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今回は同じ蒸溜所で造られ、同じプルーフでのボトリング、そしてほぼ同じ価格である二つを飲み比べる企画です。一つがヘンリーマッケンナの(並行輸入品ではない)キリン正規品、もう一つがフォアローゼズのブラックラベル。どちらも現在酒販店に流通している所謂「現行品」です。この比較対決は、以前このブログへコメントしてくれた方からヒントを得て企画されました。

フォアローゼズ・ブラックがフォアローゼズ蒸溜所で造られているのは名前の通りなので判り易いですが、ヘンリーマッケンナについてはヘヴンヒル製造の物もあるので少し説明が必要でしょう。
アイルランド移民のヘンリー・マッケンナは、1855年、ケンタッキー州フェアフィールドにて蒸溜を開始しました。量よりも質を重視し、1日1バレル程度の規模で操業していたと言われています。1880年頃までにマッケンナのブランドは人気が高まり、上質なケンタッキー・バーボンとして評判を得、1883年には新しいレンガ造りの蒸溜所を建設し、1日3バレルに生産量を増やしたそうです。1893年にヘンリーが亡くなると、息子達が事業を引き継ぎ、ビジネスを更に成長させました。しかしご多分に漏れず禁酒法の訪れにより蒸溜所は閉鎖を余儀なくされます。マッケンナ家の所有する熟成ウィスキーは、A.Ph.スティッツェル蒸溜所の集中倉庫に保管され、薬用ライセンスを取得していた彼らに手数料を支払うことでボトリングしてもらいメディシナル・ウィスキーとして販売されました。禁酒法が撤廃されるとマッケンナ家はフェアフィールドで蒸溜所を再開。新しい蒸溜所の生産能力は1日20バレル程度だったようです。大恐慌とそれに続く第二次世界大戦の到来によって会社は継続するのに苦労し、ヘンリーの息子の死により残された一族は1941年にブランドと蒸溜所をシーグラムに売却しました。シーグラムはヘンリーマッケンナ・バーボンの販売を続けますが、フェアフィールド蒸溜所で製造されたウィスキーの殆どはセヴン・クラウンやフォアローゼズ等のブレンデッド用に回されたと言います。その後、1960〜80年代に掛けてのストレート・バーボンの売上減少は、多くのケンタッキー蒸溜所の閉鎖を招きました。フェアフィールドのヘンリー・マッケンナ蒸溜所もその例外ではなく、1974年、遂に閉鎖されてしまいます。生産はルイヴィルのシーグラム工場に移り、そこも閉鎖されるまでの短期間はそちらで造られていた可能性も示唆されています。そして1980年代初頭にシーグラムはヘンリーマッケンナのアメリカ国内でのブランド権をヘヴンヒルに売却しますが、海外市場向けのブランド権は保持しました。これにより、海外向けの生産はローレンスバーグのオールド・プレンティス蒸溜所(現フォアローゼズ蒸溜所)、アメリカ国内向けの生産はバーズタウンのヘヴンヒル蒸溜所と、マッシュビルや酵母を共有しないニ種類のヘンリーマッケンナが産出されることになります。
21世紀初頭、長年に渡りスピリッツ業界の頂点にあったシーグラムも、飲料ブランドの名前としては一部残ったものの企業としては終りを迎えました。サミュエル・ブロンフマンとその息子エドガーが運営していた頃には業界を支配していたシーグラムですが、1994年にエドガーの息子エドガー・ジュニアに経営がバトンタッチされると、残念なことにスピリッツ事業に関心がなかった彼が率いる会社は急速にエンターテインメント事業への傾斜を強めます。しかし、巨額の買収費用に対して映画部門ではヒット作に恵まれず収益も上がらなかったため、2000年にフランスのヴィヴェンディと合併するに至りました。メディア事業の拡大を進めるヴィヴェンディにはアルコール飲料会社の所有権は必要なかったので、短期間所有した後、酒類部門はイギリスの新生ディアジオとフランスのペルノ・リカールに分割して売却されます。嘗て世界最大級の酒類会社であったシーグラム帝国は、エドガー・ジュニアが会社を継承して僅か8年で消滅した訳です。シーグラムの酒類部門が売却されたのに伴い、2002年2月、最終的に日本のキリンがフォアローゼズのブランドとローレンスバーグの蒸溜所を所有することになりました。キリンとシーグラムは1972年に合弁会社キリン・シーグラムを設立して事業を展開して来ましたし、キリンは以前からフォアローゼズのアジアでの販売業者となっておりブランドとの繋がりがありました。キリン・シーグラムはシーグラムの酒類事業売却により社名をキリン・ディスティラリーに変更しています。取引の詳細は分かりませんが、おそらくフォアローゼズの全事業権を取得した時にヘンリーマッケンナの海外事業権もキリンが取得したものと思われます。2006年にオーストラリアとニュージーランドで大手の飲料会社であるライオン・ネイサン(現ライオン)はキリンからマッケンナ・バーボンの権利を取得しているようなので。ともかく、こうして現在の日本では、ヘヴンヒルが製造するアメリカ国内版の並行輸入品と、フォアローゼズが製造するキリン正規品とが同時に市場に流通しているのでした。ただ、どちらかと言えば並行品の方が多くの酒販店で取り扱われ、正規品を取り扱っている店舗は少なそうな印象がありますね。

※重要な追記:記事を投稿後にキリンのヘンリーマッケンナのホームページを調べたら、最上部に「『ヘンリー マッケンナ』は2022年10月7日をもって出荷を終了させていただきました」との告知がありました。せっかく現行製品同士での対決という企画だったのですが、残念ながらキリン版のフォアローゼズ製ヘンリーマッケンナは終売になったようです。私が下調べのためにキリンのホームページを見た時は確かそんな事は書かれてなかったと思うのですが…。いや、タイミング悪っ。一応、私が記事を書いた時点でこれは分ってなかったので、タイトルや記事内容は修整しません。皆さんの頭の中で修整よろしくお願いします。

今回は同じヘンリーマッケンナという名を持つヘヴンヒル産とフォアローゼズ産の二つの違いを較べるのではありません。それも蒸溜所の個性の違いが味わえて面白いでしょうが、私にとってもっと興味深いのは同じ蒸溜所で造られながらどこまで違うのか、或いはどこまで同じなのかという方だったからです。周知のようにフォアローゼズ蒸溜所では2種類のマッシュビルとキャラクターの異なる5つのイーストを使って10種類の原酒を造り、それらをブレンドすることで品質と味を安定させたり、その組み合わせにより異なるフォアローゼズ・ブランドを作成しています(FRの10レシピについての仔細は過去に投稿したこちらを参照ください)。それならば、ヘンリーマッケンナとフォアローゼズ・ブラックで造り分けもし易いのではないか、と。いや、逆に手抜きしてブランドは違うが中身はほぼ一緒なんてことだってあるかも知れないぞ、と。冒頭に述べたように、幸いにもこの二つは同一のプルーフで市場価格もほぼ同じ、これは対決するしかないでしょ!?という訳で、そろそろバーボンを注ぐ時間です。

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目視での色の濃さは殆ど差を感じません。

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HENRY McKENNA 80 Proof
ボトリング年不明(購入は2022年)。明るめのブラウン。ライスパイス、薄っすらキャラメル、ウエハース、洋梨、ペッパー、青りんご、コーンフレーク。ややフルーティでトースティな木の香り。僅かにとろみのあるテクスチャー。口全体に甘みを感じつつもピリリとスパイシーな味わい。余韻はグレイニーでほろ苦くドライ気味。
Rating:81→82.5/100

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FOUR ROSES Black Label 80 Proof
ボトリング年不明(購入は2022年)。薄めのブラウン。熟したプラム、トーストした木、蜂蜜、ヴァニラウエハース、ホワイトペッパー、リンゴの皮。熟したフルーツを内包したややフローラルな香り。水っぽい口当たり。口中では甘くもありスパイシーでもありフルーツの存在感も。余韻はあっさりめながら豊かな穀物が現れ、最後に苦味が少し。
Rating:86/100

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Thought:両者は思ったより違いました。値段が殆ど同じなのでもっと味わいも近いのではないかと予想していたのですが、意図的にブレンド構成を変えている可能性はありそうなくらいに違いはあります。レシピ(マッシュビルとイーストの組合せ)が違うのか、熟成年数が違うのか、バレル・セレクトの基準が違うのか、或いはそれら全てなのか判りませんけれども。
私は昔からフォアローゼズ・ブラックを買い求め易い80プルーフのバーボンでは最も美味しいと非常に高く評価しています。90年代から現在のボトルまで一貫してリッチな熟したフルーツの風味があり、品質が安定しているからでした。その風味はフォアローゼズ蒸溜所で造られていた時代のブレット・バーボンでも感じ易かったです(特にブレット10年)。ところがこのヘンリーマッケンナにはそれが欠落しています。両者の違いをやや誇張して言うと、ヘンリーマッケンナは基本的にライトなフルーツ感をもつスパイシーなグレイン・フォワード・バーボンで、出てくるフルーツは洋梨や青りんごのようなフレッシュ・フルーツであるのに対し、フォアローゼズ・ブラックは基本的にスパイシーなフルーツ・フォワード・バーボンで、HMよりもう少し熟したフルーツ感があり、樽感も幾分かダークに感じます。仮に両者でバッチングに使用されるバレルの平均熟成年数が異なるのであれば、ヘンリーマッケンナは4〜5年熟成程度、フォアローゼズ・ブラックは6年熟成以上と言ったイメージかな、と。
二つのバーボンの似た部分は、どちらも液体を飲み込んだ直後のライ・キックが強いところでしょうか。とは言え、フォアローゼズ蒸溜所の2種類のマッシュビル「E」と「B」のどちらなのかの判断は難しいです。「B」マッシュビルの方がライ35%とライ麦多めのレシピではありますが、「E」マッシュビルであってもライ20%と他の蒸溜所ではハイ・ライと言ってもよいライ麦含有率ですし、フォアローゼズ・ブラックはOESKとOBSKの50/50のブレンドとどこかで見かけたことがあるので、ヘンリーマッケンナだって両マッシュビルを使ったレシピのブレンドの可能性も大いにありますから。
ところで、フォアローゼズのレシピに使用される5つのイースト「V・K・O・Q・F」は、イーストの研究に余念のなかったシーグラムが往時ケンタッキー州で所有していた五つの蒸溜所にルーツをもつと聞きます。どれがどの蒸溜所のものなのか私には判りませんが、その五つはルイヴィルのカルヴァート蒸溜所、シンシアナのオールド・ルイス・ハンター蒸溜所、ラルーのアサートンヴィル蒸溜所、ローレンスバーグのオールド・プレンティス蒸溜所、そしてネルソンのヘンリー・マッケンナ蒸溜所とされます。となると、ヘンリーマッケンナ・バーボンにはヘンリー・マッケンナ蒸溜所に由来するイーストが使われているのでしょうか? もしそうだとするならば、ヘヴンヒル製造の物よりも「血統」というロマンがあると思うのですが…。ここらへんの秘密を知ってる方は是非ともコメントよりご教示お願いします。
※ヘンリーマッケンナは開封直後はサイレントなアロマで味わいもパッとしなかったのですが、液量が半分以下になる頃には甘い香りが増して美味しくなりました。これが上記のレーティングの矢印の理由です。

Verdict:フォアローゼズ・ブラックに軍配を上げました。単に好みの問題かも知れませんが、個人的にはこちらの方が高いウィスキーの味がするような気がするので。ヘンリーマッケンナに関しては、もしかするとスタンダードなフォアローゼズ・イエローの現行品(ラベルがベージュになったやつ)にすら自分の好みとしては負けるかも知れません。全体的に少し単調な印象なのです。まあ、フォアローゼズ蒸溜所産だけに安心の美味しさですし、ライ麦の効いた味わいは私の好みでもあり、飽くまで高いレヴェルの中での些細な話ですがね。

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今回はジムビーム・ブラックがまだ8年熟成だった頃の物を取り上げます。ラベルに描かれた歴代のビーム家マスター・ディスティラーの中に、現在のフレッド・ノーがいません。まだブッカー・ノー存命中の物です。ブラック・ラベルのブランド紹介は過去投稿のこちらを、ブッカー・ノーについてはこちらを参照ください。

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JIM BEAM BLACK 8 Years 86 Proof
推定1999年ボトリング。濃密なキャラメル、香ばしい焦げ樽、コーン、サワークリーム、オールドファンク、サイダー、ビターヌガー、タバコ、レーズン。アロマは強いキャラメルと甘酸っぱいフルーツと地下室っぽいオールド臭が主、開封から暫くするとヒネ臭は消えフローラルが出てきた。口当たりは度数の割にはとろみがありつつサラッともしている。舌では甘味を、口蓋全体では甘酸っぱいベリー系の旨味を感じ易い。余韻は比較的さっぱりめだが、コーンの気配とビタネスは長続きする。
Rating:85/100

Thought:開封した途端、ああ懐かしい匂い…って思いました。90年代のジムビームやヘヴンヒルやエンシェントエイジのような安バーボンの「らしい」感じを想い起させたのです。2000年代後期や2010年代前期のブラック・ラベルと較べると、フレイヴァーの密度が高い?気がしました。オールド臭も過剰でなければ崇高性を高めてくれますから、このボトルに関しては全然アリな程度で美味しかったです。ボトリング・プルーフは低いので、それが余韻の物足りなさにも繋がっているのかなとは思いますが、まあジムビームのライト感と思えば…。

Value:現行のエクストラ・エイジドより遥かに旨いのは間違いありません。オークション等の二次流通市場で高騰している銘柄でもないので、案外狙い目かも?

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ジムビームのラインナップ中、長きに渡り最高の価値があると評されたブラック・ラベル。しかし、ここ十年ちょっとで最も弄くり回されたブランドかも知れません。
おそらく、もともとブラック・ラベルは101ヶ月(約8年半)熟成90プルーフで始まり、次第に8年熟成90プルーフ、7年熟成90プルーフ、8年熟成86プルーフへと時代に順応して変化したと思われます。多分、86プルーフに下がったのは90年代かと。ビームは大きな酒類会社なので、販売される国でボトリングするためにウィスキーをバルクにて輸出している可能性があり、バッチが異なるのは当然として、パッケージが少し異なったり、ボトリング・プルーフの異なるヴァージョンがあるようです。日本でも、今回レヴューするエクストラ・エイジドの前に流通していた正規輸入品は確か6年熟成80プルーフだったと思います。

基本的に2000年代のアメリカ国内流通品は8年熟成86プルーフでした。2007年から2008年頃、オーストラリアとカナダでジムビーム・ブラックは8年のエイジ・ステイトメントを失い、代わりに「AGED TO PERFECTION」と表ラベルに表記されます。ビームによれば、これは米国以外の市場でのブラック・ラベルの売上が予測を上回ったためだそうで、熟成樽の不足からラベルの変更を余儀なくされ、おそらく中身の原酒の熟成年数も変更されたのでしょう(6年へ?)。エイジド・トゥ・パーフェクションのラベルはアメリカ以外の市場(ヨーロッパとか)にも流通したと思いますが、アメリカ本国で販売された製品はラベルに年数表記があり、8年熟成は維持されました。
おそらくその後(2010年前後?)に、スタイリッシュなラベル・デザインのブラック・ラベルが登場したと思われ、ホワイト・ラベルの4年熟成に対して倍であるため「ダブル・エイジド」と表記されたアメリカ国内向けの8年熟成、ストレート・バーボン規格の最低熟成年数である2年の3倍であるため「トリプル・エイジド」と名付けられた国外向け6年熟成の物がありました。
2015年になると、アメリカ国内のブラック・ラベルからもエイジ・ステイトメントは削除され、ラベルには「XA Extra Aged」の文字が現れます。きっとこれは6年熟成なのでしょう。一般的に、生産者は以前よりも若い原酒を使用することを意図せずに、熟成年数の表示を取りやめることはありません。従来通りなら熟成年数を削除する必要がないからです。そして2016年半ば、ビーム社はジムビーム・ブランドのラベルとボトルのデザインを刷新しました。そこでブラック・ラベルは再び微調整が施され、「XA」を削除し、ハイフンを追加して「Extra-Aged」となります。これが現在販売されているブラックであり、トップ画像のデザインです。
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2000年以降、特に2010年代、アメリカのバーボン業界は劇的な変化を遂げました。あらゆるアメリカン・ウィスキーに対する記録的な需要は、新しいクラフト蒸留所の前例のない「爆誕」を齎し、また旧来の由緒正しき蒸留所からも新しい革新と実験が行われました。その他にもバーボンの高需要は、大手蒸留所が比較的「高齢」でありながらも大変お買い得だった銘柄を次々とNAS(No Age Statement)へと変更せざるを得ないか、或いはエイジ・ステイトメントを維持するなら値上げするしかない状況を与えました。ヘヴンヒルのエライジャ・クレイグ12年がNASになったのはその最たる例でしょう。以前は8年熟成だったジムビーム・ブラックがNASに切り替えられたのも、そうした一例な訳です。NASへの移行は既存のエイジ・ステイトメントを維持するのに十分な熟成原酒のストックがないのが主な理由ですが、一方でプレミアムな長熟製品のために一部の樽が抑制されているという噂は常にあり、それが真実である場合アメリカン・ウィスキーの基盤と言える「日常バーボン」の熟成年数やプルーフ(≒品質)を犠牲にしてまで金儲けに走るなよというバーボン愛好家の嘆きを生みます。まあ、それは偖て措き、現行のエクストラ・エイジドです。

この約6年熟成とされるブラックラベル・エクストラ・エイジドは、アメリカ流通の物は86プルーフ、日本市場の物は80プルーフでのボトリング。マッシュビルは77%コーン、13%ライ、10%モルテッドバーリーであろうと推定されています。ビームはクレアモントとボストンに大きな蒸留所を所有し、彼らはそこでメーカーズマークを除くあらゆるウィスキーを造ります。ボストン(通称ブッカー・ノー・プラント)は専らジムビーム・ホワイトラベルを製造し、クレアモントはホワイト・ラベルも含むその他の全てを製造するとされます。なのでブラックはクレアモント産ですかね。ビーム社の最高峰ブッカーズが中層階のバレルを主に使用するところから、ビーム倉庫のスイートスポットは中層階と考えられるので、おそらくブラック・ラベルに使用するバレルは上層階から来てるのかも知れません。上層階のバレルは他の場所のバレルよりも早く熟成することはよく知られています。そこで、若くても熟成感のある樽をピックアップすることで、8年に近いフレイヴァー・プロファイルをNASでも保つことが出来るだろうと推測している人がいました。

8年熟成のブラック・ラベルは割と長い期間販売され続け、味が良く安価、しかもどこでも労なく入手できるため非常に人気がありました。しかし、8年熟成も今は昔の話。個人的には現行のエクストラ・エイジドは飲む必要がないかなと思っていたのですが…。ジムビームが2019年に発表したPRニュースによると、アメリカン・ウィスキーを飲む人は世界で最も高価でレアなバーボンよりもジムビーム・ブラックを好むことを示す調査結果が出た、と言うのです。調査は独立した第三者機関のアルコール飲料研究会社であるビヴァレッジ・テイスティング・インスティテュート(BTI)が行いました。BTIはアメリカで最も古いアルコール飲料研究会社で、1981年以来、専門家によるテストや独自のデータや消費者調査を使用して、飲料会社が賢明な生産とマーケティング決定を下すのを支援しています。彼らはアメリカ全土の複数の市場でブラインド・テイスト・テストを実施。参加者には二つのサンプルが提供され、一つはジムビーム・ブラック(23ドル)で、もう一つは名前の伏せられた約3000ドルの限定生産の象徴的なバーボンとのこと。結果は、54%が超高額なバーボンよりもジムビーム・ブラックを好み、55%がジムビーム・ブラックの方が滑らかだと答えたそうな。ごく僅かではあってもテイスターの過半数が高価なスーパー・プレミアム・バーボンより安価なボトム・シェルファーを選んだと? おいおい、マジか…。この名前の伏せられたバーボンは価格から考えると、希望小売価格に上乗せ金が付いたパピー・ヴァン・ウィンクル20年でなければならないでしょう(ミクターズ・セレブレーション・サワーマッシュだともっと高いですし)。或いはパピーの23年の方かも知れませんが、どっちでも構いません。言うまでもなく、良いウイスキーは熟成年数が何年であろうとプルーフが幾つであろうと良いウイスキーだし、味わいの優劣なんて飲み手の好みに左右されるもの。熟成年数の長いバーボンはウッドの風味が強くなり過ぎるので、却って短熟の方が好みの人が半分近くを占めたっておかしくはない。実際、私にもその傾向はあります。…にしても、NASのジムビーム・ブラックラベルがパピーに勝った? これは是非とも確認のため現行のブラック・ラベルも飲んでみなければならない、という訳で、そろそろ注ぐ時間です。

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JIM BEAM BLACK EXTRA-AGED 80 Proof
推定2019年ボトリング。焦樽、プリンのカラメルソース、グレイン、ちょっとトロピカルフルーツ、胡椒、藁半紙。アロマは時間が経つとナッティ。水っぽい口当たり。軽くて飲み易い割に少しアルコールの刺激を感じる。余韻はあっさりして短く、穀物とスモークが主に出るが辛味もあって深みがない。
Rating:79/100

Thought:昔の6年とか8年とエイジ・ステイトメントがあったブラックと較べると、どうしても美味しくなくは感じてしまいました。なんか6年よりも熟成してなさそうな若い味わいと言うか、いや、アルコール感が目立ち過ぎると言うか。とは言え、現行ホワイト・ラベルよりは格段に甘さ、フルーツ、スパイス等の熟成感はあって悪くはなかったです。
それと、上で言及した「調査」の件ですが、そのブラインド・テストでテイスターが試したのは86プルーフであり、私が試したのは80プルーフ、この差はかなり大きいと思います。ただ、これが86プルーフだったとしても、いくら想像を膨らませてみても流石に「パピー」を打ち倒す程の物とは到底思えませんが…。

Pairing:軽めのテクスチャーにライトなフレイヴァーなので肉料理や濃厚な味付けの料理を欲しなかったです。しかし、逆にあっさりとした冷奴に合わせるとピッタリ。これは料理を引き立てる酒という視点ではなく、バーボンを引き立てる料理という視点です。

Value:アメリカでは大体18〜25ドルで販売されており、最安値なら所謂アンダー$20バーボン。日本でも1800〜2500円が相場で、概ね本場と感覚的に変わりはないでしょう。但し、上述のように日本版は80プルーフなので本国版に較べ割高ではあります。ロウワー・プルーフはコンテンツに水が多いことに他なりませんから。
ジムビーム・ブラック・エクストラ・エイジドは基本的に美味しいバーボンです。バーボンを飲むことの喜びは甘い炭の風味にありますが、これにはちゃんとそれがあります。しかし、安価なバーボンなので奇跡を期待してはいけません。3000円以上するバーボンと比べたら不味く感じるし、1000円のバーボンと較べたら遥かに美味しく感じる、ただそれだけ。ジムビームの意図通り、ホワイトには物足らず、デヴィルズ・カットやダブル・オークには少々割高さを感じる人向けには良い製品でしょう。私の個人的な嗜好では、現在のジムビームの安価なラインナップの中ならダブル・オーク一択。また、酒屋の棚で並行輸入の86プルーフ版ブラック・ラベルか熟成年数表記ありの売れ残りを発見し、それが数百円の違いしかなかったら、必ずそちらを購入するべきです。

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ウィレット蒸留所(KBD)がリリースするジョニードラムのブラックラベルです。その名前の由来について日本でよく語られるのは、ジョニー・ドラムは1870年にバーズタウンで酒類販売をしていた人物で、樽買いした原酒をブレンドし自分の名前をつけ売り歩いたのが始まり云々。海外では、ジョニー・ドラムという名前のティーンは家を出て南北戦争の南軍に参加、しかし彼は若すぎて武器を取ることは出来ず、1861年にドラマー・ボーイ(*)を務め、故郷のケンタッキー州に戻ってからトウモロコシを使い蒸留を始めた云々、と言われます。このジョニー・ドラムなる(愛称の?)男が実在の人物なのか分かりませんが、海外で語られている話が彼の前半生、日本で語られている話が後半生として辻褄は合っています。けれども、どうも取って付けたバックストーリーな感は否めません。ラベルのデザインからしても、ジャックダニエルズやエヴァンウィリアムス流のクラシックな人名ラベルを想起させます。ウィレットの公式ホームページによれば、60年代にカリフォルニアの卸売業者のために開発されたとの記述がありました。
ジョニードラムには現在、80プルーフのグリーンラベル、86プルーフのブラックラベル、101プルーフのプライヴェート・ストックの三つがあります。と言っても全てがいつでも利用可能な状態ではないようで、ウィレットのホームページの製品紹介欄にグリーンラベルは載ってませんし、日本でもネット酒販店では売り切ればかりです。おそらくグリーンは廃番もしくは出荷調整、または輸出国により供給に差があるのでしょう。

さて、ここらで古いジョニードラムについてでも語りたいところなのですが、実はその類いの情報はネットで調べてもイマイチ分かりません。80年代後半以前のオールドボトルの画像も皆無と言えます。先に述べた60年代のオリジナルと目されるジョニードラムが、特定の卸売業者のために作成されたということは、流通範囲はかなり限られていたと推察されるので、画像が見当たらないのも仕方ないでしょう。しかし、いくらウィレット蒸留所がジムビームやワイルドターキー蒸留所と較べて生産規模の小さい蒸留所とは言え、これほど過去のボトルの写真がネット上にないのは、60年代のリリース後に継続して製造されていなかったからではないでしょうか。おそらく、時を経た80年代になって主に輸出用のブランド(特に日本)として再開され、アメリカ国内では例えばケンタッキー州限定での販売だったのではないかと想像します。そして、その後全国配給になった…と。これはあくまで私の想像なので話半分で聞き流して下さい。と言うか、詳細ご存知の方はコメントよりご教示頂けると助かります。

先日オークションで丸瓶のジョニードラム12年グリーンラベルが出品されているのを見かけました(年式は不明)。それは「12年」表記の楕円形シール(**)が本体ラベルと別個で付けられていて、私としては初めて見たパターンの物でした。比較的、日本人に馴染み深い(よく見かける)オールドボトルのジョニードラムというと、80年代後半あたりから90年代にかけて流通していたと思われる日本の都光商事のアドレスがラベル正面下部に記載されたボトルかと思います。
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この頃の物はグリーンが8年熟成、ブラックが12年熟成、そして共に86プルーフでした。現行にせよこの時代の物にせよ、色で言うとブラックは常にグリーンより格上のようです。それだけに、上に述べたグリーンラベルの12年があったのに驚いたのです。その後、グリーンはいつの間にか4年熟成になり、プルーフも80に下がりました。ブラックはおそらく90年代後半か2000年代前半頃にNASとなったと思われます。NASのブラックラベルの中身に関しては、一説には4~12年の原酒を使用しているとされます。ただ、この中身の熟成年数は発売年式および生産ロットにより変動している可能性はあるでしょう。ではテイスティングの時間です。

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Johnny Drum Black Label 86 Proof
推定2008年ボトリング。杉、ナツメグ、弱いカラメル、グレープ、僅かなアーモンド、インク。あまり甘くないウッド・スパイス系のアロマ。やや酸味のある味わい。ソフトな酒質。余韻は軽めのスパイスと穀物感が主で、ビタネスを伴いすっきり切れ上がる。
Rating:81.5/100

Thought:ウィレット蒸留所が蒸留を再開したのは2012年からなので、推定ボトリング年からすると、原酒は100%ソーシング・ウィスキーとなります。概ねヘヴンヒルからの調達であるとされるので、エヴァンウィリアムス等と較べてどのくらいの違いがあるのかが気になるところでした。海外のバーボンマニアで、エヴァンウィリアムスに選ばれなかったバレルが樽売りされているのではないか、という趣旨のことを言っている方がいましたが、正直、私には調達方法の詳細は判りません。仮にそうであれ、蒸留したての原酒を購入しているのであれ、マッシュビルを共有するとしても、ウィレットの熟成倉庫でエイジングすれば風味は多少変化する筈です。更にブレンディング(バッチング)の違いも考慮すれば、どのみち異なるバーボンとは言えるでしょう。
で、私の飲んだ感想としては、通常のエヴァンウィリアムスとはかなり違うバーボンであると思いました。強いて言えば、スパイス感の方向性がエヴァンウィリアムスと言うかヘヴンヒルのフレイヴァーぽいような気もしますが、独特の木香とビター感はこのボトル特有かと。また、海外の或るバーボン飲みの方は、いつのボトリングか分かりませんが、ジョニードラム黒ラベルNASをワイルドターキーのレアブリードに似ていた、と言っていました。少なくとも私の飲んだ物や私の舌にはそうは感じられなかったです。それと、日本の酒販店の多くには、ジョニードラム黒ラベルの商品紹介に「12年原酒をメインにブレンド」と書かれています。どこまで信じてよいか判らない情報ですが、確かにタニックなビター感とソフトな酒質はそうであってもおかしくはないかなとは思わせます。飲んだことのある皆さんはどう思われるでしょうか? どしどしコメントお待ちしております。

Value:KBDのリリース中、スモールバッチの物と較べると量産型であろうジョニードラム。特にNASは凄くハイクオリティとは言い難いです。日本では概ね2500円前後の販売価格でしょうか。個人的には現行のエヴァンウィリアムス黒ラベルよりかは美味しく感じましたので、もし同じ価格ならジョニドラを選びます。ですが現行のエヴァンウィリアムス赤ラベルが3000~3500円で買えるなら、そちらを選ぶのが私の好みです。


*軍隊の中で非戦闘員として、戦場での使用のためにドラムを担当した少年のこと。
ドラムは戦場で歩調を合わせるために使われるだけでなく、指揮系統の重要な一部であり、ドラムロールを使用して士官から部隊へ様々なコマンドを通知したと言います。ドラマーには公式の年齢制限がありましたが、しばしば無視され、時として最年少の少年は成人兵士によってマスコットとして扱われました。ドラマーの少年の生活はかなり魅力的に見え、そのため、少年は時々家から抜け出して入隊したのだとか。または、同じ部隊に仕える兵士の息子や孤児であったかも知れないそうです。
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**ジョニードラム15年の昔の物や、イーグル・クエスト、バーボンスター等と共通するデザインの、KBDのバーボンによく使われている「あの」シールのことです。

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