バーボン、ストレート、ノーチェイサー

バーボンの情報をシェアするブログ。

タグ:バートン1792蒸留所

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今回は、アメリカン・ブレンデッド・ウィスキーである「アーリータイムズ・ホワイト」に続き、2023年9月に新しくリリースされたケンタッキー・ストレート・バーボン規格の「アーリータイムズ・ゴールド」を飲んでみます。アーリータイムズのブランドがブラウン=フォーマンからサゼラックに移行し、ホワイト・ラベルがリリースされるまでの経緯は過去に投稿した記事を参照ください。

SNSや某社の商品レヴュー等を眺めてみると、アーリータイムズ・ホワイトは一部の人々、特にハイボールとして飲む人などからは美味しいという評価もあったものの、多くのバーボン愛好家からは少なからず不評を買ったように見えます。新しい飲酒者層は別として、流石に旧来のイエロー・ラベルを飲み、それを愛して来た人々がブレンデッド・ウィスキーに対して諸手を挙げて歓迎する筈はありませんでした。それ故にホワイトの発売直後からストレート・バーボンのアーリータイムズの復活を望む声は直ぐに上がりました。そうした声がメーカーに届いたからなのか、或いは最初からの計画通りだったのかは判りませんが、僅か一年でバーボンのアーリータイムズは販売されるようになりました。それがこのゴールドです。

では、その中身は一体なんなのでしょう? サゼラックと総代理店契約を締結している明治屋のプレス・リリースにはその中身について具体的な説明はありません。ですが、サゼラックのマスター・ブレンダーであるドリュー・メイヴィルが来日したのを機に明治屋が今年の2月28日に都内で開催した試飲セミナーのレポート記事によると、アーリータイムズのマッシュビルは従来通りコーン79%、ライ11%、モルテッドバーリー10%、そして独自酵母で発酵と書いてありました。サゼラックが2021年4月8日に発表したアーリータイムズ・ウィスキーの計画では、同年夏からケンタッキー州バーズタウンのバートン1792蒸溜所で蒸溜、熟成、ボトリングを開始、オリジナルのレシピとマッシュビルを使用して消費者に愛された同じ味わいの製品を提供し続ける、としていたので一致していますね。この独自の酵母というのが、ブラウン=フォーマンがアーリータイムズで使用していたイーストを購入しているのか、それとも単にバートン蒸溜所の他のバーボンに使用されていないイーストを指しているだけなのかは、よく判りません。まあ、そこはどちらでもいいとして、問題はゴールドに使われているバレルの熟成年数でしょう。バートンがアーリータイムズの蒸溜を始めたのが2021年夏からとすると、2023年秋にリリースされ始めたこのゴールドは、おそらく「ストレート」を名乗れる最低2年熟成と見るのが妥当だと思われます。私は上掲のホワイトに就いての記事で、2025年あたりにイエロー・ラベルのストレート・バーボンがリリースされるのではないかと「希望的観測」を書きました。そうしたら、ラベルの色が少し違ったものの、一応はストレート・バーボン規格の物がちゃんとリリースされた、と。しかし、私が希望していたのは4年熟成程度のバーボンでした。なので私としては「えっ、早いよサゼラックさん…」となりました。6年から8年、または8年から10年への熟成期間の2年間と違い、2年から4年への2年間はもっと重要な熟成期間だと個人的には思うが故に、がっかりした次第です。まあ、取り敢えず注いでみるとしましょう。

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EARLY TIMES Gold label 80 Proof
推定2023年ボトリング。ダーク・オレンジぽさのあるブラウン。清涼感を伴ったヴァニラ→キャラメル、ドライオーク、一瞬レーズン、薄っすら蜂蜜、みかん。香りはフルーティな接着剤からの洋菓子。水っぽい口当たり。味わいはグレインウィスキー然とした仄かな甘みもあるものの基本ドライで、ホワイトドッグぽさが残る。余韻はとても短くこれまたドライだが、穀物の旨味を感じる瞬間もなくはない。
Rating:74/100

Thoughts:開封直後は「なにこれ? 酷いな…」という感想でした。未熟成のスピリットにほんの少し焦げた樽の香りを付けただけのように感じたのです。もう少し時間が経つと、甘い香りも出て来てマシにはなりましたし、ホワイトドッグぼいテイストも薄らぎました。ですが、口の中や余韻では相変わらずドライな傾向が支配的で、相当注意深く探らないとフルーティさを発見することは困難でした。正直言って誉めるところが見つかりません。飲み易いと言えば飲み易いですが、それを言うなら旧来のイエローラベルはもっと飲み易かったですし、他の安いバーボンも同じくらいには飲み易いです。敢えて誉めるなら、さっぱりとした後口、すっきりとした余韻、とでもなるでしょうか。しかし、その言い方は聞こえは良いですが、換言すれば余韻に芳醇な香りが残らないと言っているに等しいです。擁護すると、最近の通常のバーボンの殆どがドライな傾向にあるとは言えますけれども。
ブラウン=フォーマン時代のアーリータイムズ・イエローラベルと比較すると、イエローの方がよりコーンの旨味とキャラメルの風味が感じられたし、もっと円やかでミルキーでした。旧来のアーリータイムズとの決定的な違いは、ブラウン=フォーマンの自社製樽由来と思われるバナナ・ノートを欠いている点かも知れません。これに関しては製造する蒸溜所が違うのですから別に文句はありませんが、問題なのは同じバートンで製造される安価なバーボンのケンタッキー・ジェントルマンやザッカリア・ハリスよりフレイヴァーの強度が劣るところです。日本人の大多数はハイボール民だからこの程度でいいだろ、とでも思われたのでしょうか? だとしたら馬鹿にし過ぎです。ホワイトがリリースされた当初、アーリータイムズを名乗るべきではない、という趣旨の意見をよく聞きました(見ました)。或るブランドのヴァリエーションにブレンデッドがあること自体は悪いことではありません。ホワイトはバーボンではないのだから、バーボンより味が劣っていて当たり前、それだけの話でしょう。しかし、この金色を使いスタイリッシュで豪華そうに見せたゴールド・ラベルは違います。曲がりなりにもストレート・バーボンですから、こんなものアーリータイムズと名乗るべきではない、と叫ぶのなら今でしょう。少なくとも私には、このゴールドが旧来のアーリータイムズ・ファンを納得させるものとは到底思えませんでした。
ゴールドの発売は、エントリー・クラスの買い求め易い価格でありながら十分に旨かった、我々日本人が長年に渡って享受して来た、あのアーリータイムズの完全な終わりを告げたのかも知れない。アメリカ国内流通のアーリータイムズで主流となっているのは、もともとブラウン=フォーマンが2017年に導入した青いラベルの「ボトルド・イン・ボンド」です。これは当初は限定生産の予定でしたが、手頃な価格(1リットル25ドル)でクラシック・バーボンの風味を味わえると評判となってすぐにヒットしてレギュラーでリリースされる人気商品となり、サゼラックも買収後にこれを継続して販売しました。これが日本で普通に買えるように正規販売されるのなら、別にゴールドはこのままで構わないのですが、そうでないなら改善を求めたいですね。
そう言えば、ホワイト・ラベルが発売された時、世界に先駆けて日本先行発売とか言われていましたが、もう1年経つというのに世界で発売されている様子はありません。一体どうなっているのでしょうか? 我々は騙されていたのですか? まさか試験的に日本に投下され、ハイボール大国ニッポンですら不評だったために世界販売が取り止めとなり、慌ててストレート・バーボンを導入したとでも? もしそうなら、このゴールドも不買運動を繰り広げれば、ワンチャン、4年熟成の物に変化することもあるのですか? ここらへんの事情をお知りの方はコメントより是非ご教示ください。

Pairing:ウィスキーは直前に食べた物で感じる味わいに違いが出ます。私はバーボンを食中酒としても飲むので、この少々イマイチなゴールドを何とか美味しく楽しめないかと色々な料理とのペアリングを探っていたら、スパイシーな味付けの唐揚げとはなかなか相性が良かったように思います。逆に最悪なのはサラダでした。まあ、これは私の味覚なので皆さんが同じように感じるかは分かりませんが…。

Value:2000円程度で購入できるため、コスパが良いと言う人もいます。コスト・パフォーマンスとは費用対効果と訳され、支払った費用(コスト)とそれにより得られた能力(パフォーマンス)を比較したもので、低い費用で高い効果が得られればコスパが「高い」とか「良い」とか「優れている」等と表現されます。ウィスキーに於いてパフォーマンスは「味わい」です。私なら3500円出して2倍旨い別のバーボン、例えばフォアローゼズ・ブラック等を買うほうがコスパが良いと信じます。どうしてもアーリータイムズ・ブランドに拘りたいのであれば、ブレンデッドであるホワイトよりゴールドは格段に美味しいのは間違いないので、ホワイトが1500円程度なら、もう500円上乗せしてゴールドを買う選択は支持できます。しかし、ただそれだけです。

…と、ここまでは、ゴールドはなかなか旨いという評判を聞いていた私の期待が大き過ぎ、それが外れたことから勢いに任せて辛辣な評価を下してしまいました。これを見てちょっとした勘違いをする方もいるかも知れないので、最後に蛇足ながら私の趣味嗜好を書いておきます。
私はウィスキー全般の愛好家ではありません。飽くまでウィスキーの中の一つのジャンルに過ぎないバーボンを愛飲する者です(より正確に言うならアメリカン・ウィスキー愛好家)。そんな私の舌と脳は基本的にバーボン特化型であって、その他のスコッチやジャパニーズ・ウィスキー、或いは蒸溜酒であれ醸造酒であれ他のアルコール飲料を美味しいとは感じません。ここで見られるゴールドに対しての少々厳しい意見は他のバーボンと較べてのことであり、例えば山崎12年と較べるなら私にとってはアーリータイムズ・ゴールドの方が遥かに飲み易いのです。つまり「山崎が買えないならアーリータイムズ・ゴールドを買えばいいじゃない」と思う程には、数あるウィスキー全体の中に於いてこのゴールドは正に光輝いています。それだけは念頭に置いてこのブログを読んで頂けると幸いです。

追記:事情通の方より製造に関して追加情報を頂けたのでコメント欄をご確認ください。

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ヴェリー・オールド・バートンは、バーボン生産の中心地バーズタウンで1879年の創業以来、最も長く操業を続けているバートン1792蒸溜所で造られています。そのヴァリエーションは80プルーフ、86プルーフ、90プルーフ、100プルーフと豊富ながら、全国展開のブランドではありません。そのせいなのか、日本での流通量が多くないのが残念なところ。ヴェリー・オールド・バートンは、嘗てはケンタッキー州と近隣の幾つかの州(KY、IN、OH、IL、WI、MI、TN)でのみ販売され、ジムビームやジャックダニエルズと真っ向から競合し、価格競争力に優れたバーボンとしてケンタッキー州では常に高い評判を得ていました。現在では主に中西部、東部、中南部の23の州で販売されているらしいです。
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奇妙なことに、現在バートン1792蒸溜所を所有するサゼラック・カンパニーの公式ウェブサイトの「OUR BRANDS」の欄にヴェリー・オールド・バートンは何故か載っておらず、不当な扱いを受けているようにも見えます。 同蒸溜所の主力製品は今は「1792スモール・バッチ」となっていますが、当初はヴェリー・オールド・バートンが主要なプレミアム・ブランドでした。昔の8年熟成のヴェリー・オールド・バートンは70〜80年代に掛けて最も高く評価されたケンタッキー・ストレート・バーボンの一つとされています。2000年頃までは基本的に8年熟成の製品だったようですが、その後、バーボンの売上増加と蒸溜所の所有者変更により、熟成年数は6年に引き下げられ、更にその後NASになりました。ところで、我々のような現代の消費者の感覚からすると、ヴェリー・オールド・バートンはその名前に反して、それほど長熟ではありませんよね。「ヴェリー・オールド」と聞くと、20年熟成とかを思い浮かべそうですし、そこまでではないにしろ少なくとも12年以上は熟成してそうなイメージがします。しかし、昔はそうではありませんでした。蒸溜所が連邦物品税を支払う前にウィスキーを熟成できる期間(保税期間)は1958年まで8年間だったため、当時は8年物で「ヴェリー・オールド」と呼ばれることが多く、このブランドがそれほど長熟でもないのにそう名前にあるのはその名残です。

ヴェリー・オールド・バートンは通常20ドル未満、プルーフが低い物はそれよりも更に安い価格で販売されています。それ故、20ドル以下のバーボン・ベスト10のようなオススメ記事によく顔を出していました。取り分け人気があったのは部分的に白色が使われたラベルの6年物のボトルド・イン・ボンドで、高品質でありながら手頃な価格は、長きに渡りコストパフォーマンスに優れたバーボンとして愛されて来ました。しかし、上でも述べたように以前はボトルに熟成年数を示す「6 years old」の記載がありましたが、2013年末頃?、サゼラックはネック・ラベルにあった「6 years old」から「years」と「old」を削除し、数字の「6」だけを残しました。サゼラックはバッファロー・トレース蒸溜所が製造するオールド・チャーターのラベルでも、同じように以前はあった8年熟成表記を単なる「8」という数字のみにしたりしました。熟成バレルの在庫が逼迫したことで、ラベルからエイジ・ステイトメントを削除するのは理解できます。しかし、熟成年数を変更したにも拘らず、恰もその年数を示すかのような数字をラベルに残した行為は、多くのバーボン愛好家が納得しないものでした。彼らからは、卑劣で陰険で極悪非道、間違いなく恥ずべきことだと謗られたり、不誠実でくだらないマーケティングと断罪されたり、または天才的なマーケティング手腕だと皮肉られる始末でした。暫くの間ラベルは「6」のままでしたが、軈て消えます。同社はVOBのラベルが「6」に切り替わった時点では平均してまだ6年熟成と主張していました。切り替え当初はそうだったのかも知れませんが、おそらく直に熟成年数は4〜6年のブレンドに移行したと思われます。それから数年後、ラベルから「Bottled in Bond」の表記がなくなり、代わりに「Crafted」と書かれるようになりました。巷の噂では、2018年の6月に1940年代に建てられたバートンの倉庫#30が崩壊したため異なる蒸溜シーズンのヴェリー・オールド・バートンを混ぜることを余儀なくされた、と言われています。
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偖て、今回飲むのは6年熟成でもなく、ボトルド・イン・ボンドでもない100プルーフのヴェリー・オールド・バートンです。私が気に入っていたバートン原酒を使ったコストコのカークランド・シグネチャーが、どうやら一回限りのコラボだったようで定番化されず、そのせいで常備酒とは出来ませんでした。そこで代替品となるのは、似たスペックをもつこのVOBしかありません。同じバートン産でありながら、二つのブランドにどれほどの違いがあるのかも興味深く、購入してみた次第。さっそく注いでみましょう。ちなみにVOBのマッシュビルについては75%コーン、15%ライ、10%モルテッドバーリーとされています。

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Very Old Barton 100 Proof
推定23年ボトリング(瓶底)。オレンジがかったブラウン。薄いキャラメル、若いプラム、トーストした木材、ピーカンナッツ、微かなカレーのスパイス、アニス、汗→整髪料。芳しい樽香に僅かにフローラルの混じった接着剤様のアロマ。口当たりはほんの少しとろっとしている。味わいはバートンらしいストーンフルーツが感じられるがやや弱い。余韻は短めながら香ばしい穀物とココナッツが漂う。
Rating:81/100

Thought:グレインとナッツ類に振れた香味バランスのバーボンという印象。軽いヴァニラ系統の甘み、ウッディなスパイス感、穀物の旨味、適度なパンチは飲み応え十分です。総合的に、驚くほど美味しくはないものの悪くはありません。しかし、正直言うと100プルーフに期待されるリッチなフレイヴァーは欠けているように感じました。バートン原酒を使用したコストコのカークランド・シグネチャーと較べると、特にフルーツ・フレイヴァーが弱く、自分の好みとしてはプルーフの低いスモールバッチよりもこちらは劣っています。KLSmBは開封から半年以上経った時に風味が物凄く伸びたので、このVOBも開封してから少しづつ飲んでスピリッツが開くのを待っていたのですが、半年経っても殆ど変化が見られませんでした。私はKLSmBの「スモールバッチ」はただのマーケティング用語ではないかと疑っていたのですが、これだけ差があるのなら本当に厳選されたバレル・セレクトがなされていたのかもと思い直したほどです。もしくは、コストコはカスタム・オーダーでマッシュビルのライ麦比率をやや増やして違いを作り出していたのかも知れない。VOBはライが15%とされている一方、バートン版カークランドはライが18%と推定されていることが多いので。飲んだことのある皆さんはどう思われましたか? コメントよりご意見ご感想どしどしお寄せ下さい。

Value:アメリカでの価格は地域によって大きく異なるようですが、基本的にヴェリー・オールド・バートンはアンダー20ドルの世界の戦士です。今の日本では3000円台後半〜4000円近い価格となっており、私も昔の感覚からすると高いなと思いつつもその金額で買いました。そもそも特別な日のためのバーボンではないのは言うまでもありませんが、日本で購入すると安価なデイリー・バーボンとも言い難い価格になるのが痛いところです。勿論、私とて物事が昔と同じようには行かないことは理解しています。最近では1792スモールバッチが4000円から6000円近い価格となっていることを考えると、適正な価格なのかも知れません。しかし、ここ日本で3500〜4000円となると、それより安い価格でメーカーズマークもワイルドターキーも買えてしまいます。個人的にはそれらの方がこのVOB100プルーフより上質なバーボンと感じます。もしこれがアメリカの小売価格に準じた2500円くらいならアリなのですが…。返す返すもコストコのバートン原酒を使用したカークランド・シグネチャーが買えなくなったのは残念です。

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今回はコストコのオリジナル・ブランド、カークランド・シグネチャーのバートン1792蒸溜所産のバーボンを使用したスモールバッチです。コストコとバートンのコラボにはスモールバッチ、ボトルド・イン・ボンド、シングルバレルと3種類あり、そのうち最も安価なのがこちらとなっています。byバートン1792マスター・ディスティラーズと銘打たれたこのシリーズの紹介は、以前投稿したボトルド・イン・ボンドの時にしているので、そちらを参照ください。また、当ブログにコメントをしてくれた方がそれら三つを飲み比べる記事を書かれていますので、これまた参考にしてみて下さい。格上と想定されるボトルド・イン・ボンドを既に飲んでいたので、こちらのスモールバッチは別に飲まなくてもいいかなと思っていたのですが、どの程度の違いがあるのか気になったこともあり買ってみました。では、さっそく注ぎましょう。

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KIRKLAND SIGNATURE SMALL BATCH by BARTON 1792 MASTER DISTILLERS 92 Proof
Batch No. 1124
推定2021年ボトリング。ややオレンジがかった薄いブラウン。トーストした木、フルーツキャンディ、穀物、薄っすらキャラメル、ペッパー、梅干、雑穀米、アプリコット、シナモン。アロマはフルーティだが木の酸も。口当りはとろっとしつつサラッともしている。パレートは木材と僅かにアプリコットジャム、アルコールの辛味。液体を飲み込んだ直後はけっこう刺激的。余韻はドライ気味ながらリッチな穀物感も幽かに垣間見える。
Rating:81.5→84.5/100

Thought:開封直後はどうにもピンと来なかったのですが、開封から暫くすると香りにフルーティさが増して美味しくなりました。それから半年以上経つと、更に甘い香りとフルーツが濃厚になりました。これがレーティングの矢印の理由です。但し、相変わらず全体的にドライなテイストは持続しました。トースティなウッドとグレインがメインなフレイヴァーで、そこにフルーツとスパイスが乗っかる感じでしょうか。甘みはもうちょっと欲しいとは思いましたが、基本的には自分好みのバーボンだし、お値段を考えれば何の文句もありません。
先日まで開封していたボトルド・イン・ボンドとサイド・バイ・サイドで較べてみると、ベースとなる香味やフレイヴァー・プロファイルの傾向は明らかに似ていますが、BiBの方が口に含んだ瞬間から円やかな口当たりを持っていて、SmBは単体で飲んでる時には気づかなかった荒々しさが目立ってしまいました。これらは共にNASなので憶測でしかないですが、仮にSmBが最低4年熟成なのだとしたら、BiBは5〜6年熟成と思えるテクスチャーに感じます。逆にバッチングに使用されたバレルの平均熟成年数がほぼ同じなのであれば、アルコール度数にして4度の違いが生み出す効果が著しいと言わざるを得ません。当然ながらBiBの方がフレイヴァーの強度も高いですしね。もしくは、そもそもBiBの方が質の高いバレルが選ばれているのかも知れません。そうなると、スモールバッチはただのマーケティング・タームに過ぎない、と皮肉られる典型的な例のようで嫌ですが…。
バートン産のエントリー・クラスのストレート・バーボンで、今の日本で最も入手し易いザッカリアハリスと比べると、こちらはかなり美味しくなっています。焦がした樽の風味はより香ばしく、味わいはよりフルーティさが出てるのです。しかし、何というかバートン特有のアセトン感?も強まっているので、そこらへんは好みが分かれるところかも。もしかするとザッカリアハリスの方が甘く感じる人もいる?

Value:地域によって変動があるようですが、アメリカでは19ドル程度の場所が多いようです。日本では2500円くらいでしょうか。1リットル瓶ということもあり、かなりコスパはいいのでオススメです。とは言え、個人的にはもう少しお金を出してボトルド・イン・ボンドを購入することを選ぶでしょう。と言うか、それ以前に、これって今でもコストコ店舗で売ってるんですかね? 私はコストコ会員ではないので、よく分かりません。コストコの公式ネット通販サイトだと売り切れています。コストコ会員かつバーボン好きの方は是非コメントから情報いただけると嬉しいです。

2022-11-17-17-55-09-734

2020年6月、アーリータイムズを長年所有していたブラウン=フォーマン社はブランドと在庫をサゼラック社に売却すると発表しました。このニュースは日本のアメリカン・ウィスキー愛好家の間でも驚きをもって迎えられました。日本に於いてアーリータイムズは、ジムビームやI.W.ハーパー、フォアローゼズやワイルドターキーと並ぶバーボンの超々有名銘柄であり、ブラウン=フォーマン時代のイエロー及びブラウンのラベルは確実に日本に根付いていたからです。この売却により、先ずは2021年5月末で日本限定の製品であったブラウンラベルが終売となり、ファンからは悲しみの声が上がりました。同年4月にはサゼラックから今後アーリータイムズは傘下のバートン1792蒸溜所にて消費者が愛好していたのと同じオリジナルのレシピとマッシュビルを使用して製造すると発表されていました。2021年の末頃になると、ラベルのデザインはほぼ同じながら従来のボトルと少しだけ形状が異なりキャップが金属製のサゼラックが詰めた新しいボトルが市場に出たようです。私はその新しいボトルを直接見たことがないのですが、当ブログへのコメントで知り、またYouTubeで投稿されているのも見かけました。なんでもイエローラベルが澱のせいで全回収されたという情報もネット上で見かけ、そのせいなのか分かりませんが、確かにサゼラック版のイエローラベルは市場にそれほど出回ってない印象があります。だから私が実物を見たことがないのかも知れません。日本での販売元だったアサヒビールは2021年12月8日に、イエローラベルの全4規格のボトル(1750ml、1000ml、700ml、200ml)は商品供給が追い付かないため一時休売とし、再発売の日程に関しては現時点で未定、決まり次第、当社ホームページにてお知らせします、と既にアナウンスしていた模様。2022年2月頃になるとソーシャル・メディアでイエローラベルが自宅の近くの酒屋にないと報告されていました。実際、私も同じ頃、遠方の友人から「自分の住んでる地域だと長年愛飲してるイエローラベルが入荷しないみたいで今エヴァンウィリアムスのブラック飲んでるんですけど何か他にオススメのバーボンありませんか?」とLINEで直接相談されました。もともとタマ数の多かったイエローラベルは、あるところにはあり、ないところにはたまたまない、といった状況だったのでしょう(これは今現在でもそうかも知れません)。戦争やコロナの影響もあって輸入が滞っているのだろうと思っていたら、数カ月後の6月22日、アサヒビールは公式にアーリータイムズの取り扱いが終了したことを発表します。えっ!?と驚いたのも束の間、翌23日には明治屋がサゼラック・カンパニーと日本市場に於けるアーリータイムズやバッファロートレース等の総代理店契約締結に向け合意に至り、上記ブランドを含む7ブランドの取り扱いを開始すると発表しました。へー、正規代理店が変わるのか、まあバートン産のアーリータイムズが安定して輸入されるならオッケーだよね、と思いつつ待つこと更に数カ月。明治屋は9月14日に、アーリータイムズ・ホワイトというアメリカン・ブレンデッド・ウィスキーを9月20日から順次全国の小売店へ出荷開始し、世界に先駆けて日本で先行発売するとのプレス・リリースを出しました。は?、ブレンデッド・ウィスキー!? よく知られるようにアメリカ国内流通のアーリータイムズのエントリー・クラスは、ウィスキーの一部を中古樽で熟成させているためバーボンを名乗れない「ケンタッキー・ウィスキー」です。それですらストレート・バーボンのアーリータイムズを飲み慣れた我々日本人にはおそらく不満足だろうと思われるのに、更にスペック的に劣るブレンデッド・ウィスキーになるだと? ウソ、やだ、もう何も信じられないわ!と驚いたのは私だけではなく、日本全土のバーボン好きがそうだったのではないでしょうか?

アメリカで「Blended whiskey」または「Whiskey a blend」と呼ばれるのは、少なくとも20%のストレート・ウィスキーを含み、残りはウィスキーまたはニュートラル・スピリッツで構成された製品のことです。その「残り」の部分(概ね75〜80%)には、ごく一部のケースではハイプルーフのライト・ウィスキーである場合もありますが、一般的にはグレイン・ニュートラル・スピリッツ(GNS)が使われることが殆ど。GNSはざっくり言うとウォッカのようなものです。そしてブレンデッド・ウィスキーは無害な着色料、香味料、またはブレンド材料を含むことが出来ます。
アメリカに於けるブレンデッド・ウィスキーの歴史はレクティファイアーが築きました。その起源はカラム・スティルの発明によってニュートラル・スピリッツの生産が可能になった19世紀初頭に遡ります。当時ウィスキーの品質は、蒸溜所間だけでなく、一つの蒸溜所内でもその操業毎に大きく異なっていました。品質は蒸溜所の職人のスキル、天候、その他多くの要因に左右され、おそらく最も重要なのは運だったとすら言われています。一貫性と品質の問題は、ジェイムズ・クロウ博士がサワーマッシュ・プロセスを標準化した後でも、まだ解決されずに残っていました。当時、蒸溜所で蒸溜されたウィスキーは直接消費者に届けられることはなく、先ずは流通業者に販売されました。彼らは自分達が購入した少し良いウィスキーとちょっと悪いウィスキーの品質を均一にするためにレクティファイアーになりました。「レクティファイ」は「修正する」という意味です。彼らには不出来な造りのウィスキーをレクティファイすることを通して市場価値のあるものに変化させる意図がありました。レクティファイアーの多くは1種か2種またはそれ以上のウィスキーを混合して自ら望むフレイヴァー・プロファイルを作成する一方で、出来の良くないウィスキーは再蒸溜してニュートラル・スピリッツに調整し、その後、熟成された良質のウィスキーと様々な割合で混ぜ、そこにカラメルや砂糖、シェリーやプルーンジュース等の雑多なフレイヴァーを加え、木炭または骨粉でフィルタリングを施したりして独自のブレンデッド・ブランドをクリエイトしました。これが今ブレンデッド・ウィスキーと呼ばれるもののルーツです。彼らの加えた着色料や香料の一部には身体に有害で危険なものも使用されていました。また、嘘の熟成年数の主張を含む汎ゆる種類の虚偽の主張を製品に対して行っていました。この慣習は今日のようなラベルには真実を記載しなければならないという法律がなかったため違法ではなかったのです。これらの問題が1897年のボトルド・イン・ボンド・アクトと1906年のピュア・フード・アンド・ドラッグ・アクト、そしてストレート・ウィスキーやブレンデッド・ウィスキーを規定する1909年のタフト・デシジョンへと繋がって行ったのは歴史の知るところでしょう。
後のブレンデッド・ウィスキーであるレクティファイド・ウィスキーの風味は一般にストレート・ウィスキーよりも軽くてキツくなく、上質なストレート・ウィスキーを除いてバッチ毎の一貫性が高いのも特徴で、何より典型的なブレンドには熟成ウィスキーが殆ど含まれていないか使用率が僅かだったためストレート・ウィスキーに較べ遥かに安価でした。1831年以前には殆ど知られていなかったレクティファイド・ウィスキーはカラム・スティルが業界に導入されると徐々に増え始め、アメリカでの内戦後の1870年代にウィスキー業界が飛躍的に成長するとレクティファイアーも同じく成長し、その人気は着実に高まりました。禁酒法前の数十年間、アメリカで消費される全てのスピリッツの75〜90%がレクティファイド・ウィスキーだったと言います。禁酒法と第二次世界大戦の直後には、ブレンデッド・ウィスキーは人気がありました。どちらの場合もストレート規格の熟成したウィスキーが不足し、限られた供給量を確保する方法としてブレンデッド・ウィスキーの販売促進に努めたので売り上げが大幅に伸びたのです。しかし、この売れ行きは長くは続きませんでした。ストレート・ウィスキーが利用可能になると、販売比率はそちらに有利にシフトしましたし、更に後にはバーボンやライのストレート・ウィスキーを愛飲する消費者からはブレンデッドは淡泊過ぎて詰まらないと思われ、逆に軽めのスピリッツを好む消費者は中途半端なブレンデッドよりはウォッカに移行したのです。古典的なブレンデッド・ウィスキー全般のここ数十年に渡る売上は減少傾向にあります。しかし、シーグラムズ・セヴンクラウンなどはベスト・セリングのブランドであり続けています。殆どのブレンデッドは非常に安価で酒屋の棚の最下段を飾りますが、優秀なものには数十種類のストレート・ウィスキーが使用され一貫した風味が保証されており悪い商品ではありません。そして近年では、現在のウィスキー・ブームの恩恵を受け、GNSを含まない新しいブレンデッド・ウィスキーをクリエイトする動きがあり、今後は注目に値するカテゴリーとなっています。

偖て、そろそろアーリータイムズ・ホワイトとはどんなものか見て行きましょう。明治屋のプレスリリースを引用します。
近年、健康意識の高まりに後押しされたハイボールの定着、家飲みでの需要増加により世帯毎のウイスキー消費支出は上昇傾向にあります。
 
日本だけでなく世界的に見ても、ウイスキーやその原料となるモルトまでもが不足するなど注目を集め続けるウイスキー市場に、「アーリー・タイムズ」が新たな歴史を刻みます。
 
【商品特徴】
 
1.際立つ “なめらかさ”
最大の特徴は、その“なめらか”な味わいです。レモンピールが爽やかに香るトップノーズ。柑橘系の花から集めたハチミツのような潤いのある旨味。穏やかで角のない魅力的な余韻が長く続きます。ソーダで割ってハイボールにした時でも繊細なバランスは崩れることなく、お食事と共に日々楽しむウイスキーとしておすすめです。
 
2.規定の枠にとらわれない新たなチャレンジ
飲みやすさ、親しみやすさの追求によるアルコール類の淡麗辛口化傾向は、ビールや日本酒等でも見受けられますが、ついにウイスキーにもその流れがやってきます。「アーリー・タイムズ」は親しみやすい味わいをもつウイスキーとして“なめらかさ”の追求にチャレンジし、これまでの枠を超えた「アメリカン・ブレンデッド・ウイスキー」として『ホワイト』をリリースします。

更には、おそらくサゼラックから何らかの資料を受け取って書かれているのでしょうが、バートン1792蒸溜所のマスター・ディスティラーであるダニー・カーンに「今までウイスキーを飲まれなかったお客様や新たなウイスキーを求めるお客様にもきっと満足頂ける味わいです」とか、サゼラックのマスター・ブレンダーであるドリュー・メイヴィルに「各ウイスキーの特徴を見極め、“驚くほどなめらかな味わい”に向かい綿密に調和させていきました」と両者の顔写真付きでコメントを紹介しています。おまけにカーンからのメッセージ動画までありました。


少々誇大宣伝が過ぎるような気もしますし、具体的な中身(ブレンドの構成)について一言もないのも仕方のないところでしょうか。中身に関しては、希望小売価格が1500円程度、実売価格が1250円前後と考えると、GNSが大部分を占めると予想されます。アメリカ流通のラベルだと、ニュートラル・スピリッツの割合を記載しなければならない筈なのですが、国外向けだからなのか記載はありませんでした。ラベルのデザインは、まだブラウン=フォーマンが所有していた時代に導入された青いラベルのアーリータイムズ・ボトルド・イン・ボンド(後述)に準じていますね。このホワイト・ラベルは日本を皮切りに2023年以降、順次世界各国でも発売される予定だそうです。
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(Early Times Bottled-in-Bond)

私は明治屋のアーリータイムズのニュースを聞いて、イエローラベルがなくなり、それに代わって新しいホワイトラベルが発売されるのだと思い込んでしまいました。ネット上でもバーボンをブレンデッドにするなんて改悪だという趣旨の発言を見かけましたので、私と同様に皆もそう思ったようです。しかし、ここにはイエローラベルの“代わりに”ホワイトラベルを発売するとは一言も書いてありません。飽くまで新しい物を発売するとだけ巧妙に言っています。同じように、イエローがホワイトに“変わった”のでもなく、バーボンではない別の物がリリースされただけなのです。ネット上では他にもアーリータイムズを名乗るべきではないという趣旨の発言も見かけました。しかし、それを言うならエズラブルックスにも白ラベルのブランデッドがあるので、それに対してエズラを名乗るなと言わなければならないでしょう。ここで問題になっているのは、ブレンデッドがあることではなく、エントリー・クラスの4年熟成程度で80プルーフの買い求め易い価格のバーボンがないことの方なのです。よくよく考えてみると、ブラウン=フォーマンがブランドを売却したのが2020年、バートンが蒸溜すると発表されたのが2021年、ということは従来のアーリータイムズのような4年熟成程度の物を販売できるようになるのは早くて2025年です。その時になってみないと「エントリー・クラスの4年熟成程度で80プルーフの買い求め易い価格のバーボン」がブレンデッドに取って代わってしまったのかどうかの答えは出ません。熟成ウィスキーは商品化に時間の掛るものなのです。その時になってなお、そういうバーボンが発売されず、或いは発売されても日本に大量輸入されないなら、日本人にとっての「我らのアーリータイムズ」が本当になくなったことになります。少し、私の希望的観測を述べましょう。

このアーリータイムズ・ホワイトラベル・アメリカン・ブレンデッド・ウィスキーが発売されたのが2022年です。ブレンデッドは少なくとも20%のストレート・ウィスキーを含む必要があります。ストレート規格というのは最低2年熟成の物を言います。バートンがアーリータイムズの蒸溜を始めたのがサゼラックの買収完了時の2020年夏からだとしたら、現在の2022年秋は最も早い段階でブレンドにバートン原酒の2年熟成バーボンを入れることが出来ます。もしバートンの蒸溜開始が2021年からだとしたら、ホワイトにブレンドされた原酒はブラウン=フォーマンが蒸溜した最後期の原酒になるでしょう。どちらにせよ、2022年の段階で新しいアーリータイムズをリリースするのは、かなり急いでいるということです。だから、もしかするとサゼラックは日本の消費者を切り捨てたのではなく、寧ろ大事に思って早々にアーリータイムズを復活させたのではないか、今できる最大限の努力の結果がブレンデッドだったのではないか、と。勿論、それがビジネスの観点からの判断だったとしてもです。そして、アメリカ国内流通のアーリータイムズにはボトムシェルファーのケンタッキー・ウィスキーの他にもう一つ、先に述べたボトルド・イン・ボンドがあります。それは2017年に発売された当初、限定生産の予定でしたが、手頃な価格(1リットル25ドル)でクラシック・バーボンの風味を味わえると評判となってすぐにヒットし、レギュラーでリリースされる人気商品となりました。サゼラックも買収後にこれを継続して販売したので、バーボン系ウェブサイトやYouTubeでは二つのボトルを比較する企画が見られたりします(現段階ではサゼラック版もブラウン=フォーマン原酒でしょう)。明治屋からアーリータイムズ復活の報があった時、これが輸入されるかと思ったとネット上で語っている人もいました。どうでしょう、ボトルド・イン・ボンド(新樽で最低4年熟成)、ケンタッキー・ウィスキー(中古樽で3年熟成)、ブレンデッド(推定大部分がGNS)と並べてみて、あまりにブランドとして弱くないですか? ブラウン=フォーマンが長年保持したブランドを売却したのは、バーボンに関してはプレミアム路線(オールド・フォレスターやウッドフォード・リザーヴを指す)に一本化するためと発表していました。これはアーリータイムズをプレミアム化することを諦めた、もっと言うと商売にならないブランドだから売ったのではないでしょうか? 企業が儲かるブランドをわざわざ売るとは思えません。逆にサゼラックはアーリータイムズを売れるブランドに出来る自信があったから購入した筈です。なのにこのラインナップは、ボトルド・イン・ボンドとその他の製品間にスペックの差があり過ぎて、市場のニーズに隙間が空いています。例えば、4年熟成80プルーフ、6年熟成90プルーフ等があった方がいいじゃないですか。それに、あの象徴的なイエローラベルをブランディングに用いないなんてどうかしてる。或るブランドにヴァリエーションがある場合、通常は同デザインで色違いのラベルを採用してグレードの差を明示したりします。白いラベルは、先に例に出したエズラブルックスのブレンデッドと同じ色なのからも判るように、バーボンよりもクリアなイメージのブレンデッドに相応しいでしょう。もし、このアーリータイムズ・アメリカン・ブレンデッド・ウィスキーが黄色のラベルで発売されていたとしたら、おそらく「我らのアーリータイムズ」は完全に終わりでした。あゝ、イエローラベルはもう“変わって”しまったんだな、と諦めるしかなかった。しかし、そうはなりませんでした。今回はホワイトという単にグレードの劣るヴァリエーションが増えただけの話。おかげでイエロー復活の余地は残った。もしやイエローは後々のために取って置かれたのではないか? だとしたら、ワンチャン、2025年あたりにイエローラベルの4年熟成のストレート・バーボンがリリースされるなんてこともあるのでは…と私は思っているのです。但し、サゼラックは他社から購入したブランドを上手くプレミアム化するのが得意な反面、何故かバートン蒸溜所の代表銘柄であるヴェリー・オールド・バートンのような伝統的なブランドをぞんざいに扱かっている実績があります。また、もう一つ気になる情報がありまして…。
アメリカのアルコール飲料のラベルは、承認のため財務省のアルコール・タックス・アンド・トレード・ビューロー(TTB)に生産者がラベルの図案および製品の必要な情報を提出しなければなりません。TTBはそれをチェックして承認または却下の判断をし、承認されるとTTBのウェブサイトに掲載されます。これがCOLA(Certificate of Label Approvalの略)と呼ばれるプロセスです。ラベルの承認は必ずしも製品の発売が差し迫っていることや確実にリリースされることを意味する訳ではありませんが、COLAトローラー(TTBのウェブサイトを検索して新製品を探す愛好家のこと)によって逸早く新製品の情報が得れたりするので面白いのです。で、アーリータイムズに関して、2021年の4月1日に新しいラベルが承認され、それは42プルーフだったと言います。はい、アルコール度数42%の間違いではなく、42プルーフのダリューテッド・ウィスキーです。ブレンデッドどころの騒ぎではないですよ? これが本当に販売されるのか、それともこれの代わりにアメリカン・ブレンデッドに変更したということなのか、今のところ判りません。どちらにせよ、昨今のバーボン・ブームにより愛飲家がハイアー・プルーフ及びバレル・プルーフのバーボンを求める世界で、どうしてサゼラック社はこれほど劇的な逆を行くのでしょうか? このダリューテッド・ウィスキーについては、もしかするとオフ・プロファイルのウィスキーを処分するための方法かも知れない、という憶測がありました。つまり、購入したバレルの一部が気に入らないけれど、二次熟成でフィニッシングしたりするよりも水で薄めたほうが簡単でコストも掛からないから、おそらくサゼラックはそれを上手く利用してバーボンへの入り口となるようなロウワー・スピリッツを提供しようとしているのではないだろうか、という訳です。これはエイプリルフールのネタ(4月1日という日付に注目)だろうとも見られますが、そもそもサゼラックが伝統的な銘柄を蔑ろにしていることを揶揄する心がなければ出てこないネタだと思います。それに上の憶測は図らずもブレンデッドの製造理由の説明になってしまっている気もします。と、まあそんなこんなでサゼラックにはアーリータイムズ・イエローラベルの復活など期待できない可能性も大きいので「希望的観測」と言いました。私や日本のアーリータイムズ・ファンの願いが叶うかどうかは、数年待ってみないとはっきりしません。成り行きを見守りましょう。では、そろそろ新しいアーリータイムズ・ホワイトを注ぐ時間です。

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EARLY TIMES WHITE LABEL American Blended Whiskey 80 Proof
推定2022年ボトリング。薄いブラウン。カラメル、ビール、蜂蜜、ピーナッツ、みかん。どこかしら人工的にも感じさせるカラメル香と甘い湿布薬のような清涼感。口当たりはけっこう円やかで、するりとした喉越し。味わいはグレインスピリッツの甘みが強いが、心地良いかと言えばそうでもない。余韻はショートでさっぱり切れ上がり、ほんのり焦樽らしい風味がする。
Rating:71(72)/100

Thought:多分、バーボンをGNSで薄めたものですかね。香りから余韻まで全てにニュートラル・スピリッツ感があります。バートンのGNSのみを飲んだことがないので、フレイヴァー剤が添加されてるかどうかまではよく分かりませんでした。確かに滑らかさは未熟成のスピリッツ、例えばジョージア・ムーンとかよりは遥かにありますし、ブラウンな風味もあるので意外と飲み易いです。滑らかにするためのブレンド剤が使われてるのでしょうか? 開けたてはフレイヴァーが脆弱と言うか未熟成なスピリッツの香りが強い印象をもちましたが、空気に触れさせておくと、一瞬プルーンのような香りも感じる時があり、それなりに飲めます。ただ、ニートで食後のシッピング・ウィスキーとしてよく味わって飲むものではないですね。レーティングの括弧はラッパ飲みした時の点数です。テイスティング・グラスやショットグラスで飲むより味が濃く感じました。YouTube等でイエローとホワイトの飲み比べがされていたりしますが、流石にバーボンとブレンデッドを較べるのは無理があります。カテゴリーの違いから勝負になってないという意味で。これはこれ、あれはあれ、と分けて考えた方が良いでしょう。

Value:バートン蒸溜所のストレート規格のバーボンであるケンタッキー・タヴァーンやケンタッキー・ジェントルマンやザッカリア・ハリスがこれ以下、又はほぼ同じ価格で買える現状を考慮すると、個人的には購入する価値はないと思いました(※追記あり)。もし、昨今の物価上昇で上記のバーボンが2000円程度、ブレンデッドが1000円程度という状況になるのであれば、少しでもバーボンぽいものを安く飲みたい人にはオススメ出来ます。


追記:しばらく輸入が滞っていたザッカリア・ハリスは、2023年2月下旬、イオンが大々的に取り扱いを開始すると発表されました。以前にイオン系列のスーパーで見かけた時は999円だったのですが、今回からは1500円程度に値上がりしていました。

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カークランド・シグネチャーは、1983年に創業した会員制ウェアハウス型店舗コストコのプライヴェート・ブランドです。お酒に限らず食物から日用品まであり、高品質かつ低価格が自慢。その名称はワシントン州カークランドから由来しています。コストコの創業者ジム・シネガルは自社ブランドを立ち上げる際、創業の地であり拠点としていたワシントン州シアトルへの感謝の気持ちを込めて「Seattle's Signature」と名付けることを希望していましたが、法的に承認されなかったため、1987年から1996年までの約9年間に渡って本社があったカークランドをブランド名として採用したのだそう。ブランドのスタートは1995年から。
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コストコはアルコール飲料の世界最大の小売業者の 一つと目され、2020年には約55億ドルのアルコール飲料を販売しました。その売上高の40〜50%をワインが占め、残りがスピリッツとビールでほぼ均等に分けられる内訳のようです。自社ブランドのカークランド・シグネチャーは、2003年に最初にワインから始まり、2007年にスピリッツへと拡大したという情報がありました。平均してコストコには約150種類のワインがあり、そのうち30種類がカークランド・シグネチャー・ブランドとされ、スピリッツのセレクションは年間を通じて大きく変動する傾向があるものの平均して約50種類あり、そのうち約20種類が同ブランドとされます。ウィスキーはスピリッツの一部門なのでその数はワインには遥かに及ばないとは言え、識者からはコストコは北米最大のウィスキー小売業者である可能性が高いとの指摘もありました。現在、カークランド・シグネチャーのブランドでスコッチ、アイリッシュ、カナディアン、バーボンなど様々なウィスキーがあります。コストコのオリジナルのバーボンでは、今回紹介するバートンに至る以前に「プレミアム・スモールバッチ・バーボン」というのがありました。それらは生産者名を明確に開示してはいませんでしたが、ラベルにはケンタッキーやテネシーと記載があり、ほぼ間違いなくジム・ビームやジョージ・ディッケルから供給された原酒であろうと見られています。
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そして来たる2021年、コストコは再びバーボンの調達先を変更し、バーボンのメッカであるケンタッキー州バーズタウンで「最も古いフル稼働している蒸溜所」として宣伝され、現在サゼラック社が所有するバートン1792蒸溜所と提携、バートン・マスター・ディスティラーズの名の下にそれぞれが異なるプルーフでボトリングされるスモールバッチ、ボトルド・イン・ボンド、シングルバレルと三つのヴァージョンを発売しました(全て1L規格のボトル)。ラベルには蒸溜所やウェアハウスが描かれ、そのパッケージングはかなりカッコいいですね。これらのボトルはアメリカでは2021年半ばからリリースされましたが、日本のコストコには2022年になって入って来たようです。シングルバレルは、一つの樽からのバッチングのためボトリング本数が少ないせいか、日本には入って来ていないと云う情報もありました。本当かどうか私には判りません。皆さんのお住まいの地域のコストコではどうなのでしょう? 見たことがある/ないの情報を是非コメントよりお知らせ下さい(この件に関してコメント頂けました。日本にも入って来てました。詳しくはコメント欄を参照下さい)。
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(コストコより)

偖て、今回はそんなコストコとバートンのコラボレーションによるカークランド・シグネチャーの中から「ボトルド・イン・ボンド」を取り上げます。ボトルド・イン・ボンド(またはボンデッド)は、そもそも蒸溜所と連邦政府がスピリッツの信頼性と純度を保証するために使用したラベル。1897年に制定されたボトルド・イン・ボンド・アクトは、主に商標と税収に関わる法律で、単一の蒸溜所にて、単一の年、単一のシーズンに蒸溜され、政府管理下のボンデッド・ウェアハウスで最低4年以上熟成し、100プルーフでボトリングされたスピリットのみ、そう称することが許される法律でした。ラベルには蒸溜所の連邦許可番号(DSPナンバー)の記載が義務づけられ、ボトリング施設も記載しなければなりません。上の条件を満たした物は緑の証紙で封がされ、謂わばその証紙が消費者にとって品質の目印となりました。紛い物やラベルの虚偽表示が横行していた時代に、ラベルには真実を書かねばならないというアメリカ初の消費者保護法に当たり、結果的にスピリットの品質を政府が保証してしまう画期的な法案だったのです。現在では廃止された法律ですが、バーボン業界では商売上の慣習と品質基準のイメージを活かし、一部の製品がその名を冠して販売されています。
カークランド・シグネチャーのバートン・バーボンのマッシュビルは非公開ですが、おそらくはコーン74%、ライ18%、モルテッドバーリー8%であろうと推測されています。その他のスペックは「Bottled-In-Bond」を名乗りますので、BIBアクトに大筋で従っているでしょう。同じ季節に蒸溜され、少なくとも4年以上の熟成を経て、100プルーフでのボトリングです。海外の或るバーボン愛好家の方は、三つのエクスプレッションは全て一貫したバートン1792のDNAを示すが、バートンの通常のボトリングとは微妙な違いがあるようだ、と言っていました。日本で比較的買い易いバートンのバーボンと言うと、安価なケンタッキー・ジェントルマンやケンタッキー・タヴァーンやザッカリア・ハリス、もう少し高価なプレミアム・ラインの1792スモールバッチが挙げられます。それらと比べてコストコのバートン原酒バーボンがどう異なるのか気になりますね。ちなみに、私はコストコ会員ではないので、今回のレヴューするボトルは友人に頼んで買ってもらいました。ありがとう、Aさん! では、そろそろバーボンを注ぐ時間です。

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KIRKLAND SIGNATURE BOTTLED-IN-BOND (BARTON 1792) 100 Proof
推定2021年ボトリング。ややオレンジがかったブラウン。香ばしい穀物、花火、ヴァニラ、ドライアプリコット、苺ジャム、フルーツキャンディ、シリアル、胡桃、ちょっと塩、一瞬チョコレート。あまり甘く感じないアロマでフルーティ。ややオイリーな口当たり。パレートはなかなかフルーティな甘さもありつつ、フレッシュなアルコール感とウッディなスパイスが引き締める。余韻もウッディでほんの少しシナモンと苦味も。
Rating:85.5/100

Thought:樽感と穀物感と果物感のバランス、甘さと辛さのバランス、ガツンと来る感じ等が凄く自分好みでした。コストコとバートン1792蒸溜所は手頃な価格と高品質の両立という素晴らしい仕事をしたと思います。強いて欠点を探すと、バートンの旗艦ブランドである1792スモールバッチに比べればやや若さがあるところなのですが、その点は個人的にはプルーフが上がっている分で帳消しになっていますし、寧ろグレインの旨味や甘酸っぱいフルーツの風味が味わえて好印象ですらあるかも知れない。サイド・バイ・サイドで較べてはいないものの、1792スモールバッチはおそらくもう少し熟成年数は長いと思います。そして「若い」とは言え、同じバートンのより若い原酒を使ったケンタッキー・ジェントルマンやケンタッキー・タヴァーンやザッカリア・ハリスからは著しい伸長が感じられます。やはりボトルド・イン・ボンドは偉かった。

Value:アメリカでの価格は約25ドル程度のようです。日本だと3500円程度でしょうか。バートンの代表的銘柄であったヴェリー・オールド・バートンが現在はあまり力を入れられてない現状(流通量が少ない)もあって、ちょうどその代替製品となるのはこのコストコのオリジナル製品なのかも知れません。そして、コストコのソースは長年に渡って変化していますし、バートンとの契約が単発での生産なのか、ある程度の期間持続するものなのか、今のところよく分からないので、時間の経過と共に同じものを手に入れることが出来ない可能性があります。他の汎ゆるものでもそうですが、あるうちに買っておくことをオススメします。

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ザッカリア・ハリス(*)はサゼラック・カンパニーが所有するブランドで、所謂バジェットとかヴァリュー・ブランドと呼ばれる最も低価格帯のケンタッキー・ストレート・バーボン。その名前は実在の人物に由来するのではなく、どうやらマーケターの想像力の産物のようです。確かに「Zackariah」と「Harris」 を組み合わせると響の良いサウンドであり、如何にも「オールド・バーボン・ガイ」を想わせますし、ラベルのデザインもジャック・ダニエルズやエヴァン・ウィリアムスを相当に意識しているのは一目瞭然でしょう。他の業界でもそうですが、売れてる製品が模倣されるのは常に行われること。我々はロマンを投影してバーボンを見てしまいがちですが、バーボンは先ずは「商品」なのです。その商品を売るために、ちょっとした伝承を誇大表現したり、ネーミングやラベルをパクったりは、まあ、大昔からよくあることな訳ですね。

おそらくザッカリア・ハリスはアメリカでは2010年か2011年頃から発売されたと思われます。日本に入って来たのはここ最近で、2019年あたりからでしょうか? 私にとってこのバーボンで最も気になったのはラベル下部に記載された下画像の文です。
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これを素直に受け取ると「蒸留、熟成および瓶詰めは、ケンタッキー州ルイヴィルのグレンモア蒸留所が行いました」と書いてあるように読めます。これ、ちょっと、いや、かなり紛らわしい。実はサゼラックが所有するバーボンを生産している蒸留所で、ルイヴィルに位置する蒸留所はありません。なぜルイヴィルなのかと思ったら、サゼラックのオフィスがそこにあるからみたいです。グレンモア蒸留所というのは歴史的な名前であり、それをDBA(Doing Business As)で使用するのは悪いことではないのですが、ロケーションはオーウェンズボロだし、そこは現在ではボトリング施設と物流倉庫(熟成倉庫も道路を挟んで向いにあるみたい)であってバーボンの蒸留はやっていません(**)。ザッカリア・ハリスは、実際にはサゼラックが所有するバートン1792蒸留所で生産されたバーボンと思われます。おそらく熟成もバートン、ボトリングのみグレンモアなのではないでしょうか?
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同社の同クラスのバーボン、ケンタッキー・タヴァーンでは、「BOTTLED BY GLENMORE DISTILLERY, LOUISVILLE, KY」と記載され、如何にもボトリングのみグレンモアでやっている感じが出ています。なのに、なにゆえザッカリア・ハリスは「DISTILLED, AGED AND BOTTLED BY〜」となっているのか? まさか、第一蒸留だけバートンで実行し、第二蒸留をグレンモアで行い、実際に熟成もグレンモアなんてこともあるのでしょうか? 一応、私の解釈としては、上の件は多分ここで言うグレンモア・ディスティラリーを「蒸留所」ではなく「事業名」と解釈し、「蒸留、熟成および瓶詰めは、ケンタッキー州ルイヴィルにオフィスを置くグレンモア・ディスティラリー社(サゼラック社)が行っています」というように読むのが正解なのかなと思います。そもそもトンプソン・ファミリーが長年経営していたグレンモア・ディスティラリーズ・カンパニーもルイヴィルにオフィスがありましたから、サゼラックとしてもグレンモアと言えばルイヴィルという感じで踏襲したかったのかも知れませんね。
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グレンモア蒸留所は1800年代後半からオーウェンズボロのコミュニティに定着しています。もともとは同地のウィスキー業界に君臨した有名なモナーク家が係わっていました。R.モナーク・ディスティラリーと呼ばれていたその蒸留所は「ケンタッキー・タヴァーン」や「グレンモア」などのブランドが成功し、一時はケンタッキー州でウィスキーを生産する最大の産出能力を持つ蒸留所とも言われました。1880年代には飛ぶ鳥を落とす勢いだったモナークスも、1890年代になると過剰生産や恐慌による影響からウィスキーの価値が下落、そこへ更に火災による損害まで発生し、彼らは経営を立て直すことが出来ず、1898年に会社は破産を宣言しました。1900年になると蒸留所を含む事業は公売で売却され、1901年にトンプソン・ブラザーズのジェイムズ・トンプソンが蒸留所を購入しました。
ジェイムズは義理の兄弟のハリー・S・バートンを蒸留所の責任者に任命すると、蒸留所はすぐに良質なバーボンを造るとの評判を得ました。蒸留所はオーウェンズボロのダウンタウンのちょっと東に位置し、オハイオ・リヴァーのほとりにありました。やがて訪れた禁酒法の時にも、そこは禁止期間中に薬用スピリッツの販売許可を取得した六社のうちの一社だったトンプソン・ブラザーズの統合倉庫の場所になります。1924年にはジェイムズ・トンプソンが亡くなり、その息子のカーネル・フランク・B・トンプソンとジェイムズ・P・トンプソン、ジョセフ・A・イングルハードらが経営を引き継ぎました。彼らは1927年にトンプソン・ブラザーズとグレンモア蒸留所を合併し、グレンモア社が設立されます。1928年、政府は医療上の必要性から減少する薬用ウィスキーの在庫を補充することに決めますが、その時、限られた規模で操業することを許可された四つの蒸留所の一つがグレンモア蒸留所でした。
1944年、同社はルイヴィルのテイラー&ウィリアムズからイエローストーンという有名なバーボンのブランドを購入し、更に飛躍します。洪水や火事などの悲劇もありましたが、なんとか乗り越えた蒸留所は1946年に200万バレルのウィスキーを満たしました。その後、彼らは他の大企業の先例に習い、ミスター・ボストン(ヴァイキング・ディスティラリーを含む)を買収して子会社化し、そこを通じて輸入ウィスキーやコーディアルを販売しました。1973年には1日540バレルを生産していたと言われます。しかし、アメリカン・ウィスキー業界全体の低迷もあり、グレンモア蒸留所は蒸留を停止し、ウィスキーの生産をルイヴィルのイエローストーン蒸留所に移しました。オーウェンズボロの施設はボトリングと熟成倉庫に使用されることになります。売上げが再び上昇したら蒸留を再開する予定でしたが、それが実現することはありませんでした。
アメリカン・ウィスキーの低迷は、1980年代後半から90年代に行われた激動の業界再編の遠因、或いは直接的な原因となります。その期間、まるで動物界の食物連鎖のように大きな会社が小さな会社を捕食しました。1988年にグレンモアは同じオーウェンズボロのメドレー蒸留所を買収しますが、1991年にはそのグレンモアもユナイテッド・ディスティラーズに買収されます。そしてユナイテッドは1995年にあっさりと、1993年からキャナンディグア・ワイン・カンパニー(後のコンステレーション・ブランズ)に買収されていたバートン・ブランズに、グレンモアの施設やブランドを売却しました。それから時を経た2009年3月、サゼラック・カンパニーが3億3400万ドルの取引の一環として、コンステレーションの所有していたバートンの資産(蒸留所やブランド)を購入します。こうした流れでグレンモア蒸留所はサゼラックの所有となったのでした。

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地元の人々に「グレンモア」として長年知られていたイースト・フォース・ストリートの象徴的な蒸留所は、一時その名を失っていたようですが、2011年、正式に再び「The Glenmore Distillery」になりました。サゼラックは買収以来、新しい機械や貯蔵タンクを含む施設への設備投資に200万ドルを費やしたと言います。同社はグレンモアの最新のボトリング施設を利用するために、他の施設から幾つかのブランドのボトリングを移行しました。更には2016年4月28日、グレンモア蒸留所に223000平方フィートの革新的な新しい配送センターを開設します。これによりグレンモア蒸留所はASRS(オートメーテッド・ストレージ・アンド・リトリーヴァル・システム=自動保管検索機構)と呼ばれるシステムを使用する数少ないスピリッツ・サプライヤーとなりました。136836平方フィートのASRSスペースを備えた最先端の施設を設計および建設したのはグレイ・コンストラクションです。ASRSはウェストファリア・テクノロジーズ・インコーポレイテッドによってインストールされました。この4500万ドルを注ぎ込んだ設備投資は、親会社サゼラックがケンタッキー州の三つの蒸留所に対して行った7100万ドルの投資の一部です。フランクフォートのバッファロートレース蒸留所では同じくグレイ・プロジェクトによる別の新しい流通センターを、バーズタウンのバートン1792蒸留所では生産能力向上のために新しいイクイップメントを、2015年に追加しました。グレンモア蒸留所はアメリカ国内で最も大きく最も近代的なボトリング施設と流通センターの一つであることを誇り、オーウェエンズボロ地域に1780万ドルの経済的影響を与えているとされ、同地の大規模な雇用者であり続けています。今のままアメリカン・ウィスキーのブームが続くようであれば、我々愛好家としてはサゼラックがグレンモア蒸留所の敷地内に小さなクラフト蒸留所でも建設して更なる発展を遂げたら…なんて期待も。
今はグレンモアについてざっくりと振り返るに留めましたが、いづれモナークスやトンプソンズを含むもう少し詳しい歴史を纏める機会もあるでしょう。では、そろそろザッカリア・ハリスを注ぐ時間です。

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ZACKARIAH HARRIS 80 Proof
推定2020年か21年ボトリング。ややゴールド寄りのブラウン。焦がした樽、スウィートグレイン、ビール、マッチ、マジックインキ、みたらし団子、僅かな蜂蜜、強いていうと苺ジャムとバナナが少し。ややフルーティなグレインウィスキー然としたノーズ。サラサラとして滑らかな口当たり。口蓋では多少の甘さは感じるがフレイヴァーは希薄。余韻もスッキリとしていて短め、基本的にはドライ。が、一瞬石鹸のようなフローラルが香った瞬間もあった。
Rating:76/100

Thought:数年前に飲んだ同社のヴェリー・オールド・バートンNAS、ケンタッキー・ジェントルマンやケンタッキー・タヴァーンと較べると、コアなフレイヴァー・プロファイルは大体同じで、味わいはバッチ違いくらいの差に感じました。ザッカリア・ハリスとKGおよびKTは瓶の形状も同じだし、スペック(最低3年熟成80プルーフ)と価格帯も同一なので、まあ平均的な若いバートン原酒って感じです。ただし、この「バッチ違い」と云うのがなかなかクセモノでして、人によってザッカリアの方が旨いと言ったり、いやジェントルマンの方が上だ、いやタヴァーンだ、となる可能性はあり得ます。いくら何百樽でバッチングされる安価なバーボンとは言え、この世に完全同一のバレルがない以上は、どうしてもフレイヴァー・バランスや甘味などに若干の強弱の違いが生まれるからです。それを大幅な違いと捉える人もいるし、微妙な違いと捕らえる人もいる、と。私には大差は感じられませんでしたが、「あなた」はかなりの差を感じるかも知れないので、とにかく試してみるしかありません。

Value:アメリカでは約9〜12ドルで、日本でも「3桁ウイスキー」と言うのか、999〜1500円程度で購入できます。流石にもう少し上位の物と比較すると分が悪く、至福の時間を過ごすためのシッピング・ウィスキーとは言い難いです。あくまで手っ取り早くバーボンで酔いたい人向けでしょう。けれども冷静に考えてみると、1000円程度でストレート規格のバーボンが買えてしまうって凄いことですよね? GNSで割ったブレンデッドではないのですよ? これは一つの価値です。ハイボール専用にせずとも、ストレートで飲んである程度の満足は得れますから。

追記:こちらのコメント欄でも言及されたように、しばらく輸入が滞っていたザッカリア・ハリスですが、2023年2月下旬、イオンが大々的に取り扱いを開始すると発表されました。以前にイオン系列のスーパーで見かけた時は999円だったのですが、今回からは1500円程度に値上がりしていました。けれども、昨今の物価上昇を考えると仕方のないことであり、まだまだハイコストパフォーマンスなバーボンと言えますね。


*実際の発音は「ザッカライア・ハリス」と表記したほうが近いです。

**グレンモア蒸留所は、2016年にラムの蒸留を再開した、と云う情報はありました。

2020-06-16-08-40-42

2019-06-17-21-24-31
(このラベルは引き継がれるのか、刷新されるのか?)

以前お伝えしたブラウン=フォーマン所有のアーリータイムズがサゼラックに買収された件ですが、続報が入りました。

今後はバートン1792蒸留所にて、消費者が愛好していたのと同じオリジナルのレシピとマッシュビルを使用して製造するとのこと。それならケンタッキータヴァーンやケンタッキージェントルマンとは違うものになりそうですね。安心しました。切り替えは今年の夏から始まるそうです。味を想像しながら待ちましょう。

今のところブランド戦略までは明かされてないのですが、私はKTやKGのようなエントリークラスと1792スモールバッチのようなプレミアムの中間に位置するレヴェルの製品になるのではと予想します。もしそうならばブラウン=フォーマン社のエントリークラスであったアーリータイムズよりは美味しくなるだろうという期待。まあ、蒸留所が変わればいくらマッシュビルが同じでも確実に違う味にはなるでしょう。従来品のファンはどう思うのか…。

皆さんはどうお考えですか? コメントよりご意見お寄せ下さいね。

えっ、待って、こんな妄想以前に、ちゃんと日本に輸入されるんだよね?


※当ブログのニュース記事の投稿は時間的有効性と内容的有用性がなくなったと判断した時点で削除しようかと思っていたのですが、こんなこともあったね的な資料として残そうかと思い直しました。

※※その後の経過をまとめた記事を投稿しました。

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