バーボン、ストレート、ノーチェイサー

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タグ:白ラベル

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ヴェリー・オールド・セントニック(VOSN)は、1980年代後半に若き日のマーシィ・パラテラが当時活況を呈していた日本市場向けのブランドとして、主に過剰供給時代のアメリカン・ウィスキーを使ってスタートしました。このブランドはヴァン・ウィンクルやハーシュの様々なラベルと共にプレミアム・アメリカン・ウィスキーの潮流を創り出したと評価され、現代のバーボン・ブームの魁だったと見做すことが出来ます。元々はジュリアン・ヴァン・ウィンクル3世がローレンスバーグにあるオールド・コモンウェルス蒸溜所で少量をボトリングし、その後すぐにバーズタウンのケンタッキー・バーボン・ディスティラーズ(KBD)がボトリングするようになりました。そして、その初期の頃から当時は人気のなかったライ・ウィスキーをボトリングしていたブランドでもありました。ブランドの初期の物はラベルが大きいのが特徴です。一般的なバーボンではあり得ないほど大きなこのラベルは決して意図したデザインではありませんでした。ボトルを選ぶ前にラベルを当て推量で作ってしまい、実際に使うボトルには大き過ぎたラベルとなってしまったらしいのです。おそらくマーシィには潤沢な資金がある訳でもなく、せっかく作ったラベルを廃棄する選択肢はなかったと思われ、そもそも大量にラベルを作成していなかったこともあり、数ロットでそれを使い切った後、本来の意図通りの小さいと言うか普通のサイズに変更したのでしょう。この大きなラベルは初期VOSNに他のバーボンとは一線を画す異質の趣を齎しており、そのブランドの名前やお爺さんのスケッチを一際引き立たせています。発端は偶然とは言え、発売当初の日本のバーボン・ドリンカーに超然とした神秘的なブランドという印象を与えるのに役立ったのではないかと個人的には思います。
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ヴェリー・オールド・セントニック・ウィンター・ライはブランド初期の頃からあり、プリザヴェーション蒸溜所が出来た後の現在のラインナップでも継続してリリースされています。「ウィンター・ライ」という言葉は平たく言うと冬期に栽培されるライ麦の総称ですが、このウィスキーが自ら蒸溜していない原酒を他所から購入して販売するソーシング・ウィスキーであること、後にサマー・ライという(ネット検索してもVOSNが多く出て来てしまう)あまりライ穀物としては一般的ではない名称のヴァリエーションが発売されていること、また後にオールド・マン・ウィンターというVOSNの姉妹ブランド的な?ラベルが作成されていること等を考慮すると、ここで言うウィンター・ライと言うのは使われている原材料を表しているよりは、単に響きの良い語感を利用したマーケティングなのではないかと思われます。バック・ラベルを見てみると、以下のように書いてあります。私は英語が母国語ではないですし、癖の強い筆記体で書かれているため読み間違っているかも知れないので、その場合はコメントより訂正して下さい。
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Winter nights after supper we'd sit by the fire. That's when grandaddy would go down to the cellar and fill up his jug from his tiny old oak barrel. We'd tell stories, drinking grandaddy's "winter rye" his favorite, very old and smooth. He'd only pour enough to take the chill off the snowy Kentucky night. Now that grandaddy's gone we got a little extra to share.
(冬の夜、夕食が終わると、あたし達は暖炉のそばに座ったの。そんな時、おじいちゃんはセラーに降りて、ちっぽけな古いオーク樽からお酒をジャグに満たしたものよ。あたし達は語らいながら、おじいちゃんのお気に入りの「ウィンター・ライ」を飲んだんだ、すごく古くて滑らかなやつよ。雪の降りしきるケンタッキーの夜の寒さをしのぐのに十分な量しか注いでくれなかったけどね。おじいちゃんが亡くなった今、ちょっと余分に分けてもらっちゃった。)
これを見る限り、ブランドのウィンター・ライという名称は、祖父と冬場に飲んだライ・ウィスキーの思い出から名付けられているようです。まあ、フィクションだと思いますが、なかなか良い感じの宣伝文句と言うか小話ですよね。

で、この初期のウィンター・ライを誰がボトリングしているのかですが、私の認識では単純にこのラージ・ラベルや発売元が東亜商事となっていて日本語で紹介文の書かれているインポーター・ラベル(下画像参照)が背面に貼られたものはジュリアン・ヴァン・ウィンクル3世のボトリングなのかなと思っていました。と言うのも、90/91年頃によく使われていたこのインポーター・ラベルは、ペンシルヴェニア1974原酒を使ったハーシュ・リザーヴやカーネル・ランドルフ、オールド・ブーン1974原酒を使ったヴァン・ウィンクル・ファミリー・リザーヴ、そして大きなフロント・ラベルのVOSNバーボン(12年90プルーフ/114.3プルーフ、15年107プルーフ/114.8プルーフ、17年94プルーフ/116.2プルーフ/119.6プルーフ)に貼られており、ジュリアン3世が日本市場向けにボトリングした高級なボトルのシリーズのために作られたように見えるからです。
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ところが、今回飲んだヴェリー・オールド・セントニック・ウィンター・ライのラージ・ラベル(トップ画像右)の背面を見てみると、バーズタウン表記のバック・ラベルに東亜商事の小さいインポーター・ラベルという組み合わせとなっていて、このパターンは初めて見ました。
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比較的見かけ易く、最初期と思われるウィンター・ライのラージ・ラベルの背面には上述の日本語で紹介文の書かれたインポーター・ラベルが貼られています。だからこそ私はジュリアンがボトリングしたものかと思っていた訳ですが、今回のウィンター・ライを見て「あれ? このラベルのウィンター・ライでもKBDがボトリングしてるのか」と思いました。家に帰ってから、ウィンター・ライのラージ・ラベルの背面に貼ってある紹介文付きインポーター・ラベルの画像を加工して弄ってみると、その下にあるバック・ラベルが透けて「Bardstown, Kentucky」が浮かび上がりました。他の部分を見ても明らかに今回飲んだウィンター・ライと同じバック・ラベルに見えます。
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このラージ・ラベル+紹介文付きインポーター・ラベルとバーで飲ませて頂いたラージ・ラベル+紹介文なしインポーター・ラベルのどちらが古いのか、或いは紹介文付きのラベルがなくたまたま紹介文なしのラベルが貼られただけでボトリング時期は同じなのか、私には判りません。しかし、少なくとも私はVOSNライのこれら以上に古いボトルは見たことがないので、おそらくジュリアンはマーシィのためにライをボトリングしていないのでしょう。マーシィはジュリアンに「ライ麦を飲むのは年寄りだけだ」と言われたそうです。きっとマーシィは当時誰も顧みなかった時代遅れの産物ライ・ウィスキーに光を当てたい、或いは日本市場であれば売れると踏み、ジュリアンにライをリクエストしたのだと思います。彼が後にオールド・リップ・ヴァン・ウィンクル・オールド・タイム・ライやヴァン・ウィンクル・ファミリー・リザーヴ・ライに用いた84年か85年に蒸溜されたメドリー・ライを入手したのが、ユナイテッド・ディスティラーズがその資産を売りに出した時なのだとしたら、91年か92年以降のことでしょう。だから、ジュリアンはマーシィのリクエストに応えられなかったのではないか、と。或いは、ジュリアンが80年代後半の時点でメドリー・ライのバレルを所有していたとしても、VOSNは名前が表すように高齢ウィスキーが特徴ですから、何だったらマーシィは長熟のライを欲しがったのかも知れない。メドリー・ライに84年か85年に蒸溜されたものしかないのなら、91年か92年の時点でそのウィスキーは6〜7年熟成となります。VOSNバーボンは最も若くても8年熟成でリリースされていました。そこでマーシィはもう一人のレジェンドであるエヴァン・クルスヴィーンのKBDに目を向け、彼に頼んでストックしてあったライをピックしてもらったのではないでしょうか。では、中身は何処から? はい、例によってKBDは秘密主義なので原酒は謎です。後にリリースされた伝説的なライのソースを考慮すると、旧バーンハイムもしくはエンシェント・エイジで蒸溜されたクリーム・オブ・ケンタッキー・ライである可能性が高いように思えます。ですが、KBDもメドリー・ライのバレルを所有していたのならそれかも知れないし、ヘヴンヒルやバートンを疑うことも出来そうですし、結局は分からないとしか言いようがありません。

偖て、もう一方のヴェリー・オールド・セントニック・エンシェント・ライ・ウィスキー17年の方はと言うと、こちらは1990年代末から2000年代初め頃に用いられたデザインのラベルかと思います。正直、私には発売時期および期間、幾つのバッチがあったのか等は正確に判りませんので、詳細をご存知の方はコメントよりご教示ください。このラベルは通常のVOSNより更に熟成年数が高めなのが特徴で、中熟物もありましたが殆どは20年オーヴァーの高齢ウィスキーを使ったリリースであり、バーボンのヴァリエーションにはエステート・リザーヴ8年ドリップド・カッパー・ワックス86プルーフ、20年ブルー・ワックス94プルーフ、22年ドリップド・レッド・ワックス81.2プルーフ及びドリップド・ゴールド・ワックス81.2プルーフ、23年ドリップド・ゴールド・ワックス81.2プルーフ及びカッパー・ワックス82.6プルーフ、24年ドリップド・ゴールド・ワックス81.2プルーフ及びブラック・ワックス81.2プルーフ、25年ドリップド・ゴールド・ワックス81.2プルーフ及びゴールド・ワックス86.4プルーフとありました。ライにはこの17年ドリップド・シルヴァー・ワックス103.7プルーフ以外に、12年ドリップド・シルヴァー・ワックス103.6プルーフ、15年ドリップド・ホワイト・ワックス86プルーフ、18年ドリップド・ゴールド・ワックス104.6プルーフとありました。これらは画像で見たものを纏めただけなので他にもあるのかも知れません。またワックスの色に関しても画像を視認しただけなので誤っている可能性があります。で、こちらのエンシェント・ライ17年の中身に就いても、これまた明確には判りません。熟成年数などを考えると、やはり旧バーンハイムのCoKRではないかと思うのですが…。では、最後に飲んだ感想を少しだけ。

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Very Olde St. Nick Winter Rye 101 Proof
推定90〜91年頃のボトリング。
Rating:87/100

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Very Olde St. Nick Ancient Rye 17 Years 103.7 Proof
推定2000年前後のボトリング。
Rating:87/100

Thought:少量しか飲んでないので大したことは言えませんが、どちらもアニス、リコリス、土っぽさなどが現れるタイプのライ・ウィスキーかなと思いました。今回飲んだこのウィンター・ライのラベルには熟成年数の記載はありませんが、上で言及した日本語で紹介文の書かれたインポーター・ラベルには9年熟成と明記されています。これもそれと同じ物と見做していいのなら、この二つは9年と17年という熟成期間にかなりの差があるにも拘らず、どちらもフルーティよりはウッディに傾きがちで、何だか似たような風味に感じました。強いて違いを言うと、エンシェント・ライ17年の方が僅かにオールドファンクを伴ったミント感が強いくらいでしょうか。ウィンター・ライが経年のオールド・ボトル・エフェクトでエンシェント・ライに近づいたのかも知れません。或いは元から9年以上の原酒がブレンドされていたとか? 飲んだことのある方はコメント欄よりどしどし感想をお寄せ下さい。

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ヴェリー・オールド・バートンは、バーボン生産の中心地バーズタウンで1879年の創業以来、最も長く操業を続けているバートン1792蒸溜所で造られています。そのヴァリエーションは80プルーフ、86プルーフ、90プルーフ、100プルーフと豊富ながら、全国展開のブランドではありません。そのせいなのか、日本での流通量が多くないのが残念なところ。ヴェリー・オールド・バートンは、嘗てはケンタッキー州と近隣の幾つかの州(KY、IN、OH、IL、WI、MI、TN)でのみ販売され、ジムビームやジャックダニエルズと真っ向から競合し、価格競争力に優れたバーボンとしてケンタッキー州では常に高い評判を得ていました。現在では主に中西部、東部、中南部の23の州で販売されているらしいです。
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奇妙なことに、現在バートン1792蒸溜所を所有するサゼラック・カンパニーの公式ウェブサイトの「OUR BRANDS」の欄にヴェリー・オールド・バートンは何故か載っておらず、不当な扱いを受けているようにも見えます。 同蒸溜所の主力製品は今は「1792スモール・バッチ」となっていますが、当初はヴェリー・オールド・バートンが主要なプレミアム・ブランドでした。昔の8年熟成のヴェリー・オールド・バートンは70〜80年代に掛けて最も高く評価されたケンタッキー・ストレート・バーボンの一つとされています。2000年頃までは基本的に8年熟成の製品だったようですが、その後、バーボンの売上増加と蒸溜所の所有者変更により、熟成年数は6年に引き下げられ、更にその後NASになりました。ところで、我々のような現代の消費者の感覚からすると、ヴェリー・オールド・バートンはその名前に反して、それほど長熟ではありませんよね。「ヴェリー・オールド」と聞くと、20年熟成とかを思い浮かべそうですし、そこまでではないにしろ少なくとも12年以上は熟成してそうなイメージがします。しかし、昔はそうではありませんでした。蒸溜所が連邦物品税を支払う前にウィスキーを熟成できる期間(保税期間)は1958年まで8年間だったため、当時は8年物で「ヴェリー・オールド」と呼ばれることが多く、このブランドがそれほど長熟でもないのにそう名前にあるのはその名残です。

ヴェリー・オールド・バートンは通常20ドル未満、プルーフが低い物はそれよりも更に安い価格で販売されています。それ故、20ドル以下のバーボン・ベスト10のようなオススメ記事によく顔を出していました。取り分け人気があったのは部分的に白色が使われたラベルの6年物のボトルド・イン・ボンドで、高品質でありながら手頃な価格は、長きに渡りコストパフォーマンスに優れたバーボンとして愛されて来ました。しかし、上でも述べたように以前はボトルに熟成年数を示す「6 years old」の記載がありましたが、2013年末頃?、サゼラックはネック・ラベルにあった「6 years old」から「years」と「old」を削除し、数字の「6」だけを残しました。サゼラックはバッファロー・トレース蒸溜所が製造するオールド・チャーターのラベルでも、同じように以前はあった8年熟成表記を単なる「8」という数字のみにしたりしました。熟成バレルの在庫が逼迫したことで、ラベルからエイジ・ステイトメントを削除するのは理解できます。しかし、熟成年数を変更したにも拘らず、恰もその年数を示すかのような数字をラベルに残した行為は、多くのバーボン愛好家が納得しないものでした。彼らからは、卑劣で陰険で極悪非道、間違いなく恥ずべきことだと謗られたり、不誠実でくだらないマーケティングと断罪されたり、または天才的なマーケティング手腕だと皮肉られる始末でした。暫くの間ラベルは「6」のままでしたが、軈て消えます。同社はVOBのラベルが「6」に切り替わった時点では平均してまだ6年熟成と主張していました。切り替え当初はそうだったのかも知れませんが、おそらく直に熟成年数は4〜6年のブレンドに移行したと思われます。それから数年後、ラベルから「Bottled in Bond」の表記がなくなり、代わりに「Crafted」と書かれるようになりました。巷の噂では、2018年の6月に1940年代に建てられたバートンの倉庫#30が崩壊したため異なる蒸溜シーズンのヴェリー・オールド・バートンを混ぜることを余儀なくされた、と言われています。
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偖て、今回飲むのは6年熟成でもなく、ボトルド・イン・ボンドでもない100プルーフのヴェリー・オールド・バートンです。私が気に入っていたバートン原酒を使ったコストコのカークランド・シグネチャーが、どうやら一回限りのコラボだったようで定番化されず、そのせいで常備酒とは出来ませんでした。そこで代替品となるのは、似たスペックをもつこのVOBしかありません。同じバートン産でありながら、二つのブランドにどれほどの違いがあるのかも興味深く、購入してみた次第。さっそく注いでみましょう。ちなみにVOBのマッシュビルについては75%コーン、15%ライ、10%モルテッドバーリーとされています。

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Very Old Barton 100 Proof
推定23年ボトリング(瓶底)。オレンジがかったブラウン。薄いキャラメル、若いプラム、トーストした木材、ピーカンナッツ、微かなカレーのスパイス、アニス、汗→整髪料。芳しい樽香に僅かにフローラルの混じった接着剤様のアロマ。口当たりはほんの少しとろっとしている。味わいはバートンらしいストーンフルーツが感じられるがやや弱い。余韻は短めながら香ばしい穀物とココナッツが漂う。
Rating:81/100

Thought:グレインとナッツ類に振れた香味バランスのバーボンという印象。軽いヴァニラ系統の甘み、ウッディなスパイス感、穀物の旨味、適度なパンチは飲み応え十分です。総合的に、驚くほど美味しくはないものの悪くはありません。しかし、正直言うと100プルーフに期待されるリッチなフレイヴァーは欠けているように感じました。バートン原酒を使用したコストコのカークランド・シグネチャーと較べると、特にフルーツ・フレイヴァーが弱く、自分の好みとしてはプルーフの低いスモールバッチよりもこちらは劣っています。KLSmBは開封から半年以上経った時に風味が物凄く伸びたので、このVOBも開封してから少しづつ飲んでスピリッツが開くのを待っていたのですが、半年経っても殆ど変化が見られませんでした。私はKLSmBの「スモールバッチ」はただのマーケティング用語ではないかと疑っていたのですが、これだけ差があるのなら本当に厳選されたバレル・セレクトがなされていたのかもと思い直したほどです。もしくは、コストコはカスタム・オーダーでマッシュビルのライ麦比率をやや増やして違いを作り出していたのかも知れない。VOBはライが15%とされている一方、バートン版カークランドはライが18%と推定されていることが多いので。飲んだことのある皆さんはどう思われましたか? コメントよりご意見ご感想どしどしお寄せ下さい。

Value:アメリカでの価格は地域によって大きく異なるようですが、基本的にヴェリー・オールド・バートンはアンダー20ドルの世界の戦士です。今の日本では3000円台後半〜4000円近い価格となっており、私も昔の感覚からすると高いなと思いつつもその金額で買いました。そもそも特別な日のためのバーボンではないのは言うまでもありませんが、日本で購入すると安価なデイリー・バーボンとも言い難い価格になるのが痛いところです。勿論、私とて物事が昔と同じようには行かないことは理解しています。最近では1792スモールバッチが4000円から6000円近い価格となっていることを考えると、適正な価格なのかも知れません。しかし、ここ日本で3500〜4000円となると、それより安い価格でメーカーズマークもワイルドターキーも買えてしまいます。個人的にはそれらの方がこのVOB100プルーフより上質なバーボンと感じます。もしこれがアメリカの小売価格に準じた2500円くらいならアリなのですが…。返す返すもコストコのバートン原酒を使用したカークランド・シグネチャーが買えなくなったのは残念です。

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Evan Williams Bottled in Bond White Label 100 Proof
ヘヴンヒルの看板製品と言えるエヴァンウィリアムスのボトルドインボンド。通称ホワイトラベルとも呼ばれ、2012年に市場へ導入されたと言います。でもこれって昔もありましたよね?  一旦終売になってからの再導入という意味でしょうか?  もしくはアメリカ国内では昔は販売されてなかったか、或いは地域限定販売だったのかも知れません。
マッシュビルは当然エヴァンブラックやエライジャクレイグと同じで、コーン/ライ/バーリーがそれぞれ75%/13%/12%(他説では78%/10%/12%)。また、熟成年数は実質5年だそうです。

ボトルドインボンド(またはボンデッド)というのは1897年に制定された主に商標と税収に関わる法律で、単一の蒸留所・単一の年・単一のシーズンに蒸留され、政府管理の連邦保税倉庫で最低4年以上熟成し、100プルーフ(50度)でボトリングされたスピリットのみ、そう称することが許されます。またラベルには蒸留所の連邦許可番号(DSPナンバー)の記載が義務づけられ、ボトリング施設も記載しなければなりません。上の条件を満たした物は緑の証紙で封がされ、謂わばその証紙が消費者にとって品質の目印となっていました。紛い物やラベルの虚偽表示が横行していた時代に、ラベルには真実を書きなさいよというアメリカ初の消費者保護法にあたり、結果的に蒸留酒の品質を政府が保証してしまうという画期的な法案だったのです。現在では廃止された法律ですが、バーボン業界では商売上の慣習と品質基準のイメージを活かして、一部の製品がその名残を使っています。このEW BIB White Labelもその一つ。では、レビュー行きましょう。

本ボトルは2015年ボトリング。一言、キャラメルボム。コーンフレークにキャラメルをかけてほんの少しスパイスを振りかけたような感じ。余韻はリンゴの皮の煮汁。複雑さのない単純で直線的な味わいながらも、それが却って好結果という典型例。開封直後から甘いキャラメル臭全開で美味しかった。ボトル半分の量になると甘い香りが減じてしまい、他の香味成分が開くのかと思いきやそうでもなく、全体的に穀物感の強い少々退屈なものへ。とは言え、相変わらず旨いは旨い。これは100プルーフの成せる業か。
同じヘヴンヒル産で、これより度数が高く熟成年数の長いファイティングコック6年と比べて、キャラメル香の豊富さと甘みで勝ってる(ただし、余韻の複雑さでは負ける)。このブランドによる差異を、熟成庫のロケーションの違いとバレルセレクトでしっかりと造り分け、尚且つどのロットも継続的にこのキャラクターで安定しているのだとしたら大したもの(他年度製品と比べた事がないので判らない)。
Rating:84.5/100

Value:上でファイティングコック6年を持ち出して比較しましたが、本来であれば較べたいのはヘヴンヒル・ボトルドインボンド・ホワイトラベル6年でした。ところがそのHH BIB 6yrはケンタッキー州限定の製品らしく、日本では購入しづらいときてます。そこで同蒸留所産でスペックと価格の似ているのが上述のFC 6yr(*)だったのです。で、それら二つはキャラクターは若干違えど私的には同点です。お好みの方を買えばいいでしょう。
さあ、ここからが問題なのですが、日本に於いて人気の高いエヴァンウィリアムスの一つに赤ラベル12年というのがあります。これは日本限定(**)の製品でして、約3000円で購入できてしまいます。そしてこの白ラベルは2500〜3000円で販売されているのです。赤ラベルのほうがフルーティーさと複雑さで勝りつつ、なおパワーも劣っていない格上のバーボン。アメリカ国内では安くて旨いという評判を誇るボトルドインボンドも、500円の差額、時には同額で格上の赤ラベルが買えてしまう日本の状況下では、正直言ってその存在意義は小さいと言わざるを得ません。かなり美味しいバーボンらしいバーボンだけに、もし2000円だったら大推薦なのですが…。いや、赤ラベルが4000円程度であれば、2500〜3000円の白ラベルも存在意義はあります。あとはお好み次第。


追記:コメント欄にありますように、エヴァン赤ラベルが値上がりした今、この白エヴァンは非常にコスパに優れたオススメなバーボンになりました。願わくばラベルをリニューアルした後の白エヴァンのクオリティが維持されていることを願います。


*現行のファイティングコックは熟成年数の表記がなくなりました。6年より若い原酒が入ってる可能性が高いです。例えば6年と4年のブレンドとか。

**アメリカでもヘヴンヒルのギフトショップでは販売されているようです。私が直に目で見た情報ではないのですが、Instagramで$140と言ってる方がいました。日本の恩恵に感謝するしかありませんね…。

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