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ローワンズ・クリークはケンタッキー州バーズタウンのウィレット蒸留所(KBD)で製造されているスモールバッチ・ブティック・バーボン・コレクションの四つのうちの一つです。その他の三つはノアーズ・ミル、ピュア・ケンタッキーXO、ケンタッキー・ヴィンテージとなっています。価格から言うと、ローワンズ・クリークはこの中では上から二番目の位置付け。コレクションの成立は90年代半ば(一説には94年)とされます。当時の業界ではプレミアムなバーボンが胎動し始め、ジムビームもスモールバッチ・コレクションを開始するなど、そのコンセプトは軌を一にしていました。
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(画像提供K氏)
ローワンズ・クリークの名は蒸溜所の敷地内を流れる小川にちなんで付けられました。その小川は1700年代後半から1800年代前半に掛けてケンタッキー州の政治家であったジョン・ローワンにちなんで名付けられ、彼のフェデラル・ヒルの邸宅はスティーヴン・コリンズ・フォスターの歌曲「マイ・オールド・ケンタッキー・ホーム」にインスピレーションを与えたと言われています。このバーボンは、ノアーズ・ミルと手描きのようなラベルの雰囲気やワイン・タイプのボトルといった共通点があり、更に熟成年数とボトリング・プルーフが少し低く、尚且つ安い価格ということもあって、その姉妹品というか弟分のように認識されていました。「ベイビー・ノアーズ・ミル」と呼ばれているのも見かけたことがあります。もっと言うと、ローワンズ・クリークはノアーズ・ミルより一段劣る廉価版と常に考えられていた節があります。しかし、だからといって品質が劣った製品という訳ではなく、飲み易さと財布への優しさが魅力だったためか、2011年当時の情報によるとアメリカの27州で販売され、KBD(ケンタッキー・バーボン・ディスティラーズ)が生産するバーボンの中で最も売れている銘柄だったそうです。ローワンズ・クリーク・バーボンが長期に渡ってKBDのポートフォリオに於いて重要なブランドだったとされる所以でしょう。個人的に、オールド・タイミーな雰囲気の薄茶のラベルとマルーン色のワックス(及びフォイル)の組み合わせは凄く好きなデザインです。ところで、ワイルドターキーのような101ではなく100.1という小数点まで使ったボトリング・プルーフは一体何なのでしょうか? ハンドメイド感の演出? 或いは単なるユーモア? まあ、それは措いて、このローワンズ・クリーク、初登場から今に至るまで外観はそれほど大きく変化しませんでしたが、中身はかなり変化しました。ここからはその変遷を追ってみましょう。

しかし、実はこのバーボンの中身のジュースの明確な詳細は、発売当初から今に至るまで不明です。周知のように、ウィレット蒸溜所は2012年から自家蒸溜を再開しましたが、それまではKBDとして他の蒸溜所からバレルを購入していました。従ってローワンズ・クリークも他の製品も、発売からある時点までは実際には別の生産者によって蒸溜され、KBDによってブレンド及びボトリングされたものでした。彼らは、ローワンズ・クリークに限らず、自らの製品に就いて明瞭に語ることは殆どなく、どこで蒸溜されたウィスキーなのかは推測の域を出ません。軈て、自社の蒸溜原酒が熟成するにつれ、それらはボトリングされるようになり、2020年頃には殆ど全ての製品がバーズタウンにある自社製に切り替わっていると見られています。その頃からラベルに記載される事業名が、ローワンズ・クリーク・ディスティラリーからウィレット・ディスティラリーに変更されました。ここら辺の現代ローワンズ・クリークも、公式にマッシュビルや熟成年数などのスペックは公開されてはおらず、他ブランドとどういった造り分けをしているのか謎のままです。これらを念頭に置いて見て行きます。

発売された当初、ノアーズ・ミルとローワンズ・クリークにはエイジ・ステイトメントがありました。前者が15年、後者が12年です。この熟成表記は、メイン・ラベルの上に貼られた細いラベルに余り目立たない感じで記載されていました。また、この頃の物(*)はボトルの横もしくは後に貼られたバッチ・ラベルに、蒸溜年とボトリング年が手書きで記されています。
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12年表記のある初期のローワンズ・クリークは、文字通り最低でも12年熟成、もしくはもっと長い熟成バレルを使ったブレンドもあった可能性はあります。実際、今回私が開栓した12年表記のあるローワンズ・クリークは、蒸溜年とボトリング年を参照すると13年熟成となっていますし(上画像参照)、他のバッチでも12年熟成以上の物を見たことがあります。スモールバッチ・バーボンの代表的な銘柄であるブッカーズに記載される熟成年数が最も若いバレルの物であるのと同様に、ローワンズ・クリークのバッチ・ラベルに記載されている蒸溜年も最も若いバレルの物でしょう。この頃のバッチング・サイズは10樽程度と何処かで読んだ気がしますが、本当かどうかは判りません。
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おそらく発売当初は豊富にあった長期熟成バレルはバーボン需要の増加に伴って少なくなり、ノアーズ・ミルとローワンズ・クリークの両ボトルともエイジ・ステイトメントを失いました。切り替わりの正確な時期が特定できないのですが、2006年後半あたりからではないかと思われ、少なくとも2011年までには完全に切り替わっていた筈です。そして、NASとなってからは若いバレルも混和するようになり、2011年の情報では「5年から15年のバーボン樽のコレクション」とされていました。また、同情報源によれば「どの樽を使い、どの樽を使わないかという固定観念に囚われることはない」と言われていました。その言葉からすると、もう少し熟成年数の幅は前後することもあると思われます。バッチング・サイズは、おそらく当時は15バレル程度かな? このNASのローワンズ・クリークのレヴューを参照すると、やや若い味がするとか、若いアルコールのキツさがあるとの指摘が見られ、5〜15年の熟成バレルの構成は主に若い熟成のバーボンに少し長熟バーボンが混じっている配分なのではないか、と考える人もいます。
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2013年後半頃には、これまたローワンズ・クリークとノアーズ・ミルともに、ワックス・トップだったものがフォイル・トップへと変更されました。これらのワックス・トップとフォイル・トップにはテイスティング・プロファイルに違いがないと考える人もいれば、あると信じる人もいました。あると信じる人達はより若くなったと感じたようです。まあ、ワックスかフォイルの違い以前に、ローワンズ・クリークにはバッチ間の差もかなりあると言われています。その出来にはバラつきがあって素晴らしいものもあれば殆ど飲めないものまである、と言っている人も見かけました。個人的には飲めないほど酷い物はないと信じていますが、SNS等でローワンズ・クリークに限らずウィレットのスモールバッチ・バーボンを「美味しい」と投稿している方には、せめてバッチ番号を明記して欲しいとは思います。そうでないと、どの時代の物を美味しいと言っているのか判りにくいので…。それに、大規模な蒸溜所の「大きな」スモールバッチですらシングルバレルに劣らず個性的であるのに、実際にはヴェリー・スモールバッチと呼んだほうが適切な数十樽のスモールバッチは尚更そうですから。

偖て、90年代から2010年代半ばまでのローワンズ・クリークは、他のスモールバッチ・ブティック・バーボン・コレクションの面々やジョニー・ドラム及びオールド・バーズタウンといった主要なブランドと同様にソースド・バーボンでした。その大半はヘヴンヒルのバーズタウンの蒸溜所かルイヴィルのバーンハイム蒸溜所から仕入れていたのではないかと見られています。しかし一方で、KBDは長年に渡ってほぼ全ての主要な蒸溜所(メーカーズマーク以外とされる)のウィスキーを入手しており、彼らは個性的なフレイヴァー・プロファイルを得るために異なる蒸溜所のバレルを混ぜ合わせていたとも言われています。当時は多くの人がヘヴンヒルやバートンのウィスキーをボトルに入れただけと思っていましたが、2つかそれ以上(3つか4つ)の蒸溜所のウィスキーのマリッジだった、と。KBDの社長エヴァン・クルスヴィーンは手持ちのウィスキーから素晴らしい風味を生み出す達人であり、様々な業者から入手可能になる度にバレルを調達していた結果、彼とブレンディング・チームは少量のウィスキーをブレンドして各ブランドに合う風味を造り出すことに熟練するようになった、と。勿論、詳しい構成比率が明かされる訳もなく、全ては謎に包まれています。

そして、ウィレットの製品は現在では100%自家蒸溜物に移行したと考えられています。しかし、一体いつローワンズ・クリークが自身の蒸溜物に切り替わったかはよく判りません。仮に熟成年数4年程度でボトリングしているならば、2012年から蒸溜を再開したことを考慮すると、早くて2016年から新ウィレット原酒を使用することは可能ではあります。また、よく分からないのが他の蒸溜所産のウィスキー、つまり何処かから調達した旧来のストックと、自前の蒸溜所産の新しいウィスキーを混合しているのかどうかです。個人的には味わい的に混ぜてないような気がしますが、どうなのでしょう? 皆さんはどう思われますか? バッチ毎の味わいの違いに関する情報などと合わせて、仔細に精通している方は是非ともコメント欄より情報提供下さい。で、現在のウィレット蒸溜所には以下のような4つの異なるバーボン・マッシュビルがあります。

①オリジナル・マッシュビル
72%コーン/13%ライ/15%モルテッドバーリー

②ハイ・コーン・マッシュビル
79%コーン/7%ライ/14%モルテッドバーリー

③ハイ・ライ・マッシュビル
52%コーン/38%ライ/10%モルテッドバーリー

④ウィーテッド・マッシュビル
65%コーン/20%ウィート/15%モルテッドバーリー

ソーシング・ウィスキーではない現在のローワンズ・クリークのマッシュビルに就いて調べてみると、4つのマッシュビルのブレンドとしているもの、①としているもの、味わいから②と推測するもの、更にはハイ・ライ・バーボンであることは確かだとする説もあったりと、てんでバラバラで混乱するばかりです。熟成年数は、5〜7年ではないかと推測するものや、推定8年程度であると考えられているとするものがありました。孰れにせよ正確な熟成年数も不明です。バッチによって一貫性がないとされるスモールバッチ・バーボンですから、何ならマッシュビルの変更やバッチングに使用されるバレルの熟成年数の変化だってあったのかも知れない。まあ、判らないことは措いておき、そのうち何か情報が入れば追記することにしましょう(※追記あり)。

では、そろそろ注ぐ時間です。今回は自分の手持ちの12年表記のある2006年ボトリングとNASの2017年ボトリングを開封しました。この2つに加え、バーボン仲間のK氏から2つのサンプルを頂けたので、計4つの年代別バッチ別の比較が可能となりました。画像提供も含め、いつも本当にありがとうございます。バーボン繋がりに乾杯!

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ROWAN'S CREEK Twelve years 100.1 Proof
BATCH QBC No. 06-94
推定2006年ボトリング。赤みを帯びたダークブラウン。床用ワックス、フローラル、焦樽、オールドファンク、トフィ、杉、ベーキングスパイス、土、アプリコットジャム、抹茶ミルク。よく熟成したバーボンの香り。プルーフから期待するよりは緩いが、とろりとした口当り。味わいは甘く、スパイシーかつフルーティとバランスが良い。そして何より味が濃い。余韻はミディアムで、ややビター。
Rating:88/100

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ROWAN'S CREEK NAS 100.1 Proof
BATCH QBC No. 17-67
推定2017年ボトリング。パイナップル、グレイン、蜂蜜ハーブのど飴、シリアル、グレープジュース、ビール、プラム、ヨーグルト、マッチの擦ったあと。香りはフルーツの盛り合わせ。ややとろみのある口当たり。パレートはフルーティな甘みと共に穀物の旨味が凄い。余韻は最後に少し苦味。
Rating:87.5/100

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(画像提供K氏)
ROWAN'S CREEK NAS 100.1 Proof
BATCH QBC No. 12-135
推定2012年ボトリング。ワックス・トップでNASの物。ウッドニス、プリンのカラメルソース、穀物、カカオ、木の酸、ナツメグ、ヴァニラウエハース。清涼感を伴った仄かに甘いアロマ。味わいは薄っすらフルーティで穏やかなスパイス感。余韻はミディアム・ショートで、ほんのり甘みが来てから一気にドライになって切れ上がる。
Rating:83/100

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(画像提供K氏)
ROWAN'S CREEK NAS 100.1 Proof
BATCH QBC No. 21-9
推定2021年ボトリング。四つの中でこれのみラベルの記載がローワンズ・クリーク・ディスティラリー名義ではなくウィレット・ディスティラリー名義。僅かにゴールドがかったブラウン。紅茶、蜂蜜、檸檬、焦げ樽、フローラル、塩、ゴム、ピーナッツ、ジンジャー。香りは蜂蜜レモンティー。ややオイリーで滑らかな口当り。パレートではほんのり甘いオークの風味が感じ易い。余韻はミディアムでダージリン・ティー。
Rating:85.5/100

Thoughts:バッチ06-94は、明らかに長熟バーボンのオールドな風味を感じます。しかし、それは不快ではない程度に収まっており、却って心地良いくらいでした。そういったオールド感も含めてバランスの良いバーボンという印象。香りや味わいは、ヘヴンヒルぽくは感じましたが、微妙に異なる風味もあって、例えて言うとエヴァン・ウィリアムス12年をフォアローゼス・プラチナで薄めたような味わいですかね。それは兎も角、これが往時3000〜5000円程度で買えていたと思うと驚異です。今なら12000円位から、ブランディングによっては20000円を超えてリリースされそうなクオリティ。
バッチ17-67はアロマだけで新ウィレット原酒と思いました。一言でいうと穀物フルーツ系バーボンです。飲んだ印象としてはライ麦の要素があまりないように感じたので、マッシュビルは②かなと予想しますが、まあ分かりません。ミックス・マッシュビルかも知れないですし。私が以前に飲んだケンタッキー・ヴィンテージやピュア・ケンタッキーXOの特定のバッチと較べてみると、幾分か穀物感とフルーツ感で上回るように感じましたが、だからと言ってそれが取り立てて明確に上位の味わいとは思えませんでした。特にオールド・バーズタウン・エステート・ボトルドと比べるとミルキーなテイストを欠いており、価格が上がる割に良いフレイヴァーがないのは気掛かりです。とは言え、ウィレット蒸溜所が生産するウィスキーは非常に自分の好みに合っており、私は彼らの比較的若いウィスキーでも楽しめる消費者の一派に入るので、美味しいのは間違いありません。
バッチ12-135は、全体的なフレイヴァー・バランスは整っているのですが、12年物と較べるとアロマもテイストも何もかもが薄いと感じました。アルコールのピリピリ感もあって、確かに若い原酒の比率がかなり高くなった印象を受けます。サイド・バイ・サイドで12年物と較べるからスケールが小さく感じるとは言え、他のバーボンとの比較に於いても特に誉めるべき点は見つからず、逆に特に悪いところもない凡庸なバーボンという感想でした。正直言って、ローワンズ・クリークというブランドから自分が抱く勝手なイメージからすると期待外れな出来です。
バッチ21-9は紅茶でも飲んでるかのような味わい。同じ新ウィレット原酒と思われるバッチ17-67とフレイヴァー・プロファイルがかなり違うのが面白かったです。こちらはバッチ17-67と較べると、自分が今まで飲んで来た新ウィレット原酒に感じ易いと思っているハーブのど飴のような複合的なハーブとグレープを殆ど感じれず、それが点数を下げる要因となりました。それにしても、何故これ程までにプロファイルが異なるのでしょうか? もしかしてマッシュビルの変更があったのかしら? これがミックス・マッシュビルなの? それとも単にバレル・セレクトの違いなのか…。海外の有名なバーボン・レヴュワーがローワンズ・クリークに対して、本質的に悪いところはないがウィレットが蒸溜するようになったという事実以外に特筆すべき点もないとか、同価格帯のより有能な他のボトル(ブランド)には敵わないとか、評判の悪いウィレット・ポットスティル・リザーヴと同じような風味がする、と評しているのを目にするのですが、それがバッチ17-67のような味わいに言われているのか、それともバッチ21-9のような味わいに言われているのか、はたまた両方なのか、これが判らない。ウィレット蒸溜所のウィスキーを色々飲んでいる皆さんはどう思われますか? コメント欄よりご意見ご感想、お待ちしております。

Value:「12年」表記のあるローワンズ・クリークは、古い物なのでオークション等である程度の価格は覚悟しなければならないでしょう。しかし、もし貴方が古典的な熟成バーボンを好むなら素晴らしい価値のある製品です。現行のローワンズ・クリークは、アメリカでは地域差がありますが大体40〜45ドル程度、日本では大体6500円くらいで売られています。もし貴方が近年のウィレット蒸溜所のウィスキーのフレイヴァーを愛するなら、バッチ毎の違いはあるかも知れませんが、概ねオススメ出来る製品だと思います。これらの中間に当たる時代のローワンズ・クリークは、少々中途半端と言うかあまり印象に残らないバーボンで、正直それほどオススメではありません。


*初期の物でも蒸溜年が記されていないものや、「E」で始まるバッチ番号の物を見かけたことがあります。

追記:現行のマッシュビルは72%コーン、13%ライ、15%モルテッドバーリーのオリジナル・マッシュビルだそうです。

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