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ワイルドターキー・ケンタッキー・スピリットは、アメリカの現行ワイルドターキーのラインナップの中では1942年の古典的な「101」、1991年の「レアブリード」に次ぐ、3番目に古いリリースの由緒あるブランドであり、ワイルドターキー101のシングルバレル・ヴァージョンとして1994年に作成されました。公式リリースは1995年なのかも知れませんが、最初のボトルは1994年に充填されています。おそらくは、バーボン界で初めての商業的なシングルバレル・バーボン、ブラントンズの対抗馬であったと推測され、ブラントンズの競走馬やケンタッキー・ダービーをモチーフとした華麗なボトルの向こうを張った七面鳥のファンテイル・ボトルは流麗で目を惹くものでした。またブラントンズと同じように、ラベルには手書きでボトリングされた日付やバレル・ナンバー、倉庫やリック・ナンバーが記されているのもプレミアム感をいやが上にも高めています。そして、キャップはピューター製の重厚で高級感のあるものでした。それ故ケンタッキー・スピリットの初期のものは通称ピューター・トップと呼ばれています。2002年からストッパーはピューター製からダーク・カラーの木製のものに変更されました。更に2007年もしくは2008年頃にはダークだった木材がライトな色味へと変わります。ラベルに描かれる七面鳥も、ケンタッキー・スピリットに於ける明確な変更時期は特定出来ませんが、ブランド全体に渡るラベルのリニューアルに合わせ、前向きが横向きへ、カラーがセピア調へと更新されました。と、ここまではキャップ等のマイナーチェンジとシリーズ全般の変化なので、ケンタッキー・スピリットの姿自体はそれほど変わりありませんでしたが、2019年、遂にケンタッキー・スピリットの象徴的なテイルフェザー・ボトルは廃止、レアブリードに似たデザインに置き換えられ、ラベルの七面鳥の存在感は薄くなります。
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「ケンタッキー・レジェンド」と免税店の「ヘリテッジ」といった一部の製品を除き、ケンタッキー・スピリットは2013年にラッセルズ・リザーヴ・シングルバレルが発売されるまでの20年近く、ワイルドターキーのレギュラー・リリースで孤高のシングルバレルであり続けました。アメリカの小売価格で言えば、ワイルドターキー101より2倍以上高く、ラッセルズ・リザーヴより少し安い製品です。ケンタッキー・スピリットをラッセルズ・リザーヴと比べてしまうと、ラッセルズ・リザーヴは冷却濾過されずによりバレルプルーフに近い110プルーフでボトリングされるため、スペック的にケンタッキー・スピリットを上回ります。そのせいもあってか、2014年頃から始まったプライヴェート・バレル・セレクションでもラッセルズ・リザーヴのほうが人気があります。その味わいの評価に関しては、アメリカの或る方の喩えでは「ワイルドターキー・ケンタッキー・スピリットは、天井は高いが床はラッセルズ・リザーヴ・シングルバレルよりも低い」と言っていました。ターキーマニアの代表とも言えるデイヴィッド・ジェニングス氏などは、ケンタッキー・スピリットのボトルがリニューアル(同時に値上げも)されたのには相当ガッカリし、ラッセルズ・リザーヴ・シングルバレルの方が愛好家向けにアピールする製品であり、逆にもっとライトな飲酒家向けにはラッセルズ・リザーヴ10年や「ロングブランチ」などがあるため、ケンタッキー・スピリットの立ち位置がブレて消費者への訴求力が落ちているのを危惧して、価格以外に三つの解決策を提案をしています。
第一はボトルの変更です。テイルフェザー・ボトルが高価なのなら、せめて同様の美しさをもった往年のエクスポート版のケンタッキー・レジェンド(101)や「トラディション(NAS)」のようなボトル・デザインに先祖返りするのはどうか?、と。
第二にケンタッキー・スピリットもノンチルフィルタードのバーボンにする。そうすればスタンダードなワイルドターキー101よりも優れた利点が確実に得られる、と。
第三にラベルに樽詰めされた日付も記載する。現在でもボトリングの日付はありますが、ケンタッキー・スピリットが愛好家に向けた製品を目指すのなら、より細部に拘ったほうがいい、と。
そして更には、先ずは一旦ケンタッキー・スピリットの販売を休止し、現在の115エントリー・プルーフのバレルを維持しつつ、昔のような107エントリー・プルーフのバレルも造り、二つの異なるバーボン・ウィスキーを用意、最後に理想的な熟成に達した107エントリー・プルーフのバレルからケンタッキー・スピリット101を造り上げるという提言をしています。これは謂わばジミー・ラッセルのクラシックなケンタッキー・スピリット・シングルバレル・バーボンを復活させるというアイディアです。確かにこれが実現したら素晴らしい…。
ちなみに彼は現在のケンタッキー・スピリットを扱き下ろしているのではありません。ラッセルズ・リザーヴ・シングルバレルとワイルドターキー101の中間にあっては、昔ほど誇らしげに立っていないと言っているだけです。実際、彼はここ数年のケンタッキー・スピリットの高品質なリリースを幾つか報告しています。まあ、少々否定的な物言いになってしまいましたし、今でこそケンタッキー・スピリットの特別さがやや薄れてしまったのも間違いないのですが、それでもその「魂」は眠ってはいないでしょう。ケンタッキー・スピリットはジミーラッセルの元のコンセプトに忠実であり続けるバーボンであり、殆どの場合ワイルドターキー101よりも美味しく特別なバーボンであり、またストアピックのラッセルズ・リザーヴが手に入りにくい日本の消費者にとってはワイルドターキー・シングルバレルの個性的な風味を経験するよい機会を提供し続けています。

改めてケンタッキー・スピリットの中身について触れておくと、その熟成年数はNASながら8〜10年とも8.5年〜9.5年とも言われており、とにかくワイルドターキー8年と同じ程度かもう少し長く熟成されたシングルバレルをジミー・ラッセルが選び(現在はエディ?)、冷却濾過して101プルーフでボトリングしたものです。つまり単純に言えば、冒頭に述べたようにケンタッキー・スピリットは現在でも日本で販売されているワイルドターキー8年101のシングルバレル・ヴァージョンなのです。ジミー自身はケンタッキー・スピリットについて、タキシードを着たワイルドターキー101と表現していたとか。多分、スタンダードな物より格調高く華やいでいる、といった意味でしょう。発売当初のボックスの裏には彼自身の著名でこう書かれました。
時折、完璧なものを垣間見ることがあります。私はいつもそれを上手く説明することは出来ないのですが、或る樽は熟成するにつれて並外れた味を帯びるのです。信じられないかも知れませんが、私は20年以上前の樽を今でも正確に覚えています。ワイルドターキー・ケンタッキー・スピリットは、そのような記憶に残る発見の喜びを与えてくれます。このボトルには、特別な1つの樽から直接注がれた純粋なバーボンが収められており、私はそれを皆さんにお届けすることを誇りに思います。
マスターディスティラー、ジミー・ラッセル
ついでに言っておくと、ケンタッキー・スピリットとラッセルズ・リザーヴという二つの同じシングルバレル製品の違いは、ボトリング・プルーフとチルフィルトレーションを除けば、そのフレイヴァー・プロファイルにあるとされます。現在のマスターディスティラー、エディ・ラッセルによれば、ケンタッキー・スピリットが父ジミーの好みをより代表しているのに対し、ラッセルズ・リザーヴは本質的にエディ自身の好みを代表しているそう。
ケンタッキー・スピリットの味わいについては、先に引用した「天井と床」の喩えで判る通り、アメリカでも日本でも多少のギャンブル性が指摘されています。つまり、ケンタッキー・スピリットはラッセルズ・リザーヴ・シングルバレルと同等かそれ以上に優れている場合もあれば、スタンダードなワイルドターキー101や8年101に非常に似ている可能性もあるということです。これはケンタッキー・スピリット云々というより、シングルバレルの特性上仕方のない面でもあります。通常3桁から4桁のバレルを混ぜ合わせる安価なバーボンは平均的なフレイヴァーになるのに対し、文字通り一つのバレルから造られるシングルバレル製品はフレイヴァー・バランスが異なります。具体的に例を言うと、普段飲んでいるワイルドターキー8年の味が脳にインプットされていて、さあ、いつもより上級なものを飲んでみたいと思いケンタッキー・スピリットを買いました、いざ飲んでみるといつものターキーよりスパイシーでオーキーでした、あれ? いつものほうがフルーティで美味しくない?、となったらその人にはハズレを引いたと感じられるでしょう。こればかりはその人の味覚次第だから。とは言え、本職の方が選んだバレルですから美味しいに決まってますし、それだけの価値があります。ケンタッキー・スピリットは甘くフルーティなものから、ややドライでタンニンのあるものまで様々なプロファイルを示しますが、真のワイルドターキー・ファンならば勇んで購入すればよいのです、好みのもの好みでないものどちらに転ぶにせよ。

ケンタッキー・スピリットはラベルの七面鳥やボトル・デザインの変化でなく、別の視点から概ね三つに分けて考えることが出来ます。ワイルドターキー蒸留所はフレイヴァーフルな味わいを重視し、ボトリング時の加水を最小限に抑える意図から比較的低いバレル・エントリー・プルーフで知られていますが、2000年代にそれを二回ほど変更しました。2004年に107プルーフから110プルーフ、2006年に110プルーフから115プルーフに。これは良かれ悪しかれフレイヴァー・プロファイルが変わることを意味します。また、ワイルドターキー蒸留所は旧来のブールヴァード蒸留所から2011年に新しい蒸留施設へと転換しました。これも良かれ悪しかれフレイヴァー・プロファイルが変わることを意味するでしょう。そこで、ケンタッキー・スピリットの平均的な熟成年数である8年を考慮して大雑把に分けると、

①1994〜2012年の107バレル・エントリー原酒
②2013〜18年の110/115バレル・エントリー原酒
③2019年からの新蒸留所原酒

というようになります。このうち①、特にピューター・トップのものは昔ながらのワイルドターキーの味わいであるカビっぽいコーンや埃のような土のようなオーク香があり複雑な風味があるとされます。②は①のようなファンクが消え、ライトもしくはいい意味で単純な傾向に。③は前出のDJ氏によれば、選ばれたバレルによっては「床が上がっている」そうです。そこで今回は、私の手持ちのケンタッキー・スピリットの年代が異なるもの2種類と、先日投稿したワイルドターキー8年101の推定2019年ボトルを同時に飲んで較べてみようという企画。実を言うと投稿時期が違うだけで、3本をほぼ同時期に開封しています。

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WILD TURKEY KENTUCKY SPIRIT Single Barrel 101 Proof
Bottled on 01-14-16
Barrel no. 2830
Warehouse O
Rick no. 2
2016年ボトリング。ややオレンジがかったブラウン。接着剤、香ばしい焦樽、香ばしい穀物、ローストナッツ、コーン、ライスパイス、ブラックペッパー、若いチェリー、ハニーカステラ、ナツメグ、アーモンド。口当たりはややオイリー。パレートは基本的にグレイン・フォワードで、甘みもあるが飲み込んだ直後はかなりスパイシー。余韻はミディアム・ロングで豊かな穀物と共に最後にワックスが残る。

8年101と較べて良い点は口当たりがオイリーでナッティさが強いところでした。悪い点は接着剤が強すぎるのと荒々しい「若さ」があるところ。全体的には、スパイス&グレインに振れたバーボンという印象。また、101プルーフよりも強い酒に感じるほどアルコール刺激を感じます。正直言って8年101の方がマイルドで熟したフルーツ感もあり私好みのバランスでした。
Rating:86.5/100

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WILD TURKEY KENTUCKY SPIRIT Single Barrel 101 Proof(Pewter top)
Bottled on 10-5-95
Barrel no. 63
Warehouse E
Rick no. 47
1995年ボトリング。やや赤みを帯びたブラウン。ヴァニラ、湿った木材、オールド・ファンク、ベーキングスパイス、ブラッドオレンジ、紅茶、タバコ、土、漢方薬、ドライクランベリー、鉄、バーントシュガー。アロマはスパイシーヴァニラ。口当たりは柔らか。パレートはフルーティな甘さにスパイス多め。余韻はハービーで、マスティ・オークが後々まで長く鼻腔に残る。

2016年のケンタッキー・スピリットが若さを感じさせたのに対して、こちらは寧ろ近年飲んでいたマスターズ・キープ17年のような超熟バーボンを想わせる味わいです。今回私の飲んだ8年101と較べても、90年代の8年101と比べても、ハーブぽいフレイヴァーが強く複雑ではあるのですが、あまり私の好みではありませんでした。
Rating:87.5/100

Verdict:95年ピュータートップに軍配を上げました。比較として飲んでいた8年101の方が自分好みではあったのですが、やはり特別な味わいではあると思ったし、2016年物は軽く一蹴したからです。


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今回はウィレット蒸留所の代表的なブランドであるオールド・バーズタウンのラインナップの一つエステート・ボトルドです。オールド・バーズタウンのブランド自体の説明は以前に投稿した現行スタンダードのレヴューを参照ください。
エステート・ボトルドの起源はよく分かりません。ネット検索で知り得る限りでは15年熟成の物が最も古いような気がするのですが、どうでしょう? 私が見たものには、年式を90年と95年としているものがありました。エステートのラベルは、80年代から日本に輸入されていた当時のスタンダードである馬の頭と首だけの描かれたブラック・ラベルと違い、初期と同じ「オールド・レッド・ホース」の佇む絵柄です。そこからすると、より上位の物にスタンダードの丸瓶や角瓶とは異なるずんぐりしたボトルを採用し、そのトップをワックスで浸し、中身は101プルーフでボトリング、そして伝統的な絵柄のラベルを貼り付けることでプレミアム感を出したのがエステート・ボトルドなのかな、と推測しています。「Estate Bottled」というのがどういった意味かはよく解りませんが、エステートは一般的に「財産、遺産、不動産、土地」などの意味なので、「Family Reserve」や「Private Stock」とほぼ同じような意味なのではないでしょうか。上の意味の他に「種馬」の意味もあると書かれた辞典もありましたから、もしかするとお酒のラベルでよく使われるファミリー・リザーヴやプライヴェート・ストックを敢えて避け、馬のラベルに関連付けてエステート・ボトルドにしたのかも知れませんね。また、常にボトリングが101プルーフであることを考えると、ボトルド・イン・ボンド規格以上ですよと云う意味合いで「Bottled」をかけているのかも。仔細ご存知の方はコメントよりご教示ください。で、その15年熟成の物は、おそらく日本向けか一部の市場のみでの販売と思います。販売された年代と熟成年数から考えると、中身は旧ウィレット原酒であってもおかしくはないでしょう。
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その後、高齢原酒の不足のためか、いつの頃からか10年熟成の物に切り替えられました。この10年表記の物はアメリカでも流通していたようなので、もしかすると切り替えと言うよりはそもそもアメリカ国内向けと輸出用を分けていたのかも知れません。例えば、15年熟成は日本へ90〜95年に少量輸出、10年熟成はアメリカ国内にて90年代後半に発売とか? ともかく、いつから販売されていたかは私には判らないです。そしてもう少し後年、おそらく2008年あたりに熟成年数を表すシールの貼られてないNASになったと思われます。これは確実に長期熟成原酒の不足が理由でしょう。緩やかにではありましたが、2000年代を通してバーボンのアメリカ国内需要は復調していったのです。10年やNASの中身は、おそらくヘヴンヒル原酒の可能性が高いと見られています。

1970年代にバーボンの売上げが劇的に減少し、折からの石油不足が燃料用アルコールへの投資を促すと、投資家はウィレット蒸留所の飲料用アルコール生産を止め、燃料用の生産にシフトしようとしました。しかし、それは使い物にならない機器を残し失敗に終わりました。ありがたいことに、エヴァン・クルスヴィーンは平常心を保ち、一家をバーボン業界に留めるため、1984年にケンタッキー・バーポン・ティスティラーズ(KBD)というボトリング事業を始めます。エヴァンはその後の約30年間、他の蒸留所からウィスキーを購入し、オールド・バーズタウンを守り続け、新しいブランドも創り上げながら、伝統ある自身の蒸留所の再開を夢見ていました。2012年に漸く彼のその夢は叶い、蒸留所は再び蒸留を開始します。2016年になると自家蒸留されたオールド・バーズタウンの二種類(スタンダード90プルーフとボトルド・イン・ボンド)が販売され出しました。
エステート・ボトルドがいつから新原酒になったのか定かではありませんが、6年熟成とされているところからすると、早くて2018年あたりなのでしょうか? ところで、新しいスタンダード90プルーフとボトルド・イン・ボンドのラベルは、どちらもウィレット蒸留所によって蒸留および瓶詰めされていると記載されていますが、対してエステート・ボトルドの私の手持ちのボトル、またそれ以前のボトルのラベルには、蒸留はケンタッキー、ボトリングは「Old Bardstown Distilling Company」によりされたと記載されており、海外ではこれをウィレットが蒸留していないバーボンを販売するときに使用される戦術とする向きもあります。まあ、概ねそうなのかも知れませんが、旧来のラベルはなくなるまで使い続けられることもあるし、そのバーボンの名をDBAとして使用した蒸留所名だからといって全てがソーシング・バーボンとは限らない気が個人的にはしています。現に私の手持ちのボトルは確実に新ウィレット原酒です。おそらく実店舗では、現在日本で流通しているエステートの殆どは新原酒を使用している筈。とは言え、オークションや売れ残りで旧来のエステートが販売されていることも稀にはあるでしょう。そこで旧と新の目安とするならラベルよりもボトル形状に着目して下さい。最近流通しているボトルはネックにやや丸み(膨らみ)のあるものが採用されています。
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或いはボニリが正規輸入している物は新原酒と聞き及びますので、裏のラベルを目印に購入するとよいでしょう(*)。
では、そろそろバーボンを注ぐ時間です。ちなみにエステート・ボトルドは、スタンダードやBiBと共通のハイ・コーン・マッシュビル、そして上述のように6年熟成、スモールバッチ(21〜24樽)でのボトリングとされています。

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OLD BARDSTOWN ESTATE BOTTLED 101 Proof
推定2020年?ボトリング。焦げ樽、焼きトウモロコシ、プロポリス配合マヌカハニーのど飴、麦芽ゼリー、ミロ、ミルクチョコレート、熟したプラム、蜂蜜、レモン。液体はさらさらしているが、口当たりはややオイリー。パレートではモルティなグレインを強く感じる。余韻はややあっさりめと思いきや、穀物の旨味が広がり、最後にコーヒーの苦味。
Rating:87.5/100

Thought:先ず、スタンダードの4年と比べて2年の熟成期間の追加でかなり印象の違うものになっているのが驚き。スタンダードはフルーティさが強かったのに対して、エステートは味わいに凄くモルティさを感じました。私はフルーツ・フォワードなバーボンが好きなので、実はスタンダードの方が美味しく感じたのですが、私のレーティングは味だけで採点していないためエステートの方を上にしています。スタンダードではあまり感じなかった甘いミルクチョコやココアのような風味は、追加の熟成期間で育まれたと思われ、やはりそこは評価すべきかと。現行のバーボンとオールドボトルの様々な違いの要因について言われていることの一つに、昔は商業用酵素剤を使わずモルトを多く使用していたと云うのがありますが、このエステートにはそういった古のバーボンらしさがあるのかも知れません。同じウィレット蒸留所の同レヴェルの製品と目されるケンタッキー・ヴィンテージやピュア・ケンタッキーXOと比べても、マッシュビルの違いからか共通なフレイヴァーもありつつグレイン感の旨味が強いように感じます。どれが好きかは貴方の味覚や感性によって決まりますが、どれもハイ・クオリティで頗る美味しいです。

Value:日本では大体3500円前後。もうね、買え、そして飲め(笑)。オールドボトルでも長熟でもないバーボンの魅力が詰まってますよ。


*誤解のないように言っておくと、これはネックに膨らみのある物やボニリの物だと新原酒である蓋然性が高いと言うことであって、ストレートネックや並行輸入が新原酒ではないと言いたいのではありません。あくまで、ぱっと見で新原酒を購入したい人へ向けたアドヴァイスに過ぎないのです。

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テンプルトン・ライ・バレル・ストレングスは2018年から導入された年次リリースの数量限定製品です。テンプルトン・ライというブランド自体と諸々のエピソードについては、以前に投稿したスモールバッチNAS6年のレヴューで紹介してますので、そちらを参照して下さい。
創業当初NDPであったテンプルトン・ライ・スピリッツ社は2017年に自らの蒸留所を着工し、2018年から稼働し始めたようで、100%アイオワ産のウィスキーは2022年に発売されると想定されています。従って現在流通しているテンプルトン・ライの製品は、全てインディアナ州ローレンスバーグのMGPで蒸留および熟成された95%ライと5%バーリーモルトのウィスキーがソース。ブレンドとボトリングのみがアイオワのテンプルトンの施設で行われている訳です。
バレル・ストレングスは毎年限られた数のバレルが蒸留所マネージャーのレスター・ブラウンを筆頭としたチームによって選ばれます。これはシングルバレルではなく、エイジ・ステイトメントもないため、おそらく熟成年数や成熟度が異なる優良と見做されたバレルが選ばれ、その後それらをヴァッティングし、一つのバッチを形成するのでしょう。同社の4年や6年と違い、バレル・ストレングスには「ストレート」表記がありますので、フレイヴァー製剤の添加はありません。ラベルの承認を行うTTBを欺いているのでない限りは…。また、バレル・ストレングスはフレイヴァー成分をボトルに残すことを期待されるノンチルフィルタード(非冷却濾過)。流石にバレルプルーフならばフレイヴァーを添加する必要はないという判断ですかね。ちなみに、これまでリリースされたバレル・ストレングスは、2018年版が114.4プルーフ、2019年版が115.8プルーフ、2020年版が113.1プルーフでボトリングされています。

テンプルトン・ライ批判の急先鋒と言えるウィスキー・インフルエンサーのジョシュ・ピータースは、2018年にバレル・ストレングスが初めてリリースされた時には「テンプルトン・バレルストレングス・ストレート・ライウィスキーを購入しない5つの理由」という記事を自身のブログに投稿しています。彼は以前からテンプルトン社の現代ウィスキー市場に於けるあらゆる反則技や不誠実な姿勢に嫌悪感を露わにしていましたが、ストレート・ウィスキーであるバレル・ストレングスが出ても怒りは収まらなかったようで…。彼の主張をざっくり纏めると、バレル・ストレングスがストレート規格であったとしても、そのプレス・リリースではどこにもMGPのソースド・ウィスキーであるとは言及されておらず、アルフォンス・カーコフ・レシピの起源物語をまだ言い続けている、だったら同じくMGPの95/5ライ・マッシュのジェームズ・E.ペッパー1776ライのバレルプルーフの方が安く購入できるので自分ならそっちを買う、そうすれば同じ経験をしながら欺瞞的なテンプルトンではない透明性のある会社をサポートすることが出来る、と。私も情報は透明に越したことはないと思っていますし、テンプルトン・ライの行き過ぎたマーケティングにはガッカリするものの、それでもテンプルトン製品を買っています。これはジョシュに賛同しないと言うより、単に日本で比較的買い易いMGP95ライをソースとしたウィスキーがテンプルトン・ライだから、それだけ。MGPの95%ライ好きなんです(笑)。

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TEMPLETON RYE BARREL STRENGTH 115.8 Proof
Limited Bottling 2019
ピクルス、ライスパイス、プラム、青いバナナ、キャラメル、石鹸、塩、ゴーヤ、スイカ、甘いナッツ、弱い蜂蜜。基本的にスパイシーなアロマだが、フルーツとお菓子のような甘い香りもしっかりある。軽やかなのにバタリーな口当たり。味わいはフレッシュな野菜やハーブを思わせる緑感とグレイン。余韻は口当たりや度数の割にあっさり切れ上がるものの、トーストされたオークの甘みとハービーな苦味とライ麦由来のスパイシーさのアンサンブルが心地良い。
Rating:87.5/100

Thought:前回まで開けていたテンプルトン・ライ6年と比べると、バレルプルーフであることとノンチルフィルタードの効果でしょうか、フレイヴァーの強さは桁違いでした。フレイヴァー・プロファイルは概ね同じに感じますが、6年では感じ取れなかった細やかなニュアンスや変化も取得しやすいように思います。選択されたバレルの熟成年数の平均はどうなんだろう、4〜6年くらいはありそうな熟成感という印象。飲んだことある皆さんはどう思われましたか? コメントよりどしどし感想お寄せ下さい。

Value:2020年版のテンプルトン・ライ・バレル・ストレングスは、アメリカでの希望小売価格が約60ドルのようです。日本でこの2019年版が流通していた頃の小売価格は大体5500円程度でした。過剰なプレミアム(割増金)が付けられていなければ、どこかで見つけたら即買っていいと思います。日本ではMGP95ライをソースとしたバレルプルーフのウィスキーがそこまで豊富に流通している訳ではないからです。ただし、他メーカーがボトリングしたMGP95ライのソーシング・ウィスキーでも、バレルプルーフであれば同じくらい美味しいのは確定的であり、尚且もう少し安い可能性はあるので、よほどテンプルトン・ライのブランド・イメージが気に入ってるのでなければ、ジョシュ・ピータースが言うように、そちらを購入するのも手でしょう。

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「バレル・バーボン」はバレル・クラフト・スピリッツ(BCS)が連続番号のバッチで定期的にリリースするバーボン・ラインの製品です。ここで言うバレルは「BARRELL」と表記し、樽の「Barrel」より一個「L」が多いのに注意して下さい。2013年にケンタッキー州ルイヴィルで設立されたBCSは、独自のエイジド・ウィスキーやラムのインディペンデント・ブレンダー兼ボトラーであり、その卓越したブレンド技術で知られています。彼らの目標は様々な蒸留方法や熟成環境にあった樽を探求してセレクト及びブレンドし、カスク・ストレングスでのボトリングで製品化すること。全てのバッチはそれぞれフレイヴァー・プロファイルが異なるよう意図され、どれもが限定リリースとして生産されます。BCSは高品質の樽を豊富にストックしているため、素材のニュアンスを最大限に引き出した特別なブレンドを作ることが出来、自由なアプローチでのブレンディングと各ウィスキーをカスク・ストレングスで提供する強い拘りこそが製品全体の基盤となっているのです。彼らの製品は現在全米46州で販売され、ウィスキー誌での評判もよく、あのフレッド・ミニックによって2018年のベスト・アメリカンウィスキーにも選ばれた他、数々のコンペティションでの受賞歴もあります。

バレル・クラフト・スピリッツの創業者ジョー・ベアトリスは、そのキャリアを常に新しいアイディアに基づいて築いて来ました。元マーケティングとテクノロジーの起業家でニューヨーカーであったジョーは、1990年代に最初の会社ブルー・ディンゴ・ディジタルを設立し、企業がインターネットを使った開設やブランド化や自らのプロダクトを成長させる支援をしていました。BCSを立ち上げるまで創業者の経歴に「ウィスキー」の文字はなかったのです。それでも「私はいつもウィスキーが大好きだったし、ホーム・ブリュワーだったんだ」と彼は言います。ジョーはマーケティングとテクノロジーの業界で20年を過ごした後、或る時、初めて樽から直接ウィスキーを味わうという経験をすると、真のスピリッツの魔法を見ました。それは変革の経験となりました。そうして2013年、彼はバーボンの中心地とも言えるケンタッキー州ルイヴィルでバレル・クラフト・スピリッツを創業します。ジョーは素晴らしい味覚を持つ熟練のウィスキー愛好家でしたが、なにぶんブラウン・スピリッツの経験値はありません。彼は自分がウィスキー・ビジネスについてあまり知らないことを知っていました。しかし、自分の職歴から「知っていたことを応用して、製品のポジショニングやマーケティングの方法、独自のフレームワークを作ることが出来た」とも言います。
ジョーは蒸留所を建てるのではなく別の道を歩みました。同社は自分達のジュースを蒸留する代わりに、定評ある生産者から優れたバーボンやライやラムの樽を調達してブレンドし、それを可能な限り透明性の高い方法で販売したのです。彼らの会社には、怪しげな曽祖父の秘密のレシピや違法な密造酒の歴史もありません。そのアプローチはアメリカでは比較的ユニークでしたが、世界を見るとそうではなく、スコットランドの老舗インディペンデント・ボトラーはジョーにとって大きなインスピレーションでした。

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ジョーはBCSの製造プロセスの全てのステップに深く関わり、チーフ・ウィスキー・サイエンティストの肩書をもつトリップ・スティムソンと共に、米国だけでなく世界中の65の異なるサプライヤーから調達した優れたスピリッツを選び、新しい製品を作り上げています。そのため、あまり馴染みのない場所からも樽は供給され、例としてはバレル・ライ・バッチ003ではアメリカのインディアナ州とテネシー州、カナダ、ポーランドという3ヶ国のライウィスキーのブレンドだったりします。また、ウィスキー・カテゴリーの製品では複数の珍しいフィニッシュ(後熟)を施したりします。同社の最も人気のある「ダヴテイル」などは、厳密にはウィスキーと認められません。ラベル表記を取り仕切るTTBは、ダヴテイルを特定のクラス・タイプのウィスキーに完全には適合しないと判断したのです。そこでラベルには「バレル・ダヴテイル」と銘打たれ、その下に小さく「ウィスキー・フィニッシュト・イン・ラム、ポート、アンド・ダン・ヴィンヤーズ・カベルネ・バレルズ」と長ったらしく書かれています。他にも15年以上熟成されたストレート・バーボン・ウィスキーの特別ブレンドであるウルトラ・プレミアムな「バレル・クラフト・スピリッツ・ライン」やインフィニティ・ボトルから着想を得た「インフィニット・バレル・プロジェクト」や「プライヴェート・リリース」もあり、BCSはとにかく注目を集め続けています。ちなみに全てのブレンドはルイヴィルの古いデータ・ファシリティで行われ、かつてのサーヴァー・ルームがボトリングに使用されているため、温度や湿度に厳格な管理が可能なのだとか。

先述のマスターブレンダーでもあるトリップ・スティムソンはテネシー州チャタヌーガ出身で、2004年にテネシー工科大学で生化学と分子生物学の学位を取得した後、ブラウン=フォーマン社の研究開発科学者として採用されました。彼はそこで経験を積み9年間働いた後、自分のコンサルティング会社を設立し、新しい蒸留所の設計や建設、効率的な運営に必要な技術的専門知識を提供していました。ケンタッキー・アーティザン蒸留所の設計と建設を手伝い、後にマスターディスティラーとして雇用され、そこでジョーと出会います。そして2017年1月にBCSに入社し、製品開発とオペレーション監督の責務を担っています。その他のスタッフでは、2016年5月にナショナル・ディレクターとして入社したウィル・シュラギスや、2019年にBCSに参加したシングルバレル・プログラム・マネジャー&アシスタント・ブレンダーのニック・クリスチャンセンなども活躍。

さて、今回私が飲んだのはバレル・バーボンのバッチ008。上に述べたようにBCSのリリースは非常に透明なので、サプライヤーへの守秘義務を除いて中身のジュースに関してはかなり明らかです。バッチ008のスペックは同社のウェブサイトに拠れば、ストレート・バーボン規格、マッシュビルは70%コーン / 25%ライ / 5%モルテッドバーリー、テネシー州で蒸留されアメリカン・ホワイト・オークの樽で9.5年間熟成、エイジングはテネシー州とケンタッキー州、ケンタッキー州にてクラフトされ132.84プルーフのカスク・ストレングスでボトリング、ノンチルフィルタードです。リリースは2016年7月、MSRPは90ドルでした。マッシュビルからするとジャックダニエル蒸留所でもジョージディッケル蒸留所でもないと思われますが、一応蒸留所は非公開となっています。海外のレヴュワーでプリチャーズ蒸留所ではないか?と言っている方がいましたが証拠はありません。
このバッチは今のところバレル・バーボンがこれまでにリリースした中で最も高いプルーフです。最終的なプルーフはヴァットに投棄された全部の樽の平均ですから、他のバッチのプルーフと比較して平均値が高いこのバッチには、ハズマット(140プルーフ)の樽があったのではないかと推測するマニアもいます。ところでバッチ008にはバッチ08Bというセカンド・リリースがあり、そちらは半年長く熟成された10年熟成でボトリング・プルーフが128.3に下がっています。同一番号が割り振られているということは、同一の樽に由来したバッチなのでしょうけれど、僅か半年の熟成でこれほどプルーフダウンとは…。まあ、それは措いて最後に飲んだ感想を少々。

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BARRELL BOURBON BATCH 008 132.8 Proof
BOTTLE# 2076
AGE : 9yrs
ハイプルーフゆえの強いアルコールも感じますが、フルーティーな香りをコアにヴァニラや焦がしたオークが広がるアロマ。味わいはかなりフルーティな印象で、ドライフルーツよりはフルーツキャンディもしくはトロピカルフルーツ。ここら辺はマッシュビルのライ麦が高い影響でしょうか。個人的に好きな傾向のバーボンです。本当はエライジャ・クレイグ・バレルプルーフやスタッグJr.のようなヘヴィー級ハイ・プルーファーと飲み比べたかったのですが、お酒に弱い私には断念せざるを得ませんでした。
Rating:87.5/100

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ワイルドターキー・マスターズキープ・デケイズはシリーズの第二弾として、ワイルドターキー蒸留所でのエディ・ラッセル自身の勤続35周年を祝ってリリースされました。3人兄弟の末っ子として生まれたエディーことエドワード・フリーマン・ラッセルは、1981年6月5日に同蒸留所でファミリー・ビジネスに参加。当初の肩書は本人曰く「ジェネラル・ヘルパー」でした。草刈りのような雑務や樽の移動から始まって次第に任務を広げ、勤続20年となる頃には樽の熟成とリックハウスの管理責任者となり、2015年には遂に偉大なる父ジミー・ラッセルと並ぶマスターディスティラーに就任したのです。
デケイズ発売前後のワイルドターキーの限定リリースを見ると、父ジミーの勤続60周年を記念した「ダイヤモンド・アニヴァーサリー」を2014年、エディーがマスターディスティラーとして初めの一歩を踏み出した「マスターズキープ17年」を2015年、オーストラリア市場のみでの販売だった「マスターズキープ1894」を2017年、ジミーの過去の作品を再現するかのような「リヴァイヴァル」を2018年とほぼ年次リリースしています。ここから判る通り、デケイズは当初は2016年半ばにリリースされる予定でした。それでこそ35周年に合致しますからね。しかし、理由は不明ながら殆どの市場で2017年2月まで突然リリースが延期されたそう。おそらくボトリング自体は2016年6月頃までになされたと見られます。日本でも延期されたかどうかはよく判りませんでしたが、当時のサントリーの公式プレスニュースでは2016年11月15日発売で、日本国内3480本限定とあります。

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エディの名を冠しているとは言え2015年のマスターズキープ17年は、熟成環境やプルーフに於いてかなり特殊かつ偶発的なバーボンでした(MK17については過去投稿のこちらを参照下さい)。対してデケイズは10年から20年熟成のブレンドなので、エディが意図的にクリエイトしたフレイヴァー・プロファイルのバーボンと言えるでしょう。ブレンドに使用されたバレルは、フォアローゼズ蒸留所の道路を挟んですぐ向かいにある、ワイルドターキーが1976年から所有するマクブレヤー・リックハウスの中央階と上層階から選ばれました。同社の「最も希少かつ最も貴重な樽」の幾つかです。そしてそれらを「17年」よりだいぶ高い104プルーフ、ノンチルフィルタードでボトリング。若いバーボンの活気をバックボーンに、古いバーボンの深みも兼ね備えたバランスが目指されたのかも知れませんね。

ワイルドターキー蒸留所はフレイヴァーフルな味わいを重視し、ボトリング時の加水を最小限に抑える意図から比較的低いバレル・エントリー・プルーフで知られていますが、2000年代にそれを二回ほど変更しました。従来まで107だったのを2004年に110へと上げ、2006年には再度115へと上げています。つまりバレル・エントリーの違いだけに着目すると、
①2004年以前の107プルーフ
②2004年から2006年の110プルーフ
③2006年から現在に至る115プルーフ
と、異なるエントリー・プルーフのバレルがワイルドターキーにはある訳です。デケイズを構成する10〜20年熟成のバレルには、理論上これら三種の全てが含まれていることが可能です。それ故、2012〜2013年のレアブリードを除くと、デケイズは三つのバレル・エントリー・プルーフを使用した唯一のワイルドターキー・バーボンかも知れないと示唆されています。
バレル・エントリー・プルーフに限らず、蒸留所にとって何かしらの変化は珍しいことではありません。それは法律の変更、所有権の変遷、ディスティラーの交代、ブランドの繁栄と凋落、テクノロジーの発展などにより起こり得ます。そして消費者の嗜好もビジネスのあり方も変わり、あらゆるものが時代により変化するのが常。この特別なリリースのワイルドターキーの名称「デケイズ」は年月に関わるワードであり、長期に渡る時代の移り変わりという含みと中身のバーボンの内容を的確に表していると言ってよいでしょう。「Decade」は十年間を意味する言葉です。そこで10〜20年熟成だから複数形の「Decades」と。そして、それだけの歳月にはバレル・エントリー・プルーフに代表される変化があった、と。
ちなみに日本ではこの「Decades」を「ディケイド」と表記するのが一般的。でも実際の発音は「デケイズ」が近いです。正規輸入元だったサントリー自ら「ディケイド」と表記しているので、販売店がそれに倣うのは仕方ないのですが、上の理由によってワイルドターキーが付けた名前なのだから、敬意を払って「s」は省略せずにせめて「ディケイズ」としたほうが良いのでは…。まあ、ここで文句を言ってもしょうがないですけれども。

ところで、デケイズにはバッチ2があるそうです(発売も同じ2017年)。全てのバッチには独自性があり、完全に同じにすることは出来ません。この世に完全同一なバレルが存在しないからです。しかし、蒸留所のマスターブレンダーは、意図的な変更をしない限りバッチに一貫性を齎すのが基本的な仕事です。バッチ1に使用された樽は全てマクブレヤーからでしたが、バッチ2は殆どがマクブレヤーからとされています。つまり、言葉を換えれば少数のバレルは他のウェアハウスから引き出されたということ。エディ・ラッセルは「ストーリー」を一貫させるよりもフレイヴァー・プロファイルを一貫させることを目指した筈です。マーケティング担当者がバーボンの箱やラベルに印刷したストーリーは、常に100%正確であるとは限りません。実際のところ、蒸留技師はマーケティングには余り注意を払わないと言うか関心がないと思います。ディスティラーの職務は物語を書くことではなくウィスキーを造ることですから。バッチ1と2を飲み較べた海外のターキーマニアによると、どちらも同じくらい素晴らしいバーボンであり、バッチ2も紛れもなくデケイズであり、あらゆる点でその名前に忠実とのこと。
では、そろそろ時代を超えたワイルドターキーを注ぐとしましょう。マッシュビルは75%コーン、13%ライ、12%モルテッドバーリーです。

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WILD TURKEY MASTER’S KEEP DECADES 104 Proof
BATCH №:0001
BOTTLE:68703
色はラセット・ブラウン。接着剤、強いアルコール、香ばしい焦げ樽、銅、ビターなカラメルソース、オレンジ、焼きトウモロコシ、ブラウンシュガー、ナツメグ、パイナップル、レザー、輪ゴム。ディープ・チャード・オークが支配的なアロマ。少しとろみのある口当たり。口の中ではグレインとオレンジピールが感じ易く、刺激がビリビリと。味わいはけっこうドライ。余韻は長く、土と煙が現れ、消えゆく最後にふわっと苦味が残る。
Rating:86.5(87.5)/100

Thought:全体的に焦げの苦味が特徴的な印象。10年から20年熟成のブレンドとのことですが、若そうなアルコール感がガツンとありながら、枯れた風味とビタネスが混在するバランス。前回まで開けていたMK17年と較べると、余韻に渋みがないのは好ましく感じました。ですが、MK17年よりもツンとくる刺激臭はかなりありました。そのせいかその他の香りが感じにくく、一、二滴の加水をした方が甘い香りが立ちましたし、味わいにもフルーツを感じ易かったです。そのため上のレーティングは括弧内の点数が加水した場合のものとなっています。もしかして、20数年後に開封して飲んだら微妙な酸化の進行でとんでもなく美味しかったのでしょうかね? そんなポテンシャルを僅かに感じさせる一品でした。ただし、デケイズもまたMK17年と同じくオークのウッディネスが強過ぎて、バーボンの魅力である甘いノートを抑えてしまっているような気はします。

Value:アメリカでの希望小売価格は150ドル。日本でも同じくらいで15000〜17000円が相場。オークションだともう少し安く購入することも出来るかも知れません。本国での味わいの評判はなかなか良いのですが、やはりと言うか少し値段が高いという評価を受けています。自分的には正直言ってデケイズを買うならレアブリードでいいかなと思いました。ただ、確かに長期熟成酒のテイストやクラシック・ワイルドターキーっぽさも少しあるので、そこを求めるなら購入を検討してもよいでしょう。或いは、箱やボトルやキャップは豪華でめちゃくちゃカッコいいので、金銭的に余裕があるのなら贅沢な気分を味わうために購入するのはアリだと思います。

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2015年、ワイルドターキーはマスターズキープという名の特別な限定版のラインを始めました。その初めてのリリースが今回紹介する「17年」です。エディ・ラッセルはその年、生ける伝説の父ジミー・ラッセルと並んで正式にマスターディスティラーに就任しました。スタンダードなワイルドターキーとは異なる長期熟成の限定版はジミーのセレクトによって過去に幾つか発売され日本ではお馴染みでしたが、そのエディ版となるものがマスターズキープのシリーズということになるでしょう。エディ曰く、マスターズキープ17年はこれまでに製造したワイルドターキー・バーボンの中で最もユニークなバーボンだと言います。その理由の一つは、この17年という熟成期間はワイルドターキーがリリースしたバーボンの中で最も長い年月を経ていることでした。ワイルドターキーは過去(2001年)に日本限定の木箱に入った17年物の101プルーフのバーボンをリリースしていますが、アメリカ国内では15年物よりも長い熟成年数のバーボンをリリースしたことがありません。レジェンドであるジミーは、バーボンの味は8〜12年が最も良いと考えるため、長熟バーボンをあまり好まないという有名な話があって、そういう点からするとMK17にはエディらしさが強く出ています。そして、熟成年数以上にこの17年を特別なものとしたのは、それが造られたバーボンが三つの異なる熟成環境にあったことです。箱に記載されている「№1ウッド、№2ストーン、№3ウッド」というのがそのことを示しています。
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1996年にワイルドターキーはオンサイトの倉庫スペースが不足したため、オフサイトのストーン・キャッスル蒸留所の石造りのウェアハウス(オールドテイラー蒸留所とオールドクロウ蒸留所が一部共有する)で樽を保管し始めました。2010年になると保管されていた樽は再びワイルドターキーに移されました。1996年から2010年までストーン・キャッスルでは様々な熟成年数のワイルドターキー約80000バレルが熟成されていたと言います。つまり「№1ウッド、№2ストーン、№3ウッド」というのは、初めワイルドターキーの木材と金属の組み合わせで造られた熟成を加速する温度と湿度の変動にスピリッツを晒す倉庫で暫く過ごした後、それとは対称的なストーン・キャッスルの安定した室温と多湿により緩やかに熟成する比較的冷涼な倉庫に移され、最終的にまたワイルドターキーの木材/金属の倉庫に戻ったマスターズキープ17年の来歴なのです。

マスターズキープ17年のプロファイルは、17年の熟成期間のうち14年を過ごしたストーン・キャッスルによって大きく影響されたでしょう。それはプルーフにも端的に現われました。ワイルドターキーと言えば101プルーフ、101プルーフと言えばワイルドターキーです。なのにマスターズキープ17年は86.8プルーフしかありません。しかし、実はマスターズキープ17年は、ほぼバレルプルーフでボトリングされています。樽から取り出された時のバッチ・プルーフは、ケンタッキー・バーボンとしては異常に低い89(または88.4とも)プルーフでした。それが更に濾過中にプルーフが失われ、ボトリング時には86.8プルーフになったと言います。これは一般的な多くのバーボンよりも涼しく湿った環境で熟成された独特の貯蔵条件の結果であり、偶発的なエイジング・プロセスに起因すると考えられています。
石は木材よりも優れた断熱材です。そのため石造りの倉庫内は木製のリックハウスに較べて、温度は概ね低く、大きな変動もしません。ワイルドターキーのリックハウスはケンタッキー・リヴァーを見下ろす大きな断崖の上にあり空気循環も良好ですが、オールドクロウ(ストーン・キャッスル)は険しい谷の南側にあってワイルドターキーより数マイル北に位置するにも拘らず、比較的涼しい上に湿度が高く風もあまりないため一般的に気候安定性に優れ、その結果ウィスキーはゆっくりと穏やかに熟成し、熟成感がありながらも軽やかなプロファイルを有するとされます。涼しく湿った石造りの倉庫はバーボンよりもスコッチの典型的な熟成環境に近く、アルコールは水よりも早く蒸発し、ケンタッキーに典型的な木製倉庫とは逆にプルーフ・ダウンすることもあり得る、と。にしても、1996年に樽詰めされた時、おそらくは107のバレル・エントリー・プルーフだったバーボンが89プルーフに下がるとは…。何度もバレルを移動したことによる影響もあったのでしょうか。ともかく、熟成の神秘を感じさせる事例ですよね。では、その神秘の一端を頂いてみるとしましょう。ちなみに、マシュビルはその他のワイルドターキー・バーボンと同じ75%コーン、13%ライ、12%モルテッドバーリーです。

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WILD TURKEY MASTER'S KEEP AGED 17 YEARS 86.8 Proof
BATCH № : 0001
BOTTLE № : 67332
接着剤、香ばしい焦樽、古い木材、スパイシーヴァニラ、キャラメルマキアート、タバコ、ムギムギ、アーモンド、ジンジャー。パレートはシロップとオレンジ。口当たりは水っぽい。余韻は度数の割に恐ろしく長いが、過剰に渋い。
Rating:87.5→84.5/100

Thought:先日まで開封していたダイヤモンド・アニヴァーサリーと較べると、香りはこちらの方が甘くなく、接着剤が強すぎるように感じました。スイートな香りもあるのですが、接着剤が邪魔をして感じにくいと言うか…。それでも口に含んだ時はフレイヴァーフルでした。もう口に含んだ瞬間にDAより「あっ、旨っ」となる程に。しかし余韻はウッドに傾き過ぎた嫌いがあります。海外のレヴューを参照すると、最高の香りや味わいではないけれどクラシックなターキー・フレイヴァーとの評が多く、期待していたのですが自分にはマッチしませんでした。おそらくジミーの長熟バーボンに対する否定的な発言を聴く限り、これこそ彼の嫌いな味ではないかと思えるほどバーボンの魅力である甘い香味がウッドの渋味によって掻き消されているように感じます。
タイロンのターキーの熟成庫とストーン・キャッスルの熟成庫の違いが齎す「差」については、正直よく分かりません。確かにターキーらしさを感じる一方で、通常のターキーと違うフィーリングもあるのは分かりますが、それが熟成年数の長さから来るのか熟成庫のスタイルや環境の違いから来るのかが分からないのです。
上のレーティングで点数が下がっているのは、実は味わいの変化が大きかったためです。開封したては味も濃く感じて大変美味しかったものの、何故か一週間経つと余韻に渋さが急に目立ち出し、それは飲み切るまで変わりませんでした。私のボトルだけがそうだったのか分からないので、飲んだことのある方の意見を募りたいです。皆様、コメントより感想をお寄せ下さい(追記あり)。海外のレヴューでMK17を過剰に渋いと言ってる方は見当たらないんですよね…。私の舌がおかしいのでしょうか?

Value:このバーボン、アメリカでは150ドルのMSRPでして、日本でも当初17500円くらいの値札が付けられました。自分としてはマスターズキープ17年は一級のバーボンではありませんが、箱を含めターキーが施されたボトル形状や重厚な銅製のストッパー等はデザイン性と高級感に優れた素晴らしいパッケージングです。また興味深いストーリーもあります。味だけでないそういう側面を考慮するなら「買い」でしょう。ですが、お酒を味のみに対してお金を払っているという感覚の方にはスルーをオススメします。ちなみに私が味のみで評価するなら5000円の価値もありません。但しこれは、私が潜在的に90年代のワイルドターキー12年101と較べる脳を持っているから辛口の評価になってしまった可能性はありますし、基本的に長熟バーボンを好まない個人的傾向があるだけで、そもそも超長期熟成酒を好む方なら真逆の評価はあり得るとだけ付け加えておきます。

追記:私のバーボン仲間で、冷凍庫でキンキンに冷やした幾つかのワイルドターキーの限定版を飲み比べした方がいるのですが、その彼によるとこのMK17は甘かったとのこと。私は真夏でもストレートでしか飲まないので分からないですけど、もしかすると冷したりロックで飲むと渋味が感じにくくなって甘さが引き立つのかも知れません。

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オークウッド・ブランドはラベルから読み取れる情報からすると、ヘヴンヒルが「Longs Drug Stores」のために作成したプライヴェート・ラベルと思われます。
現在のロングス・ドラッグスは特にハワイで有名なドラッグストアで、他にアメリカ西海岸を中心とした州にあるチェーン店です。ハワイ州全体で40以上の店舗があり、ローカルの人々にとってはドラッグストアに行くこと=ロングスに行くことのように親しまれているのだとか。その最初の店は、1938年にロングス・セルフサーヴィス・ドラッグとして、トーマスとジョセフのロング兄弟によってカリフォルニア州オークランドに設立されました。オークランド? まさかオークウッドの名は創業の地オークランドにあやかって掛かってるのでしょうか? まあ、それは措いて、ハワイで初めての店舗は1954年3月29日にホノルルにオープン。1971年までにロングズは54店舗で1億6,900万ドルの売り上げを記録したそうです。そして1977年にアラスカ、1978年にアリゾナとオレゴン、1979年にはネバダへと拡大し、1982年には162店舗となり売上高は遂に10億ドルを超えました(ロングスのその後は省略)。おそらくラベル記載の所在地から察するに、70年代初めから半ば頃に当のオークウッドが発売されたのではないかと思います。
オークウッドに他の種類があるのか判りませんが、これはボトルド・イン・ボンド規格の7年熟成ストレート・バーボン。ボンデッド法ではラベルに蒸留施設を銘記しなくてはならないので、裏ラベルにはヘヴンヒルの旧バーズタウン施設のパーミット・ナンバー(DSP-KY-31)が記載されています。 

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ところで、オークウッドにルーツはあるのか探ってみると、シンシナティのレクティファイヤー及び酒類販売会社メイヤー・ブラザーズ・カンパニーのブランドにオークウッド・ウィスキーというブランドがありました。彼らは1890年頃にレキシントンのサンダーズヴィルにあったコモンウェルス蒸留所(*)を「テナント・リーシー(**)」によりオークウッド蒸留所として事業をしていたようです。また他の情報源では、1893年にメイズヴィルの近くにあったオークウッド蒸留所を購入したともされていました。このブランドをヘヴンヒルが買収したのですかね? それとも全く関係ないのでしょうか? 詳細ご存知の方はコメントよりご教示頂けると助かります。では最後に飲んだ感想を少しばかり。

Oakwood BiB 7 Years Old 100 Proof
今回の投稿も、またもやバー飲みなのですが、実はそこで静かに燃える炎という印象の素晴らしい若きバーボンマニア様と邂逅を果たしまして、これはその方の注文品を一口だけ頂いたものです。Yさん、貴重な体験、また色々な情報をありがとうございました。バーボン繋がりに乾杯!

推定70年代ボトリング。キャラメルやオーク、きな粉やチョコレートのヒント、少々のオールド・ファンクの他に植物っぽいニュアンスを感じました。90年代の平均的なヘヴンヒルにはあまり感じたことのないフレイヴァー。これは美味しいです。
Rating:87.5/100


*ジュリアン・ヴァン・ウィンクル三世が経営していたローレンスバーグにあった同名のコモンウェルス蒸留所とは別。この蒸留所はレキシントン地区RD#12で、1880年にジェイムズ&リチャードのストール兄弟とヘンリー・C・クレイの共同による会社がサンダーズヴィルの古い綿工場を改造してウィスキー蒸留所にしたのが始まりです。工場はレキシントンの北西3マイルの位置にありました。投資資本は60,000ドル。独自のブランド「オウル・クラブ」や「エルクホーン」の他にバルク・ウィスキーを取引しました。「Commonwealth Distilling Company」は、ヘンリー・クレイとパートナーシップを解消した後の1885年頃、リチャード・ストールを社長、アイザック・ストラウスを副社長として設立され、会社の取締役にはチャールズ・ストールやジェイムズ・ストールもいましたが、リチャードが主要株主だったようです。

**蒸留所を数日間リースすることでブローカーがディスティラーを名乗ることが出来ました。これは所謂「DBA(doing business as)」とも知られています。

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オールド・コモンウェルスの情報は海外でも少なく、そのルーツについてあまり明確なことは言えません。ですが、ネットの画像検索や少ない情報を頼りに書いてみます。

先ず始めにスティッツェル=ウェラーのアイリッシュ・デカンターに触れます。長年スティッツェル=ウェラー社を率いた伝説的人物パピー・ヴァン・ウィンクル(シニア)が亡くなった後、息子のヴァン・ウィンクル・ジュニアは1968年にオールド・フィッツジェラルド名義でセント・パトリックス・デイを記念するアポセカリー・スタイルのポーセリン・デカンターのシリーズを始めました。1972年にスティッツェル=ウェラー蒸留所が売却された後も、新しい所有者はヴァン・ウィンクル家が1978年にオールド・コモンウェルスのラベルの下で再び引き継ぐまでシリーズを続けます。1981年にジュニアが亡くなった後も息子のジュリアン・ヴァン・ウィンクル三世が事業を受け継ぎ、毎年異なるデザインを制作していましたが、このシリーズはデカンター市場が衰退した1996年に中止されました。オールド・コモンウェルスのアイリッシュ・デカンターの殆どには80プルーフで7年または4年熟成のバーボンが入っていた、とヴァン・ウィンクル三世自ら述べています。
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60年代は、50年代のファンシーでアーティスティックなグラス・デカンターに代わりセラミック・デカンターが人気を博しました。各社ともデカンターの販売には力を入れ、ビームを筆頭にエズラ・ブルックスやライオンストーンが多くの種類を造り、他にもオールド・テイラーの城を模した物からエルヴィス・プレスリーに至るまで様々なリリースがありました。おそらく、70年代にバーボンの需要が落ち込む中にあっても、記念デカンターは比較的売れる商材だったのでしょう。ジュリアン・ジュニアはスティッツェル=ウェラー蒸留所を売却した後、「J. P. Van Winkle & Son」を結成し、様々な記念デカンターを通して自分のバーボンを販売しました。 既に1970年代半ば頃からコモンウェルス・ディスティラリー名義は見られ、ノース・キャロライナ・バイセンテニアル・デカンター、コール・マイナーやハンターのデカンター等がありました。もう少し後には消防士やヴォランティアーを象った物もあります。

そして今回紹介するオールド・コモンウェルスは上に述べたデカンターとは別物で、ジュリアン・ヴァン・ウィンクル三世がシカゴのサムズ・リカーという小売業者向けにボトリングした特別なプライヴェート・ラベルが始まりでした(当時20ドル)。おそらく90年代半ば辺りに発売され出したと推測しますが、どうでしょう? 後には同じくシカゴを中心としたビニーズにサムズは買収され、ビニーズがオールド・コモンウェルスを販売していましたが、ヴァン・ウィンクルがバッファロー・トレース蒸留所と提携した2002年に終売となりました。中身に関しては、同時代のオールド・リップ・ヴァン・ウィンクル10年107プルーフと同じウィスキーだとジュリアン本人が断言しています。ORVWのスクワット・ボトルと違いパピーのようなコニャック・スタイルのボトルとケンタッキー州(*)の州章をパロった?ラベルがカッコいいですよね。では、最後に飲んだ感想を少しばかり。

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Old Commonwealth 10 Years Old 107 Proof
推定2000年前後ボトリング。前ポストのオールド・リップと比較するため注文しました。大した量を飲んでないので細かいことは言えませんが、こちらの方が度数が僅かに高いのにややあっさりした質感のような? でも、どちらも焦樽感はガッチリあってダークなフルーツが奥から漂うバーボンで点数としては同じでした。
Rating:87.5/100


*ケンタッキー州は日本語では「州」と訳されますが、英語ではステイトではなくコモンウェルス・オブ・ケンタッキーです。アメリカ合衆国のうちケンタッキー、マサチューセッツ、ペンシルヴェニア、ヴァージニアの四つの州は、自らの公称(州号)を「コモンウェルス」と定めています。これらは州の発足時に勅許植民地であった時代との決別を強調する狙いがあったものと解されているそう。オールド・コモンウェルスは如何にもケンタッキー・バーボンに相応しい命名なのかも知れません。
2020-04-07-07-10-31
「commonwealth」とは、公益を目的として組織された政治的コミュニティーの意。概念の成立は15世紀頃とされ、当初は「common-wealth」と綴られたそうで、「公衆の」を意味する「common」と「財産」を意味する「wealth」を繋げたもの。後の17世紀に英国の政治思想家トマス・ホッブズやジョン・ロック等によって一種の理想的な共和政体を指し示す概念として整理され、歴史的に「republic(共和国)」の同義語として扱われるようになったが、原義は「共通善」や「公共の福祉」といった意味合いだったとか。

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オールド・リップ・ヴァン・ウィンクルというブランドは、元は禁酒法時代(または以前?)に遡りますが、長年の沈黙からジュリアン・ヴァン・ウィンクル二世が1970年代半ばに復活させ、それを受け継いだ息子のジュリアン三世が伝説のレヴェルまで育て上げたブランドと言ってよいでしょう。

長年スティッツェル=ウェラー社を率いてきたジュリアン・"パピー"・ヴァン・ウィンクルが1965年に亡くなった後、息子のジュリアン・ジュニア(二世のこと)は他の相続人との意見の相違から、1972年にスティッツェル=ウェラー所有の蒸留所とブランドをノートン・サイモン社へ売却することを余儀なくされました。しかし、彼は名前や物語を余程気に入っていたのか、アメリカの小説家ワシントン・アーヴィングの物語をモチーフにしたブランドだけは売却せず、スティッツェル=ウェラー蒸留所からウィスキーを購入出来る権利とボトリング契約を残したことで、オールド・リップ・ヴァン・ウィンクルを甦らせ販売し始めます。その事業は1981年にヴァン・ウィンクル二世が亡くなると息子のジュリアン・ヴァン・ウィンクル三世に引き継がれますが、スティッツェル=ウェラーとのボトリング契約が切れたことでジュリアン三世は致し方なく(妻も子供四人もおり、多額の借金を背負うことになるから)アンダーソン郡ローレンスバーグにある旧ホフマン蒸留所をベン・リピーから購入しました。ジュリアン三世はスティッツェル=ウェラーからのバルク・ウィスキー、またその他の蒸留所からもウィスキーを購入し、コモンウェルス蒸留所として様々な銘柄でボトリングを続けました。80年代にはおそらく知る人ぞ知る小さな存在だった会社は、90年代に祖父への敬意を直接的に表す「パピー・ヴァン・ウィンクル」を発売、幾つかの賞を得たことでウィスキーの世界から注目を集め出します。しかし、スティッツェル=ウェラー蒸留所はユナイテッド・ディスティラーズの傘下になった90年代初頭に蒸留が停止されてしまいました。そこで、原酒の枯渇を懸念したジュリアン三世は、新しい供給先としてバッファロー・トレース蒸留所を選び、2002年、合弁事業としてオールド・リップ・ヴァン・ウィンクル・ディスティラリーを立ち上げます。同社のブランドは段階的にスティッツェル=ウェラーからバッファロー・トレースの蒸留物へ変わりました。2010年以降は「パピー」がバーボン愛好家以外の一般大衆にも認知され出し、バーボン・ブームの到来もあってカルト的人気を得、それに釣られてその他のブランドも高騰。オールド・リップ・ヴァン・ウィンクルも日本に住む「庶民派ウィスキー飲み」が手を出せる金額ではなくなり、そもそも日本へ輸入されることもほぼなくなりました。バッファロー・トレースのフランクフォート産の物ですらそのような状況の今日、ジュリアン三世がハンドメイドで瓶詰めしていたローレンスバーグ産の物は、特に愛好家に珍重され求められています。

今回ご紹介する「ヴァン・ウィンクル」の付かないヴァン・ウィンクル製品であるスクエア・ボトルの「オールド・リップ」なのですが、これは日本向けの輸出用ラベルでした。4年熟成86プルーフ緑ラベルと12年熟成105プルーフ黒ラベルの二種類があり、日本のバーボン愛好家には知られたブランドです。おそらく発売期間は80年代後半から90年代後半(もしくは2000年代初頭?)までではないかと思われます。少なくともフランクフォート表記のオールド・リップは見たことがないので、2002年以降には製造されていないと推測しました。お詳しい方はコメントよりご教示下さい。
それは措いて、中身の原酒について。ジュリアン三世は「ヴァン・ウィンクル・ファミリー・リザーヴ」や「ヴァン・ウィンクル・セレクション」、初期の「パピー・ヴァン・ウィンクル」、またその他の銘柄ではスティッツェル=ウェラー以外の原酒を使うこともありました。しかし、聞くところによると彼は「オールド・リップ・ヴァン・ウィンクル」のブランドにはスティッツェル=ウェラー原酒を使うことを好んだとされます。それからすると、おそらくこの「オールド・リップ」もスティッツェル=ウェラー原酒で間違いないでしょう。では、最後に飲んだ感想を少しだけ。

OLD RIP 12 Years Old 105 Proof
今回はバー飲みです。先日まで開けてあったオールド・リップ12年が前回のウイスキークラブ(定期イヴェント)で飲み切られたとのことで倉庫からストックの新しいボトルを出して来てくれました。なので開封直後の試飲となります。

推定88年ボトリング(*)。キャラメルの他に植物っぽい香りも。ハイプルーフゆえのアルコールのアタックはあってもヒート感はほぼ感じない。現代の小麦バーボンよりもスパイス感がやや複雑で、フレイヴァー全体が濃厚な印象。余韻は少し渋め。
Rating:87.5/100

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*この時期のジュリアン・ヴァン・ウィンクル三世は少し古めの瓶を使ってボトリングしていたことを示唆する情報がありますので、瓶底の数字は88なのですが、もしかするとボトリングは90年頃の可能性があります。

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ピュア・ケンタッキーXOはケンタッキー州バーズタウンのウィレット蒸留所(KBD)で製造されているスモールバッチ・ブティック・バーボン・コレクションの四つのうちの一つです。その他の三つはノアーズ・ミル、ローワンズ・クリーク、ケンタッキー・ヴィンテージとなっています。価格から言うと、この中でピュア・ケンタッキーXOは下から二番目の位置付け。コレクションの成立はおそらく90年代後半とみられ、その名称はジムビームのスモールバッチ・コレクションを意識したのでしょうか。しかし、同じスモールバッチでもその生産量には余りにも大きな違いがあります。スモールバッチとは一回のバッチングに使用するバレルの数が少ないことを意味する業界用語ですが、業界最大手のジムビームは300~350樽程度でのバッチング、小さなクラフト蒸留所のウィレットは概ね20樽程度のバッチングのようなので、実際のところウィレット製品はヴェリー・スモールバッチとでも言った方が分かり易い。猫も杓子もスモールバッチを名乗る昨今、スモールバッチという言葉は既に本来の意義を失って形骸化し、ただのマーケティング用語に成り下がったように見えなくもないです。大事なのはスモールバッチかどうかではなく、実際に飲んでみて美味しいと思うかどうか。
まあ、それは偖て措き、ここらでピュア・ケンタッキーXOの中身について触れたいところなのですが、実は日本でも海外でもPKXOに関する情報は少なく明確なことが分かりません。その名称のXOは通常「Xtra(Extra) Old」の略なので、おそらくケンタッキー産の長期熟成を経た格別な原酒をボトリングするイメージがブランドの根底にあると思います。ピュア・ケンタッキーXOは基本的にNASではありますが、ボトルのバックラベルには「少なくとも12年熟成、もしくはもっと」との文言がある時代がありました。
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日本では今でも多くの酒販店の商品紹介欄に「最低12年熟成」と書かれていることが多く、これはそのバックラベルを根拠としての記述でしょう。しかし、このバックラベルは2000年代流通の物には貼ってあったかも知れませんが、2010~2012年あたりに当該の文言は削除されたか、もしくはバックラベル自体が貼られなくなったのではないかと思います。熟成年数の声明(エイジ・ステイトメント)がないということは、蒸留所の都合(所有するバレルの在庫状況や市場の需要と供給のバランス等)で、ブレンドに使うバレル選択が熟成年数に縛られず自由に出来ることを意味します。それまで低迷していたアメリカにおけるバーボンの需要は2000年以降徐々に増え出し、2010年以降には爆発的な伸びを見せました。そのため旧来まであったエイジ・ステイトメントがなくなる銘柄が増えたり、もともとNASだったものは若い原酒をブレンドするようになりました。おそらくピュア・ケンタッキーXOもこうした流れと無関係ではいられなかったのだと思います。例えば、2006年頃の情報では1バッチ8~10樽ボトリングで最低11年~最高14年物の原酒をヴァッティング、2011年頃の情報では5〜12年熟成のバーボン樽のコレクション、と説明されていました。これらの説明の情報源は蒸留所の方からのものなので、当時としては正確だと思われます。また、海外のレヴュワーさんのPKXOの記事のコメント欄で、KBDは同じラベルの下で異なる市場向けに異なるブレンドをリリースしていると聞いた、と述べている方もいました(追記あり)。 その伝聞が正しいのかは判りませんが、そもそもNASであること、ヴェリー・スモールバッチであることを考慮すると、バッチ毎は言い過ぎとしても生産年の違いによる味の変動は少なからずあるのが普通でしょう。
ピュア・ケンタッキーXOは初期の頃から(多分)2000年代後半までは緑色のボトルに入れられていました。その後は透明のボトルに切り替わります。そして何年間かは上記のバックラベルは貼られていて、現在では貼られていません。個人的にはこうした外観の変更時に中身の大幅な変化があったのではと勘繰っているのですがどうでしょう? 飲み比べたことのある皆さんのご意見、コメントよりどしどしお寄せ下さい。
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ウィレット蒸留所は1980年代初頭に訳あって蒸留の停止を余儀なくされ、80年代中頃からはケンタッキー・バーボン・ディスティラーズ(KBD)というインディペンデント・ボトラーとして活動。そのため余所の蒸留所からニューメイクや熟成ウィスキーを仕入れ、同社のエイジング施設で熟成後に自ら販売したり、他のNDPのためにボトリングしたりしていました。そうした活動が実り、2012年1月、ウィレット蒸留所は再び蒸留を開始し、そして時を経た現在では自家蒸留原酒をボトリングし始めました。
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(画像提供K氏)

以前投稿したケンタッキー・ヴィンテージと同じようにウィレット原酒の物は瓶の形状が変わっています。画像をよくご確認下さい。
さて、今回も親愛なるバーボン仲間でありウィレット信者であるK氏にサンプルを提供して頂きました。お陰でバッチ違いの異なる原酒のちょっとした比較が可能となりました。この場を借りて、改めて画像や情報提供の協力にも感謝致します。ありがとうございました。
今回のレヴュー対象はウィレット原酒を使用した推定2018年ボトリングの物。おまけのサンプルはヘヴンヒル原酒と目される推定2014年ボトリングの物です。では、注いでみましょう。

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PURE KENTUCKY XO 107 Proof
Batch QBC No. 18-31
推定2018年ボトリング。熟したプラム、蜂蜜、シリアル、花、塩バター、キャラメル、ローストアーモンド、ダークチョコレート。ややオイリーな口当たり。味わいには煮たリンゴやグレープやアプリコットのようなフルーツぽさ、もしくはフルーツガムのような旨味がある。ジュースを飲み込んだ時のパンチや濃さは感じられるが、余韻は度数の割りにあっさりしていて少しドライ気味、と思いきやその後から濃厚でフルーティな戻り香がやってくる。一滴加水したほうが甘さが立った。
Rating:87.5/100

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PURE KENTUCKY XO 107 Proof
Batch QBC No. 14-12
推定2014年ボトリング。紅茶、グレイン、溶剤、ミルクチョコレート。口当たりは思うよりさらりとしている。パレートにややハーブっぽい苦味。余韻はオークのドライネスが支配的。あまりフルーツ感のないタイプで、香り以外に甘味が感じにくい。
Rating:82/100

Thought:先日飲んだ新しいケンタッキー・ヴィンテージが凄く美味しかったので、新しいピュア・ケンタッキーXOへの期待値は高まっていました。ところが107というハイ・プルーフから期待するほどのインパクトに欠ける印象でした(特に開封直後)。マッシュビルの違いなのかバレル・セレクトの違いなのか、はたまた加水具合のためなのか判りませんが、KVの方が香りと余韻により華やかさを感じたのです。それでも開封から二週間ほど経ち、残量が3分の2くらいになると徐々に旨味が増し、新ウィレット原酒らしい濃密なフルーツと豊かな穀物が感じ易くなりました。KVとの比較で言うと、PKXOの方が焦がしたオーク由来の風味が強いように感じます。
バッチ14-12は香りからして別の原酒なのは明らかでした。以前投稿したケンタッキー・ヴィンテージの味比べと同じような結果になっているのですが、どうしてもレヴェルが違い過ぎるので点数に差がつきます。通常のヘヴンヒル銘柄とは少し異なる紅茶やハーブのヒントがあるのは評価するとしても、どうも溶剤臭が強いのと甘味を欠く点が私の好みではありませんでした。
ところで、ウィレットの蒸留再開が2012年ということを勘案すると、「ヴィンテージ」や「XO」との名称が付いていても、おそらくKVやPKXOの熟成年数は4~6年程度と推測されます。この先、長期熟成樽が仕上がってくると、バッチングにそうした樽を使用し始めるのか、それとも販売価格とのバランスを考えて今のスペックをキープするのか? 成り行きを見守りつつ、続報を待つとしましょう。マッシュビルに関してもそのうち分かれば追記します(追記あり)。
ちなみに、同じウィレット蒸留所からリリースされているジョニードラム・プライヴェートストックも新原酒に切り替わっていますが、PKXOとJDPSの違いはチャコール・フィルターの有無だけで他は同じだそうです(もちろんPKXOがフィルターなし)。

Value:ピュア・ケンタッキーXOの日本での販売価格は概ね3800~4500円くらいのようです。ケンタッキー・ヴィンテージの相場が3500円程度なことを考えると、107プルーフのPKXOが最安値だとプラス300円足らずで購入出来ることになります。これはハイアー・プルーファー愛好家にとっては嬉しい選択肢でしょう。個人的には、度数が低い割りに満足感のあるケンタッキー・ヴィンテージの方を推しますが、パワーに勝るピュア・ケンタッキーも捨てがたいですね。いずれにせよ他社の同価格帯の競合製品と較べて頭ひとつ抜け出てる印象の新ウィレット原酒はオススメです。
私はピュア・ケンタッキーXOの青く縁取られたケンタッキー州の地図とブルーワックスのデザインがめちゃくちゃ好きなのですが、同じ感性の方います? これって大きな価値ですよね?


追記1:日本が誇るバーボンマニアの方から情報を頂きました。その方によると、PKXOの欧州向けと日本向けを比較したところ、バッチ違い程度の差異しかなかったとのことです。

追記2:マッシュビルはハイ・ライのレシピ(52% Corn / 38% Rye / 10% Malted barley)との情報が入りました。

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