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サーデイヴィスは、世界的な歌姫でありポップスターのビヨンセとモエ・ヘネシーとのコラボレーションで生まれたアメリカン・ウイスキーです。2024年9月4日に発売されました。これはビヨンセ・ノウルズ=カーターの誕生日が9月4日なので、それに合わせています。彼女は自分の誕生日の日付から数字の「4」が好きだと公言しており、過去には『4』というアルバムも作っていました。サーデイヴィスのボトリング・プルーフが88、つまりアルコール度数が44度なのも彼女の数字の4への拘りから来ています。ビヨンセは音楽のみならず、ファッションでは「IVY PARK(アイヴィ・パーク)」、フレグランスでは「Cé Noir(セ・ノワール)」 、ヘアケアでは「Cécred(セクレド)」など多岐に渡る分野で活躍する敏腕のビジネス・ウーマンでもあり、ウィスキーのブランド「SirDavis」の立ち上げはそれらの起業活動に続くものでした。今では彼女だけがやっていることではないですが、黒人女性として年配の白人男性が専有していると思われた領域に切り込んだ訳です。実はビヨンセはウィスキー好きで知られており、特にジャパニーズ・ウィスキーを愛飲していることは周知の事実となっていました。彼女は過去に発表した自身の楽曲の歌詞にお気に入りとされるサントリーの山崎の名をさりげなく登場させ、ザ・ウィークエンドをフィーチャーした「6 Inch」では、

[Verse 2: Beyoncé]
She stack her money, money everywhere she goes (She got that uno)
Her Yamazaki straight from Tokyo (Oh, baby, you know)
She got them commas and them decimals
She don't gotta give it up 'cause she professional



のように「東京から直送の彼女の山崎」と歌い、夫のジェイ・Zとザ・カーターズ名義で2018年にリリースした「LOVEHAPPY」では、

[Verse 1: Beyoncé & JAY-Z]
Happily in love, haters please forgive me
I let my wife write the will, I pray my children outlive me
I give my daughter my custom dresses, she gon' be litty
Vintage pieces by the time she hit the city, yeah-ah
Vintage frames, I see nobody fuckin' wit' him
Pretty thug, out the third ward, hit me
Sir acts just like his dad, shit is trippy (Uh-huh)
Twinning, Blue and Rumi, me and Solo how fitting
(Happy in love)
Sitting, dock of the bay wit' a big yacht
Sippin' Yamazaki on the rocks
He went to Jared, I went to JAR out in Paris
Yeah, you fucked up the first stone, we had to get remarried
Yo, chill man, we keepin' it real with these people, right?
Lucky I ain't kill you when I met that b— (Nah, aight, aight)
Y'all know how I met her, we broke up and got back together
To get her back, I had to sweat her
Y'all could make up with a bag, I had to change the weather (Uh)
Move the whole family West, but it's whatever
In a glass house still throwing stones
Hova, Beysus, watch the thrones
(Happy in love)



のように「ロックの山崎を啜る」と歌っていました。

そして何よりも、ビヨンセの8枚目のスタジオ・アルバムで、『RENAISSANCE』に続く3部作プロジェクトの第2弾として2024年3月29日にリリースされるや世界中で話題を攫った『COWBOY CARTER』では、サーデイヴィスの発売を見越して意図的にそうしていたのか、ウィスキー関連の言葉が複数のトラックで出て来ます。このアルバムは5年掛けて制作され、 2016年リリースの『Lemonade』に収録された「Daddy Lessons」をディキシー・チックス(現ザ・チックス)とカントリー・ミュージック・アワードにてライヴで披露した際、そのパフォーマンスは絶賛されながらも一部の保守的なカントリー・ミュージック・ファンからは批判的な声もあり、ビヨンセがカントリー界で歓迎されていないと感じた経験をきっかけとして生まれたそう。「ウィリー・ネルソンやドリー・パートンから、より現代的なタナー・アデルやウィリー・ジョーンズまで、過去と現在のカントリー界のスターたちが出演し、従来の慣習を打ち破り、カントリーとソウルやR&Bを融合させるだけでなく、ブルース、ロック、ザディコ、フォーク、ブルーグラス、オペラ、ゴーゴー、フラメンコ、ファドの要素も取り入れ」、「西部劇を再解釈した独自のヴァージョン…カウボーイやブラックスプロイテーションの歌からマカロニ・ウエスタン、ファンタジーまで、ビヨンセ自身の個人的な体験を織り交ぜながら、黒人の歴史を称え、誇張されたキャラクター構築まで、波打つように展開する」各楽曲から構成されたこのアルバムは、2025年グラミー賞でアルバム・オブ・ザ・イヤーを受賞しました。ビヨンセのアルバムがこの記録を達成したのは初めてでした。リード・シングルとして2024年2月11日にリリースされた「TEXAS HOLD 'EM」はビルボードのホット・カントリー・ソング・チャートでシングル1位を獲得し、その文化的影響力と広範なアクセス性が評価され、カントリー・ウェスタン、ポップ、ヒップホップの境界を超える架け橋と評価されています。そんな同曲では、

[Verse 1]
There's a tornado (There's a tornado)
In my city (In my city)
Hit the basement (Hit the basement)
That shit ain't pretty (That shit ain't pretty)
Rugged whiskey (Rugged whiskey)
'Cause we survivin' ('Cause we survivin')
Off red-cup kisses, sweet redemption, passin' time, yeah



という具合にウィスキーが出て来ます。強大な竜巻を避け生き延びるために入った地下室で荒々しく度数の強いウィスキーを飲みながら恋人とイチャイチャしてようなイメージでしょうか。続いての曲「BODYGUARD」では、

[Verse 1]
So sweet
I give you kisses in the backseat
I whisper secrets in the backbeat
You make me cry, you make me happy, happy (happy)
Leave my lipstick on the cigarette Just toss it, and you stomp it out, out
Inhalin' whiskey when you kiss my neck
We've been hurtin', but it's happy hour, oh, hour Oh, oh, oh



と、ビヨンセはセクシーに気怠く?歌っています。「あなたが私の首にキスをする時、ウィスキーの香りを吸い込む」とはお洒落な言い回しですね。ウィスキーという言葉が直接に使われているもう一曲は「II HANDS II HEAVEN(*)」です。同曲では「ウィスキー」はコーラスに使われているので何度も繰り返し聴かれます。

[Chorus]
Bottle in my hand, the whiskey up high
Two hands to Heaven, wild horses run wild, oh
God only knows why, though (Yeah, yeah, yeah, yeah)
Rhinestones and diamonds both shine in the light
Two hands to Heaven, my whiskey up high, oh (Oh)
God only, God only knows why, though (Oh, oh, oh)



そして、『COWBOY CARTER』の冒頭のトラックである「AMERIICAN REQUIEM(*)」では、ウィスキーという言葉自体は出て来ませんが、ムーンシャイン・マン、即ち密造酒を造っていた男のグランドベイビーとの歌詞が出て来ます。

[Verse 2]
Looka there, looka in my hand
The grandbaby of a moonshine man
Gadsden, Alabama
Got folk down in Galveston, rooted in Louisiana
Used to say I spoke too country
And the rejection came, said I wasn't country 'nough
Said I wouldn't saddle up, but
If that ain't country, tell me what is?
Plant my bare feet on solid ground for years
They don't, don't know how hard I had to fight for this
When I sang my song



上に引用したのはオフィシャル・リリックなのですが、「Looka there, looka in my hand」での2つめの「looka」を「liquor」としている歌詞のウェブサイトがありました。曲を聴いてみると、なるほど確かにビヨンセはその部分をリカーと発音しているようにも聞こえます。もしかすると、正式な歌詞としてはそうなんだけれども、発音を変えることで二重の意味を付与しているのかも知れません。そう言えば、パワフルなビヨンセの歌声が堪らないトラック「YA YA」でもリカーは登場し、「So hold this holster, pour mo' liquor, please」と謳われています。それは扨措き、この「アメリカン・レクイエム」で言及されているムーンシャイン・マンがサーデイヴィスの名前の由来となっているビヨンセ・ノウルズ=カーターの父方の曽祖父デイヴィス・ホーグのことを指しているのでしょう。次の行のアラバマ州ギャズデンはビヨンセの父親マシューの出生地とされてますので。ちなみに母親ティナは、更にその次の行に出て来るテキサス州ガルヴェストンの生まれで、ルイジアナ・クレオール系の血を引く人です。
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デイヴィス・ホーグ(Davis Hogue)は南部のアラバマで育ち、1900年代初頭に農家と密造酒の製造を兼業し、禁酒法時代には友人や家族のために杉の木の空洞にウィスキーのボトルを隠していたという伝説もあるようです。ホーグは当時のアメリカでは珍しいことに黒人でありながら自分の土地を所有していたとされ、そこで人々は彼に敬意を払って「サー・デイヴィス(Sir Davis)」と呼んでいた、それがブランド「サーデイヴィス」の由来である、と或るウェブサイトの特集記事には書かれていました。但し、その他のウェブサイトの特集記事では土地の所有に関する記述は見られませんでした。また、ビヨンセの父マシュー・ノウルズが祖父の蒸溜所を訪れた際、黒人男性が「サー」と呼ばれるのを初めて耳にした、との話もありました。公式ホームページでは「デイヴィス・ホーグがアメリカ南部に住んでいた時代、"サー"は白人男性にのみ許された敬称でした。彼のファーストネームの前に"サー"が付けられたのは、彼にふさわしい敬意を表し、彼の功績を称えるためです」とだけ書かれています。兎も角、上記以外のホーグ氏の詳しい経歴は不明です。ビヨンセは『GQ』誌の特集記事でインタヴュワーからの、「あなたの最新アルバムが『カウガール・カーター』ではなく『カウボーイ・カーター』と題され」、「そして今度の[サーデイヴィス](訳注:[サー]は男性の称号)という名称を通して、ジェンダーや人種について何を語ろうとしているのでしょうか」?との質問に、「カウボーイという言葉について、人々にちょっと調べてほしいと思ったのです。多くの場合、歴史は勝者によって語られます。アメリカの歴史といったら、それは延々と書き換えられてきたでしょう? カウボーイの4分の1は黒人でした。自分たちを同等に扱おうとしない世界に直面した彼らも、牧畜業を支える存在だったのです。カウボーイはアメリカにおける強さと野望の象徴ですが、牛を扱う奴隷がその名の由来です。カウ“ボーイ”というのは、子ども扱いされ、相応の敬意を払われることのなかった彼らのことなのです。牛を扱う黒人をあえて[ミスター]や[サー]と呼ぶ者はいませんでした。私にとって、[サーデイヴィス]は勝ち取った敬意の証です。私たちは皆、敬意を払われてしかるべきです。私たちが敬意を示した場合は特にね」と答えていました。こうした家族の歴史を当然ながらビヨンセは活用し、マーケティングにも利用した訳ですが、面白いことに、彼女がウィスキー・ブランドを作りたいと考えていたのは曽祖父の話を知る前からでした。

ビヨンセはモエ・ヘネシーと共にこのブランドの共同オウナーを務め、またウィスキーが自分のヴィジョンに合致するものとなるようフレイヴァー・プロファイルからボトルのデザインまで開発当初から関わって来たと言われています。長年のジャパニーズ・ウィスキーのファンであった彼女は自分のウィスキー・ブランドを立ち上げようという気持ちになり、自身の嗜好を反映したウィスキーを造る協力をLVMHの子会社モエ・ヘネシーに求めました。これには彼女の夫ショーン・“ジェイ・Z”・カーターがシャンパーニュ・ブランドのアルマン・ド・ブリニャックをLVMHと共同保有している関係もあるのかも知れません。ともかくモエ・ヘネシーとしてはアメリカン・ウィスキー市場での存在感を高めることを模索していたので、両者の思惑が一致し、ダイナミックなパートナーシップが実現した訳です。アメリカン・ウィスキーのブームによって、アメリカの酒類業界では近年、セレブリティ・スピリッツの新製品が店頭に溢れ返り、生粋のアメリカン・ウィスキー愛好家などからは冷笑的な目で見られることも屡々ありました。そんな状況下で、ポップ、R&B、そして今やカントリー・ミュージックまで飲み込んだ女王がその影響力を駆使してウィスキーを発売する、と。ウィスキー愛好家がボトルの中身に懐疑的になったのは頷けます。しかし、このウィスキーは、他の多くの典型的なセレブ・ブランドと違い、ウィスキーを生業としている評価の高い人物と共同で造られたことで興味深いものとなりました。その人物こそ、インターナショナル・ウィスキー・コンペティションでマスター・ディスティラー・オブ・ザ・イヤーを5回受賞し、グレンモーレンジィやアードベッグも手掛けるビル・ラムズデン博士です。

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ビル・ラムズデンは数年前、当時のマーケティング・ディレクターから特別な人に会って欲しいと話を持ち掛けられました。それがビヨンセでした。迷わず渡航を決めたラムズデンでしたが、相手が世界的な大スターとあって初めて会う時は緊張していました。しかしビヨンセはチャーミングでエレガント、そして親切だったお陰で緊張も解れたそう。ラムズデンはこの会合の前に少し下調べをして、ビヨンセがウィスキー愛好家であり、彼女のお気に入りがサントリーの山崎12年だと知りました。彼はビヨンセのためにウィスキーのテイスティング・セミナーを行い、どんなウィスキーをより好むのか探っていったそうです。バーボンやテネシー・ウィスキー、ライ・ウィスキー等のアメリカン、当然の如くグレンモーレンジィやアードベッグ、更に幾つかのジャパニーズ・ウィスキーなどが試されました。サーデイヴィスのために結成されたチームには、アードベッグの元ナショナル・アンバサダーでグローバル・ブランド・アドボカシー・ヘッド兼ウィスキー・ブレンダーに就任したキャメロン・ジョージもいます。彼によると、ビヨンセは最初のテイスティングから、ラムズデンや彼に教えられるでもなくウィスキーの語彙や専門用語を使っていたそうです。それは「彼女が既に使っていた言葉遣いで、正に生涯に渡っってウィスキー・ファンである彼女の姿勢を物語っていました」。数日間のフォローアップを経て、チームはサーデイヴィスの方向性を定めて行きます。ビヨンセはアードベッグが好きではないことがすぐに分かったので、ラムズデンは先ずピーティーなレシピを除外しました。しかし、彼女はシングルモルトは好きでした。そして、スムースなウィスキーが好みでした。
サーデイヴィスが完成するまでには、様々な試行錯誤とアイディアがあり、その中の一つにスコッチ・ウィスキーとジャパニーズ・ウィスキーをブレンドするという発想もあったと言います。しかし、ラムズデンはそれは不誠実だと思い、彼もビヨンセも、彼女の祖国であるアメリカらしいウィスキーを造りたいという考えに至りました。彼女の最新アルバム『COWBOY CARTER』とツアーに浸透しているアメリカーナの雰囲気を考えると、この要素は重要だったのです。アメリカに蒸溜所を新設する手もありましたが、そうなると建設に2年、そこから熟成まで更に時間が掛かるため断念せざるを得ませんでした。そこでインディアナ州のMGPから熟成された12種類のウィスキーを取り寄せることにします。MGPはアメリカン・ウィスキー業界内の大小問わない多くのNDP(非蒸溜業者)/ボトラーにウィスキーを供給する大手契約生産業者で、彼らにウィスキーの製造を任せ、自分達は求めるフレイヴァー・プロファイルとブランディングに集中するというモデルは現在のアメリカでは非常に一般的です。チームは何度も試飲と話合いとレシピの試作を重ね、始めに4~5種、そこから更に3種に絞り、シアトルのウッディンヴィル蒸溜所で最終的なテイスティングを行い漸く一つの答えに辿り着きました。それはMGPの最も一般的で非常に多くの製品に見られる有名な95%ライ、5%バーリー・モルトのライ・ウィスキーではなく、51%ライ、49%バーリー・モルトのマッシュビルで造られたライ・ウィスキーでした。MGPは過去に幾つかのクラフト・ウィスキー・メーカーにモルトがほぼ半分近くを占める51/49ライを販売したことがありますが、このマッシュビルは独占契約が行われ、今後他のウィスキーで使用されることはなくなるとのこと。ビヨンセもこの最終的なマッシュビルを気に入りました。しかし、3人とも味だけでなくテクスチャーや口当たりも完璧にするには何かが少し足りないと感じます。そこでラムズデンは、スコッチやジャパニーズ・ウィスキーの伝統的な製造技術を取り入れてペドロ・ヒメネスのシェリー・カスクでフィニッシングすることにより、濃く赤い果実とベーキング・スパイスの香りをより引き出し、シルキーな質感を与えると同時に、伝統的なアメリカン・ライの特徴である力強い風味も保とうとしました。意識したのは、アメリカらしさがありながらもスコットランドや日本のニュアンスがあること、そしてビヨンセの好むスムースさを大切にすることでした。

生産に繋がるアイディアを思いついた後も、ノウルズ・カーターはモエ・ヘネシーのチームと会合を重ね、最終製品を決めて行きました。これらの原酒や製法を提案したのはラムズデンでしたが、最終的な成果は女王本人によって承認されており、これは正に「ビヨンセのウィスキー」だと言えるでしょう。キャメロン・ジョージは、「このパートナーシップはごく自然に生まれました。ビル・ラムズデン博士が何処かへ行ってウィスキーを調達してきて、そこにビヨンセの名前を勝手に付けた、と言うようなことではありません。全くそういうプロセスではありません。彼女はこのブランドの創設者です。液体のプロファイルからブランドの世界観の発展まで、このブランドのあらゆる部分に携わってきました」と語っています。この言葉は対外的な発言なので多少の誇張はあると思いますが、ビヨンセはこれまでに自身のイメージや肖像、音楽、ビジネスに稀有なコントロール能力を幾度となく発揮して来ました。サーデイヴィスの「液体」への関与はそれほど高くないにしても、ボトルのデザインやブランドの方向性はディレクションしていると思われます。細かいリブ模様の印象的なボトルは、彼女の曽祖父デイヴィス・ホーグの時代の様式にインスパイアされているとか、或いはビヨンセがジャパニーズ・ウィスキーのファンであることからサントリーの響の繊細なデザインへの敬意ではないかと憶測されたりしています(**)。また、ボトルの中央にはブロンズの馬をあしらった黒いメダリオンが付され、プレス・リリースによるとこれは「力強さと敬意を象徴し、ノウルズ=カーターのテキサスのルーツを象徴する」とのことです。馬のモチーフは彼女の最近のアルバム『RENAISSANCE』と『COWBOY CARTER』のジャケットとも符合していますね。クロージャー(ボトルのキャップ)には、正反対を向いたVのようなマークが二つ刻印されています。これは、一つが過去への敬意(伝統)を示す後ろ向き、もう一つが未来へのミッション(革新)を示す前向きを象徴するそうです。ビヨンセが大切にしている平等性や包括性をも表現しており、性別や人種問わずどんな人にもこのウィスキーを楽しんで欲しいという思いが込められているのだとか。また、瓶底にはデイヴィス・ホーグのイニシャル「DH」がエンボスされたりと、なかなかに凝っています。高級な香水瓶のようにエレガントな佇まいが評価され、2025年のASCOT Awardsではボトル・デザイン部門でプラチナを受賞しました。デザイン自体は、酒類のブランディングとパッケージングの世界的なデザイン・エージェンシーであるストレンジャー&ストレンジャーがやっています。 
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サーデイヴィスは、ビヨンセのローン・スター・ステイト(テキサス州の愛称)との繋がりから、彼女の故郷であるヒューストンに本社を置き、テキサスで仕上げ、ブレンド、ボトリングされており、モエ・ヘネシーがアメリカ国内で完全に生産する初のウィスキー・ブランドとなります。中身に就いて改めて纏めると、ベースのライ・ウイスキーはインディアナ州で蒸溜され、最初の熟成もニュー・チャード・アメリカン・オークの樽でインディアナにて行われます。サーデイヴィスはNASなので、インディアナの原酒の熟成年数は公開されていませんが、少なくとも2年間は熟成されているようです。或いは2年を大幅に上回るという情報もどこかで見かけました。おそらく2〜4年程度なのではないかと予想します。その後、テキサス州で6~9ヶ月間を掛けてPXシェリー・カスクを用いた二次熟成プロセスを行います。テキサスの暑さのため、スコットランドでは得られないような熱気が加わることになるでしょう。サーデイヴィスはファーストフィル、セカンドフィル、サードフィルのシェリー樽を用意して慎重に熟成されます。異なる樽のサイズを複数使用しつつ、セカンドフィル樽とサードフィル樽はファーストフィル樽より長く熟成させるのです。ファーストフィル樽は芳香成分や風味成分を豊富に含んでいますが、それらが原酒の風味を圧倒してしまうので制御する必要があり、逆にセカンドフィルやサードフィルの樽では樽からの影響が減る分、それを補うためにフィニッシュ時間を長く調整している、と。ボトリング前のサーデイヴィスのハイアー・プルーフな原酒をファーストフィル、セカンドフィル、サードフィルの樽で個別にテイスティングした方によると、ファーストフィルではシェリー・カスクの要素がほぼ全体の個性を占め、セカンドフィルではシェリー・カスク由来のレーズンとフルーツの香りが変化し始め風味豊かな香りと僅かなランシオが加わり、サードフィルではシェリー・カスクの要素はほぼ消えてライ由来のメンソールとハーブの香りが支配的になっていたそうです。それらを組み合わせることで、エレガントかつ複雑でニュアンスに富んだ風味を実現する製法はラムズデン博士の面目躍如と言ったところ。アメリカ育ちのブレンダーのジョージは、ファーストフィルで熟成した原酒が最も良いウィスキーになるだろうと初めは考えていたそうですが、「サードフィルとセカンドフィル、それも大樽で熟成されたセカンドフィルとサードフィルこそが、サーデイヴィスの味わいを構成する最も繊細なウィスキーであるため、私のお気に入りの要素となりました。アメリカではウィスキーに対する一般的な考え方とは異なります。ほとんどのアメリカン・ウィスキーは、以前の樽の使用原酒の力強さによって、マッシュビルの神聖さや独自性が失われてしまいます。ここでは、スコットランドのルーツと日本の感性を反映した、ウィスキーの製法に対するグローバルなアプローチが生まれたと考えています」と語っていました。
現在のアメリカン・ウィスキーには、シングル・モルト・ウィスキーもあれば、様々な穀物をマッシュビルを用いたウィスキーもあり、フィニッシングに使われるバレルも多種多様です。サーデイヴィスが行なっていることは、10年前ならまだしも、正直言ってプロモーションで語られるような「カテゴリーの常識に挑戦」する「画期的な新ウィスキー」とまではもう言えないでしょう。しかし、この製品には確かに高度な開発が費やされたことは伺えます。サーデイヴィスは技術的にはライ・ウィスキーな訳ですが、コーンが一切使用されていないマッシュビル、且つ蒸溜に使われる穀物のほぼ半分はスコッチやジャパニーズ・ウィスキーの基盤となる原料の大麦麦芽とあっては、これは事実上ライ・ウィスキーとモルト・ウィスキーのブレンドに近く、更に二次熟成ゆえ、伝統的なアメリカン・ライウィスキーとシェリー樽熟成のスコッチ・ウィスキーの中間的な存在と言っていいかも知れません。ボトルには「RYE WHISKY FINISHED IN SHERRY CASKS」と記載されています。世界的な規模でファンを持つポップ界のスーパースターに相応しいように、グローバルなテーマを強調するため、アメリカのバーボンやライで一般的な「Whiskey」ではなく、日本やスコットランドで伝統的に見られる「e」を付さない「Whisky」の綴りが意図的に選ばれました。またサーデイヴィスは、ビヨンセの強い希望でノンチルフィルタード、そして冒頭でも書いたようにアルコール分は彼女が最も好きな数字の「4」に拘った44%に調整されています。

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サーデイヴィスは発売の発表に先立って、「デイヴィス・ホーグ蒸溜所」という偽名で複数の酒類コンペティションに匿名で出品され、数々の賞を受賞しました。中でも2023年のSIPアワードでは、アメリカン・ウィスキー部門で100以上のエントリーを上回り、プラチナ賞とベスト・イン・クラスを受賞しました。他には、2023年のニューヨーク・インターナショナル・スピリッツ・コンペティションでは95ポイントとゴールド、2023年のアルティメット・スピリッツ・チャレンジでの93ポイントなど輝かしい栄誉を獲得しています。ビヨンセは『GQ』誌のインタヴューで「私は自分がサーデイヴィスに関わっていることが知れ渡る前に、ブランドがその味わいとクラフツマンシップに基づいて認められることを望んでいました。最も厳しい批評家たちに試してもらい、ウィスキーそのものの力で彼らの敬意を得ることを心に決めたのです。レシピを完成させた後、私たちはウィスキーをコンペティションに出品し、世界中の批評家たちにテイスティングしてもらいました。ボトルやブランディングに"ビヨンセ"を匂わす痕跡は一切ありません。それはかなり意識的にやりました」と語っています。と同時に、ビヨンセは同誌のインタヴューでなぜ今回ウィスキーなのかを問われた際には「初めてウィスキーを飲んだ日のことは忘れられません。優しく私に訴えてきました。〈なぜ今まで飲んだことがなかったのか〉と思ったのを憶えています。口当たりは強くて温かくて、ちょうどいいハードさで。私はそのプロセス、飲み方が気に入りました。ウィスキーはただぐいっと飲み干すものではなく、コミットメントなのです。忍耐が必要なもので、そこがいい。それから日本のヴィンテージ・ウィスキーにハマって、テイスティングを始めると、新しい世界が広がりました。ウィスキーの全てが好きです。色、香り、グラスの中で踊るさま…。そして、その一杯にまつわる物語も。どのボトルにも歴史がありますからね。自分がウィスキー好きだとまだ気づいていない人たちにウィスキーを紹介するのも楽しいです。ウィスキーを味わって、その世界に触れさえすれば、もっと多くの女性が好むようになるのではと思います。ウィスキーは煙たいバーにいる年配男性だけではなく、深みと複雑さ、そしてちょっとした神秘を愛する全ての人のためにあるもの。熟成のプロセスは、穀物の発芽から手造りの樽に至るまで、全ての工程に注意を向けた奉仕であり、その全てを愛おしく思っています。ウィスキー造りはひとつの芸術で、私が愛と敬意を抱くのもそのためなのです。偉大な(カントリー歌手の)ウィリー・ネルソンはかつて言いました。〈誰かに本当にいいものを教えられるまで、自分がそれを好きだったことに気づかないこともある〉。だから未来のウィスキー愛好家の皆さん、歓迎するわよ!」と答えており、この言葉を加味すると、プロ並みのウィスキー愛好家を満足させつつ、今までウィスキーを殆ど飲まなかった人々、特にビーハイヴ(ビヨンセの熱狂的なファンやコミュニティの愛称)がサーデイヴィスを買って楽しんだ後ウィスキーにハマってもらえれば…という期待があったでしょう。某巨大掲示板で見掛けたのですが、実際そういうビーハイヴはいたみたいです。

サーデイヴィスは限定品ではなく、通常品として販売されています。現在はどうか知りませんが、発売された当時は、全米各地に加え、ロンドン、パリの一部店舗、アジア地域では日本のみでの販売、とされていました。将来的には製品展開の拡充を図る予定とのことで、近々カスク・ストレングスの113プルーフのヴァージョンが発売されるようです。そのうち熟成年数表記ありの製品も出されるかも知れませんね。ではそろそろ、『COWBOY CARTER』の楽曲中、個人的に最も気に入っている「16 CARRIAGES」を聴きながらサーデイヴィスを頂くとします。



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SirDavis 88 Proof
推定2024年ボトリング(初発売時に購入)。やや薄くダーティな茶色。ドライフルーツ、モルト、ローズマリー、セージ、グリーングラス、ピクルス、ビスケット、キャラメル、アーモンド、キウイ、ケチャップ。よく熟した色とりどりのフルーツの香り、時間をおくとキャラメルも出た。味わいは香りほどフルーツや甘さがなくやや辛口か。余韻はクローヴと白胡椒が広がってからフルーツの苦みへ、更にそこから香ばしいナッツへと。グラスの残り香はピーカンナッツ。アロマがハイライト。
Rating:85.5→86.5/100

Thought:そもそも私はビヨンセの歌声が好きでデスチャ時代から聴いて来た人間です(勿論、好みの楽曲だけですが)。そして、言うまでもなくアメリカン・ウィスキーが好きな人間でもあります。そこにサーデイヴィスが発売されるとあっては、そりゃ買うよね。おそらくこれが安易なブレンデッド・ウィスキーであっても買ったかも知れない。まあ、それは措いて、発売前にサーデイヴィスの詳細が取り上げられた時、最も興味を唆られたのは原材料でした。MGPの有名な95/5ライは個人的に凄く好みのウィスキーなのですが、51/49ライは飲んだことがなかったので是非とも飲みたかったのです。本当はシェリー・カスク・フィニッシュでないものを試したかったけれど仕方ありません。で、飲んでみると、香りは素晴らしく、シェリー樽も効き過ぎておらず、アメリカン・ライらしさもしっかりあって、よく出来ていると思いました。MGP95/5ライ65%にシェリー樽熟成のスコッチを35%で混ぜたようなイメージの味わいかな。モルトの存在はパレートが最も感じ易く、シェリーの影響は香りと余韻に感じ易かったです。ただ、どうも私好みの味わいではなかったです。やっぱりコーンとライが好き。けれども、普段スコッチやジャパニーズ・ウィスキーも飲む方には飲み易いだろうし、面白い製品なのだろうと思います。…と、これは最初の印象でして、開栓からだいぶ経ったら甘みが感じ易くなったと言うか、自分の苦手な風味が薄らいだと言うか、とにかく美味しくなりました。レーティングの矢印はそのことを指しています。

Value:メーカー希望小売価格は89ドルで、アメリカのウィスキー愛好家の間では少し高いという意見が多い印象を受けました。一説には、ビヨンセの名前が付いていなければ、契約蒸溜で熟成4年未満のシェリー酒のようなデザート・カスクで仕上げた同様のボトルなら恐らく40ドル程度での販売だろう、とか。熟成年数非記載のスピリッツとしては高額ですが、プレミアム・ウィスキー市場ではそれが一般的になっています。日本での定価は1万1550円。調べてみると、安いところでは8000円台後半から9000円ちょいで買えるようです。微妙な値段ではありますが、1本買う分には、最安値なら全然アリ、ちょっとした贅沢品を買いたい気分なら定価でもいいでしょう。モルト配合率の高いライ・ウィスキーは他ではあまり飲めないし、なによりMGPの51/49ライは95/5ライより遥かに珍しいのは間違いないですからね。個人的にはモルトと二次熟成という部分が好みではないので常備ボトルにはしないと思いますが、味わいが気に入り、尚且つビヨンセが好きとかボトルの見た目が好きとか、そういう要素を含めてなら、限定品ではないとのことなので常備にもオススメです。


*このアルバムの楽曲は、一部の「i」や「Two」や「to」を「Ⅱ」と表記しています。なので「II HANDS II HEAVEN」は「Two hands to Heaven」であり、「AMERIICAN REQUIEM」や「BLACKBIIRD」や「LEVII'S JEANS」のように敢えて「I」が2つ重なってるのは、『カウボーイ・カーター』が3部作のうちの2作目、第二幕、ACT IIであることを強調する表現とされ、それ以上の意味はなく、読み方もそのまま「アメリカン」や「ブラックバード」や「リーヴァイスジーンズ」です。

**他にも、SASSENACHというスコッチのパクリだ、という声もありました。ユニコーンが馬に変わっただけだ、と。
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