バーボン、ストレート、ノーチェイサー

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タグ:バーズタウン

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(上は異なる版のボトルの写真。ヘヴンヒル公式ウェブサイトより)
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ヘヴンヒル・セレクト・ストックは、ヘヴンヒル蒸溜所のヴィジター・センターである「ヘヴンヒル・バーボン・エクスペリエンス(旧称バーボン・ヘリテッジ・センター)」およびケンタッキー州の一部の限られた小売店にて少量販売される、革新性とコレクション性の高いアメリカン・ウィスキーのラインです。これは基本的にヘヴンヒルの実験的ラインのため、マッシュビル、エイジング、フィニッシュ、プルーフはエディションによって異なります。そのバッチ・サイズはかなり小さく、5バレル未満であったり、最近の物でも26バレルとされていました。2022年後半期からは、ユー・ドゥ・バーボン・エクスペリエンスで提供されているようです。この「You Do Bourbon」と言うのは、ヘヴンヒル・バーボン・エクスペリエンスで行われる「ツアー」の選択オプションの一つで、75分で40ドルを払い、研究室のようなテイスティング・ルームに座ってエライジャクレイグ・バレルプルーフ、ラーセニー・バレルプルーフ、バーンハイム・オリジナル・ウィートウィスキー・バレルプルーフの3種とあればセレクト・ストックを試飲し、その中からお気に入りを選択して、自分でボトルに詰めてラベルの記入をするものです。購入したボトル毎に5ドルが地元の非営利団体に寄付されます。このテイスティング体験には、ラボの探索や1935蒸溜所劇場での上映が含まれているそう。

これまでに発売されたヘヴンヒル・セレクト・ストックの各エディションを以下に纏めておきます。左から順にリリース・デイト、プルーフ、熟成年数、どういうものかの説明です。


HEAVEN HILL SELECT STOCK EDITION LIST

1st Edition|Spring 2014|130.2|8 Years Old|Wheated Bourbon finished in Cognac barrels for two years.

2nd Edition|Summer 2014|128|8 Years Old|Wheated Bourbon finished in Cognac barrels for 27 months.

3rd Edition|Fall 2014|124.4|8 Years Old|Kentucky Straight Bourbon Whiskey finished in Cognac barrels for 21 months.

4th Edition|Fall 2014|127.6|14 Years Old|Bourbon finished in big barrels.

5th Edition|Fall 2015|127.6|8 Years Old|Wheated Bourbon finished in Cognac barrels for 19 months.

6th Edition|Fall 2016|96|20 Years Old|Four barrels of Small Batch Bourbon from before the fire at Heaven Hill in 1996. The barrels were aged 20 years in rickhouses that were adjacent to fire. Non-chill filtered.

7th Edition|Fall 2017|110|4 Years Old|Small Batch Bourbon that was aged for four years, then rebarreled in new charred oak barrels for an additional two years.

8th Edition|Winter 2017|97|14 Years Old|Corn Whiskey that was aged for 14 years, then rebarreled into new charred oak barrels for an additional year.

9th Edition|Spring 2019|94|18 Years Old|Two barrels of Wheated Bourbon from the first floor of different rickhouses mingled together, non-chill filtered.

10th Edition|Winter 2019|90|6 Years Old|Kentucky Straight Bourbon Whiskey that was aged for six years then finished in Good Folks Coffee Company's Bourbon barrel-aged cold brew coffee barrels for an additional two weeks.

11th Edition|Winter 2021|123.4|8 Years Old|Small Batch Bourbon finished for six months in a new oak barrel custom toasted to a unique taste profile defined by our Master Distiller. Bottled at barrel proof.

12th Edition|Spring 2022|110|13 Years Old|Small Batch Bourbon finished for two years in 36-month, air-dried Chinquapin barrels that were charred to a level 3.

13th Edition|Spring 2022|110|8 Years Old|Rye Whiskey finished for two years in 36-month, air-dried Chinquapin barrels that were charred to a level 3.


このデータはヘヴンヒルの公式ウェブサイトから採ったものですが、調べてみると他にストレートバーボン・ドットコムのためにハンド・セレクトされたプライヴェート・ピックが二つありました。これらはヘヴンヒル蒸溜所のマスター・ディスティラーでALSによって引退したパーカー・ビームのプロミス・オブ・ホープ基金への資金を集めるためのボトルでした。ボトリングされたものは、数本を覗いて全てコミュニティーのメンバーに譲渡され、各メンバーは販売しないことを誓約していたそうです。当時はボトル1本75ドルでした。ピック1は8年熟成のウィーテッド・バーボンをコニャック・バレルで19ヶ月フィニッシングしたもの。127.6プルーフで計366本。2003年9月24日蒸溜、2013年9月19日のボトリングです。確証はありませんが、ファースト・エディションより半年も早くボトリングされているところからすると、セレクト・ストックのラベルを使った最初の1本なのかも知れません。ピック2は8年熟成のウィーテッド・バーボンをコニャック・バレルで27ヶ月フィニッシングしたもの。124.6プルーフで計426本。2003年9月24日蒸溜、2014年5月2日のボトリングです。
それと、先述のユー・ドゥ・バーボンで2022年7月に提供されたものには、テーパード・ステイヴ・バレルで14年間熟成させたバーボンがあります。この樽はその名の通りステイヴの両端が先細りになっているためダイヤモンドのような形をしており、風変わりなバレル形状がバーボンの味にどのような影響を与えるかを見るための実験だったらしい。このバーボンのマッシュビルはヘヴンヒル蒸溜所のスタンダードな78%コーン/10%ライ/12%モルテッドバーリーで蒸溜され、パーカー・ビームのお気に入りとされるリックハウスYで熟成されました。26バレルからバッチングし、132.3プルーフでのボトリング、MSRPは200ドルです(ツアー代の他にこの金額を支払ってボトルを購入する)。その後はウィート・ウィスキーが提供された模様。

偖て、今回試飲するセレクト・ストックは、2017年にリリースされたセヴンス・エディションです。これは通常通り4年間熟成させた後、チャーしたオークの新樽で更に2年ほど再び熟成させたスモールバッチ・バーボン。つまり、他の酒などが入っていた樽で追熟を施しフレイヴァーをレイヤードさせるのではなく、ダブル・オークドと呼ばれるバーボンらしさをアンプリファイドする方向性のやつですね。
なかなか日本ではお目にかかれないこの貴重なバーボンは、とあるバーボンマニアの方からご提供頂きました。感謝の気持でいっぱいです。本当にありがとうございました! バーボン繋がりに乾杯! では、注ぐとしましょう。

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HEAVEN HILL SELECT STOCK 110 Proof
2017年ボトリング。色は赤みを帯びたディープ・アンバー。焦げ樽、ベーキングスパイス、僅かにチェリー、ミルクチョコ、オレンジピール。ノーズは甘いナッツの香りがメインで柑橘類のヒントも感じられる。とろみのある口当たり。パレートは濃厚な穀物とシナモニーなスパイス。余韻はハイプルーフに期待するよりは短かいが、重厚なオークとさっぱりとしたシトラスが現れ悪くない。グラスの残り香はココア。パレートがハイライト。
Rating:85/100

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(画像提供K氏)

アメリカ国内でのバーボン需要が低かった1980年代から2000年頃まで何年にも渡って海外へ販売されたKBD(プレミアム・ブランズ、ウィレット)の数多いブランドのうちの一つがバーボンタウン・クラブです。多分、80年代後半~90年代前半にかけて日本に輸入され、比較的短期間で使われなくなったラベルかなと思います。名前の「バーボンタウン」というのは、どう考えてもバーズタウンのことを指しているでしょう。だから、バーズタウン・クラブと言ってるに等しいかと。ちょっと紛らわしいですが、実際このバーボンタウン・クラブと同時期くらいに同じくKBDのブランドで「バーズタウン・クラブ」という姉妹品?もありました。ラベルのデザインから言って、プレミアム感を構築する意図は感じられません。そのため壮大なブランド・ストーリーなどは特にないです。このブランドが昔のラベルの復刻なのか、それとも輸出専用ラベルとしてその当時に作成されたのかもよく分かりませんでした。

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(画像提供K氏)
バーボンタウン・クラブにはヴァリエーションとして、6年86プルーフ、10年86プルーフ、12年86プルーフ、スクワット・ボトルの15年101プルーフがありました。初期の丸便のラベルでは「THE WILLETT DISTILLING COMPANY」を、後の角瓶では「OLD BOURBONTOWN DISTILLERY」を、DBAの名義として使っています。どちらにしても、6年物はどうか判りませんが、10〜15年物は発売年と熟成年数を考慮すると旧ウィレット原酒の可能性が高いと思われます。今となってはオークションで高騰の一途を辿る原酒の一つな訳ですが、今回もまたInstagramで活躍中のウィレット信者K氏よりサンプルを頂きました。画像提供の件も含め、こちらで改めてお礼を言わせてもらいます。貴重なバーボンをありがとうございました。バーボン繋がりに乾杯!

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BOURBONTOWN CLUB 10 Year 86 Proof
推定1989年ボトリング。オールドボトルファンク、ヴァニラウエハース、キャラメル、クローヴ、ミント、茴香。ノーズはオールド臭の中に僅かな甘い香り。口当たりは水っぽい。味わいは漢方薬のようなハーブのような薬っぽさで苦く、甘み弱め。余韻は、口の中から香りはあっという間に消え、鼻腔と喉奥にオールド臭が長く残る。
Rating:74/100

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BOURBONTOWN CLUB 12 Year 86 Proof
推定1989年ボトリング。キャラメル、湿った地下室、焦がしたオーク、樹液、オレンジ、茴香、ミント、タバコ、土、コーン、ビターチョコ。水っぽい口当たり。アルコールのヒリヒリ感は全くない。味わいはアーシーなハーバルノート強め。余韻は86プルーフにしては長く、ビターな風味が尾を引く。
Rating:82.5/100

Thought:実は10年の方は見た目がけっこう曇っていました。おそらくボトリング時の味や香りも多少は存命しつつも、かなりオールドボトル・エフェクトが効いていて、このバーボン本来の味わいとは程遠いと思います。正直このままではキツイほど…。しょっぱいオツマミ、例えばサラミとかに合わせると幾分か飲み易くなりました。バーボンに限った話ではないかも知れませんが、直前に食べた物によって感じる風味は変化します。自分的に飲みづらいと思うバーボンに出会ったら、何かしら相性の良い食べ物とペアリングするのはオススメの手法ですね。
12年の方も少し曇りはあるのですが、10年と較べるとかなりクリアだったので、軽めのオールド臭くらいで済んでいましたし、グラスに注いで暫くするとそれも消えたので普通に飲めました。薬っぽい風味がやや少なく飲み易かったのです。ノーズでもパレートでも10年と共通する傾向は感じ、おそらく両者はかなり似ている気がします。10年がまともな状態だったら、あまり差が分からなかったのかも知れません。残念だったのは、思ったよりフルーティさを感じれなかったところです。もしかすると6年物の方が自分の好きなフルーティさが取れたのかも…。

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今宵の映画は『ジャッジ 裁かれる判事』。2014年のアメリカ映画です。謎が謎を呼ぶような法廷ミステリーを期待して観ると、実は家族の物語が主題のため、肩透かしを食らうとされ、脚本よりはロバート・ダウニーJrやロバート・デュヴァル他の俳優陣の演技が評価されています。個人的にも、悪くはないし、時間の無駄とは思いませんけれど、特別映画史に残る傑作とは言い難いという評価です。まあ、当ブログはバーボンのブログですから、粗筋や解説は映画評論サイトを参考にして頂くとして…、この映画なんとバーボンが劇中に登場します。ラベルはほんの一瞬チラッとしか映らないし、ストーリーに関与する訳でもないのですが、ただ何となく劇中で飲まれているだけではなく、ちゃんとにセリフで触れられているのです。あのバーボン・マニアから愛される銘酒「エヴァンウィリアムス23年」が…。

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(イメージ)

エヴァンウィリアムス23年が登場するのは映画の後半、主演の二人演じる親子の間にすったもんだあった後、或る時ハンク(ロバート・ダウニーJr)が家に戻ると父のジョセフ(ロバート・デュヴァル)が秘蔵の酒を開けているのに気づき、そのことを訊ねる場面です。セリフでは「エヴァンウィリアムスだ。この子は23年物でね。1979年、ケンタッキーのバーズタウンにドライブしに行った時に買ったんだ」というようなことを言ってます。えっ? 1979年? 私の認識では、エヴァンウィリアムス23年は1980年代後半に日本向けに販売されたものだと思っていたのですが…。これってあくまでフィクションとしての映画の中での設定なだけなのか、それとも当時蒸留所内もしくはその近隣の酒屋限定とかで買えたのでしょうか? 1980年前後であればアメリカのバーボン需要は底辺だった筈です。ならば当時に売れなかったバレルから23年物のバーボンをリリースすることは可能ではあるような気も…。仔細をご存知の方は、是非ともコメントよりご教示いただければと思います。

今回の投稿はそれを言いたかっただけです(笑)。ではでは、皆さんも映画とバーボンのコンビネーション、お楽しみ下さいね〜。

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スプリング・リヴァーはアメリカ本国での知名度は高くありませんが、日本のバーボン党には比較的知られた銘柄かと思います。

日本では80年代後半から2000年代にかけてヘヴンヒルの所謂「キャッツ・アンド・ドッグス」と呼ばれるラベル群(ブランド群)のバーボンが多く流通していました。網羅的ではないですが、代表的な物を列挙すると…

1492
Anderson Club
Aristocrat
B.J. Evans
Bourbon Center
Bourbon Falls
Bourbon Hill
Bourbon Royal
Bourbon Valley
Brook Hill
Country Aged
Daniel Stewart
Distiller's Pride
Echo Spring
Heritage Bourbon
J.T.S. Brown
J.W. Dant
Jo Blackburn
John Hamilton
Kentucky Deluxe
Kentucky Gold
Kentucky Nobleman
Kentucky Supreme
Mark Twain
Martin Mills
Mattingly & Moore(M & M)
Meadow Springs
Mr. Bourbon
National Reserve
Old 101
Old 1889
Old Joe
Old Premium R.O.B.
Original Barrel Brand
Pap's
Rebecca
Rosewood
Sam Clay
Samuels 1844
Spring River
Stephen Foster
Sunny Glenn
T.W. Samuels
Virgin bourbon
Westridge
(The)Yellow Rose of Texas
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…などです。これらの幾つかは大昔のブランドを復刻したか、廃業した蒸留所もしくは大手酒類会社のブランド整理によって取得したラベルが殆どでした。またはヘヴンヒルが古めかしくそれっぽいありきたりなデザインで手早く作成したのもあるかも知れません。こうしたラベルは地域限定的で、ヘヴンヒル社にとっては比較的利益率の低いバリュー・ブランドでしたが、彼らのビジネスの82%は安価な酒類の販売とされています。或る意味ヘヴンヒルの「ブランド・コレクター」振りは、伝統を維持/保護する観点があったとしても、このビジネスのための必要から行っていると言えなくもないでしょう。広告も出さないし、ラベルもアップデートしないということは、マーケティング費用がほぼゼロに近いことを意味します。だから安い。

上に挙げたブランドは様々な熟成年数やプルーフでボトリングされました。一部はプレミアム扱いの物もあり、その代表例は「マーチンミルズ23年」や「ヴァージンバーボン21年」等です。或いはノンチルフィルタードをウリにした「オールド101」も、見た目のラベルデザインは地味でも中味はプレミアム志向を感じさせました。4〜6年の熟成で80〜86プルーフ程度の物に関しては、エントリークラスらしいそこそこ美味しくて平均的なヘヴンヒルの味が安価で楽しめました。しかしそれにも況して、熟成期間が7年以上だったり100プルーフ以上でボトリングされた物は、あり得ないほどお得感があり、古参のバーボン・ファンからも支持されています。また、上のリストには含めませんでしたが、ヘヴンヒル社の名前そのものが付いた「オールドヘヴンヒル」や同社の旗艦ブランドとなる「エヴァンウィリアムス」などの長期熟成物も日本ではお馴染みでした。

80年代〜90年代にこのような多数の銘柄が作成もしくは復刻され、日本向けに大量に輸出されていた背景には、アメリカのバーボン市場の低迷がありました。彼の国では、70年代から翳りの見えていたバーボン人気は更に落ち込み、過剰在庫の時代を迎えていたのです。逆に日本ではバブル期の経済活況からの洋酒ブームによるバーボンの高需要があった、と。上記の中で一部のブランドはバブルが終わった後も暫く継続され、2000年代をも生き延びましたが、やがてアメリカでのバーボン人気が復調しブームが到来、更には世界的なウィスキー高需要が相俟った2010年代になると、日本に於いては定番と言えた多くの銘柄は終売になるか、銘柄自体は存続しても長期熟成物は廃盤になってしまいました。今では、80〜90年代に日本に流通していたヘヴンヒルのバーボンは、ボトリング時期からしてバーズタウンにあった蒸留所が火災で焼失する前の物なので、欧米では「プリ・ファイヤー・ジュース」と呼ばれ、オークションなどで人気となり価格は高騰しています。

火災前の原酒がマニアに珍重されているのは、失われた物へ対する憧憬もありますが、そもそも味わいに多少の違い(人によっては大きな違い)があるからです。その要因には大きく二つの側面があります。
一つは製造面。先ず当たり前の話、施設が違うのですから蒸留機も異なる訳ですが、ヘヴンヒルが新しく拠点としたバーンハイム蒸留所は1992年にユナイテッド・ディスティラーズが建てた蒸留所であり、もともとバーボンの蒸留に向かない設計だったと言われています。そのためヘヴンヒルが購入した時、蒸留機の若干の修正や上手く蒸留するための練習を必要としたとか。そしてこの時、マッシュビルにも変更が行われました。ライ麦率を3%低くしてコーン率を上げたそうです(コーン75%/ライ13%/モルテッドバーリー12%→コーン78%/ライ10%/モルテッドバーリー12%)。あと、イーストもジャグ・イーストからドライ・イーストに変更を余儀なくされたようで、マスターディスティラーのパーカー・ビームはそのことを嘆いていたと言います。また、蒸留所のロケーションも違うのですから、水源も当然変更されたでしょう。旧施設のDSP-31では近くの湧水を使用していたとされ、DSP-1では市の水を独自に逆浸透膜か何かで濾過していると聞きました。
もう一つの側面は、上段で述べていた過剰在庫の件です。今でこそ長熟バーボンはアメリカでも人気がありますが、当時ほとんどのディスティラーの常識では8年を過ぎたバーボンは味が落ちる一方だし、12年を過ぎたバーボンなど売り物にならないと考えられていました。と言って倉庫で眠っている原酒を無駄にする訳にはいかない。そこで、例えばエイジ・ステイトメントが8年とあっても実際には10年であったり、或いは8年に12年以上の熟成古酒がブレンドされていて、それが上手くコクに繋がっていた可能性が指摘されています。実際にはどうか定かではありませんが、私個人としても、確かに旧ヘヴンヒル原酒は現行バーンハイム原酒よりスパイスが複雑に現れ深みのある風味という印象を受けます。

さて、そこでスプリング・リヴァーなのですが、調べてもその起源を明らかにすることはできませんでした。先ず、スプリング・リヴァー蒸留所という如何にもありそうな名前の蒸留所は、禁酒法以前にも以後にも存在していないと思われます(サム・K・セシルの本にも載っていない)。そしてそのブランド名もそこまで古くからあったとは思えず、ネットで調べられる限りでは71年ボトリングとされるクォート表記でスクエアボトルの12年熟成86プルーフがありました。その他に年代不明で「SUPERIOR QUALITY」の文字がデカデカと挿絵の上部に書かれたラベルのNAS40%ABVの物もありました。70年代の物はどうか判りませんが、少なくとも80年代以降は(ほぼ日本向けの?)エクスポート専用ラベルになっていると思われます。以上から考えるに、おそらく70年代にヘヴンヒルが作成したラベルと予想しますが、詳細ご存知の方はコメントよりお知らせ下さい。モダンさの欠片もないデザインが却って新鮮で素敵に感じますよね。
日本で流通していたスプリング・リヴァーは沖縄の酒屋?商社?が取り扱っていたらしく、90年代の沖縄の日本資本のバーには何処にでもあったとか。おそらく80~90年代に流通し、12年熟成101プルーフと15年熟成86プルーフの二つ(もう一つ追加。下記参照)があったようです。オークションで肩ラベルに「Charcoal Filtered」と記載され年数表記のない86プルーフで「ウイスキー特級」の物も見かけました。これも15年熟成なのでしょうか?(コメントよりご教示頂きました。これはそのままNASだそうです。コメ欄をご参照下さい)。ともかくバーボン好きに頗る評価が高いのは12年101プルーフです。熟成年数とボトリング・プルーフの完璧な融合からなのか、それとも過剰在庫時代のバレルを使ったバッチングに由来するのか…。なんにせよ余程クオリティが高かったのは間違いないでしょう。では最後に少しばかり飲んだ感想を。

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SPRING RIVER 12 Years 101 Proof
90年代流通品。がっつり樽香がするバーボン。スペック的に同じでほぼ同時代のエヴァンウィリアムス赤ラベルのレヴューを以前投稿していますが、それに較べてややフラットな風味に感じました。まあ、サイド・バイ・サイドではないですし、今回はバー飲みですので宅飲みと単純には比較できませんが…。
Rating:87.25/100

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ヘヴンヒル蒸留所の旗艦ブランド、エヴァンウィリアムスの中でもレッドラベルは、バーボン好きは言うに及ばず、スコッチ中心で飲む方にも比較的評価の高い製品です。長らく輸出用の製品(ほぼ日本向け?) でしたが、2015年にアメリカ国内でもヘヴンヒルのギフトショップでは販売されるようになりました。日本人には驚きの120~130ドルぐらいで売られているとか…。日本では一昔前は2000円弱、今でも3000円前後で購入できますから、日本に住んでいながらこれを飲まなきゃバチが当たるってもんですね。

ところでこの赤ラベル12年、一体いつから発売されているのか、よく判りません。80年代後半には確実にありましたが、80年代半ばあたりに日本向けに商品化されたのが始まりなのですかね? 当時のアメリカのバーボンを取り巻く状況からすると、長期熟成原酒はゴロゴロ転がっていた筈です。その輸出先として、バブル経済の勢いに乗り、しかも長熟をありがたがる傾向の強い日本向けにボトリングされたのではないかと想像してるのですが…。誰かご存知の方はコメント頂けると助かります。
さて、今回は発売年代の違う赤ラベルを飲み較べしようという訳でして、画像左が現行、右が90年代の物です。赤の色合いがダークになり、古典的なデザインがモダン・クラシックと言うか、若干ネオいデザインになりましたよね。多分このリニューアルは、上述のギフトショップでの販売開始を契機にされたものかと思います。まあ、ラベルは措いて、バーボンマニアにとっては中身が重要でしょう。言うまでもなく、現行の方はルイヴィルのニュー・バーンハイム蒸留所、90年代の方はバーズタウンの旧ヘヴンヒル蒸留所の原酒となります。

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目視での色の違いは殆ど感じられません。強いて言えば旧の方が艶があるようにも見えますが、気のせいかも。

Evan Williams 12 Years Red label 101 Proof
2016年ボトリング。プリン、焦樽、ヴァニラ、バターピーナッツ、レーズン、莓ジャム、煙、足の裏。ほんのりフルーティなヴァニラ系アロマ。余韻はミディアムショートで、アルコールの辛味と穀物香に僅かなフローラルノート。
Rating:87/100

Evan Williams 12 Years Red Label 101 Proof
95年ボトリング。豪快なキャラメル、香ばしい樽香、プルーン、ナツメグ、チェリーコーク、チョコレート、ローストアーモンド、鉄。クラシックなバーボンノート。スパイシーキャラメルのアロマ。パレートはかなりスパイシー。余韻はロングで、ミントの気配と漢方薬、土。
Rating:87.5/100

Verdict:同じものを飲んでいる感覚もあるにはあるのですが、スパイシーさの加減が良く、風味が複雑なオールドボトルの方を勝ちと判定しました。現行も単品で飲む分には文句ありませんし、パレートではそこまで負けてはないものの、較べてしまうと香りと余韻があまりにも弱い。総論として言うと、現行の方は典型的な現行ヘヴンヒルの長期熟成のうち中程度クオリティの物といった印象。一方の旧ボトルも、バーズタウン・ヘヴンヒルの特徴とされる、海外の方が言うところのユーカリと樟脳が感じやすい典型的な90年代ヘヴンヒルのオールドボトルという印象でした。

Thought:全般的に現行品はクリアな傾向があり、対してオールドボトルは雑味があると感じます。その雑味が複雑さに繋がっていると思いますが、必ずしも雑味=良いものとは言い切れず、人の嗜好によってはなくてもよい香味成分と感じられることもあるでしょう。かく言う私も、実は旧ヘヴンヒルの雑味はそれほど好みではありません。両者の得点にそれほどの開きがない理由はそこです。

Value:エヴァン赤は日本のバーボンファンから絶大な信頼を寄せられている銘柄だと思います。確かに個人的にも、例えばメーカーズマークが2500円なら、もう500円足してエヴァン赤を買いたいです。またジムビームのシグネイチャー12年やノブクリークが同じ価格なら、エヴァン赤を選ぶでしょう。おまけにワイルドターキーのレアブリードよりコスパに優れているし。つまり、安くて旨い安定の一本としてオススメということです。もっとも、たまたま上に挙げたバーボンはどれも味わいの傾向は多少違うので、好みの物を買えばいいだけの話ではあります。参考までに個人的な味の印象を誇張して言うと、腰のソフトさと酸味を求めるならメーカーズマーク、香ばしさだけを追及するならノブクリーク、ドライな味わいが好きならレアブリード、甘味とスパイス感のバランスが良く更に赤い果実感が欲しいならエヴァン赤、と言った感じかと。
問題は旧ラベルと言うか、旧ヘヴンヒル蒸留所産の物のプレミアム価格の処遇です。個人的な感覚としては、上のThoughtで述べた理由から、仮に旧ボトルが現行の倍以上の値段なら、現行を選びます。確かに多くのバーボンマニアが言うように、旧ヘヴンヒル蒸留所産の方が美味しいとは感じますが、あくまで少しの差だと思うのです。それ故、私の金銭感覚では、稀少性への対価となる付加金額を、現行製品の市場価格の倍以上は払いたくないのです。ただし、その少しの差に気付き、その少しの差に拘り、その少しの差に大枚を叩くのがマニアという生き物。あなたがマニアなら、或いはマニアになりたいのなら、割り増し金を支払ってでも買う価値はあるでしょう。

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Evan Williams Green Label 7 Years 86 Proof
エヴァンウィリアムスの緑ラベルは、現在では4年熟成で80プルーフとなってしまっていますが、80年代から90年代にかけて日本に流通していた物は7年熟成で86プルーフでした(*)。黒ラベルにしてもその当時は8年熟成90プルーフでした。現行の黒ラベルはNASの5〜7年熟成で86プルーフですから、昔の緑ラベルは現行の黒ラベルをスペック的に上回っています。そして、なにより蒸留された施設の違いもあります。バーズタウンにあったヘヴンヒル蒸留所は96年の悪夢のような大火災により消失。その後、I.W.ハーパー等を造っていたルイヴィルのバーンハイム蒸留所を購入して蒸留を再開しましたが、この火災前に蒸留された原酒のことを欧米ではプリ・ファイヤー・ジュースと言い、味わいは現行の物より香味成分が強いとされ、失われた蒸留所への憧憬と共にバーボンマニアには珍重されています。

さて、そこで今回のボトルは95年ボトリング、言うまでもなく火災前のジュースという訳です。では、飲んでみましょう。

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濃厚なキャラメル香、湿った木、チェリーコーク、ローストバナナのキャラメルソースがけ、ベーキングスパイス、あんずジャム→プルーン、ブラックコーヒー。口中は酸味が強め。余韻に胃腸薬と僅かなミント。現行製品とは異なるクラシックなバーボンノート。43度にしては余韻も長く濃密な風味。ただし、クリーミーな口当たりではない。見た目は少し濁りがあるが、味はそれほど劣化しておらず、これは当たりの一本。現在のブラックラベルより遥かに複雑な味わいで、90年代のスタンダードバーボンがハイレヴェルだったことを偲ばせる。ラッパ飲みやテイスティング・グラスで飲むよりもショット・グラスで飲むのが最も美味しかった。個人的にはもう少し酸味とえぐみがない方が好みなので点数は抑えめ。
Rating:84.5/100


*他にも6年や5年熟成の物もあったようです(もしかすると販売地域の違いなのかも。私自身、写真で見ただけなので詳細は分かりません)。

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