嘗てアメリカのウィスキーに使用される有力な穀物だったライを本来の高みへ戻すためにリデンプション・ブランドは始まりました。ライは長い間、アメリカン・ウィスキーの世界に於いてコーンに匹敵するかそれを上回る穀物の地位に君臨していましたが、禁酒法の影響から廃れてしまい、他の蒸溜酒のようには回復することが出来ませんでした。しかし、ここ10数年で様相は一変しました。ライ・ウィスキーの売上は大きく伸び、今、復権を謳歌しています。そうした過程の中で「リデンプション」は急速に評価を築いたブランドです。ブランド自体の紹介は、過去に投稿した記事でしていますので、そちらを参照して下さい。
リデンプション・ウィスキーには、リデンプション・ライ、リデンプション・バーボン、リデンプション・ハイライ・バーボンという3つの主要なセレクションがあります。リデンプションの特徴として4年未満のスピリッツにも力を入れていることが挙げられ、これらはどれも平均2.5年熟成とされる若いウィスキーです。他にも長熟や追加熟成を施したもの、或いはウィーテッド・レシピのものなど様々な製品展開がありますが、スタンダードなのはこの三つと見てよいでしょう。リデンプションの名声は確実にライ・ウィスキーによって齎されましたが、現在の薬瓶スタイルのボトル(*)になる前のスタイリッシュなトールボトルの頃からバーボンもリリースしていました。そこで今回はマッシュビルの少し異なる二つのバーボンを取り上げます。
ライと同様、バーボンもインディアナ州ローレンスバーグの有名なMGP(現在ロス&スクィブ蒸溜所とも名乗る)から調達して造られています。MGPはアメリカのライ市場の80%以上を生産していると目される元シーグラムの蒸溜所。数多のNDPやクラフト・ディスティラリーにも最高級のウィスキーを提供するこの蒸溜所には多くのレシピがあり、有名なのはライ麦が95%のレシピですが、それだけに留まらずバーボン・レシピも当然ながらある訳です。
幸いなことに判り易くマッシュビルの情報はラベルに記載されています。「バーボン」はコーン75%、ライ21%、バーリーモルト4%です。別に「ライ」と「ハイ・ライ」があるのだから、通常のバーボンには対照的にライ麦を控えたロウ・ライのレシピを使用しているのではないかと思ってしまいそうですが、リデンプション・バーボンのライ麦の含有量は業界水準より高めです。実のところ"ハイ・ライ"という用語は法律で定められていないため明確な基準がありません。ロウ・ライ(またはハイ・コーン)のレシピはライが10%以下であることが多いため、15〜18%のライ麦率でもハイ・ライと言われる場合もあったりします。従って、この通常のバーボンをハイ・ライとして販売することも可能なのですが、リデンプションはライを前面に押し出したブランドのため、21%でもハイ・ライを名乗らないのです。
一方の「ハイライ・バーボン」はと言うと、コーン60%、ライ36%、バーリーモルト4%のマッシュビルを使用しています。アメリカン・ウィスキー愛好家は、これらの原料の構成を見てすぐにフォアローゼズの二つのマッシュビルとの類似に気づくでしょう。フォアローゼズのEマッシュビル(75%コーン/20%ライ/5%モルテッドバーリー)及びBマッシュビル(60%コーン/35%ライ/5%モルテッドバーリー)とはライとモルトが1%づつしか変わりません。マッシュビルは使用されるモルトの量によって僅かに変動する可能性があるので、実質的にMGPとフォアローゼスは同じマッシュビルを使っていることになります。実際、リデンプション初期のトールボトルのラベルには、バーボン(旧名テンプテーション)では「20%プレミアム・ライ、5%バーリーモルト、75%コーン」と書かれてフォアローゼズのEマッシュビルと一致し、ハイライ・バーボンでは「38.2%プレミアム・ライ、1.8%バーリーモルト、60%コーン」とマッシュの変動が細かく記されていました。
インディアナ州ローレンスバーグのジョセフEシーグラム蒸溜所(現MGPプラント)とケンタッキー州ローレンスバーグのオールド・プレンティス蒸溜所(現フォアローゼズ蒸溜所)は共に嘗てシーグラムが所有していた歴史があります。二つの蒸溜所は、シーグラムの品質管理チームが互いのイースト・ストレインをテストしたり、またそれらを共有していました。基本的にフォアローゼズが使用しているイーストはインディアナの蒸溜所でも大体使用できるらしく、フォアローゼズのイーストは「V、K、O、Q、F」、MGPのイーストは「V、K、O 、Q、S(ライト・ウィスキーに使われる)」とされます。シーグラム時代に考案されたレシピの略語は今でも使われ、例えばフォアローゼズで「OESV」と呼ばれるレシピは、インディアナ州の蒸溜所では「LESV」と呼ばるそう。一文字目の「O」はフォローゼズの旧称オールド・プレンティスを表し、「L」はインディアナ州ローレンスバーグの施設を示します。二文字目はマッシュビルを意味し、フォアローゼズで「E」や「B」と呼ばれるものはMGPでも「E」や「B」な訳です。ちなみに、MGPの95%ライ/5%バーリーモルトのライ・ウィスキーは「Q」、 80%コーン/15%ライ/5%バーリーモルトのコーン・ウィスキーは「C」、99%コーン/1%バーリーモルトのマッシュビルは「D」の略号が与えられています。MGPには他にも以下のような6種類のマッシュビルがあります。
◆バーボン(51%コーン/45%ウィート/4%バーリーモルト)
◆バーボン(51%コーン/49%バーリーモルト)
◆ライ・ウィスキー(51%ライ/49%バーリーモルト)
◆ライ・ウィスキー(51%ライ/45%コーン/4%バーリーモルト)
◆ウィート・ウィスキー(95%ウィート/5%バーリーモルト)
◆モルト・ウィスキー(100%バーリーモルト)
奇しくも同名であるローレンスバーグの二つの蒸溜所の類似点は他にもあり、両者は原料のライ麦を主にドイツの同じ生産者から仕入れているだろうと推測されています。シーグラムの科学者達は最高のスピリッツを造るために常にテストを繰り返し、北米産のライ麦に較べてドイツで栽培される特定のライ麦種が自分達のイーストにとってベストなマッシュを生むと確信しました。また彼らは、一貫して豊かなフレイヴァー・プロファイルを実現するために、120のバレル・エントリー・プルーフを採用しました。現在でもフォアローゼズとMGPはそうしています。そして、フォアローゼズの熟成倉庫は温度差の少ない平屋建てで知られていますが、MGPの熟成倉庫も亦、平屋造りではないものの壁面が煉瓦造りで各フロアはコンクリートの床と天井で区切られており、多くのケンタッキー州のリックハウスと較べると各階は一定の温度と湿度が維持され、庫内の場所に関係なく各バレルを同じように熟成させる哲学で設計されています。
偖て、話が若干逸れたのでリデンプションに戻すと…今回私が飲んだ「バーボン」は84プルーフで瓶詰めされています。リデンプション・バーボンをネットで調べると、88プルーフの物がけっこうな割合で見つかりました。販売地域によりプルーフに差を付けているのか、もしくは或る時からボトリングするプルーフを上げたのかも知れません。もし後者なら、そのうち日本に入って来る物も88プルーフになるのかも?
先述のように、リデンプションのスタンダードな物は熟成年数の短いウィスキーです。ブランド・アンバサダーのジョー・リッグスは、より少ない熟成で成熟した風味を生み出す「全く新しいディスティリング・プロセス」に取り組んでいると述べていましたが、一体どのようなものなのか具体的には良く分かりません。取り敢えず、これらの若いバーボンを味わってみましょう。
REDEMPTION BOURBON 84 Proof
Batch No. 026
推定2020年ボトリング。淡いブラウン。焦がした木材、穀物、ペッパー、ライスパイス、薄いキャラメル、ミント、よく言ってアップル、ピーナッツ、エタノール、鉛筆。ノーズは甘さのあまりない爽やかな穀物と木材の香り。ややとろみのある口当り。パレートでは、ほんのり甘いがピリピリ感も。余韻は短く、ドライさの中にライっぽさが少し顔を覗かせる。
Rating:79/100
REDENPTION High Rye Bourbon 92 Proof
BATCH No. 120
推定2020年もしくは2021年ボトリング。淡いブラウン。トーストした木材、グレイン、ライスパイス、シュガー、ペッパー、種のお菓子、僅かなドライフルーツ、グリーンアップル、若草。アロマはスパイシー。ややとろみのある口当り。パレートは青い果実とスパイスが感じ易い。余韻はややドライであまり甘くない穀物とライの爽やかな苦味が残る。
Rating:82.5/100
Thought:バーボンの方は、流石にもうちょっと熟成したほうがいいなぁという感想でした。円みも僅かに出て来ているのですが、味わいも余韻もちょっと平坦で、もう4年熟成させたら凄く美味しくなりそうな予感で終わります。海外の方でメロウコーンを思い出すと言ってる方がいましたが、個人的にはそこまで「メロウ」とは思いませんでした。ライ麦21%はバーボンとしては多い方ですが、私には香りからライやベーキングスパイスの存在を見つけるのは難しく、味わいも「ライ」にあったシトラスやグリーンリーフのフレイヴァーはあまり感じられません。基本的にグレイン・フォワードなバーボンで、よく言えば甘いシリアルのような味わいとは言えます。
ハイライ・バーボンの方は、スパイスと甘さのバランスがちょうど良く、だいぶ美味しく感じました。なんか嘘みたいにリデンプションのバーボンとライ・ウィスキーを混ぜたような中間の風味がします。ただ、何故か甘いアロマは最も弱く感じました。以前に飲んだライ・ウィスキーを含めて三つのラインナップで見た時に、私個人の趣味としては見事なまでにライ麦含有量が高い順に旨く感じます。ライ、ハイライ・バーボン、バーボンの順に自分好みのシトラスやディルの風味が感じ易いのです。「結局、お前がライ・ウィスキー好きなだけやろ」と言うツッコミには、はい、その通りですと言うしかありません。けれどもバーボンよりライの方が短期の熟成で美味しくなるというコンセンサスはある程度はあり、それがこの結果となっている気もします。
両者を比較して、キャラを強調して言うと、バーボンはナッティ寄り、ハイ・ライはフルーティ寄りでしょうか。余談ですが、これらのウィスキーはテイスティング・グラスで飲むとちっとも美味しくなく、ショットグラスかラッパ飲みだとなかなか美味しかったです。これは若いウィスキーによく見られる傾向かなと個人的には思っています。最後に、以前レヴューしたライを含めた3つのクラシックなリデンプション・ウイスキーのセレクションを総評すると、基本的にカクテルに使用するために造られてる気はしますが、どれも若い割には粘度が高く、ニートで飲んでも十分美味しいです(特にライとハイ・ライ)。但し、もう少し樽熟成が長ければ、もっと素晴らしいものになるでしょう。そして問題は価格…。
Value:販売地域によって変わりますが、バーボンもハイライ・バーボンもアメリカでは25〜30ドル程度の場合が多いようです。ところが日本ではバーボンは3000円程度なのですが、ハイ・ライ及びライ・ウィスキーは何故か5000円程度します。熟成年数の短さを考慮すると、これは痛い。正直、コスパは良くないです。「バーボン」なら大手の蒸溜所がリリースしてるスタンダードな製品の方が安い上に旨く感じてしまうし、「ライ」ならテンプルトンの4年熟成の方が安いのです。「ハイ・ライ」に関しては、MGPのハイライ・レシピ原酒の中で日本では比較的入手し易いという利点はあるかも知れません。ブランドのイメージやボトルのデザインが好きとか、敢えてヤンガー・ウィスキーを好む方にはオススメします。ですが、私はこの値段なら再度の購入はしないかな…ごめんなさい。
*2023年3月にニューボトルになることが発表されました。なので本文中で「現在の〜」と言っているボトルは、新しいボトルにリニューアル後は一つ前のものとなります。ディアジオからブレットのボトルに似ていると訴えられたのが理由で変更したのかも知れませんね。