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ウィリアム・ラルー・ウェラーは、ジョージ・T・スタッグ、イーグルレア17年、サゼラック・ライ18年、トーマス・H・ハンディ・ライと共に、バッファロートレース・アンティーク・コレクション(BTAC)の一つです。この限定版ウィスキーのコレクションは2000年にリリースされた当初、90プルーフでボトリングされた超長熟のバーボン、ウィーテッド・バーボン、ライの三種で構成されていましたが、その後ラインナップを増やしたり、熟成年数やプルーフの変更などがあり、最終的に三つのバーボンと二つのライに落ち着き今に至っています。
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BTACはバッファロー・トレース蒸溜所の最高のバーボンとライを代表する存在として、毎年秋に限られた数量でリリースされ、世界のウィスキー愛好家に待ち望まれています。そのためパピー・ヴァン・ウィンクルやウィレット・ファミリー・エステートと並んで入手困難なユニコーン・ボトルでもあります。五つのウィスキーのそれぞれは、使用されるマッシュビル、熟成期間の長さ、プルーフなど異なるものの、各ボトルの希望小売価格は99ドルと、昨今のスーパープレミアムなボトルのリリースと比べると可愛らしい価格ではあります。しかし、抽選会などで当選しないとその価格で購入することは叶わず、通常パピーほど高価にはなりませんが、セカンダリー・マーケットでは一本のボトルに数百ドルから場合によっては数千ドルを費やすことになるでしょう。親会社サゼラックの賢明な舵取りと卓越したウィスキーの組み合わせによってバッファロー・トレース蒸溜所はアメリカン・ウィスキー愛好家が何よりも追い求める蒸溜所となり、BTACは言うに及ばず、ブラントンズ、カーネルEHテイラーJr.やエルマーTリー等も希望小売価格を上回る価格で取引されています。
全てのバッファロー・トレースのバーボンは、濁度のチェックやガスクロマトグラフィーによるサンプル・テストなど様々な品質テストが行われるそうですが、最も厳しいテストは人の味覚によるものだと言います。官能分析のトレーニングを受けた何人かのテイスターは、ラボに持ち込まれたバレルのサンプルを全て試飲すると、各バレルがブランドの基準に合致しているかどうかを確認し、テイスターのうち一人でも反対すればそのバレルは送り返され更に熟成されるのだとか。そうした厳しい基準の最たる例は、2021年のBTACのラインナップからジョージTスタッグが外れた件に顕著でしょう。品質担当でありマスター・ブレンダーのドリュー・メイヴィルは、「私たちの製品は、常に品質が最重要で」あり、「もし味が私たちの期待にそぐわなければ、お客さまにお出しすることはありません」と言っていました。

ウィリアム・ラルー・ウェラーは、他のウェラー・ブランドのラインナップやヴァン・ウィンクル・ブランドのバーボンと同じくライ麦を含まないマッシュビルを使用するウィーテッド・バーボンです。2005年のアンティーク・コレクションから導入されました。それ以前は、2000年から2002年に掛けて、超長熟で90プルーフの「W.L.ウェラー19年」がリリースされていました。小麦レシピなのは同じながら、それらは純粋なスティッツェル=ウェラー・ジュースと目されており、全く別の製品です。近年続々と拡張されたヴァリエーションを別にすると、ウェラー・ブランドには「スペシャル・リザーヴ 」、「アンティーク」、及び「12年」が定番としてありました。ウィリアム・ラルー・ウェラーは概ね約12年間熟成されているところから考えると、バレル・ピックの基準の厳しさを除けば、謂わば「12年」のノンチルフィルタードかつバレルプルーフにてボトリングされたヴァージョンと言って差し支えないでしょう。
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(W.L.ウェラー19年のラベル)

酒名となっているウィリアム・ラルー・ウェラーという人物は「小麦」と密接に関係づけられて語られますが、実はウィーテッド・バーボンを開発したのでもなく販売すらしたことはなかったかも知れません。所謂ウィーテッド・バーボンはスティッツェル兄弟が開発し、ウィリアムの死後30年近く経ってから禁酒法後にパピー・ヴァン・ウィンクルらが広めたレシピだったと見られています。その代わり彼はスティッツェル兄弟からウィスキーを購入したり、自身の会社に若きパピー・ヴァン・ウィンクルを雇った人でした。彼はウィスキー・レクティファイアーではありましたが、なんなら皮肉にも酒を飲まない人だったとも言われています。若い頃はザッカリー・テイラーと共にメキシコ戦争に参戦した軍人でもありました。またウィリアムは自身の成功を還元することも忘れず、ルイヴィルの街に大きな貢献をしたそうです。なんでもバプティスト孤児院の創設メンバーの一人であり、人生のかなりの期間その理事を務め、子供達が良い家庭に行くことが出来るよう養親の面接を行った人物だったとか。ウィリアム・ラルー・ウェラーその人やウェラー・ブランドについては過去に投稿したこちらでも少し触れていますので良ければ参照下さい。

バッファロー・トレース蒸溜所はBTACに関しては詳細を公表しているので、下にウィリアム・ラルー・ウェラーの全てのリリースをリスティングしておきます。W. L.ウェラー19年に関しては、幾つかのウェブサイトや写真を参考にリストを作成しましたが、後のBTACほど詳細は分かりません。おそらく年2回のペースで販売されたと思われます。左からボトリング年、蒸溜年、プルーフの順です。2003年と2004年はリリースがなく、2005年から名称をウィリアム・ラルー・ウェラーと改め、中身の仕様も変更され、詳細が明かされるようになりました。しかし、2019年からはバッチ・サイズに関する情報は非公開になっています。リストは左から順にリリース年、蒸溜年、熟成年数 、ボトリング・プルーフ、熟成されていた倉庫、選ばれたバレルが置かれていたフロアー、熟成中の蒸発率、使用されたバレルの数と推定ボトリング本数、となります。


W. L. Weller 19 YEARS OLD
Summer 2000|Fall 1980|90 Proof
Spring 2001|Fall 1980|90 Proof
Summer 2001|Spring 1982|90 Proof
Fall 2001|Spring 1982|90 Proof
Spring 2002|Spring 1983|90 Proof
Fall 2002|Spring 1983|90 Proof

2003|No release
2004|No release

William Larue Weller
2005|Fall of 1993|12 years, 2 months|121.9 proof|Warehouse Q|5th floor|58.04%|41 barrels, 4602 bottles
2006|Spring of 1991|15 years, 3 months|129.9 proof|Warehouse M |5th floor|50.64%|22 barrels, 2905 bottles
2007|Spring of 1997|10 years, 3 months|117.9 proof|Warehouse I|9th floor|53.27%|34 barrels, 4250 bottles
2008|Spring of 1997|11 years, 2 months|125.3 proof|Warehouse I|9th floor|52.05%|40 barrels, 5131 bottles
2009|Fall of 1998|11 years|134.8 proof|Warehouse N, O|5th floor|57.20%|41 barrels, 4694 bottles
2010|Summer of 1998|12 years, 3 months|126.6 proof|Warehouse I, P|4th and 9th floors|55.50%|55 barrels, 6547 bottles
2011|Fall of 1998|12 years, 11 months|133.5 proof|Warehouse N, O, P|4th and 5th floors|57.20%|45 barrels, 5152 bottles
2012|Spring of 2000|12 years, 4 months|123.4 proof|Warehouse P, I|2nd and 4th floors|56.60%|49 barrels, 5689 bottles
2013|Spring of 2001|12 years, 1 month|136.2 proof|Warehouse M, P|3rd and 4th floors|55.30%|39 barrels, 3468 bottles
2014|Spring of 2002|12 years, 3 months|140.2 proof|Warehouse D, K, L|2nd, 3rd, 4th, and 6th floors|62.30%|39 barrels, 3933 bottles
2015|Spring of 2003|12 years, 3 months|134.6 proof|Warehouse I, K, L|2nd and 6th floors|72.30%|105 barrels, 7780 bottles
2016|Winter of 2003|12 years, 7 months|135.4 proof|Warehouse D, K, L|3rd and 6th floors|65.40%|145 barrels, 13421 bottles
2017|Winter of 2005|12 years, 6 months|128.2 proof|Warehouse D, I, P|1st〜6th floors|54.08%|155 barrels, 19040 bottles
2018|Winter of 2006|12 years, 6 months|125.7 proof|Warehouse C, I, K, L, M, Q|2nd〜5th floors|56.90%|149 Barrels, 17179 Bottles
2019|Winter of 2007|12 years, 6 months|128.0 proof|Warehouse I|2nd and 3rd floors|57.00%|N/A
2020|Winter of 2008|12 years, 6 months|134.5 proof|Warehouse I, C|3rd, 5th and 6th floors|73.0%|N/A
2021|Winter of 2009|12 years, 6 months|125.3 proof|Warehouse K, L, D, Q, C|1st, 2nd and 3rd floors|64.0%|N/A


偖て、今回バーで飲んだのは2005年と2007年です。現地でも入手が困難になったせいか、日本で現行品のBTACを見かけることは殆どなくなりました。それもあるし、年代違いがあるのなら、この機会に並べて飲み較べてみようという意図で注文した次第です。では、感想を少しばかり。

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William Larue Weller 117.9 Proof
2007年ボトリング。重厚な焦げ樽香とレーズンを中心としたアロマ。味わいは濃厚で、甘酸っぱさとスパイシネスの波が押し寄せる。バターとビターチョコの余韻。テクスチャーに刺々しさはなく、円やかです。
Rating:92.5

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William Larue Weller 121.9 Proof
2005年ボトリング。スモーキーな樽香や豊富なドライフルーツは2007年と共通しますが、こちらの方がアロマにマスティオークを感じました。口当たりは思ったよりあっさりめ。味わいは柑橘ぽいフルーティさが強いかな。
Rating:92

飲んだ瞬間に「あ、違う」と思うほど両者に違いはあるのですが、どちらが上か下かは甲乙つけ難く、共に長熟ウィーテッド・バーボンの魅力に溢れていると思います。点数の差は個人的なちょっとした嗜好に過ぎません(もしかすると普通の人は逆かも…)。どちらも一言で表現するなら、飲むドライフルーツの宝石って感じです。おそらくバーボン飲みだけに限らず、シェリー樽で長期熟成されたスコッチが好みの方にもウケるのではないでしょうか? 皆さんも見かけたら是非飲んでみて下さい。最後に、上のリストと重複する部分もありますが、せっかくなのでこの二つのWLWの詳細を引用しておきますね。

Distiller
Buffalo Trace Distillery, Franklin County, Kentucky
Age Profile
Year of Distillation : Fall of 1993 
Release : Fall of 2005
Release Brand name : William Larue Weller Kentucky Straight Bourbon Whiskey
Proof for release : 121.9 proof
Recipe
Large Grain : Kentucky Corn; Distillers Grade #1 and #2
Small Grain : North Dakota Wheat
Finish Grain : North Dakota Malted Barley
Cooking / Fermentation
Milling screen : #10
Cook Temperature : 240 degrees Fahrenheit
Water : Kentucky Limestone with Reverse Osmosis
Fermentation : Carbon Steel / Black Iron fermenter
Mash : Sour
Distillation & Aging
Distillation : Double Distilled; beer still and doubler 
Proof off still : 130 Proof
Barrel : New, White Oak; #4 Char; Charred for 55 seconds
Barrel maker : Independent Stave; Lebanon KY
Barrel entry proof : 114 proof
Barrel size : 53 liquid gallons; 66.25 Original Proof Gallons
Warehouse : Warehouse Q
Floor : 5th
Evaporation loss : 58.04% of the original whiskey lost to evaporation
Bottling
Barrel selection : 41 hand picked barrels
Filtration : None
Product Age : 12 years and 2 months old at bottling
Tasting comment : "Big & Sweet"

Distiller
Buffalo Trace Distillery, Franklin County, Kentucky
Age Profile
Year of Distillation : Spring of 1997
Release : Fall of 2007
Release Brand name : William Larue Weller Kentucky Straight Bourbon Whiskey
Proof for release : 117.9 proof
Recipe
Large Grain : Kentucky Corn; Distillers Grade #1 and #2
Small Grain : North Dakota Wheat
Finish Grain : North Dakota Malted Barley
Cooking / Fermentation
Milling screen : #10
Cook Temperature : 240 degrees Fahrenheit
Water : Kentucky Limestone with Reverse Osmosis
Fermentation : Carbon Steel Black Iron fermenter
Mash : Sour
Distillation & Aging
Distillation : Double Distilled; beer still and doubler
Proof off still : 130 Proof
Barrel : New, White Oak; 4 Char, Charred for 55 seconds
Barrel maker : Independent Stave; Lebanon KY
Barrel entry proof : 114 proof
Barrel size : 55 liquid gallons; 66.25 Original Proof Gallons
Warehouse : Warehouse I
Floor : 9th
Evaporation loss : 53.27% of the original whiskey lost to evaporation
Bottling
Barrel selection : 34 hand picked barrels
Filtration : None
Product Age : 10 years and 3 months old at bottling
Tasting comment : "Sweet molasses with a hint of cinnamon"