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嘗てアメリカのウィスキーに使用される有力な穀物だったライを本来の高みへ戻すためにリデンプション・ブランドは始まりました。ライは長い間、アメリカン・ウィスキーの世界に於いてコーンに匹敵するかそれを上回る穀物の地位に君臨していましたが、禁酒法の影響から廃れてしまい、他の蒸溜酒のようには回復することが出来ませんでした。しかし、ここ10数年で様相は一変しました。ライ・ウィスキーの売上は大きく伸び、今、復権を謳歌しています。そうした過程の中で「リデンプション」は急速に評価を築いたブランドです。ブランド自体の紹介は、過去に投稿した記事でしていますので、そちらを参照して下さい。

リデンプション・ウィスキーには、リデンプション・ライ、リデンプション・バーボン、リデンプション・ハイライ・バーボンという3つの主要なセレクションがあります。リデンプションの特徴として4年未満のスピリッツにも力を入れていることが挙げられ、これらはどれも平均2.5年熟成とされる若いウィスキーです。他にも長熟や追加熟成を施したもの、或いはウィーテッド・レシピのものなど様々な製品展開がありますが、スタンダードなのはこの三つと見てよいでしょう。リデンプションの名声は確実にライ・ウィスキーによって齎されましたが、現在の薬瓶スタイルのボトル(*)になる前のスタイリッシュなトールボトルの頃からバーボンもリリースしていました。そこで今回はマッシュビルの少し異なる二つのバーボンを取り上げます。

ライと同様、バーボンもインディアナ州ローレンスバーグの有名なMGP(現在ロス&スクィブ蒸溜所とも名乗る)から調達して造られています。MGPはアメリカのライ市場の80%以上を生産していると目される元シーグラムの蒸溜所。数多のNDPやクラフト・ディスティラリーにも最高級のウィスキーを提供するこの蒸溜所には多くのレシピがあり、有名なのはライ麦が95%のレシピですが、それだけに留まらずバーボン・レシピも当然ながらある訳です。
幸いなことに判り易くマッシュビルの情報はラベルに記載されています。「バーボン」はコーン75%、ライ21%、バーリーモルト4%です。別に「ライ」と「ハイ・ライ」があるのだから、通常のバーボンには対照的にライ麦を控えたロウ・ライのレシピを使用しているのではないかと思ってしまいそうですが、リデンプション・バーボンのライ麦の含有量は業界水準より高めです。実のところ"ハイ・ライ"という用語は法律で定められていないため明確な基準がありません。ロウ・ライ(またはハイ・コーン)のレシピはライが10%以下であることが多いため、15〜18%のライ麦率でもハイ・ライと言われる場合もあったりします。従って、この通常のバーボンをハイ・ライとして販売することも可能なのですが、リデンプションはライを前面に押し出したブランドのため、21%でもハイ・ライを名乗らないのです。
一方の「ハイライ・バーボン」はと言うと、コーン60%、ライ36%、バーリーモルト4%のマッシュビルを使用しています。アメリカン・ウィスキー愛好家は、これらの原料の構成を見てすぐにフォアローゼズの二つのマッシュビルとの類似に気づくでしょう。フォアローゼズのEマッシュビル(75%コーン/20%ライ/5%モルテッドバーリー)及びBマッシュビル(60%コーン/35%ライ/5%モルテッドバーリー)とはライとモルトが1%づつしか変わりません。マッシュビルは使用されるモルトの量によって僅かに変動する可能性があるので、実質的にMGPとフォアローゼスは同じマッシュビルを使っていることになります。実際、リデンプション初期のトールボトルのラベルには、バーボン(旧名テンプテーション)では「20%プレミアム・ライ、5%バーリーモルト、75%コーン」と書かれてフォアローゼズのEマッシュビルと一致し、ハイライ・バーボンでは「38.2%プレミアム・ライ、1.8%バーリーモルト、60%コーン」とマッシュの変動が細かく記されていました。
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インディアナ州ローレンスバーグのジョセフEシーグラム蒸溜所(現MGPプラント)とケンタッキー州ローレンスバーグのオールド・プレンティス蒸溜所(現フォアローゼズ蒸溜所)は共に嘗てシーグラムが所有していた歴史があります。二つの蒸溜所は、シーグラムの品質管理チームが互いのイースト・ストレインをテストしたり、またそれらを共有していました。基本的にフォアローゼズが使用しているイーストはインディアナの蒸溜所でも大体使用できるらしく、フォアローゼズのイーストは「V、K、O、Q、F」、MGPのイーストは「V、K、O 、Q、S(ライト・ウィスキーに使われる)」とされます。シーグラム時代に考案されたレシピの略語は今でも使われ、例えばフォアローゼズで「OESV」と呼ばれるレシピは、インディアナ州の蒸溜所では「LESV」と呼ばるそう。一文字目の「O」はフォローゼズの旧称オールド・プレンティスを表し、「L」はインディアナ州ローレンスバーグの施設を示します。二文字目はマッシュビルを意味し、フォアローゼズで「E」や「B」と呼ばれるものはMGPでも「E」や「B」な訳です。ちなみに、MGPの95%ライ/5%バーリーモルトのライ・ウィスキーは「Q」、 80%コーン/15%ライ/5%バーリーモルトのコーン・ウィスキーは「C」、99%コーン/1%バーリーモルトのマッシュビルは「D」の略号が与えられています。MGPには他にも以下のような6種類のマッシュビルがあります。
◆バーボン(51%コーン/45%ウィート/4%バーリーモルト)
◆バーボン(51%コーン/49%バーリーモルト)
◆ライ・ウィスキー(51%ライ/49%バーリーモルト)
◆ライ・ウィスキー(51%ライ/45%コーン/4%バーリーモルト)
◆ウィート・ウィスキー(95%ウィート/5%バーリーモルト)
◆モルト・ウィスキー(100%バーリーモルト)

奇しくも同名であるローレンスバーグの二つの蒸溜所の類似点は他にもあり、両者は原料のライ麦を主にドイツの同じ生産者から仕入れているだろうと推測されています。シーグラムの科学者達は最高のスピリッツを造るために常にテストを繰り返し、北米産のライ麦に較べてドイツで栽培される特定のライ麦種が自分達のイーストにとってベストなマッシュを生むと確信しました。また彼らは、一貫して豊かなフレイヴァー・プロファイルを実現するために、120のバレル・エントリー・プルーフを採用しました。現在でもフォアローゼズとMGPはそうしています。そして、フォアローゼズの熟成倉庫は温度差の少ない平屋建てで知られていますが、MGPの熟成倉庫も亦、平屋造りではないものの壁面が煉瓦造りで各フロアはコンクリートの床と天井で区切られており、多くのケンタッキー州のリックハウスと較べると各階は一定の温度と湿度が維持され、庫内の場所に関係なく各バレルを同じように熟成させる哲学で設計されています。

偖て、話が若干逸れたのでリデンプションに戻すと…今回私が飲んだ「バーボン」は84プルーフで瓶詰めされています。リデンプション・バーボンをネットで調べると、88プルーフの物がけっこうな割合で見つかりました。販売地域によりプルーフに差を付けているのか、もしくは或る時からボトリングするプルーフを上げたのかも知れません。もし後者なら、そのうち日本に入って来る物も88プルーフになるのかも?
先述のように、リデンプションのスタンダードな物は熟成年数の短いウィスキーです。ブランド・アンバサダーのジョー・リッグスは、より少ない熟成で成熟した風味を生み出す「全く新しいディスティリング・プロセス」に取り組んでいると述べていましたが、一体どのようなものなのか具体的には良く分かりません。取り敢えず、これらの若いバーボンを味わってみましょう。

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REDEMPTION BOURBON 84 Proof
Batch No. 026
推定2020年ボトリング。淡いブラウン。焦がした木材、穀物、ペッパー、ライスパイス、薄いキャラメル、ミント、よく言ってアップル、ピーナッツ、エタノール、鉛筆。ノーズは甘さのあまりない爽やかな穀物と木材の香り。ややとろみのある口当り。パレートでは、ほんのり甘いがピリピリ感も。余韻は短く、ドライさの中にライっぽさが少し顔を覗かせる。
Rating:79/100

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REDENPTION High Rye Bourbon 92 Proof
BATCH No. 120
推定2020年もしくは2021年ボトリング。淡いブラウン。トーストした木材、グレイン、ライスパイス、シュガー、ペッパー、種のお菓子、僅かなドライフルーツ、グリーンアップル、若草。アロマはスパイシー。ややとろみのある口当り。パレートは青い果実とスパイスが感じ易い。余韻はややドライであまり甘くない穀物とライの爽やかな苦味が残る。
Rating:82.5/100

Thought:バーボンの方は、流石にもうちょっと熟成したほうがいいなぁという感想でした。円みも僅かに出て来ているのですが、味わいも余韻もちょっと平坦で、もう4年熟成させたら凄く美味しくなりそうな予感で終わります。海外の方でメロウコーンを思い出すと言ってる方がいましたが、個人的にはそこまで「メロウ」とは思いませんでした。ライ麦21%はバーボンとしては多い方ですが、私には香りからライやベーキングスパイスの存在を見つけるのは難しく、味わいも「ライ」にあったシトラスやグリーンリーフのフレイヴァーはあまり感じられません。基本的にグレイン・フォワードなバーボンで、よく言えば甘いシリアルのような味わいとは言えます。
ハイライ・バーボンの方は、スパイスと甘さのバランスがちょうど良く、だいぶ美味しく感じました。なんか嘘みたいにリデンプションのバーボンとライ・ウィスキーを混ぜたような中間の風味がします。ただ、何故か甘いアロマは最も弱く感じました。以前に飲んだライ・ウィスキーを含めて三つのラインナップで見た時に、私個人の趣味としては見事なまでにライ麦含有量が高い順に旨く感じます。ライ、ハイライ・バーボン、バーボンの順に自分好みのシトラスやディルの風味が感じ易いのです。「結局、お前がライ・ウィスキー好きなだけやろ」と言うツッコミには、はい、その通りですと言うしかありません。けれどもバーボンよりライの方が短期の熟成で美味しくなるというコンセンサスはある程度はあり、それがこの結果となっている気もします。
両者を比較して、キャラを強調して言うと、バーボンはナッティ寄り、ハイ・ライはフルーティ寄りでしょうか。余談ですが、これらのウィスキーはテイスティング・グラスで飲むとちっとも美味しくなく、ショットグラスかラッパ飲みだとなかなか美味しかったです。これは若いウィスキーによく見られる傾向かなと個人的には思っています。最後に、以前レヴューしたライを含めた3つのクラシックなリデンプション・ウイスキーのセレクションを総評すると、基本的にカクテルに使用するために造られてる気はしますが、どれも若い割には粘度が高く、ニートで飲んでも十分美味しいです(特にライとハイ・ライ)。但し、もう少し樽熟成が長ければ、もっと素晴らしいものになるでしょう。そして問題は価格…。

Value:販売地域によって変わりますが、バーボンもハイライ・バーボンもアメリカでは25〜30ドル程度の場合が多いようです。ところが日本ではバーボンは3000円程度なのですが、ハイ・ライ及びライ・ウィスキーは何故か5000円程度します。熟成年数の短さを考慮すると、これは痛い。正直、コスパは良くないです。「バーボン」なら大手の蒸溜所がリリースしてるスタンダードな製品の方が安い上に旨く感じてしまうし、「ライ」ならテンプルトンの4年熟成の方が安いのです。「ハイ・ライ」に関しては、MGPのハイライ・レシピ原酒の中で日本では比較的入手し易いという利点はあるかも知れません。ブランドのイメージやボトルのデザインが好きとか、敢えてヤンガー・ウィスキーを好む方にはオススメします。ですが、私はこの値段なら再度の購入はしないかな…ごめんなさい。


*2023年3月にニューボトルになることが発表されました。なので本文中で「現在の〜」と言っているボトルは、新しいボトルにリニューアル後は一つ前のものとなります。ディアジオからブレットのボトルに似ていると訴えられたのが理由で変更したのかも知れませんね。


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テンプルトン・ライのブランドには定番の物に4年熟成と少し上位の6年熟成、限定生産の物に10年熟成とバレル・ストレングスがあり、そこへ2019年からバレル・フィニッシュ・シリーズという追加熟成を施したリミテッド・リリースが加わりました。その第一弾として発売されたメイプル・カスク・フィニッシュに続く2020年のシリーズ第二弾がこのカリビアン・ラム・カスク・フィニッシュです。ちなみに2021年はオロロソ・シェリー樽でのフィニッシングでした。テンプルトン・ライ自体のブランド紹介は過去の投稿でやってますので、興味のある方はそちらを参考にして下さい。

テンプルトン・ライ・カリビアン・ラム・カスク・フィニッシュは、蒸溜所のエイジング・ソースド・ストックから厳選された伝統的なアメリカン・オークのチャード・バレルで5年間の完璧な熟成を経たストレート・ライ・ウィスキーを、更にジャマイカ産ダーク・ラムの中古樽で6ヶ月間「仕上げ」たものです。このファーストフィルのカリビアン・ラム・カスクでのセカンダリー・マチュレーションにより、ライ・スパイスが強調され、繊細でエグゾティックなフレイヴァーとトロピカル・フルーツのトーンを加えると言われています。そして、特別な表現に相応しいノンチルフィルタードでのボトリング。ニートでもロックでも楽しむことが出来、更にはクラシック・ライ・カクテルに完璧なトゥイストを加えることが期待されています。ちなみにテンプルトン・ライ蒸溜所は2018年に自社蒸溜を開始したとされていますが、こちらの原酒は発売年から判る通りまだMGPからの調達です。

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TEMPLETON RYE CARIBBEAN RUM CASK FINISH 92 Proof
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2020年ボトリング。トーストした木材→香ばしい焦げ樽、草、ライスパイス、ピクルス、チョコレート、スペアミント、ヴァニラ、青リンゴ、ラスク、洋梨、シガー。アロマは爽やかスパイシーノート。円やかな口当たり。味わいはグリーンリーフ多めでレッドフルーツも。余韻は、口の中の甘さがスッと消えると、尖ったスパイシーさとドライさが来て、最後に苦味が残る。
Rating:87.5/100

Thought:めちゃくちゃラムかと言うとそうでもなく、個人的にはそれほどラムっぽいスパイスやトロピカル・フルーツは感じませんでした。けれど、4年熟成や6年熟成の物にはない深みも確かにありました。それを言葉にするのは難しいのですが、強いて言うと焦げ樽感が強まっているのと口中で何かしらの赤い果実を感じるところがそれなのかなと思います。但し、本質的にMGP95ライの旨さで飲んでる感はありました。自分的には多分フィニッシングされてなくても旨いと思っちゃうだろうな、と。

Value:アメリカでの価格は45〜50ドル程度、日本でも5000〜5500円くらいが相場でしょうか。私ならこれとバレル・ストレングスが大差ない値段の場合、ハイアー・プルーフのバレル・ストレングスを選びますかね。とは言え、他社の追加熟成を施したスペシャル・リリースより比較的安価なのは良い点であり、スタンダードな製品と較べてみたり、同じバレル・フィニッシュ・シリーズのメイプル・カスクとシェリー・カスクと同時に味較べ出来たりしたらなお面白いでしょうし、迷わず買うだけの価値はあると思います。

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リデンプション・ライは現代のライ・ウィスキー復活をリードしたブランドの一つです。英語の「Redemption」は「償還、救済、贖う、買い戻し」等の意味の言葉であり、ライ・ウィスキーを本来の場所に戻すという目的を持って創始されました。1700〜1800年代には、ライ・ウィスキーはアメリカでナンバーワンのスピリットだったとされます。その時代、ライ麦は豊富に獲れ、美味しいウィスキーが造られていました。しかし、禁酒法の制定はライ・ウィスキーを造る蒸留所を閉鎖に追い込み、禁酒法解禁後もバーボンのように復活することはなく、ライは殆ど忘れられた存在となっていました。ところが近年、クラフト・カクテルのバーテンダーやコンシューマーがその大胆でスパイシーなキャラクターを再発見するにつれて、ライ・ウィスキーは見事な復興を遂げたのです。

「リデンプション」はスピリッツ業界では比較的新しい名前です。2009年頃、蒸留酒ビジネスのヴェテランであるデイヴ・シュミエとマイケル・カンバーの二人は市場でのライ・ウィスキーへの関心の高まりに気づきました。主にカクテルに使用されるライ・ウィスキーは、殆どのバーボンではちょっと匹敵することが出来ないスパイシーな風味を提供します。そこで彼らはライ・ウィスキーやライ麦含有量の高いバーボンを製造するビジネスに参入することを決め、リデンプションは誕生しました。創設者が紡いだ伝承によると、リデンプション・ライは偶然に生まれたもので、インディアナ州ローレンスバーグの倉庫でライ・ウイスキー・バレルの貯蔵物を発見した時に、これなら古典的なアメリカン・スピリッツを完璧に表現することが出来ると確信した、と言います。シュミエとカンバーはそうしたLDI(ローレンスバーグ・ディスティラーズ・インディアナ=現在のMGPのこと)で出会った良質のウィスキーをボトリングするために、2010年にバーズタウン・バレル・セレクションズを開始、そこで数樽から始めて自身のラベルを作りました。そして、シュミエはリデンプションのためのブレンドを造り上げます。その目標は、バランスを重視し、親しみやすく、なおカクテルの中で立ち上がるのに十分に高いプルーフを持ち、勁いフレイヴァーを備えたものにすることでした。それはニートやロックでも然りです。結果、リデンプションは92プルーフに落ち着きました。
ちょっとリデンプションから話は逸れますが、ここで創始者についてもう少し。

デイヴ・シュミエはダイナミック・ビヴァレッジズの社長です。彼はリデンプション・ブランドで名を馳せた後、プルーフ・アンド・ウッド・ヴェンチャーズを設立し、現在では「ザ・アンバサダー」や「ザ・セネター」、「デッドウッド」のシリーズ、「タンブリング・ダイス・バーボン」や「ルーレット・ライ」等を発売しています。またシュミエは、2005年からニューヨークで始まり、現在では米国中の様々な都市で開催されている、マイクロ・ディスティラリー等のスモールバッチなクラフト・スピリッツだけ出展される展示会「インディ・スピリッツ・エクスポ」のディレクターでもあります。

もう1人のパートナー、マイケル・カンバーはストロング・スピリッツのオウナーです。彼の叔父は有名なスカイウォッカ(SKYY VODKA)の創業者であるモーリス・カンバー。ストロング・スピリッツは、ニューヨークはマンハッタン出身のカンバーが自分のブランドをボトリングするために2006年からスタートした、少量注文に焦点を当てたパッケージャー兼コントラクト・ボトリング会社です。彼らはパートナー・ボトラーとして他のボトラーのシャットダウンや遅延に起因するギャップを埋めたり、小ロットの生産を優先し、スケジュールから外れるような予期せぬ緊急事態に対応したりするバックアップ・ボトラーとしての役割も受け待ちます。
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カンバーはリデンプションの前に、自身のバーボンブランドである「80ストロング」の開発を試みましたが大きな成功は得れませんでした。80ストロングはブロンドヘアーのピンナップガール風のイラストが描かれたラベルが特徴のバーボン。カンバーは「これを造ろうとした時、本当にプレミアムなバーボンを、ホットな新しいパッケージに入れたかったんだ」と語っています。「私はバートンのスノーボード、ハーリー・デイヴィッドソンのモーターサイクル、フェンダーのストラトキャスターみたいに気取らずクールに見えて、しかも製造に妥協のない製品にいつも惹かれていたからね。そこで、そのコンセプトを80ストロングに応用した訳さ」と。それはケンタッキー州バーズタウンで蒸留、熟成、瓶詰めされたスモールバッチのオーセンティックなケンタッキー・ストレート・バーボン・ウィスキーでした。中身は4〜6年熟成のバーボンのブレンドだそうで、原酒はヘヴンヒルと見られています。ラベルには「プレミアム」という言葉のスタンプがデザインされていましたが、バーボンを普段飲まない人を対象としているように見えるポップなラベルであること、またスペックや80プルーフで21ドル程度だったことを考えると、実際にはプレミアム感は構築できていなかったと思います。
カンバーは叔父モーリスのスカイウォッカの成功を直に見ており、80ストロングの失敗の後もまだスピリッツ・ブランドの開発に熱心でした。けれども、過去の経験からブランドを市場に出すことがどれほど困難で費用が掛かるかも知っていました。だから、なるべく小規模なことから始めたかったのです。当時、彼はテスト・マーケットを開拓できるような20ケース(通常1ケース、750mlボトル12本)を実行してくれるボトラーを必要としていました。しかし、彼が見つけたボトラーの最小ロットは約3500ケースでした。それはカンバーにとって、その時点では考えられない投資でした。そこで、少量生産をしてくれるボトラーを見つけることが出来なかった彼は自身の製品を自らボトリングすることを決意します。
カンバーはその頃はまだニューヨークに住んでいましたが、バーズタウンを知っていました。それは80ストロングを開発しようとした時にロレット・ロードにあるケンタッキー・バーボン・ディスティラーズ(KBD=現ウィレット蒸留所)と契約していたからでした。彼はその間に業界や地域の人々と知り合いになり、バーズタウンという地名の持つ信頼性から会社をそこに置きたいと望みました。問題は政府の許可を得るために事前に機材を持っていなければならないことでした。そこで彼は、現在のバートン1792蒸留所の物流倉庫の一角を借り、40リットルのタンクと他の幾つかの寄せ集めで自作したボトリング・キットを設置しました。そして機材の写真を撮り、許可を申請したところ、驚いたことに承認されたのです。
カンバーがDSPライセンスを取得すると間もなくして、彼と同じく小規模生産を求めていた独立系ブランドから連絡を受けるようになりました。彼の運営が広まるにつれ200〜300ケースの注文が殺到したと言います。カンバーの事業は十分に成長し、2011年6月には創業時の建物の向かい側にある10万平方フィートの建物を購入しました。その契約ボトリングのための施設は、世界に冠たるバーボン首都バーズタウンのウィズロウ・コートにあります。ストロング・スピリッツの契約の多くには秘密保持が含まれているので全ては明かされていませんが、彼らがボトリングしている物には近年その名を上げているブランドが多数あります。有名なところではケンタッキー・アウルとか、昨今のアライド・ロマーのブランドもプリザヴェーション蒸留所にボトリング施設がないのなら多分ストロング・スピリッツを利用しているでしょう。あとは先述のシュミエのブランドも関係上ここでのボトリングです。

偖て、そろそろリデンプションの話に戻ります。NDP(非蒸留業者)のソーシング・ウィスキーには疑わしいバックストーリーも横行する中にあって、リデンプション・ブランドはそのウィスキーの出自を怪しげなマーケティングで飾りません。リデンプションは全てMGPからの調達であることを明確にしています。ブランド・アンバサダーを務めるジョー・リッグスによれば、このブランドがデイヴ・シュミエによって共同設立された時、彼は透明性を保つことによって責任のレヴェルを維持することを固く決心したそうです。MGP所有の蒸留所は、インディアナ州ローレンスバーグの川沿いの町にあり、170年以上の歴史を持ち、現在市場に出回っているライ・ウィスキー(特にNDPの製品)の推定80〜85%を生産していると目される旧シーグラムの大型蒸留所。我々消費者やバーテンダーは製品がMGPからのものであることを知れば、品質の信頼性を想像するのは難しくはないのです。
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シュミエとカンバーの事業、MGPのライ・ウィスキーをストロング・スピリッツでボトリングするビジネスは、カクテル文化の恩恵もあって、すぐに軌道に乗ります。初期の頃のリデンプションは下画像のようなラベルでした。ボトルのデザインも現行とは違い、スタンダードな物は背の高いボトルでした。ライの他にバーボンも作成されていて、語呂を合わせたのか「テンプテーション」と名付けられています。最終的にはテンプテーションは廃止され、リデンプションの名でバーボン・ヴァージョンを追加し、更に「リヴァーボート・ライ」というブランドも追加されました。
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発売以来、毎年順調に成長していたリデンプションは、ライ・ウィスキーの爆発的な需要増と相俟って寧ろ急激な成長を遂げます。「成長の方向性が見えてきたら、それに備えなければなりません」とシュミエは語ります。しかし、ウィスキーの場合、何年も先まで販売することが出来ないので、「ブランドを成長させ始める時にはかなり大きな資金協力がいります」。リデンプションの成功は良いことでしたが、バーズタウン・バレル・セレクションズのパートナー達は新しい樽に投資し続けるための資本を使い果たしました。「おかしなことに成功すればするほどお金がなくなって行くんですよ…」とシュミエ。パートナー達は出資者を探し始め、ドイチ・ファミリー・ワイン&スピリッツとの話し合いの結果、2015年にリデンプション・ブランドを含む会社全体の売却が決まります。この取引はリデンプション以外のリヴァーボート等の各ブランドに加えて、限定版のボトリング及びそれらのバレルの全在庫を対象としていました。パートナーの二人は移行を通じて暫くはドイチと協力し、その後、カンバーはバーズタウンでストロング・スピリッツを運営し続け、シュミエはエクスポを継続して新しいヴェンチャーを立ち上げて行きます。

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ドイチ・ファミリー・ワイン&スピリッツは、世界の高品質なワインを販売するために、現在の会長ビル・ドイチによって1981年に設立されました。30年以上前に二人の従業員から始まったビジネスは、今では200人を遥かに超える従業員がサーヴィスを提供する国際的な会社に成長しています。ドイチ・ファミリーのスピリッツのポートフォリオは限られていましたが、2000年代後半にスピリッツ事業に参入し、リデンプション買収の2年位前からウィスキー市場への参入を模索していたそうです。ポートフォリオにどのブランドを導入するかについては非常に厳選した、とビルの息子で同社のCEOピーター・ドイチは語っています。社長のトム・ステファンシも、リデンプションは品質、拡張性、評判、消費者にとっての価値など買収を評価する際に用いる基準を全て満たしていた、と述べています。リデンプション・ブランドの競争力は魅力だったのでしょう。同社の目標はリデンプションの主力製品の価格を個々の市場に応じてボトルあたり約28ドルに維持しつつ、最終的には全米規模のブランドとなるよう供給を拡大することでした。彼らは買収時にブランドのためのバルク・ウィスキーの長期供給契約を新たにMGPと締結しています。実際リデンプションは急速に広まり、同社のビジネスをより大きくしました。ちなみにドイチ・ファミリー・ワイン&スピリッツは、2016年にそれまでのニューヨーク州ホワイト・プレインズからコネチカット州スタンフォードに拠点を変えています(規模を大きくした)。また同社のスピリッツ部門には、リデンプションの他にビブ&タッカーやマスターソンズのブランドがあります。

ドイチ・ファミリーがリデンプションを買収してから約1年後の2016年11月から、同ブランドはボトルとラベルのデザインを一新しました。これはドイチによれば、ライの地位を固めるというブランドの使命を推進するための刷新なのだとか。社長のステファンシは「リデンプション・ウィスキーをポートフォリオに追加して以来、私たちは消費者やバーテンダーの話を聞くことに多くの時間を費やし、彼らの意見を参考にして、ライがアメリカで王様だった往年の時代からヒントを得た新しいパッケージをデザインしました。ブランドの新しい外観は、リデンプション・ウィスキーの個性をよりよく反映し、ライが持つアメリカならではの個性を表現してい」ると語っています。こうして都会的な印象を与えていたトールボトルは禁酒法以前のような伝統的なボトルに置き換えられました。ライ麦がボトルの前面にエンボス加工されており、ヒップ・フラスクのように背面が湾曲しているボトルですが、全体的にどことなく「ブレット」のボトルに似たスタイル。実際、ディアジオ(ブレットを所有している大企業)からはボトルが模倣されているとして訴訟を起こされたようです。このボトルがリリースされ続けているということはドイチは敗訴しなかったんでしょうね。
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買収された後のジュースの制作に大きな変化はないとされますが、ブレンダーは以前のデイブ・シュミエからドイチ・ファミリーのワインメーカーでもあるウェイン・ドナルドソンに代わりました。2020年頃からはデイヴ・カーペンターがマスターブレンダーの役割を担っているようです。カーペンターのウィスキーでの仕事は2012年にジムビームで始まり、2016年後半にジェプサ・クリード、そこからリデンプションに移ったみたいです。誰がブレンダーであれ、同じフレイヴァー・プロファイルの作成を目指し、ボトル(バッチ)間の一貫性は保証されているでしょう。

このブランドを有名にしたのは、おそらく、クラシックとモダン両方のカクテルに利用できる優れたベースとしての低価格なライ・ウィスキーだと思われますが、より上位のヴァリエーションやバーボンもあります。スタンダードとハイ・ライのレシピによるバーボン、限定版のウィーテッド・バーボン、毎年少量でリリースされるエイジド・バレルプルーフや流行りのフィニッシング物などです。
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更にスーパープレミアムな超長熟のライとバーボンのエンシェント・コレクションもありました。ライは1998年蒸留の18年熟成、54.95%ABV、400ドルの希望小売価格、限定600本のボトルのみ。バーボンに至っては1978年蒸留の36年熟成、94%の蒸発率で僅か18本のボトルを造るのに4バレルかかったと言われています。こちらは48.8%ABVで1200ドルの希望小売価格。まあ、手に入れるのは無理ですね…。これらは中身のジュースと同様ボトルも特別な仕様です。シルクスクリーンのライ麦のプリント、アンティーク感のあるエンブレム、革のコードで包まれたネック、そして木製のストッパーには1978年の実際のペニーが埋め込まれています。エンシェントに使用されたバレルはどちらも他のリデンプションと同じくMGPからの調達。

最後に、リデンプション・ライの中身についてもう少しだけ詳しく見ていきましょう。
リデンプション・ライは、MGPの提供するレシピの中で最も人気のある95%ライ、5%バーリーモルトのマッシュビルを使用しています。ブレットやジョージ・ディッケルのライ、その他多くのブランドに使用されているものと同じです。ボトリング・プルーフや熟成年数その他の要因によって同じマッシュビルでもブランド間で多少の違いが生じます。
ブランド・アンバサダーのリッグスへの2017年のインタヴューによれば、フラッグシップとなるスタンダードなライ・ウィスキーは、135プルーフで蒸留、バレル・エントリーは120プルーフ、ブレンドにはフレイヴァー・プロファイルに基づいて18か月から6年熟成までのウィスキーを使用し、バッチサイズは凡そ150バレルだそうです。公式の声明では平均2.5年熟成とされています。リデンプション・ライで何より特徴的なのは、明らかにMGPからもっとオールダーなジュースを購入することが出来るにも拘らず、かなりヤンガーなウィスキーを敢えて選んでいるところ。現在のマスターブレンダーであるデイヴ・カーペンターは或るインタヴューで、なぜ若い製品を選ぶのか訊ねられて、4〜7年熟成のウィスキーを出してもウィスキー文化に新しいものを加えることにはならない、我々はもっとブライトでシトラス・フォワードなものを提供するのが好ましいと思った、そしてそのような2〜3年熟成の製品はオールダー・ウィスキーが常に良いものであるという誤解を解けると考えている、というようなことを答えていました。これは個人的には好ましい考え方だと思います。
現在のリデンプションはNDP(非蒸留生産者)のソーシング・ウィスキーとしてかなり確立されたブランドであり、スタート時より資本力のある会社に所有されています。そこで我々が気になるのは自社蒸留を開始しないのか?ということですが、リッグスは上述のインタヴューで「私たちはシーグラム社で20年間働いて来た人たちよりも優れたウィスキーを造れるとは思っていません。MGPには30年来の素晴らしい蒸留チームがあります。だから、もしスティルを購入してもおそらく他の製品を造ることになるでしょう(要約)」と言っていました。これまた個人的にはベストな考えと思います。
では、飲んだ感想を少しばかり。こちらは友人からワンショット頂いての試飲となります。

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REDEMPTION Rye 92 Proof
Batch No. 260
色はゴールド寄りのブラウン。焦がした木、ライスパイス、フローラル、ピクルス、青リンゴ、キャラメル、ミント。トーストされた木材の甘い香りもありつつのスパイシーなノーズ。少しだけとろみのある口当たり。味わいはライのスパイシーさとフレッシュなフルーツ感とグリーンリーフのタッチ。液体を飲み込んだ後はけっこう刺激的。余韻はあっさりしてるが、爽やかで悪くない。
Rating:84.5/100

Thought:以前に飲んだトールボトル(レヴューはこちら)の物と劇的な変化はないように思いました。開封直後に頂いたのですが、のっけから美味しい。相変わらず、若さはあってもフレイヴァーフルで自分の好みです。強いて言うと、こちらの方がやや甘くて円やかな印象がありました。サイド・バイ・サイドではなく記憶との比較なので不確かですが…。
ところで、私が以前飲んだトールボトルのリデンプションにはストレート表記がなかったのですが、リニューアル後のラベルにはストレート表記があります。と言うか、画像検索でリデンプションを調べると、トールボトルにもストレート表記がある物があったり、新ボトルでもストレート表記なしの物が見つかりました。裏ラベルを見ると、ストレート表記がない物は「AGED NO LESS THAN ONE YEARS」と書かれ、ストレート表記のある物は「AGED NO LESS THAN TWO YEARS」と書かれているようです。もしかすると、2年熟成未満の原酒がブレンドされているバッチと、最低2年熟成以上の原酒がブレンドされているバッチでラベルを変えているのかも知れません。まあ、これは私の憶測なので聞き流して下さい。
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Value:アメリカでは大体25〜30ドルで売られています。現在の日本では某リカーショップで購入出来ますが、値段が5000円程度です。熟成年数を考えると少しお高めな気もします。いや、かなり。ですが、個人的には何故かテンプルトンやブレットよりもリデンプションの方が美味しく感じるので、ありはありかな。もう少し安いと常備ライにベストな選択となるのですが…。

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テンプルトン・ライ・バレル・ストレングスは2018年から導入された年次リリースの数量限定製品です。テンプルトン・ライというブランド自体と諸々のエピソードについては、以前に投稿したスモールバッチNAS6年のレヴューで紹介してますので、そちらを参照して下さい。
創業当初NDPであったテンプルトン・ライ・スピリッツ社は2017年に自らの蒸留所を着工し、2018年から稼働し始めたようで、100%アイオワ産のウィスキーは2022年に発売されると想定されています。従って現在流通しているテンプルトン・ライの製品は、全てインディアナ州ローレンスバーグのMGPで蒸留および熟成された95%ライと5%バーリーモルトのウィスキーがソース。ブレンドとボトリングのみがアイオワのテンプルトンの施設で行われている訳です。
バレル・ストレングスは毎年限られた数のバレルが蒸留所マネージャーのレスター・ブラウンを筆頭としたチームによって選ばれます。これはシングルバレルではなく、エイジ・ステイトメントもないため、おそらく熟成年数や成熟度が異なる優良と見做されたバレルが選ばれ、その後それらをヴァッティングし、一つのバッチを形成するのでしょう。同社の4年や6年と違い、バレル・ストレングスには「ストレート」表記がありますので、フレイヴァー製剤の添加はありません。ラベルの承認を行うTTBを欺いているのでない限りは…。また、バレル・ストレングスはフレイヴァー成分をボトルに残すことを期待されるノンチルフィルタード(非冷却濾過)。流石にバレルプルーフならばフレイヴァーを添加する必要はないという判断ですかね。ちなみに、これまでリリースされたバレル・ストレングスは、2018年版が114.4プルーフ、2019年版が115.8プルーフ、2020年版が113.1プルーフでボトリングされています。

テンプルトン・ライ批判の急先鋒と言えるウィスキー・インフルエンサーのジョシュ・ピータースは、2018年にバレル・ストレングスが初めてリリースされた時には「テンプルトン・バレルストレングス・ストレート・ライウィスキーを購入しない5つの理由」という記事を自身のブログに投稿しています。彼は以前からテンプルトン社の現代ウィスキー市場に於けるあらゆる反則技や不誠実な姿勢に嫌悪感を露わにしていましたが、ストレート・ウィスキーであるバレル・ストレングスが出ても怒りは収まらなかったようで…。彼の主張をざっくり纏めると、バレル・ストレングスがストレート規格であったとしても、そのプレス・リリースではどこにもMGPのソースド・ウィスキーであるとは言及されておらず、アルフォンス・カーコフ・レシピの起源物語をまだ言い続けている、だったら同じくMGPの95/5ライ・マッシュのジェームズ・E.ペッパー1776ライのバレルプルーフの方が安く購入できるので自分ならそっちを買う、そうすれば同じ経験をしながら欺瞞的なテンプルトンではない透明性のある会社をサポートすることが出来る、と。私も情報は透明に越したことはないと思っていますし、テンプルトン・ライの行き過ぎたマーケティングにはガッカリするものの、それでもテンプルトン製品を買っています。これはジョシュに賛同しないと言うより、単に日本で比較的買い易いMGP95ライをソースとしたウィスキーがテンプルトン・ライだから、それだけ。MGPの95%ライ好きなんです(笑)。

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TEMPLETON RYE BARREL STRENGTH 115.8 Proof
Limited Bottling 2019
ピクルス、ライスパイス、プラム、青いバナナ、キャラメル、石鹸、塩、ゴーヤ、スイカ、甘いナッツ、弱い蜂蜜。基本的にスパイシーなアロマだが、フルーツとお菓子のような甘い香りもしっかりある。軽やかなのにバタリーな口当たり。味わいはフレッシュな野菜やハーブを思わせる緑感とグレイン。余韻は口当たりや度数の割にあっさり切れ上がるものの、トーストされたオークの甘みとハービーな苦味とライ麦由来のスパイシーさのアンサンブルが心地良い。
Rating:87.5/100

Thought:前回まで開けていたテンプルトン・ライ6年と比べると、バレルプルーフであることとノンチルフィルタードの効果でしょうか、フレイヴァーの強さは桁違いでした。フレイヴァー・プロファイルは概ね同じに感じますが、6年では感じ取れなかった細やかなニュアンスや変化も取得しやすいように思います。選択されたバレルの熟成年数の平均はどうなんだろう、4〜6年くらいはありそうな熟成感という印象。飲んだことある皆さんはどう思われましたか? コメントよりどしどし感想お寄せ下さい。

Value:2020年版のテンプルトン・ライ・バレル・ストレングスは、アメリカでの希望小売価格が約60ドルのようです。日本でこの2019年版が流通していた頃の小売価格は大体5500円程度でした。過剰なプレミアム(割増金)が付けられていなければ、どこかで見つけたら即買っていいと思います。日本ではMGP95ライをソースとしたバレルプルーフのウィスキーがそこまで豊富に流通している訳ではないからです。ただし、他メーカーがボトリングしたMGP95ライのソーシング・ウィスキーでも、バレルプルーフであれば同じくらい美味しいのは確定的であり、尚且もう少し安い可能性はあるので、よほどテンプルトン・ライのブランド・イメージが気に入ってるのでなければ、ジョシュ・ピータースが言うように、そちらを購入するのも手でしょう。

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今回紹介するテンプルトン・ライ6年はブランドが始まって10年を経た2016年から販売され始めました。ブランド自体の紹介は以前投稿したテンプルトン・ライ・スモールバッチの時にしているので、そちらを参照下さい。近代のテンプルトン・ライが2006年にスタートした当時はNAS(熟成年数表記なし)のみでしたが、現在ではそれは「4年」に置き換えられ、その上位互換として「6年」があり、更にリミテッド・リリースの「バレル・ストレングス」も発売されラインナップは拡張されています。10周年時にはその数字にちなんで10年熟成の特別版もありました。あと、流行りの後熟物もあります。
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周知のようにテンプルトン・ライ・スピリッツ社は創業当初NDP(非蒸留生産者)でしたが、2018年に漸く自社蒸留を開始し、その新しいオリジナルは2022年にリリースされる予定。なので、今のところ販売されているテンプルトン・ライは全てインディアナ州ローレンスバーグのMGPで生産されるライ95%/バーリーモルト5%のウィスキーをソースとしています。バレル(もしくはジュース)はインディアナからアイオワに送られ、同社はそこで独自の処方と地元の精製水を加えた後、自社施設でウィスキーをボトリングするのです。ちなみに、よく日本でテンプルトン・ライを紹介する際、「蒸溜はコラムでなく銅製ポットスチルを使用する極めて稀な製法で造られています」と書かれていることがあるのですが、MGPは巨大なプラントであり、コラムスティルで蒸留している筈です。多分、輸入元の資料のコピーなのかな? 新しい自社生産の物は銅製ボットスティルなのかも知れませんが、現在販売されている物はまだそうではないので注意して下さい。

ライウィスキーは2010年以降急激な人気の高まりを見せ、販売数を極端に伸ばしました。クラフト蒸留所が独自に造り出すライウィスキーもありましたが、生産量の大きさから言ってその多くはMGPに由来するものでした。MGPの運営するローレンスバーグのプラントはその昔ロスヴィル蒸留所として始まり、禁酒法後にシーグラム帝国の一翼を担った蒸留所です。そこでは主にブレンデッド・ウィスキーに使用するフレイヴァー成分としてライウィスキーを生産していました。シーグラム帝国が崩壊した時、本来はブレンドされることを意図したライウィスキーのバレルは大量に余り、何の目的もなく熟成されていました。誰かがそれを試してみると、それ自体でかなり良い味がすることに気付き、そこで当時の所有者はそれをバルク・ウィスキーのマーケットで販売することにしたのです。これがライウィスキー復興の震源地の一つとなったのは疑いありません。MGPも以前の所有者時代のLDIも、自社ブランドを殆どボトリングしないか全くしなかったため、その存在は近年まであまり知られていませんでしたが、多くの酒類企業の供給元となっていたし今もなっています。ブレットやジョージディッケルを傘下に置く大企業、KBD(ウィレット蒸留所)のようなボトラーやNDPは言うに及ばず、他にもエンジェルズ・エンヴィ、ベルミード、ハイウェスト、ジェイムズEペッパーなど多くの中小の新興蒸留所はMGPから調達することで、熟成酒を準備するための時間とコストを掛けることなく熟成ウィスキーの市場に足を踏み入れることが出来ました。そしてテンプルトン・ライ・スピリッツLLCもかなり早い時期からそうしていた一社だった訳です。

同社は2014年に欺瞞的なマーケティング手法の疑惑で集団訴訟の対象となった後、ウィスキー愛好家の間で議論を呼びました。アンチの急先鋒は著名なウィスキー・ブロガーのジョシュ・ピータースで、彼は「TEMPLETON RYE」を「TEMPLETON LIE」と皮肉った画像を自身のブログに載せました。彼はテンプルトン・ライ6年がリリースされた時にも、宣伝の謳い文句がさほど変わっていないことに腹を立てて、自分はテンプルトン・ライを購入しないし皆もそうすることを望む、とすら書いています。他国に住む我々日本人としては、殆ど嘘を並べた宣伝文句にはある程度距離が取れるので、それほど腹も立たないし、他人事感はあります。とは言え、ウィスキーの世界に限らず情報の透明性が昔より尊ばれる昨今ですから、地元テンプルトンを盛り上げたいばかりに誇大宣伝が過ぎて製品情報に靄が掛かっているのはテンプルトン・ライ自身にも不利益なのではないのかな?とは思います。
まあ、それは措いて、気になるのは以前のスモールバッチNASでも取り上げたフレイヴァーの添加の件です。この件は、集団訴訟への公式の発表でテンプルトン・ライ・スピリッツの会長ヴァーン・アンダーウッド自身が認めています。簡単に要約すると、メイド・イン・アイオワを謳っていたのは、確かにインディアナから調達したウィスキーを使ってはいるが、アイオワで独自の処方を施すことでアイオワ産になっているという認識だった、と釈明したのです。本来「隠れた立場」にいる会長が顔を表したのは創始者のスコット・ブッシュや共同創業者のキース・カーコフでは事態の収束が難しいと判断したからでしょう。
今回取り上げる6年もストレート表記のない「ライ・ウィスキー」。と言うことは、これがウィスキーの「クラス」を表しているのなら、フレイヴァー入りと見られますが…。では、飲んでみることにします。

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TEMPLETON RYE 6 Years 91.5 Proof
推定2019年ボトリング。ピクルス、焼いた木、青リンゴ、ミント、キャラメライズド・シュガー、シリアル、ライスパイス、若草。あまり甘くないスパイシーなアロマ。円やかでありながら水っぽい口当たり。余韻はあっさりめで芳醇とは言い難いが、穀物ぽい香りとハービーもしくはフルーティな苦味が鼻を抜けて行く。
Rating:84.5/100

Thought:私はMGP95ライのファンなので全然美味しく頂いたのですけれど、「あれ?」とちょっと肩透かしを食らった思いでした。過去に投稿した少し昔(2011年ボトリング)のNASと較べると甘い香りとフルーティなテイストが減退していると感じたのです。特徴的だったライチとバタースコッチの強い風味はどこへ? 同じMGP95ライがソースで熟成年数やプルーフィングの近いジョージディッケル・ライと較べても、ややメロウネスに欠けると言うか、円やかさと甘味が少し足りないような…。個人的には、テンプルトン・ライ6年は平均的なMGP95ライの味にしか思えず、どうもフレイヴァーは添加されてないような気がしました。と言うか、この程度でフレイヴァーが添加されてる風味だとしたらダメだろ、と。ちなみに、同時期ボトリングと推測されるストレート表記のある「バレル・ストレングス」を試しに飲んで較べてみると、この6年をそのまま濃くした風味プロファイルという印象を受けました。
これはどういうことなのでしょう? 熟成年数も長く、90プルーフ以上でボトリングされるこの「6年」が、何故たかだか80プルーフしかない「NAS」より劣るのか? 幾つかの可能性を考えてみました。言うまでもなく以下は全て仮説です。

①NASにはフレイヴァーが添加されていたが、年数表記ありの物にはフレイヴァーは添加されていない。もしくは2016〜17年頃はフレイヴァーが添加されていたが、最近の物にはフレイヴァーが添加されていない。
─これは話がややこしくなるですが、まず下の画像をご覧下さい。
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なんとストレート表記のあるシグネチャー・リザーヴなるテンプルトン・ライが存在するのです。これらは私がブログ以外にやっているInstagramの投稿で見つけました。そして、それを投稿している人達はおそらくアメリカ本国の人ではなく、東欧諸国と一部の国の人ではないかと思われるのです(ハンガリー、デンマーク、ポーランド、ロシア、オーストラリアの方々?)。輸出国によってその仕様に差異があるのはないことではありません。にしても、ストレートの4年や6年があるのなら、シグネチャー・リザーヴが発売された時期に「ストレート」なしのテンプルトン・ライも実は中身はストレートだった、なんてこともあるのかな?という想像です。

②ストレート表記のないものはフレイヴァーの添加はされてはいるが、それほど風味に影響はなく、初期のテンプルトン・ライNASは本当にスモールバッチだったので、単純にバレル・セレクトのクオリティが高いため美味しかった。
─ライの人気が上昇し、生産量が増えるということは、バッチングに使用される樽の数が増加するか、或いはバッチング自体の回数が増加することを意味します。ウィスキーが大量生産されると味が落ちるベーシックな理由の一つは、樽選びの基準が下がることでしょう。それだけ多くの樽を選ばなくてはならないのですから。スモールバッチ表記のNASのテンプルトン・ライには、裏ラベルに手書きのバッチ情報が書かれています。一方、最近の4年や6年の裏ラベルには何も手書きでは書かれていません。
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この変化はもしかすると、手書きが出来なくなるくらいの量が生産されているからなのでは? それに、ただでさえMGPの95ライは様々な企業が購入する訳ですから、ある意味、優良バレルが奪い合いなのだとしたら? この説はそれらを考慮して、単に初期のNASの方がハイ・クオリティだったのかも知れないという推測です。

③NASは概ね4年熟成と見られていたが、実は6〜8年の熟成原酒も混ぜられており、それが風味の良さに繋がっていた。
─これは②のバレル・セレクトとも関連しますが、熟成年数表記がない上に、原酒構成は明かされてないのですから、中身を明確に知ることが出来ないので、長熟バレルが混和されていた可能性もなくはないのかと。ある時から日本でのテンプルトン・ライの価格が大幅に下がりましたよね。これ、輸入業者が変わったからなのかと思っていたのですが、もし中身が若い原酒になったことによるプライスダウンだったとしたら?と思い付いた説です。

④私が前回飲んだNASが、2011年ボトリングを2018年に開封した物だったため、その間に「酸化の奇跡」か何かが起こり、たまたま強靭な風味になっていた。
─これは微妙な空気との接触がウィスキーの香味を開かせることもあるかも知れないというお話です。

⑤単に私の舌と鼻がぶっ壊れていた。もしくは脳がおかしくなっていたため壮大な勘違いをしている。
─これは十分あり得る…(笑)。

と、まあ妄想を書き連ねましたけれど、個人的には①番推しですかね。飲んだ印象がそうだったので、自分を信じて。②番は有り得そうな気もしますが、③番④番はないかな…。⑤番は完全にないことを祈ります。テンプルトン・ライ、飲んだことある皆さんはどう思われたでしょうか? ご意見、ご感想、他の説をコメントよりどしどしお寄せ下さい。

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ジャックダニエルズと並ぶテネシーウィスキーの雄ジョージディッケルのライウィスキーです。と言っても中身のジュースはテネシー州で蒸留されたものではなく、MGPの95%ライ・マッシュがソース。2012年から発売されました。熟成年数は5年程度と言われています。
当時マスター・ディスティラーだったジョン・ランによると、熟成したウィスキーはインディアナ州からシカゴ近郊のイリノイ州プレインフィールドにあるディアジオのボトリング施設に運ばれ、そこでジョージディッケルの特徴となるチルド・メイプル・メロウイング(原酒を0℃近くまで冷却してからサトウカエデの炭で濾過する方法)が施されているようです。木炭はテネシー州タラホーマ近くのディッケル蒸留所から送られ、同じ方法で行われるのだとか。ただし、テネシーウィスキーは本来熟成前にメロウイングされますが、ライはMGPから熟成後のウィスキーを調達してるためそう出来ないので、一般的なウィスキーと同様ボトリング前になされています。

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George Dickel Rye 90 Proof
推定2017年前後ボトリング、並行輸入。ラムネ菓子、香ばしい樽、キャラメル、ピクルス、ライチ、メロン、洋梨、鉄。開封直後は、口当たりは円やかと言うよりはウォータリーだったが、次第に円やかさを増した。パレートはやや単調な青リンゴ。余韻に豊かなスパイスと僅かに苦味を伴った爽やかなハーブ。液体を飲み込んだ瞬間がハイライト。
Rating:85.5/100

Thought:海外では、所有している親会社も同じ、原酒も度数も同じ、更に熟成年数まで近いブレット・ライとの比較レビューが散見されます。私も真似っこしてブレットとディッケルを同時期に開封して飲み較べました。そうすることでチルド・メイプル・メロウイングの効果のほどを知りたかったのですが、個人的な印象としてはチルフィルタード云々よりも、そもそもブレットよりディッケルのほうが熟成年数が長い味に感じます。少なくとも私の飲んだボトルに関しては、色合いもディッケルの方が濃い色でしたし。そのため、その効果のほどはよく判りませんでした。ただ、ノンチルフィルタードが持て囃される昨今、ディッケルのチルド・メイプル・メロウイングって風味を失うだけじゃね?との疑念もあったのですが、特に風味が減じている印象は受けません。やはり、ジャックダニエルズにしろジョージディッケルにしろ、チャコール・メロウイングにはウィスキーのクラスを変えるほどの力はないと私には思われます。

Value:同じ親会社ながら、今のところ日本ではディッケルよりブレットのほうが流通量が多く入手しやすいと思いますが、上に述べたように大体同じスペックの両者が、仮に同価格だとしたら私はディッケルを選びます。ただし、海外の比較レビューでは、私と逆の評価が見られました。すなわち、私にはディッケルの方がより角のとれたまろみと甘味を感じ、ブレットのほうに爽やかさを感じやすかったのですが、或る方はディッケルのほうがドライで、ブレットのほうが甘いという趣旨の発言をしていたのです。もしかするとロット間の差があるかも知れません。

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世界で人気のブランド、ブレットのライウィスキーです。ブレット・ブランド自体の紹介はこちらを参照下さい。ブレット・ライは2011年3月から発売されました。バーテンダーからの要望が多かったため製品化されたと聞き及びます。ラベルの緑色はブレット・ディスティリング・カンパニーの創業者トム・ブレット自ら拘って選び抜いた絶妙なグリーンなのだとか。ジュースはお馴染みMGPの95%ライ。熟成年数は4~6年とも5~7年とも言われており、おそらく値段から考えて4年熟成酒をメインに使っているのではないかと想像します。

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BULLEIT RYE 90 Proof
推定2016年あたりボトリング、購入は2018年。色はやや薄めでオレンジがかったゴールデン・ブラウン。焦がした木、ライスパイス、青リンゴ→マスカット、ミント、蜂蜜、洋梨、穀物臭、竹林。爽やかなフルーツとスパイシーなアロマ。ウォータリーな口当たり。口中はマイルドな甘味と豊かなスパイスが感じられる。余韻はややハービーな苦味が強い。開封からしばらくは香りのボリュームが低く、味わいも平坦だった。残量が半分を切ってから幾分か濃密になり美味しくなった(開封から3ヶ月以上経過してやっと)。同じMGPソースで熟成年数の若いリデンプションと較べると、円やかなテクスチャー、かつ甘味を感じやすい。ブレットと同じくディアジオの所有するブランドであり、同じMGP95ライをソースとしたジョージディッケル・ライと比べると、なぜか全体的に薄口の印象だった。
Rating:85/100

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Malt Whiskey─モルトウィスキー
51%以上のモルテッドバーリーをマッシュに含み、160プルーフ以下で蒸留し、125プルーフ以下でチャーした新しいオークコンテナーに入れたウィスキーのこと。

Malted Barley─モルテッドバーリー
麦芽大麦。部分的に発芽され、加熱または焙煎された大麦。麦芽大麦には澱粉を発酵性糖に変換する酵素が含まれている。バーボンのマッシュビルでは概ね5〜15%程度の割合で使われる。酵素は麦芽でないと存在しない。

Mariage(Marriage)─マリアージュ(マリッジ)
マリアージュはフランス読み、マリッジは英語読み。通常の意味としては結婚のこと。「幸福な巡り合わせ」のようなニュアンスを秘めて使い、ワイン業界に於て、ワインと料理の組み合わせや相性が希にみるほど良く、1+1が2にならず、それ以上になる場合に用いると云う。今ではワインに限らず、ウィスキーや日本酒等でも使われている。例、「ウィスキーとおつまみのマリアージュ」。上記の文脈でないウィスキー用語としては、ブレンドした原酒を調和させるために一定期間寝かせることを指す。
バーボン用語としてあまり使われないこの言葉を当用語集で取り上げた理由はただ一つ。フォアローゼズ蒸留所が毎年リリースし、現在スモールバッチ・リミテッドエディションとして知られるシリーズの最初期の二年間だけこの名称が使われていたから。スタンダードなスモールバッチでは10レシピのうち4つのレシピ(OESK, OESO, OBSK, OBSO)を使用するが、リミテッドエディションのレシピはその都度若干違う。ファーストリリースとなる「Four Roses Mariage 2008」は13年熟成と10年熟成のブレンドで、レシピはその時点では公開されていないものの、おそらくはEとBのマッシュビルを「マリアージュ」したものと思われる。そしてセカンドリリースの「Four Roses Mariage 2009」は、イーストの種類は定かではないものの、35%ライのBマッシュビル10年熟成と20%ライのEマッシュビル19年熟成のバーボンが選ばれていると言う。この後の2010年以降のリリースから3〜4種のブレンドとなり「Mariage」の名称はなくなった。
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Maryland Rye─メリーランドライ
ライウィスキーはアメリカンウィスキーの元祖と考えられ、メリーランド州は近隣のペンシルヴェニア州と並びその産地として名高い。同州は禁酒法に先立つ19世紀の大部分に渡って、ペンシルヴェニア州とケンタッキー州に次ぐ存在感を示していた。南北戦争でメリーランドにやって来た外部人が、ワシントンDCを保護するために駐屯している間、このスタイルを嗜んだ何千人ものユニオン・ソルジャーズによって内戦中に有名になり、彼らが故郷へ戻るとメリーランド・ライの評判は北部の州全体に広まった。メリーランドはウィスキーをスコットランドにまで輸出していたと言う。クラシックなメリーランド・ライのブランドとしては、ハンター・ピュア・ライ、メルヴェール、B. P. R.、マウント・ヴァーノン、パイクスヴィル等が比較的有名。このスタイルのマッシュビルの基準について明確な規定はないものの、強くスパイシーなペンシルヴェニア・ライ(モノンガヒーラ)よりも甘くて柔らかく、滑らかでバランスの取れた味わいは、マッシュビルにコーンが多く含まれていたと見られている。メリーランド・ライのボトラーの中には、1906年のPure Food and Drug Actが終止符を打つまで、ライウィスキーにフルーツジュースや他の甘味料や着色料を加えて高度に「整流」するものも多かったらしい。
ご多分に漏れず、禁酒法により同地の蒸留所は衰退した。「高貴なる実験」が終わりを告げてもケンタッキー・バーボンのように復活しなかった原因の一つとして、メリーランド州の蒸留所の多くが都市部にあったから、と言われる。これらのプロパティは貴重な場所にあり、禁酒法期間中に不動産を売却する必要に迫られた。それでも再開された蒸留所の多くは、禁酒法以前に運営していた人物とは異なる人物に経営された。メリーランド州のウィスキーの評判ですぐにお金を稼ぐことに興味を持った人々によって。その多くは10年以内に失敗に終わったと言う。また、第二次世界大戦の折り、非常に多くの蒸留所が戦争のためのエタノール製造に切り替えたことも衰退の要因と考えられている。最後まで生き残ったパイクスヴィル・ブランドも1972年には生産終了。1982年にヘヴンヒルに売却されるまで既存のウィスキーストックで生き残ったものの、メリーランド産のライウィスキーは一旦その歴史に幕を下ろし、それ以降はケンタッキー産のメリーランド・スタイル・ライが生産された。
ところが近年、クラフト蒸留所の勃興や、新世代バーテンダーやミクソロジストからの支持によりライウィスキー人気が復活し、メリーランド・ライの名声が戻って来た。ボルチモアのサガモア・スピリットやリヨン・ディスティリングを筆頭に地元のクラフト蒸留所は活況を呈し、他地域からもフィラデルフィアのニュー・リバティ蒸留所やコロラド州デンバーのレオポルド・ブラザース社がメリーランド・ライの伝統を受け継いだ独自のヴァージョンを産み出している。再びメリーランド・ライの黄金時代を目の当たりに出来るかもしれない。

Mash─マッシュ
粉砕した穀物とお湯の混合物。粥に似てとろりとしている。マッシュポテトの「マッシュ」と同じ言葉で、一般的にはすり潰してどろどろにすること、またそうした物の意。

Mash Bill─マッシュビル
マッシュに含まれる穀物の配合比率を指す用語。例えば、コーン72%/ライ18%/モルテッドバーリー10%、のような感じ。レシピ、またグレインレシピとも言う。伝統的には上記3種の穀物がバーボンの殆どを占めるが、近年では4種の穀物を使った「フォーグレイン」や、アメリカンウィスキー製造ではマイナーだった穀物もマッシュビルに使用されるようになってきた。

Mash Tub─マッシュタブ
穀物を水と混ぜてマッシュを調理し、ファーメンターに移す前に、澱粉を単糖に分解する糖化作業に用いる大型の桶。「バスタブ(浴槽)」と言うときの「タブ」で、つまりマッシュ用の槽のこと。クッカーとも言う。「Cooker」の項を参照。

Mashing─マッシング
マッシュを調理するプロセスのこと。糖化作業。イーストを加えるファーメンテーションの前に、イーストが穀物の澱粉を利用できるように、先ず麦芽の分解酵素(アミラーゼ)を働かせ、澱粉を発酵可能な糖に分解する工程。原料のグレインを粉砕したものに麦芽と共に湯に混ぜ、加熱することで糖化が行われる。バーボンの糖化で使用する大麦麦芽は酵素力の強い六条大麦だと聞く。また麦芽だけの力に頼らず商用酵素剤と併用する場合もあるとか。
ミルで別々に挽かれた材料はクッカーにトウモロコシ、ライ麦、麦芽の順で3段階に分けて投入。それぞれの投入温度は概ね100℃、84℃、65℃とされる(加圧するかしないかで温度は変わる)。この時、仕込水と共にバックセット(スティレージ)を加え、マッシュを酵素の働きやすいpHに整えるのがサワーマッシュ製法。麦芽の酵素はpH5.4~5.6程度の酸性下でよく働くため、ライムストーンウォーターのようなpH7程度の中性水では酵素が働き難いことから、pH4前後のバックセットを加える事でマッシュを適度な酸性にする。サワーマッシュはマッシングとファーメンテーションどちらにも適用するのが一般的だと言う。

Master Distiller─マスターディスティラー
蒸留酒のレシピを決定したり、熟成具合や製品品質をチェックしたり、酵母の増殖を含む生産工程の全てを監督するトップの人。どのような製品が造られ、どのようなものが瓶の中に入るのかに関する最終的な権限を持っている。ブランド・アンバサダーとして製品を広める役割も担ったりする。

Master Taster─マスターテイスター
マスターディスティラーの助手として生産の監督をし、バレルの味見や、バッチングのためのバレル選択を助ける人。

Maturation─マチュレーション
熟成。エイジング。

Maturation Peak─マチュレーションピーク
熟成の頂点。マスターディスティラーが最高の熟成度と見極めるポイント。

MGP(MGPI)
「Midwest Grain Products」の略。「MGPI」の場合は「MGP of Indiana」もしくは「MGP Ingredients」の略。MGPはカンザス州アッチソンに本社を置く、蒸留酒および小麦プロテインと澱粉の大手サプライヤー。スピリットはインディアナ州ローレンスバーグにある同社の施設で蒸留され熟成している。ウィスキーやバーボン以外にジンやウォッカ、GNSや工業用アルコールも生産される。この蒸留施設の歴史は古く、そもそもは1847年創業のロスヴィル・ユニオン蒸留所に端を発する。1933年、シーグラムは蒸留所を禁酒法期間中に購入し、廃止後に再建した。以来、蒸留所はシーグラムス・ローレンスバーグ・プラントとしてシーグラム帝国の一翼を担い、シーグラムス・セヴン・クラウンやシーグラムス・ジン等の様々な製品の製造に使用されていた。シーグラム解体によって2000年に酒類部門はディアジオとペルノ・リカールに分けて売却され、ローレンスバーグ蒸留所とシーグラムス・ジンはペルノ・リカールの所有となった。ペルノ・リカールは施設を望んでいなかったため、2008年までに売却できなかった場合、工場は閉鎖されると2006年4月にアナウンスされたが、2007年にはトリニダード・トバゴを拠点とするCLフィナンシャル(アンゴスチュラの親会社)が購入した。その際に改称して「LDI(Lawrenceburg Distillers Indiana)」と呼ばれるようになったものの、CLフィナンシャルはその後崩壊し、2011年10月にMGPイングリディエンツが蒸留所を購入し現在に至る。MGPが蒸留所を取得した折りにボトリング施設は購入されず、ボトリング施設とパッケージング事業はプロキシモ・スピリッツが2012年にCLフィナンシャルから取得した。
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アメリカ国内でも屈指の歴史と生産能力を誇る蒸留所を有しながら、MGPはオリジナル・ブランドを殆ど持っていない。伝説のブートレッガーの名にちなむジョージ・リーマス・バーボン、蒸留所の創業当時の名を冠したロスヴィル・ユニオン・ライウィスキー、時のマスターディスティラー グレッグ・メッツが選択した限定バーボンなど数えるほどしかなく、彼らのウィスキービジネスの大部分は他の会社(NDP、ボトラー)への販売にある。 2013年4月、MGPは顧客のためにウィスキーのマッシュビルを追加し、インディアナ施設の製品提供範囲を拡大すると発表した。そうして現在では以下のような種類のウィスキーレシピがある。

Bourbon - 75% Corn / 21% Rye / 4% Barley Malt
Bourbon - 60% Corn / 36% Rye / 4% Barley Malt
Bourbon - 51% Corn / 45% Wheat/ 4% Barley Malt
Bourbon - 51% Corn / 49% Barley Malt
Bourbon - 99% Corn / 1% Barley Malt
Rye Whiskey - 95% Rye / 5% Barley Malt
Rye Whiskey - 51% Rye / 49% Barley Malt
Rye Whiskey - 51% Rye / 45% corn / 4% Barley Malt
Corn Whiskey - 81% Corn / 15% Rye / 4% Barley Malt
Wheat Whiskey - 95% Wheat / 5% Barley Malt
Malt Whiskey - 100% Barley Malt

この中で著しく人気があり、MGPの主要製品となっているのが95%ライ・マッシュのストレート・ライウィスキー。大手酒類会社からクラフト蒸留所までこぞって買い求め、独自のブレンドやフィルタリング、時には後熟などを施し、様々なブランド名の下にボトリングして販売されている。有名どころを挙げると、ブレット、ジョージ・ディッケル、エンジェルズ・エンヴィ、ジェームズ・E・ペッパー、リデンプション、スムーズ・アンブラー、ハイ・ウェスト、テンプルトンなど枚挙に暇がない。
この95%ライ/5%バーリーモルトのレシピは、元々セヴン・クラウンのようなブレンデッド・ウィスキーのフレイヴァー成分を意図して開発され、1990年代に当時のマスターディスティラー、ラリー・エバソルドによって造られた。当初は51%のライとコーンとモルトの標準的なライウィスキーを造ったと云う。しかし、もっとライ麦のフレイヴァーが欲しかったので、今度は80%のライと20%のモルテッドライのレシピで実験した。テイスター皆がその結果を気に入ったものの、モルテッドライは高価なため会社の会計士はいい顔をしなかった。そこで次に比率を95%ライとわずか5%モルテッドライに変更したが、それでもまだ高いと会計士は言い、結局ライモルトを標準的なバーリーモルトに取り替えることで、今日のレシピが出来上がる。そのレシピは豊かなスパイスとフルーティさに満ち、会社の上層部もとても気に入り、クラウンロイヤルや他のカナディアン・ウィスキーで使用するためにマニトバ州のギムリ蒸留所で造ることを決めた。しかし、インディアナ原産の菌株はより厳しいカナダの気候の中で一世代を超えて生き残ることができず、最終的にローレンバーグで造るようになった。約10年の間にシーグラムからペルノ・リカール、LDI、MGPと激動の変遷を重ねたが、アメリカンウィスキーに於けるライ人気復権の震源地はインディアナ州ローレンスバーグのプラントだったと言っても過言ではないだろう。

Micro Distillery─マイクロディスティラリー
法的定義のない言葉なので、イメージとして大規模な蒸留所の対極にある小規模生産の蒸留所のことと思っておいてよい。クラフト蒸留所とほぼ同義でも使われる。

Milling─ミリング
製粉。マッシングの前に原材料の穀物を砕く(挽く)工程。

Mingling─ミングリング
混ぜること。ブレンド、またはバッチングとほぼ同じ意味で使われるあまり一般的ではない言葉。

Mint Julep─ミントジュレップ
ケンタッキーバーボン、シロップもしくは砂糖、水または炭酸水、新鮮なミントの葉、クラッシュドアイスで作られるカクテルで、ケンタッキーダービーの公式飲料。

MM
「Maker’s Mark」の略。赤い封蝋が目印の小麦バーボン。
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Monongahela─モノンガヒーラ
かつてペンシルヴェニア州に多くあったライウィスキー蒸溜所がモノンガヒーラ川を水源としていたことから、ライウィスキーのことを単にモノンガヒーラと言い、最高のライウィスキーはモノンガヒーラ産だとして尊ばれていた。ライウィスキーの歴史はバーボンよりも古く、モノンガヒーラ・ライはアメリカ国内で幅広い認知度を獲得した最初のウィスキース​​タイルだった。モノンガヒーラ川はウェストバージニア州からピッツバーグへ流れ、アレゲーニー川と合流してオハイオ川となる。その名称はこの地方の原住民の言葉で「急峻な河岸」から取られたそうな。
研究家によればモノンガヒーラ・ライのスタイルには5つの歴史的因子があると云う。
①ロケーション
モノンガヒーラ川及びその支流からの水源と気候条件。
②グレイン
コーンはその地域で豊富な作物ではなく、モノンガヒーラ・ライの一般的なマッシュビルはライ麦と大麦の2種類しか含んでおらず、概ね4対1の割合だった。もしかすると一部の蒸留所では麦芽ライ麦を使ったかも知れない。
③スウィートマッシュ
サワーマッシュ発酵はペンシルヴェニア州の商業蒸留所に知られていたが、前回からのスペント・スティレージの一部を含めるのではなく、発酵ごとに新鮮な酵母のみを使用するスウィートマッシュが全般的に受け入れられていた。
④スリー・チェンバー・スティル
19世紀後半、この地域の蒸留所はスリー・チェンバー・スティルと呼ばれるポットスティルとコラムスティルの中間様式のハイブリッド・スティルを広く採用していた。それはポットスティルを垂直に3つ配置し、一部の動作に人の手はかかるが、半連続式蒸留器と言える構造だった。このスティルで蒸留されたスピリットは、コラムスティルに較べオイリーで重いボディだったと言う。
⑤熟成
この地域のほぼ全ての大きなウィスキー倉庫は石造りまたはレンガ造り、或いは両者の組み合わせで造られていた。寒い時期にはスチームによる温度制御を実践し、庫内は常夏に保たれた。この環境は絶えずウィスキーを樽の内部に押し込み、木との相互作用を増やす。自然のダイナミクスに委ねるケンタッキーの哲学と違い、ペンシルヴェニア州の蒸留所はより高価なプラクティスに固執した。甘くて美味しい赤色の樽熟成バージョン「Old Monongahela」に造り手と顧客は誇りを持っていたのだろう。
このスタイルのライウィスキーは禁酒法によってほぼ絶滅し、禁酒法解禁後もケンタッキー・バーボンのようには復活しなかった。しかし、現在アメリカでのライウィスキー人気は著しく、大手蒸留所もマイクロ蒸留所もこぞってライウィスキーをリリースし、その流れの中からモノンガヒーラ・スタイル再生の動きがある。ユタ州のハイウェスト蒸留所が造る「OMG(Old MononGahela) Pure Rye」や、フィラデルフィア近郊のマウンテン・ローレル・スピリッツの「Dad’s Hat Pennsylvania Rye」、ピッツバーグのウィグル・ウィスキーの「Organic Monongahela Rye」等は、オールド・モノンガヒーラのピュア・ライ・スタイルに敬意を表した代表例。またコロラド州デンバーのレオポルド・ブラザース社は、ヴェンドーム・カッパー・アンド・ブラスにスリー・チェンバー・スティルの製作を依頼したとも聞く。モノンガヒーラ・ライはTTBによって定義されたスタイルではないものの、アメリカンウィスキーの歴史の一時代を築いた。クラフト蒸留ムーヴメントの中で、アメリカンウィスキーの伝説再生は近いのかも知れない。

Moonshine─ムーンシャイン
密造酒。税金を払わず不法に生産された蒸留酒。違法な蒸留は夜陰に乗じて月明かりのもとで行われたことから。または昔の英国で月夜に紛れて船で運ばれたことからとも。概ねマッシュはコーンがメイン。ホワイトリカー、ホワイトライトニング、マウンテンデュー等とも言われる。現代のマーケティング用語としては違法な蒸留でなくても、それっぽい雰囲気のボトルやラベルで一般流通している未熟成(ないしはそれに準ずる僅かな熟成期間)の無色透明のコーンウィスキーを指してそう呼ばれる。

Moonshiner─ムーンシャイナー
密造酒の造り手。

MSRP
「Manufacturer's Suggested Retail Price」の略。メーカー希望小売価格のこと。Mなしで「SRP」とされることもある。

MWND
「A Midwinter Night's Dram(Mid Winter Night's Dram)」の略。ユタ州パークシティのハイウェスト蒸留所がリリースするランデヴー・ライのスペシャル・エディション。ストレート・ライ・ウィスキーのブレンドをポートワインとフレンチオークの樽で後熟したもの。配合率はシークレットながら、ソースはMGPのライ95%/バーリーモルト5%、ハイウエスト蒸留所のライ80%/モルテッドライ20%、 バートン蒸留所のライ53%/コーン37%/バーリーモルト10%とライ80%/コーン10%/バーリーモルト10%だとアナウンスされている(初期リリースの物はMGPとバートンのみ)。その名前はウィリアム・シェイクスピアの著作「真夏の夜の夢(A Midsummer Night's Dream)」をもじって名付けられ、それに準えてラベルも普通ならバッチナンバーやボトルナンバーのところが「Act」と「Scene」になっている。真冬の雪景色を見ながら飲んだり、クリスマスにお誂え向きのウィスキー。
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REDEMPTION RYE 92 Proof
Batch No:241
Bottle No:7099
アメリカで見事にライ人気が復活を遂げるなか、リデンプション・ライは確固たる地位を築いたブランドの一つです。名前のリデンプション(償還、救済、贖う、買い戻し)というのは、禁酒法以前にアメリカンウィスキーの主流だったライウィスキーの復権が製品コンセプトだから。と言っても、バーボンもリリースされてます。また、製品意図としてマンハッタンやオールドファッションドのベースとして提供されているようです。
現在では親会社がDeutsch Family Wine & Spiritsとなり、ボトルとラベルがリニューアルされてまして(おそらく2017年あたりから?)、画像の印象的なトールボトルは廃止となりました。中身のジュースは変わらずMGPの95%ライで、ケンタッキー州バーズタウンにあるDave SchmierとMichael Kanbarが運営するバーズタウン・バレル・セレクションズによってボトルリングされています。熟成年数は平均2.5年と言われていますが、ラベルにストレートライと書かれてないのと、裏ラベルに「Rye whiskey is less than one years」と書かれているところを見ると、おそらく1年熟成の原酒がかなり入っているのでしょう。では、テイスティングへ。

焦がした木、青リンゴ味のかき氷、芹、蜂蜜、洋梨、ライスパイス。全体に若草及びハーバルなアンダートーンが感じられる。余韻にはスパイス感と共に土っぽさも。口に含むと若い原酒のせいかピリピリするし、喉越しはかなりスパイシーだが、その刺激が心地よく、味わい的にも未熟感が却って好結果という印象。しかもビッグ・フレイヴァー。同じMGPの95%ライを使用し、似たようなスペックのエズラブルックス・ライ(※)と較べてアロマ/フレイヴァー/フィニッシュ全てに於いて強い。液体を光に透かして見ると、細かい粒子のような浮遊物がかなり見える。これはもしかするとフィルターをあまりかけていないのかも知れない。思うにアルコール度数もパーフェクト。

海外での評を見ると、ストレートで味わうには若すぎ、カクテルのベースにはオススメとする意見もありましたが、個人的にはガンガンとストレートで飲みたい味わいです。比較的安価にライ・フレイヴァーを楽しめるイチオシの一品。現行品と較べたことはありませんし、バッチ間の味の変動はあるでしょうが、少なくとも私の飲んだボトルはそうでした。
Rating:84.5/100



※ネットで調べるとエズラブルックス・ライはMGPの95%ライをソースとしているとの説明が多いのですが、当記事を書いた後にそうでない可能性が発覚しました。ですが、記録として記事内容を変更せず投稿しています。 

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