で働き始めてから70年近く経った今もなお出勤を続け(偶に顔を出す程度かな?)、世界最長の在籍年数を誇るマスター・ディスティラーになりました。その息子エディは1981年にリリーフ・オペレーターとして入社して以来、生産の汎ゆる面を担当して、2010年には父同様にバーボン殿堂入りを果たし、マスター・ディスティラーとして現在のワイルドターキーの運営の中核を担っています。そして、そのエディの息子ブルースは、ナショナル・アンバサダーを務め、シングルバレル・プログラムで日々働き、近年アソシエイト・ブレンダーに任命され、おそらくは将来マスター・ディスティラーとなる存在でしょう。ブルース・ラッセルは、祖父ジミーと異なりブルースはライウィスキーを好むが故に通称「ラッセルズ・ライ・ガイ」と呼ばれているそうで、マスターズキープでのライ・ウィスキーやレアブリード・ライのリリースも彼の熱意あってのことと言われています。このジェネレーションズが歴史的なリリースなのは、ブルースの名前がボトルに初めて記載されたからであり、彼がアソシエイト・ブレンダーとして初めて手掛けた作品であり、ラッセル3人の署名がボトルに刻まれた初のワイルドターキー製品だからでした。
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ジェネレーションズは三人のラッセルそれぞれが自らの好みで厳選した四つの異なる原酒をブレンドしたものです。ジミーは自身が長年に渡って好みであり続け、彼の主張によればWT製品に於ける最適熟成期間である9年熟成のバレルを選びました(ジミーの年齢を考えると、エディとブルースが選定し、それをジミーが承認したものなのかも知れない)。エディはジミーよりも熟成ウィスキーを好むことで知られ、現代的なワイルドターキーとして成功を収めたラッセルズ・リザーヴやマスターズ・キープといった商品に近い15年熟成のバレルを選びました。ブルースは上述のようにライに力を入れますが、バーボンの好みはエディよりジミーに近いとされ、12年熟成のバレルを選びました。そしてエディとブルースで14年熟成のバレルを幾つか選びました。このブレンドはバレルプルーフ、ノンチルフィルタードでボトリングされ、120.8プルーフでのボトリングはブランド史上最高クラスの度数を誇ります。噂では、ブルースが選んだバレルはプルーフが高く、中には所謂ハズマット(140プルーフ以上)のものもあったらしいです。最終的に120.8プルーフとなったところからすると、三人が選んだ他のバレルの幾つかにはプルーフがかなり低いものもあったのかも。ワイルド・ターキーのバレル・エントリー・プルーフは115であり、バレル・プルーフで提供される一般製品で6〜12年熟成のレアブリードが116.8でのボトリングなのを考慮すると、ブルースの選んだハイアー・プルーフのバレルがブレンドに与えた影響は大きい可能性がありそうですね。これらが各々何バレルであるか、またどういう比率でブレンドされているかは公表されていません。また、ワイルドターキーには3つの異なるキャンパスがありますが、何処のリックハウスからかも明かされていないようです。販売された総ボトル数が4〜5000本とか約4400本とされているので、使用されたバレルは全部で25〜35くらいの数量ではないかと予想されます。ちなみに、ジェネレーションズのボトル・デザインは、コロナ禍によるサプライ・チェーンの問題で当初予定していたグラスのデザインが間に合わず、生産者にマスターズキープ・シリーズのボトルを改造してもらうことに急遽決定したものだそうです。

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(ラッセルズの三人。ワイルドターキー公式ホームページより)
ワイルドターキー・ジェネレーションズに就いて三人それぞれは次のように語っています。ジミーは「キャリアを通じて数々の素晴らしいウィスキーを造ってきましたが、『ジェネレーションズ』は私の殿堂入り作品で」あり、「息子と孫と共に私達の家族と伝統を称えるブレンドを創り上げる経験は私のキャリアに於けるハイライトでした」と。エディは「 ジミー、ブルース、そして私がジェネレーションズについて話し始めた瞬間から、これは非常に特別なものになると確信していた」と言い、「私たちが生み出した豊かで複雑なウィスキーを誇りに思うだけでなく、息子がアソシエイト・ブレンダーとして初めて手掛けた製品に共に携われたことを光栄に思います。ボトルに刻まれた彼の名前を私たちの名前の隣に見るたび、この稀有な製品を創り上げた時の思い出が永遠に蘇るでしょう」と語りました。ブルースは「ジェネレーションズでは、家族と果敢な精神を真に称えるウイスキーを造ろうと試みました」。「父はいつも、私達はボトルに刻まれた名前以上の存在だと言っていました。そして今回、父と祖父から学んだ全てを活かしつつ、私自身の視点を取り入れる初めての機会を得たのです。私達はこのウィスキーを愛し、それが語るストーリーを心から誇りに思っています」と。

偖て、このジェネレーションズはその価格に就いて触れない訳にはいきません。ワイルド・ターキーと言うか親会社のカンパリなのでしょうか、2023年、彼らは限定版のリリースに大幅な値上げを実施しました。流れとしては、先ず発売当初は75ドルだったラッセルズ・リザーヴ13年を150ドルに値上げしました。続いて7月にマスターズキープ・シリーズのボヤッジ(ボヤージュ)を従来の200ドルから275ドルに値上げしました。更に、2022年にトレンドに乗じて発売された一つの倉庫のみのバレルから造られるラッセルズ・リザーヴ・シングル・リックハウス・キャンプ・ネルソンCは250ドルの価格設定でしたが、2023年版のキャンプ・ネルソンFの希望小売価格は300ドルまで値上がりしました。そして、2023年の秋に投入されたワイルドターキーの最高峰とも言えるこのジェネレーションズは、何と450ドルという驚異的な価格で発売されたのです。このため、海外のバーボン・レヴュワーは概ね、その味わいが高いお金を払ってまで買うだけの価値があるのかどうかに言及しています。私もその観点はどうしたって無視することは出来ないでしょう。では、さっそく注いでみます。あ、マッシュビルはいつもの75%コーン、13%ライ、12%モルテッドバーリーです。

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WILD TURKEY GENERATIONS 120.8 Proof
2023年ボトリング。やや赤みのある濃いブラウン。トフィ、プルーン、焦げ樽、熟れた洋梨、グァバ、バター、ツナ、ピーカンナッツ、塩、ベーキングスパイス、熟れた桃、炭、レモン。豊富な果実とキャラメルと土の香り。思ったよりゆるい口当り。パレートは甘く且つスパイシーで、塩味も感じ易く、フルーツキャンディぽさも。余韻はミディアム・ロングで思ったよりは短いが、芳醇なスパイスと甘く香ばしい炭の香りが揺蕩う。グラスの残り香はナッツとコーン。余韻がハイライト。
Rating:89/100

Thought:近年飲んだ高級なワイルドターキーでアロマが最もフルーティに感じました。味わいにも幾つものフルーツが潜んでいます。通常の8年や12年だとチェリー中心のフルーツ感だと思うのですが、こちらは他にも多様なフルーツを感じると言ったところかと。とは言え、果実味が突出している訳ではなく、スパイス、甘み、樽の香りなどがバランス良く整っています。口の中で感じる味わいは、12〜15年のバーボンも入っている割に意外と若々しくもあり、私にとっては好印象でした。オールスパイスの爽やかなスパイス感とレモンのような爽快感のある余韻はかなり独特な気がします。勿論、そこに深みのある焦樽のニュアンスや、ドライになり過ぎず続く甘み、ハイアープルーフの熱さも折り重なって複雑になっているのですが。開封から1年くらい経つと少し長熟感が強くなった気がします。また、私には数滴の水を加えてもあまり変化を感じられませんでした。逆に加え過ぎると美味しくなくなったように思います(具体的には8滴以上)。
海外のレヴュワーの或る方はジェネレーションズに就いて、「この取り組みのユニークさは評価し、完成品の品質も高く称賛するが、この価格であればワイルドターキーがこれまでにボトリングした中で最高の表現の一つであるべき」なのに「シンプルにそのタスクは適えられていない」と言っていました。この方がラッセルズ・リザーヴの13年や15年、キャンプ・ネルソンのリックハウスからのシングル・バレル、或いはマスターズキープ・シリーズの好みに合ったどれかや、はたまたオールドボトルの銘品の何かを念頭に置いてそう言ってるのか分かりません。私は現代のワイルドターキーの上位ボトルを全部飲んだことはないので、この方のような比較は出来ませんが、ジェネレーションズはシンプルに素晴らしい出来栄えだと思いました。

Value:このジェネレーションズは日本では2024年5月14日に税込77000円で発売され、日本での販売数量は250本とされていました。まあ、バーボンとしてはかなり高いですよね。個人的にワイルドターキーは好きなブランドなので、随分と迷いましたが買ってみた次第です。飲んでみると、間違いなく美味しい。但し、70000円もするならもう少し美味しくあって欲しかった、と言うのが正直な感想です。ラッセル3世代全員がこのプロジェクトに携わったというバックストーリーに魅了され、ワイルドターキーの歴史を築いてきた彼らへの賛美として購入するのであれば、正に打って付けの製品なので大枚を叩いて買うべきでしょう。しかし、それなりのワイルドターキー・ファンなら誰もが買うべきかと言うとそうではありません。その理由は、個人的にはマスターズキープ・シリーズを35000円として考えて、その倍旨いとまでは感じないからです。物にもよりますが、体感としていいとこ1.25〜1.5倍旨いくらいですかね。だから、コスパを重視するバーボン飲みにはオススメ出来ないのです。そういう方はワイルドターキー8年を20本ほど買い込む方がいい。ワイルドターキー8年は十分に優れたバーボンですから。いや、もっと言うなら、ワイルドターキー8年はジェネレーションズよりも美味しい瞬間があるのです。その瞬間とは、言うまでもなく、ワイルドターキー8年を体が欲してる時です。ターキー飲みなら解かりますよね? 逆に言えば、コスパを度外視して、ワイルドターキー8年や12年やマスターズキープとは違う「体験」をどうしても求めるなら買うべきなのです。また、ワイルドターキーのオールドボトルの人気銘柄よりは少し(だいぶ?)安くはあるので、お金に余裕があるなら購入してみるのも良いかと。まだ買えるのならばですが…。出来れば、何処かのバーで試してみるのがいいかも知れません。これまた、まだ残っているのならばですが…。

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ワイルドターキー・ダイヤモンド・アニヴァーサリーは2014年8月にジミー・ラッセルの勤続60周年を祝うために、当時アソシエイト・ディスティラーだった息子のエディ・ラッセルによって作成されました。業界で最も任期の長いマスターディスティラーであるジミー・ラッセルは正に「生ける伝説」であり、「ブッダ・オブ・バーボン」或いは「マスターディスティラーズ・マスターディスティラー」と尊敬の念を込めて呼ばれたりします。アメリカのワイルドターキー愛好家デイヴィッド・ジェニングス氏は「ロックにはエルヴィスがいる。カントリーにはハンクがいる。ソウルにはマーヴィンがいる。バーボンにはジミーがいる」と述べました。アメリカン音楽好きにはピンとくる喩えでしょう。

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(上1984年、下1967年のジミー)

1954年9月10日、ジミーは後年ワイルドターキー蒸留所と呼ばれることになるアンダーソン・カウンティ蒸留所(以前のリピー・ブラザーズ蒸留所、一年後にJTSブラウン蒸留所と改名)で働き始めました。まだ二十歳になる前のことです。当時ローレンスバーグには幾つかの蒸留所があり、ジミーのお父さんはオールド・ジョー蒸留所、おじさんはホフマン蒸留所で働いていました。そのためジミーが仕事を探していた時、蒸留所で働くことにしたのは自然な流れでした。実際、今だにジミーはアンダーソン郡の生まれた場所から1マイル以内、ワイルドターキー蒸留所から6マイル以内に住んでいると言います。後に時として「バーボンのファーストレディ」と紹介されることにもなる妻ジョレッタもジミーが働き始める前から蒸留所に勤めていました。
彼のキャリアは床掃きや品質管理から始まり、おそらく蒸留所の全ての仕事をこなしたと思われます。蒸留所の二代目マスターディスティラーである伝説のビル・ヒューズや、蒸留所の創業者ジェイムス・リピーの甥の息子で三代目マスターディスティラーのアーネスト・W・リピー・ジュニアから蒸留技術を学んだジミーは次第に頭角を表し、1967年にはJTSブラウン蒸留所のマスターディスティラーへと昇格しました。彼が働き始めた頃の蒸留所は日産80バレル程度でしたが、現在では550バレル以上になっていると言います。その躍進の全てがジミーただ一人の功績ではないでしょうが、彼はキャリアをスタートして以来普通の人間にはあり得ないほど長い年月そこにいて、何十年も精力的に働き、先代から受け継いだ昔ながらのバーボン造りを固守することで現代のバーボン世界を形作り、内外に影響を与えて来ました。

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ワイルドターキー蒸留所で製造される製品の中で最も「ジミー・ラッセルらしい」バーボンはスタンダードなワイルドターキー101(8年にしろNASにしろ)です。それは標準的であり原型であるが故に「生ける伝説」の刻印が深い。周知のようにそのブランドはジミーが蒸留所で働き始める以前の1942年に始まり、ブルックリンかどこかの経営者が産み出したのかも知れません。また、最先端の設備によるコンピューターの自動化が行われる現代にあっては、誰がどうしようと同じものが出来上がるのかも知れません。しかし、それでもジミーの技能とテイスティング能力、長年に渡るブランド定義がなければ、今に至るワイルドターキー101の成立はなかったと言っていいでしょう。
そしてジミーは伝統を頑なに守るだけの男ではありませんでした。バーボン産業は70年代半ばに大きな波を受ます。俗に言う「白物」、ウォッカやジンの隆盛です。消費者の嗜好の変化もありました。昔ながらの「伝統」は「古臭い」と同義になり、バーボンを飲むことはクールでなくなったのです(今は流行っているのでクールと認識されています)。ジミーは多くの女性がバーボンを飲まないことに気づき、彼女たちにとって魅力的な製品を作りたいと思い、1976年にワイルドターキー・リキュールと呼ばれるフレイヴァー・バーボンを実験的に開発しました。それは「レッドスタッグ」や「ファイヤーボール」に先駆けること遥か前、バーボンが流行していなかった時代にジミーが模索した新しい消費者を引き付ける方法でした。今日、その製品は2006年以降ワイルドターキー・アメリカンハニーとしてリニューアルされ、多くの人のお気に入りとなっています。また、2000年代前半には、今や当たり前になりつつあるバーボン樽以外を用いた「後熟」の魁として、ワイルドターキー・シェリー・シグネチャーも造っていました。これはスコッチに親しんだヨーロッパ市場向けに試された変種のワイルドターキーで、10年熟成のターキーをスパニッシュ・シェリー・カスクでセカンド・マチュレーションした後、バーボンにオロロソ・シェリーを加えバランスを整えたものです。当時は斬新過ぎてウケませんでしたが、今こそ再評価すべき時ではないでしょうか。
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70年代後半からバーボン全体の売り上げは目に見えて減少し始めました。80年代から90年代にかけてアメリカのバーボン需要は底辺を迎えます。そこでバーボン業界のエグゼクティブたちが採った主な戦略は二つありました。一つはバーボンのプレミアム化。もう一つは現場監督の職人に過ぎなかったマスターディスティラーを外の世界にスターとして送り出し、バーボンがいかに優れているかを一般消費者へ啓蒙することでした。こうした動きが現在のバーボン人気の礎の一部となったのは疑うことが出来ません。
前者の好例は、エンシェントエイジ蒸留所(現在のバッファロートレース蒸留所)のマスターディスティラー、エルマー・T・リーが1984年にプロデュースした最初の大衆市場向けシングルバレル・バーボンであるブラントンズと、ジムビーム蒸留所のマスターディスティラー、ブッカー・ノーが1988年にプロデュースしたスモールバッチにしてバレルプルーフ・バーボンのブッカーズです。ジミー・ラッセルも負けじと、ブラントンズに対しては1994年にワイルドターキー初のシングルバレル・バーボンとなるケンタッキー・スピリットをリリースし、象徴的な101プルーフで満たしました。それはブラントンズを意識するような非常に華やかなボトル形状で、重厚なピューター製のキャップを備え、バレル情報が手書きで書かれたネックラベルが貼られました。まるでジミーが「私」のためにバレルを特別にハンド・ピックしたかのように。 そしてブッカーズに対しては1991年に6・8・12年熟成の原酒をジミーが独自に組み合わせたバレルプルーフ・バーボンのレアブリードをリリース。何の衒いもなくノー・ギミックのそのバーボンは、かつて盟友エルマー・リーに「ピュア・ジミー・ラッセル」と評されました。これらのプレミアムなワイルドターキーはかなりの成功を収め、蒸留所のポートフォリオの定番としての地位を確立し、現在でも販売され続けています。
後者に於いても、ブッカー、エルマー、ジミーらは国内外を旅してパブリック・テイスティングを行い、彼らの目を通してバーボンのストーリーを語ることによって、今日のバーボン人気の成長を促した最初の世代でした。今、ブッカーの息子フレッドやジミーの息子エディのような次世代、またその次の世代の旗手たちは彼らが切り拓いた道を歩んでいるのです。ちなみにジミーは自分が訪れたことのある国外のお気に入りの都市の一つに、ありがたいことに日本を挙げてくれています。
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ジミーは世界中でバーボンの王者のように扱われますが、本人は至って呑気に「あんたが見たまんまの、ケンタッキー州ローレンスバーグ出身のただのおっさんじゃよ(意訳)」と言います。そうした謙虚さは本物の人間が持つ特質であり、蒸留所への訪問客を迎えるジミーの柔和な笑顔は却って揺るぎない信念の証のように思えます。ジミーなしで現在のバーボンブームはなかったと言っても過言ではありません。彼はSNSのインフルエンサーではないかもしれませんが、もっと重要な羅針盤でした。バーボンの衰退期を乗り越え、アメリカが自らのネイティヴ・スピリットを再発見する過程の全てを見て来たのです。
去る2019年9月10日には、ジミーはワイルドターキー蒸留所での驚異の65周年記念日も既に迎えました。ケンタッキー州アンダーソン郡に長年住む人なら、彼が比類のない蒸留の専門知識だけでなく、驚くべき運動能力についても知っているだろう、と伝えられています。高校でのジミーは「ラッセル・ザ・マッスル」として知られており、彼に不得意とするスポーツはなく、バスケットボールやサッカーから陸上競技に至るまで数々の記録を破り(一部は40年間残っていたそうな)、アンダーソン郡高校を勝利から勝利へと導いたのだとか。こうしたアスリートさながらの基礎体力がジミーの頑固な職人気質や長年の勤務を可能にした源なのかも知れませんね。


偖て、そろそろ今回のレヴュー対象に触れましょう。ダイアモンド・アニヴァーサリーはジミーの息子エディが父親へのオマージュとして厳選した13年と16年という長期熟成を経たバレルをブレンドして造られました。
よく知られた話に、ジミーは8年熟成程度のバーボンを好み、エディは12年以上の長期熟成も好む、というのがあります。ジミーは昔ながらの風味豊かなバーボンを愛し、オリジナルのワイルドターキー・プロファイルから遠く離れることを躊躇い、こう言います。「私たちは常に新しいものを試したいと思っていますが、ほとんどの場合は古い基準に戻ります」、と。彼の基準は明瞭でした。「バーボンは6~8年ほど熟成すると有効なマチュリングをしなくなると考えます。12年を過ぎる頃には多くのキャラメルやヴァニラなどのスウィートネスを失い、オーク材の風味が支配的になります。そして、私はウッディな味わいが多いのはあまり好きではありません」。これがジミーの個人的な好みであり、彼と同世代や上の世代のバーボン・ディスティラーの基準です。それにも拘わらず、エディが長期熟成のバーボンを混ぜて父親へのトリビュート・バーボンを作成したのは、そうするに十分な理由があったに違いありません。
ジミー自身が12年以下のバーボンが好きだと公言しているので、一部を除きワイルドターキーの提供する製品はそれより若いバーボンが殆どです。もしジミー好みの6~12年のバレルを選択してダイヤモンド・アニヴァーサリーを作成してしまうと、中核製品の一つであるラッセルズ・リザーヴから遠く離れた製品にするのは難しくなるでしょう。おそらくエディはワイルドターキーの標準ラインナップとは一線を画すバーボンを提供するために、長熟バレルにターゲットを絞ったのだと思われます。その意味で、このダイヤモンド・アニヴァーサリーは他のワイルドターキー製品とは対照的です。そして…。

エディは1981年からワイルドターキー蒸留所でアシスタントとして働き始めました。つまり、既に30年以上ものキャリアを誇る訳ですが、余りにも偉大なジミーと比較してしまうと「僅か」30年であり、自虐的?に「僕はニュー・ガイだよ」と笑います。また、エディは長い間自分の名前は「No」だと思っていたとも言います。なぜなら、ジミーに何か新しい提案をする度にそう言われたからだそう(笑)。エディ流の愛情あるジョークですね。
WMJのインタビューではダイヤモンド・アニヴァーサリーについて、「特別な原酒を探し出して、ジミーに内緒でブレンドしたものです。私自身が最高と思ったのは間違いないですが、ジミーが『よし』と言ってくれなければ製品化はできませんから(笑)、正直なところとてもドキドキしました」、と語っています。
そんなエディも2015年には正式にマスターディスティラーの称号を得ました。その年から限定リリースのマスターズ・キープ・シリーズも始まり、その他の中核製品でも主導的な立場となったことでしょう。こうした流れの前年にリリースされたダイヤモンド・アニヴァーサリーは、謂わばエディ・ラッセルが初めて世に出した自分自身のバーボン。エディによると、ブレンドに使われた13年原酒はまだ12年に十分近く、ジミーがあまり動揺しないよう逃げを打って選ばれたと言います。 そして後に16年のバーボンを加えることでワイルドターキー・スパイスをもっと与え、ユニークでありながら馴染みのあるワイルドターキーの表現に仕上がった自信作だと。これを飲む我々は、ジミーだけでなくエディにも祝杯を挙げない訳にはいきません。では、心して注ぐとします。

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WILD TURKEY DIAMOND ANNIVERSARY 91 Proof
BATCH NO. B14-0035
オレンジがかったブラウン色。黒糖、濃密なヴァニラ、ダークなドライフルーツ、接着剤、ハニーピーナッツ、古い木材、土。さらさらしつつなめらかな口当たり。ミディアム・ボディ。味わいはマジックインキと爽やかなフルーティさ(特にオレンジ)が同居。余韻はチャードオークとベーキングスパイスが支配的でややビター。
Rating:87/100

Thought:先日まで開けていたディスティラーズ・リザーヴ13年と較べることで、ダイヤモンド・アニヴァーサリーの個性は明確になった気がします。DAはDR13よりパンチのないテクスチャーですが、余韻のスパイス感は複雑でした。香りはDR13の方が甘いのに、口蓋ではDAの方が甘く感じました。そしてDAはDR13のような薬っぽいノートはなく、全体的に古びた木材のトーンを多く感じます。
101プルーフだったらもっと美味しかっただろうとはよく言われますが、エディ・ラッセルによればダイヤモンド・アニヴァーサリーはバレルプルーフに近いとのこと。ワイルドターキー蒸留所はバレル・エントリー・プルーフを2004年にそれまでの107プルーフから110プルーフへ、続いて2006年にも115プルーフへと変更しています。その理由が、そうしておかないと主力製品であるワイルドターキー101のプルーフと生産量を確保できないからとされるところからすると、ワイルドターキーの長期熟成原酒は案外プルーフ・ダウンする樽がけっこう多いのかも知れません。個人的にも、やはり101プルーフで飲みたかったとは思いますが、91プルーフでも特別なフィーリングは少なからずあるように思えました。

Value:ワイルドターキーの特別限定リリースの物は昔からパッケージングに拘った造りの物が多いです。本品もボトルや木箱などの包装のカッコ良さは画像でも伝わると思います。問題は価格ですよね。アメリカでは約125ドルで売られ始め、日本では発売当初17500円程度する販売店もありました。正直、定価では高過ぎるとは思います。ですが、今ではオークションを利用すれば10000円以下での購入も出来る時はあるでしょう。ただし、安定してその値段ではありませんので、仮にダイヤモンド・アニヴァーサリーが15000円、ディスティラーズ・リザーヴ13年が5000円なら、迷わずディスティラーズ・リザーヴ13を三本買うことをオススメします。私にはダイヤモンド・アニヴァーサリーの方が僅かに美味しいと感じましたが、飽くまで「僅か」だからです。ディスティラーズ・リザーヴ13年は長期熟成でありダイヤモンド・アニヴァーサリーと同じプルーフなので、日本人にとっては良い代替製品となり得るのです。また、疑似分割や単ラベルあたりの12年101がオークションで12000円位で購入出来るなら、そちらを買うほうがいいでしょう。味わいの満足度は上なので。とは言えダイヤモンド・アニヴァーサリーは、8年101やレアブリードとは異なるワイルドターキーの長期熟成の世界への入り口にするなら良いと思いますし、米国では36000本のリリースとされるのでタマ数も十二分にあり、また近年流通品なので限定品としては比較的入手が容易、そして何よりジミー・ラッセルへの愛情として購入するならアリだと思います。

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