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ウィレット・ポットスティル・リザーヴは名前の通り見栄えのするポットスティル型のボトルが特徴的なバーボン。ウィレット蒸溜所に設置されている銅製のポットスティルを模したデザインになっています。2008年から導入されました。同蒸溜所がリリースしているスモールバッチ・ブティック・バーボン・コレクションの四つ(ノアーズ・ミル、ローワンズ・クリーク、ピュア・ケンタッキーXO、ケンタッキー・ヴィンテージ)がジムビームのスモールバッチ・コレクション(ブッカーズ、ベイカーズ、ノブ・クリーク、ベイゼル・ヘイデン)に相当するならば、このポットスティル・リザーヴはバッファロートレース製造のブラントンズやワイルドターキーのケンタッキー・スピリットに相当すると言えるでしょうか。おそらくは現在市場に出回っているバーボンのガラス・ボトルの中で最も派手な部類に属し、酒屋の棚では一際目立つ存在でしょう。但し、そのボトル形状のせいでグラスへ注ぎにくいとか、ボトムの面積が広いためコレクション棚への収納が難しい等の声も聞かれたります。それでもやはり、このボトル形状にはウィスキー飲みが惹かれてしまう魅力がありますね。
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この製品は元々はシングルバレルとしてリリースされていましたが、2015年からひっそりとスモールバッチに変更されました。そもそものシングルバレル版では、キャップを封するストリップにバレル番号とボトル番号が手書きで記載されていました。「Bottle No. ○○○ of ○○○ from Single Barrel ○○○」という具合で○には数字が入ります。スモールバッチになるとストリップにはボトル番号は記載されなくなり、バッチ番号のみとなりました。明確な時期を特定できませんが、帯の色は初期から現在にかけてオレンジ、黒、紺と変わって行ったと思います。ただ、画像検索で幾つかのWPSRSmBを探ってみると、より新しいバッチであっても紺ではなく黒の場合もあるように見え、輸出国の違いとかバッチの違いによってパッケージングが異なっている可能性も考えられます。ボトル前面に貼られたワックスシールのエレガントなメダリオンの文言も何時からか段階的に変化しており、「SINGLE BARREL ESTATE RESERVE」から「POT STILL RESERVE」へ、また「WILLETT」の文字はブロック・レターからスクリプトへ変更されました。
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(画像提供K氏)

おそらくはバーボン需要の高まりに応じるかたちで2015年頃からスモールバッチになったポットスティル・リザーヴですが、このブランドを際立たせていたのがバーボンの味わいではなくボトル・デザインであったせいなのか、ノアーズ・ミルやローワンズ・クリークがエイジ・ステイトメントを失いNASへと変化した時のように残念がる声を上げる消費者は殆どいませんでした。このブランドの成功の大部分はウィレット蒸溜所のポットスティルを模したガラス製デキャンターのデザインにあったに違いありません。実際、2008年のサンフランシスコ・ワールド・スピリッツ・コンペティションのパッケージング・デザイン部門でダブル・ゴールドを受賞しています。しかし、その外見の良さは諸刃の剣でもありました。外見の良さは中身を伴わないと非難と嘲笑の対象になるからです。或るリカー・ショップの商品レヴューでは、約50ドルの小売価格のうち20ドルがバーボンで30ドルがボトルだ、と言うような趣旨の皮肉めいた見出しの評がありました。とは言え、この発言はそのショップのレヴューでは少数意見ではあります。ところが、TikTok界隈ではそうではありません。バーボン系ティックトッカー達によるウィレット・ポットスティル・リザーヴのレヴューは、ライター/ジャーナリストのアーロン・ゴールドファーブによると、「一部にプロフェッショナルな者もいるが大部分はアマチュア、少数の真面目なものもあるが多くはコミカル、殆どが容赦のないもの。まるでこのウィスキーを非難することが、この人気の高いプラットフォームでバーボン・レヴュアーになるための通過儀礼であるかのようにほぼ全て否定的です」。TikTokのポットスティル・リザーヴのレヴューは殆どの場合、ボトルの形が如何にクールでどれほど見栄えがし、評者自身が気に入っていると述べるところから始まります。しかし、次にグラスに注いだ液体を口にした瞬間、様相は一変します。滑稽な調子で咳き込んで窒息しそうになってみたり、「わーーー、これはホットだ」と叫んで最終的にウィレット・ポットスティル・リザーヴを「ゴミ」と呼んだり、「今まで飲んだバーボンの中で一番不味いかも知れない」と述べる人もいたりします。このようにポットスティル・リザーヴへのバッシングの多くは、そのボトルの豪華さに比べて中身が如何に酷いものであるかを笑いものにしている訳ですが、これらはTikTok特有のユーモアを多分に含んだオーヴァー・リアクションと言うのか、短い時間内で一発芸的に笑いを取るショート動画にありがちな或る種のジョークであって真に受ける必要はないと個人的には思います。けれども気になるのは、僅かながら存在するもっと真摯なTikTokレヴュワーや他のバーボン系ウェブサイトに於いてもウィレット・ポットスティル・リザーヴがそれほど高評価を得てはいないところです。ゴールドファーブ自身も「ポットスティル・リザーヴは確かに美味しくない(私は決してこのボトルを家に置かないだろう)が、TikTokが信じ込ませているほど悪くはない」と微妙な評価。まあ、それらは全て「スモールバッチ」への言及であり、「シングルバレル」についてではありません。

ウィレット・ポットスティル・リザーヴはシングルバレルであれスモールバッチであれ、94プルーフでのボトリングとNAS(Non-Age Statement=熟成年数表記なし)での提供は共通しています。ウィレット蒸溜所は中身の原酒に関して明らかにしないことが多いので、飽くまで噂と憶測になりますが、ここからはポットスティル・リザーヴの中身の変遷について整理して行きたいと思います。と、その前に少しだけ歴史の復習を。
禁酒法撤廃後、ケンタッキー州バーズタウン郊外にランバートとトンプソンのウィレット父子によって設立されたウィレット・ディスティリング・カンパニーは、訳あって1980年代初頭に蒸溜を停止しました。1984年、会社はトンプソンの娘マーサと結婚したエヴァン・クルスヴィーンに引き継がれ、以後ケンタッキー・バーボン・ディスティラーズ(KBD)というボトラーとして活動することになります。同社は倉庫で何年ものあいだ寝ていた熟成ウィスキーをボトリングして販売を続けましたが、自社の在庫が枯渇する前に他の蒸溜所からウィスキーを購入しました。それらを効果的に使用して、オールド・バーズタウンやジョニー・ドラム、ノアーズ・ミルやローワンズ・クリーク等の自社ブランドを販売する傍ら、自らが所有していない他の多くのブランドのための契約ボトラーとしても働きました。エヴァンのKBDは蒸溜はしなかったものの、その代わりに名高いバーンハイムやスティッツェル=ウェラー、ヘヴンヒルやジムビームやフォアローゼズ等の近隣の蒸溜所から不要な在庫を調達し、それらの一部を巧みにブレンドすることで自らのフレイヴァー・プロファイルをクリエイトしました。そしてエヴァンとその息子ドリューは、現代のアメリカン・ウィスキー・ブームに先駆けて、ウィレット・ファミリー・エステートの名の下にバレルプルーフでノンチルフィルタードのシングルバレルとして最も上質のバーボンとライのストックをリリースし、好事家からの称賛を受けました。そうした全ての活動が実り、蒸溜所は復活、2012年1月21日に蒸溜を再開することが出来たのです。今、アメリカン・ウィスキー愛好家にとってウィレットの名は神聖とも言える特別な位置を占めています。
ここから分かる通り、ウィレット蒸溜所は1980年代初頭から2012年まで蒸溜を停止していたため、このポットスティル・リザーヴの発売から暫くの間は別のディスティラリーで蒸溜されたものを使用している筈です。現在ポットスティル・リザーヴと呼ばれている製品のシングルバレル(もしかすると初期の正式名称はウィレット・シングルバレル・エステート・リザーヴだったのかも知れない。上掲のワックスシールの画像参照)は、リリースされた当初は多くのウェブサイト上の情報源によると8〜10年の熟成であるとされていました。そして、ボトル内のバーボンは彼らの他の製品と同様に、すぐ隣のヘヴンヒル蒸溜所から来ていると推測されています。シングルバレルはその特性上、風味の一貫性を問われませんから、もしかすると他の蒸溜所産のバレルも使用していた可能性もありますが、こればかりは公開されてないので謎のままです。いずれにせよ、何処の蒸溜所の原酒であれ、ポットスチルを模したボトルの形状やその製品の名称にも拘らず、このバーボンは一般的なコラムスティル+ダブラーを使用して製造されているのは間違いないでしょう。ちなみにウィレット蒸溜所の自家蒸溜でも、おそらく最初の蒸溜をコラムスティル、2回目の蒸溜で銅製ポットスティルをダブラーとして使用していると見られています。

2015年頃、前述のようにポットスティル・リザーヴはシングルバレルからスモールバッチに置き換えられました。ウィレット蒸溜所はバーボン界での世界的な人気の高まりがあっても、所謂クラフト蒸溜所に近い規模の操業を維持しています。そのため「スモールバッチ」と名付けられていなくても実際には全ての製品がスモールバッチのようです。スモールバッチという用語は政府によって規制されていないため、ただのマーケティング・フレーズに過ぎませんが、大規模蒸溜所のスモールバッチが100〜200樽、中には300樽にまで及ぶこともあるなか、ウィレットのバッチ・サイズは、おそらく2000年代は12樽程度、現在でも20樽ちょいとされていますので、ウィレット製品のスモールバッチ表現は我々消費者が抱く「スモールバッチ」のイメージと一致しているでしょう。このバッチ数量は時間の経過と共に変化する可能性はありますが、少なくとも今のところヴェリー・スモールバッチと呼んだほうが誤解がなく適切な気がします。ヴェリー・スモールバッチの弱点は、ごく少数のバレルからバッチを形成するため、バッチ毎に味わいの一貫性が低下するところです。ポットスティル・リザーヴの評価が定まらないのは、もしかするとこのせいもあるのかも。
最終的にウィレットの製品は100%自家蒸溜に移行する(した?)と思われますが、彼らは自身の蒸溜物がいつポットスティル・リザーヴに組み込まれたかについて明らかにしていません。有名なバーボン・ウェブサイトの2017年時点のレヴューでは、ケンタッキー州の他の蒸溜所から供給されたバーボンの可能性が高い、と言われていました。一説には、帯が紺色の物は新ウィレット原酒と聞いたこともあります。今回、私がおまけとして試飲できた推定2016年ボトリングのスモールバッチの帯は紺色なのですが、ボトルの裏面(メダリオンのない側)には下画像のようにプリントされています。
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(画像提供K氏)
この「Distilled, Aged and Bottled in Kentucky」という記述の仕方は、ウィレット・ファミリー・エステートのラベルでもそうなのですが、基本的に自家蒸溜原酒ではない他から調達されたウィスキーの場合の書かれ方です。しかし、旧来のボトルを使い切るか、或いはボトル会社(プリント会社?)に文言の変更を依頼するまで?は、中身がウィレット原酒であっても上のままの記述である可能性があります。逆に「Distilled, Aged, and Bottled by Willett Distillery」と記載があれば確実にウィレットの自家蒸溜原酒でしょう。私自身は直に見ていないのですが、おそらく近年のボトルにはそうプリントされていると思われます。2020年のレヴューでは、或る時点で100%自社蒸溜に移行したと考えられる、とされていました。仮にポットスティル・リザーヴ・スモールバッチのウィレット蒸溜原酒の熟成年数が4〜6年程度であるならば、2012年から蒸溜を再開したことを考慮すると、早くて2016年から新ウィレット原酒を使用することは可能です。海外のレヴューを読み漁ってみると、多くのレヴュアーが共通して指摘しているバターポップコーンやレモンや蜂蜜のヒントが感じられる場合、新ウィレット原酒である可能性は高そうです。
現在、ウィレットにはバーボン4種類とライ2種類のマッシュビルがあり、そのうちバーボンは以下のようになります。

①オリジナル・レシピ
72%コーン / 13%ライ / 15%モルテッドバーリー / 125バレルエントリープルーフ

②ハイ・コーン・レシピ
79%コーン / 7%ライ / 14%モルテッドバーリー / 103 & 125バレルエントリープルーフ

③ハイ・ライ・レシピ
52%コーン / 38%ライ / 10%モルテッドバーリー / 125バレルエントリープルーフ

④ウィーテッド・レシピ
65%コーン / 20%ウィート / 15%モルテッドバーリー / 115バレルエントリープルーフ

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(こちらはライも含むウィレットのマッシュビル表)

ポットスティル・リザーヴにどのマッシュビルが使われているかは正式には公開されていません。しかし、或る情報筋からの話によると①②③のブレンドと聞きました。ところが、2021年や2022年に執筆されたバーボン系ウェブサイトの記事ではマッシュビルは④のウィーテッド・マッシュとされています。どちらかが正しいのか、或いは時代によるマッシュビルの変更があったのか? はたまた両者の情報を掛け合せて④を含むミックスなのか? 蒸溜所からの公式の発表はないので謎です。まあ、このミステリアスなところもウィレットの魅力の一つではあるのですが、真相をご存知の方は是非ともコメントよりご教示下さい。また、バッチ情報と共に味わいの感想などもコメントより共有して頂けると助かります。では、そろそろバーボンを注ぐとしましょう。

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WILLETT POT STILL RESERVE Single Barrel 94 Proof
Bottle No. 145 of 233
Barrel No. 1581
ボトリング年不明(購入は2013年頃なのでそれ以前は確実)。黒蜜、甘醤油、キャラメル、アニス、湿った木材、ドライピーチ、バナナ、ナッツ、ウッド・ニス、銅、プルーン。途轍もなく甘く、樹液のような香り。ややとろみのある口当たり。パレートでも甘く、更にハーブぽい風味が濃厚。余韻はミディアムで豊かな穀物とレザー、最後はビター。アロマがハイライト。
Rating:86.5/100

Thought:先ず、いにしえのシュガーバレルを想起させるアロマが印象的。味わいも独特で、これぞシングルバレルという感じ。口当たりや濃厚な風味は、確かに8〜10年くらいの熟成感と思いました。ボトリング年は不明ながら、シングルバレルでリリースされた時期であるところからすると、原酒はヘヴンヒルだろうと思われるのですが、いざ飲んでみると香りも味わいも一般的なヘヴンヒルとは全然違う印象を受けました。だからと言って他の蒸溜所、バートンとかワイルドターキーとかフォアローゼズに似てる訳でもなく、ウィレットの風味と言うしかないと感じます。ヘヴンヒルからの購入とするなら、ホワイトドッグを購入してウィレット蒸溜所の倉庫で熟成させてるのか、もしくはヘヴンヒルが自分たちの味ではないと判断したオフ・フレイヴァーのバレルを購入しているかのどちらかなのかな? 或いは出来損ない(笑)のブラウン=フォーマンとか? まあ、それは兎も角、ウィレットにはウィレット・ファミリー・エステートという最高峰のシングルバレル・ブランドがあるので、普通に考えて最も優れたシングルバレルはそちらにまわされるでしょう。それ故、このシングルバレルのポットスティル・リザーヴは飽くまで「次点」のシングルバレルの筈。味わいがアロマほど良くないところが、このボトルのらしさなのかも知れない。アロマをそのまま味わいにも感じれたら、もしくは微妙なオフ・フレイヴァーがなければ、点数は88点を付けてました。ぶっちゃけ、上のレーティングのうち1点はボトルに対してです。

偖て、今回は私の手持ちのシングルバレル版ポットスティル・リザーヴをメインに飲んだ訳ですが、そこに加えて先述のようにスモールバッチ版のサンプルを頂けたので、おまけで少しだけ比較が出来ます。サンプルは例によってInstagramで繋がっているバーボン仲間のKさんから。ウィレッ党のKさん、本当にいつも貴重な情報やバーボンをありがとうございます! 

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(画像提供K氏)
WILLETT POT STILL RESERVE Small Batch 94 Proof
Batch No. 16D1
推定2016年ボトリング。シングルバレルより薄いブラウン。香ばしい穀物、キャンディ、シリアル、砂糖、新鮮な木材。ウッディなスパイス香。ややとろみのある口当たりながら、尖りも感じさせるテクスチャー。口の中でもスパイシーでメタリック?でドライ。余韻はやや甘みも。

バーボンらしさを象徴する風味は全てあるのですが、それ以上に若々しく、荒く、何と言うかギラついた金属感のようなものを感じました。多分、ウィレット原酒だと思います。もしヘヴンヒルなら4年以下の熟成物でももう少しこなれた感があると思うのです。不思議なのは、新ウィレット原酒を使ったオールド・バーズタウンやケンタッキー・ヴィンテージやピュア・ケンタッキーXOの良さの片鱗を感じれなかったこと。単純に熟成年数の短さに由来するのか、それともマッシュビルに由来するのか…。いや、そもそもウィレット蒸溜ではないのか? 謎が謎を呼びますが、バーボン・ティックトッカーが怒りの声を上げているのは、おそらくこのレヴェルの物なのでしょう。そうであるならば、まあ確かに頷けるかな、と。とは言え、ウィレット自家蒸溜のスモールバッチは、これより後の物はもう少し味わいが改善している可能性はあるかも知れません。2020年以降のボトルを飲んでみたいですね。
Rating:80/100

Value:現行ウィレット・ポットスティル・リザーヴ・スモールバッチのアメリカでの750mlの小売価格は地域差が大きく、40ドル未満の場合もあれば60ドル近い場合もあるようです。日本でもそれに準じて5000円台後半から7500円の間が相場でしょうか。この価格には華麗なボトルの代金も含まれるので、同じウィレットのスモールバッチ・ブティック・コレクションやオールド・バーズタウンのエステート・ボトルドの価格を考えると、中身にのみお金を払っているという意識の方には少し高く感じられるかも知れません。購入検討している方は、外観を含めてお金を払う意識でいた方が良いと思います。
シングルバレル版に関しては、もし7500円程度で購入できるチャンスがあるなら、買う価値は間違いなくあると思います。たとえ当たり外れがあったとしても…。

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1986年の発売から長い間、12年熟成のエイジ・ステートメントを誇らしげに掲げて来たエライジャクレイグ(*)は、2016年1月下旬の出荷からNASヴァージョンに切り替えられました。このヴァージョンは8〜12年熟成のバーボンのブレンドとされています。なので、もし現在のエライジャクレイグに年数表記するならば8年ということになるでしょう。ボトリング・プルーフはオリジナルと同様の94プルーフですが、この頃にバッチサイズを100バレルから200バレルに増やしたとされています。ラベルとボトルデザインも同年末か翌年くらいに刷新され、棚スペースを意識した従来より背が高くのっぺりとした薄いボトルになりました。昔の物もスモールバッチでしたが、ボトルの前面にその記載があるので通称エライジャクレイグ・スモールバッチNASと呼ばれています。レシピは78%コーン、10%ライ、12%モルテッドバーリーのヘヴンヒル・スタンダード・バーボン・マッシュビル。チャーリング・レヴェルも同蒸留所のスタンダードな#3だと思います。

60〜70年代にウォッカの「攻勢」や飲酒傾向の急速なライト化を経て、80〜90年代のアメリカ市場でのバーボン需要は底辺に沈んでいましたが、2000年代には徐々に復調の兆しを見せ、2010年代になると高需要を迎えるに至りました。エライジャクレイグの12年のステートメントを削除し、バッチングに使用されるバレルの数を増やしたのは、バーボン及びアメリカンウィスキーの人気の急上昇と需要に対する供給不足が理由とされています。当時その他のバーボンも同じ問題に直面していました。こうした場合、販売会社が取る選択肢は二つあります。現状を維持するか、中身を変えるか、です。ウェラー12年のようにエイジ・ステートメントを維持したブランドは、供給量の低下に伴って店頭で見つけるのが難しくなり価格も上昇しました。ジムビーム・ブラック8年やリッジモント・リザーヴ8年などのブランドは、熟成年数表記を失う代わりに入手し易さと価格を維持し、名前やラベルのリニューアルを果たしました。エライジャクレイグの中核製品は後者の方法を選択し、従来より若い原酒をブレンドするようになった訳です。おかげでアメリカ中どこでも買い求め易く、20ドル台か、いっても30ドルのプライス・レンジを維持しています。そしてこれはグローバル・マーケットでも同じでした。

それまで市場で最も価値のあるバーボンの一つと見做されていたエライジャクレイグ12年のNAS化は、バーボンファンにとっては中々ショッキングな出来事だったと思います。NASヴァージョンが初めて世に出た時の熱烈なエライジャクレイグ・ファンの反応は、どうしても否定的なものが多い印象でした。以下に少し紹介してみましょう(どれも基本的には直訳ですが、省略と意味が通じやすいように多少の改訂を加えています)。

「NASは最悪だ!! いいとこ15ドルの価値しかない。」

「おそらく史上最も過大評価されているバーボン。もしフルに12年熟成させるつもりがないなら、ABVを少し下げることを考えるべき。」

「ヘヴンヒルが量のために質を犠牲にすることに失望した。私は確信している。全てのクレイグ・バーボンの愛飲者は、12年のスタンダードを待つことを厭わないだろう。」

「味や香り、口当たりなどの複雑さはあまりありません。また、熟成されていないテキーラか何かを思い出させます。シンプルに緑っぽい草のような香り…これはもっと長く熟成させるべき、或いは熟成させることができると思います。」

「良いバーボンですが、12年ヴァージョンの近くにはいない、残念だ。多くの蒸留所がこのように質より量へ妥協する方向に進んでいるのを見るのは本当に嫌です。これをもう一度購入するかどうかはわかりません。」

「私もEC12の最初の味を知っていて、大好きでした。新しいブレンドですぐに味の変化に気づき、まだ好きですが、以前のような美味しさはありません。」

「もう一度買わないでしょう。悪くはないけど、良くもない。」

「私にとってエライジャクレイグ12は、旧ヘヴンヒル蒸留所の焼失と、当時のバーンハイム蒸留所で蒸留されたウィスキーへの切り替えから立ち直ることはできませんでした。昔のヴァージョンを知っている人たちは、かつての高品質なバーボンの最後の死を嘆くことになるでしょう。」

「香りはまずまずでしたが、味は全くの不味さでした。甘くないし、ヴァニラもオークもない。目立つものはなく、記憶に残るものもない…二度と買わないでしょう、もっと良い選択肢がたくさんあります。」

「昔のEC12は特別でした。最近NASを飲みましたが、正直言ってかなり不味いと思いました。私が驚いたのは、新しいECの味が昔のバーボンとは全く違っていたことでした。それでもヘヴンヒルには好感を持っています。エヴァンウィリアムスと同じくらい良いものをこんなに安く売ることは、私の心を掴んで離さないでしょう。」

一方で擁護する声も聞こえ(見られ)ました。

「私がこのウィスキーをまあまあと判断した時から数週間経ち、ロックで試してみると、より美味しくいただけました。再度購入する価値があります。12年物とほぼ同じくらい良いです。ほぼ。」

「NASはゴージャスで、リッチで、フレイヴァーフルで、十分に複雑なバーボンです。荒々しさはありますが、これは熟練の技術で造られたシッピングに値するバーボンです。今まで飲んだ中で最高のものではないが、とても良い。私の評価は87点。私のボトルはセールで19.99ドルでした(30ドルは払わないけど)。」

「エンジェルズ・エンヴィを想い起させる新しいエライジャクレイグ・スモールバッチを手に入れました。私は嬉しい驚きを感じています…とても良いバーボンです。」

「新しいNASスモールバッチのボトルを手に入れました。新しい日常飲酒にもってこいだと思います。私はラッセルズ・リザーヴ10年よりも好きです。それほど良いものです。12年がどうであれ、この新バージョンは良いです。」

「問題は改訂されたブランドをオリジナルと比較していることです。このようなことは他のウィスキー・ブランドでも昔から行われてきました。オールド・オーヴァーホルト、オールド・クロウ、リッテンハウス・ライ、オールド・テイラー、アーリータイムズ等はどれもオリジナルとは似ても似つかないものとなっています。現在のECSmBが非常に良いバーボンであることに変わりありません。以前がどうであったかは問題ではなく、現在のバージョンは素晴らしい香り、フレイヴァー、そしてフィニッシュを持っています。今でも素晴らしいヘヴンヒル・ブランドです。昔のことに拘るのはやめましょう。」

「私はエヴァンウィリアムス・ブラックラベルを毎日飲むのが好きなので、エライジャクレイグ・スモールバッチNASには肯定的な見方をしています。ECNASは基本的にEWブラックをプレミアム化したものだと思います(8年から12年のストックをミックスしているというのが本当なら)。」

「NASへの変更は、個人的にはそこまで悪いとは思っていません。というのも、私は古すぎるバーボンはバランスが悪いと思っていて、異なる年数の樽をブレンドすることで、より複雑で調和のとれた味わいになると考えているからです。」

…と、まあこういう具合なのですが、流石に12年よりNASのほうが美味しいと断言する意見はかなり少数派。世界の主要なバーボン・レヴュアーは概ね12年のほうが美味しいのを認めつつNASも悪くないというスタンスの中、NASのほうが美味しいとする意見を明確にしているのはバーボン・パディ氏くらいでしょうか。彼はちょうどエライジャクレイグ12年のボトルも開けていたので、どちらが優れているかを判断するため、ちょっとしたブラインド・サイド・バイ・サイドの比較試飲を行い、その結果、NASスモールバッチの方を気に入ったと言います。

「12年の方がパレートでよりクリーミーで、コーン駆動のバタースコッチ、複雑なダークチョコレート、微かにスパイシーな焦がしたオークが感じられた。NASスモールバッチはよりスパイシーかつフルーティな存在感が現れ、トーストしたオーク、みずみずしいチェリー、若々しいバタースコッチのプロファイルを持ち、そのフレイヴァーをよりよく運んで来ました。結果として、私は実際に12年よりもNASスモールバッチを寧ろ好んだのです。それは、ほぼ一次元的なオールド・オークで駆動した12年物に比べ、風味や力強さの面でより多くのものを持っていました。このように比較してみると、なぜ私が12年物の大ファンではなかったか、その理由を思い出すことが出来ます。それは、時に特定のバッチに見られるヘヴィ・チャード・オークの存在が不快であり、全体的な楽しみを損なうと感じていたからです。二つのうち古い方が明らかに勝つだろうと思っていた私は、この結果には驚きました。私にとっては、熟成年数が必ずしも良い製品を示す指標ではないことを証明しています。寧ろより良い味の製品を作るためのブレンドが、ここでのリアルな勝利要因なのです。」

私は長熟バーボンをあまり好まない傾向にあるので、この意見はよく分かります。もしかすると私も彼と同じ意見になるのではないかと、当の記事を読んで急にNASのエライジャクレイグが気になり出しました(バーボン・パディ氏の投稿は2020年に書かれているので比較的最近のものです)。前から飲まなくちゃなと思っていたエライジャクレイグ・スモールバッチNASなのですが、これまで私は購入して来なかったのです。その理由はボトルにあります。上で引用したコメンテイターの或る方は「正直なところ、エイジ・ステートメントがなくなったことよりも、ボトルの形状が変更されたことに失望しています。ボトルの中のウィスキーがボトルそのものよりも重要であることは明らかですが、私は特定のボトルやラベルのプレゼンテーションが好きなのです。新しいボトルのデザインは私にとって非常に残念なものです」とも書いていました。これに関して私は全く同意します。バーボンの味わいは、マーケティング担当者が大袈裟に語るほどヴァラエティに富んではいません。異なる蒸留所の製品であってさえ、ボトリング・プルーフや熟成年数が同じだと似ているのに、同じ蒸留所産の物なら尚更似たような風味を持っているものです。バーボンのそうした在り方に於いて、一言で言えばブランディング、バックストーリーやボトルデザインは、非常に重要な要素となります。昔日のエライジャクレイグの重厚で他の何とも似ていないボトルは、私にとって味以上に重要でした。それ故、ボトルデザインがリニューアルされた時に買う気を失ってしまったのです。しかし、これだけ流通量の多いバーボンを無視し続けているのも良くないですから、これを機会に買ってみた、と。では、さっそく私も実飲してみましょう。

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ELIJAH CRAIG Small Batch NAS 94 Proof
ボトリング年不明、購入は2020年なので、おそらく2020年もしくは2019年あたりにボトリングと推測。プリンのカラメルソース、焦げ樽、接着剤、キャラメル、若いプラム、シナモン少々、コーン、たまごボーロ、チェリーコーク、石鹸。香りは甘いお菓子やスパイス香と僅かに古い木を思わせるトーンも。口当たりは水っぽく、味わいは甘酸っぱいフルーティさとグレイン。余韻は仄かな甘みとウッディなスパイスがありつつも、基本的にはドライであっさりしている。パレートがハイライト。
Rating:84/100

Thought:先ず飲んだ第一印象は「あれ、エライジャってこんなグレイン・フォワードだったっけ?」でした。このNASは8年〜12年のブレンドとされ、平均すると約11年という説を見かけたのですが、本当かは判りません。個人的にはもう少し若そうな印象を持ちました。でも飲みなれると悪くないと言うか、美味しく感じて来ました。開封から二ヶ月経過した頃から(しばらく放っておいた)パレートに甘酸っぱいフルーティさが出て来て好みの傾向のバーボンになりました。穀物感、フルーツ、オーキーなヴァニラ、ほんのりスパイシーとバランスがとれています。開封から三ヶ月を過ぎた頃には、もう少し長熟感のようなものが前面に出るようになり、なるほど確かに高齢バーボンが混ぜられているのだなあと感じ取れました。しかし、余韻だけは最初から最後までパッとしないと言うか、どこか平坦な印象のままでした。

実は私もこのNASと手持ちの12年のストックを同時に開封し飲み較べしていました(12年のレヴューはまたの機会に)。両者の色はそれほどは変わりませんが、12年の方が僅かに赤みが強いブラウンでしょうか。個人的には、やはり香りも味わいも余韻も12年の方が複雑で深みは感じられました。但し、その分ビター感やハーブ香や少し渋みもあって、一長一短かなとも思いました。単純な甘さやグレイニーなバランスのウィスキーを求めるならNASかも。時として重々しくオークが出過ぎる12年より、NASは多くの人の好みに合っている可能性すらあります。どちらかに軍配を上げなければならないのなら私は12年を選びますが、NASを選ぶ人がいても反対意見はありません。まあ分かるな、といったところです。多少の荒々しさと心地よい熱量がバーボンの魅力と思うならNASを、穏やかで深みのあるオーク・フレイヴァーを味わいたいなら12年を、オススメしておきます。

おそらくNASを問題にするのは昔の味わいを知っている人だけです。2016〜18年くらいの切り替えが行われた直後と比べると、現在では店頭で12年表記のあるエライジャクレイグを見かけることはまずないと思われ、12年を入手するならオークション等のセカンダリー・マーケットに頼る必要があります。よほどのマニアでない限り、一般の飲酒家は何も気にせず近所のお店でNASを購入すれば良いでしょう。また、たとえエライジャクレイグの熱烈なファンであっても、NASを12年に代わるものと見るのではなく、単にエヴァンウィリアムス・ブラックラベルの上位グレードと見做せば、それほど腹も立たないのではないでしょうか。

Value:NASの日本での小売価格は2000円代後半から3000円代前半が相場のようです。同社のエヴァンウイリアムス・ブラックラベルが1500〜2000円とすると、プライス・レンジが上昇しただけの価値はあると思います。ただ…ここ日本では、印象的な赤いラベルのエヴァンウィリアムス12年が比較的安価(3500円くらい)に入手可能です。同じ蒸留所、同じマッシュビル、似たような熟成年数で造られながらハイアープルーファーであるEW12年は、エライジャクレイグNASは言うに及ばずEC12年よりも、少なくとも私の好みでは、リッチなフレイヴァーを有する上位互換です。そうなると、エライジャクレイグNASを最高値で購入したり、オークションでプレミアムのついた近年物のEC12年を落札するのは、得策とは言い難いものがありますね。


さて、エライジャクレイグのNAS、12年と並行してバレルプルーフも試飲しましたので最後におまけで。日本ではあまり流通していないバレルプルーフも飲めたのは、例によってバーボン仲間のK氏のお力添えによるもの。バーボンを通じた繋がりに感謝です!

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(画像提供K氏)

エライジャクレイグ・バレルプルーフは2013年から発売され、年に限定3回のリリースです。各ボトリング・プルーフはバッチ毎に異なり、概ね120をオーヴァーし、稀に140まで到達することもあります。2017年のボトルの再設計に伴いラベルのリニューアルが行われ、バッチ番号が書かれるようになりました。「A117」のような具合です。ABCはリリースの順番を示し、次の数字がリリース月、最後の2桁の数字が年を表します。なので、バッチ「A117」は、2017年の最初のリリースで1月に発売されたと判ります。以下に各リリースをリスティングしておきましょう。

Mar 2013 / 134.2 Proof
Jul 2013  / 137 Proof
Sep 2013 / 133.2 Proof
Mar 2014 / 132.4 Proof
May 2014 / 134.8 Proof
Sep 2014 / 140.2 Proof
Feb 2015 / 128 Proof
May 2015 / 139.8 Proof
Sep 2015 / 135.6 Proof
Jan 2016 / 138.8 Proof
May 2016 / 139.4 Proof
Sep 2016 / 136 Proof
A117(Jan 2017) / 127 Proof
B517(May 2017) / 124.2 Proof
C917(Sep 2017) / 131 Proof
A118(Jan 2018) / 130.6 Proof
B518(May 2018) / 133.4 Proof
C917(Sep 2018) / 131.4 Proof
A119(Jan 2019) / 135.2 Proof
B519(May 2019) / 122.2 Proof
C919(Sep 2019) / 136.8 Proof
A120(Jan 2020) / 136.6 Proof
B520(May 2020) / 127.2 Proof
C920(Sep 2020) / 132.8 Proof
A121(Jan 2021) / 123.6 Proof
B521(May 2021) / 118.2 Proof
C921(Sep 2021) / 120.2 Proof
A122(Jan 2022) / 120.8 Proof

ちなみにバレルプルーフのヴァージョンは12年のエイジ・ステートメントを保持しています。そしてノンチルフィルタードの仕様。では、最後に飲んだ感想を少しだけ。

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(画像提供K氏)
ELIJAH CRAIG BARREL PROOF Small Batch 12 Years 124.2 Proof
BATCH № B517
2017年ボトリング。木炭、タルト、スイートオーク、微かなチェリー、ビターチョコ、ハラペーニョ。アロマは流石に度数が強いのでツンとした刺激臭が強いものの、香ばしい焦がした樽香を主体として甘い香りも。口当たりは僅かにオイルぽいが、バレルプルーフに期待するよりサラッとしている。味わいはガツンとスパイシー。余韻はやや早めにひけて、穀物とスパイス・ノートが残る。

香りも味も余韻も加水したほうが甘く感じられましたが、それでもドライかつビターで、全体的に刺激強め。それでも12年の長熟ながらオーヴァーオークになってないのは良かったです。ただ、正直言うと、些か複雑さと深みに欠けるのも否めず、これでは現行ボトルを否定してオールドボトルを求める人がいるのも頷けるかな、とは思いました…。比較的開栓から日が浅い段階での試飲なので、もしかするともう少し伸びる可能性はあるのかも知れませんね。
Rating:85/100


*アメリカ人は「アライジャクレイグ」に近い発音をします。

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メーカーズマーク蒸留所の近代史は1953年にテイラー・ウィリアム(ビル)・サミュエルズSr.がバークス・スプリング蒸留所を購入した時に遡りますが、爾来、メーカーズマークは50年以上に渡って、一部地域への限定的なハイアー・プルーフのヴァリエーションを除いて、たった一つの製品しか造って来ませんでした。それが変わったのは2010年です。メーカーズはメーカーズマークのみを提供するという長き伝統を打ち破り、メーカーズ46をリリースしたのです。

メーカーズマークの特徴の最たるものは、苦味の少ないフレイヴァーと独特の滑らかな口当たりでした。ライ麦の代わりに冬小麦を使い、飲みやすいと評判のバーボンです。しかし、メーカーズの最大のファンであり忠実な消費者であるメーカーズマーク・アンバサダーでさえも、デラックス・ヴァージョンや、或いはもっと挑戦的なものを望んでいました。

メーカーズ46は四十年以上ものあいだ会社の顔として活躍したビル・サミュエルズJr.のヴィジョンに基づいています。引退を考えていた彼の最後の大仕事が46の開発にあったと言ってよいでしょう。2008年頃、彼と当時のマスターディスティラー、ケヴィン・スミスは新しいバーボンをどのような味にすべきか考えました。二人は既にメーカーズマークに存在しているキャラメルやヴァニラ、ベーキングスパイスやシナモンの風味を増幅することが目標であると見定めます。そこでこの実現に向けてケンタッキー州レバノンのバレルメーカー、インディペンデント・ステイヴ・カンパニー(ISC)を訪れ、その社長で「ウッドシェフ」を称するブラッド・ボズウェルに協力を仰ぎました。ボズウェルとスミスは、自らが望む結果を求めて木材と炭化プロセスの大規模な調査を始めます。約二年に渡り124回もの実験が繰り返された結果は、殆どの場合イライラするものでしたが、最終的に彼らの注目は「レシピ46」に集中しました。メーカーズ46の名はこの完璧な結果を達成するために行われた多くの異なる実験のプロファイル番号から由来しています。

46と呼ばれるステイヴは、厚さ1インチのフレンチオークを素材とし赤外線熱で板の両面をトーストしたものでした。メーカーズマークでは、通常ISCに依頼しているバレルは、タンニンを分解するために少なくとも1回の夏を含む凡そ9ヶ月間その断片を休ませることをリクエストしますが、このオークは標準的なバレル・ウッドより最長で3ヵ月長くマチュレーションさせているようです。この追加時間は過酷な風味を作り出すタンニンをより柔らかくするためだそうで、おそらく赤外線加熱で焦げすぎないようにトーストするのもタンニンを抑える処理なのでしょう。そしてボズウェルによればフレンチオークは、通常バーボン樽に使用される典型的なアメリカンオークよりもスパイス・プロファイルが強いと言います。これを、もともとメーカーズマークを収容していた樽に10枚セットして、5年半から6年ほど熟成させた通常のメーカーズマークとしては完成された原酒をカスク・ストレングスで再補充し、冬の間の約9週間ほど追加熟成させると46の出来上がり。

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スミスによると、最初、数週間のうちにサンプリングした時は失敗かと思ったそうです。しかし、ウィスキーのフレーバー・プロファイルは更なる数週間で劇的な変化を見せ、6週か7週までにタンニンは減退し、9週まで達する頃には十分に円やかになったとか。また熟成期間だけでなく温度(気温)も重要で、試行錯誤の実験によって寒い冬の数ヶ月間の仕上げが最高の結果を達成していました。暑い月にメーカーズ46のバレルが60ディグリー以上の熱に晒されると、バーボンが圧力によって内側に配置された10枚のフレンチオークのステイヴに深く押し込まれ、あまりにも多くの相互作用を強いられるためメーカーズが望んでいない苦い風味をもたらします。そのため46のバレルは50ディグリー以下の温度の冬場でしか仕上げることが出来ないのだそう。

メーカーズ46は2010年の発売以来人気を博しています。しかし、上に述べたように46のバレルは冬期しか仕上げることができないため、その人気こそが問題になっていました。そう、需要に供給が間に合わないのです。メーカーズはそれを解決する方法として、蒸留所から約100ヤード離れた大きな石灰岩の丘の中腹にダイナマイトで穴をあけ、そこに新たなエイジング施設を造り、2016年12月にオープンさせました。現COO(最高執行責任者)でビルJr.の息子ロブ・サミュエルズの弁によれば、これは世界初のライムストーンのウイスキー・セラーであり、彼のチームはワイン生産地のセラーからインスピレーションを得たと言います。

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メーカーズマーク・ウィスキー・セラーと呼ばれるこの施設は、石灰岩が後壁全体と側面を形成し、屋根は土壌を利用した「生きた屋根」で覆われています。建物の外観はドライス​​タック・ストーンウォールで造られ、美しい木製のドアがあり、世界的に有名なレキシントンのランドスケープ・アーティスト、ジョン・カーロフティスによる造園が施されました。建物の奥の方にあるエイジング・ルームは薄暗くて涼しく、露出した天然の石灰岩が見えており、正に「石灰岩の洞窟」のような雰囲気です。石灰岩と土壌の断熱効果で室温は一年中50ディグリーに自然と維持され、これにより寒い時期しか実行出来なかったウッド・フィニッシュのプロセスが年間を通して可能になりました。これは急増するメーカーズ46とそのプレミアム版であるプライベート・セレクトの需要を満たすために重要なことだったのです。ここにはそれらを最大2,000バレル収容できるとか。
また、この施設にはエイジング・セラーだけでなく、すぐ上に述べたプライベート・バレル・セレクト・プログラム用のテイスティング・ルームもあります。そこの壁には、ルイヴィルのフレイム・ラン・ギャラリーのオーナーであるガラス吹き職人ブルック・フォレスト・ホワイトJr.によるガラスアートが彩られ、試飲者をゴージャスな気分に盛り上げます。施設全体のデザインおよび設計はHubbuch&CompanyとKerr-Greulich Engineers Inc.が共同で担当しました。このウィスキー・セラーは、2017年にはAIA KentuckyからExcellence in Architecture Designを受賞しています。

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Maker's 46 94 Proof 
キャラメル、焦げ樽、ヴァニラ、シガー、焼いたパプリカ、ケチャップ。ややクリーミーな口当たり。香り味わい共にフルーティさはあまりなく、木質ノートが支配的。通常のメーカーズマークより確かに甘味もスパイス感も強くなり、かなりリッチなフレイヴァー。余韻にはスモークも。
Rating:86/100

Value:スタンダードなメーカーズマークと較べて確実に美味しいと思います。しかし、スタンダードの最安値が2000円で、46は店舗によっては5000円になることがあります。倍以上の価格差はちょっとコストパフォーマンスに欠ける気もしますが、カスクストレングスが7000円程度、プライベート・セレクトが7500円程度ですから、46が4000円で買えるのならば、価格も考慮すると四種の中では個人的には46一択です。どうも現行のスタンダードには物足りなさが残るんですよね。

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JACK DANIEL'S SINGLE BARREL Jimmy Bedford's Final Selection 94 Proof
Rick No. R-13
Barrel No. 8-1312
Date 4-25-08
ジャックダニエルズ蒸留所の第6代マスターディスティラー、ジミー・ベッドフォードが2008年の引退を前に、特に優れた熟成樽を最後に選んだ「シングルバレル」です。今のところ飲んだことのあるJDの中では最も美味しかったです。トーストした樽の甘い香りといい味の深みといい桁違いでした。
Rating:92/100

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