バーボン、ストレート、ノーチェイサー

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タグ:マスターズキープ

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ワイルドターキー・マスターズキープ・ワンは、基本的に年に一度、限定発売される同シリーズの第6弾で、2021年9月にリリースされました(日本では約一年遅れの2022年10月18日に発売)。マスターズキープは毎年異なるテーマを設け、マスター・ディスティラーのエディー・ラッセル自身がコンセプトに沿ってバレルを選び造り上げられます。バーボンとしては長期熟成の「17年(2015)」や「ボトルド・イン・ボンド(2020)」、過去のワイルドターキーの遺産へのオマージュとも取れる「シェリー・シグネチャー」にインスパイアされた「リヴァイヴァル(2018)」や「フォーギヴン」を強力にしたような「アンフォガトゥン(2022)」、ワイルドターキー史上初の限定版ライ・ウィスキーだった「コーナーストーン(2019)」などがあります。
この「ワン」は、二つのレガシーを「一つ」に調和させるところから名付けられました。言うまでもなく二つのレガシーとはラッセル父子を指しています。一つは有名な父ジミー・ラッセル。彼の中期熟成バーボン(具体的には8~10年熟成)好きは周知の事実として知られており、そこでエディは父の好みを反映させるために9年と10年熟成のバレルを厳選しました。もう一つはエディ・ラッセル自身。彼は長期熟成されたバーボンの複雑な特徴に対して情熱を注いでいるので、慎重に熟成させた14年熟成のバレルを少量選びました。そして、それらの原酒を巧みにブレンドし、更にそのバーボンを特別にトーストとチャーを施した新樽に入れ、エディが個人的に気に入っているタイロンのGリックハウスにて非公開の時間を掛けて二次熟成させることで、父と息子の異なる二つの個性が一つになった、と。
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トーステッド・バレル・バーボンは近年人気を高め、2020年代初頭のトレンドの一つとなっています。ここ日本でもミクターズのトーステッド・バレル・フィニッシュは比較的知られているのではないでしょうか。ヘヴンヒルのエライジャクレイグ・ブランドもこの方法で大成功を収め、このカテゴリーには大手メーカーからクラフト蒸溜所まで様々な例が散見されます。それだけにマスターズキープの2021年リリースがトーステッド・バレル・フィニッシュになると聞いて、ワイルドターキーが他のプロデューサーの後を追従しただけであるかのように思われ、「ワイルド・ターキーはアイデアを使い果たしているに違いない」などと落胆したWTファンもいたようです。確かに、過去のマスターズキープのデケイズ(ディケイド)も10年から20年の中期熟成と長期熟成ウィスキーをブレンドしたものでしたから、そのアイディアにはそれほど根本的な違いはなく、有名な親子デュオの二つのプロファイルを一つにすると云うワンの物語は、トレンドの波に乗り遅れたのを取り繕うただのマーケティングのようにも感じられます。とは言え、フィニッシングだけで全てが決まる訳ではなし、選ばれた原酒が希少そうだし、これはこれでワイルドターキーのバーボンであることに意味があるでしょう。

フィニッシングは、既に完全に熟成させたアメリカン・ウィスキーを他のスピリッツやコーヒー等を貯蔵するために使用されてきた樽や従来とは全く異なる新種の木樽などに再度入れ、数ヶ月から数年ほど追加で熟成させる手法です。トーステッド・バレルもその一つ。伝統的なチャーはバレルの内部を高温の炎で40~60秒かけて焼くのに対して、トーストは短時間で一気に熱を加えるのではなく、より低温かつより長時間、木の奥深くまで熱に曝すロー&スロー・アプローチであり、時間が掛かる分コストも掛かります。チャー工程で出来る樽内部の黒ずんだ炭化層は濾過という実用的な機能を果たします。この層自体は本質的に木炭であり、最終的な風味にはあまり影響せず、熟成中に木炭浄水フィルターと同じように機能して新しいウィスキーの望まれない異臭や風味を取り除きますが、寧ろバーボンのお馴染みの愛すべき風味はその炭化層のすぐ下にある「レッド・レイヤー」から生まれ、こちらの層がバーボンの特徴であるヴァニラやキャラメル、ナッツやスパイスなどの芳香成分やフレイヴァー、また色も齎すとされます。そこで、トースティングによって厚いレッド・レイヤーを作り出し、バーボンの特徴を更に際立たせたのがトーステッド・バレルという訳です。トースティングとチャーリングは互いに排他的な効果でありません。多くの蒸溜業者はバーボン・バレルに両方の方法を使います。トーステッド・バレルで比較的知名度があると思われるミクターズの「トーステッド・バレル・フィニッシュ」は敢えてチャーしないセカンド・バレルを使うタイプですが、エライジャクレイグの「トーステッド・バレル」ではトーストした後に表層は黒くはなるものの木材に亀裂が入らない程度の「フラッシュ・チャード」を施しています。或いは「トーステッド」とは名乗られていませんが、ウッドフォード・リザーヴの「ダブル・オークド」も二次熟成に使うバレルは深くトーストした後に軽くチャーリングしていると言います。前述のようにワンのフィニッシングに使われるバレルも「特別なトーストとチャー」を施したと謳っているのですが、何秒焼成したとかの詳細は明かされていません。エライジャクレイグ・トーステッド・バレルやウッドフォード・リザーヴ・ダブル・オークドに近しい製法なのでしょうか? まあ、分からないことは措いておきましょう。
トーステッド・バーボンはヴァニラ、仄かなカラメル、ライトなオーク、ロースト・マシュマロ、スモア、シロップ、ココナッツ等の香りが特徴とされています。但し、トーステッド・バレルを使えば「勝ち確」という訳ではなく、実際には気難しいプロセスでもあるようです。トーステッド・フィニッシュが強過ぎると、ベースとなるウィスキーが圧倒され、異質な味わいのバーボンに変貌してしまうのだとか。トースティングやチャーリングは繊細な作業であり、芸術の域に達していると言われる所以かも知れませんね。では、そろそろワンを注ぐ時間です。ちなみにマッシュビルは75%コーン、13%ライ、12%モルテッドバーリーのワイルドターキーお馴染みのもの。

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WILD TURKEY MASTER'S KEEP ONE 101 Proof
BATCH No. 0001
RICKHOUSE : G
僅かに赤みを帯びた艷やかなブラウン。クミン、香ばしい焦樽、ライスパイス、メープルシロップ、爽やかな野菜感、辛子蓮根、タバコ、スミレ、ヘーゼルナッツ、バター。ツンとした刺激的でスパイシーな香り立ち。時間を置くと甘い香りやフローラルも出た。ややとろみのある口当たり。甘さとスパイスの均整が取れ、柑橘類のアンダートーンとバターぽさもある味わい。余韻はミディアムロングで、香ばしい樽の香りとウッディなスパイスが広がる。液体を飲み込んだ直後から余韻に掛けてがハイライト。
Rating:88.5/100

Thought:凄く美味しいです。通常のワイルドターキー8年と較べると香ばしさが圧倒的でした。溌剌としていて、出て来るスパイスも少し異なりますかね。14年物が含まれてる割に渋みがないのも個人的には好印象。全体的に長熟の雰囲気はあまり感じませんでしたが、ボトルの半分以下の量まで飲み進めると、少し長熟のニュアンスが感じれるようにはなりました。無理やり同じシリーズのマスターズキープで例えるなら、デケイズをより甘くよりフレッシュにしたような味わい(但し、デケイズのほうが深みで勝る)。どこまでがトーステッド・フィニッシュの効果なのか判りませんが、何らかのフレイヴァー強度を上げつつ、他のワイルドターキーにない個性が加わっていると思います。強いて弱点を挙げるなら、殆どのワイルドターキーに感じられるチェリー・ノートがスタンダードのボトルよりも弱くなっているところでしょうか。
このワン、グレンケアンのブレンダーズ・グラスで飲んでも久々に美味しく感じるバーボンでした。今時のバーボンや若い熟成年数のバーボンはグレンケアンでなくてもテイスティング・グラスで飲むと美味しくなく感じることが多いのですが、これは旨かったです。そう言えば、ザ・ライト・スピリットのマーク・Jはワンに関して面白い感想を述べていました。彼は開封直後のワンをグレンケアンで飲んだ時は平凡でドライオークが心地良くないと思ったのに、10日後に今度はブランディ・グラスで試したところ味わいは素晴らしいものに変わっていたと言うのです。その3日後、またブランディ・グラスで飲んでみてもやはり美味しかったので、グラスのせいかも知れないと考え、グレンケアンにも注いでみると、よりドライになったように感じたがそれでも2週間前よりは良かった、と。彼はグラスのせいなのか、瓶の中で空気に触れて香りが開いたのか、科学的な根拠は何もないが、敬遠していたウィスキーを2週間後にはすっかり気に入ってしまったと言い、「ウィスキーよ、どうしてそんなにミステリアスなんだい?」と文章を締めくくりました。私はブランディ・グラスでは試してませんが、酸化による味わいの変化やグラスを変えることによる感じ方の変化を常々不思議に思っていたので、この最後の言葉には大いなる賛同しかないですね。ちなみに、有名なウィスキー・レヴュアーの一人ジョシュ・ピータースはこのワンを大絶賛していました。彼のマスターズキープ・ランキングのトップに君臨しているとして、(金銭的に)余裕があれば1ケース買い占めたいくらいだ、とまで言っています。一方、ワイルドターキーの大家デイヴィッド・ジェニングスは、ラッセルズ・リザーヴが良いという意味でワンも良いが、値段を考慮するとトーステッド・バレルの先達ほど強くはない、という趣旨の評価をしていました。

Value:アメリカでは175ドル、日本では20000円の希望小売価格でした(日本に於ける販売数量は約5000本とされる)。昨今のウィスキー全般の価格高騰からすると、下手にプレミアム価格になっていなければ、高級感のあるパッケージも含めてアリだと思います。但し、ボトル1本に20000円も掛けられないと感じる人のために言っておくと、価格と味わいのバランスを考慮するなら日本で入手し易い8年や12年、ケンタッキー・スピリットやラッセルズ・リザーヴでも十分美味しく、ワンの購入を諦めても泣く必要はありません。一部の人が言うように、通常ラインナップの拡張として「ワイルドターキー・トーステッド・バレル」なるものが70ドル程度でリリースされるのが理想なのかも知れない。しかし、それが実現したとしても、このワンとはまるっきり別物になるでしょう。おそらく、このバーボンが美味しい理由(または高い値付けの正当性)は、トーステッド・バレル云々よりは選ばれた原酒のクオリティにこそあるのではないか?、私にはそう思えます。そのことを信じる人は買えばいい、ワンはそういう製品です。

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ワイルドターキー・マスターズキープ・デケイズはシリーズの第二弾として、ワイルドターキー蒸留所でのエディ・ラッセル自身の勤続35周年を祝ってリリースされました。3人兄弟の末っ子として生まれたエディーことエドワード・フリーマン・ラッセルは、1981年6月5日に同蒸留所でファミリー・ビジネスに参加。当初の肩書は本人曰く「ジェネラル・ヘルパー」でした。草刈りのような雑務や樽の移動から始まって次第に任務を広げ、勤続20年となる頃には樽の熟成とリックハウスの管理責任者となり、2015年には遂に偉大なる父ジミー・ラッセルと並ぶマスターディスティラーに就任したのです。
デケイズ発売前後のワイルドターキーの限定リリースを見ると、父ジミーの勤続60周年を記念した「ダイヤモンド・アニヴァーサリー」を2014年、エディーがマスターディスティラーとして初めの一歩を踏み出した「マスターズキープ17年」を2015年、オーストラリア市場のみでの販売だった「マスターズキープ1894」を2017年、ジミーの過去の作品を再現するかのような「リヴァイヴァル」を2018年とほぼ年次リリースしています。ここから判る通り、デケイズは当初は2016年半ばにリリースされる予定でした。それでこそ35周年に合致しますからね。しかし、理由は不明ながら殆どの市場で2017年2月まで突然リリースが延期されたそう。おそらくボトリング自体は2016年6月頃までになされたと見られます。日本でも延期されたかどうかはよく判りませんでしたが、当時のサントリーの公式プレスニュースでは2016年11月15日発売で、日本国内3480本限定とあります。

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エディの名を冠しているとは言え2015年のマスターズキープ17年は、熟成環境やプルーフに於いてかなり特殊かつ偶発的なバーボンでした(MK17については過去投稿のこちらを参照下さい)。対してデケイズは10年から20年熟成のブレンドなので、エディが意図的にクリエイトしたフレイヴァー・プロファイルのバーボンと言えるでしょう。ブレンドに使用されたバレルは、フォアローゼズ蒸留所の道路を挟んですぐ向かいにある、ワイルドターキーが1976年から所有するマクブレヤー・リックハウスの中央階と上層階から選ばれました。同社の「最も希少かつ最も貴重な樽」の幾つかです。そしてそれらを「17年」よりだいぶ高い104プルーフ、ノンチルフィルタードでボトリング。若いバーボンの活気をバックボーンに、古いバーボンの深みも兼ね備えたバランスが目指されたのかも知れませんね。

ワイルドターキー蒸留所はフレイヴァーフルな味わいを重視し、ボトリング時の加水を最小限に抑える意図から比較的低いバレル・エントリー・プルーフで知られていますが、2000年代にそれを二回ほど変更しました。従来まで107だったのを2004年に110へと上げ、2006年には再度115へと上げています。つまりバレル・エントリーの違いだけに着目すると、
①2004年以前の107プルーフ
②2004年から2006年の110プルーフ
③2006年から現在に至る115プルーフ
と、異なるエントリー・プルーフのバレルがワイルドターキーにはある訳です。デケイズを構成する10〜20年熟成のバレルには、理論上これら三種の全てが含まれていることが可能です。それ故、2012〜2013年のレアブリードを除くと、デケイズは三つのバレル・エントリー・プルーフを使用した唯一のワイルドターキー・バーボンかも知れないと示唆されています。
バレル・エントリー・プルーフに限らず、蒸留所にとって何かしらの変化は珍しいことではありません。それは法律の変更、所有権の変遷、ディスティラーの交代、ブランドの繁栄と凋落、テクノロジーの発展などにより起こり得ます。そして消費者の嗜好もビジネスのあり方も変わり、あらゆるものが時代により変化するのが常。この特別なリリースのワイルドターキーの名称「デケイズ」は年月に関わるワードであり、長期に渡る時代の移り変わりという含みと中身のバーボンの内容を的確に表していると言ってよいでしょう。「Decade」は十年間を意味する言葉です。そこで10〜20年熟成だから複数形の「Decades」と。そして、それだけの歳月にはバレル・エントリー・プルーフに代表される変化があった、と。
ちなみに日本ではこの「Decades」を「ディケイド」と表記するのが一般的。でも実際の発音は「デケイズ」が近いです。正規輸入元だったサントリー自ら「ディケイド」と表記しているので、販売店がそれに倣うのは仕方ないのですが、上の理由によってワイルドターキーが付けた名前なのだから、敬意を払って「s」は省略せずにせめて「ディケイズ」としたほうが良いのでは…。まあ、ここで文句を言ってもしょうがないですけれども。

ところで、デケイズにはバッチ2があるそうです(発売も同じ2017年)。全てのバッチには独自性があり、完全に同じにすることは出来ません。この世に完全同一なバレルが存在しないからです。しかし、蒸留所のマスターブレンダーは、意図的な変更をしない限りバッチに一貫性を齎すのが基本的な仕事です。バッチ1に使用された樽は全てマクブレヤーからでしたが、バッチ2は殆どがマクブレヤーからとされています。つまり、言葉を換えれば少数のバレルは他のウェアハウスから引き出されたということ。エディ・ラッセルは「ストーリー」を一貫させるよりもフレイヴァー・プロファイルを一貫させることを目指した筈です。マーケティング担当者がバーボンの箱やラベルに印刷したストーリーは、常に100%正確であるとは限りません。実際のところ、蒸留技師はマーケティングには余り注意を払わないと言うか関心がないと思います。ディスティラーの職務は物語を書くことではなくウィスキーを造ることですから。バッチ1と2を飲み較べた海外のターキーマニアによると、どちらも同じくらい素晴らしいバーボンであり、バッチ2も紛れもなくデケイズであり、あらゆる点でその名前に忠実とのこと。
では、そろそろ時代を超えたワイルドターキーを注ぐとしましょう。マッシュビルは75%コーン、13%ライ、12%モルテッドバーリーです。

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WILD TURKEY MASTER’S KEEP DECADES 104 Proof
BATCH №:0001
BOTTLE:68703
色はラセット・ブラウン。接着剤、強いアルコール、香ばしい焦げ樽、銅、ビターなカラメルソース、オレンジ、焼きトウモロコシ、ブラウンシュガー、ナツメグ、パイナップル、レザー、輪ゴム。ディープ・チャード・オークが支配的なアロマ。少しとろみのある口当たり。口の中ではグレインとオレンジピールが感じ易く、刺激がビリビリと。味わいはけっこうドライ。余韻は長く、土と煙が現れ、消えゆく最後にふわっと苦味が残る。
Rating:86.5(87.5)/100

Thought:全体的に焦げの苦味が特徴的な印象。10年から20年熟成のブレンドとのことですが、若そうなアルコール感がガツンとありながら、枯れた風味とビタネスが混在するバランス。前回まで開けていたMK17年と較べると、余韻に渋みがないのは好ましく感じました。ですが、MK17年よりもツンとくる刺激臭はかなりありました。そのせいかその他の香りが感じにくく、一、二滴の加水をした方が甘い香りが立ちましたし、味わいにもフルーツを感じ易かったです。そのため上のレーティングは括弧内の点数が加水した場合のものとなっています。もしかして、20数年後に開封して飲んだら微妙な酸化の進行でとんでもなく美味しかったのでしょうかね? そんなポテンシャルを僅かに感じさせる一品でした。但し、デケイズもまたMK17年と同じくオークのウッディネスが強過ぎて、バーボンの魅力である甘いノートを抑えてしまっているような気はします。

Value:アメリカでの希望小売価格は150ドル。日本でも同じくらいで15000〜17000円が相場。オークションだともう少し安く購入することも出来るかも知れません。本国での味わいの評判はなかなか良いのですが、やはりと言うか少し値段が高いという評価を受けています。自分的には正直言ってデケイズを買うならレアブリードでいいかなと思いました。ただ、確かに長期熟成酒のテイストやクラシック・ワイルドターキーっぽさも少しあるので、そこを求めるなら購入を検討してもよいでしょう。或いは、箱やボトルやキャップは豪華でめちゃくちゃカッコいいので、金銭的に余裕があるのなら贅沢な気分を味わうために購入するのはアリだと思います。

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2015年、ワイルドターキーはマスターズキープという名の特別な限定版のラインを始めました。その初めてのリリースが今回紹介する「17年」です。エディ・ラッセルはその年、生ける伝説の父ジミー・ラッセルと並んで正式にマスターディスティラーに就任しました。スタンダードなワイルドターキーとは異なる長期熟成の限定版はジミーのセレクトによって過去に幾つか発売され日本ではお馴染みでしたが、そのエディ版となるものがマスターズキープのシリーズということになるでしょう。エディ曰く、マスターズキープ17年はこれまでに製造したワイルドターキー・バーボンの中で最もユニークなバーボンだと言います。その理由の一つは、この17年という熟成期間はワイルドターキーがリリースしたバーボンの中で最も長い年月を経ていることでした。ワイルドターキーは過去(2001年)に日本限定の木箱に入った17年物の101プルーフのバーボンをリリースしていますが、アメリカ国内では15年物よりも長い熟成年数のバーボンをリリースしたことがありません。レジェンドであるジミーは、バーボンの味は8〜12年が最も良いと考えるため、長熟バーボンをあまり好まないという有名な話があって、そういう点からするとMK17にはエディらしさが強く出ています。そして、熟成年数以上にこの17年を特別なものとしたのは、それが造られたバーボンが三つの異なる熟成環境にあったことです。箱に記載されている「№1ウッド、№2ストーン、№3ウッド」というのがそのことを示しています。
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1996年にワイルドターキーはオンサイトの倉庫スペースが不足したため、オフサイトのストーン・キャッスル蒸留所の石造りのウェアハウス(オールドテイラー蒸留所とオールドクロウ蒸留所が一部共有する)で樽を保管し始めました。2010年になると保管されていた樽は再びワイルドターキーに移されました。1996年から2010年までストーン・キャッスルでは様々な熟成年数のワイルドターキー約80000バレルが熟成されていたと言います。つまり「№1ウッド、№2ストーン、№3ウッド」というのは、初めワイルドターキーの木材と金属の組み合わせで造られた熟成を加速する温度と湿度の変動にスピリッツを晒す倉庫で暫く過ごした後、それとは対称的なストーン・キャッスルの安定した室温と多湿により緩やかに熟成する比較的冷涼な倉庫に移され、最終的にまたワイルドターキーの木材/金属の倉庫に戻ったマスターズキープ17年の来歴なのです。

マスターズキープ17年のプロファイルは、17年の熟成期間のうち14年を過ごしたストーン・キャッスルによって大きく影響されたでしょう。それはプルーフにも端的に現われました。ワイルドターキーと言えば101プルーフ、101プルーフと言えばワイルドターキーです。なのにマスターズキープ17年は86.8プルーフしかありません。しかし、実はマスターズキープ17年は、ほぼバレルプルーフでボトリングされています。樽から取り出された時のバッチ・プルーフは、ケンタッキー・バーボンとしては異常に低い89(または88.4とも)プルーフでした。それが更に濾過中にプルーフが失われ、ボトリング時には86.8プルーフになったと言います。これは一般的な多くのバーボンよりも涼しく湿った環境で熟成された独特の貯蔵条件の結果であり、偶発的なエイジング・プロセスに起因すると考えられています。
石は木材よりも優れた断熱材です。そのため石造りの倉庫内は木製のリックハウスに較べて、温度は概ね低く、大きな変動もしません。ワイルドターキーのリックハウスはケンタッキー・リヴァーを見下ろす大きな断崖の上にあり空気循環も良好ですが、オールドクロウ(ストーン・キャッスル)は険しい谷の南側にあってワイルドターキーより数マイル北に位置するにも拘らず、比較的涼しい上に湿度が高く風もあまりないため一般的に気候安定性に優れ、その結果ウィスキーはゆっくりと穏やかに熟成し、熟成感がありながらも軽やかなプロファイルを有するとされます。涼しく湿った石造りの倉庫はバーボンよりもスコッチの典型的な熟成環境に近く、アルコールは水よりも早く蒸発し、ケンタッキーに典型的な木製倉庫とは逆にプルーフ・ダウンすることもあり得る、と。にしても、1996年に樽詰めされた時、おそらくは107のバレル・エントリー・プルーフだったバーボンが89プルーフに下がるとは…。何度もバレルを移動したことによる影響もあったのでしょうか。ともかく、熟成の神秘を感じさせる事例ですよね。では、その神秘の一端を頂いてみるとしましょう。ちなみに、マシュビルはその他のワイルドターキー・バーボンと同じ75%コーン、13%ライ、12%モルテッドバーリーです。

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WILD TURKEY MASTER'S KEEP AGED 17 YEARS 86.8 Proof
BATCH № : 0001
BOTTLE № : 67332
接着剤、香ばしい焦樽、古い木材、スパイシーヴァニラ、キャラメルマキアート、タバコ、ムギムギ、アーモンド、ジンジャー。パレートはシロップとオレンジ。口当たりは水っぽい。余韻は度数の割に恐ろしく長いが、過剰に渋い。
Rating:87.5→84.5/100

Thought:先日まで開封していたダイヤモンド・アニヴァーサリーと較べると、香りはこちらの方が甘くなく、接着剤が強すぎるように感じました。スイートな香りもあるのですが、接着剤が邪魔をして感じにくいと言うか…。それでも口に含んだ時はフレイヴァーフルでした。もう口に含んだ瞬間にDAより「あっ、旨っ」となる程に。しかし余韻はウッドに傾き過ぎた嫌いがあります。海外のレヴューを参照すると、最高の香りや味わいではないけれどクラシックなターキー・フレイヴァーとの評が多く、期待していたのですが自分にはマッチしませんでした。おそらくジミーの長熟バーボンに対する否定的な発言を聴く限り、これこそ彼の嫌いな味ではないかと思えるほどバーボンの魅力である甘い香味がウッドの渋味によって掻き消されているように感じます。
タイロンのターキーの熟成庫とストーン・キャッスルの熟成庫の違いが齎す「差」については、正直よく分かりません。確かにターキーらしさを感じる一方で、通常のターキーと違うフィーリングもあるのは分かりますが、それが熟成年数の長さから来るのか熟成庫のスタイルや環境の違いから来るのかが分からないのです。
上のレーティングで点数が下がっているのは、実は味わいの変化が大きかったためです。開封したては味も濃く感じて大変美味しかったものの、何故か一週間経つと余韻に渋さが急に目立ち出し、それは飲み切るまで変わりませんでした。私のボトルだけがそうだったのか分からないので、飲んだことのある方の意見を募りたいです。皆様、コメントより感想をお寄せ下さい(追記1)。海外のレヴューでMK17を過剰に渋いと言ってる方は見当たらないんですよね…(追記2)。私の舌がおかしいのでしょうか?

Value:このバーボン、アメリカでは150ドルのMSRPでして、日本でも当初17500円くらいの値札が付けられました。自分としてはマスターズキープ17年は一級のバーボンではありませんが、箱を含めターキーが施されたボトル形状や重厚な銅製のストッパー等はデザイン性と高級感に優れた素晴らしいパッケージングです(ちなみにボトルはデザイン・エージェンシーのパールフィッシャー・ニューヨークが手掛けています)。また興味深いストーリーもあります。味だけでないそういう側面を考慮するなら「買い」でしょう。ですが、お酒を味のみに対してお金を払っているという感覚の方にはスルーをオススメします。ちなみに私が味のみで評価するなら5000円の価値もありません。但しこれは、私が潜在的に90年代のワイルドターキー12年101と較べる脳を持っているから辛口の評価になってしまった可能性はありますし、基本的に長熟バーボンを好まない個人的傾向があるだけで、そもそも超長期熟成酒を好む方なら真逆の評価はあり得るとだけ付け加えておきます。

追記1:私のバーボン仲間で、冷凍庫でキンキンに冷やした幾つかのワイルドターキーの限定版を飲み比べした方がいるのですが、その彼によるとこのMK17は甘かったとのこと。私は真夏でもストレートでしか飲まないので分からないですけど、もしかすると冷したりロックで飲むと渋味が感じにくくなって甘さが引き立つのかも知れません。

追記2:私がやっているInstagramのDMで海外のバーボンマニア様から直接この記事を見た感想を頂けました。その方は私の感想に賛同してくれまして、近年のワイルドターキーの長熟物にはコーラやルートビアのような風味がする場合もあるが、多くは渋みと言うのかケミカルなノートが感じられると仰っていました。
ちなみに、マスターズ・キープで17年と言うと、もう一つこれの数年後にリリースされた「ボトルド・イン・ボンド」があるのですが、そちらに関しては日本のバーボンマニアの方が渋いと言っていました。味覚は人それぞれかも知れませんが、こういった意見を聞くと、私の味覚が特別おかしい訳ではなさそうで安心しますね。

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