
2016年、ビーム社は彼らのフラッグシップ・ラインであるジムビーム・ブランドを新しいラベルとボトル・デザインに変更しました。ちょうどその年から発売され始めたのがジムビーム・ダブルオーク・トゥワイス・バレルドです。
その製品名にある言葉に注目すると、先ず「トゥワイス・バレルド」と言うのはダブル・マチュアードの言い換えだと思います。ダブル・バレルドと言っても同じで、要は語義的に見て2回樽で熟成させていると言うこと。一回目の樽熟成の後に追加でもう一回樽熟成させる手順を指しています。総称として「フィニッシング」と知られるこの熟成技法は、バーボン・ウィスキーの中で近年最も成長したカテゴリーかも知れません。日本では二段熟成とか後熟とか追熟と呼ばれます。スコッチ・ウィスキーではもっと前から定着しており、ウィスキー愛好家には説明不要でしょう。このバーボンで寧ろ注目すべきは「ダブル・オーク」の方です。バーボンのフィニッシングは、一般的にスタンダードなアメリカン・オーク樽で熟成させた後に別の種類の樽、概ねシェリー、ポート、ラム、もしくはビール樽などで熟成させることで、バーボンのフレイヴァー・プロファイルに複雑なレイヤーを加える手法ですが、このダブル・オークは同じ種類の樽でもう一度熟成させることで既に在るフレイヴァーを増幅させるのです。
バーボンは焦がしたホワイト・オークの新しい樽で熟成することで、少なくとも50%から多ければ70%程度の風味を獲得すると見られています。熟成中のウィスキーが木材から引き出すフレイヴァーは、樽の内部をどのようにトースティングしたりチャーリングするかである程度は決まるとされ、樽の調達先であるクーパレッジではマイルドなトーストからヘヴィなチャーまで加熱具合を制御して、顧客の蒸留所の望むフレイヴァーに微調整することが出来ます。それゆえチャー・レヴェルは蒸留所の特定のフレイヴァーに於ける特徴的な要素の一つとなるでしょう(但し、殆どのバーボンは#3〜#4のチャー・レヴェルであり、それ以上は限られた実験的なバレル・エイジングでしか使用されていない)。そこで誰かが考えつきました。新しい焦がしたオーク樽での熟成を2回行うのはどうだろうか、と。これはなかなか目新しい発想だったと思われます。

アメリカで初めて公に新樽を2回使用したのはテネシー州のプリチャーズ・ディスティラリーではないかと見られています。この小さな蒸留所はクラフト・ウィスキーのブームが沸き起こる何年も前の1997年に開業し、早くも2002年頃にはダブル・バレルド・バーボンを限定発売していたようなのです。この手法のメジャーで継続的なリリースは、10年後の2012年に発売され始めたウッドフォード・リザーヴのダブル・オークドでした。このバーボンには、通常よりも時間を掛けてトースティングし、逆にチャーリングはごく軽くした特別に準備されたバレルが使用されています。また、ウッドフォード・リザーヴは2015年から、ディスティラリー・シリーズという蒸留所のギフト・ショップとケンタッキー州の一部小売店限定のダブル・ダブル・オークドまでリリースしています。こちらは名前の通りダブル・オークドを更にもう一度ヘヴィなトーストとライトなチャーを施した新樽で仕上げる製品。2014年にはミクターズからもウッドフォード・リザーヴに似たトーステッド・バレル・フィニッシュ・バーボンがリリースされました。これは限定版で、毎年リリースされるとは限らないようです。同年には、ヴァージニア州のA.スミス・ボウマン蒸留所からも限定版のエイブラハム・ボウマン・ダブル・バレル・バーボンがリリースされていました。考えようによっては、メーカーズマーク蒸留所によって2010年から発売されているメーカーズ46もバレル全体かその一部のステイヴかの違いはあっても、使い古しではない焦がした木材でフレイヴァーをアンプリファイドするという点に於いて発想の根幹は同じでしょう。とにかくこの10年、特に2015年以降にはマイクロ・ディスティラリーからも続々とこうしたウッド・フィニッシュのバーボンが追いきれないほど多く製造されています。で、冒頭に述べたように2016年からジム・ビームもこの潮流に乗り遅れないように参入した、と。日本では殆ど話題にならないか極端に流通量の少ないマイクロ・ディスティラリーの製品や、もう少し知名度はあってもセミ・レギュラーの限定品と違い、ウッドフォード・リザーヴのダブル・オークドと同様に大会社のビームからレギュラー・リリースされるダブルオークは店頭でお目にかかり易く、尚且お手頃価格で提供されるバーボン。このことは諸手を上げて歓迎です。
ジムビーム・ダブルオーク・トゥワイス・バレルドは、焦がしたアメリカン・オークの新樽で4年間熟成させた通常のジムビーム・ケンタッキー・ストレート・バーボン・ウィスキーを取り出し、それを再び焦がしたアメリカン・オークの新樽に移して仕上げます。こうすることで液体は更に深いレヴェルのスパイスの効いたオーキネスと濃厚なキャラメルを発達させ、通常よりもリッチでウッディなフレイヴァーを生み出すとされます。二度目の樽による熟成期間は公表されていませんが、倉庫の温度や味わいの熟成度に応じて、凡そ3〜6ヶ月程度と目されています。ちなみにジムビームのマッシュビルは現在の公式ホームページにはアナウンスがなく、バーボン系ウェブサイトを調べてみるとコーン77%/ライ13%/モルテッドバーリー10%とコーン75%/ライ13%/モルテッドバーリー12%の二説が見つかります。私にはどちらが新しい情報か判断がつきません。時代による変遷が考えられるので、お詳しい方はコメントよりご一報ください。では、ダブルオークがその名の通り「二倍」良いのかどうか試してみましょう。

JIM BEAM DOUBLE OAK TWICE BARRELED 86 Proof
推定2018年ボトリング。色は度数の割に濃いめのブラウン。炭、カラメライズドシュガー、グレイン、胡椒、あんず、シナモン、絵の具。アロマは完全に焦樽アロマが主だが、酸を伴ったビーム・ファンクも。マイルドで水っぽい口当たり。パレートは名状しがたいダークなフルーツ感と接着剤。余韻はややビターと言うかドライで、焦がしたオークの香ばしさとナッティな風味が香る。
Rating:82.5/100
Thought:名前や製法からして、もっとオーキーなバーボンかと思いきや、意外とフルーティな仕上がりで美味しかったです。ジムビームの比較的安価なラインナップの中では一番好みでした。ダブルオークで気になるのはそのラインナップとの比較、特に同じ瓶形状であり色違いラベルとなるブラック・ラベル・エクストラ・エイジドとデヴィルズ・カットと、どのように異るのかですよね。
前回まで開けていたデヴィルズ・カットと較べると、製法の違いからかダブルオークの方が焦げた風味が強いものの、シャープなウッド・フレイヴァーやスパイス感は少なく、もう少し円やかでフルーティな印象です。エクストラ・エイジドと比較すると、樽に入っていた期間の総計はエクストラ・エイジドの方が長いようですが、やはりと言うかダブルオークの方がウッド・フレイヴァーは強く、甘みも苦味もフルーツ感も増している印象。ホワイト・ラベルとは違いすぎて比較の対象にし辛いのですが、セカンダリー・マチュレーションの効果は著しく、確かに「二倍」くらいは美味しいと思います。同社の上位ブランドであるノブクリークやベイカーズと較べると、同じ位に焦げ樽風味が効きながらもプルーフィングが低い分、軽くて飲みやすいのが利点でしょうか。ダブルオークに手放しで称賛できない点があるとすれば、2回も新樽で熟成してる割にヤンガー・ウィスキーの荒々しさがかなりあるところ。昔の8年表記のあったブラック・ラベルだと、もうちょっとメロウでバランスが良かった気がします。とは言え、ダブルオークの只のギミックに終わらない面白みとビーム原酒の個性の融合は楽しめました。
Value:アメリカでは大体20〜23ドル程度、日本での小売価格は大体2500〜3000円です。上に述べたように、個人的にはジムビーム・ブランドの比較的安価なシリーズの中でダブルオークはイチ推し。同社内で比べれば、これより価格の安い物よりは確実に旨く、価格の高い物よりは満足度が低いという適正価格でしょう。素晴らしいとまでは言わないけれど、ダブルオークはグッドなバーボンであり、価格に見合う価値はあると思います。