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ダコタ・マイクロ・バーボンはアライド・ロマーのブランドで、「アメリカン・カウボーイ」、「コック・オブ・ザ・ウォーク」、「プリザヴェーション」、「ピュア・アンティーク」、「レア・パーフェクション」、「ワッティ・ブーン」等とだいたい同じくらいの時期の2000年代半ば(2005年?)に発売されたと思われます。このバーボンについての情報は余りにも少なく、名前のダコタがアメリカの州から取られたのか、その由来となったインディアンのダコタ族(スー族の一部)から取られたのか定かではありません。要するにアメリカっぽさを喚起するブランディングなのは間違いないでしょうが、まさか上下に分断されたラベルがそれぞれノース・ダコタ州とサウス・ダコタ州を表しているなんてこともあるのでしょうか? ご存知の方はコメントよりお知らせ下さい。ラベルのデザインはヴェリー・オールド・セントニックと同じ会社がやっています。昔、そのデザイン会社のホームページで見たのですが、何という会社名か忘れてしまいました。すいません…。

ラベルには「純粋な穀物とケンタッキーのライムストーン・ウォーターを使用してポット・スティルで」云々と書かれていますが、ここで言うポット・スティルはアメリカの法律で規制された用語ではないマーケティングの言葉であって、旧ミクターズがポット・スティルをフィーチャーしていたのと同じ意味です。スコッチ・モルトのような意味での単式蒸留のことではないので注意して下さい。近年の本当のクラフト蒸留所の勃興以前のアメリカン・ウィスキーは、ほぼコラム・スティルで蒸留後、二度目の蒸留にダブラー(もしくはサンパー)を使い、そのダブラーのことをポット・スティルと呼び習わしていました。同じくアライド・ロマーのブランドで「ビッグ・アルズ」というバーボンがあり、そのラベルにも「ポット・スティルド」と大きく謳われていますが、それも同様です。アライド・ロマーのマーケティング手法は「マイクロ」や「スモール・バレル」や「リトル・バレル」のような「小さい」ことを強調し、「ピュア」や「レア」や「ヴェリー」を過剰に使う傾向があります。この「小さな樽」というのも、これまたポット・スティルと同じく近年のクラフト蒸留所の誕生以前に実験的な生産以外で標準より小さい樽を使った蒸留所はなかった筈で、実際にはスタンダード・アメリカン・バレルで間違いないでしょう。有り体に言うと、こうしたマーケティング手法は、法律の抜け穴を上手く利用して旧来品とあまり変わらない製品を新しいクラフト・バーボンかのように見せかける巧妙な仕掛けです。と言っても、私はアライド・ロマーを非難してる訳ではありません。誰もが消費者の心を掴むためのマーケティングは行いますし、バーボンの90%はマーケティングとも言われますからね。寧ろ、そのファンシーなボトルやラベル・デザイン等、女社長マーシィ・パラテラの独創的なブランディング手腕は評価されるべきでしょう。
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さて、ここらで肝心の中身について触れたいところなのですが、こうしたNDP(非蒸留業者)によるソーシング・ウィスキーの出処は、現在のバーボン・ブームの中では比較的明示的な物も増えているものの、これが発売された頃は原酒の調達先をラベルに明示する物は殆どありませんでした。
ダコタが初めてリリースされた時は、ボトルの形状からバッファロートレース蒸留所の製品ではないか?と推測されましたが、当時のサゼラック/バッファロートレースのブランド・マネージャー、ケン・ウェバーはバッファロートレースのものではないと言っていました。当時はまだアライド・ロマーの存在は一般に知られていなかったのです。
個人的には、冒頭に挙げたブランドと同じ流れでボトリングはKBDではないかと思っています。まだバーボンが低需要だった当時のアメリカでは流通していない日本とヨーロッパ向けの製品かな?と。ネット検索では、6年熟成86プルーフ、8年熟成86プルーフ、12年熟成86プルーフの三種が見つかりました。ところで気になるのは裏ラベル記載の所在地がルイヴィルなことですよね。大概のKBDがアライド・ロマーのためにボトリングしたものには「バーズタウン」と記されています。アライド・ロマーの本社はカリフォルニア州バーリンゲイムにあり、ラベルにその所在地が記されたことはありません。そして事務所か何かがルイヴィルにあったという話は聞いたことがなく、また2000年代初頭にルイヴィルに他のボトラーがあったという話も聞いたことがないし、ましてや12年の熟成期間をマイナスした当時にバーボンを造れたクラフト蒸留所もありませんでした。なのにルイヴィル…。これは一体どういうことなのでしょうか?
実はダコタと同時期に発売された「プリザヴェーション・バーボン12年」の裏ラベルにはフランクフォートとあります。それはこのダコタと同じく「disilled」とも「bottled」とも書かれていない単なる所在地の表記です。フランクフォートと言えばバッファロートレース蒸留所がある地であり、ジュリアン・ヴァン・ウィンクル三世のバッファロートレースとの合弁事業オールド・リップ・ヴァン・ウィンクル社の事業地でもあります。ジュリアン三世は初期アライド・ロマーのビジネス・パートナーでした。その縁から久々にジュリアンにボトリングを依頼し、所在地表記がフランクフォートになったというのなら話は分かり易いでしょう。しかし、これは憶測であって何の確証もありません。繰り返しますがラベルにはあくまで「disilled」とも「bottled」とも書かれていないのですから。
ダコタ・マイクロ・バーボンやプリザヴェーション・バーボンを日本語で検索すると出てくる情報では、一説に原酒はバッファロートレースではないかとされています。そこで一つの仮説として、アライド・ロマー製品の所在地表示がコロコロ変わるのが、原酒の調達先を仄めかすヒントになっているのだとしたら…と考えてみました。そうなると、ダコタの発売を2005年として、ヴァリエーション中最長熟成の12年をマイナスすると1993年、この時稼働していたルイヴィルの蒸留所はヘヴンヒルが購入する前のニュー・バーンハイムかアーリタイムズしかないでしょう。個人的には、この仮説が正しいのならニュー・バーンハイムかなという気がしますね。
一方で、裏ラベルの所在地は原酒のヒントでも何でもないというのも考えられます。冒頭に挙げたブランドで言うと、アメリカン・カウボーイやピュア・アンティークは明らかにKBDのボトリングながら、前者は「ネルソン・カウンティ」までしか書かれておらず、後者は「Distilled and Bottled in Kentucky」としか書かれてません。つまり、一律バーズタウンと記載される訳ではなく、表記に法則性や一貫性がないのです。前回投稿した「ラン・フォー・ザ・ローゼズ」もKBDのボトリングと思うのですが、これがもしアライド・ロマーのブランドだとしたら、所在地表記はレキシントンですから、ますます混乱するばかり。そう言えば、過去に投稿した「ドクター・ルイーズ・シュア・ポーション」というアライド・ロマーのブランドがあるのですが、このバーボンも裏ラベルの所在地はルイヴィルでダコタと同じですね。まさかKBD以外にもっと知られていないボトラーが当時からあったのでしょうか…。みなさんはどう思われます? コメントよりご意見お待ちしております。
では、最後に飲んだ感想を少しばかり。

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Dakota Micro Bourbon 12 Years 86 Proof
特にオーキーでもなく、ちょっとフルーティ、ちょっとハービーといったバランス。すぐ前に飲んでいたラン・フォー・ザ・ローゼズ16年のような過熟感はなく断然バランス良く感じました。あまり自信はないですが、少なくとも旧ヘヴンヒルぽくはない気がします。飲んだことある皆さんはどう思われたでしょうか? コメントどしどしお寄せ下さい。
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