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今回は謎めいた古いウィスキーを二本まとめて。

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一方は表ラベルが完全に剥がれていて、しかも剥がれたラベルが手元にもないそうで、もはや何が何だか判らない状態なのですが、マスターによるとファイン・オールド・バーボンというありきたりの名前だったそうです。これはブランド名と言うよりは、俗にいうノーブランド、だけど「良質のバーボンですよ」くらいの意味合いだと思います。バーのブログより画像をお借りしまして、右がラベルが貼り付いてた当時の姿だそうです(左は前回ポストのドハティーズ)。
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Fine Old Bourbon?
まだ残っている裏ラベルから概ね4年熟成と推察されます。アルコール度数は50度でしょうか。ボトリングは禁酒法が終わった直後の1934年。と言うことは蒸留は禁酒法時代になされていますね。会社はマーヴィン&スニードとあります。マスターの話では、ニューヨークの42ndストリートにあったワイン商を通じて英国に輸入されたものが60年ほど経ってオークションに大量出品された時に入手したもので、表のラベルにも何処の蒸留所で蒸留された等の情報は書いてなかったそうです。
飲んでみた感想としては…、う〜ん、正直言って今回のバー遠征で飲んだなかで一番美味しくなかったです。なんというかピントのボケた味に感じました。現行製品にはない深みは感じられるものの、一言で言うと濁った味です。濁ってるのにコクがないとでも言うのでしょうか。オールドボトル愛好家ならいいのかも知れませんが、個人的にはこれだったら現代バーボンのフレッシュな味わいの方が好み。
Rating:78/100

そしてもう一方はJフライデイのライウィスキーです。こちらもネットで検索しても殆ど情報を得れないのですが、わかる範囲で書くと、ペンシルヴェニア州ピッツバーグのスミスフィールド・ストリートにあった、蒸留酒やワインまたシガーなどを取り扱うマーチャントもしくはウィスキー・ホールセラーで、当時の広告を見るとグッケンハイマーやオーヴァーホルト、ブリッジポートやマウント・ヴァーノンなど名だたる銘酒をストックしていたようですから、なかなか活気のある会社だったのかも知れません。会社の活動期間は1889ー1918とされ、自社ブランドには「1852 X X X Old Private Stock」、「Friday's」、「Gibson」、「Number 1870 Brand」、 「Number 1882 Apple Brandy」、「Old Cabinet Rye」などがあったそうです。

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WM J. FRIDAY FINE OLD RYE WHISKEY XXXX
そして本ボトルについてですが、これまた何処で蒸留されたかの記載もなく、熟成年数表記もなく、なんならプルーフ表記すらありません。逆にラベルの下の方に小さく、有害な薬物や毒を含んでいません、とは書かれています。ボトルド・イン・ボンド法(1897年)やピュア・フード&ドラッグ法(*1906年)施行後でも、まだ横行していた粗悪ウイスキーに対抗して書かれた文言なのでしょう。上に述べた会社の活動期間からするとボトリングは禁酒法以前となり、当然、蒸留もそうな訳で、おそらく同郷ペンシルヴェニアの有力なライウィスキー製造所から原酒を調達しているのではないでしょうか。画像検索でもあまりお目にかかれないラベルの物でかなりレアだと思います。
飲んでみた感想としては、かなり軽いウイスキーという印象。度数は40度くらいしかないと思います。あまりフルーティでもなく、甘み全開系でもなく、どちらかと言うとハービーで、何というか植物っぽいテイストの味わいでした。柔らかいニュアンスや風味など、現行ライウイスキーとの差は実感できましたが、正直好みではなかったです。思うに当時のエントリークラスのライウィスキーなのではないかと…。いや、でもXが4つ並んでるところからするとグレードが高そうなのだが…。
Rating:83.5/100


*純正食品薬事法、純粋食品及び薬物法と訳される。有害または不当表示された食品や薬品を市場から排除し,州間取引される食品や薬品の製造・販売を規制することを目的とした法案で、アメリカンウィスキーの歴史にも多大な影響を与えた。


それと、今回は予算や飲酒量の都合で飲まなかったレアなバーボンを写真だけ撮らせてもらいました。やっぱりアンティークなボトルはカッコいいっすよね。

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「安酒を敬いたまえ」シリーズ第四弾、今回はブラウンフォーマン編です。

Brown-Forman Corporation◆ブラウンフォーマン社
BFのバーボンにはオールドフォレスター、ウッドフォードリザーヴ、ジャックダニエルズ等がありますが、当企画ではアーリータイムズのみ扱います。ETのマッシュビルについては過去投稿にて紹介してますのでご参照下さい。チャーリング・レヴェルは一説には# 3 、バレル・エントリー・プルーフはおそらく125だと思います。

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EARLY TIMES Yellow Label 80 Proof
1100〜1300円程度
Rating:76.5/100

EARLY TIMES Brown Label 80 Proof
1100〜1300円程度
Rating:78/100

申し訳ありませんが、これらのレヴューもこちらを参照してもらえればと思います、重複してしまうので…。

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JIM BEAM RYE Yellow Label 80 Proof
2007年ボトリング。ジムビームライのイエローラベル時代の物になります。弱いキャメル風味、パンケーキ、フレッシュフルーツ。ホワイトラベルよりはフルーティーではあるものの、どうもライウィスキー感が弱い印象を受けました。取り立ててミンティでもなく、むしろトースティなノートの方が強く感じる。点数にすると同時期のホワイトラベルと変わりません。
Rating:78/100

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リニューアルされたジムビーム・ライのレビューはこちら

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DR. LOUIE'S SURE POTION 80 Proof
アメリカの禁酒法時代、お酒は薬用としては認められており、医者の処方箋さえあればお酒は手に入ったそうです。そこで善意の医者というか悪徳な医者というべきか、とにかく処方箋を乱発したお医者様がいたそうな。このボトルのラベルデザインはそういうエピソードにちなんで造られているのでしょう。そのせいなのか中身もどこで蒸溜されたものなのか記載がなく、ただ会社はルイヴィルとあるのみです。これがdistilledやbottledを意味しているのか会社の所在地なのか定かではありません。またあまりにもチープな質感の紙ラベルです。個人的な印象としては、「MILD STRENGTH」という聞いたこともない造語や敢えて「STRAIGHT」を名乗らないあたりアライド・ロマーのブランドぽく感じますし(※追記あり)、ボトリングはKBDかなという気がしてるのですがどうでしょう?
そして味のほうもどうも怪しげでして、開封直後から梅酒の香りが支配的で、飲むとチョコレートに梅酒をかけたような味わい。更に妙に粉っぽい酒質と、今まで他では味わったことのないバーボンでした。ラベルにストレートの表記がないので、もしかするとブレンディング製法で造られているのかも知れません。或いは劣化していた可能性も考えられます。ネットで検索する限り、日本でしか販売されてないバーボンだと思うのですが、数少ないレヴューを拝見すると、それほど低い評価でもないようなのです。私の飲んだものはタンニンの渋味が出過ぎた、長熟の悪いところばかりが出たバーボンに感じました。ラベルは12年表記ながら、もっと高齢のバレルも入ってる? でなければ酸化が進み過ぎた、つまり劣化していたとしか思えませんが、一応レーティングはしておきます。
Rating:78/100

ドクタールイーズ3

追記:その後、やはりアライド・ロマーのブランドということが判明しました。

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アーリータイムズは日本では抜群の知名度を誇るバーボンですが、アメリカでは「バーボン」ではなく「ケンタッキーウィスキー」として販売されています(*)。古樽で熟成された原酒が20%使用されているためバーボンを名乗れないのです。ラベルも日本人に馴染みのあるあのイエローラベルではありません。どちらかと言えばブラウンラベルに似た色合いです。ブラウンラベルは日本限定の製品であり、96年から販売されました。当時のブラウン=フォーマンのマスターディスティラーで「アロマの神様」と謳われたリンカーン・ヘンダーソン(**)が製品開発に尽力したそうです。
では、この2つのラベルの違いというか中身の違いは何なのかと言うと、現在日本での販売を受け持つアサヒの公式サイトによれば、マッシュビル、イースト菌、サワーマッシュの配分、チャコールフィルターの回数と種類まで、かなりの違いがあります。個人的に注目したのはそのマッシュビルです。

イエローラベルはコーン79%、ライ麦11%、大麦モルト10%。
ブラウンラベルはコーン72%、ライ麦18%、大麦モルト10%。

これはロウ・ライ・マッシュビルとハイ・ライ・マッシュビルの違いに相当するほどの差です。フレイヴァー・グレインであるライ麦の比率がこれだけ違うのならば、アーリータイムズとは全く違う銘柄を造り上げてもおかしくはなかった。現にバッファロートレース蒸留所ではライ麦率のロウとハイの違いで幾つかのブランドを造り分けています。ましてやイースト菌とサワーマッシュとチャコールフィルターまで違いがあると言うのだからよっぽどです。しかし、別のブランドは産まれず、アーリータイムズの兄弟が産まれたのでした。ブラウンラベルの説明をアサヒのサイトから引用しましょう。
「ココナッツの皮をベースにし活性炭でろ過する過程はどちらも同じ。アーリータイムズの飲み口のよさはここから生まれます。さらに、私たちが飲んでいるブラウンラベルになるにはもう一工程足されます。
イエローラベルとして造られた原酒とブラウンラベルとして造られた原酒を混ぜ合わせ、味わいを軽く、香りを高く仕上げます。
その上でピートをベースにした活性炭で再度ろ過。味わいをさらに磨き上げることで、あのスムースでコクの深い味わいができあがるのです。」

ここで注目なのは「イエローラベルとして造られた原酒とブラウンラベルとして造られた原酒を混ぜ合わせ」というくだりです(その比率は一説にはイエロー70%ブラウン30%と聞きます)。アーリータイムズを造っているプラント(DSP-KY-354)では、ブラウン=フォーマンの誇るもう一方の銘酒オールドフォレスターも造っています。そのオールドフォレスターのマッシュビルがコーン72%/ライ麦18%/大麦モルト10%なのです。
これは私の想像なのですが、もしかするとブラウンラベルの正体はアーリータイムズ原酒にオールドフォレスター原酒をブレンドしたものなのではないでしょうか?  イエローラベルとブラウンラベルは日本での販売価格は共に同じであり、1200円前後で買えてしまう「良心的で安定のバーボン」です。なのにブラウンラベルは随分と手間暇がかかってるように見える。最終的な小売価格でもう500円くらいは高くてもよさそうに感じる。しかし、そうはならなかった。これはビジネス上のサーヴィスと考えるよりは、ブラウンラベルを構成する諸要素がそれほどコストをかけずに出来る、と考えたほうが自然な気がするのです。何かの本かウェブサイトか忘れましたが、アーリータイムズとオールドフォレスターでは使用する酵母が違うという情報を目にしたことがあります。それが真実なら、イエローとブラウンの酵母は違うと言うのだから、ブラウンにオールドフォレスターの酵母を使ってる可能性もあるのではないでしょうか?  そしてマッシュビルもオールドフォレスターと同じなら、それはオールドフォレスターじゃないですか……と、あくまで私の想像というか妄想でしかないことを書き連ねてしまいました……そろそろイエロー対ブラウンの対決に移りましょう。

EARLY TIMES Yellow Label 80 Proof
80プルーフの割りに色が濃く、キャラメル香もオークの風味も効いている。ブラウンシュガーライクな甘み。口に含むと円やかではあるが、やや水っぽい印象を受ける。それほどフルーツ感はないが、強いて言えばバナナ。余韻に、個人的には好ましくない風味を感じる(***)。それが何なのかわからないが。
Rating:76/100

EARLY TIMES Brown Label 80 Proof
イエローに較べより華やいだ香り。キャラメルやオークの風味が効いてるのは同じだが、飲み口には明らかにライ麦の影響を感じさせる。ブラウンシュガーにフレッシュフルーツが少し混じる感じ。円やかで水っぽいのも同じ。余韻は短いが、イエローにあった嫌な風味は気にならない。
Rating:78/100

Verdict:個人的にはブラウンの圧勝でした。私がハイ・ライ・マッシュビルが好みなので当然と言えば当然かな。イエローが好みという意見も聞きますから、詰まるところコーンの甘さを取るかライのフルーティーさを取るかの選択なのかも知れません。どちらも価格の優れたバーボンです。


*近年では群青色のラベルでボトルド・イン・ボンドのアーリータイムズが本国で発売されました。遡ると「354」という上位ラインのストレートバーボンもありました。更に遡ればスタンダードな物もストレート規格でした。

**ヘンダーソン氏はウッドフォード・リザーヴの立ち上げやジェントルマン・ジャック(JDの親会社はBrown-Forman)の商品開発、昨今ではエンジェルズ・エンヴィを造り上げたバーボン業界の伝説の方で2013年に75歳で死去されました。

***この風味は開封から一年ぐらい放置しておくと消えます。

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JIM BEAM White Label 80 Proof
2012年ボトリング。キャラメル、焼きたてパン、フレッシュフルーツ(強いて言うとマスカット)、樽香、どれもが弱々しく香る程度。でもバランスは良い。売れてる本数から言っても味の採点基準にちょうどいいかと。
Rating:78/100

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