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(画像提供K氏)

ヴェリー・レア・オールド・ベントレー(*)は、よく詳細の分からないバーボンです。ラベルから読み取れるのは、シカゴのベントレー・インポーターズなるインポーター兼ワイン・マーチャントの会社がディストリビュートし、同じくシカゴのロバート・ブルース社にボトリングしてもらった86プルーフで6年熟成のケンタッキー・ストレート・バーボンということだけ。何処の蒸留所産かは皆目見当も付きません。おそらくシカゴ周辺でしか販売されなかった地域的製品ではないかと予想します。
画像検索では、53年ボトリングとされるボトルド・イン・ボンド規格で7年物の「オールド・ベントレー・ボンデッド」が見つかりました。こちらはBIB故に出所がはっきりしており、裏ラベルにオーウェンズボロのメドレー蒸留所(**)がディスティリングとボトリングをしているとあります。じゃあ「ヴェリー・レア」の方もメドレーか?と推測したくなりますが、ボトル形状も違うし、ラベルのデザインも違い過ぎるので、何となく全く別と考えたほうがいいような気もします。まあ、メドレー産かも知れないし、そうでないかも知れないし、よく分からないってこと。ちなみに、「ボンデッド」の表ラベルには人物画が描かれています。この人がベントレー氏なのでしょうか? この件に限らずベントレー・ブランドについてご存知の方はコメントより何でも情報をお寄せ頂けると助かります(※追記あり)。

オールド・ベントレー・ボンデッド
参照1
参照2

ところで、このヴェリー・レア・オールド・ベントレー、一目見て気づくのは、50年代当時隆盛を誇ったスティッツェル=ウェラー蒸留所の特別なバーボン、ヴェリー・オールド・フィッツジェラルドのラベルと似ていることですよね。デザイナーが同じなのか、或いは模倣したのか…。更には、後の世に伝説のバーボンと謳われることになるカーネル・ランドルフのバレル・プルーフ版のラベルにも、多少の違いはあっても全体的な雰囲気がそっくりです。まるで兄弟のようでしょ? カーネル・ランドルフの初期の物は往年シカゴ随一のリカー・ショップだったジマーマンズが関わっていたと思われます。何らかのシカゴ・コネクションがあるのでしょうか? これまた詳細をご存知の方は情報提供お願い致します。
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さて、今回このような希少価値のあるバーボンを飲めることになったのは、Instagramで知り合いバーボン仲間となった漢気満点のKさんのご厚意の賜物でした。画像借用の件も含め、改めてこの場でお礼をさせて頂きます。バーボンが繋いだ絆、ありがとうございました! また、バーGのマスターにも深く感謝です。では、飲んだ感想を少々。

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Very Rare Old Bentley 6 Years 86 Proof
1958年ボトリング。熟成年数にしては濃い色。マスティ・オーク、クローヴ、焦がしキャラメル、アニス、タバコの気配。口当たりは柔らかいが水っぽくない。味わいはスパイシーかつビター。余韻はとても長く、薬草のようなスパイスの風味と苦味が後々まで残る。

基本的にスパイス・フォワードのバーボンという印象。レーズンやレッド・フルーツ等のフルーティさやナッツのニュアンスはあまり感じませんでしたが、ヘヴィ・チャーが透けて見えそうな木材感や6年熟成ながら複雑なスパイス香と共にカビっぽい風味が現れるあたりがヴィンテージ・バーボンらしさでしょうか。50年代のバーボンなんてそうそう飲む機会はないので比較対象がないのですが、なんとなくハイ・ライ・マッシュぽい気がします。飲んだことのある方はどう思われたでしょうか? ご意見ご感想、コメントよりどしどしお寄せ下さい。
Rating:87/100

追記:その後、オールドベントレーに7年86プルーフがあるのを見つけました。トップ画像のボトルのラベルと概ね同じデザインですが少しだけ違いがあって、メインラベルに熟成年数表記があります。ボトルの形状も少し異なります。なんとなく、このベントレーより後年の物かなと思いました。


*日本では「bentley」を「ベントレー」と表記する慣行がありますが、実際の発音は「ベントリー」が近いです。

**こちらもベントレー/ベントリーと同じく、日本では「medley」を「メドレー」と表記する慣行がありますが、実際の発音は「メドリー」に近いです。

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値段が安いのに高いアルコール度数で人気のファイティングコック。エヴァンウィリアムスやエライジャクレイグと同じくヘヴンヒルディスティラリーが造っています。2015年には6年の表記は消え、現在ではNASとなりました。90年代までは6年ではなく8年が流通しており、クラシカルな紙ラベルがカッコよかったです。更に2000年代までは日本限定で15年物も流通していました。

このバーボンのオリジンは何処にあるのか知りたくて調べたのですが、全くその手のソースがヒットせず、ヘヴンヒルがそもそもオリジナルなのか他の蒸留所から取得したのか一向にわかりません(※追記あり)。ただ70年代物と言われるボトルの写真をみるとケンタッキー州ローレンスバーグと記載があります。一体何という蒸留所で造られていたのでしょうね。更に60年代と言われるボトルにはコネチカット州スタンフォードの記載があります。そこに蒸留所があったのか、それともただのボトリング施設の場所なのか判りません。また、ファイティングコックのラベルでメリーランド・ライ・ウイスキーがあるのも見つけまして、それにもコネチカット州スタンフォードと記載があります。こうなるとヘヴンヒルがオリジナルではないと考えていいような気がします。
あと余談ながら、ライ・クーダーがスライドギターで使うスライドバーの一つにファイティングコックの瓶を使っていたそうです。

さて、このバーボン、ネット検索にて日本語で書かれた何らかの情報を見ると、かなりの割合で「小麦バーボン」だと書かれているのを発見します。それは個人やバーのブログだったり、酒販店の商品説明だったりします。小麦バーボンというのは、メーカーズマークのような原料にライ麦を使わず小麦を使うバーボンのことです。海外のサイトで調べてみると、ファイティングコックを小麦バーボンだとしている情報は一つもありません。逆にハイ・ライ・マッシュビルだとしているものは少数ありました。 私が飲んでみた限り、ファイティングコックは小麦バーボンでもなければ、ハイ・ライ・マッシュビルでもなく、ロウ・ライ・マッシュビルのコーン多めのバーボンに感じました。はっきり言えばエヴァンウィリアムス等と同じマッシュビルに感じます。これはどういうことなのでしょうか?
ネットの情報はコピペの連鎖が殆どですから、或る一説がほぼ同じ文言で多く散見されるのは仕方ありません。しかしファイティングコックが小麦バーボンというのはちょっと信じがたい。あるバーのブログでは、6年は小麦バーボンで、15年はライ麦少なめコーン多めのマッシュビルだから味が違うのだという主旨の記述がありました。単発リリースのブランドやファミリーリザーブとかファミリーエステート、またはシングルバレルと言うならいざ知らず、いくら15年が日本限定の製品だとしても、量産されかつ継続性のあるブランドでそれをされたらアイデンティティーに欠ける気がします。そもそも熟成年数が倍も違えば味が違うのは当然でしょう。
また、ある酒販店の商品説明では、ファイティングコックのホームページに「キックを与えるために原料にライ麦ではなく、小麦を使ってるのだ」と書かれている、と述べられているのです。ええ!? 一般的に小麦はソフターな酒質になる特徴があるとされているのに?  普通キックを与えたいならライ麦を使うのでは?  慌ててヘヴンヒルや日本の輸入元のブランド紹介を調べるとそのような記述は現在では見られませんでした。可能性としては、昔は小麦バーボンだったが現在ではそうではない、というのも考えられます。けれど、それを本国のアメリカ人がまるで知らないというのはちょっと解せません。確かにヘヴンヒルのバーンハイム蒸留所では小麦バーボンも造っています。それはスティツェル=ウェラーから引き継いだオールドフィッツジェラルド系のどちらかというとマイルドなバーボンに使用されます。常識的に考えて荒々しい闘鶏がモチーフのバーボンにそれを使うのは意味が分からなくないでしょうか?

大事なことなので、もう一度繰り返します。ファイティングコックを小麦バーボンとしているのは日本人だけです。海外では、ファイティングコックはヘヴンヒルのスタンダード・マッシュビル(コーン75%/ライ13%/バーリー12%、また他説では78%/10%/12%)を使用して造られている、というのが一般的認知です。上に述べた60〜70年代のような古いものはどうか判りませんが、少なくとも近年のヘヴンヒル産の物は小麦は使われていないと思ってよいでしょう。では、そろそろテイスティングへ。

Fighting Cock 6 Years 103 Proof
2013年ボトリング。まずは強めのアルコール臭、弱めのキャラメル香、ややソーピー。クリーミーな口当たり。穀物感とコーンウィスキー感が強い。正直言ってマチュレーションピークの前なのは否めないが、ハイ・プルーフなので満足感は高く、お値段を考えればグッドバーボン。特に開封後しばらくして香りが開くと少しフルーティーになり、かなり美味しい。
Rating:84/100

Fighting Cock 8 Years 103 Proof
94年ボトリング。飲んだのが10年以上前なので細かいことが言えないが、ストロングかつウェルバランスだったように思う。俗に言う思い出補正はあるかも知れない。
Rating:86/100

追記1:その後、アバンテというファイティングコックの輸入元のホームページに「バーボンウイスキーとは一般的にトウモロコシ、ライ麦、大麦麦芽が原料だが、ファイティング・コックはトウモロコシと小麦を使った原酒を選んでいるので、コシの強さがある。」と書かれているのを発見しました。もしかするとこれが、日本での「ファイティングコック小麦バーボン説」の直接的な情報源であるのかも。と言うより、それが輸入元の記述であるからには、そもそも蒸留所から提出された情報に何か誤解を与えるような説明がされていたのではないか、と考えるのが自然な気がしてきました。というのも、有名なバーボン掲示板のファイティングコックのスレッドで見かけたのですが、或る方のコメントによるとファイティングコックのウェブサイトに「殆どのバーボンは小麦を使って造られるが、このバーボンにはキックを与えるためにライ麦を使っている」という主旨のことが記載されている、と言うのです。は? 殆どのバーボンは小麦で造られてませんけど? この投稿は2011年にされています。もしこのコメントが本当なら、少なくともその当時までは、ファイティングコックの公式ウェブサイトで不適切な表現がなされていた可能性があります。そして私が本文で取り上げたように、日本の或る酒販店はファイティングコックのホームページから「キックを与えるために原料にライ麦ではなく、小麦を使ってるのだ」と引用して商品説明をしています。これ、言ってることは反対ですが、文章の言い回しが似ていますよね。実際にはどちらも間違っているのですが、どうやら往年のファイティングコックの公式ウェブサイトに、そんな言い回しがあったのは間違いなさそうです。もしかするとヘヴンヒル蒸留所が当時雇っていたPR会社の担当者がバーボンのことをあまり知らなかったのかも知れません。

追記2:古いファイティングコックについて記事執筆時より少々明らかになった情報があります。こちらを参照下さい。

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