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今回は同じ蒸溜所で造られ、同じプルーフでのボトリング、そしてほぼ同じ価格である二つを飲み比べる企画です。一つがヘンリーマッケンナの(並行輸入品ではない)キリン正規品、もう一つがフォアローゼズのブラックラベル。どちらも現在酒販店に流通している所謂「現行品」です。この比較対決は、以前このブログへコメントしてくれた方からヒントを得て企画されました。

フォアローゼズ・ブラックがフォアローゼズ蒸溜所で造られているのは名前の通りなので判り易いですが、ヘンリーマッケンナについてはヘヴンヒル製造の物もあるので少し説明が必要でしょう。
アイルランド移民のヘンリー・マッケンナは、1855年、ケンタッキー州フェアフィールドにて蒸溜を開始しました。量よりも質を重視し、1日1バレル程度の規模で操業していたと言われています。1880年頃までにマッケンナのブランドは人気が高まり、上質なケンタッキー・バーボンとして評判を得、1883年には新しいレンガ造りの蒸溜所を建設し、1日3バレルに生産量を増やしたそうです。1893年にヘンリーが亡くなると、息子達が事業を引き継ぎ、ビジネスを更に成長させました。しかしご多分に漏れず禁酒法の訪れにより蒸溜所は閉鎖を余儀なくされます。マッケンナ家の所有する熟成ウィスキーは、A.Ph.スティッツェル蒸溜所の集中倉庫に保管され、薬用ライセンスを取得していた彼らに手数料を支払うことでボトリングしてもらいメディシナル・ウィスキーとして販売されました。禁酒法が撤廃されるとマッケンナ家はフェアフィールドで蒸溜所を再開。新しい蒸溜所の生産能力は1日20バレル程度だったようです。大恐慌とそれに続く第二次世界大戦の到来によって会社は継続するのに苦労し、ヘンリーの息子の死により残された一族は1941年にブランドと蒸溜所をシーグラムに売却しました。シーグラムはヘンリーマッケンナ・バーボンの販売を続けますが、フェアフィールド蒸溜所で製造されたウィスキーの殆どはセヴン・クラウンやフォアローゼズ等のブレンデッド用に回されたと言います。その後、1960〜80年代に掛けてのストレート・バーボンの売上減少は、多くのケンタッキー蒸溜所の閉鎖を招きました。フェアフィールドのヘンリー・マッケンナ蒸溜所もその例外ではなく、1974年、遂に閉鎖されてしまいます。生産はルイヴィルのシーグラム工場に移り、そこも閉鎖されるまでの短期間はそちらで造られていた可能性も示唆されています。そして1980年代初頭にシーグラムはヘンリーマッケンナのアメリカ国内でのブランド権をヘヴンヒルに売却しますが、海外市場向けのブランド権は保持しました。これにより、海外向けの生産はローレンスバーグのオールド・プレンティス蒸溜所(現フォアローゼズ蒸溜所)、アメリカ国内向けの生産はバーズタウンのヘヴンヒル蒸溜所と、マッシュビルや酵母を共有しないニ種類のヘンリーマッケンナが産出されることになります。
21世紀初頭、長年に渡りスピリッツ業界の頂点にあったシーグラムも、飲料ブランドの名前としては一部残ったものの企業としては終りを迎えました。サミュエル・ブロンフマンとその息子エドガーが運営していた頃には業界を支配していたシーグラムですが、1994年にエドガーの息子エドガー・ジュニアに経営がバトンタッチされると、残念なことにスピリッツ事業に関心がなかった彼が率いる会社は急速にエンターテインメント事業への傾斜を強めます。しかし、巨額の買収費用に対して映画部門ではヒット作に恵まれず収益も上がらなかったため、2000年にフランスのヴィヴェンディと合併するに至りました。メディア事業の拡大を進めるヴィヴェンディにはアルコール飲料会社の所有権は必要なかったので、短期間所有した後、酒類部門はイギリスの新生ディアジオとフランスのペルノ・リカールに分割して売却されます。嘗て世界最大級の酒類会社であったシーグラム帝国は、エドガー・ジュニアが会社を継承して僅か8年で消滅した訳です。シーグラムの酒類部門が売却されたのに伴い、2002年2月、最終的に日本のキリンがフォアローゼズのブランドとローレンスバーグの蒸溜所を所有することになりました。キリンとシーグラムは1972年に合弁会社キリン・シーグラムを設立して事業を展開して来ましたし、キリンは以前からフォアローゼズのアジアでの販売業者となっておりブランドとの繋がりがありました。キリン・シーグラムはシーグラムの酒類事業売却により社名をキリン・ディスティラリーに変更しています。取引の詳細は分かりませんが、おそらくフォアローゼズの全事業権を取得した時にヘンリーマッケンナの海外事業権もキリンが取得したものと思われます。2006年にオーストラリアとニュージーランドで大手の飲料会社であるライオン・ネイサン(現ライオン)はキリンからマッケンナ・バーボンの権利を取得しているようなので。ともかく、こうして現在の日本では、ヘヴンヒルが製造するアメリカ国内版の並行輸入品と、フォアローゼズが製造するキリン正規品とが同時に市場に流通しているのでした。ただ、どちらかと言えば並行品の方が多くの酒販店で取り扱われ、正規品を取り扱っている店舗は少なそうな印象がありますね。

※重要な追記:記事を投稿後にキリンのヘンリーマッケンナのホームページを調べたら、最上部に「『ヘンリー マッケンナ』は2022年10月7日をもって出荷を終了させていただきました」との告知がありました。せっかく現行製品同士での対決という企画だったのですが、残念ながらキリン版のフォアローゼズ製ヘンリーマッケンナは終売になったようです。私が下調べのためにキリンのホームページを見た時は確かそんな事は書かれてなかったと思うのですが…。いや、タイミング悪っ。一応、私が記事を書いた時点でこれは分ってなかったので、タイトルや記事内容は修整しません。皆さんの頭の中で修整よろしくお願いします。

今回は同じヘンリーマッケンナという名を持つヘヴンヒル産とフォアローゼズ産の二つの違いを較べるのではありません。それも蒸溜所の個性の違いが味わえて面白いでしょうが、私にとってもっと興味深いのは同じ蒸溜所で造られながらどこまで違うのか、或いはどこまで同じなのかという方だったからです。周知のようにフォアローゼズ蒸溜所では2種類のマッシュビルとキャラクターの異なる5つのイーストを使って10種類の原酒を造り、それらをブレンドすることで品質と味を安定させたり、その組み合わせにより異なるフォアローゼズ・ブランドを作成しています(FRの10レシピについての仔細は過去に投稿したこちらを参照ください)。それならば、ヘンリーマッケンナとフォアローゼズ・ブラックで造り分けもし易いのではないか、と。いや、逆に手抜きしてブランドは違うが中身はほぼ一緒なんてことだってあるかも知れないぞ、と。冒頭に述べたように、幸いにもこの二つは同一のプルーフで市場価格もほぼ同じ、これは対決するしかないでしょ!?という訳で、そろそろバーボンを注ぐ時間です。

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目視での色の濃さは殆ど差を感じません。

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HENRY McKENNA 80 Proof
ボトリング年不明(購入は2022年)。明るめのブラウン。ライスパイス、薄っすらキャラメル、ウエハース、洋梨、ペッパー、青りんご、コーンフレーク。ややフルーティでトースティな木の香り。僅かにとろみのあるテクスチャー。口全体に甘みを感じつつもピリリとスパイシーな味わい。余韻はグレイニーでほろ苦くドライ気味。
Rating:81→82.5/100

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FOUR ROSES Black Label 80 Proof
ボトリング年不明(購入は2022年)。薄めのブラウン。熟したプラム、トーストした木、蜂蜜、ヴァニラウエハース、ホワイトペッパー、リンゴの皮。熟したフルーツを内包したややフローラルな香り。水っぽい口当たり。口中では甘くもありスパイシーでもありフルーツの存在感も。余韻はあっさりめながら豊かな穀物が現れ、最後に苦味が少し。
Rating:86/100

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Thought:両者は思ったより違いました。値段が殆ど同じなのでもっと味わいも近いのではないかと予想していたのですが、意図的にブレンド構成を変えている可能性はありそうなくらいに違いはあります。レシピ(マッシュビルとイーストの組合せ)が違うのか、熟成年数が違うのか、バレル・セレクトの基準が違うのか、或いはそれら全てなのか判りませんけれども。
私は昔からフォアローゼズ・ブラックを買い求め易い80プルーフのバーボンでは最も美味しいと非常に高く評価しています。90年代から現在のボトルまで一貫してリッチな熟したフルーツの風味があり、品質が安定しているからでした。その風味はフォアローゼズ蒸溜所で造られていた時代のブレット・バーボンでも感じ易かったです(特にブレット10年)。ところがこのヘンリーマッケンナにはそれが欠落しています。両者の違いをやや誇張して言うと、ヘンリーマッケンナは基本的にライトなフルーツ感をもつスパイシーなグレイン・フォワード・バーボンで、出てくるフルーツは洋梨や青りんごのようなフレッシュ・フルーツであるのに対し、フォアローゼズ・ブラックは基本的にスパイシーなフルーツ・フォワード・バーボンで、HMよりもう少し熟したフルーツ感があり、樽感も幾分かダークに感じます。仮に両者でバッチングに使用されるバレルの平均熟成年数が異なるのであれば、ヘンリーマッケンナは4〜5年熟成程度、フォアローゼズ・ブラックは6年熟成以上と言ったイメージかな、と。
二つのバーボンの似た部分は、どちらも液体を飲み込んだ直後のライ・キックが強いところでしょうか。とは言え、フォアローゼズ蒸溜所の2種類のマッシュビル「E」と「B」のどちらなのかの判断は難しいです。「B」マッシュビルの方がライ35%とライ麦多めのレシピではありますが、「E」マッシュビルであってもライ20%と他の蒸溜所ではハイ・ライと言ってもよいライ麦含有率ですし、フォアローゼズ・ブラックはOESKとOBSKの50/50のブレンドとどこかで見かけたことがあるので、ヘンリーマッケンナだって両マッシュビルを使ったレシピのブレンドの可能性も大いにありますから。
ところで、フォアローゼズのレシピに使用される5つのイースト「V・K・O・Q・F」は、イーストの研究に余念のなかったシーグラムが往時ケンタッキー州で所有していた五つの蒸溜所にルーツをもつと聞きます。どれがどの蒸溜所のものなのか私には判りませんが、その五つはルイヴィルのカルヴァート蒸溜所、シンシアナのオールド・ルイス・ハンター蒸溜所、ラルーのアサートンヴィル蒸溜所、ローレンスバーグのオールド・プレンティス蒸溜所、そしてネルソンのヘンリー・マッケンナ蒸溜所とされます。となると、ヘンリーマッケンナ・バーボンにはヘンリー・マッケンナ蒸溜所に由来するイーストが使われているのでしょうか? もしそうだとするならば、ヘヴンヒル製造の物よりも「血統」というロマンがあると思うのですが…。ここらへんの秘密を知ってる方は是非ともコメントよりご教示お願いします。
※ヘンリーマッケンナは開封直後はサイレントなアロマで味わいもパッとしなかったのですが、液量が半分以下になる頃には甘い香りが増して美味しくなりました。これが上記のレーティングの矢印の理由です。

Verdict:フォアローゼズ・ブラックに軍配を上げました。単に好みの問題かも知れませんが、個人的にはこちらの方が高いウィスキーの味がするような気がするので。ヘンリーマッケンナに関しては、もしかするとスタンダードなフォアローゼズ・イエローの現行品(ラベルがベージュになったやつ)にすら自分の好みとしては負けるかも知れません。全体的に少し単調な印象なのです。まあ、フォアローゼズ蒸溜所産だけに安心の美味しさですし、ライ麦の効いた味わいは私の好みでもあり、飽くまで高いレヴェルの中での些細な話ですがね。

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ジムビーム・デヴィルズ・カットは2011年に発売されました。2〜4年程度で廃止されるブランドも多い中で、今でもラインナップに残っているところを見ると人気があるか少なくとも利益率の悪くないバーボンと思われます。現在、日本で入手し易いジムビームの比較的廉価な物にはデヴィルズ・カット以外では、白のスタンダード、黒のエクストラ・エイジド、紺のダブルオーク、緑のライとありますが、この中では上から二番目に小売価格が高い。市場に出回っている殆どのバーボンウィスキーには、消費者の注意を引くためのラベルやギミック、関心を喚起するためのストーリーといったマーケティングの業があります。では、この「悪魔」までをも引き合いに出したブランディングのバーボンは一体どのようなものなのでしょうか?

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ウィスキーについて多少なりとも学んだことのある人は「エンジェルズ・シェア」という言葉を聞いたことがある筈です。これはスピリッツやワインを樽熟成する過程で蒸発によって失われる水分やアルコールに付けられた用語。お洒落な言い回しですよね。ウィスキーが閉じ込められているオーク樽はしっかりと密封されていますが、木材は多孔質のため蒸発が起こります。ウィスキーの熟成過程では毎年数%の液体がバレルから蒸発するのです。数%ならそれほど多くはないように思えますが、熟成期間が長ければ長いほど失われる量は多くなります。20年超の熟成ウィスキーは蒸発により内容物の半分以上が失われる可能性もあり、これが長期熟成酒の価格を押し上げる主な要因。熟成年数が長ければそれだけ美味しくなるとは限りませんが、熟成の過程に蒸発は付き物であり、謂わば蒸発なくしては木材から甘美なフレイヴァーを得れない、少なくとも古典的な製法では。そこで、ウィスキーを美味しくするために年会費を請求する天使への供物であると解釈するのが「エンジェルズ・シェア」という訳です。これは日本語では「天使の分け前」とか「天使の取り分」と翻訳されています。
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(AWZ作。天使はウィスキーがお好き)

ウィスキーを樽で熟成する過程で中身の液体が失われる理由は主に三つあり、一つが上のエンジェルズ・シェアでした。もう一つは味を確認するための定期的な試飲。そして、残るもう一つが樽の木材自体に染み込み吸収される分です。日々の、或いは年間を通しての高い温度と低い温度のサイクルによってウィスキーが樽の木材に押し込まれ、そして再び戻って来ることでそのフレイヴァーは増幅します。木材に入り込んだウィスキーの一部は、そこに残ったまま基本的には戻って来ません。そこでビーム社はこれを「エンジェルズ・シェア」の巧みな言葉遊びとして、天使に捧げたものに対する悪魔に奪われたもの、即ち「デヴィルズ・カット」と名付けました。
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(TP作。あくまでイメージですw)

中身をダンプして空になった樽には、かなりの量のバーボンが木材に染み込んだまま残っています。その量は約2ガロンとも、他説では約7ガロンともする情報がありました。ビームはこれを独自のプロセスを使って抽出すると言います。そのプロセスは完全には公開されていませんが、どうやら空になったバレルに水を入れ、それを高速で撹拌するだけらしい。ジムビームのマスターディスディラー、フレッド・ノーはペイント・シェイカーのように樽を振ると説明しています。また、もしかすると熱(蒸気)も加えているかも知れません。ともかく、そうして抽出した樽材の奥深くに閉じ込められていたタンニンやヴァニラやシャープなウッド・フレイヴァーを多く含むとされる液体を、6年熟成のバーボンとバランスを整えてブレンドし、90プルーフでボトリングしたら「ジムビーム・デヴィルズ・カット」の出来上りです。ちなみに抽出されたウィスキー残滓を含む液体と通常バーボンのブレンド比率については明かされていません。

ところで、スピリットが熟成されている樽に吸収されることをデヴィルズ・カットという用語で呼ぶのを「ジムビーム・デヴィルズ・カット」登場以前に聞いたことがある人は殆どいないでしょう。おそらくこの用語はビーム社によって発明された巧妙なマーケティング用語です。彼らは「独自のプロセス」と言いますが、実際には使用済みの樽からウィスキーを抽出する作業は古くから知られていました。ヒルビリーやムーンシャイナー、或いは嘗ての蒸留所の労働者達は、使用済みのウィスキーやラムのバレルに一定量の水(またはお湯)を注ぎ、その樽を横に置いて数日(または数ヶ月)おきに少しづつ回転させ、俗に「スウィッシュ」と呼ばれる非公式な使用のための酒を造ったと言います。それにはかなりのアルコールが含まれており、一部の人々はスウィッシュを「本物」と同じくらい優れていると考えたとか。ジムビームがしているのは基本的に同じことのように見えます。つまりジムビーム・デヴィルズ・カットは言葉を換えれば、6年熟成のバーボンをスウィッシュでカット(希釈)したバーボンだ、と。
ビーム家の現当主フレッド・ノーにしても、ケンタッキー州バーズタウンで蒸留一家の下に生まれ育ったからには「スウェッティング」として知られる地元の通過儀礼を経験していたと思われます。子供たちは地元の蒸留所から中身が投棄されたばかりの樽に数ガロンの水を入れ、バングホールをしっかり塞ぎ、暑い太陽の下で退屈するまで樽を転がしました。そうすると軽く酔うのに十分なアルコールが得られるのでした。これが製品化のヒントになったのでしょうか。「樽の発汗」は何も飲料用のみとも限りません。パブリカー/コンチネンタルの創始者ハリー・パブリカーは創業当初、フィラデルフィアのあらゆる小規模蒸留所に行き使用済みウィスキー・バレルを手に入れ、スウェッティングの技法を用いてウィスキー残滓を抽出し、工業用アルコールとして販売することで業界に参入しました。

「デヴィルズ・カット」はビームによって商標登録されていますが、一般的にダンプしたばかりの樽に数ガロンの水を入れ軽くリンスして残滓の一部を抽出することは多くのウィスキー蒸留所で行われていると聞きます。バレル・リンシングというプロセスです。他の大手酒類会社であるブラウン=フォーマンは、標準的な53ガロンの樽の1/3から1/2の間まで水を満たし、少なくとも三週間放置することで樽内部の木質繊維からより多くのウィスキーを抽出する独自のリンス・プロセスのパテントを持っているそう。ビームは攪拌を使用しますが、ブラウン=フォーマンは撹拌を使用しません。デヴィルズ・カットの発売より数年前、ジャックダニエルズはそうしたプログラムを開始しました。その手法はただのリンシングよりもアルコール含有量で測定すると約五倍多くのウィスキーを回収できるそうです。
ビームのプロセスがどれほど独創的であるかは偖て措き、ジムビーム・デヴィルズ・カットはバレル・リンシング・テクニックをブランディングに用い、主要製品の一つとして大衆市場へ向けて導入された初めてのバーボンだったと言ってよいでしょう。ビーム傘下にあるメーカーズマークは、供給不足解消のため2013年にそれまでの90プルーフから86プルーフにプルーフィング・ダウンする計画を発表したところ、ファンから猛反発を受けて瞬く間に前言を撤回し、その後、バレル・リンシングを導入することにより供給の問題に対応すると発表しました。これはデヴィルズ・カットの成功から来ているとみて間違いないように思います。この発表の後、新しいオーク樽で熟成されるバーボンとは異なり主に使用済みのバーボン樽で熟成させるスコッチの生産者、またバーボン・バレル熟成を行うクラフト・ビールの製造者やバーボン・バレル・フーズのような周辺産業の一部の関係者は懸念を表明しました。ビームやブラウン=フォーマンが行うようなディープ・バレル・リンシングは、自分達が使う中古樽から木材のフレイヴァーを奪い取ってしまうのではないか、という訳です。この問題がその後どうなったかは寡聞にして知りません。あくまでバーボンそのものではない数ガロンのスウィッシュを増産するに過ぎないことを考えると、全ての生産者がディープ・バレル・リンシングを行うとも思えませんし、2015年以降も増え続けるクラフト蒸留所や熟成倉庫を増設する大手蒸留所の存在もあります。どこかで需要と供給のバランスは上手く取れたのでしょうか? 少なくとも、大手企業にとってはバレルの再販とリンシングのどちらがより収益が大きいかは鍵になったのではないかとは思いますが…。ここら辺の事情に詳しい方はコメントよりご教示頂けると助かります。
ちなみに味わい的には、バレル・リンシングによって抽出されるウィスキーは非常に強いウッド・プロファイルを有し、それをブレンドすると実際よりも熟成年数の高い物に感じられるとされますが、同じような結果を齎す方法にスモール・バレル・エイジングがあります。小さい樽はウィスキーと木材の接触する表面積が増えるため、熟成が早く進むと言うか木材のフレイヴァーを取り込み易くなるのです。伝統を持たない小さなクラフト・ディスティラリーでは多く採用されています。リンシング対スモール・バレルの戦い?も興味深いですね。では、そろそろ悪魔のエキスが入ったバーボンを注ぐとしましょう。

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JIM BEAM DEVIL'S CUT 90 Proof
推定2015年ボトリング。石鹸、フローラル、生木、バターピーナッツ、ヴァニラ、ドライフルーツ入りクッキー、胡椒、煙、サイダー、僅かにプルーン。水っぽい中に少しだけとろみのあるテクスチャー、ピリリと刺激も。口の中ではビーム特有のフルーツ感もあるが、あまり甘くなくスパイシー。余韻はグレイン&スパイス中心でドライながら木炭の風味が尾を引く。液体を飲み込んだ直後がハイライト。
Rating:81/100 

Thought:少々キワモノ的なブランディングが好みではないので今まで敬遠していたデヴィルズ・カットなのですが、今回やっとこさ飲んでみました。悪くないですね。普通のジムビーム・ホワイトやブラックとは少し異なるキャラクターはあるように感じました。事前の予想通り、確かにスパイシネスと木材感が強まっています。開けたてはソーピーなアロマとアルコールの尖りを感じましたが、飲み進めて残量3分の1くらいになる頃にはビームらしいフルーツも顔を出して美味しくなりました。
現行のデヴィルズ・カットはラベルの字体が少し変わり、ボトル形状もその他のジムビームに合わせて変更されました。なので今回私の飲んだのは旧デザインということになります。私は現行を試してないので何とも言えませんが、日本の有名なウィスキーブロガーさんでデヴィルズ・カットの新旧比較を行っている方がいて、その記事には「旧」の方を高く評価する趣旨の発言が見られます。「新」の方が小売価格自体が下がっており、バーボン原酒の熟成年数も下がっているのではないか?と邪推できなくもありません。だって現行(新の方)はブラックと小売価格が殆ど変わらないですから。飲み比べたことのある方はどう思われたでしょうか? どしどしコメントよりご意見お寄せ下さい。

Pairing:敢えてスパイシー系ソース焼きそばに合わせると美味しかったです。私は食前酒にも食中酒にも食後酒にもバーボンを飲みますが、個人的にはデヴィルズ・カットは食後酒ではなく食中酒に適してるように思われました。食後にはより滑らかなバーボンか、もっと甘みのあるハイ・プルーファーが望ましく感じます。

Value:現行のデヴィルズ・カットは概ね1800〜2400円の間くらいが相場のようです。ホワイトが1200〜1500円、ブラックが1800〜2200円、ダブルオークが2500〜3000円なので、随分と狭い価格帯でのブランド展開となっています。上に述べたように、私は現行のデヴィルズ・カットを飲んでいないので、あくまで品質が今回飲んだ物とほぼ同等であると見做しての話になりますが、もしブラックと同じ価格かプラス数百円の違いなら個人的にはデヴィルズ・カットがオススメです。よりハイアー・プルーフですから確実にお得。しかし、バランスを重視するならライトなブラックの方がいいでしょう。おそらくブラックの方が甘さは感じ易いと思います。


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Ezra Brooks Rye 90 Proof
現在ではラクスコが販売するブランド、エズラブルックスのライウィスキーです。アメリカでのライウィスキー人気の潮流を受けて2017年から発売されました。中身のジュースはお馴染みMGPの95%ライ・マッシュ、熟成年数は2年、しかもノンチルフィルタードだとか。おそらく日本で流通しているMGPライを使用した製品の中で最も安価かつ入手の容易なのがこのエズラ・ライでしょう。販売価格の割にはラベルがカッコいい。

本ボトルは2017年ボトリング。プリンのカラメルソース、焦がした木、シリアル、ナツメグ、ジンジャー、ケチャップ。口当たりは円やか。味わいや余韻にミントよりも穀物感のほうが強く感じられる。芳香成分のボリュームが少なく、けっして不味いわけではないのだが、どうにも物足りない。ノンチルフィルタードなのが信じられないほどだし、いくら若い原酒とは言え90プルーフにしては風味が軽すぎる。と言うより、我々がMGP95%ライに期待する風味が欠如しているからそう感じる。
Rating:81/100

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Thought:殆ど同じスペックのリデンプション・ライと較べて、どうしてここまでMGP95%ライの風味がしないのか解りませんでした。ファーストインプレッションでは、多分チャコールフィルターのかけ過ぎとチルフィルタードが施されているからだろうと単純に考えました。ところが調べてみるとノンチルフィルタードだと言います。ふうん、じゃあ樽の違いと少しの熟成年数の違いだけでここまで違うのか、と思い直しました。で、記事を書くにあたり更にエズラ・ライの海外でのレヴューを追及していたところ、驚きの情報に行き着いたのです。
一般的にはエズラブルックス・ライの製品情報としては、MGPの95%ライ・マッシュをソースとし、熟成期間は2年でノンチルフィルタードとされているのは始めに述べた通り。多くのウイスキーサイトやブログでそう書かれているのは、おそらくラクスコ側からそうアナウンスされているからでしょう。しかし、或るバーボンマニアがエズラ・ライを飲んだとき、MGPの95%ライ・マッシュと感じなかったらしく、エズラブルックスのPR会社に確認の連絡をしてみると、担当者はマッシュビルの開示を渋ったものの、コーンが含まれていることを認めたと言うのです。
そうなると可能性として出てくるのが、MGPの95%ライではない他のライ・マッシュビル。MGPは2013年に顧客のためにマッシュビルの数を大幅に増やしたのですが、その時に二種類のライ・マッシュビルが追加されました。これによりMGPには三種のライウィスキーが存在することになります。そのマッシュビルの内訳は、
①95%ライ/5%バーリー
②51%ライ/45%コーン/4%バーリー
③51%ライ/49%バーリー
となります。上述の情報源によれば②か、もしくは①〜③のミックスなのではないか、とのこと。私の飲んだ印象としては②という気がしました。飲んだことのある皆さんの意見を伺いたいところです(※コメントよりマッシュビルに関して情報頂きました。宜しければ参照下さい)。

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EARLY TIMES 354 BOURBON
アーリータイムズ蒸留所の創業は1860年と言われており、ジム・ビームの叔父にあたるジャック・ビームがバーズタウン近くのアーリー・タイムズ・ステーションにて創始したとか。禁酒法の施行は小さな蒸留所に大きな打撃を与え、数多くの蒸留所が廃業に追い込まれました。アーリータイムズも例外ではなかったのでしょう、1923年からブラウン・フォーマンに買収され生き延びているブランドです。50年代にはアメリカで最も成功したブランドの一つでしたが、1983年以降アメリカ国内ではバーボン規格ではなくケンタッキーウィスキーとして販売され(*)、国外輸出向けにはストレート規格のバーボンとして人気を博してはいたものの、本国では最下層のアメリカンウィスキーの地位に甘んじているように見えます。ところが2011年に突如この354と名付けられたバーボン規格のアーリータイムズが発売されました。あまり売れ行きが芳しくなかったせいか、2014年に終売となりました(**)。

354という数字はアーリータイムズを造るプラントの連邦許可番号(DSP-KY-354)から由来しています。熟成年数はNAS(No Age Statement)ながら4年とされ、特別に選ばれた樽からボトリングされているようです。
通常のイエローラベルと較べるとフレッシュフルーツ感が強まっている印象。オレンジやリンゴっぽい。やや水っぽく、澄んだ酒質。確かにイエローラベルより高級なテイストは感じられるが、正直言って物足りない。おそらく43度でボトリングしてくれてればもう少し美味しかったに違いない。ボトルのデザインは古めかしくてカッコいいのだが…。
Rating:81/100


*古樽で3年熟成された原酒が混ぜられているためバーボンと名乗れない。

**今ではボトルド・イン・ボンド規格のアーリータイムズが発売されてます。

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EVAN WILLIAMS COPPER STILL CERAMIC  7 Years 90 Proof
1981年に発売されたものと言われています。エヴァン・ウィリアムスが当時使っていた蒸留器を再現したものなのでしょうか。とは言え中身のジュースはポットスティルで蒸留したものではないです。甘いキャラメル香と、現行バーボンとは異質の雑味のある風味は、オールドボトルの醍醐味ではあるものの、どうもエグみが強くて苦手な味でした。もしかすると劣化してたのかも知れませんね。飾りに買ったのでいいですけど。
Rating:73/100


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EVAN WILLIAMS Black Label 8 Years 90 Proof
94年ボトリング。なんか松脂っぽい風味のする今ではあまりないタイプのバーボンでした。古いお酒は保管状況により味がだいぶ異なる気がします。劣化とまでは言いませんが、どうも本来の味ではなかったのではないかと思います。
Rating:81/100


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EVAN WILLIAMS Red Label 12 Years 101 Proof
2009年ボトリング。逆算するとバーズタウンにあったヘヴンヒル・ディスティラリーが火事で焼失して、ルイヴィルのバーンハイム・ディスティラリーを買い取る間に蒸留された計算になるので、中身はブラウン=フォーマンの所有するアーリータイムズのプラントで蒸留されたものかなと想像します。なんとなくいつものヘヴンヒルより幾分かフルーティな気がするのは気のせいでしょうか。これは旨いです。
Rating:87.5/100


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ELIJAH CRAIG 12 Years 94 Proof
95年ボトリング。あっさりしつつコクのあるタイプで、穀物感とフルーツ感、甘味とスパイシーさの加減、度数どれをとってもバランス型かなと思います。2000年代後期から2010年代初頭の物を飲んだ時も、その印象は変わりませんでしたが、僅かに90年代の物の方が美味しかった気がします。
Rating:86.5/100

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